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■夏の日の想い出・二足のわらじ(1)

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「二兎(にと)を追う者は三兎(さんと)を得ると言うけどさ」
と唐突に政子は言った。
 
「いや、普通は“二兎(にと)を追う者は一兎(いっと)をも得ず”と言うんだけど」
「それはおかしい。2匹の兎(うさぎ)を追ってれば、おまけでもう1匹得られるはず」
 
どういう原理なんだ?
 
「それで東名を走ってたら、右ルートと左ルートに別れる所あるじゃん」
「うん」
「あれどっち行けばいいか迷わない?」
「別に。どちら通ってもいいし(*1)。ただ、名神の別れる所は京滋バイパスに入りたい場合は必ず左ルートを通らなければならない」
「あ、そうだよね。こないだ適当に走ってたら京滋バイパスに入るところが無くて『あれ〜』と思った」
 
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京滋バイパスとか、松山君に会いに行ったんだろうなと私は思った。
 

「下りの時が左ルートで上りの時は右ルート?」
「いや、京滋バイパスにつながってるのは上下線とも左ルート」
「なんで左右逆にならないのよ?」
「NEXCOに訊いて」
 
しかしウサギを捕まえる話とどうつながってるんだ??
 
「それでさ、よく道路にはバイパスってあるじゃん」
「うん」
「あれはメインのルートが混雑するから、大回りしたり逆にトンネルとかで直結して新しいルートを追加したものじゃん」
「うん」
 
「東名の左右ルートみたいに、どっち通ってもいいようなのは何て言うの?」
「日本語には適当な訳語が無いけど英語では Alternate route って言うよ」
「なるほどー!オルタネートか!」
 
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と言って政子は感心していた。
 
で結局ウサギさんはどうした??
 

(*1) 東名の左右に分かれるところはあまり違いは無いのだが、鮎沢PAに入りたい場合は、左ルートからのみアクセスできる。
 

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花園裕紀(本名:末次一葉/すえつぐ・かずは)は、2020年春に実施された信濃町ガールズ本部生募集のオーディションに合格して信濃町ガールズに加入した。実を言うと彼は同じ日に別の場所で行われた雑誌モデルのオーディションを受けるつもりで間違ってこちらの会場に来て合格してしまったのである(品川ありさと同じパターン)。
 
合格を告げられてから本人も選考した側も仰天する。
 
「嘘?君男の子なの?」
「え?これ女の子タレントのオーディションだったんですか?」
 
「だって君スカート穿いてたじゃない」
「スカート穿いてって言われたので穿きました。最近は男の子モデルでもスカートくらい穿きますよね?」
「君の声は女の子の声に聞こえるけど」
「まだ声変わりしてないんですー」
「中学2年で声変わりしてないって珍しいね。女性ホルモンとか飲んでるの?」
「そんなの飲んでないですー」
 
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「君もしかして女の子になりたい男の子?」
「別になりたくないですー。友だちからはよくその内女の子になりたいんだろう?とか言われるけど、別に女の子になるつもりはないですー」
 
でも川崎ゆりこが君さえ良ければ合格にしたいと言い本人もタレント活動に興味があったので、親の許可を取って合格にしてもらい、都内のマンションに引っ越して信濃町ガールズに参加した。
 

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面接の時には女の子になるつもりは無いですー、などと言ったものの、実際は小さい頃から「女の子にしてあげたい」とか「男の子にするのもったいない」と言われてきたし、結構スカートとか女の子下着とかも持っていた。
 
両親も自分が家の中で女物の服を着るのを容認していた(本人としては女装しているつもりはなく単に女物を着ているだけである)。パンツは“プリキュア柄のトランクスやボクサーが無い!!”という理由で幼稚園の頃からショーツしか穿いたことが無かった。プリキュアを卒業してからも、それまでの習慣でショーツを穿き続けた。体育の時の着替えで男子の友人に見られても別に気にしてなかった。
 
ピアノの発表会にも姉のお下がりのドレスを着て出ていた。でも本人としては別に女装しているつもりは無い!
 
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単にお姉ちゃんが着ていた服が可愛いなと思っていたので譲ってもらって着ただけである。親も洋服代がかからなくて済むと、ありがたがっていたし!
 
実を言うと、普段着のスカートも大半は姉のお下がりである。スカートで学校に出て行ったことはない(本人の“公式”見解)が、ポロシャツなどは結構女子用の左ボタンの服で学校に行くこともあった。小学校の学習発表会ではだいたい女役を割り当てられていたが、本人としては演技するのが楽しいので男役女役というのは意識していなかった。
 

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信濃町ガールズのユニフォームはショートパンツでもスカートでもいいと言われたが、元々スカートが好きなので大抵スカートを穿いてたし、女子の振りして、転校した中学の女子制服も作っちゃった。それで通学する勇気は無いけど。
 
でもスカート穿いてても女装しているつもりは無い!単にスカートが好きだから穿いているだけで、裕紀にとってスカートは単なる普段着である。
 
でも信濃町ガールズは楽しい。テレビなどに出る時だけでなく、毎日音楽やダンスのレッスンを受けて楽しかった。でも自分以外みんな女子ばかりみたいと思っていた。
 
テレビ局の控室も、信濃町ガールズ全員女性用控室を指定される。「ぼく男の子なのに、女性用控室に入っていいのかなあ」と言ってみたものの、みんなまとまってないと出番の指示とか連絡事項で困るから、と言われて女性用控室に入った。トイレも女子トイレを使った。女子メンバーの背中のファスナーなど上げ下げするのをしてあげたりもした。自分も他の子に背中のファスナー上げ下げしてもらったけど!
 
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なお女子たちと一緒に着替えるので、ショーツの上からちんちんの形が見えるのはまずいかなーと思い、いつもタックしておくようにした。タックは以前も時々(?)していたのだが、信濃町ガールズに入ってからはほぼ常時タックしておくようになった。
 
(↑そのお陰で『一葉ちゃん、最低でもタマタマは取ってるみたいね』と女子たちが噂していたことを本人は知らない)
 

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(*2) タックは母が!やり方を教えてくれたので、小学生の頃からしばしば(?)やっていた。小学4年生頃まではタックした状態でプールで女の子水着を着けて遊んだりしたこともあるし、家族で温泉に行った時など、男湯に入ろうとして従業員さんから注意されたので結局女湯に入っている。でも彼は女の人の裸を見ても何も感じなかった(←その頃には既に女性不感症だったのでは?)
 
彼は小学校の水泳の授業は男子水着で出たものの、ちんちんの形が見えないので、クラスメイトたちは、ちんちん無いのだろうと思っていたようである。
 
タックしていると必然的に小便器が使えないが、彼は物心付いて以来立っておしっこをしたことは無い。小学校では男子トイレの個室を使っていたが、学校外では、男子トイレに入ると注意されるという問題もあり、だいたい女子トイレを使っていた。
 
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彼の場合、女子トイレを使っていたのは単なる習慣!であり、女の子になりたいとかではない。この付近の事情は、アクアに近い。
 

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裕紀は取り敢えず都内のマンションに入ったものの、女子の信濃町ガールズたちはほぼ全員五反野の女子寮に住んでいる。この女子寮が研修所にもなっているので、裕紀は毎日学校が終わったら、女子寮に行き、地下のレッスンルームで歌・ダンス・音楽理論・ピアノ・演技などの訓練を受けた。
 
レッスンが終わった後、女子のガールズたちに「ちょっと寄っていきなよ」と言われて2階以上の女子寮エリアに連れ込まれる。
 
「ぼく男の子なのにいいの〜?」
と言うが、彼女たちは「平気平気」などと言う。
 
一応規則では
 
『男子メンバーを部屋の中に入れる場合は2人だけの状況を作らないこと。必ず3人以上にしておくこと』
 
ということになっているらしい。でもコロナの折、ひとつの部屋に5人以上集まるのは禁止らしい。それで4人までになるようにし、それ以上の場合は、部屋と部屋をWEBカメラと大型モニタで結んで“ネットおしゃべり”していた。
 
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後から聞くと他の男子メンバーもやられたらしいが、女子寮生たちとおしゃべりしている最中に、いきなり押さえつけられて“解剖”された。
 
「やめてー」
「単に見るだけよ」
「勘弁してー」
 
ということで裸に剥かれる。
 
「おっぱい無いね」
「男の子だからおっぱい無いですー」
「女性ホルモンちゃんと飲んだほうがいいよ」
「そんなの飲まないよー」
「でも女の子になりたいんでしょ?」
「別になりたくないですー」
 

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パンティまで脱がされる。
 
「ああ、タックしてるのね」
「外しちゃおう」
「ちょっとぉー」
 
それで勝手にタックを外されてしまう。
 
女子たちが顔を見合わせる。
 
「ちんちんもタマタマも無い。手術して取ったの?」
「でもどうして割れ目ちゃん作らなかったの?」
 
「ちんちんもたまたまもあるよー」
「いや、どこにも見当たらない」
 
「自分でも探せないけど確かにあるんだよ。皮膚に埋もれてしまってるけど。だからおしっこはその付近からにじみ出るように出る。実は拭くのが大変」
 
「もし存在して隠れているとしても女子に見られたら普通大きくなるはず」
「大きくなるって?」
 
女子たちが顔を見合わせている。
 
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「やはり君には男性器が無いと認定する」
 

そんな勝手に認定されてもぉと思ったが、それ以降、裕紀は他の女子と一緒でなくても女子寮にはいつでも自由に入れるようになった。iDカードに設定されるわけではないが、顔パスでゲートを通してもらえる。それで誰かから呼び出されてその子の部屋に行くというのもよくするようになった。
 
また女子メンバーと2人だけになることもよくあった。
「2人になったらダメなのでは?」
「一葉ちゃんは、男性器が無いから問題無い。女子に準じるから」
「ちんちんもたまたまもあるけど」
「いや無いのを確認したという情報がある」
 
えーっと・・・
 
でも女子たちの用事は、たいてい電気の配線とか、パソコンの設定をして欲しいとか、重たいものの移動を手伝ってとかで、なんか便利に使われている気もした。でもマンションでひとり暮らししてるのはわりと寂しいので、メンバーたちと交流があるのは楽しかった。
 
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裕紀は元々男子の友人はあまりおらず女子の友人が多かったし、漫画とかもいつも姉が読んでたのを自分も読んでいたし、信濃町ガールズに入る前も女子の友人とアクセサリーとかジャニーズの男の子の話題なども話していたので、信濃町ガールズの女子メンバーたちとも話が合い、楽しいおしゃべりをしていた。
 

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信濃町ガールズに入って半年ほどした8月、男子寮ができたから移動してと言われてマンションから引っ越す(中学は転校になったので、またそこの女子制服作っちゃった♪)。
 
この時は、へー男子寮を作るほど男子メンバーがいたのかと思った。
 
しかし男子寮に来てみてから思った。
 
ここ本当に男子寮だっけ??
 
男子寮の初期入居者は下記である。
 
201 三陸セレン(中1)
202 山鹿クロム(中1)
204 花園裕紀(中2)←自分★
205 直江ヒカル(中3)・アキラ(中1)
 
301 夢島きらら(高1)
303 篠原倉光(高1)
305 木下宏紀(高3)
 
男子って、ぼくと3階の夢島きららさん、篠原倉光さんの3人だけで他の5人は女子だよね?“男子寮”と聞いたけど“男女寮”の間違いでは?
 
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と思ったのだが、篠原君と話していて、女の子に見える子は全部“男の娘”で、純粋な男子はたぶん君だけだと思うと言われる。(篠原君は「君も女の子に見えるんだけど」と言うのは控えた!)
 
「篠原さんは?」
「僕はゲイだから」
「弘原君(夢島きらら)は?」
「あの子は去勢してるよ」
 
え〜〜〜!?
 
やはり信濃町ガールズに入る場合、最低でも去勢しなければいけないとか?と不安になる。篠原君に訊いても、花ちゃんに訊いても、去勢する必要は無いとは言われるが、ほんとにいいのかなあと思った。
 
(↑自分がみんなから男性器除去済みで女性ホルモンを常用していると思われていることは意識していない:“解剖結果”を女子寮・男子寮のほぼ全員が知ってるとは思ってもいない。知らないのは東雲はるこのようにぼんやりしてる子のみ)
 
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夏の日の想い出・二足のわらじ(1)

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