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■夏の日の想い出・3年生の秋(1)

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(c)Eriko Kawaguchi 2012-09-05
 
2012年9月16日。一時帰国した政子の両親の合意の元、政子はこれまでの「人前で歌わない・テレビなどに出ない」といった契約を見直し、学業に支障の無い範囲で、フルに芸能活動をすることができる契約に移行した。
 
実際問題としてこの年政子は、4月14日に沖縄でローズ+リリーのシークレット・ライブで歌い、2008年のロシアフェア以来、1218日ぶりに一般観客を前にしたステージに立った。そして8月11日にはサマーロック・フェスティバルで、ローズ+リリーとして、そしてローズクォーツの拡大メンバーとして都合2回のステージを務めた。
 
政子は年内にもう1回くらい歌いたいと言い、町添部長はすぐにその企画を作った。そのことを政子がうっかり8月28日のFMの番組で言ってしまったため問い合わせが殺到したが、★★レコード、○○プロ、△△社、UTPでは年内にローズ+リリーのライブ(公式のライブとしては2008年11月30日東京ライブ以来)を予定しているが、詳細は後日発表すると回答した。
 
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政子は放送でうっかりこのコンサートのことを漏らしてしまった時、その詳細な企画をまだ見ていなかったのだが、町添さんからのメールを見て12月大分であることを知り、私が
「だって、去年の12月にマーサは1年後に大分に関サバを食べに来たいと言ったよ」
と言うと、
「覚えてくれてたのね、冬大好き!」
と言って、私にキスしたのであった。
 

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政子との契約を見直した翌日は私は富山に行った。8月にアメリカで性転換手術を受けた後、富山で静養をしていたスリファーズの春奈を迎えに行ったのであった。
 
「春奈ちゃん、経過が良さそうだから、11月に全国ツアーやろうね。新曲も出そうね」
「えー!?鬼〜!」
「じゃ。私、ツアーに同行しようか? 同じ性転換手術の経験者として何かサポートできるかも知れないし」
「お願いします。ケイ先生に付いててもらったら少し心強いです」
 

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その翌日9月18日、★★レコードに、私と政子に美智子、○○プロの前田課長が集まり、★★レコード側は担当の氷川さんと加藤課長、町添部長まで出席して年末のローズ+リリーのライブに関する打ち合わせをした。
 
「そういう訳で日程は12月23日天皇誕生日。会場は別府アイコンプラザのハルモニアホールです。マリさんが1000人規模くらいの会場の方が歌い易いということでしたので、ここを押さえています」と加藤課長が説明する。
 
「キャパは?」と前田課長が質問する。
「1190人ですが、PA席・見切り席などを除いて、販売数は1000にします」
 
「しかし4年ぶりのコンサートですしね。詳細近日発表とホームページに掲載しているのに連日凄い数の問い合わせがあるんですよ。これまで来た問合せのメールとツイートがうちだけでも既に5000通を超えています」と前田課長。
 
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「実際1000の販売数は一瞬で売り切れると思います。そこで、副会場を設置することにしています」と加藤課長。
「副会場?」
 
「このハルモニアホールの隣にコンベンションセンターというのがありまして、フリマとかビジネスフェアとかしたりするのですが、ここは椅子を並べると会議なら1万人入るのですよ」
「ほほお」
「一応コンサートで使う場合は8000人までという規定になっていますが、ここを副会場として利用し7000人入れます」
「どういう運用をするんですか?」と私は訊いた。
 
「主会場のステージの映像を撮影して、副会場に設置する映写スクリーンにプロジェクターでリアルタイムで投影し、音声は主会場のPAの音をそのままケーブルで引っ張ってきて、これもそのままリアルタイムで流します」
「なるほど」
 
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「それと同時に副会場の観客の様子を撮影しまして、これを主会場の両脇に設置する映写スクリーンに投影して、副会場の興奮が主会場にいる人たちやステージで歌っているローズ+リリーのおふたり、バックバンドの人達にも伝わるようにします」
「面白いですね」と私は興味を持って言った。
 
「これだと歌っている側は1000人キャパのこじんまりしたホールで歌う感覚なのですが、実際には8000人の観客で楽しめるというわけです」
 
「チケットの価格とか申し込みとかどうするんですか?」
「主会場は6000円、副会場は3000円の設定です。申し込みは、主のみ希望、主の抽選に落ちたら副希望、最初から副希望、というのを指定してネット又は電話で申し込んでもらい、抽選です。転売禁止にして入場には携帯での認証か写真付き身分証明書必須ということにします」
 
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「けっこうそのあたりの作業は大変ですね」
「★★レコードにも連日凄い問い合わせが来てまして。こちらも既に問合せは1万件を超えています。UTPさんも凄いんじゃないですか?」と加藤課長。
 
「電話が鳴り止みません。バイトさんに対応してもらっていますが、朝から晩までひたすら『詳細は近日発表しますので』と言い続けています」と美智子。
 
「今の反響からなら武芸館2日間やってもいいくらいですよ」
と加藤課長。
「まあ、今回わざわざ大分を選んだのは、それで人数を絞る意味もあるのだよね。東京や大阪の大会場でいきなりやるのは、主催側としてもリスクが高すぎるし」
と町添部長は言った。
 
そんな話をしていたら政子が唐突に言った。
 
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「だけど、わざわざ大分まで行って副会場で聴いてる人たちって何だか可哀想。だって、すぐ隣でライブやってるのに、そこに行けずに隣で映像と音だけって。凄い疎外感。蛇の早贄(はやにえ)だよ」
 
「えっと。。。。蛇の生殺し(なまごろし)かな」と私は訂正する。
「あれ?早贄は何だっけ?」
「百舌(もず)だよ」
 
「あ、そうか。それでさ、当日会場に行く時は主会場に当たった人も副会場に当たった人も一緒に電車やバスに乗っていくのに、その道すがら仲良くなっても主会場に入れる人と入れない人がいるって、嫌じゃん。入れなかった人は凄く悲しくなっちゃう」
 
「そう言うんだったら、マリ、いっそ最初からその大きい方の会場で歌う?」
と私は訊いてみた。
 
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「うん。歌おうよ」と政子。
 
私は美智子、町添さん・氷川さんと顔を見合わせた。
 
「7000人の前で歌うことになるけど大丈夫?」と私。
「夏フェスでも7000人の前と8万人の前で歌ったよ」と政子。
「マリさえ良ければ、それで進めちゃうけど」
「うん。頑張る」
 
「それでは、ハルモニアホールの方はキャンセルして、コンベンションセンター単一会場でやりましょうか?」と加藤課長。
「まあ、その方が単純だね」と町添さんも笑顔で言った。
 

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翌日、ローズ+リリーの大分ライブの詳細が発表になり、チケットの申込日は9月29日(土)〜10月7日(日)と掲示された。その期間に申し込んだ人から抽選で当選者を決める。チケットの一般販売数は6000枚(残り1000枚は九州・山口・愛媛のFM局に招待枠として出した)だったが、別府という決して集客性のある土地ではないにも関わらず、申込みは3万枚近く来て倍率約5倍だった。町添部長が「東京でやってたら6万は来てたな」と数字を見て言った。
 
一方で私たちは9月24日から10月14日まで、ほとんどスタジオに入り浸りになってスリファーズ、富士宮ノエル、花村唯香、そしてローズクォーツ、とひたすら音源製作の作業をしていた。
 
富士宮ノエルは元々木ノ下大吉というベテランの作曲家が楽曲を提供していたのだが、この人が失踪事件を起こし最終的に作曲活動を引退してしまったため、一時的にマリ&ケイで楽曲を提供していたが、その後、伊賀海都という30代の作曲家(女性だが性別非公開)が付いて毎回6〜7万枚程度のアイドルとしては安定したセールスを上げていた。ところがその伊賀先生が妊娠出産のため休養期間に入ったため、またピンチヒッターで楽曲提供とプロデュースを依頼されたのである。
 
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「妊娠による休業ってのも公表しないんですか?」と私は町添さんに訊いた。「それ出すと、性別も公開することになっちゃうから」と町添さん。
「まあ、男性は妊娠出産しませんからね、普通は」と私は言ったが
「現代なら、奥さんが妊娠出産するので休業する男性もいるかも」と政子。
 
「・・・君たちは出産の予定はまだ無いよね?」
「こないだその件話し合って、私は27歳で子供を産むことに決めました。タネの当てはあるので」と政子。
「ああ。まあ、そのくらいならいいか。ケイちゃんは?」
「私、産めませんから」
「・・・ほんとに?」
 
「私が子供産んだら、世界中のお医者さんが仰天しますよ」
「いや、ケイちゃんって時々、元々女の子だったのを男の子だと偽ってたんじゃないかと思いたくなる時があってさ」と町添さん。
「まさか!」
 
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「ケイちゃん、生理があるって言ってたよね?」
「ええ。あることはありますが。普通の女性のものに比べると軽いですけど」
「それって実は元々女の子だったから、ということは?」と町添さん。
 
「どうなんだろうね? でもケイなら、妊娠出産もあり得る気がしてきた」
と政子も言った。
 

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花村唯香は上島先生の友人でもある水上信次先生が元々楽曲を提供していたのだが、水上先生が一時期調子を落としていた時、スイート・ヴァニラズや上島先生、そしてマリ&ケイで楽曲を提供して支えた。元々実力派なのにヒットに恵まれずレコード会社との契約解除の可能性もあった所が、その時期に1万枚を超えるヒット『ベレスタ』(スイート・ヴァニラズ作)が出て、首の皮1枚つながった。
 
その後また水上先生が調子を戻してきて、また水上先生の歌を歌うようになったのだが・・・・・
 
昨年(2011年)秋に所属プロダクションに「花村唯香は男である」という密告の手紙が来た。この手の手紙は普通は無視するのだが、非公開にしている本名や本来の生年月日・出身中学などまで書き添えられていたため、プロダクション側が本人に念のためと言って尋ねた所、彼女はあっさり戸籍上の性別は男性であることを認めた。
 
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そして11月の新曲発表会の席で自ら自分の年齢と性別のことをカムアウトした。
 
ファンの間で衝撃が走り、翌日のスポーツ新聞の一面トップを飾り、ネットでは物凄いツイートが発生して、彼女はワイドショーなどにも呼ばれて一躍時の人となった。私は「ああ、自分もこんな感じであちこちに引っ張り出されていたかも知れないな」と思い、他人事ではない気分だった。私の場合は父が即時の全面的な芸能活動停止を申し入れたため、こういう目には遭わなくて済んだのだ。その代わり美智子がさんざんワイドショーで叩かれた訳だが。
 
しかし唯香は私よりかなり神経がずぶとい感じで、色々きわどいことをテレビで訊かれても笑ってうまく答えていた。
 
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「私、あんたと放送局の女子トイレで一緒になったことあるけど」
と年配の女性タレント。
「まあ、私が男子トイレに入ったら『こっち違う』と言われますね」
「ふだんから女子トイレに入るの?」
「子供の頃からそうですけど」
 
「温泉のレポート番組で他の女性タレントさんと一緒にお風呂入ってたよね?」
という質問に合わせて、その時の番組の映像が流れる。
「私、スーパー銭湯とかに行ってチェックインすると、まず女性用脱衣場のロッカーの鍵をもらいますね」
 
「ずっと女湯なの?」
「私の両親、小さい頃に離婚して、きょうだいは女ばかりだし、物心付く前でも女湯にしか入ってなかったみたいだから、私は生まれてこの方、一度も男湯に入ったことはありません」
「修学旅行の時とか、どっちに入ったの?」
 
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「私は自分は女の子だと思ってたから、ちゃんと女湯に入りましたよ」
「でも、ちんちん付いてたんじゃないの?」
「クロークに預けておきました」
「預かってくれるの!?」
「だって『大事なもの』って言いますし。私個人的には不要品なんですけど」
 

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散々話題になったおかげで、この時に出した曲は2万枚ものセールスをあげ、彼女のそれまででの最大のヒット曲となった。
 
★★レコードと○○プロでは彼女の売り方を全面的に見直すことにした。
 
年明けに予定していた次のシングルの音源製作はいったん白紙に戻した。バラエティ系の番組から多数の出演依頼が来ていたが、本人が自分は芸人ではなく歌手として活動していきたいと主張したので、全て断ることにした。
 
また水上先生の書くアイドルっぽい曲は彼女の性別をカムアウトしてしまった以上今後のセールスは見込めないし、そもそも彼女の高い歌唱力と合っていないので、今後は本格的なポップスあるいはロック系の曲を歌わせた方が良いということで、○○プロの浦中部長と★★レコードの町添部長の意見が一致した。
 
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夏の日の想い出・3年生の秋(1)

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