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■夏の日の想い出・たまご(6)

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「でもこの卵は大事に育てていきたいね」
 
などと加藤さんも言った時、私は唐突にそのことを思い出した。
 
「どうしたの?」
と七星さんが訊く。
 
「いや、随分昔に『たまご』という曲を書いたなと思って」
「へー」
「小学5年・・・いや4年の時ですよ」
「そんな時期から作曲してたんだ?」
「親友にうまく乗せられて。その親友がその場で詩を書いて、これに曲を付けてよと言われて、16小節の二部形式で書いたんです」
 
「冬ちゃんはそれが昔から得意。曲先ではあまり書かないよね」
「詩の世界観を借りて作曲しているんですよ」
 
「その譜面ある?」
「どうだったかなぁ・・・」
 

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それで私は気になったので、マンションに帰ってから古い楽譜を書いたノートなどを探してみたものの、なかなか見付からない。
 
「何探してんの?」
と政子が言うので、小学4年生の時に書いた歌のことを唐突に思い出したんだけど、譜面が見当たらないと言う。
 
「ふーん。奈緒ちゃんと一緒に作ったのか。だったら奈緒ちゃんが持ってたりしない?」
 
と政子が言うので、私は念のためと思い、奈緒に電話してみた。
 
「あ、それあったと思う」
「ほんと?」
「ちょっと待って。探してみる」
 
と言って彼女は探してくれた。それで取り敢えずおやつを食べながら政子にこの日会った蘭のことを話していたら、20分ほどして奈緒から電話がある。
 
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「あったよ。そちらにFAXするね」
「ありがとう!」
 
それで奈緒はすぐにFAXしてくれた。政子が歌ってみてというので歌うと「可愛い〜」と言ってお気に入りの様子。
 
「ねえ。この曲、今度のアルバムかシングルに入れようよ」
「無理だよ。これはとても商業レベルで出せる曲じゃない」
「だったら商業レベルの曲に改訂すればいいんだよ」
 
と言うと政子は自分で奈緒の携帯に掛けた。
 
「奈緒ちゃん、この送ってもらった曲可愛いね。それでさ、これ今度のアルバムに入れたいなと思うんだけど、このままじゃさすがに使えないじゃん。それでさ、私と一緒に、この曲の詩を改訂しない? あ、今夜いいの?じゃ行く〜」
 
ということで政子はふたりで歌詞の改訂をするという話をまとめてしまった。なお現在、奈緒は**医科歯科大の5年生である。
 
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「私も行った方がいい?」
「大丈夫大丈夫。冬の居ない所で、いかに冬が可愛い小学生女児であったかをたくさん話してきたいから」
「はいはい」
 
奈緒もいろいろ「ネタ」を持っているみたいだからなあ、と私はため息をつきながら答えた。
 

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少し時を巻き戻す。
 
その話をしたのは確か2015年の2月頃だった。クロスロードの集まりではなく、青葉も来ていなかったのだが、たまたま私のマンションに、クロスロードのメンツが何人も集まっていた。
 
「男でも遺伝子的に母親になる方法があるんだよ」
とその日、和実は言った。
 
「受精卵を男性の体内に移植して男性妊娠させるとかじゃなくて、遺伝子的になの?」
と千里の友人、蓮菜(葵照子)が訊く。
 
「高校の友人で仙台のT大学医学部に行った子(津川綾乃)が言ってたんだよ」
と言って、和実はその方法を説明する。
 
「例えば淳とあきらさんで子供を作る場合ね」
「なぜ、そういうたとえをする?」
と淳・あきら双方から抗議がある。
 
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「途中でちょっと誰かの卵子を借りないといけないから、千里の卵子を借りることにするね」
と和実。
 
「私、卵子持ってないよ」
と千里が言うが
「いや、千里なら持ってそうだ」
と蓮菜が言う。
 
「淳の体細胞からIPS細胞を作り、これを細胞分裂させていると稀にY染色体が欠落した細胞ができることがある。これを千里の卵子と桃香のX精子を結合させてまだ分裂を開始する前の受精卵に注入して千里の子宮内で育てると、XXX型の女の子が生まれる」
 
「ちょっと待て。私は精子を持ってない」
と桃香が抗議する。
 
「いや、桃香なら持ってそうだ」
と、その日なぜかその場に居た、XANFUSの音羽(織絵)が言う。織絵は桃香の高校の時の同級生である。
 
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「私、高校時代に危うく桃香に妊娠させられる所だったし」
「ふむふむ」
 
「桃香ってあちこちの女の子を妊娠させてそうだなあ」
「多数の女の子から認知を求められていたりして」
「無実だぁ〜!」
 
「私子宮無いけど」
と千里が言うが
「千里に子宮があることは確定済み」
とまたまた蓮菜が言う。
 
「XXX型の染色体って、染色体異常じゃないの?」
と質問が出るが
「いやXXX女性は実は割といる。何も異常は起きない。普通のXX女性と変わらん」
と蓮菜は言う。
 
「XXYならクラインフェルター症候群だけど、XXXは問題無いね」
と奈緒も言う。
 
「へー、そういうものか」
 
「それでこの女の子が作る卵子の中には、淳のX細胞由来の遺伝子を持つものがある。それでその卵子にあきらさんの精子を受精させると、淳とあきらさんの遺伝子を持つこどもが生まれるんだよ」
 
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「ほほお」
「これ、ちゃんと淳は遺伝子的には母親になっているんだよね」
「面白い方法だね」
 
「でもそのXXX型の女の子はどうすればいいのさ?」
「もちろんその子も育てるよ。この子は、千里を母親、桃香を父親とし、更に淳の半クローンにもなっている女の子なんだよ」
 
「半クローンか」
「そうか。クローンだけど性別は女なんだ」
「それがこの方法の鍵だね」
 
「XXXの女の子の作る卵子の中から淳さん由来の遺伝子を持つ卵子を選別する方法は?」
「うーん。難しいね。動物実験なら、たくさん受精させて育てればその中に1匹くらい、そういう子ができるんだけど」
と和実は悩むように言うが
 
「分裂開始させて少したった所で細胞を1個取り出して遺伝子検査すればいいと思う」
と奈緒が言う。
 
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「なるほど。それならできないこともないか」
 
「だとすると、これ現在の医学的な技術で充分実現可能なことかも」
 
「でもこの方法、動物実験ならいいけど、人間でやるには倫理的に問題がありすぎる気がするなあ」
と私は言った。
 
「うん。こういう方法は受け入れられないと感じる人が多いと思うよ」
と和実自身も言う。
 
「でもそれ淳さんの精子は使わないのね?」
「精子を使ったら父親だもんね。だからこれ去勢しちゃった人でも母親になれるんだよ」
 
「それはそれで凄いね」
 

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「もうひとつの方法はあきらさんが淳とセックスして淳が妊娠するという方法だけどね。一晩くらいなら、淳をあきらさんに貸していいよ」
 
などと和実が言うが
「私はさすがに妊娠する自信は無い」
と淳は言う。
 
「まあ淳さんの妊娠は難しそうだよ」
と奈緒は言う。
 
「このメンツ見渡して、妊娠できそうな顔しているのは、冬と和実と千里かな」
と奈緒は言った。
 
「あ、千里が妊娠できそうというのは私も賛成」
などと蓮菜も言う。
 
「冬は私の赤ちゃん産んでくれるんだよ」
と政子は言っている。
 
「ここに居ないけど、たぶん青葉も妊娠できる」
と桃香は言っている。
 
「よし妊娠検査薬を試してみよう」
などと奈緒が言い出す。
 
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「はぁ〜?」
「冬、和実、千里、これトイレでおしっこ掛けて来なさい」
と言って奈緒は私と和実と千里に妊娠検査用のスティックを渡した。
 
「なぜこんなものを持ってる?」
「昨日授業でやったんだよ」
「みんなおしっこ掛けてみたの?」
「掛けた」
「誰か妊娠してた?」
「してなかった」
「男もしたの?」
「してたよ。残念ながら誰も妊娠してなかったけどね」
「男が妊娠したら大変だな」
 
それで結局、なりゆきで、私、和実、千里の順にトイレに行き、妊娠検査薬を使ってきた。
 
「これちょっと表示が出るまでに時間が掛かるんだよね」
と奈緒は言っている。
 
最初に行ってきた私の分の反応が出る。
「マイナスか。残念」
「私が今妊娠したら、町添さんの首が飛ぶよ」
と私は笑って言う。
 
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「和実もマイナスか」
「でも淳と日常的に付けずにセックスしてるから、私、いつ妊娠してもおかしくない気がする。淳、そろそろ籍入れちゃう?」
と和実が言うと
 
「うん。私はいつでも籍を入れていいよ」
と淳。
 
「じゃ、その件はふたりでおうちに帰ってからゆっくり話し合ってもらって」
と奈緒が言う。
 
そして最後にトイレに行ってきた千里の妊娠検査薬の反応が出る。
 
「プラス!?」
「嘘。千里、妊娠してるの?」
「うーん。あまり妊娠する自信無いんだけどなあ」
と千里は言う。
 
「そういえば千里、腹帯持ってたな。こないだ付けてた」
と桃香が言う。
 
「あれはジョークで買ったんでちょっと付けてみただけ。桃香妊娠した時に使っていいよ」
 
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「でもこの妊娠検査薬の反応は?」
「ただのエラーでは?妊娠検査薬の診断確率って99%くらいらしいから、1%は間違いがあるんだよ」
 
「うーん・・・・」
その場で一同は腕を組んで悩んだ。
 
「千里、チップ使い切っちゃったけど、もう1本もらってこようか?それで再確認してみる?」
と奈緒は言うが
 
「いい。要らない。私が妊娠する訳ないじゃん」
と千里は笑って言っていた。
 

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『たまご』は氷川さんとも話し合った結果、制作中のアルバム『The City』に入れることにし8月中旬に制作されることになった。
 
展開部はかなり深いものがあり、ストリングセクションが美しいのだが、最初のモチーフは元々が小学4年生の時に書いたものなので、唱歌っぽい雰囲気もある。今までのローズ+リリーの曲とは全く違う傾向の曲だが、アルバムならこういう曲があってもいいのではないかと氷川さんは言っていた。
 
実際氷川さんは『The City』という企画ではあっても、全てが都会の描写ばかりになっては、セールスをあまり望めないのではと考えていたふしがある。
 
演奏は渡部賢一グランドオーケストラに協力してもらい、鈴木真知子ちゃんのヴァイオリンソロもフィーチャーしている。しかし全体的には小学校の音楽の時間に出てくる曲か何かのようにまとめている。リズム楽器は使わず、テンポは渡辺さんの指揮にお任せ。私たちもオーケストラの演奏に合わせて歌っている。
 
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また私と政子で2パートずつを歌って四重唱にまとめあげた。
 
「これ即KARIONでカバーできるな」
などとスタジオに陣中見舞いに来てくれた和泉が言っていた。
 
「カバーしてもいいけど、2017年以降にして」
と私は言う。
 
「実際ライブではどうするの?」
と小風も訊く。
 
「まあ誰か応援の歌唱者を頼まないといけないだろうね」
「誰かアテはある?」
 
「打診はしてないけど、ゴールデンシックスとか、オズマドリームとかは使いやすいかなと思っている」
 
「ああ、どちらも上手いもん」
と小風。
 
「音楽の傾向も似てるから親和性があると思うよ」
と和泉も言う。
 
美空が何か考えているふうなので訊いてみる。
 
「どうしたの?」
「いや。オズマドリーム売れてるよなと思って」
「売れてるね。こないだの曲はゴールドディスクになった。彼女たちずっと歌手をやってて良かったと言って感動してた」
 
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「槇原愛とシレーナソニカも売れてるでしょ?」
「うん。あの子たちが売れると私の負荷もあがって辛いけど、まあ売れてるね」
 
「ローズクォーツと組んだユニットはみんな売れたりして」
と美空。
 
「ほほぉ!」
 
「まずローズ+リリーが大きく売れてるし、覆面の魔女ことシレーナソニカが売れて、オズマドリームも売れたら、ローズクォーツって上げマンだったりして」
と美空。
 
「男の人のバンドだから、上げマンじゃなくて上げチンかも」
と小風。
 
この子は昔から下ネタが多い。
 
「ちょっとちょっと」
と和泉にたしなめられている。
 
「だったらミルチョも来年売れるといいね」
と七星さんが微笑むように言った。
 

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