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■夏の日の想い出・少女の秘密(10)

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KARIONのアルバム制作は続いていた。
 
樟南さんからは『愛の予告状』という作品をもらった。例によって実際には曲のラフスケッチのようなものをもらい「適当に組み立てて」と言われて私が組み立てている。
 
怪盗の予告状というものはキャッツアイでは定番化していたが、恐らくモーリス・ルブラン『獄中のアルセーヌ・ルパン』あたりが嚆矢ではないかという気もする。そのルパン作品では予告状を送りつけたことが、結果的に犯罪のトリックに使われるのだが、二十面相もやはり同様に予告状で相手が警戒するのをうまく逆手にとって盗みを実行するパターンがわりと多い。
 
そういう訳でこの作品は「あなたのハートを盗みます」という予告状なのである。
 
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樟南さんらしい、ダジャレやダブルミーニングなどの言葉遊びが使われており、相変わらず下ネタも多いので、中学校の先生がこの歌詞を見たら、校内放送禁止にすべきか悩むレベルであるが、小風や美空には、かなり受けていた。
 
曲は軽快なポップロックに仕上げている。通常のトラベリングベルズで演奏して、それに4人の歌を乗せた。この作品の制作中は海香さんが学校の学期末に重なりけっこう忙しかったので、黒木さんがギターを弾き、サックスパートは実は私が入れた(最終的にサックスパートのみ黒木さんの演奏に差し替えているがギターは黒木さんのまま)。
 
なお、ヴァイオリンは夢美、キーボードを穂津美が弾いて、グロッケンは風花が打っている。
 
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PVでは、美術館のような所にKARIONを表す、青・赤・ピンク・黄色の4色が並んだ予告状が壁に刺さっている所から始まる。探偵っぽい衣装を着けた小風と美空が虫眼鏡も持って、その予告状を調べている。
 
背景に多数の絵画が掛かっているが、実はこれは和泉が、M大学の後輩が所属している美術研究会の人たちに協力を求め、彼らの作品を都内の画廊に並べたものである。中には有名作品の模写もあるので、けっこう本物の美術館かと思わせるような雰囲気が出来上がった。
 
この作品展は一般公開もしたので、パラパラとではあるがお客さんも来てくれて、その様子も映像には収めている。
 
協力を求めたのが昨年の秋で、実際にPVの撮影をしたのは2月なので、その間にわざわざこのPV撮影を意識して描いてくれた作品もあって、結果的にPVの方も良いものが作れた。
 
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例によって怪盗役は私で、黒いレオタードを着て忍び込み、絵画を1枚盗んで立ち去ろうとするのだが、その絵が突然爆発して
 
「これは偽物だよ。怪盗少女さん」
という文字がキャンパスに書かれたものに変わる。
 
そして和泉が演じる刑事が私の手に手錠を掛ける。
 
しかしここで和泉が
「君の愛を捕らえたのは僕さ」
などという、歌詞には無い台詞を言ったのが、後でけっこう物議を醸した。
 
(元々和泉はレスビアン的な発言が多い。ただし、本人はストレートだと主張している)
 

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広田純子さんと花畑恵三さんのペアからは『ハート泥棒』という作品を頂いた。
 
内容的には樟南さんからもらった作品とダブる部分もあるのだが、こちらは可愛い《みんなの歌》的な作品である。コードも難しいコードは使われておらず、C F G7 の他はAm Emが一部出てくるくらいである。
 
似たような内容の作品なのでアレンジは大きく変えることにした。こちらはカンパーナ・ダルキと横須賀マリーンブラスの選抜メンバーにも入ってもらって、管弦楽っぽいサウンドに仕上げた。
 
このアレンジは下川工房の岡島さんにお願いした。
 
なお、この作品でも海香さんが出られなかったので黒木さんがギターを弾いている。どっちみち、横須賀マリーンブラスが入ったので、児玉さんと黒木さんの本来のパートはお休みであった。
 
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この作品のPVは長野県内で松前会長のご友人が所有しているホテルの庭で大半を撮影した。
 
実は現在はその目的には開放していないのだが、以前このホテルの庭でスキー遊びができるように小さな丘(高さ3m)を造成していた。その丘の形がまるで葉祥明のイラストにでも出てきそうな、可愛い形をしているのである。撮影ではまずこの丘の除雪作業をした上で、芝生を敷き詰めた。すると本当に葉祥明風の丘になってしまう。
 
ここに小学生の男女のタレントさんを連れていき“小さな恋人たち”が戯れているような映像を撮ったのである。女の子には可愛い白いドレスを着せ、男の子にはパブリックスクールの制服風の服を着せている。
 
この丘でのシーンの他、2人乗り自転車に一緒に乗る様子、また諏訪湖でスワンボートに乗る様子なども撮影した。2人乗り自転車(Bicycle built for two)は実際に2人に漕いでもらったが、スワンボートは実際にはおとなが漕いで、岸から離れたところで2人だけ座っている様子を撮影している。
 
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その他、信州の美しい景色が入っており、これもまたきれいなPVになった。
 
「これ多分PVのDVDのみ欲しいという要望も出ると思う」
と畠山社長が言う。
 
「それもいいですけどね〜」
 

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3月1日にはKARIONのシングル『エーゲ海の夕日』を発売したので、発表記者会見を行った。
 
いつものようにPVの映像のみ背景に流しながら、トラベリングベルズ(グロッケンは風花、ヴァイオリンは夢美、キーボードは夢美の姉の響美が弾いた)の生演奏をバックに4人で収録した3曲をいづれもショートバージョンで生歌唱する。その後で、和泉が今回のシングルの背景などを説明した。そして質疑応答を受け付けた。
 
「これは実際にエーゲ海に行って詩を書いたものですか?」
と記者さんが質問する。
 
「大学4年生だった2013年の6月に、卒論のロケハンで行ってきたんですよ」
と和泉が答えた。
 
「結構慌ただしい旅行だったよね?」
と私が隣から言う。
 
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「当時08年組のプロジェクトをしていて、ジョイントライブをやった後、08年組のCDを発売するその記念イベントをする間のわずかな期間に行ってきたんですが、卒論でサッフォーを取り上げたので、レスボス島を見ておきたかったんですよね。それで同じ講座の友人と2人で行って来ました」
と和泉。
 
レスボス島はエーゲ海北部の東端にあり、トルコ本土との距離はわずか10km程度であるが、歴史的な経緯からギリシャ領である。BC5世紀頃に、ペルシャの脅威に対抗するために結成されたエーゲ海諸国のデロス同盟にも参加していた。一度はこの同盟から離脱しようとして失敗。レスボス島の市民は男性は全員死刑、女性は全員奴隷にするという処分が下るものの、直前にこの処分が撤回され、それを報せる船が処刑開始前ギリギリに到着して市民は助命された。なおサッフォーは、それ以前のBC7世紀頃の人である。
 
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和泉がそんな話をすると
「だったら死刑よりは奴隷の方がマシと女のふりをする人とか出なかったんでしょうかね?」
などという質問も出る。
 
「女装しても不自然でない人は女装したかも知れませんね。そんなの密告する人もないだろうし」
と和泉は答えていた。
 
「同行した和泉さんのご友人もサッフォーの研究だったんですか?」
「彼女はギリシャ神話だったんです。ですから彼女の目的に付き合って、クレタ島とか、サンドリーニ島へも行きました」
 
「それだけの行程だと結構ハードスケジュールでは?」
「ほんとに駆け足でしたけど、やはり現地に行ってみて得るものは大きかったです」
 
クレタ島はエーゲ海の南端にあり、半人半牛のミノス王がいたというクノッソス宮殿などで有名である。ギリシャでは最も古い時期に文明(ミノア文明)が栄えた島だ。サンドリーニ島(実際にはティラ島など5つの島とその周辺の小島群からなる諸島)はクレタ島の北方100kmほどの所にあり、BC1628年頃に火山が大噴火を起こしてギリシャ全土に厚い火山灰を降らせたことで知られる。一瞬にして廃墟と化したのが、アトランティス伝説のモデルではないかと言われている島である。現在残るサンドリーニ諸島はその火山の外輪山である。
 
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アトランティスの場所は「ヘラクレスの柱の向こう」と書かれていて、現代でヘラクレスの柱というと、ジブラルタル海峡のものが知られており、その向こうといったら大西洋になってしまうが、実は同名の岩はペロポネソス半島の先端にもあり、その向こうというのはサンドリーニ島の位置と考えても矛盾しない。
 

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「曲を付けた蘭子さんも、エーゲ海に行かれたのですか?」
「私はまだギリシャには行ったことがありません。なかなかまとまって旅行をする時間が取れないもので。それでこの曲は、“日本のエーゲ海”と言われる岡山県の牛窓で書きました」
 
と私が言うと、記者さんたちが爆笑する。
 
「牛窓に半日滞在して、そのあと海上タクシーを使って小豆島に移動し、そこで1泊しましたが、結局この曲は小豆島で朝日に輝く瀬戸内海の島々の景色を見て書きました」
 
と私は説明した。記者さんたちが頷いたりしている。
 
牛窓は小豆島のほぼ対岸付近にある町だが、公共交通機関で小豆島に渡るには少し離れた日生(ひなせ)という所まで移動する必要がある。その余分な時間を掛けたくなかったのと、途中で私を知っている人から声を掛けられたりすると集中が乱れると思い、海上タクシーを使ったのである。
 
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なお、PVで流れた映像はFMIのギリシャ支店のスタッフにより撮影されたレスボス島の夕日を使用していることを説明した。
 
「夕日の中にKARIONの4人が並んでいる映像は合成ですか?」
「いえ。その部分は実は伊豆大島で撮影しました」
 
「けっこうきれいじゃないですか」
「はい。伊豆大島の夕日もエーゲ海に負けないくらいきれいだと思います」
と和泉は笑顔で言った。
 
「レスボス島は西側に100kmほど陸地が無いのですが、伊豆大島も冬に沈む夕日はその先に何も無いんですよ。春から秋にかけての夕日は伊豆半島方面に沈むんですけどね」
 
と私は補足した。
 

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「青い滝の想い出で背景に流れていたPVに出てきた青い滝は実際に存在するものですか?」
という質問がある。
 
「あの映像は北海道の美瑛町にある白ひげの滝という所のものです」
と私が説明した。
 
「美瑛町には青い池というのもあって、こちらの方が有名なのですが、ここは昨年8月の台風9号で土手が崩れて、下手すると池が消滅するかもという騒ぎだったのですが、無事護岸の復旧工事も終わって復活しました。この曲は昨年の6月に醍醐先生から頂いたもので、実は台風9号にやられる前の7月に撮影しておりました。今回お見せした部分には映っていませんが、台風の被害に遭う前の青い池もDVDの方には収録しています」
 
というと、結構なざわめきがあった。どうも青い池の方は知っている記者さんも多かったようである。
 
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「葵先生と醍醐先生は時間差でこの青い池・白ひげの滝を訪れて、詩と曲をお書きになったそうです」
と私は説明した。
 
「けっこう高い位置から撮影しているようでしたが」
「はい。ドローンで空撮したものです」
「あの映像を見ていて思ったんですが、この滝って、上に川が無いですよね?」
 
「こういう滝を潜流瀑(せんりゅうばく)というそうです。地下水が崖の途中から染み出して滝になっているんですね。上に川があるのは渓流瀑(けいりゅうばく)です。他には軽井沢の白糸の滝が潜流瀑、富士宮市の白糸の滝は渓流瀑と潜流瀑のハイブリッドです」
 
こういう話は知らなかった記者さんが多かったようで、潜流瀑・渓流瀑の漢字も訊かれた。おそらく各々社に戻ってから調べてみるのだろう。
 
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他に映像に映っているモデルさんについても訊かれたので札幌を中心に活動している人ということで名前を答えておいた。
 

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夏の日の想い出・少女の秘密(10)

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