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■夏の日の想い出・たまご(3)

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それは東京に引っ越してきた後なので、小学4年生の夏頃ではないかと思う。
 
その日は父が「ちゃんと作った餃子」が食べたいと言ったので、私は買物に出た。さすがに3年生の頃は買物に行く時は母か姉と一緒だったのだが、この頃になると私は結構ひとりで買物に出ていた。
 
それで餃子の皮、豚バラ肉、ネギ、生ニンニク、それにフカヒレスープを付けようかなと思い、これは味の素のレトルトのもの、そして念のため卵を買う。こんなものかなあ・・・と思ってレジの方に行きかけていたら、クラスメイトの横沢奈緒がお母さんと一緒にいるのに遭遇する。
 
私は軽く会釈したのだが、それを見て奈緒は
 
「唐本さん、こんにちは」
と声を出して挨拶してくれた。それで私も
 
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「横沢さん、こんにちは」」
と挨拶する。
 
「お友達?」
とお母さんが奈緒に訊く。
 
「うん。同じクラスの唐本さん」
と奈緒。
「下の名前は?」
とお母さんが訊くが、奈緒は一瞬考えるようにしてから
「冬・・・ちゃんだよ」
と答えた。
 
「へー。冬ちゃんか。冬に産まれたの?」
「あ、いえ。予定日が冬だったので。でも早産で10月に生まれちゃったんです。でも名前は予定で考えていたものをそのまま付けられて」
と私は答える。
 
「ああ、そういうのもありがち」
と言ってお母さんは笑う。
 
「私の友人の子供なんて、妊娠中にお医者さんから女の子ですねと言われてたから、女の子の名前しか考えてなかったんだって。でも生まれてみたら、お股に妙なものが付いてて」
 
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「あらら」
「でもお腹の中にいる間ずっとその名前で呼びかけていたのに、今更変えたくないというので、男の子なのに《ゆかり》って名前付けちゃったのよね」
 
「ああ・・・でも子の付く名前じゃなくて良かったですね」
と私は言う。
「うん。さすがに男の子に子の付く名前は付けられないよね」
とお母さん。
「でも男の子にも彦が付く名前があるじゃん。日本語習いたての外国人が、夏彦とか春彦なんて名前を聞くと、コが付いてるから女性だろうと思ってしまうんだって」
と奈緒は言う。
 
私はドキっとした。夏彦・春彦・・・・それはどうも私の名前「冬彦」を意識して言っている気がした。
 

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「でも冬ちゃん、ひとりでお買物なの?」
「ええ。最近は、夕飯を作る人が自分で買物してくる、というのが多いので」
「あら?もしかして、冬ちゃんが御飯作るの?」
 
「ええ。だいたい週2〜3回作りますよ」
「えらーい。奈緒もそろそろお料理覚えた方がいいんだけどね」
「中学になったら覚えるー」
と奈緒は言ってから
 
「そうそう。この子、オムレツが凄く上手なのよ。一度見たけど鮮やかだった」
と言う。
 
「へー。オムレツが作れるのはポイント高い」
「オムライスも得意と言ってたね?」
「うん。日曜のお昼とかに良く作ってる」
 
「すごーい。冬ちゃんの所の今日のメニューは、あら餃子の皮。餃子を作るの?」
「はい、そうです」
「でも挽肉じゃないの?」
「挽肉になっているのを買って来て使うより、バラ肉を買ってきて自分で包丁で5mm程度のサイズに切ったほうが美味しくなるんですよ」
「すごーい。お料理得意なのね」
とお母さんは感心したように言う。そしてお母さんは
 
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「冬ちゃん、きっといいお嫁さんになるわー」
と言った。
 
へ?
 
ボク、お嫁さんになるんだっけ??
 
「冬ちゃんと春の調理遠足で同じ班になったけど、カレーの材料切るのに、冬ちゃん、お肉も上手に切ってたし、タマネギのみじん切りが凄く上手だったのよ。あっという間に細かく切っちゃうんだもん。他の子がやってたら、あの5〜6倍の時間が掛かったって感じだった」
 
「へー。やはりそういうの、随分前からやってるの?」
「お野菜切るのとかは小学1年生頃からやってましたよ」
「やはり、女の子はそういうの早い時期から覚えさせたら良かったのねー」
 
あれ〜、女の子〜?
 
私は奈緒母娘と5分くらい立ち話をしていたのだが、どうも奈緒のお母さんは私のことを女の子と思い込んでいる?というのに気付き、私は自分は男ですと言うべきなのか、悩んだ。しかし奈緒は優しい微笑みを浮かべていた。
 
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ところで私が愛知の小学校から東京の小学校に引っ越したのは小学3年生の12月だったのだが、その引越の時に、向こうの学校での親友で私の「生態」をよく理解していた青井リナが、餞別代わりにファスナー付きのトートバッグをくれた。
 
そしてそのバッグの中には女の子の服がぎっしり詰まっていた。
 
それで私は折角もらった女の子の服を着て出歩くようになったのである。それまでも結構母が気まぐれで買ってくれたスカートを穿いたり、姉が「これ私にはもう小さい。冬、着る〜?」などと言ってくれた服を着たりもしていたのだが、ちゃんと下着から女の子用を着けて日常的に外出するようになったのはたぶんこの頃からなのではという気がする。
 
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それでもその格好で近所を歩くと、学校のクラスメイトなどに見られると恥ずかしい気がして、私はわざわざ遠くに行ってから女の子の姿になっていた。
 
学校が終わってから、姉の赤い自転車を勝手に借りて10分ほど走り、校区外に出る。私はしばしば隣町の大型スーパーの自転車置き場に自転車を置くと、そこのスーパーの女子トイレ!の中で洋服をチェンジしていた。
 
自分が男の子の服を着たまま女子トイレに入っていったりしても誰にも咎められたりしないことは過去の経験で確認済みである!中で列ができている場合も、私はそういう格好で平気でその列に並んで個室が開くのを待っていた。下着は家を出る時に既に女の子用を着けているが、このトイレの中でスカートを穿き、上も女の子仕様の左前ボタンのポロシャツなどを着ていると自分が完全に女の子になれた気分で、凄く心が安定する思いだった。
 
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「学校にもこういう格好で出て行きたいなあ」
 
と私は独り言のようにつぶやいたりしていた。
 

別に女の子の格好になったからと言って何かする訳でもないのだが、私はそこのスーパーの書店で本を立ち読みしたり、洋服売り場のガールズコーナーで洋服を眺めたり(洋服を自分で買えるほどのお小遣いは持っていない)、またスーパーから出て川沿いの道を散歩したりしていた。
 
そんなある日のことだった。
 
その日は体育で鉄棒をしたのだが、私はどうしても逆上がりができなくて何度も何度もやらされたものの、全然出来ず、それだけでくたくたに疲れてしまった。それで何か甘いものが欲しいなあと思い、スーパーで38円のオレンジシュースを買い、休憩コーナーで飲んでいた。
 
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一応夕飯の買物もしたのだが、氷をもらってレジ袋に一緒に入れ口を縛っているので、少しくらい休んで帰っても大丈夫のはずだ。
 
しばらくボーっとしていたのだが、その内、ふと学級文庫で借りた本があったのを思い出し、開いて読み始める。モーツァルトの伝記であった。
 
しばらくその本を読んでいた時、女の子2人連れが休憩コーナーにやってくるが、私はその子たちの顔を見てギクッとした。その片方がクラスメイトの奈緒なのである。きゃー、私、スカート穿いているのに、と思ったのだが、奈緒は私が彼女に気づいたのとほぼ同時に私に気づいたみたいで、笑顔で手を振るとこちらの方にやってきた。
 
「こんにちは〜、唐本さん」
「こんにちは、横沢さん」
「なんか良く会うね。あ、こちらうちの従妹の春香ちゃん。甲府から出てきたんだよ。こちらうちのクラスメイトの唐本冬・・・ちゃん」
と彼女は双方を紹介した。
 
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私は取り敢えず笑顔で会釈する。春香ちゃんの方も会釈を返してくれる。確かによく遭遇する。でも先日は買物の途中で、私はズボンを穿いていた。今日はスカートなのに。
 
でも横沢さん、私のことを「冬彦」と呼ばずに「冬」で停めちゃうんだな、好都合だけど、と私は思った。そして私がスカートを穿いていることを何も言わない。テーブルの下に隠れていて気づかないのかな?
 
「あ、ジュース飲んでるのね。私たちも何か飲もう」
と言って奈緒は近くの自販機でジュースを2個買ってきた。
 

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「今日は鉄棒たいへんだったね」
と奈緒は言った。
 
「逆上がり、今まで1度もできたことないんだよね」
と私は言う。
 
「あれはたぶん、もう少し腕力を付けるか、あるいは身体を柔らかくしないとできないんじゃないかと思って見てたよ」
と奈緒。
 
「ああ、なんか腕が細いもんね」
と言って従妹の春香ちゃんが私の腕に触った。
 
「箸より重たいもの持ってないんじゃないかという感じ」
 
「唐本さん以外では、男子は全員できてたけど、女子ではできない子がまだ5〜6人いたね」
と奈緒。
 
「まあどうしても女子は腕力が無いよね」
 
「でも唐本さん、横回りはうまくできてたね」
と奈緒は言う。
 
「うん。あれは割と得意。勢いだけで回れるから」
 
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横回りというのは鉄棒にまたがって横回転するもので、プロペラとも言う。私は今日の体育の時間、それを6回連続でしたのである。
 
「横回りって、男子はできないらしいね」
と春香ちゃんが言う。
 
「あれ、そういえば今日横回りしてたの、女子が多かったかな」
と私もふと気づいたように言う。
 
「男子はおちんちんが鉄棒に当たって痛いからできないんだって」
と春香ちゃんが言うと
 
「なるほど、なるほど」
と奈緒は言いながらこちらをチラっと見た。
 
「女子は当たるようなものが無いから問題無くできるのね」
と奈緒。
 
「そうだったのか」
 
そんなこと私考えたことも無かった!それで男子はやりたがらなかったのか。女子が数人横回りをしていたので私もやったのだが、確かに男子で挑戦する子がいなかったので、私もなぜだろうと思っていたのである。
 
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「まあ横回りたくさんできていたのは、唐本さんにおちんちんが無いという証拠だよね」
と奈緒が言うのでドキッとする。
 
「そりゃ、こんな可愛い女の子におちんちんがあったら大変だよ」
と春香ちゃんが言った。
 
私はまたドキッとした。もしかして私、女の子と思われてる?
 
なお実際私が当時横回りするのに全然抵抗を感じなかったのは、私の睾丸がたいてい体内に入ってしまっていた(遊走睾丸)からだと思う。
 
その時、春香ちゃんが提案した。
「女の子同士なのに苗字で呼ぶの変。名前で呼んでもいい?」
 
「あ、冬ちゃんでいいね」
と奈緒も言う。
「私のことも奈緒でいいからね」
 
「うん、分かった。奈緒ちゃん」
と私は答える。女の子を名前呼びするのは、愛知の小学校では普通だったが、こちらに来てからはこれが初体験となる。でも、私、やはり女の子と思われているみたい。でも奈緒ちゃんはなぜ私を女の子扱いしてくれるのだろう?
 
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「この子、今年の1月に名古屋から転校してきて、まだ充分みんなに慣れてないみたいでさ」
と奈緒は言う。
 
「ああ、名古屋と東京じゃ、言葉も違うし習慣も色々違うから大変だよね」
と春香ちゃん。
 
うーん。名古屋ではなくて江南市なんだけど、まあいいか。愛知県という名前より名古屋の方が通っているからなあ。宮城県と仙台、福岡県と博多などと事情は似ている。
 

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「でも何の本、読んでたの?モーツァルト・・・と言ったら小説家だっけ?」
「音楽家だよ。小説家はモーパッサンかな」
「あ、なんか似てるね」
 
そうか?
 
「モーツァルトと言ったら、トルコ行進曲とかアイヤ・クライヤ・ナントカナルサ?」
と奈緒が言うので
「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」
と私は訂正する。
 
「あ、少し違うような気はした」
「可愛い曲だよね。ドッソドッソ、ドソドミソ」
と私が少し歌うと
「あ、冬ちゃん、歌うまーい」
と春香ちゃんが言う。
 
「冬ちゃんはピアノもうまいよ。時々、音楽の時間の授業が始まる前に音楽室のピアノを弾いてるよね」
と奈緒は言う。
 
「ああ、ピアノ習ってるの?」
「ううん。お姉ちゃんはずっとエレクトーン習ってたけど、私はサマーレッスンにちょっと行っただけ」
「へー」
「お姉ちゃんが居ない時はけっこう、お姉ちゃんのエレクトーン勝手に弾いてる」
「ああ、それで弾けるんだ」
「エレクトーンとピアノではタッチが結構違うんだけどね」
と私。
 
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「そうそう。ピアノの方がタッチが重いんだよね」
と奈緒が言う。
「奈緒もピアノ弾くんだっけ?」
と春香。
「キラキラ星と猫ふんじゃったくらいしか弾けない。そもそも私音痴だし」
と奈緒。
「幼稚園の頃習ってたんだけど、私、音を聞いてその鍵盤弾くのが全然できなくてさ」
 
「ああ」
 
「冬ちゃんは初めて聞いた曲でも弾いちゃうよね?」
「うん。探り弾きになるけど」
「そのあたり、音楽のできる子とできない子って、脳の構造が違うんじゃないかと思うことあるよ」
と奈緒は言う。
 
奈緒は国語や算数の成績はいいのに、音楽だけはいつも1らしい。
 

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夏の日の想い出・たまご(3)

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