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■夏の日の想い出・3年生の秋(6)

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演奏が終わると、物凄い拍手があった。町添さんがとても満足げな様子。この歌を聴くためだけにここに来たであろう町添さんをそういう表情にすることができたというのは私も嬉しかった。
 
私たちは拍手が弱まるのを待ち「ハッピー・ウェディング!」「キス、キス」
と言う。すると姉たちはそれに応えて、座ったまま唇を寄せてキスをした。
 
拍手が新郎新婦への拍手に変わる。
 
披露宴はその後、新郎新婦から両親への感謝状朗読へと進み、クライマックスに達した。
 

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二次会の会場に向かおうとしていた私たちを町添さんが呼び止めた。
 
「僕はね、ローズ+リリーにばかり肩入れ過ぎと言われながらも、君たちをずっとプロモートしてきたけど、さっきの君たちの歌を聴いて、その判断は間違ってなかったというのを再認識したよ」
「ありがとうございます」
 
「マリちゃん」
「はい」
「来年は横浜エリーナでやろうよ」
「はい。歌います」
「よし。企画作るからね」
「はい」
 
町添さんは本当に嬉しそうな顔をして会場を去って行った。
 

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「いやあ、武芸館やろうと言われるかと思ったよ。あんな凄いとこでなきゃいいや」
と政子。
 
「・・・・横浜エリーナの方が大きいんだけどね」と私は言う。
「えー!?そうなの?」
「武芸館は定員1万4000人だけど、横浜エリーナは1万7000人くらい」
「ひぇー!」
 
「でもね」
「うん」
「武芸館は元々柔道や剣道とかの試合をする施設だからね。音響が微妙。最初からコンサートでの利用を考えて作られている横浜エリーナの方が音響とかはいいんだよ。実際、あんな大きな会場なのに『音響家が選ぶ優良ホール100選』
にも選ばれているしね。私たちみたいなユニットのコンサートするには武芸館より絶対横浜エリーナの方がいいと思う。武芸館でやったと言えばステータスにはなるけどさ」
 
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「そっかー。武芸館より大きかったか。でも音響が良いっていのはイイね!」
「うん。それに夏フェスで8万人の前で歌ったじゃん」
「そうだよね! じゃ1万7000人は平気だよね?」
「うん。マーサはちゃんと歌えると思うよ」と私は笑顔で言う。
 
「よし。歌おう。でも美味しい御飯付きね」
「もちろんだよ」と言って私は政子に柱の陰でキスをした。
 
背中に鋭い視線を感じた。あ〜ん。今度は正望に妬かれてる。その日は結局1度も正望とは話す時間が取れなかったのである。しかもデートは3ヶ月以上していない!!
 

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翌11月。スリファーズの全国ツアーがあった。性転換手術の後、まだ体調に不安がある春奈を気遣い、私はこのツアーに同行することにした。私が行くというと、政子も付いてくるというので、一緒に行くことにした。春奈たち3人は高校があるため、週末を利用しての公演になるので学業優先の政子も動きやすい。初日は11月3日(土)札幌である。先月ローズ+リリーの突発ライブをやった、きららホールなので政子が「またここだ!」と言って喜んでいる。自販機でコアップガラナを買ってきて飲んでいる。
 
「春奈ちゃん、手術の跡はもう痛まないの?」と政子が尋ねる。
「まだ時々痛いです。でも初期の頃に比べたら随分楽になりました。手術終わってすぐは、私もう死ぬんじゃないかって痛さだったもん」と春奈。
 
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「出産の痛みと性転換手術の痛みって、どちらが痛いんだろうね?って話してたんですけどね」と彩夏。
「両方経験できる人ってまず居ないから不明ですね」と千秋。
 
「手術が終わって自分のあそこ見て、最初どう思った?」
「とうとうやっちまったな、って思った」と春奈。
「ああ」
「嬉しいとか何とか、そういうこと考えるようになったのは少し痛みが引いてきて、心の余裕ができてきてからですよ」
「そんなものだろうね」
 

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「冬なんかは高校の友だちに女装姿晒す前に全国に報道されちゃったから、何をか言わんやだけど、春奈ちゃん最初、女の子の服を着て学校に出て行った時、友だちの反応とか、どうだった?」と政子が訊く。
 
「何も言われなかった」と春奈。
「あぁ・・・・」
「かなり経ってから、そういえば最近、ムッちゃんよくスカート穿いてるね、とか」
 
「それってパンツルックの多かった女の子が最近スカート穿いてるね、って感じか」
と政子。
 
「そうそう」
「要するに、春奈ちゃんって、最初からみんなに女の子と思われていたってことね」
「そうみたい」
 
「それって小学生の頃だよね」
「うん。スカート穿いて学校に行くようになったのは小学4年生の2学期から」
「担任の先生とか何か言った?」と政子。
「何も」と春奈。
「女子トイレの使用も敢行したけど、誰も何も言わなかった」
「ああ。誰かさんみたいだ」と政子。
「へー」と千秋。
 
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「冬はスカート穿いて学校に行ったのは小学何年生頃から?」と政子。「ふふふ。誘導尋問には引っかからないもんね」と私。
「くそ・・・・」
 
「でもケイ先生って、小さい頃から女の子の格好してた気がする」と千秋。
「そんな気がするんだけどねー。真相を知ってそうな小学校の頃からのお友だちに訊いても、みんな口が硬くて、『本人に訊くといいよ』としか言わないんだもん」
 
「それって、もし当時ケイ先生が男の子だったとしたら言うだろうから、言わないということは、やはり女の子だったのでは?」と彩夏。
「そんな気がするんだけどねー」
 

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ライブは最初に発売されたばかりの新譜のC/Wの曲『高校1年生』を歌った後、「ジャンケンで勝ったので今回このツアー通してMCやります」と言った彩夏が短いおしゃべりをしてから、『アラベスク』『遙カナル波斯』『サンダルフォンの叫び』
『八点鐘』とヒット曲を惜しげも無く並べていく。
 
ここでまた彩夏のMCが入るが、なかなか終わらないので春奈と千秋は
「座ってょ」と言って、座ってしまうものの、それでも終わらない。結局10分ほどしゃべった末に、バックバンドの人から「ねえ、そろそろ歌おうよ」と促されて、やっと楽曲に行く。(実は体調万全でない春奈を休ませるためであるが予定では5分くらいのトークのはずだった。本人も止まらなくなっていた)
 
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歌は『愛の飛行』『愛の停泊』『愛の祈り』のファンの間での通称『愛三部作』
を歌ってインターバルになる。
 
今回のツアーでインターバルに出演するゲストは<ベビーブレス>というデュオである。リリーフラワーズの世話役だった吉住尚人先生が指導していた女の子2人で、年齢はスリファーズと同じ学年。今年の夏にメジャーデビューしたばかりである。
 
私と政子は高校時代にベビーブレスのふたりとは一度会ったことがあったのだが、その時も「美しい音色を出すデュオ」だと思ったが、ハイトーンに更に磨きが掛かっているようである。
 
ある意味、リリーフラワーズ的な系統とも言えるが、曲調が親しみの持てるポップス調で、伴奏(マイナスワン音源)もドラムス、パーカッションを入れて「売りやすいアレンジ」にまとめている。
 
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インターバルが終わると、お色直しをしたスリファーズの再登場である。後半はまず今年夏に発表したアルバムの中の曲を中心に歌う。アルバムのタイトル曲『りらっくす』から『きゃんどる』『しぇすた』『ぷりまべーら』と静かな曲を続けると、観客はみな着席して聴いている。
 
ここでまた彩夏が短いおしゃべりをした後、
「今回のツアーには、実はローズ+リリーのマリ先生・ケイ先生が付いてきてくださっているんです」
と言って私たちを紹介する。私と政子は笑顔で出て行き、歓声に応える。バックバンドの人たちはいったん退場する。
 
「じゃ挨拶代わりに何か演奏しますから、スリファーズは休んでて」と言い、3人が椅子に座っている間に、政子の電子ヴァイオリン(YAMAHA SV200)と私のウィンドシンセ(AKAI EWI4000s)のデュエットで、スリファーズのインディーズ時代の曲『三羽の小鳥』を演奏する。
 
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「三羽」が音楽の「サンバ」に掛けてあって、サンバのリズムに乗せた軽快な曲である。スリファーズのお姉さん格であるピューリーズに楽曲を提供している堂崎隼人先生の作品である。一般にはあまり知られていない曲だが、ライブに来るほどの熱心なファンの中には知っている人も多く、演奏しはじめた時に「わぁ」といった感じのどよめきがあった。当時は50枚しか売れてないが、メジャーデピュー後、引き合いが来て最終的に6万枚ほど売れている。
 
今回のツアーではとにかく春奈を休ませながら歌わせるということで、ゲストと私たちの演奏に、彩夏の長いMCを入れて実質インターバルを3回作ることにしたのだが、このライブはスリファーズのものということから私と政子は歌わないことにし(でないと私たち目当ての客が押し寄せて迷惑になる)、代りに楽器演奏をすることにしたのである。
 
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『三羽の小鳥』の次は『SEVENTH HEAVEN』(有頂天)という曲を演奏する。Perfumeのヒット曲(ポリリズムのB面)であるが、スリファーズはインディーズ時代のライブでよくこのカバーを歌っていて、当時のCDに収録されているし、メジャーデビュー以降も初期の頃ライブで結構取り上げていたのである。
 
最後にスリファーズが昨年夏に出したアルバムの中の曲で個別ダウンロードの多かった『砂漠の純情』を演奏する。ちょっとエキゾティックな曲である。
 
そして私たちは挨拶をして下がった。バンドの人たちが代わりに登場して演奏を始め、再びスリファーズが歌い出す。大ヒット曲『メルリビオン』を皮切りに『純情変奏曲』『総帆展帆』『恋のアフターバーナー』と元気な曲を続け、最後は出したばかりの新曲『空白地帯』で締めた。
 
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『空白地帯』は愛の疎外感を歌ったもので、私が『愛の空白地帯』と名前を付けたら政子が「『愛の』は要らない」と言って『空白地帯』にしたのだが、確かにその方がインパクトが強くなった感があった。
 
割れるような歓声の中、三人は退場した。
 

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そしてアンコールを求める拍手。5分ほどで三人が再登場。衣装は汗を掻いたキャミソールを交換しただけである。実はその5分間、春奈を横にならせておいたので、大規模な衣装チェンジはしなかったのである。
 
彩夏がアンコールお礼の挨拶をする。そして私がピアノを弾いて『月は巡る』を歌う。震災直後の2011年4月に『愛の祈り』とカップリングして出した曲である。
 
手拍子も打たずに静かに聴き入る聴衆。
 
そしてお辞儀をして私は下がりバンドの人たちが再び入って元気なリズムを打ち始める。彼女たちのメジャーデビュー曲『香炉のダンス』を歌って熱狂の中、ライブは終了した。
 

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「春奈ちゃん、大丈夫だった?」
「ええ。30分単位で休ませてもらったから、何とか頑張れました」
 
今日の打ち上げは春奈の体調に考慮し、ホテルの畳敷きの小宴会場を借りて、スリファーズの3人、私と政子、甲斐さんの6人だけ集まってやっている。ガスコンロに乗せた鍋で蟹を大量に茹でた。打ち上げ前に富山の青葉に電話を掛けて30分ほど遠隔ヒーリングもしてもらった。春奈は食べながら時々横になって身体を休めていた。
 
春奈を休ませながらの打ち上げなので、春奈が遠慮無く横になれるよう「身内」
だけにしたいいうことで、バックバンドの人たち、ベビーブレスの2人、★★レコードのスタッフさんには、別途高級店で蟹料理を楽しんでもらっている。
 
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「でも今回のツアーは各地の食べ物が楽しみだなあ」と政子。
「今回は政子ちゃんの食べ歩きツアーになるのかもね」と甲斐さん。
 
「仙台は牛タンかな。金沢は寒鰤、大阪はどて焼きかなあ。神戸では神戸牛を食べて、岡山ではままかり?牡蠣も行けそうだなあ。 福岡は水炊き、イカも美味しそう。沖縄はゴーヤチャンプルにタコライスにアグー豚もいいなあ」
などと政子が言っていたら
 
「マリ先生の話聞いてたらお腹空いてきた。あと2匹くらい茹でようよ」と春奈。
 
「うん、食べられるのは良いことだ」と言って甲斐さんは、係の人を呼び、蟹を4杯追加した。
 

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