【夏の日の想い出・Long Long Ago】(1)

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Long, Long Ago
ずっとずっと昔
 
written by Thomas Haynes Bayly (1797-1839)
 
Tell me the tales that to me were so dear,
Long, long ago, long, long ago.
Sing me the songs I delighted to hear,
Long, long ago, long ago.
私にあの素敵だった日のお話をして。
ずっとずっと昔、ずっとずっと昔、
私が聴いて喜んだあの歌をまた歌って
ずっとずっと昔、ずっと昔。
 
Now you are come all my griefs are removed.
Let me forget that so long you have roved,
Let me believe that you love as you loved,
Long, long ago, long ago.
今またあなたと出会えて、悲しみは消え去った。
あなたが私をずっと放っておいたことは忘れるわ。
あの時のようにまた私を愛してくれることを信じるわ。
ずっとずっと昔、ずっと昔。
 
Do you remember the paths where we met?
Long, long ago, long, long ago.
Ah, yes, you told me you never would forget,
Long, long ago, long ago.
私たちが逢ったあの小径(こみち)を覚えてる?
ずっとずっと昔、ずっとずっと昔、
そう、あなたは決して忘れないと言ってくれたわ。
ずっとずっと昔、ずっと昔。
 
Then to all others my smile you preferred,
Love, when you spoke, gave a charm to each word.
Still my heart treasures the praises I heard,
Long, long ago, long ago.
他の誰のよりも、私の笑顔をあなたは好きだと言った。
あなたが話す言葉には、愛の魅力が宿っていた。
私が聴いた称賛の言葉は、今でも私の心の宝物なの。
ずっとずっと昔、ずっと昔。
 

WADO(若春・淳紀・大児・央我→若南・淳子・大菜・央花)は全員そろって性転換したことを10月16日(土)に発表したのだが、その直後から、WADOのメンバーが女装で写っている写真がいくつもネットに流れ始めた。
 
恐らくはジョークか何かで女装していたのだろうと撮影者が思っていたのが、実は“本来の姿”だったのかと認識して、ネットにあげたものが拡散しているのだろうと考えられた。中には、デビュー前と思われるWADOの4人が全員女装で歌っているビデオまで拡散した。
 
このビデオに関しては若南が特にコメントして、
「これは私たちが、プロダクシュンとかに売り込みを掛けていた時期のビデオです。結構あちこちに配ったので、持っておられた方は多いと思います」
ということだった。恐らく今まではWADOが契約した事務所に遠慮して公開しなかったのが、もういいだろうということで出したのだろう。
 

そんな中、アクアのところにこんな企画が持ち込まれてきた。
 
「え?WADOの人たちと一緒にお風呂に入るんですか?」
 
性転換したWADOについてマスコミは最初はどう扱うかお互いに様子見をしていたものの、一般の視聴者が受け入れる態勢にあると判断すると、かえってオファーが増えた!ようで、WADOの4人はクイズ番組やバラエティの出演が増えている。その中で、WADOが温泉に行くという企画が浮上したらしい。取り敢えず4-5回の短期企画で様子見をするということらしいのだが、その第1回放送に、アクアに出演してくれないかという話だったのである。
 
「それってWADOの4人と一緒にお風呂に入っている所を撮影するんですか?」
「もちろんそうです。お風呂の中で楽しくおしゃべりしている所を撮影して。むろん湯船の水面より下は写らないようにします。その後は、豪華なお食事を満喫してもらおうと。温泉の周囲の自然や風景とかも取材しますけど」
 
「でもWADOの4人は女の子になっちゃったけど、ボクは男の子なので、一緒にお風呂に入るのはまずいです」
「え?アクアさんも女の子になったんですよね?だから最高の企画だと思ったんですけど」
「ボク女の子とかになったりしてませんよー。ボクは男の子です」
「だって国民はみんなアクアさんが女の子になったことを知ってますよ。今更男の子だなんて嘘を言わなくてもいいのに」
 
と向こうのプロデューサーさんはかなり食い下がったものの、あくまでお断りした。アクアが断ったので、結局この番組の第1回ゲストはスリファーズの3人になったようである。スリファーズの春奈が性転換者なので、性転換者×性転換者、という企画になったようである。2回目以降は普通の女優さんや女性歌手などが登場するようである。
 

2021年9月、コスモスは父から電話を受けた。
 
「ヒロさ、本当に忙しい所、申し訳無いんだけど」
「なあに?お父さん」
「実はうちのキューブが壊れてしまって」
「ああ」
 
コスモスの父・伊藤太郎は元々バイクが好きで、バイクは250ccのCB250R と 1800ccのGold Wing を所有しているが、四輪は“必要だから運転する”程度である。それで大きな車は場所も取るしということで(だいたいゴールドウィングでかなり場所を食ってる)、一貫してコンパクトカーに乗っている。
 
ポートピアに勤めていた神戸時代は町中に住んでいて交通の便も良かったので車は使っていなかった。1986年に甲府に引っ越してから最初に買った車が中古のラングレーだった。その後、パルサー→シビック→デミオ→テリオスと乗って2014年からキューブを使っていた。
 
伊藤太郎(1954生)の仕事と住所:−
1977 神戸ポートピア -1986
1986 甲府の学習塾 -1997
1997 上九一色村のガリバー王国 -2001
2001 多摩市のサンリオピューロランド -2019
2019 定年退職後は公園の管理人
 
「今回はだいぶ長く乗ったよね」
「7年乗ったかな」
「元々中古車でしょう?」
「うん。2008年型だった」
「だったら13年も動いてたんだ!そりゃ壊れるよ」
「エンジンがいかれててもう駄目という話で」
「壊れた時事故とか起こさなかった?」
「いきなりエンジンが停止したけど、車の勢いを利用して脇に停めたから怪我とかも無し」
「良かった、良かった」
「だけどさ。車は無いと困るから新しい車買わないといけないけど、お金が無くて」
「ああ。私が代金払うから、新しいの買ってよ」
「済まん!」
 
それで多忙なコスモスがわざわざ半日時間を取って、夫と一緒に実家(多摩市)に行き、新しい車選びに付き合ってあげることにしたのである。
 
「私がお金出すから今度は新車を買いなよ」
「そうだなあ」
「コロナのせいで中古車の流通量も減ってるみたいだしさ」
「ああ、公共交通機関を避けるのに車を買う人は増えたみたいだけど、半導体の生産が滞って新車の製造も落ちてるらしいね」
「そうそう。だから新車はまだ手に入るけど、中古車が極端に少なくなってるみたいですよ」
「実はバイクで中古車屋さん見て回ってたんだけど、なんか値段が全体的に高くて」
 
それでコスモス夫妻とコスモスの両親の4人は、日産のお店に行った。そして結局ノート(ハイブリッド車)を買うことにし、コスモスは代金約226万円を現金一括払い(振込)した。
 
「一括払いって凄いね」
「分割にすると管理が面倒くさいし」
 
販売店は一括現金で買ってくれたので色々サービスもしてくれて、両親は喜んでいた。なお、納期は半導体不足の影響はあるものの、両親が選んだのは特殊なオプションの無いシンプルなモデルだったので、2-3ヶ月で納入できるだろうという話であった。
 

2021年10月、ワンティスの水上信次がCOVID-19により死去した。42歳であった。水上は9月中旬に流行中のデルタ株に感染し、入院して集中治療室で治療を受けていたものの、回復はならなかった。
 
結果的には病に倒れる直前、8月31日に行われたネットフェスへのワンティスとしての久々の出演が公の場に出た最後になってしまった。
 
彼はワクチンを信用せず「あんなの打ったら死ぬ」と言い、奧さんは打った方がいいと言っていたものの、拒否して打っていなかった。更に彼は糖尿病を抱えていたし、またヘビースモーカーで、ハイリスクグルーブであった。また彼は奧さんが停めるのもきかず、頻繁にスナックで飲んでいた。彼はスナックで飲みながら曲を書くのがいちばん発想が浮かぶんだと言っていたらしい。また自身の楽曲の売り込みで多数の業界関係者と会食していた。
 
発熱して寝込んでも「病院に行ったらコロナを移される。風邪なんて酒飲んで寝てたら治る」と言って、診察も受けず、風邪薬さえ飲んでいなかった。しかしかなり酷いようでトイレにも立てなくなったので、奧さんが救急車を呼んだ。病院での検査でCOVID-19感染が判明し、結局そのまま集中治療室に入れられることになる。
 
奧さんや子供たちは濃厚接触者として検査を受けたが、全員陰性だったという。
 
実際には、水上は倒れて以来、自分の仕事部屋でずっと寝ていて、食事も奧さんがトレイで運んでいたし、奧さんは家族のとは分けて食器を洗っていた。また、この仕事部屋は集中して作曲作業や音源作りが出来るよう防音になっており、密閉されているので独自の換気システムが付いていた。小さいながらバス・トイレも付いていて、起きられなくなるまでは水上はそこを使っていた。欲しいものがあると、スマホのショートメールで奥さんに頼んでいた。
 
それで倒れて以来、家族とはあまり接触していなかったし家庭内での空気交換もほとんど無かったのが幸いだったようである。つまり実質的に家庭内隔離状態にあった。なお奧さんはワクチン2回接種済みであった。
 

時期が時期だし、そもそも死因がコロナということで、葬儀は家族だけで行い、親族やワンティスのメンバーにも、亡くなったことは葬儀の終わった後で報せた。
 
水上の仕事部屋は最初に奧さんから話を聞いた三宅が指示して楽器に詳しい消毒業者の手で徹底的に消毒された。消毒薬によっては楽器表面の塗装やメッキを痛めるものもあるので、へたな業者には頼めない。
 
水上はワンティスが2003年の高岡の事故死により活動停止した後は、他のメンバーとは疎遠になっていた。2013年に活動再開した時は(ワンティス以前に入っていた)ドグドグ以来の友人である三宅の誘いで一応参加したものの、最終的な演奏収録にだけ参加し、曲を練る作業にはあまり顔を出していなかった。
 
2018年春に土地の不正取引事件に連座して活動自粛を余儀なくされた後は、その動向もあまり知られていなかった。不祥事を起こしたミュージシャンということで作曲依頼なども途絶えていたので、実は自主制作以外の仕事をしていなかった。昨年青葉と私、ラピスラズリが「作曲家アルバム」のインタビューに行った時は、企画中のアルバムのことを熱く語っていた。実はあの時はラピスに歌わせる歌の選曲にかなり悩んだ(ムーンサークルが歌った曲を歌わせたがたぶん知っていた視聴者は少なかったと思う)。
 
そういう経緯もあり、ワンティスのメンバーは誰も水上がそもそも入院していたことも知らなかった。でも雨宮が音頭を取って、Zoomを使ってワンティスのメンバーで、バーチャルお別れ会をした。
 
龍虎はこれに高岡猛獅および夕香の代理として参加した。また、作曲家アルバムでの縁から、ワンティス以外で、私と青葉(大宮万葉)だけが、オブザーバーの形で参加させてもらった。
 
参加者:三宅行来(追悼委員長)・雨宮三森・上島雷太・下川圭次・海原重観・海原支香・山根次郎・中村将春・龍虎・ケイ・大宮万葉・水上喜子(以上12名)
 

最も長い付き合いであった三宅のメッセージの後で、いきなり水上の奧さんが
 
「アクアさんに謝らなければならないと水上が言っていたんです」
と涙を流して言うので驚いた。
 
「いったいどうしたんです?」
 
「実は高岡さんと夕香さんが亡くなった時、志水ご夫妻がまだ幼かったアクアさんを連れてきて『この子の処遇について相談したい』と水上に相談したらしいんです。ところが水上は高岡さんに子供が居たなんて知らなかったから『馬鹿なこと言うんじゃない。頭冷やしてこい』と言って追い返してしまったらしいんですよ」
 
「そんなことがあったのか」
と海原が驚いている。
 
「そんな話、志水のお母さんからは聞いたこともない」
とアクア本人。
 
「志水さんはきっとワンティスのメンバーのことを悪く言いたくなかったんだよ」
と三宅。
 

「事務所の社長から追い返されたという話は聞いたが」
と山根。
 
「いやでもそれでひとつ疑問が解けた。志水君たちはなぜ事務所社長の所に話を持って行ったんだろう。僕たちに先に相談してくれたら良かったのにと思ってた」
と下川が言う。
 
「その“事務所社長”の話に関しては、ちょっと誤解があったようなんだよ。福井まで行って来て話の裏が取れた。今はまだ発表できないけど」
 
と上島。どうもみんなの顔を見ると、その件は上島と雨宮だけが知っているようである。福井というのは志水照絵に会って来たのだろう。
 
「でもボクは志水のお母さんに本当にしっかり育ててもらいました。それに高岡の子供として育てられていたら、マスコミに追いかけられて、きっとちやほやされて育ってたと思います。ボクは普通の子供として育つことができたから、結果的には良かったと思います。志水のお母さんには苦労掛けたけど」
 
とアクアは言う。支香が頷いている。
 
「当時はまさか高岡に娘さんがいたなんて思いもよらなかった。高岡と夕香さんの関係はみんな知ってたけど、子供がいるような様子は全く無かったもんなあ」
と海原。
 
えっと・・・息子なんですけど、とアクアは思う。
 
「それに当時、高岡の隠し子とその母を名乗る女が3組くらい来たんだよ。それで当時はみんなピリピリしてたのもあったと思う」
と雨宮。
 
「そんなにいたんですか!」
とアクアが驚いている。
 
「事務所のマネージャーが全部追い返したけどね」
と雨宮。
 
「サカナミ君だったっけ?」
「佐々波さんじゃなかったかな」
「相撲の幕下まで行って、プロレスラーに転向した人だったね」
「そうそう。だから相撲の四股名のままプロレスに出てた」
「強面(こわもて)だし、体格いいから、まあ普通対抗できない」
 
脅迫じゃないのか〜?とアクアは思う。
 
「あの人も亡くなってしまったなあ」
 
「だけど、そんなのもう昔の話ですよ。ボクは全く気にしてないから、水上先生にはそんなこと気にせず、安らかに天国に行って欲しいです」
とアクアが言うと、
 
「ありがとうございます、ありがとうございます」
と水上の奧さんは涙を流していた。
 

2021年10月7日(木)22:41。千葉市付近を震源とするM5.9の地震が発生。東京でも一部の地域で震度5強を観測。死者こそ出なかったものの49人の重軽傷者が報告された。終電近い時間帯の地震であったため、大量の帰宅困難者が発生した。また日暮里舎人ライナー(新交通システム)が脱線して、復旧に3日ほど掛かった。
 
震度5強を観測した地区:川口市三ツ和・宮代町笠原・足立区伊興
 
震源の千葉市は震度5弱であり、震源から離れた所でもっと強い震度が観測されたのは原因はよく分からないものの、地盤の弱い所が強く揺れたのかも知れないということであった。
 
足立区伊興というのは西新井消防署に置かれている地震計が記録したものと思われるが、§§ミュージックの女子寮はそこから3km程度しか離れていない。この時間帯は居住者のほとんどが起きていたが、地震の瞬間は大パニックとなった。
 
とにかく揺れに驚いたし、立っていた子はとても立っていられず全員座り込んだ。
 
停電したものの、館内放送や廊下および各部屋の非常灯はUPS(無停電装置)やソーラーバッテリーから電源が取られているので(恐らく30分くらいは)生きている。すぐに花ちゃんが館内放送で呼びかけた。
 
「この程度の地震じゃ寮は崩れないから安心して」
と言って、寮生たちを落ち着かせる。
 
「ゆっくりと順番に庭に出よう。私が案内するから、フロアごとに降りてきて。順番を守ってね。念のため隣同士で声を掛け合って。エレベータは停まってるから階段を使ってね。まず2階の子。寒くないように何か着て。身分証明書やスマホ・財布以外のものは持たないで」
と言って、下の階の子から順に庭に避難させた。
 
(リズムは地震に全く気付かずに熟睡していて、隣室のスピカに起こされた。この大地震に気付かないとは!とみんなに呆れられた)
 

10月上旬なので夜は結構寒いが、万一建物が崩壊したりあるいは火災が発生したりしたら問題である。とにかくも在室していた寮生たちを庭に降ろす一方で、内部用のSNSを使って、全員の安否確認をした。ちょうど在室寮生の避難が終わった頃に仕事中や移動中だったタレント、信濃町ガールズたちの安否も確認された。男子寮のほうも、偶然キュアルームに居た木下君が、館内放送を使って寮生たちを順番に庭に避難させたらしい。
 
23:44に小さな余震があったらしいが、足立区では揺れは感じなかった。
 
テレビ番組の収録などは全て中止になったので、マネージャーなどが付いている子はマネージャーと一緒に帰還またはホテルなどに宿泊させ、単独で仕事をしていた子の所へは誰かバイクが使える人を迎えに行かせることにして、迎えが来るまで動かないように言った。
 
私は恵比寿のマンションに居たのだが、政子には
「マンションは崩れたりしないから寝てなさい」
と言って、ドライバーの佐良さんにバイクで迎えに来てくれるよう頼み、0時過ぎに女子寮に到着した。
 
コスモスなど地震が起きた後、北千住のマンションから徒歩で1時間かけて女子寮に来たらしい。私にしてもコスモスにしてもマンションのエレベータが停まっているので階段で地上まで降りている。
 
私が来た時には、山村マネージャーが来ていて、彼の人脈で建築と電気の専門家を連れてきて、問題が無いかチェックさせている所ということであった。こういう時は本当に役に立つ人である。
 
夜は寒いので、寮生47人は、半数を庭に建っているコロナ隔離用の臨時アパート、一部を本宅の食堂、残りは女子寮の比較的安全と思われた一階のレッスン室に収容した(実際にはみんなそこで眠ってしまった:山村がどこで調達したのか全員に毛布と小型の懐中電灯を配っていた)。
 
また、山村が連れて来たガスの専門家に厨房のガス器具の点検をしてもらったが、私とコスモスで話し合い、念のため、明日の朝と昼の食事の提供は中止し、お弁当を配ることを決めた。(厨房と本宅の台所以外ではガスは使用されていない)
 
なお男子寮の方は手が回らないので、念のため電気・ガス・水道は止めたまま寮生たちは部屋に帰そうかと言っていたのだが、フロント係のユキ・ツキ姉妹の知り合いの電気・水道の専門家さんが来てくれて点検したので、向こうも0時過ぎには寮生たちを部屋に戻すことができたらしい。ガスに関しては女子寮のチェックが終わった後、ガスの専門家に男子寮へ行ってもらうことにした。
 
どっちみち、男子寮も明日の朝と昼の食事提供は中止しましょうと、向こうのまとめ係をしてくれている木下君と男子寮寮母の門脇さんに伝えた。お弁当の手配はこちらと一緒にまとめて行う。
 

女子寮の点検は朝までには完了したので、全員朝は自室に戻ることができたが、学校はみんな休校になったようである。電気も朝には回復した。
 
5:11に余震があり、東京はほとんどの地域が震度1だった。私やコスモスなど起きていた人は感じたが、寝ている子は感じなかったであろう。
 
山村マネージャーが言った。
 
「今回はUPSのお陰で、非常灯とか放送設備だけ何とかしばらく生きてましたけど、真冬にこういう事態が起きたらやばいですよ。プロパンガスで動かす非常電源設備と、あと屋根に太陽光パネル載せましょうよ」
 
「太陽光パネルはいいね!」
とコスモスも言うので、これはすぐ手配することにした。プロパンガスで動かす非常電源設備は、松本花子プロジェクトでも使ってるよとコスモスが言うので、同等の設備を導入しようということを決め、これは千里に連絡することにした。
 

私は7日は女子寮の本宅応接室で、コスモス・山村・花ちゃんたちと一緒に朝まで過ごしたのだが、政子の朝御飯については妃美貴に電話して弁当を4食分くらい持って行ってと頼んでおいた。もっとも政子はいつものように昼過ぎまで寝ていたらしい。
 
女子寮の点検は朝までには終わったので、仮設アパートやレッスン室で夜を明かした寮生たちも、部屋に戻ったが、そのあと各自の部屋の片付け・掃除をすることになる。これが大変だったようである。
 
花ちゃんは全員に割れたガラスを片付ける時は軍手などをしてすること、また必ず掃除機を掛けて細かい破片が残らないようにすることと、寮生たちに注意した。軍手はストックしていたものがあったので、全員に配布した。更に数名掃除機を持っていない!という子がいたので(普段の掃除は?)、ひまわりに言って掃除機を10個買ってきてもらい、渡した。
 
しかしみんな8日の夕方くらいまでにはだいたい片付いたようである。テレビ局などの仕事も一部を除いては8日いっぱいは中止になっていた。
 
私とコスモスは話し合って、寮生たちに1人1万円の御見舞金を現金で配った。食器や道具などがダメになり、買い直すのに、安月給の子などは結構辛かったようなので、その補償である。これはみんな喜んでいた。またアクア宛てに日々送られてきて大量に滞っている洋服類を
「好きなだけもらっていって」
と公開したら、飛ぶようになくなり、在庫が減って助かった。これらの服は関東近辺の児童福祉施設などにも届けた。
 

アクアMは地震があった時、赤坂のテレビ局でドラマの撮影中だった。撮影は当然中止となり、後日続きはあらためてということになる。この日は、山城マネージャーが付いていたのだが、
 
「四輪(アクアのアクア#3)での帰宅は無理でしょうね」
と言い、自宅にいるはずの高村マネージャーに連絡してバイクで迎えに来てもらいましょうと言ったのだがアクアは言った。
「こんな時はバイクでも大変だよ。歩いて帰るよ」
 
「それがいいかもですね。じゃお付き合いします」
「ありがとう」
 
それでアクアは山城と一緒に赤坂から代々木のマンションまで約5kmの道を歩いて帰った。アクアは今日の付き添いが若い山城さん(21)で良かったと思った。高村さん(32)とかだと5km歩かせるのは申し訳ない。
 
道路は車が詰まっていたし、歩道も人が多かったが、何とか1時間ほどでマンションに到着した。
 
「では私はこれで」
「待って。山城さん、帰る手段無いでしょ?」
「歩いて帰りますよ」
「さすがに無茶だよ。うちに泊まっていきなよ。襲ったりしないからさ」
 
ここから彼女のアパートまで25kmくらいある。
 
「そうですね。万一の時は認知だけしてください」
「ボクに性欲が無いこと知ってる癖に」
 
それで一緒に18階にあがる。彩佳が頑張って片付けしている最中だった。
 
(実はおキツネさんたちがたくさん出て来て片付けを手伝ってくれていたのだが、山城が来たので、全員隠れた)
 
「お帰り〜、龍。山城さんいらっしゃーい。よく帰宅できたね」
「歩いて帰ってきた。今夜彼女泊めていい?」
「もちろん、もちろん」
 
山城は「そうか。この子がいたのか」という顔をしている。
「すみません。お邪魔します」
と笑顔で挨拶して中に入った。
 
「怪我は無かった?」
「大丈夫大丈夫。びっくりしたけど。電気もいったん消えたけどすぐ点いた」
 
このマンションは自家発電設備を持っているので、そちらに切り替わったのだろう。高いマンションだけのことはある。
 
「でも料理の皿がひっくり返っちゃって」
「カップ麺でもいいよ」
「冷凍してストックしてるスープをチンするよ」
 
それで彩佳がスープを解凍してくれて、食パンをトーストして、3人とも食事を取ることができた。
 

龍虎はあらためて自分と彩佳の関係を山城に説明した。
 
彩佳は市ヶ谷のマンションに友人の桐絵・宏恵と3人で“住んでいる”のだが、毎日夕食を向こうで作ってから、ヤリスを運転して料理を代々木のマンションに運んできてくれる。そして龍虎の帰りを待ち一緒に御飯を食べる。その後、“深夜に運転してて事故を起こしたらいけないから”、夜は龍虎のマンションに泊まり、翌朝自転車で自分の大学:渋谷の青山学院に通学する。大学が終わると自転車で代々木に戻り、ヤリスで市ヶ谷に帰宅?する。
 
つまり彩佳の自転車は代々木に駐めっぱなし!
 
なお市ヶ谷にいる2人も無事で、今夜は取り敢えず寝られるようにだけして寝て、片付けは明日しようかと思っていると言っていたのだが、彩佳と電話で話した結果、どうせ明日は大学も休講だろうし、明日2人が代々木に来て、3人でこちらのマンションを片付けてくれることになったということだった。
 
龍虎は「よけいな整理」をされそうな気がするなあと思った。
 

「だから私たち基本的には別の部屋に泊まっているんですよ。まあたまにはセックスしないこともないですけどね」
と彩佳は言うが、嘘だ〜!こちらが寝てても強制的に“やっちやう”くせに、と龍虎は内心思う。
 
しかしその付近の“たまにする”というのは、山城さんも雰囲気で察してくれたようであった。きっと“たまにしない日もある”んだろう!
 
(龍虎の睾丸は現在行方不明中?なのでセックスしても彩佳が妊娠することはない)
 
「彩佳は基本的にFの部屋に泊まって、ボクはMの部屋に寝ている。今夜、寛菜ちゃんはNの部屋に泊まるといいよ。ひょっとしたら誰か出てくるかも知れないけど、危害を加えることはないから」
 

 
「誰かというと?」
「キツネの子供たちなんだけどね」
「へー!」
 
「朝は起こしてくれるからいいよね。私も寝過ごしそうな時には起こしてもらえるから助かっている」
などと彩佳は言っている。
 
それで食事が済んで一息ついたところでNの部屋に案内した。
 
「ここに鏡が立ててあるでしょ?この鏡からキツネさんたちが出入りするんだよ」
「なるほどー」
「この鏡は伏見稲荷とつながっているんだって。だから悪いことするような子は居ないから」
「わりと躾がなってるもんね」
「アクアさんの守り神ですね」
「そうかもね」
 

このアクアのマンション(18F)に現在置かれているのは、緩菜の副鏡(黄銅鏡)である。緩菜の主鏡(白銅鏡)は尾久のマンションに置かれており、現在は羽鳥セシルが住んでいる。
 
※各鏡の在処
龍虎代々木18F 黄銅鏡(緩菜副)Cu70 Zn30
龍虎代々木10F 黄色青銅鏡 (?副)Cu88 Sn12 (*1)
龍虎八王子 ステンレス鏡(?主) Fe82 Cr18
セシル尾久 白銅(キュプロニッケル)鏡(緩菜主)Cu75 Ni25
西湖用賀 白銅(白色青銅)鏡(京平主)Cu70 Sn30
季里子千葉 赤色青銅鏡(京平副)Cu85 Zn8 Sn7
 
青銅(bronze)は、銅と錫(すず)の合金だが、錫の含有率により色合いが茶色→赤銅色→黄金色→黄白色→白銀色と変化して行く。十円玉は錫が1-2%程度で、赤銅色である。23-33%程度の錫を含むものは、白銀色になり、これを英語ではspeculum metal(直訳すると鏡金)と呼び、鏡として古くから利用されていた。
 
日本ではこの鏡金のことを江戸時代までは白銅と呼んでいた。現代の白銅は銅とニッケルの合金(キュプロニッケル/アルパカ)である。ニッケル率が45%のキュプロニッケルはコンスタンタンと呼ばれる。
 
なお、“青銅”と言われるが全く青くない。一般には青銅にできる錆(緑青)の色であると説明される(実際古いブロンズ像は青緑になっている)が、錫の別名が青金だからという説もある。なお青金というと鉛を指す場合もある。
 
青銅がブロンズで、黄銅(真鍮:しんちゅう)がブラスである。
 
銅+錫=青銅
銅+亜鉛=黄銅
銅+金=赤銅
銅+ニッケル=白銅
 
(この他、白い青銅(錫率高)を白銅、赤い黄銅(亜鉛率低)を丹銅と言う)
 
オリンピックの銅メダルはブロンズメダルと呼ばれるが、実際の組成は大会主催国により結構異なるらしい。
 
青銅には錫の含有率により、下記のような別名もある。
 
唐金 Sn 3%程度
砲金 Sn 10%程度
鏡銅 Sn 17%程度
白銅 Sn 23%以上
 
砲金というのは昔はこの比率の青銅で大砲を作ったからだが、錫の含有率に関係無く青銅を全て砲金と呼ぶ人もいる!合金関係の用語はメーカーや人!により方言が甚だしいので組成を確認しないと勘違いしやすい。
 
なお大砲は現代では鉄で作られる。
 

その緩菜の主鏡(キュプロニッケル鏡)が置かれているセシルのマンションも物が散乱して大変だった。地震の時は、セシル(恵真)も同居している姉もともに帰宅していた。北区は震度4のはずだし、恵真が住んでいるのは1階なので、そんなに揺れるはずないのだが、恵真も姉も震度5来たと思った。実際4階以上の住人さんたちも巨大地震が来たと思ったらしい。
 
(このマンションの2-3Fには住人は居ない。実際居住不能と思われる。千里の結界のおかげで、1階の恵真の部屋および4階以上は住めるようになった)
 
やはり、このマンション自体の造りにかなり問題があるのだろう。
 
きっと揺れを増幅する造りなんだ!
 
地震への対応方式には
 
・免震(基礎にダンパー等を使い、揺れを建物に伝えない。戦前の伝統工法もこれ)
 
・制震(伸縮材料やわざと揺れる物などを使って揺れのエネルギーを吸収する。2x4工法はこれに近い)
 
・耐震(頑張って揺れに耐える。但し崩壊を免れても、その後住むには適さなくなる場合もある。戦後生まれた在来工法がこれ)
 
という3つの方式があるのだが、きっとこのマンションは“増震”だ!
 

取り敢えず、地震の直後に倒れた鏡を恵真自身でちゃんと直したら、おキツネさんたちが出て来て、細かいものはかなり片付けてくれた。また翌日には姉のボーイフレンドが男子の友人を連れてきてくれて、本棚などの大型家具が倒れたりしたのや、配線が切れたのを直してくれた。大型のものは身体の小さなおキツネさんたちには厳しかった。
 
U高校時代の友人の桜井一希・広中汐里・辰吉望海も8日昼前にお弁当とおやつを持って片付けの手伝いに来てくれたが、彼女たちが来た頃はもう片付けるものは無くなっていた。それで一緒におやつを食べながらおしゃべりして過ごした(姉のBFの友人たちが女子高生たちに興味津々!)。
 
なお恵真は現在、白鳥リズムと同じ東京北区のC学園(龍虎の出身校)に通っている。
 

恵真の実家(H市)は昭和40年代に建てられた古い家だったので、かなりの被害が出ていた。在来工法で最も地震に弱い造りである。一部崩れた所もあったので、見に来た恵真の兄・覚行が
 
「ここに住むのは危険」
と言い、住んでいた母と弟(中3)も、退避することにした。
 
ただ、実はその兄の住んでいた川口市のアパートも階段が倒壊!して2階は出入りできない状態になったらしい。兄は地震の時、トラックを運転して新潟に行っており不在だったが、在室していた人たちは消防署のはしご車で救出されたという。
 
それで一時的に恵馬のマンションに、一家全員が退避する事態となる!
 
ベランダ側の部屋に姉と母、廊下側の部屋に兄と弟が寝た(少し下の図面参照)が、その廊下との間の窓は絶対に開けてはいけないと兄に強く言った。兄も何か感じたようで「うん。開けない」と言って、紙テープを窓の端から端まで張ってくれた。このマンションは魑魅魍魎の棲処なので廊下との窓を開けると大量の“オバケ”が浸入してくるのである。
 
兄は尾久では通勤に不便なので、翌週にも川口市内に新たにマンションを借りて(敷金などは恵真が出したが、家賃は兄が自分で払っていく)、そこに引越し、弟の香沙もそちらに同居することになった。きっと母親の目の届かない所で好きに暮らしたい:正確には好きなだけゲーム(とオナニー?)したい!のだろう。香沙はH市から川口市の中学に転校することになる。
 

そして母は結局恵真のマンションにそのまま住む事になった!(つまり一家が男と女に別れて各々住むことになる)。
 
「男女隔離計画だな」
「香沙はセーラー服着て通学するならこちらに来てもいいよ」
「やだ」
「まあ食事はデリバリーしてあげるよ」
 
と母は言った。尾久から川口市内の新しいマンションまでは、車で20分程度である。食事を運んであげないと、トラックで全国走り回っている覚行はまだいいとして、香沙はひたすらカップ麺とコンビニ弁当ばかり食べてそうである。それに母が頻繁に顔を出さないとマンションがゴミ屋敷と化すのも確実だ。
 
H市の実家は10月いっぱいまで掛けて荷物を運び出した(白河夜船社長が芸能関係の運送をしている会社を手配してやってくれた。この家は12月3日の地震でも更に崩れたが、年明けに解体して更地にした。土地には雑草が生えないように黒いビニールシートを張っておいた。
 
土地は多分売れない。公道に接していないので再建築不可物件である。広さも僅か15坪なので、もし売れても200-300万円だろう。
 

尾久のマンションは3部屋あるので、母と姉と恵真の3人で1部屋ずつ使う。今まで恵真が真ん中の鏡を置いている部屋、姉が窓側の部屋を使っていたので母が廊下側の部屋を使うことにした。母にも窓は絶対に開けないよう言った(兄が張ってくれた紙テープをそのままにしている)。
 

 
ところがである。
 
10月下旬、恵真が仕事から戻ると、マンションの様子が変である。今まで玄関を入ったらリビングがあったはずが目の前に壁があり、右手に折れてリビングに到達する(少し下の図面参照)。
 
「お帰り。お疲れ」
と姉の飛早子が声を掛けてくれる。
 
「これどうなっちゃったの?」
と姉に尋ねると
 
「醍醐春海先生が、このマンションの方位がよくないと言って、大工さん連れてきて改造しちゃった」
と姉は言う。
 
「1日で工事しちゃったの?」
「すっごい手際いいの。びっくりした。荷物も全部移動してくれたけど、家具の場所とか気に入らなかったら適当に動かしてって。ただし鏡の位置と方向は絶対にずらさないでって」
 
「それはいいけど、ここ賃貸なのに、こんな工事していいの〜?」
「出る時は原状回復すれば問題無いとか言ってたよ」
 
「うーん・・・」
「ということで、まーちゃんの部屋はそこに移ったからね」
「あはは」
 
ということで、恵真の部屋は移動してしまったのである。
 
↓新しいレイアウト

 
ここに住む3人の本命卦
紘子 1970女 震:西四命
恵真 2004女 坎:西四命
飛早子 2002女 艮:東四命
 
“つい開けたくなる廊下との窓”は観葉植物を並べて、そこに行きにくいようにした。観葉植物は風水的緩和にもなると思う。なお、この窓を潰してしまうと、非常脱出路が無くなるので潰す訳にはいかない。
 
なお、恵真が雨宮先生から“預かっている”プラチナのフルートは恵真が外出している時は耐火金庫に入れている。(総銀フルートは本棚の上に無造作に置かれていたりする)
 

「今まで、まーちゃんにとって凶方位にあったから多分きつかったと思う。ごめんって醍醐先生は言ってたよ」
「私、だいたい遅く帰って来てホントに寝るだけに近いからあまり関係無い気がするけどね」
「方位が良くなったから、これからはもっと売れるかもよって」
「これ以上売れたら死んじゃうよ!」
「ああ大変ネ」
と姉は他人事(ひとごと)のように言った。
 
セシルは多分§§ミュージック・グループ内で、アクア・舞音に次いで仕事が忙しい。
 

アクアのマンション(10F)に一時置かれていた京平主鏡(白色青銅鏡)は現在、用賀の橘ハイツ6階の西湖自宅にある(5階以下は男子?男の娘?寮)。
 
用賀では、地震の時は西湖はもう帰宅していて、妻の和紗(桜木ワルツ)と一緒に食事をしている最中だった。地震に驚いたし、多少物が落ちたものの2人とも無事だった。木下宏紀が全館放送でいったん避難するよう言ったので、西湖は鏡を正しい向きに直してから、和紗と一緒に庭に避難することにした。西湖たちの隣の部屋に住んでいる青葉の友人・鶴野明日香さんも出て来たので
 
「びっくりしましたねぇ。怪我無かったですか?」
 
なとと会話しながら階段を降りて避難した。彼女は和紗が妊娠中(現在5ヶ月)なのを知っているので
 
「赤ちゃん大丈夫ですか?」
と気遣ってくれたが、大丈夫っぽかった。
 

建物内のチェックは女子寮優先で作業されていて、こちらまで手が回らないようだったが、フロント係の篠田ユキ・ツキ姉妹が呼んでくれた業者さん?(尻尾があるのは気にしない!)がチェックしてくれて
 
「水道・電気は流していい。ガスは明るくなってから再度チェックしたい」
というので、12時半くらいには全員各部屋に戻った。
 
なおこのマンションでガスが使えるのは、調理室と管理人部屋だけである。2〜6階の部屋はカセットコンロを含めてガスの使用が禁止されており、西湖たちや明日香もIHを使用している(西湖も明日香も仕事が忙しくて疲れているのでガスを使うのは危険だと思う)。
 
実際には西湖たちが部屋に戻ったら、もう部屋の中はきれいになっていて、おキツネさんたちが
「片付けといたよ」
と言った。
「ありがとー」
 
おキツネさんたちは、明日香の部屋も片付けておいてくれたようである。
 
しかしそもそも橘ハイツ(男子寮)は基礎にダンパーを使った免震構造なので、ほとんど被害は出なかったようである。また太陽光パネルからも電気を供給しているので、東電から来ている電線が停電してもあまり大きな問題は無い。
 
それでその日はぐっすり寝た。翌朝は6時半に、ユキさん・ツキんの手で6階の住人にまでお弁当が配られたので、西湖たちは大いに助かった。
 
この日は朝10時からアクアのリハーサル代役の仕事があったのだが、収録は中止になったという連絡が入っていた。放送局も地震の片付けのため収録などの作業ができないらしい。
 
結局西湖はその日夕方近くまで、ひたすら寝た。慢性的に疲れが溜まっているので、いい休養になったようである。夕方から1件だけ仕事に行った。
 

京平の副鏡(青銅鏡)は千葉市の紫尾家に置かれている。
 
(この青銅鏡は錫7%で十円玉の組成に近く赤銅色をしている)
 
紫尾家では、地震の際はほぼ全員が寝ていたが、地震で飛び起きて、まずは子供たちの無事を確認した。千里から桃香に電話が掛かってきて安否の確認をした上で「季里子さんに頼んで鏡を正しい位置に直して」と依頼があったので、季里子に言うと、きちんと直してくれた(桃香はアバウトなので信用できない:桃香なら逆向きに置いてもきっと気にしない)。浦和の千里の家の方も全員無事だった。
 
物が落ちて散乱しているものに関しては
「2階は私たちに任せて」
とおキツネさんたちが季里子に言ったので、2階は任せて、人間は1階の片付けをした。
 
「助かる助かる」
と季里子は言っていたが、桃香にはおキツネさんたちが見えないので
「2階は便利屋さんか何かに頼んだの?」
などと言っていた!
 
なお、夏樹は何か手伝うことない?と連絡してきたが
「何とかなると思う」
と季里子が言ったので、香取市の実家に行って片付けを手伝った(というより夏樹が中心になって片付けをした!)。自分のアパートもかなりメチャクチャだったが少しずつ片付けることにした。
 

理史は地震があった時は(アクアとは別の)ドラマ収録中だった。出演者やスタッフに怪我は無かったものの、スタジオの機器が落ちたり倒れたりして、収録作業の継続は不可能である。
 
それで収録は中止となった。解散となるが、帰宅はおそらく困難だろうと思った。ホテルを取ろうと思い、スマホで近くのホテルを検索しようとするが、通信回線が輻輳している感じでまともに表示できない。
 
参ったなあと思い、とりあえず放送局を出る。放送局には自分の車(CR-Z)で来ているのだが、車で帰ろうとしたら渋滞で酷い目に遭うのは間違い無いので放送局に置いたまま表通りに出てみた。
 
カプセルホテルとかでも空いてないかな、などと思っていたら、後ろから肩をトントンされる。
 
「龍!?」
「バイクで迎えに来た。一緒に八王子に帰ろ」
「うん」
 

龍虎がヘルメットを渡すのでそれをかぶる。手袋も渡されたのを着けた。
 
それで龍虎が持って来ていたバイクNinja250のリアシートに座り、龍虎に抱きついて乗って、渋滞している車の列を颯爽と抜け、八王子に向かった。インカムが付いているので走行しながら会話できる。
 
「こういう時は二輪の出番だよね〜」
「でも運転気をつけて」
「OKOK」
 
「そちらは仕事は終わってたの?」
「お仕事はMがしてたから」
「なるほどー」
 
(深夜に掛かる仕事はMが引き受けていることが多い)
 
「Mは歩いて帰宅中」
「あぁ、それも大変だ」
 
しかし八王子から走って来たにしては六本木まで来るの早すぎないか?とは思ったものの、あまり気にしないことにした!
 
「川口市は最大震度の5強だったみたいよ」
「うっそー?川口市付近が震源?」
「震源は千葉市みたい。でも千葉市は震度5弱」
「なんで〜?」
「きっと揺れの振幅の大きい所と小さい所ができるんだよ」
「それはあるかもねー」
 
それで2人は0時頃には八王子の自宅に帰ることができた。川口市のマンションは悲惨な状態になっているかもしれない気がしたが、明日になってから考えようと理史は思った。
 

八王子の家はきれいにしていた。
 
「ここは地震の被害は?」
「大したことなかったよ。多少物が落ちたり倒れたりはしたけど、りっちゃん(*2)が「片付けておくから、理史迎えに行ってあげて」と言うから任せて出た。でももう片付けは終わってるみたいね」
 
「ああ。竜崎さんが居たんだ?」
「まあそもそも彼女がいるから、この家は維持できてるけどね。ボクひとりじゃ買物とかもできないし」
「買物する時間無いだろうし、龍がスーパーで買物してたら、サイン求める列ができちゃうよ」
「あはは、本当にそうなりそうで恐い」
 
(*2) 竜崎由結:りっちゃん:は実際には龍虎自身の眷属。建前的には個人的な付き人ということにしている。
 
竜崎由結は、この家の“西の対”に住んでいる。西の対の1階は真ん中に廊下が通っていて、その両側に母屋の部屋と同じ仕様の部屋(各部屋バス・トイレ付き)が3つずつ、合計6個ある。竜崎由結はその部屋の内の1つをもらっている。なお西の対の地下はプールである!また由結は“龍虎の眷属”なので、Mから頼まれた仕事もするが、この八王子の家ができてMとFが別れて住むようになってからはFに付いていることが多くなった。
 

 

「こういう時は取り敢えずたくさん食べよう」
などと言って、龍虎は冷凍室から牛肉を出すと解凍する。解凍している間に野菜を切り、ホットプレートを出して焼き始めた。
 
「すごーい。牛肉だ」
「オージービーフの赤身だけどね」
「龍ってそういう所で贅沢しないよね」
「贅沢な暮らしは多分生活習慣病の元。霜降りとか絶対使わない」
「僕も霜降りはあまり好きじゃない。ただの脂だし」
 
「御飯たべる?パンにする?」
「楽なほうでいいよ」
「どちらも楽だけどね。御飯もチンするだけだし。じゃパンをトーストするね」
と言って、龍虎はバゲットをパンナイフでスライスするとオーブントースターに入れてトーストする。
 
「ワインかビール飲む?」
「じゃビールもらおうかな」
「OKOK」
と言って、龍虎は冷蔵庫からクロンバッハの瓶を出してきて栓を開け、同じく冷蔵庫で冷やしていたビールグラスに注ぐ。
 
「ボクももらっちゃおう」
と言って、龍虎は自分のグラスにも注ぎ、乾杯して一口飲む。その後は、ホットプレートで焼いているお肉をつまみながらおしゃべりした。
 

「ここは停電とかにはならなかったのかな」
「太陽光パネルで電気作ってるから」
「あっそうか!東電から電線で引いてるんじゃなかったんだったね」
「ガスも使ってないし、ある意味最高に災害に強い家かもね。水道だけは水道局から引いているけど、それも非常時には簡易浄水した水が使える。トイレの流す水とかは中水システムを使用しているし、凄く環境に優しい家」
 
雨水を溜めて浄水してプールやお風呂の水に使っているが、この水は実は飲むこともできる(飲める水でないとプールに使うのは問題がある)。またプールやお風呂の排水をトイレを流す水として使用している。
 
「『大工と鬼六』の収録やってたんだっけ?」
「それは9日からなんだよ。今日は『青い桜たち』をやってた。今日が最終回の収録だったんだけど、収録は中止」
「ああ。でも理史は『大工と鬼六』に入っちゃうし、他の人もそれぞれ次の予定があるのでは?」
「へたすると、最終回の放送が3月くらいになるかも」
「年末年始で忙しい時期に突入するもんね〜」
「お互い、身体をいたわっていこう」
「全く全く」
 

食事が住んだ後は、2人一緒に龍虎の個室に入り、取り敢えずキスしてから、シャワーを浴びる。
「一緒にシャワーする?」
「僕は向こうで浴びてくる!」
と言って理史は隣の自分の部屋のシャワーに行った。
 
龍虎が身体を丁寧に洗って身体を拭き、下着だけ着けてベッドに腰掛けていると、ガウンだけ着た理史が入ってきた。
 
「ガウンなんか着なくてもいいのに」
「いや、裸ではいかにも“したい”って感じだし」
「したいんでしょ?」
「そりゃしたいけど」
という所に龍虎がキスをする。
 
そのままベッドに倒れ込むが
「今日は疲れてるから1回だけでいい?」
などと理史は言っている。
 
「じゃ舐めてあげるよ」
「え〜〜?」
 
それで龍虎はフェラをしてあげた。彼はあっという間に逝ってしまった。
 
「えーん。こんなにすぐ逝ってしまうってもったいない」
などと言っている。
 
「いつでもできるのに」
と言って手で揉んであげてたら、出たばかりでさすがに大きくはならないものの気持ち良さそうである。声など出している。でも理史はすぐ眠ってしまった。
 
ほんとに疲れていたようだ。
 
ボクも疲れたけどね〜、と思いながら龍虎も彼のそばで眠った。
 

翌日(10/18).
 
理史はコーヒーの香りで目覚めた。
 
「おはよう。コーヒーどうぞ」
「ありがとう」
と言って起き上がり、皿ごと受け取って飲む。
 
「お供えしてきてから、朝御飯にするね」
「おそなえ?」
「理史はまだ見てなかったかな。見る?」
「うん」
 
それで理史はガウンだけ羽織ってから龍虎に付いていく。龍虎は豆御飯?の小型の丸いおにぎりが山盛りに載った大皿を持ち、部屋から出てリビングを出ると、西の対との南側渡り廊下に出る。その左手にドアがある。
 
「あれ?そんなところに部屋があった?」
「ちょっと目的があって作ってもらった」
と龍虎は言って、中に入る。理史も続けて中に入る。
 
「サンルームができたんだ!」
「あったかいよ。冬の間はここで休んでいてもいいかも。セックス禁止だけど」
「こんな外から丸見えの所ではセックスできないと思う」
 
龍虎は、おにぎりの載った大皿を、向こう側の壁に置かれた棚の上に載っている鏡?の前に置いた。
 
「その鏡は?」
「これさあ」
と言って龍虎は、白い金属製の鏡を手に取る。鏡の裏側には火山?か何かの模様が作られている。
 
「ここに置かせてと言って、こないだ醍醐先生が置いてったんだよ」
「へー。それは白銅か何か?」
「ステンレスだよ」
「ステンレスなのか!」
「フェラ系じゃなかった、フェライト系ステンレスと言ってた」
 
今わざと間違ったろう?と理史は思う。昨夜のフェラは気持ち良かったけど。
 
(ステンレスには主に、ほぼ鉄とクロムで出来ているフェライト系ステンレスと、鉄・クロム・ニッケルが主成分のオーステナイト系ステンレスがある。フェライト系は磁石が付くが、オーステナイト系は磁石が付かない)
 

「お守りみたいなもの?」
「うん。これは旭岳と繋がってるんだって。だから方位角約15度に向ける。ここに線が引いてあるからそれに合わせればいいんだけどね」
と言って龍虎が指さす所を見ると、マジックで直線が引かれている。
 
「15度の方向というと、北北東?旭岳というと北海道の?」
「うん。16方位でいえば北北東、24方位でいえば癸(みずのと)の方位」

 
「なんか難しい」
「ボクもよく分からないけどね」
 

「このサンルームは実はこの鏡を置くために作ってもらったんだよ」
「へー!」
「この鏡を置いてる部屋はセックス禁止なんだよね。だからボクの部屋には置けない」
「なるほどー!」
「だからここではキスまではいいけど、セックスは禁止。セックスは自分の部屋に戻ってから」
「OKOK」
 
それで龍虎は鏡を線が引かれている位置に戻す。
 
「Spieglein, Spieglein. Wer ist die Schönste im ganzen Land?」
(鏡よ鏡、この国で最も美しいのは誰?)
と龍虎は言った。
 
理史は唐突にドイツ語が出て来て「うっ」と思ったが、このセリフは覚えている。
「Frau Ryuko. Du bist die Schönste im Land」
(龍虎さんです。君がこの国で最も美しい)
 
「ボクはフラウなの?フロイラインじゃなくて?」
「僕の奧さんだからフラウだよ」
「えへへ」
「ヘアではないし」
「さすがにボクはヘアではない」
 
「Mちゃんはヘアとかミスターと言われると照れてるね」
「あの子、自分が男という自覚が希薄だから。よく女装してるし」
「女装させてるのでは?」
「可愛い服着るの好きみたいだしね」
 
「かえって龍のほうが男装してる」
「ボクが男装した姿と、Mが女装した姿が雰囲気が近くなるのもある」
「あ、そうか」
 
「ぼくとMは顔の作りは完全に同じだけど、ボクは自分が女という意識が明確になってきたから女っぽい顔になってきて、男装のMとは結構雰囲気が違う。でもボクの男装は女っぽさが抑制されるし、Mの女装は少女っぽくなるから似た雰囲気になるんだよ」
 
「だったら2人1役は終わるの近いと思う」
「男女両役をしてたらね。女役しかしなくなったら、また2人とも同じ雰囲気になるかもね」
「確かに男装アクアの需要はあまり無い」
 

「でもそのおにぎりは・・・豆御飯?」
「お赤飯だよ。北海道方式」
「赤飯なんだ!」
 
「赤飯というと、この付近では小豆と一緒に御飯を炊くけど、北海道では炊きたての御飯に甘納豆を混ぜる。これは北海道方式で作ったお赤飯」
「そういう作り方もあるのか」
 
「元々はお赤飯って赤米で炊いた御飯のことだったらしいね」
「赤米と黒米の御飯は番組で食べたことある」
「赤米を作らなくなったから、その代替で小豆とか甘納豆を使うようになったんだろうね」
 
「それでお供えがお赤飯なんだ?」
「うん。これを毎朝おそなえする。ボクができない時には、りっちゃんに頼む」
「竜崎さんがする日の方が多くなりそう」
「まあできる時はボクがする」
 
「それで夕方に下げるの?」
「ああ。すぐ無くなっちゃうから」
「なんで?」
 
「恐がらずに出ておいでよ」
と龍虎が声を掛けると、たくさんのキツネの子供たちが出て来て、美味しそうにおにぎりを食べ始めた。
 
「可愛い!」
「可愛いよね。実は地震で落ちたり倒れたりしたものを片付けてくれたのも主力はこの子たちだったんだよ」
「へー!」
 
ひとりの女の子キツネが理史に声を掛けた。
「あたし、ミチ。お兄ちゃん、よろしくね」
「うん。よろしくー。僕はサトシだよ」
と理史も答えた。
 

その時、理史は気付いた。
 
「ねね、前から池とかあったっけ?」
 
サンルームの側面ガラスを通して、大きな池が見えているのである。
 
「先週帰宅したら出来てたからびっくりした」
「先週できたんだ!」
「じゅうちゃんさんによれば、南側に池があるのが風水的にいいんだって。釣殿もあるよ」
 
↓再掲

 
「あはは、そこにあるのはやはり釣殿か」
 
「池を作るのに削った土を北側に積み上げて、小さな丘ができてるし」
 
(多分プール設置のために掘った土も一緒に積み上げている。敷地内に降った雨を地中のパイプで南池に集め、これを浄水してプールに使用する。実は南池は雨水の貯水池である)
 
「何それ?」
 
「北に玄武棲む丘陵あり、東に青龍棲む清流あり、南に朱雀棲む湖沼あり、西に白虎棲む大道あり。四神相応の地にするんだって」
 
「んじゃ賭けてもいい。きっと年内には表側に小川ができてる」
「やはり、そう思う?」
「裏手には道路が通るね」
「ラリーとか始まったりして」
 
 
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【夏の日の想い出・Long Long Ago】(1)