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■夏の日の想い出・新入生の冬(7)

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そして24日(金)は、★★レコード主催のクリスマス・イベントが都内のホテルで行われた。過去10年間に10万枚以上のヒット(ゴールドディスク)を出したアーティスト・作詞作曲家が招待されている。ローズクォーツのデビュー曲『萌える想い』は最終的には10万枚を少し超えたのだが、この時点ではギリギリ達しておらず対象外。しかしローズ+リリーの方は『その時/遙かな夢』が20万枚、『甘い蜜/涙の影』が(この時点で)85万枚ほど売れていたので、招待の対象となり、政子とふたりで出て行った。ステージで2〜3曲歌いませんか?とも言われたのだが、そちらは辞退しておいた。
 
この日クリスマスのコンサートやディナーショーなどをするアーティストも多いので、短時間来ては慌ただしく歌ってはまた出て行く人も多かった。AYAもそういうコースだったが、私たちはハグしあって
「そちらも頑張ってね〜」
と言った。
 
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先月末デビュー曲を発売して、この時点で20万枚を超えていたスリファーズ、今月に入ってから出した曲があっという間に初めての10万枚超えになった富士宮ノエルも来ていて
「マリ先生とケイ先生のおかげです」
と言って嬉しそうにしていた。
 
「そっかー、私たち、先生なのか」と政子が言う。
「実際問題として今年は私たち、自分たちでは歌わずにたくさん曲の提供をしてきたからね」と私。
 
「私、このまま『先生』でもいいかなあ」などと政子は言う。
すると、そばに居た★★レコードの吾妻さんが
「でもマリちゃんの歌を生で聴きたがっている人たちがたくさんいるからね」
と言った。
「そうですねぇ」と政子は遠い所を見るような目で言った。
 
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トイレに行ったら、中でちょうど△△社の甲斐さんと遭遇した。
「どもー。おはようございます」
「おはようございます」
 
「今日はスリファーズの付き添いですか?」と私。
「うん。歌ってすぐに出て行くけどね。美智子さん来てる?」と甲斐さん。
「今日は来てません。明日博多でローズクォーツのライブがあるので事前準備で博多に行ってます。今日は政子とふたりだけで来ました」
 
「ね、ね」
と甲斐さんが私の首に抱きつくようにして、小声で訊いた。
「冬ちゃんってさ、いつ頃から女子トイレ使ってたの?」
「え?ローズ+リリーを始めてからですけど。最初の頃はもう今にも男とバレて通報されないかとビクビクしてましたよ」
 
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「そんなこと絶対無いと思うな。だってさ、ローズ+リリーには最初の頃から、私かなり帯同してたけど。冬ちゃんって、ごく普通の顔して女子トイレ使ってたし、女子トイレの中にいるのが全然不自然な感じしなかったから、私はああ、きっとこの子は今までも、ふだんから女装していて女子トイレにも普通に入ってたんだろうなと思ったよ」
 
「えー?そんなことないですけど」
「冬ちゃんの小学生や中学生頃の写真とか見てみたいなあ」
 

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会場の方に戻り、また政子とおしゃべりしながら会場内に置かれている食べ物をつまんだりしていたら、上島先生と下川先生が一緒に近づいてきたので挨拶をする。
「今日はマリちゃん、たくさん食べられて満足じゃない?」と上島先生。
「えー。とっても満足です」
と政子は本当に満足そうな笑顔を見せる。
 
「ああ、若い子は食べるの好きだし、少々食べても太らないよね」と下川先生。
「そうですね。マリは食べても太らない典型例でしょうね」
と私が言うと、上島先生が笑っている。
 
ステージには XANFUS のふたりが上がり、彼女らのヒット曲を歌っていた。1曲歌ったところで
「ねえ、なんか面白いことしよう」と光帆が言い出す。
「そうだ。誰かとジャンケンしよう」と音羽。
その時、音羽と私は目が合ってしまった。
 
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「あ、そこにローズ+リリーがいる。ジャンケンしようよ」
などと音羽。
 
私は政子の顔を見て「どうする?」と訊くが「うーん。ジャンケンならいいか」
と言うので、手をつないで一緒にステージに上がった。ステージ上でお互いにハグし合う。私たちとXANFUSの間で恒例となっている「友情の儀式」だが会場から「わー」とか「ひゃー」という声が上がる。
 
そして代表ということで、光帆と政子がジャンケンする。政子が負けた。
 
「ではデュエット・二人羽織で、エア歌唱がXANFUS, 後ろで歌うのがローズ+リリーと決まりました」と音羽。
 
「何何?どうするの?」と政子が訊くが、明らかに面白がっている。
 
光帆が音羽と私を前後に並んで立たせて説明する。
 
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「えっとですね。音羽が前に立って、ケイちゃんが後ろに立ちますね。それでケイちゃんがマイクを持って音羽がそのマイクに向かって歌うように見せて、実際に歌っているのは、後ろにいるケイちゃん。音羽はマウスシンクです」
 
「ああ、なるほど。じゃ私は光帆ちゃんの後ろに立って、光帆ちゃんの口のところにマイクを持って行って、実際には私が歌えばいいのね?」
と政子。
 
「そうそう。でも私たち踊るから、ちゃんとそれに付いてきてね」
「おっけー」
「マリちゃん、私たちの『Dance don't Love』歌える?」
「あ、あれならどちらのパートも歌える。カラオケでたくさん歌った」
「じゃ、それで行こうか」
「私には訊かないの?」と私。
「ケイちゃんは歌えるに決まってる」
「そうそう」
 
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ということで、XANFUSとローズ+リリーによる「二人羽織」版『Dance don't Love』
を演奏することになった。私が音羽のパート、政子が光帆のパートを歌う。
 
その時、中央付近のテーブルでクリッパーズのメンバーと話していた風の町添部長がニヤニヤしているのを見て「ああ、最初からの仕込みだな」と私は思った。政子がたいがい満腹したようなタイミングでXANFUSを登場させるようにスケジューリングしておいたのだろう。そしてこの企画。政子の、お腹が満ち足りていると積極的になる性格を知っての仕掛けだ。ジャンケンも多分、政子が勝った場合は、勝った人が後ろに隠れて歌うという話にして、とにかく政子をステージ上で歌わせるように仕向けたかったのだろう。
 
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マイナスワン音源がスタートする。XANFUSのふたりは踊ってステージの上を結構移動するので、私も政子もマイクを持って付いて行くのが、なかなか大変である。ローズ+リリーは、多少の身振り・手振りはあるものの、だいたい歌唱に集中するタイプなので、こういう歌い方は、また勝手が違う。
 
やがて歌唱部分のスタート。私と政子が歌い始める。音羽と光帆はそれに合わせてマウスシンクする。ふたりの歌は踊りが激しいのでテレビなどではマウスシンクにすることが多いらしく、歌にきちんと唇を合わせるのはうまい。
 
政子も私も声量があるので、マイクをかなり口から離して歌うタイプである。それで音羽と光帆の後ろから歌っていても、マイクは充分私たちの声を拾っていたようであった。
 
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やがて歌が終わるとひときわ大きな拍手。私たちは4人で並んで挨拶し、私と政子がステージを降りて、XANFUSがもう1曲歌う。
 
この日のイベントは★★レコードの「内輪のイベント」なので報道関係を入れていないし、肖像権・パブリシティ権が複雑なアーティストばかりだから場内は撮影禁止・録音禁止である。
 
それで「二人羽織」の画像や音源はどこにも出なかったものの、この時会場にいた何人かのアーティストのブログで『XANFUS/Rose+Lily 二人羽織』とか中には『マリちゃんが歌った』などというタイトルで、この「お遊び」のことが書かれて、マリの復活はそう遠くないのかも、という空気がファンの間で広がった。
 
そしてその場にいた、多くのアーティスト、★★レコード関係者の間で、マリの歌が、またうまくなっている、という認識が広がって、私を少々強引にでもソロデビューさせようという意見は、弱くなったらしい。
 
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イベントが終わった後、私たちは都内のファミレスで待ち合わせて、私の小学校以来の親友である、奈緒と会った。私ひとりで会うつもりだったのだが、政子も奈緒とは高校時代の友人のひとりで、受験勉強の時は一緒に勉強会をした仲なので、付いて行くと言ったので一緒に行った。(嫉妬半分という気もしたのだが)
 
「最初に、これね」と言って、私は奈緒に封筒を渡す。
「ありがとう!ホントに恩に着るよ」と奈緒。
 
「勉強の進み具合はどう?」と私。
「今のところ調子良い。一応A判定」と奈緒。
「体調の管理に気をつけてね」
「ホント。去年は本試験の前日に風邪引いちゃったのがねー。今年はインフルエンザの予防接種も済ませてるし、外から帰ったら、うがい・手洗い励行。自分の部屋は加湿器入れてる」
 
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「ところで、いつ親にはカムアウトするの?」
「合格したら」
「おぉおぉ」
「まあ、一戦交えるのは覚悟してる」
 
「私、約束してたように、入学金・授業料までは貸すからね」と私。
「うん。ホント助かる」
 
奈緒は昨年、事前の模試では確実と思っていた、**医科歯科大学を落としてしまった。本試験の前日に風邪を引いてしまい、無理して出て行ったものの、まともに解答できなかったのが敗因だった。親が浪人を許してくれる雰囲気ではなかったため、併願していたN大学の理工学部に進学した。家も出てひとりでN大学の近くのアパートで暮らしている。
 
がこれが実は仮面浪人で、本当は大学にも出て行かず、ひたすらこの1年間受験勉強をしていたのである。アパートも実はN大より**医科歯科大の方に近い。N大も実は後期はこっそり休学してしまっている。
 
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親にはバイトしながら生活費と学費を稼いでいるみたいに言ってあるのだが、バイトする時間も惜しんで、ひたすら受験勉強をしていたので、予備校の授業料をはじめ模試を受けたり問題集などを買ったりするお金や、またそもそも今年のセンター試験、本試験を受ける受験料などを捻出できない。
 
それで、古くからの親友である私を頼ってきたのである。私はこの1年間奈緒の予備校の授業料+生活費+αを支援してきた。そしてセンター試験、本試験の受験料も出してあげることにしていたのである。親と和解できなかった場合は6年間の大学の授業料も出してよいと言ってある。返済は奈緒が医師の資格を取ってからの出世払いということにしている。
 
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「生活費を抑えるには親元で暮らした方がいいけど、受験勉強してるってバレちゃうからね」
「もっとも、私たちくらいの年になったら、親も中高生の頃まで娘の生活実態をチェックしたりしないだろうけどね。彼氏作っても避妊くらいちゃんとするだろう、くらいには思ってもらってるだろうし」
 
「考えてみれば、私と冬が高校時代、歌手やってても親に気付かれなかったのは、私は親が海外に行ってて、冬のお母ちゃんはのんびり屋さんだったってのがあるよね」と政子。
 
「そうだね。それにうちのお母ちゃんは、私の女性化の方に気が行ってて、密かに去勢したり豊胸してたりしないだろうか、というのを心配してた感じだったから、歌手してたってのは、思いもよらない事態だったみたいね」と私。
 
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「冬の話を聞いてると、バレちゃった時に、お父さんは冬が女装していたことに衝撃を受けたみたいで、お母さんやお姉さんは冬の歌手活動の方に驚いたって感じだよね」と奈緒。
 
「うん。女装してることはお姉ちゃんにはカムアウトしてたし、お母ちゃんには言ってはいなかったけど、察していたみたいだったし」と私。
 
「ってか、お母さんは制服代をお父さんには内緒で出してくれたんでしょ?」
と奈緒。
 
「うん。まあね。でもその制服を着て学校には通学してないからなあ・・・」
「通学すれば良かったのに」と政子。
「ほんとほんと」と奈緒。
 
「ねえ、奈緒。冬ってやはり小学生の頃から女の子だったの?」と政子。「ふふ。言っちゃおうかなあ」と奈緒。
「ちょっとちょっと」
「だってさあ。こないだ、冬は『小学生になってから男湯に入ったことない』
なんて言ってたよ」と政子。
「あぁ」
 
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「私、冬とは3回、一緒にお風呂入ってるよ」と奈緒は言った。
「やはり。そのあたり詳しく」
「勘弁して〜」
 
「でも資金援助もしてもらってるし、これ以上は言わない」
と奈緒は笑顔で言った。
 

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