【夏の日の想い出・Long Long Ago】(2)

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8日の仕事だが、理史の方は15時から昨日中断したドラマ撮影の続きを撮影したいという連絡があり(多くの仕事が地震で中止になったので逆に人が集められると判断したらしい)、龍虎も夕方までの仕事はキャンセルになったが、17時からの仕事はあるということだった(リハーサル役で葉月が16時に行ってくれる)。これは、りっちゃんが2人を車で送って行ってくれることになった。
 
それで午前中に川口市の理史のマンションの様子を見に行ってみることにし、朝食を食べた後で“アクアのアクア”#11に乗り、一緒に川口市に行ってみた。
 
ところが入れない!ロープが張ってあるのである。
 
「ちょっと管理人さんに訊いてくる。龍は車に戻ってて」
「うん」
 
それで理史が管理人室で聞いてきた所、階段が一部崩れて危険な状態になっており、取り敢えず立入禁止にしているということだった。今後改修して使用しても大丈夫か、建築会社に調査させる予定であるという。恐らく最低でも半月程度は使用困難と思われるので、転居する場合はすぐ敷金の返還をするという。
 
現時点では、荷物の取り出しについても、貴重品の持ち出しに限り、30分以内にしてほしいと言われた(崩壊の恐れが無いと判断されたら退去のための荷物搬出はできるようになる“かも”とのこと。現時点では確約できないらしい)。
 
理史は通帳などの貴重品に、パソコンやカメラなどは実は全部八王子のほうに置いていたので、緊急に持ち出さなければならないものは無い。取り敢えず管理人さんには携帯の番号を伝えておいた。
 
車に戻り、龍虎にかいつまんで状況を説明する。
 
「このマンションって古かったんだっけ?」
「建ったのは2000年頃だったはず」
「手抜き工事だったりして」
「あるかも知れないなあ」
 
(後日“姉歯”物件だったことが判明した)
 
「提案。もう八王子に引っ越しておいでよ。一緒に住もうよ」
「それ、どちらの事務所からも猛反対されると思う」
「面倒くさいなあ」
「龍が物凄い人気なんだから仕方ないよ」
 
しかし、取り敢えず善後策を考える間は八王子で暮らさざるを得ないようである。
 

なお今回の地震の余震とみられる有感地震は下記で、あまり大きなものは無かった。
 
10月07日23:44 M3.2 震度1=千葉市
10月08日05:11 M3.6 震度2=練馬区 1=足立区,八王子など
10月09日11:16 M3.5 震度1=足立区,八王子など
10月10日09:57 M3.1 震度1=練馬区
 

10月8日の夕方、私が恵比寿のマンションに帰宅すると、なんとうちの父と政子の父が来ていた。やはり地震が心配で被害が出てないか見に来てくれたらしい。最初電話して在宅していた政子に話を聞いたものの、さっぱり要領を得ないので(政子に訊くこと自体間違っている)、実際に来てみたという。
 
政子の父は1955年生で、2020年8月に65歳で42年間務めた百貨店を退職した。現在はK市の自宅で、パソコンを5台並べて株式の投資をやっている。資金は退職金の半額(半額は奧さんにあげた)だが、ここ1年ほどで300万ほどの利益を出したらしいので、結構投資センスは良いようである。
 
「もう少し投資額増やしたいなあ。政子貸してくれない?」
とか
「信用取引やってみたいなあ」
とか言っているが、奧さん(政子の母)から禁止されているらしい。
 
「今はビギナーズラックだよ。信用取引で失敗したら追い証(おいしょう)が恐いよ」
と奧さんは言っているようだ。
 
2000年に音速通信の株価がいきなり200分の1まで急落する騒ぎがあり、大量の自殺者が出たと噂されているが、みんなそれまでどんどん上昇していた音速通信の株を担保に二階建て・三階建ての取引をしていた人たちが、担保価値が無くなったことにより、担保分の現金支払い(追い証)を求められて破綻したものである。
 
追い証に比べたらFXのロスカット(為替相場が急変動した時に投資額がいきなり消去されてゼロになってしまう)なんて可愛いものである。
 
1997年頃は1単位20万円くらいだった株価が当時は200万円まで高騰していた。20万円時代に例えば50単位を1000万円で買っていた人は、当時その株式が1億円の価値があると認められて、それを担保に信用取引をしていた。ところがそれがいきなり1万円に暴落したので担保不足が発生する。50単位は50万円の評価になるから株を担保に入れていた人は1億円−50万円=9950万円を現金で支払うことを求められた。自殺者が出る訳である。自殺しなかった人でも短期間の資金調達にはかなり苦労している。それで音速通信の創業者社長の重富音康氏には、いまだに恨みを持っている投資家が多い(あれだけの騒動があったのに会社が潰れてないのも凄いけど)。
 
なお重富氏は、龍虎が父の“遺品代わり”として使用しているポルシェ40th editionの元のオーナーである。この経緯は書き出すと長くなるのでここでは省略する。
 

うちの父は1958年生まれで、2018年12月27日をもって35年半勤めていた会社を定年退職した。その後、再就職を試みたものの、ひとつの会社一筋に生きてきた人なので潰しがきかない。社内資格はたくさん取っているが、他の会社でも通用する資格は運転免許と危険物取扱者・フォークリフトなど程度である。結局再就職先を見付けられず、私の勧めで2019年4月に放送大学に入った。心理学系の学科を取る一方でNHKの語学講座で、フランス語・スペイン語などを勉強している。要するに現在は大学生である!
 
「学割が利くらしいよ」
「そうか。冬のお父ちゃんは女子大生になったのか」
「女子ではないから男子大学生だと思う」
 

その日は、部屋の片付けをしながら子供の遊びのことが話題になっていた。最近の子供たちはゲーム機ばかりしてるという話から、色々昔の遊びの話になる。缶蹴りとかグリコ・チョコレイト・パイナップルとか話している内に
 
「社長部長とかだいぶやりました」
「うちもやりました」
などと話が出てくる。ところが話している内に何か違う?ということになった。結局、政子の父が言う“社長部長”と、うちの父が言う“社長部長”は別の遊びであることが判明した!
 
政子の父がいう“社長部長”とは、ドッヂボールのボールを使った遊びで、円陣を作り、参加者は、社長・部長・次長・課長・係長・平1・平2・・・・・などと役職名が付く。それでボールを持った人は相手の役職名を呼んでその人に向けてボールを投げる。ボールが飛んできた人はそれをキャッチして、誰かの役職名を呼び、その人にボールを投げる。
 
・自分の所に飛んできたボールを取れなかったらアウト
・自分が呼ばれたのではないのにボールを取ったり、取ろうとしたらアウト
・役職名を呼んだ人が常識的に取れる範囲の外に投げたらアウト
 
(よくあるバリエーションは必ずその人の前でバウンドさせなければならないというルールのもの。各々の陣地として線を引く場合もある)
 
アウトになった人は最下位ランクに降格し、その人より下位ランクの人が1つずつ昇格して並ぶ順番も入れ替わる。最下位ランクの人が失敗した場合は、新人→バイト→便所掃除→乞食→幽霊→ごきぶり→石ころ→砂粒、などと更に落ちていく。誰かがミスして降格されたら平(ひら)に戻れる。
 

うちの父が言う“社長部長”は昇格や降格のシステムは同じなのだが、プレイ内容が全く異なる。教室内に、横1列に椅子を並べて、座っている人の中で左端から、社長・部長・課長・係長・平1・平2・・・・・などと役職名が付く。社長役の人が音頭を取って、両手を打つ→左手で左膝を打つ→右手で右膝を打つ、という動作を繰り返しながら「社長・部長」とか「社長・係長」などと、自分の役職名に続けて誰か別の人の役職名を呼ぶ。呼ばれた人は「部長・課長」などと別の人の役職名を呼ぶ。
 
・自分の役職名を言い間違ったらアウト
・次に渡す人の役職名を言えなかったらアウト
・存在しない役職名を言ったらアウト
・他人が指名されたのに自分だと思い込んで発言したらアウト
 
アウトになったら最下位ランクに移動して反対側の端に行き、その人より下のランクの人たちは昇格するので隣の椅子に移る。最下位ランクの人が間違ったら、その人の椅子は他の人から離され、窓際族→見習い→ゴミ集め→貧乏人→オバケ→地獄、などと更にランクダウンしていく。椅子もどんどん他の子から離される。誰か他の人が失敗したら平に戻れる。
 
「ひょっとすると同じルーツの遊びかも知れないですね」
「もしかすると屋外式と屋内式なのかも」
 
などと2人は懐かしそうに話していた。
 
「へー。そちらは部長と課長の間に次長があったんですか」
「そちらは平の下は窓際族ですか」
などと双方の役職名の違いにもお互い興味深げである。
 
「自分の役職が何かというのをしっかり意識する必要があるんだけど」
「遊んでると、それが分からなくなるんですよね〜」
 
「結構強い人がいて、長時間社長をキープして」
「それでその人に失敗させようと、みんなそこに渡して」
「社長指名が続いている時にフェイントで課長とかに渡してフライングさせる」
「社長と課長って音が似てるから」
 
などとプレイ・テクについても2人は楽しそうに話していた。
 

マリナの姉・風山歩は、ずっと代々木の雑居ビル(マリナが設立したオフィス・キロメートルの事務所)で寝泊まりしているのだが、10月7日の地震の後、川口市が震度5強だったと聞いて、少し心配になった。それで落ち着いて来た10月9日(土)、娘の詩(うた:今年の6.10生)をスペーシア(詩が産まれてからマリナが「健診とか連れてくのに必要だよ」と言って買ってくれた。駐車場も借りてくれた)のベビーシートに載せて、川口市の自宅に行ってみた。
 
アパートの建っていた所は焼け野原である!
 
うっそー!?地震で火事が起きて焼けちゃったのかなあ。
 
そして
《風山さん、048-***-****までご連絡ください》
 
という看板が立ってる!
 

ちょっと恥ずかしいよぉ!と思いながら表示されてる番号に電話してみる。
 
「○○荘に住んでいた風山ですが」
「ああ。ご無事でしたか!御主人もご無事ですか?」
「はい、生きておりますが」
 
「実は火事で○○荘が焼けてしまって。安否が確認できないのが、お宅一家だけだったんですよ。焼け跡をかなり捜索したものの、遺体とかは無いので、おそらく外出しておられたのだろうと思って、看板を立てていたのですが」
 
「やはり一昨日の地震で火事になったんですか?」
「地震?いえ、火事があったのは7月なんですが」
「え〜〜!?」
 
だったらあの看板、3ヶ月くらい立ってたのか?
 
なんて恥ずかしい。まるで行方不明者じゃん!
 
(充分行方不明者だと思う)
 

「実家かどこかにおいででした?」
「あ、いえ赤ちゃん産んでたので妹の家にずっと滞在していたもので」
「ああ。妹さんの家でしたか。それで賃貸契約は解除になりますので、敷金を返還します。それと火災保険から保険金が出ていますので、それと、あと火元の入居者から損害賠償が支払われていますので、その分配金をお渡ししたいのですが、○○不動産○○支店まで来られます?」
「行きます!」
 
「では印鑑と本人確認書類を持ってきていただけますか?契約者の風山早太さん御本人にいらして頂きたいのですが」
「すみません。夫は長距離トラックの運転手で全国飛び回っているので、年に数回しか帰宅できないのですが」
「ああ、それで火事にも気付かなかったんですね。でしたら委任状を書いてきてもらえませんか」
「分かりました。連絡して委任状を郵送してもらうことにします」
 
それで歩は夫の早太にメールし、早太が鹿児島!の営業所で委任状を書いて投函(でも翌日は京都まで走った)。委任状は10/15(金)に代々木のオフィスに到着した。
 
歩はそれを持って不動産会社に行き、敷金・保険金・分配金で、合計約200万円を受け取った。燃えてしまった家電・家具とか食器(友人の結婚式の引出物でもらった高そうなのがいくつもあった)・和服(10年以上着てない)などの価値を考えると微妙な金額という気もしたが、まあこのアパートにはほとんど行ってなかったし、日常生活に必要なものは全部代々木に持って来てたからね!
 
でも200万は思いがけないボーナスだなあ。何買おう?(その前にクレカの残高とかを清算すべき)
 

私とコスモスが、山村から提案のあった女子寮の太陽光パネルとプロパンガスによる非常電源設備について千里に相談したら、千里はすぐに動いてくれた。8日の内には太陽光パネルを“取り敢えず”10枚持って来てくれて、女子寮の屋上に仮設置してくれた。
 
「1枚の太陽光パネルは大雑把に言って1日に1kwh(キロワット時)の電力を生み出す。10枚なら10kwh程度。これを例えば蓄電池ユニット2台で10kwh溜めておくとする。停電時に最低必要なものとして、館内の非常灯と音声放送で700wくらい使ったとしたら、10kwhの蓄電池で、10÷0.7=12-13時間程度は照明と音声放送を維持できる」
 
「もしかして大事なのは太陽光パネルより蓄電池?」
「当然そういうことになる。太陽光パネルが威力を発揮するのは停電が何日も続いたような場合だよ」
「そうだったのか!」
「どっちみち夜間は太陽光パネルは無力」
「確かにそうだ」
 
「ちなみにここの屋上のサイズを計ってみたら33m×9m≒300m2くらいだから、1.4m×1.0m の太陽光パネルは300÷1.4≒200枚くらい設置できることが分かった」
 
「そんなに載るんだ!」
「1個20万で費用が4000万掛かるけどね」
「そのくらいは問題無い」
「1個27kgで重量が5.4トンになるけど」
「それが耐えられないかも」
 
「200枚載せるとパネルのパワーは300w×200=60000w=60kwになって、月に6000kwhの発電ができる計算になる。この女子寮の電力消費がどのくらいか知らないけど、建面積300m2の10フロアで3000m2として、1m2あたり10kwhで計算して月間30000kwhとすると、その2割くらいを太陽光パネルでまかなえる計算になる」(*3)
 

(*3) オフィスビルの消費電力は1m2あたり60wと言われる。1日10h使って600wh, 1ヶ月で600wh×30=18000wh=18kwhとなる。しかし、千里は寮ではそこまで使わないだろうと考えて約半分の10kwhで計算した。
 
桁の大きな計算をスラスラとしているので、ケイは、ここに居るのが間違い無く千里3であろうと判断した。3人の千里の中で計算が得意で(実は)プログラムも書ける理系女子は千里3のみなのである。千里3は3桁×3桁の掛け算を暗算でできるが、千里1や2は2桁同士の足し算を電卓使っても間違う!
 
千里3が青葉およびイリヤさんと一緒に松本花子をしていて、千里2がケイや丸山アイ・若葉と一緒に夢紗蒼依をしている。でも2人はしばしば入れ替わってお互いに相手をスパイしている!霊能者の青葉や丸山アイでも欺されるから凄い。息子の京平君でさえきれいに欺されるらしい。
 

「200枚も並べて2割かぁ」
「エアコンを停めればもう少し何とかなる」
「やはり非常時には1階の部屋に集めて夜を過ごさせるしかないなあ」
「コロナが落ち着くまでは集めるのが恐いけどね」
「それがあるのよ」
 
「エアコンを一晩維持するにはどのくらいの蓄電が必要?」
とコスモスが訊く。
 
「シミュレーションが難しいけど、例えば1台のエアコンが400wくらいで運転された場合、全館で50台のエアコンを動かすと20000w=20kwの電力を使う。これを例えば8時間維持するには、160kwhの蓄電が必要で、5kwhの蓄電ユニットを使うなら32台必要になる」
 
「それどのくらいのスペースを食う?」
「高さ50cm厚さ20cmの蓄電ユニットを10cm空けで横に並べて15メートルくらいかなあ。過熱しないようにその部屋自体に強い冷房を掛ける必要があるから、もっと必要かも。当然常時監視してないと危険」
 
「現実的じゃない気がする」
 
「と思う。バッテリーで動かせるのは、照明と音声放送に、ノートパソコン、冷蔵庫、スマホの充電用電源くらいだよ。エアコン使いたかったら自家発電が必要」
 
「松本花子で使ってるようなプロパンガス発電システムは?」
 
「あれは1台のユニットで800wくらい発電できる。エアコン動かしたかったら発電ユニットが25基必要」
 
「やはり現実的じゃない気がする」
「松本花子のはコンピュータを動かし続けるための電力確保だからね。たとえ大地震が来ても納期を守るのにマシンを動かし続けることが目的。発電ユニットは2個用意しているけど、コンピュータと回線だけに使う。暑さ寒さは我慢」
 
「ああ」
 
「実際に一度大地震を経験したけど、あの時は太陽光パネルだけで乗り切ってプロパンまでは使わずに済んだ」
「太陽光パネル凄いね!」
 
「夢紗蒼依だと小型の発電所まで持ってるらしいけど、そこまでは必要無いと思うし、この女子寮なら普通の自家発電システムを作った方がいいと思う」
 
「分かった。その方向で検討する」
「うん。それがいい。ムーラン電機(*4)に相談するといいよ」
「そうだね。大矢さん(ムーラン建設の副社長)に電話してみよう」
とコスモスは言っていた。
 
(*4)ムーラン建設の子会社で電気設備の施工を担当する。
 
しかしこの日千里が連れて来たスタッフが太陽光パネルが生み出した電力を蓄える蓄電ユニットも4個(20kwh分)設置したし、2日掛かりで女子寮全館に配線工事をして、放送設備と非常灯に各部屋の冷蔵庫までは、そこから供給される電力で動かせるようにしてくれた。“スマホ充電専用”と書かれたUSBも設置した。パソコン電源については、冷蔵庫用のコンセントから分岐させれば取れるが「常識的な範囲で」と技術者さんは言っていた。
 
姫路スピカみたいにパソコンを常時10台?動かしている人はきっと常識の範囲外だ。
 

ところで、少し時間が前後するが、水上先生のリモート追悼会が終わった後、三宅先生から
「ちょっと相談がある」
と言われて、私とアクアが、三宅先生の指定する都内の貸し会議室に集まった。
 
「普通なら食事でもしながら話したい所だけど、こういう折だから」
と先生はおっしゃる。
 
「でも今日は龍ちゃんスカートなんだね」
「出掛けにスカートしか見付からなかったら」
 
ああ、アクア家の日常だなと思う。それにアクアがスカートを穿いていても、ファンは誰も変に思わないから盗撮とかもされない。
 

「実は水上君の借金問題で」
と三宅先生がおっしゃるので、私は腕を組んだ。
 
「いくらあるんです?」
「白金のマンションは1億2千万を20年ローンで購入して、ローンはまだ10年しか支払われていなかった。実は土地不正取引事件の後、返済が滞っていて、強制執行とかもあり得る状況になっていた」
 
「残額6000万円ですか?相続拒否すべきだと思います。そしてどこか小さなアパートでも借りた方がいいです」
と私は言った。
 
「それはそうなんだけど、水上は防音室を作るなどあのマンションを改造していた。退去するなら、せめて転売できるように原状回復してから出てくれないかと不動産会社は言っているらしい。場合によっては損害賠償の訴訟を起こすと言っている」
 
「で、その原状回復させる資金が無いと?」
「まあそういうことなんだよ。しかもコロナで死亡した後というのはゲンが悪いし」
「うーん・・・」
 

「それでさ、ざっくばらんに。あそこ買ってくれそうな人を知らない?ローン残高程度の金額で。防音室はミュージシャンならありがたがると思うんだよ」
 
「10年経ったマンションで、しかも改造されてるんでしょ?それにあのマンション私取材でお伺いして見てますけど1億の造りじゃなかったですよ。何か安普請で。普通なら4000万だと思いました。白金ってだけで高く売ったんじゃないですかね〜。私ならせいぜい出しても1500万までです」
と私は言った。
 
「実は雨宮も自分なら1200万と言うんだよ」
と三宅先生。
 
私も1200万と思ったが、水上先生だからこそ少し上乗せして1500万と言った。雨宮先生も似たような評価だったようだ。雨宮先生はこういう問題にはシビアだ。たとえ友人でも、筋の通らない支援はしない。
 
もっとも銀座で1晩で1000万使ったことはあるが!??
 
「こうなると惜しいのが『ワンザナドゥ』だなあ」
と三宅先生は両腕を上に伸ばして背伸びするよううにして言う
 
「なんでしたっけ?」
「高岡が亡くなったのが2003年12月27日だけど、その1年くらい前からワンティスはシングルの発売を控えてアルバムの制作をしていた」
 
「あ、そうそう。シングルの発売がしばらく途絶えてたんですよ、その時期」
とアクアも言う。
 
※ワンティスのシングル
1 2001.04 無法音楽宣言
2 2001.08 時計色の虹
3 2001.11 琥珀色の侵襲
4 2002.02 霧の中で
5 2002.05 漂流ラブ想い
6 2002.09 紫陽花の心
7 2002.11 リズミトピア
8 2003.07 秋風のヰ゛オロン
 
(『リズミトピア』と『秋風のヰ゛オロン』の間に2003年4月に発売された『空っぽのバレンタイン』というシングルがあるが、名義は“保坂早穂withワンティス”である。ワンティスとしても保坂早穂への提供曲のつもりだった。楽曲を提供した縁で伴奏もしてあげただけである)
 
「高岡が亡くなる直前にアルバムはほぼ完成していた。マスターも多分作られたはず。でも高岡が亡くなって発売は凍結され、そのままワンティスの活動は停止してしまった。10年の時を経て2013年に活動再開した時に、あのアルバムを発売しようという話はあったものの、マスターが行方不明になっていた」
 
「行方不明!?」
 
「当時の技術者さんも事務所社長も亡くなってたし、唯一当時の関係者で生きていた★★レコードの加藤銀河さんも、自分はマスターには関わっていないと言った。だから誰がマスターを持っていたかも分からなかった」
 
「うーん・・・」
 
「それで結局、上島君が持っていた譜面に、みんなで記憶を呼び起こしながら修正を加えて、新しいメンツで演奏して発売したのがグリーンアルバムだよ」
 
「ああ」
 
「その時グリーンアルバムに入れたのは夕香さんが詩を書いた作品だけにしたから、それ以外のメンバーが書いた作品は入れていない。その中に、雨宮が書いた作品、上島君が書いた作品、僕が書いた作品が1個ずつ、水上が書いた作品が2個あった。水上の作品はわりと出来が良かったから入れようよという意見もあったけど、2013年の時点では夕香さん追悼の意味もあったから、結局夕香作品だけにした。それにグリーンアルバム制作に水上は非協力的だったし。だからあのアルバムでベースを弾いたのは実はクォーツのマキ君だったんだよ」
 
「知らなかった!」
 
「もしどこかから『ワンザナドゥ』のマスターが出て来たら、それを水上の追悼版として発売すれば、印税で2000万くらいは奧さんに渡せると思うんだけどなあ」
と三宅先生は本当に残念がるように言った。
 
(なお今回の追悼会で“御香典”としてローズ+リリーとアクアは各々300万円包んでいる。雨宮先生も多分200万くらい、青葉も100万くらいは包んだと思うので香典だけで1000万円を越えたはず。水上先生の奧さんは「ほんとにありがたい。これで借金が返せる」と言っていたが、たぶんそれは住宅ローン以外の部分だろう)
 
ずっと腕を組んでいた龍虎が言った。
 
「その音源、思いがけない所から出て来そうな気がします」
「ほんとに?」
 

年末の長時間ドラマ『八犬伝』の撮影は10月1日から始まっていた。
 
このドラマは2つの撮影場所で2組の撮影チームにより、同時進行で撮影されていく。
 
撮影場所:“八”熊谷市八犬伝村、“春”春日部市§§ミュージック撮影スタジオ
撮影チーム:S=白原俊樹監督+田崎潤也撮影者、Y=矢本かえで助監督+芳本みえこ撮影者
 
合戦や立ち回りなどは主としてS班が八犬伝村で、恋愛シーンなどのドラマ的な場面は主としてY班が春日部で撮影するが、入れ替わる場合もある。撮影日程と主な出演者の出演日程は下記である。
 
ア=アクア(犬塚信乃)、舞=常滑舞音(八房・犬村大角)、朱=町田朱美(犬川荘助)、鳥=白鳥リズム(犬飼現八)、ビ=水森ビーナ(犬坂毛野)、恋=恋珠ルビー(犬山道節)、七=七尾ロマン(犬江親兵衛)、ネ=西宮ネオン(犬田小文吾)、雲=東雲はるこ(伏姫)、ス=姫路スピカ(浜路1・浜路2)、坂=坂田由里(玉梓・船虫)、高=高崎ひろか(丶大法師)、品=品川ありさ(赤岩一角・山猫)
 
01(金)八[全体説明など]ア舞朱鳥ビ恋七ネ雲ス坂高品
02(土)八[大塚村   ]ア 朱      ス
______春[伏姫と八房 ] 舞      雲  高
03(日)八[玉梓の呪い ]          坂
______春[八房への報酬] 舞      雲
______春[安西合戦  ] 舞         高
04(月)八[与四郎紀二郎]ア 朱      ス
05(火)八[陣代の接待 ]ア        ス
______春[粟飯原回想 ]
09(土)春[古那屋   ]ア  鳥   ネ   高
______八[円塚山   ]  朱  恋   ス
10(日)八[芳流閣   ]ア  鳥
______春[阿佐谷   ]       ネ  坂
______春[神隠し   ]
______八[道節仇討  ]ア 朱鳥 恋 ネ
11(月)八[古那屋2  ]       ネ
12(火)八[雷電神社  ]ア 朱鳥   ネ
13(水)八[幻術館山城 ]      七
______春[信乃と浜路 ]ア        ス
16(土)八[対牛楼   ]    ビ  ネ
______春[庚申山   ] 舞 鳥      坂
17(日)八[刑場やぶり ]ア舞朱鳥   ネ雲
______春[赤岩回想  ]            品
18(月)八[一角と現八 ]   鳥        品
______春[信乃と浜路姫]ア        ス
19(火)八[世四郎結婚式]ア 朱鳥 恋 ネ
20(水)八[毛野と小文吾]    ビ  ネ
______春[富山の親兵衛]      七
23(土)八[荒芽山1  ]ア 朱鳥 恋 ネ
24(日)八[荒芽山2  ]ア 朱鳥 恋 ネ
25(月)八[越後物語  ]  朱    ネ  坂
26(火)八[諏訪物語  ]  朱 ビ  ネ
27(水)八[穂北荘   ] 舞朱鳥ビ恋 ネ
31(日)八[甲斐物語  ]ア 朱  恋   ス 高
 
 

八犬伝というのが、元々8人の犬士(+丶大法師・政木大全)の群像劇なので結構出演者のだぶらないエピソードが多く、こういう分散撮影が可能になった。なお、政木大全(準犬士)は今回のドラマでは登場しない。
 
それで昨年の『とりかえばや物語』では撮影日程がずれこんで、他の放送局さんにも迷惑を掛けたのだが、今回はきれいに予定通り撮影終了させることができた。おかげでアクア・舞音・リズム・ビーナなどは、この長時間ドラマを撮りながら他の放送局の仕事もかなりやるはめになったが!
 
今回は春日部のサブスタジオが大いに役立った。
 
元々、ここを作ったのは、出演者の多くが学校に通っているという事情からである。それで平日の撮影は夜間しかできないので、その夜間に昼間の屋外の場面を撮影したいという潜在的需要に応えたのである。また学校が終わってから熊谷まで行くのは時間がかかるが、春日部だと女子寮から30分で行けるのである。
 
それでここに風景のセットが組めるような大きな体育館を作り、人工照明(光の向きを付けられるので、昼間のシーンも朝・夕方のシーンも撮れる)のもとで日中シーンの撮影をしたのである。これは結果的に風雨と無関係にも撮影を進めることができ、大いに助かった。昨年は雨で撮影が出来ずに遅れている日程が更に遅れたりした。それで同じ轍を踏まないようにしようというので、土地代含めて10億円の投資をして、このスタジオを作った(10億円で済んだのは、千里が所有する工場や製材所の製品を主として利用しているから)。
 

「やはり2019年の源平記があまりにもうまく行きすぎたんだよね」
とコスモスは言っていた。
「とりかえばや物語で日程遅れが出たけど、やはりこの規模の制作はある程度日程がくるうことを想定しておかないとどうにもならないね」
と私も言う。
 
「だから今回春日部のスタジオ作ったのは保険だよね」
とコスモス。
「あれ50億かかってません?」
「9億5千万くらいだよ。たぶん10億超えてない」
「よくその程度でできましたね〜」
「木材とか防音材とかで醍醐先生が所有している工場とか製材所の製品を使ったからだと思う。それに施工は播磨工務店だしね」
「やはり普通は40-50億かかりますよね」
「普通なら掛かると思う」
 
「でもおかげで、撮影はスイスイ進んでる」
「今回は明確な主人公というのが居なくて、八犬士全員が主人公みたいな所があるから、アクアがボトルネットにならなかった」
「逆に昨年の『とりかえばや物語』はアクアが居ないとどうにもならない場面が多すぎたと思う」
「そのあたりって、やはり物語の選定にも問題があったかもね」
「源平記だと義経あるいは静(しずか)は顔を隠している場面も多かったから葉月を代役にしてかなり撮影が進められた」
「来年はノートルダムのせむし男か美女と野獣でもやります?」
「海外の作品に行くの〜〜〜?」
 

「アクアには根本的にスケジュールの余裕が無いという問題があるから」
と川崎ゆりこ。
「でもアクアを使わないと巨額の制作費を回収できない」
 
「アクアが7人くらい居たら何とかなるんだけどね」
とコスモス。
 
「アクアって実際3〜4人いません?本当に1人であれだけの仕事をこなしているのか疑問を感じる」
などとゆりこは言っていた。
 
「まあ少なくとも長時間ドラマでは、アクアの一人二役はしない方がいい」
「そうだね。今年みたいに女役だけでいい」
「・・・・・」
「どうしたの?」
「今回、アクアは男役だけなんだけど」
「え?でも信乃って女だよね?」
「男だけど」
「じゃ女犬士は毛野だけ?」
「毛野も男だけど」
 
「うっそ〜〜!?信乃と毛野は女剣士じゃないの〜〜〜!?」
と川崎ゆりこは驚いていた!!
 
原作読んでないのか!?
 

7日の地震後は、10/8の1日掛けてセットに問題が起きてないか、ムーラン建設にチェックさせたが、問題なしということだった。一部塗装が剥げたところを補修したのみで9-10日の撮影をおこなった。ただし、信乃と現八の吹き替え役の2人が飛び込む川の中に作った縦穴は、崩れてしまったので、播磨工務店の手で再度掘り直した。
 

あけぼのテレビで、春に桜のレポート番組をやったので、秋には紅葉のレポート番組をすることになった。
 
もっとも10月は『八犬伝』の撮影をしているので、レポーターには『八犬伝』に出演頻度の少ない子が選ばれる。春の桜レポートをしたのは、南田容子だったが、今回の秋のレポートは三田雪代になった。
 
彼女は八犬伝では金碗八郎(丶大法師の父)役で、出番は10月3日で終わってしまったので、その後、彼女と組んで撮影する山口香里奈カメラマンと一緒に北海道にHonda-Jetで飛び、層雲峡を皮切りに1ヶ月半かけて全国を駆け回ることになる。もう1組のレポーターとなる柳川夫妻は、青森スタートになる予定である。
 
スタジオで各地のグルメを味わう係は、春は常滑舞音と水谷姉妹だったが、今回は舞音はとても時間が取れないので、メインキャスターが夕波もえこに交替になった。最初、鈴鹿あまめを予定していたが、彼女の負荷が凄まじくなってきていたので、夕波もえこを起用した(このあたりの事情は後述)。
 
(水谷姉妹ではメインキャスターを張るのは無理)
 
八犬伝では、夕波もえこは赤岩牙二郎で、出番は10/16-18の3日間だけである。水谷姉妹は十条兄弟の役で、メインの出番は実は夏休みの間に撮影済みである!水の中のアクションだったので、夏の間にしか撮影不能だったのである。その後は19日に出て行くだけの予定である。
 

番組は層雲峡が色づくのを待ってから第1回が放送された。初日のグルメは層雲峡の名物食堂・登山軒の“正油ラーメン”だった。
 
「北海道というとみそラーメンと思ってる人多いですけど、旭川は醤油ラーメン、札幌がみそラーメンで、函館は塩ラーメンなんですよね。この後、札幌みそ、函館塩もご紹介する予定です」
と三田雪代は元気にレポートした。
 
東京のスタジオでは、夕波もえこと水谷姉妹が、ラーメンを美味しそうに食べてから、
 
「おいしいね〜」
と満足げに言っていた。
 
視聴者の声
「初回からラーメンとは」
 
「今回は全国ラーメン紀行になったりして」
「当然十文字ラーメン(横手市)とか、喜多方ラーメン、も登場するだろうな」
「キリストラーメンとかも出て来たりして」
 
「横手は焼きそばもいいけどなあ」
「それなら浪江焼きそばもぜひ」
 
と期待は高かった!
 

なお夕波もえこ不在の日は後述の、古屋あらたがメインキュスターを務めた。また水谷姉妹はわりと忙しいので、彼女たちが不在の時は、長浜夢夜・鈴原さくらの男の娘?コンビが務めた。
 
もっとも鈴原さくらは
「ボクは普通の男の子です」
 
と言っていたものの
 
「スカート穿いてきて男の子を主張しても説得力が無い」
と夕波もえこから言われていた。
 
なお鈴原さくらには、女子寮の部屋は必ず施錠するよう言っている。でないと女子寮生たちにセクハラされるのは見え見えである!太陽光パネルの設置に来た千里が彼の部屋から隠しカメラを回収していたが、焼け石に水だと思う。
 
女子寮生たちの間では
「春南ちゃん(さくらの本名)にちんちんがあるかどうか未だ未確認」
という、暫定情報?が駆け巡っていたようである。
 
ちなみに9月に女子寮に来ていた長浜夢夜については入寮初日に
「徳世ちゃんには既にちんちんが無いこと確認」
「確かに割れ目ちゃんを見た」
という情報が複数の発信源から流れていた!
 

この紅葉レポート番組のテーマ曲は常滑舞音が歌う『くろ猫のサンバ』で、番組スポンサーである、黒猫運輸さんのCM曲にもなっている。
 
(今回舞音はさすがに録画で登場)
 
この曲はノノ・パパイヤさんのCM曲『人魚のスカート』などとカップリングして10/13に発売された。舞音の8枚目のシングルで11/01にはミリオンに到達し、舞音7枚目のミリオンとなった。
 
※舞音のこれまでのミリオン(ミリオン到達順)
2021.03.03(水) 2nd『とことこ・なめなめ・招き猫』
2021.05.12(水) 4th『風のいざない/マイルドな夜明け』
2021.04.21(水) 3rd『舞音の招きマネキン』
2021.05.26(水) 5th『ガラスのエンブレム』
2021.06.23(水) 6th『マネキューレの騎行』
2021,09.08(水) 7th『赤巻きスカート、青巻きスカート、黄巻きスカート』
2021.10.13(水) 8th『人魚のスカート/くろ猫のサンバ』
 

古屋あらたが急遽信濃町ガールズに加入することになったのは、こういう経緯だった。
 
§§ミュージックでは、2020年春に、コロナで番組の収録が中止になったり、また感染対策が不十分と思われた番組からはタレントを引き上げた。そのため所属タレントの仕事が激減した。稼ぎ頭のアクアでさえ仕事が半分くらいになった。
 
(§§ミュージックがタレントを引き上げた番組の半数くらいがその後感染者を出して大変なことになり、撮影方法が大きく変更された。結果的に向こう側の謝罪もあり、こちらのタレントが復帰した番組も多い)
 
それで、仕事が激減した中、タレントたちの演技感覚やバラエティ感覚が錆び付かないようにすることと、タレント候補生である信濃町ガールズ・信濃町ミューズの子たちを“場慣れ”させることを主たる目的としてネットテレビ局“あけぼのテレビ”を立ち上げ。赤字覚悟で運用しはじめた。
 
ところが赤字覚悟で始めたこのあけぼのテレビが意外に好評で、最初の数ヶ月こそ莫大な赤字を出してあっという間に資本金を食い潰した(*5)ものの、2020夏頃からはトントンとなり、2021年に入る頃からは、完全な黒字に転じて、むしろ出資者であった§§ミュージック・大和映像など数者に莫大な利益をもたらすことになる。
 
例によって若葉が
 
「なんでこんなに配当があるのよ!?お金が減らないじゃない!」
と文句を言っていた!
 
(*5)運営資金が一時的に枯渇した時、若葉からの資金提供の申し出があったが、主導権を奪われるのが明白なので、それを丁重にお断りして、コスモスとアクアが5億円ずつ拠出している。そのため、アクアはあけぼのテレビの大株主となり、結果的にアクア主演映画の興行利益を出資者としても受け取れることになる。
 

あけぼのテレビの視聴率が高いことから、出演者たちにも多くの引き合いが来るようになった。
 
その結果、信濃町ガールズで人気が出て仕事が増えたことによりB契約では申し訳無いことから、契約をA契約に切り替えることになった子が、2021年は続出した。あっという間にアクアに次ぐスターに成長した常滑舞音をはじめ、甲斐姉妹・水谷姉妹、中村昭恵、水森ビーナ、と相次ぐ。この結果、タレント予備軍を中心に運用していた、あけぼのテレビの運用に支障をきたす事態になってしまった。
 
※2021年にA契約が発効したアーティスト(13名)
 
生年度 発効月 芸名
2005 2021.01 七尾ロマン
2006 2021.01 恋珠ルビー
2001 2021.03 桜井真理子
2002 2021.03 安原祥子
2005 2021.03 常滑真音
2007 2021.04 甲斐絵代子(Ye-Yo)
2004 2021.05 中村昭恵
2005 2021.05 水森ビーナ
2006 2021.07 花貝パール
2005 2021.08 甲斐波津子
2006 2021.08 水谷康恵
2007 2021,08 水谷雪花
2005 2021,10 坂田由里
 
それ以前にA契約しているアーティスト:秋風コスモス・川崎ゆりこ・品川ありさ・高崎ひろか・アクア・西宮ネオン・今井葉月・花咲ロンド・姫路スピカ・白鳥リズム・石川ポルカ・桜野レイア・山下ルンバ・原町カペラ・ラピスラズリ・リセエンヌドオ・大崎志乃舞 以上21名。
 
(桜木ワルツは引退した)
 
つまり今年はこれまで契約していたアーティスト数の半分に当たる数以上の人数と新たに契約している。
 

それで2021年の秋頃のあけぼのテレビは、能力の高い鈴鹿あまめ、山本コリン、鹿野カリナあたりが中心となり、特に鈴鹿あまめは、ヘビーローテーションになってしまった。アーティスト代表の桜野レイアから「このままでは、あまめが潰れてしまう」として経営側に緊急改善の要望があった。そこで急遽今年入ったばかりでまだ基礎教育中であった夕波もえこも投入して、あまめの負荷を減らした。しかしそれでもまだまだ足りない。そこで地方ガールズから数人昇格させることを、私とコスモスは決めたのである。
 
デルタ株がやっとピークを過ぎてきたかなという時期だったので、志願者全員を東京に集めることは避け、志願する人にビデオを提出してもらってビデオ審査の上で最有力候補となった6人だけを直接審査することにした。
 
地震の後遺症も落ち着きつつあった10/9(土)、各々の地元にHonda-Jetを飛ばして熊谷に集める。ホテル昭和に1泊させた上で日曜日は午前中、熊谷の“八犬伝村”で行われた、芳流閣の決闘の場面の撮影を見学させる。
 
みんなダイナミックな撮影に感激していた。芳流閣の屋根からスタントの2人が抱き合ったまま転落する所は、みんな人形だと思っていたのに、着水してしばらく意識を失ったまま流される所まで演技してから「OKです」という監督の声で、起き上がり、撮影陣に手を振るのを見て
 
「人間だったんですか!」
とみんな驚いていた。
 
「まあこの高さから飛び込んでも平気な人間は少ない」
とアクアのマネージャー・山村が笑って話しているのを見て
 
「あのぉ、私たち、こういう演技を要求されませんよね?」
と不安そうにオーディション参加者の小野寺さんが訊くが
 
「A契約してる子にはさせないよ」
などと言うので、悩んでいた!
 
屋根(格闘用)(*6)で白鳥リズムと格闘シーンを演じたアクアが
 
「また、山村さん、若い子たちをからかってるし。あの2人はハイダイビングの選手で、50mの高さからでも平気で飛び込みますよ。ドラマの人魚姫(6/19放送)で、人魚姫が崖から投身自殺する場面を吹き替えで演じたのも今飛び込んだ内の1人なんです」
と参加者たちに説明すると全員ホッとしていた。
 
(*6)芳流閣のセットはふたつあり、1つは6階建ての高さで、見上げるシーンや転落シーンを撮影した。もうひとつは高さ数十cmで、ここで信乃と現八の格闘を撮影した。オーディション参加者はその格闘シーンから見ている。
 

「ちなみにあの芳流閣の高さは何mですか?」
と参加者の立川さんが尋ねる。
 
「15mです。オリンピックのハイダイビングが20m(*7)だからそれよりは低いですね」
とアクアと一緒に低い方の屋根で格闘シーンを演技した白鳥リズムが言う。
 
(*7)2019年光州での世界選手権では男子27m 女子20m で行われた。オリンピックではまだ実施されていない!
 
「人魚姫の時は35mの崖だったけど、マジであの子は50mくらい平気だから、人魚姫の時も楽勝だったよ」
と山村は言っていた。
 

芳流閣での撮影シーンを見て、アクアとリズムに全員エア握手してもらい、お昼を食べてから審査が行われた。審査の時間帯を午後に設定したのは、タレントの仕事は午後が圧倒的に多いので午後の調子を見たいからである。
 
審査では最初いきなり川崎ゆりこが司会してクイズ大会をした。ここで参加者には正しくなくてよいから「面白い回答」をするように要求した。これは結構みんな審査されながら楽しんでいたようだ。その後、ひとりずつ、歌、ダンス、朗読、演技、トークの審査をした。これがあけぼのテレビの“即戦力要員”の選考なので、こういう審査になった。
 
(過去にも地方ガールズからの昇格試験では、朗読や演技の審査をしたことがある。トークの審査はたぶん初めて)
 
演技はその場で「お団子を沢山食べて喉が詰まったシーン」とか「彼氏から愛の告白をされて嬉し泣きするシーン」などとシチュエーションを指定されてそれをパントマイムで演技するよう要求した。
 
トークはその場で「時計とステーキ」、「お皿と救急車」など2つの話題を指定して、その2つを使ったトークを即興で3分間することを要求した。落語に三題噺というお遊びがあるが、これは二題噺である。
 
この結果、次の3名を即採用。残り3名も、地方ガールズの特別育成生として各地元で本部生に準じたレッスンを受けてもらうことにした。春にもう一度様子を見て、その結果次第では採用する。即採用された3人は下記である。
 
馬渡聖美(石川・中1)VG2021-14位
立川心桜(宮城・中3)VG2021-8位
榊原瑞菜(愛媛・中2)VG2021-12位
 
全員今年のビデオガールコンテストで決勝に進出していた。
 
立川心桜ちゃんは10位以内だったので、その時にも信濃町ガールズ本部生にならないかと勧誘したのだが、それを断わり、他の事務所のオーディションを受けてみると言っていた。しかし3つもオーディションを受けたものの、全て不合格だったらしい(§§ミュージックのオーディションは実力優先だが、そういう基準の事務所は少ないので厳しいと思う)。それで「先日はお断りしたのに申し訳ないんですが」などと言って応募してきた。彼女の実力は夏のオーディションでも高く買っていたので、彼女は期待大だった。
 
馬渡(うまわたり)さんは夏のオーディションの時「まだ連絡が無いんですけど」と連絡してきた人である。上位入賞ではなかったので声を掛けなかったことを説明して納得してもらったが、どこが悪かったのかを教えて欲しいと言った。それで千里が電話を代わって色々問題点を指摘していた。今回のオーディションでは、その時に言われたことをまだ完全ではないものの、かなり改善していた。それでその努力を買って合格させた。今回のオーディションでも6人の中で最もモチベーションが高かった。
 
榊原さんは今年1月のローズ+リリー・ネットライブで『リモート合唱の歌』を歌ってくれたメンバーの1人である(この時の歌唱者の中に、鈴鹿あまめ・花貝パールもいる)。あの歌唱者は、四国支部ではオセロ大会!で決めたらしい。彼女は、オセロはお姉さんとよくやってるからわりと得意という話であった。そのお姉さんも信濃町ガールズ四国のメンバーで、姉妹で一緒にレッスンを受けているのだが、お姉さんは準決勝で負けたらしい。そのお姉さんに勝った子に勝って優勝し、歌唱者の権利を獲得したという話だった。
 
 
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【夏の日の想い出・Long Long Ago】(2)