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■夏の日の想い出・モラトリウム(4)

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ミナコとの2度の対局で囲碁に少し興味を持ったヒカルは、佐為に打たせるだけでなく、自分でも少し囲碁を覚えようかと思って、夏休み中に文化センターで開かれる初心者向けの囲碁講座を受講することにした。講師は白川道夫七段という人だった。
 
ルールからしてよく分かっていないヒカルに白川七段は丁寧に囲碁の基本を教えてくれた。それでヒカルはどんどん上達していく。夏休みの間ずっと通う内に白川の認定で8級程度にまでなる。
 
そんなある日、ヒカルはたまたま通りかかった文化ホールで囲碁大会が行われているのに気付いた。じっと見ていたら
 
「参加者?」
と訊かれるので、あ、参加してもいいかなと思い
「はい」
と答えてエントリーし、中に入る。
 
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佐為はわくわくしている。自分が打てると思っているのだが、ヒカルは宣告する。
 
「この大会はオレが打つから」
「え〜〜〜!?」
 

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大会は任意の組合せで3局打ち、上位の成績から決勝トーナメントに進出できるというものである。同じ成績の人はジャンケンになる。
 
最初の対戦相手は初心者に近い相手で、ヒカルは快勝することができた。2局目の相手は結構ヒカルと実力が伯仲していたものの、最後まで打つと半目差で勝っていた。3局目の相手はヒカルより明らかに強かったものの、途中でとんでもないポカをしてヒカルは勝ちを拾った。
 
それでヒカルは3連勝したが、3連勝したのは6人だけだったので、ヒカルは決勝トーナメントに進出した。2勝1敗の人たちはジャンケンして決勝トーナメントに行く2人を決めた。
 
ここで主催者から発表がある。
 
「この大会で優勝した人にはアマ2級、準優勝者には3級を認定します。またベスト4に残った4人には、橘中ミナコ・プロとの4面打ちを体験できます」
 
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それでヒカルとミナコの目が合い、お互いびっくりする。
 
「お前、プロだったの?」
「あなたみたいに強い人がなぜこんなローカルなアマの大会に?」
 
この会話で他のトーナメント進出者が大いにヒカルを警戒した。
 

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抽選の結果当たった準々決勝の相手はいかにも強そうな強面の中年男性であった。2勝1敗でジャンケンに勝って決勝トーナメントに出てきている。
 
打ち始めると実力が圧倒的である。相手は最初は警戒していたものの、すぐに「何だ大したことないじゃないか」と判断したようである。
 
「プロから声掛けられていたから凄い奴かと思ったら大したことねぇな。それともあの可愛い子ちゃんプロとは女子校のお友だちかい?」
「オレは女子校には通わないよ!」
 
ところがそこから数手進んだ時、相手が物凄いくしゃみをして、碁盤の石が全部吹き飛んでしまった。
 
「え〜〜!?」
とヒカルも驚いて声をあげる。
 
「何があったの?」
と慌てて運営の人が来る。
 
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「くしゃみで石が全部飛んでしまったんです」
 
「えっと・・・」
と運営の人は男性を見る。
 
「済みません。負けました」
と言って彼は投了した。
 
それでヒカルは思わぬ星を拾った。
 

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「相手がくしゃみして石の並びをめちゃくちゃにしちゃって、それで投了したというのは、アクアさんが小学生時代に本当に経験したエピソードらしいです」
と葉月が言う。
 
「へー!」
 
「あの子、小学生時代から囲碁大会とか出てたんだ?」
「その話を脚本家さんが聞いて、面白いから取り入れようと言って取り入れたんです」
「なるほど」
 
「実際にはくしゃみした拍子に盤上の石をなぎ払っちゃったらしいけど、映画だからくしゃみで石が吹き飛んだということに」
「ああ、映画ならそれでいいね」
 
「でもそういう勝ち方しちゃうのも実力の内かもね」
 
「そうそう。アクアさんがそのくしゃみで勝って大会5位入賞した時の記念写真も見せてもらいましたよ」
「へー」
「青いきれいな振袖着て、5位の賞状と1級の認定証を持って可愛く写っていました」
 
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「・・・・・」
 
「何か?」
 
「アクアって、振袖着て、囲碁大会に出てた訳?」
と小風がごくまっとうな疑問を提示するが
 
「えっと何か変でしたっけ?」
と葉月は戸惑うように言った。
 

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ヒカルは準決勝では実力充分な女子高生に負けてベスト4に終わった。決勝戦が終わった後、ミナコとベスト4になった4人の多面打ちが始まるが、ミナコは最初は戸惑い、やがてイライラしてきて、仕事を忘れて言った。
 
「進藤君、どういうつもりなの?なんでこんな弱い振りをするの?」
 
「オレは全力だよ」
「ふざけないで!!」
 
怒ったミナコはヒカルを一刀両断にした。その物凄いミナコの勝ち方に隣で打っていた優勝者がびっくりしていた。もっともヒカルはこの対戦でミナコのしっぽの影を遙か遠くに垣間見た思いだった。それで自分とミナコの実力差を少しだけ想像することができていた。
 
ミナコは言った。
 
「進藤君、今年はもうプロ試験終わっているけど、来年のプロ試験を受けなさいよ。それまでモラトリアムにしといてあげる。もし来年受けなかったら、ただじゃおかないからね」
 
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「分かった。受ける」
とヒカルも約束した。
 

プロ試験の受け方が分からないヒカルは日本棋院に出かけて、受付の人に尋ねた。いきなりそんなことを訊かれて戸惑う受付の人だったが、たまたま通りかかった緒方精次九段が「僕が教えてあげるよ」と言い、2階の対局室に誘い、ヒカルと対局しながら、詳しい話を教えてくれた。
 
「プロ試験は外来でも受けられるけど、その前に院生になって、実力を付けた方がいい」
 
「院生・・・ですか?」
 
「明日のプロを目指す子がしのぎを削っている所さ。今はA組からF組までの6クラスに分かれていて成績に応じて上下する。プロ試験を受けるためには、その時点でB組以上に居なければならない」
 
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「そこは誰でも入れるんですか?」
「実力があればね。次の院生試験は12月だよ」
と緒方九段はヒカルに言う。
 
「あと3ヶ月か・・・」
 
「まあ今の君の実力では到底受からないだろうけどね」
と言って、緒方は白石を急所に打ち込んできた。
 

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「しかし夏休みが終わって、白川先生の囲碁教室も終わっちゃうしなあ。この後、どこで囲碁の勉強をしたらいいんだろうなあ」
 
と言ってスマホでネットを検索していたヒカルは、インターネット碁会所というものがあることに気付く。有料のところもあるが、結構無料で登録できる所もある。それでヒカルはそんな中のひとつにメンバー登録することにした。段位・級数は最初は自己申告してあとは勝敗により上下する仕組みになっている。
 
『よし。ここに"sai"で登録しよう』
『もしかして私が打っていいんですか?』
『ああ。好きなだけ打て。それでさ、空いてる時間にオレに碁を教えてくんない?』
『もちろんです!』
 
『佐為、お前の段位はいくらにする?』
『では最初は控えめに四段で』
『よし』
 
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それでヒカルは"sai" 4d(四段) で登録したのである。そしてヒカルは祖父にねだって碁盤も買ってもらい、毎日佐為にネットで2〜3局打たせては、佐為と自分でリアル碁盤を使って対局した。
 
スマホを使ったネット碁では佐為が言う位置にヒカルがタッチペンで打っていく(最初指でやってたら誤って隣に打ったりした)。リアル碁盤を使った佐為とヒカルの対局では、佐為が扇子の先で打つべき場所を指し、そこにヒカルが白石も置いて行くという方式とした。
 

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「桑原本因坊役の藤原中臣さんから教えて頂いたんですけど、そういう対局の方法って今昔物語にも書かれているらしいです」
 
「へー!」
 
今昔物語二十四巻第六「碁打ち寛蓮、碁打ちの女に会へる語」という物語である。
 
延喜の時(醍醐天皇の時代)、当時の第一級の碁の打手寛蓮がある時道を歩いていたら、女童(めのわらわ)が寄ってきて、自分の主人がぜひ会いたいと言っていると言う。それで立ち寄ると、自分と碁を打って欲しいというので打つことにした。
 
碁笥の 一方を女の方に渡そうとすると、女はそれはそちらに置いておいて下さいと言って、打つ場所を2尺(60cm)ほどの長さの木の棒で指し示して、それで寛蓮が女の分まで両方石を並べる、という奇妙な方法での対局となった。女は、いきなり天元(碁盤の中央)に打って来た。そんな手は見たことが無かったので寛蓮が驚くと女は「よく知らないものですから」などと言う。しかし少し打ち進むと寛蓮の石は全滅になってしまった。
 
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そういう訳でネットの碁会所に登録した"sai"は、最初オランダの囲碁代表になった選手と対戦したが、彼はsaiに大敗することになる。saiのインターネット百人斬りの最初の犠牲者だった。院生の和谷義高もまた"sai"にやられた一人だった。
 
"sai"は国内外の実力者に連戦連勝を重ね、やがて最高位の 10d (十段) まで到達した。そのあまりの強さに"sai"は間違い無くトッププロであるとして「正体探し」が始まるが、その棋風に該当するような棋士が見当たらない。ミナコも棋院に居た時"sai"の噂を聞き、対戦してみると無茶苦茶強い。
 
そして対戦していて確信した。
 
"sai"は・・・(強い方の)進藤君だ。
 
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そして・・・以前対戦して圧倒的な実力差で負けた時より・・・更に強くなっている!
 
投了してから、何かに引かれるように走り出したミナコは近所のマクドナルドに進藤がいるのを見つける。彼はスマホをタッチペンで操作している。
 
店の中に飛び込んでヒカルのスマホを取り上げて!液晶画面を見るミナコ。
 
「わっ。びっくりした。何するんだよ?橘中!?」
 
ヒカルが開いていたのは、刀剣乱舞の画面だった。実はさっき "venus" (佐為も相手がミナコだと気付きヒカルに告げていた)と対戦した後、今日はもう3局打ったしと思い、別のサイトに移動した所だったのである。
 

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「進藤君、ネット碁とかはしないの?」
とミナコが訊く。
 
「え?何?ネット碁って?」
とヒカルはしらばっくれる。
 
「パソコンやスマホからネットを通して囲碁が打てるのよ。そこに"sai"って名前の物凄く強い棋士が居てさ」
「へー。そんな人がいるんだ?」
「あまりにも強いから正体は誰だろう?と話題になって、今世界中の人が正体探しをしている」
と聞いてヒカルはドキッとした。その表情の変化をミナコは見逃さない。
 
「"sai"は進藤君じゃないよね?」
「オレの実力は囲碁大会の後の四面打ちで見たろ?」
「今ちょっとここで打たない?ポータブルの囲碁盤持ってるよ」
 
ヒカルは考えた。ミナコはやる気満々だ。後ろにいる佐為もワクワクしている。しかしここで佐為とミナコを対戦させるのは話がややこしくなるだけだ。それでヒカルは言った。
 
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「橘中、オレの幻影など追ってるといつか本当のオレに足元すくわれるぞ」
「いつかと言わず、今私の足元をすくってよ」
 
「今日は対戦しない。でも絶対来年のプロ試験受けるよ」
「分かった。待ってる」
「うん」
 
それでミナコは帰ったが、"sai"の正体探しが始まっているというのは、やばいなと思った。それでヒカルは佐為とも話してネット碁会所からしばらく遠ざかることにした。しかし"sai"がネットから消えたことで、ミナコはやはり"sai"は進藤君だと確信した。
 
一方ヒカルは佐為の指導でどんどん実力を付けていった。
 
12月、ヒカルは院生試験を受けた。試験官の篠田はヒカルと対局して石の持ち方も初心者だし(ヒカルは碁盤を使っての人間との対局をほとんどしていない)、碁の内容も院生にするにはやや実力不足かなとは思った。しかしヒカルがまだ囲碁を始めて半年と聞き、そんなに急成長したのなら、もっと伸びるかも知れないと判断。合格させた。それでヒカルは1月から院生になることになった。
 
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院生になったヒカルは最初の月はF組で負け続けた。結構勝てそうな気がするのに僅差で負けてしまうのである。
 
一方プロ二段のミナコもここの所少し負けが込んでいて「どうしたの?」と周囲から言われていた。彼女の実力ならすぐに四段くらいまで昇段していくと思われていたのに、足踏みしていたのである。
 
そんなある日、偶然棋院にやってきたミナコを緒方九段が「ちょっと見てごらんよ」と言って、院生対局室に連れてきた。ミナコがヒカルに気付く。その視線でヒカルもミナコに気付くが、ミナコはぷいと振り向くとさっさと対局室を出て行った。
 
「彼が院生になったこと知らなかったろう。君を追いかけて来たんだぜ」
と緒方が言うとミナコは怒ったように言った。
 
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「彼程度の力で私を追いかけるですって?だったら私は彼が追いつけないほど遠い所へ行ってやります」
 
それでミナコは気合いを入れ直したように連勝を続ける。そしてミナコの姿を見たヒカルも「オレがいるかどうか見に来たんだ!」と言い、今まで慎重になりすぎていたことを認識。思い切って踏み込んでいく気持ちを持つことで、これまでひたすら負けていたのが、逆に連勝を重ねるようになった。
 
ヒカルはそれで4月にはE組に昇格。実はF組のまま3ヶ月上に上がれなかったら退所になる所だったのでギリギリであった。そしてミナコも三段に昇段していた。
 
ヒカルはそのまま5月にはD組、6月にはC組になり、7月にはB組まで上がった。このまま来月A組まで上がれば予選無しでプロ試験の本戦にそのまま出られる。
 
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しかしヒカルは7月最後の対局でB組3位の奈瀬明日美に負けてA組には昇格できなかった。
 
それでもB組10名は外来の受験者(の外来予選通過者)4名とあわせて14人で合同予選を行い、上位6人に入れば本戦に出られる。ヒカルは気を取り直して「予選頑張るぞ!」と誓うのであった。
 
第1部はここまでである。
 

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最後の会話。
 
「女子の場合は、女子特別枠で受験することもできるんだけどね。君が女子なら予選無しで、そのまま女子特別枠の本戦に出られるんだけど。君って女子ではないよね?」
と篠田院生師範は訊いた。
 
ちなみに女子特別枠でプロになった場合、三段までは給料が半額である。四段に昇段したら一般枠でプロになった人と同額になる。
 
「ボクたぶん男子だと思うので女子特別枠には出られません」
とヒカルが言ったのに対して、奈瀬明日美が
 
「それ最初から疑惑を感じているんだけど」
と言っていた。
 
「奈瀬は女子特別枠で受けるの?」
「ううん。今年は一般枠で受ける。やはり強い人たちの中で真剣勝負したいじゃん」
と彼女は言っていた。
 
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本選では彼女よりずっと強いA組の猛者10人も出場する。その中で上位3人に入らないとプロにはなれない。ヒカルは武者震いをしていた。
 

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「その明日美を葉月ちゃんが演じるんだ?」
「そうなんですよ。大役を頂いてびっくりしました!」
「いや、葉月ちゃん演技うまいもん。そのくらい大きな役をもらっていいと思う」
 
●主な配役
進藤ヒカル・橘中ミナコ アクア(二役)
藤原佐為 城崎綾香
緒方精次 大林亮平
白川道夫 倉橋礼次郎
桑原仁 藤原中臣
和谷義高  松田理史
越智康介  斎藤良実(新人)
福井雄太  鈴本信彦
伊角慎一郎 計山卓(新人)
奈瀬明日美 今井葉月
藤崎あかり 元原マミ
 
「ちなみに今年は私が奈瀬明日美役で打つ所の手はアクアさんが代替して下さるんです」
「ほほぉ!」
 
 
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夏の日の想い出・モラトリウム(4)

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