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■夏の日の想い出・少女の秘密(8)

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「それで最初の年に入れる男子生徒は、本当に学校が誇れるくらい優秀な生徒を入れたいんですよ。実は今2人内々定しているんですけど、アクアちゃんなら充分学校が誇れる生徒だから、入ってもらえるなら大歓迎ですよ」
 
「ちょっと待って下さい。私、そんなに優秀じゃないですよ〜」
 
「いや、充分優秀」
と教頭先生は言った。
 
「それに私、芸能活動でずいぶん休むかも知れないし」
 
「それは他の2人も同様ですね」
と先生は言う。
 
「1人は国際***音楽コンクールのヴァイオリン部門で昨年3位になった人で。その前年・前々年は4位で初めての入賞だったんですけどね」
 
「優秀じゃないですか!」
 
「***音楽コンクールは知ってる?」
「ええ。私もヴァイオリン習っているから」
「あら、あなたヴァイオリン弾くの?」
「はい。父親代わりの上島さんにも勧められてずっとヴァイオリンとピアノは習っていました」
「へー!今度よかったら聞かせてもらえない?」
「はい」
 
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「そういう訳で、その人はコンクールに出たり、特別な先生の集中レッスンを受けたりするのに結構休むかもということなんですよ」
 
「なるほどー」
 
「もう1人はピアニストなんですよ。彼もいろんな大会に出たいということで、やはり結構お休みするかもということなんですよ」
 
「でもそんなクラシック系の凄い人に混じって、たかがアイドル歌手の私なんかが、いいんですか?」
 
「歌手なら芸術コースの今度3年生になる学年に山森水絵さんもいますよ」
「わっ。山森さんがC学園でしたか」
「彼女の場合は在学中にデビューすることになったんですけどね」
「そういうのもありなんですね」
「うちの学校は規定の授業日数出ていて、ちゃんと試験も60点以上取っていれば、違法なことで無い限り個人的な活動については自由という立場ですので」
 
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「あ、そういうの好きです」
 
「他に芸術コースではなく進学コースですが、松梨詩恩ちゃんが4月に新入生として入ることで、内々定なんですよ」
 
「わぁ、詩恩ちゃんと私わりと仲良いです。よく音楽番組で会うんですよ」
「あの子もけっこう売れているみたいね」
「ええ。同世代の男の子に凄い人気なんですよね〜」
 

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そういう訳で龍虎は教頭先生に気に入られてしまった感じもあり、この春からC学園に新設される芸術コースの男子枠に入るという方向で話が進んだ。それで翌日、日曜日ではあるが、両親と一緒に実際にC学園を訪れて更に突っ込んだ話をすることになった。
 
なお、ドタキャンしてしまった結果になったD高校には、電話をして、会場を間違ってしまい、他の学校の説明会に誤って出席してしまったことを伝え、よくよくお詫びをしておいた。そういうことであれば、何でしたら学校に来てもらえたら、個別に説明をしましょうか?と言ってもらったが、その誤って出席してしまった学校の先生に気に入られてしまったので、そちらに進学する方向で検討することになったので、取り敢えず辞退させてくださいということを伝えて了承を得た。D高校からは「もしそちらとの話し合いが不調になったような場合は遠慮無く、うちに声を掛けてくださいね」とまで言ってもらった。
 
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また翌日学校説明会に行くことになっていたJ高校にはキャンセルの連絡を入れた。
 
それで翌日、龍虎は田代夫妻、長野支香、上島雷太の4人と一緒に東京北区のC学園を訪れた。
 

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学校側からは、理事長・校長・教頭、それに芸術コース主任の窪田先生が出てくれた。まずは龍虎の歌、ピアノ、ヴァイオリンを披露する。
 
龍虎はこの日はまず上島先生の伴奏で鴨乃清見作詞作曲の『門出』を歌った。上島先生は『原曲通り』の伴奏をしたので、歌の方が伴奏より先に出る所が数ヶ所有り、これを龍虎は正確な音程で歌った。
 
自分の歌唱力をマックスに見せられる歌を歌うのがいいと上島先生に言われてこの曲を選んだらしい。
 
この曲は和泉とか七美花、松原珠妃など《絶対音感持ち》には辛い歌らしいのだが、私や槇原愛、青葉など《相対音感型》の歌い手には意外に歌えてしまうのである。但し、声域が最低3オクターブ無ければならない。アクアも相対音感型で、しかも私などと同様に西洋音階でも和音階でも純正律でもその曲によってさっとその音階の感覚に切り替えることができる。
 
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アクアは「平均律はなめらかな感じ、和音階は響き合う感じ、純正律は階段みたいな感じ」と言っていた。
 

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龍虎の歌唱を聴いて、理事長・校長・教頭は凄い拍手をしてくれたがも窪田先生だけは
 
「移調しました?」
と訊いた。
 
「はい。これを歌ったケイ先生の声域はF3-E♭6なんですが、私は下の方がG3までしか出ないんですよ。それで本来C-Majorなのを2度上げてD-Majorで歌わせて頂きました」
 
「うん。それはいいけど、それで結果的にF6を歌っているのが凄い」
「気合いを入れていると一瞬ならF6は出るんです」
「だったら『夜の女王のアリア』を原キーで歌えるでしょ?」
「歌えますけど、私はクラシック歌手ではなくてポップス歌手なので、ポップスで勝負した方がいいだろうと上島さんの助言だったんです」
 
上島先生は微笑んでいた。窪田先生も頷いていた。
 
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その後、龍虎は音楽室のグランドピアノ(Yamaha S4B)でショパンのノクターン2番を弾いた。
 
「きれ〜い!」
という声があがる。
 
「簡単な曲で済みません」
と龍虎は言うが
 
「難しい曲を弾いて間違うより自信を持って弾ける曲を弾きなさいと私が言ったもので」
と上島先生は言うが、窪田先生は
 
「いや、この曲自体、結構難しいですよ。上級者レベルの曲だと思う。そして解釈がきちんとできていた」
と評価してくれた。
 
続いてヴァイオリンを弾く。今日持って来たヴァイオリンは、E.H.Rothのもので、小学5年生の時にヴァイオリンの大会で入賞したお祝いに上島先生から買ってもらったものである。それまでは鈴木の520番を使っていた。
 
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この日龍虎が演奏したのはツィゴイネルワイゼンであるが、伴奏は田代母がしてあげた。こういうクラシック曲の伴奏となると、上島先生は畑違いである。田代母は音楽の先生だけあって、龍虎をしっかりサポートしてあげた。この曲は途中で弱音器を付けたり外したりする場面があるが、スムーズに着脱していた。
 
演奏が終わると、理事長・校長・教頭が凄い拍手をするし、窪田先生も掛け値無しで頷きながら拍手をしていた。
 
「これも簡単な曲で済みません」
と龍虎は言うが
 
「いや、簡単な曲だけに差が出るんですよ。君は上手い」
と窪田先生は言った。
 
「簡単な曲なんですか!?」
と理事長が訊く。
「凄く難しい曲に聞こえたのに」
と校長。
 
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「格好いいけど、シャコンヌとかに比べると難易度は低いよね」
と窪田先生。
「そうなんです。この曲、凄く難しい演奏しているみたいに聞こえる、お得な曲なんです。逆にシャコンヌは難しいのに、地味で、全然難しいことしているように聞こえないんですよ」
と龍虎は言った。
 
窪田先生も笑いながら頷いている。
 
「ちなみにシャコンヌも弾ける?」
「まだ微妙に怪しいです」
 
窪田先生はまた頷いている。龍虎が正直に言うのを好感しているようである。
 
「でもピアノもヴァイオリンも上手いけど、歌がやはりいちばん凄い」
と窪田先生は龍虎を評価するように言った。
 
「実は私もそう思ったので、この子が歌手になりたいと言った時、いいよ、それでやってごらんと言ったんです」
と田代母は言った。
 
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結果的には、この龍虎の歌唱・ピアノとヴァイオリンの演奏が実質的な入試代わりになったようである。
 
この後は実際の入学手続き、就学のための費用、また校則などについて学校側から説明があり、龍虎と保護者群!も了解していた。
 
「寮は別に必要ないですね?」
と窪田先生。
「私、寮に入ったら門限を全然守れないと思います」
と龍虎。
「ああ。そうでしょうね」
 
「駅の近くにでもマンションを借りるといいと思うよ」
と上島先生が言った。
「それでいいでしょうね」
「買ってもいいけど」
と上島先生。
「高校生で自己所有マンション暮らしというのは分不相応だと思うので、取り敢えず20歳までは賃貸マンションでいいと思います」
と龍虎。
 
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先生たちも頷いていた。
 

「制服というのは無いんですね?」
と田代母。
「はい。まだ初年度ということもあり定めてないんですよ。女子の制服を着せる訳にもいきませんし。学生らしい服装であればということにしたいと思います」
 
と教頭が言った時、龍虎が微妙な顔をした。それで教頭は付け加えた。
 
「えっと・・・女子制服を着たいということであれば、着ても構いませんが」
 
「いえ、それまた誤解を生むから自粛します」
と龍虎。
 
「あんた中学では時々女子制服着てたしね」
と田代母。
「あれは色々唆されたり、騙されたり」
と龍虎。
 
「いや、ほんとに女子制服が良ければそれでもいいですよ。色々噂されているみたいですけど、MTFかひょっとしてMTXってことないですよね?あ、この辺りの言葉は分かるかな?」
と教頭先生が訊く。
 
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「はい。MTFもMTXも分かります。でも私の場合はMTXじゃなくてただの女装趣味だとか、ある作曲家の先生(醍醐春海)に言われちゃいましたけど。実際、私、よく女装している気もするんですけど、女の子になりたい気持ちは無いので」
と龍虎が言うと、上島先生が笑っている。
 
「確かによく女装させられているよね」
と上島先生。
 
「私が嫌がるそぶりとか見せないから、これパワハラじゃないよね?とかプロデューサーさんとかからも言われるんですよ」
と龍虎。
 
「まぁ嫌じゃなかったら、構わないんじゃないの?」
と上島先生。
 
「そうですね〜。わりと女の子の服も好きだけど」
と龍虎。
 
「あんたのタンスの中身は9割以上女の子の服だし」
と田代母。
「だって川南さんが送りつけてくるし、ファンの人たちからも日々大量に送られてくるし」
と龍虎は言い訳している。
 
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「やはり女装趣味だな」
と田代父は言った。
 
「まあ中学の時と同様の学生服とか、夏はワイシャツでいいんじゃない?」
と田代母が言う。
 
「はい、そういう服であれば問題無いと思います」
と教頭は言った。
 
「女子制服も作っちゃう?」
「え〜?どうしよう?」
 
「じゃ、女子制服でもいいことにしておきましょうか?」
と教頭先生が言うので
 
「うーん・・・」
と言って、龍虎は悩んでしまった。
 

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そういった訳で、龍虎は4月から、これまで完全な女子校であったものの一部のみ共学となるC学園に通うことになったのであった。住まいは高校の最寄り駅近くの賃貸マンションを契約した(田代父の名義だが、家賃は田代龍虎名義の口座から引き落とす)。そこなら仕事に出るのにも、今までよりかなり便利になりそうであった。
 
なお龍虎はこの高校でも、今まで通り、田代龍虎の名前で通学するが、卒業証書などは通称の田代龍虎、戸籍名の長野龍虎の双方の名義で発行してもらえるらしい。
 

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「で、結局、龍ちゃん、女子制服を着るの?」
と私は訊いたが
 
「着ませんよ〜。着てみたい気はするけど」
などと言っている。
 
「ミッションの制服って可愛いんじゃないの?」
「ええ。すごーく可愛いんですよ。だからコートとかは学校指定の買ってもいいかなあと思っているんですけどね。ぼく、右前とか左前とか全然気にしないし」
「コートだけじゃなくて、制服も買えばいいのに」
 
「女子制服でもいいよというのは教頭先生のジョークだと思うんですけどね」
「そうね。ジョークだったらいいね」
 
などと私は言っていたのだが、2月中旬になって“制服採寸会のご案内”という通知が送られてきたらしかった!
 
 
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夏の日の想い出・少女の秘密(8)

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