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■トワイライト・魂を継ぐもの(6)

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その夜は安達太良SAで休憩中に新年を迎えた。
 
和実と淳はカーラジオでカウントダウンを聞き、0時ちょうどにキスをした。
「Happy New Year!」
「Happy New Year!」
「今年は良い年になるといいね」
「良い年にしていこうね」
 

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東北に往復する時はいつもしてきたように、途中のPAで仮眠したあと朝東京に帰着した。
 
お正月は、美容室が年末31日まで開いていたので帰省せずに東京に残っていた胡桃と一緒に、おとそを飲み、お餅やおせち料理(和実と淳で協力して作ったもの)を食べてから、3人で相互に着付けをして、淳は訪問着、胡桃と和実は振袖を着て、初詣に出かけることにした。今日は人混みに揉まれるので、3人とも、多少汚れても構わないものを着ていく。
 
着付けは、淳と和実の着付けを胡桃がして、それから胡桃の着付けを和実がした。
 
「和実、かなり着付けうまくなったね。着付け技能士の資格取れるかも」
 
胡桃は昨年着付け技能士1級の試験を受けた。実技では和実をモデルにして、振り付けの着付けをした。合格発表はまだだが、感触は良かったので、多分通っているだろうなどと言っていた。
 
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「2級は取れると思うけど、1級は最低1年の実務経験が無いと受験資格が無いからなあ」
「うちの美容室と契約する?」
「うーん。さすがに在学中は時間的に無理な気がする」
「でもシーズンだけでも手伝ってもらえると助かるよ」
「うん、考えてみる」
 
3人一緒に電車に乗って、都内中心部の神社にお参りした。
 

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「凄い人出だね」
「神様もたいへんだね。これだけの人の祈りを聞いてあげるって」
「うーん。人数は関係無いよ。だって神様へのアクセスのチャンネルは各自がそれぞれ持っているものだからね。ただ、そのチャンネルが神社に来ることで開きやすくなるんだよ」
と和実が解説すると、胡桃も淳もなるほど、と頷いた。
 
「ただ、こんな凄い人出の時よりはもっと静かな時に来たほうが、落ち着いてチャンネル開くことできるけどね」
「やはりそうか」
「だから、節分過ぎてから、また来ればいいと思うよ。普段はここまで多くないじゃん」
「そうだね」
 

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かなり時間を掛けて拝殿前まで進み、二礼二拍一礼でお参りする。
 
人がたくさん並んでいるので次の人たちと入れ替わるようにして拝殿を離れ、出口の方へと進路を進んでいく。その時、和実は唐突に言った。
 
「お姉ちゃん、私、今年手術しちゃうよ」
「そっか。。。。結局20歳すぎてからの手術になったね」
「うん」
「え?和実手術するの?」
と聞いていなかった淳が驚いて言う。
 
和実は首を少し傾げて優しい笑顔で淳を見つめると言った。
「実はね。今拝殿のところで決めた」
「えー!?」と淳と胡桃。
 
「今、拝殿のところで神様に御挨拶したら、自分のあるべき姿になりなさいと言われた」
「へー」
「・・・気がした」
「それって、自分の心の声なんじゃないの?」と淳。
「かもねー。でもタイミング的にも今年がいい気はするんだよね。4年生でゼミとか必死でやってる最中に性転換手術受けて1ヶ月くらい身体を休めてというのは、辛いもん。大学院の入試だってあるしね」
「確かにね」
「去年はボランティアで忙しかったしね」
 
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神社周辺は混雑するので、電車で少し離れた駅に移動してお茶を飲んだ。
 
「でも私お正月はこのまま東京に居座って、代わりに和実の盛岡の成人式に付いていこうかな。お父ちゃんと和実の久々の対面も見たいし」と胡桃。
 
「うん。助かる」
「私は遠慮したほうがいいかな。でも成人式は見たいしな」と淳。
「淳のプリウスに乗せてってよ。で、淳が車中泊している間に私たちは実家訪問」
「車中泊なのか!」
「車中泊も東北往復で、かなり慣れたけどね」
「昨夜も車中泊だったね」
 

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和実が勤めるメイド喫茶は本店・新宿支店ともに3ヶ日を休んで4日から営業開始した。4日は夕方18時までの限定営業だったが、その日は「振袖カフェ」となり、メイドさん全員が振袖を着て応対した。着付け師さんを本店と支店に2人ずつ頼んで、朝から着付けをしたが、和実と胡桃も(タダで)借り出されて着付けをしてあげた。振袖は貸衣装屋さんから予備も含めて25人分をまとめて50万で借りてきた。
 
「店長は振袖着ないんですか?」
などとひとりの子が言い出した。
「馬鹿、振袖は女の子が着るから可愛いのであって、男が着たら気持ち悪い」
と店長。
「私、男だけど振袖着てますけど」と和実。
「だから、君は女だって。ほんとに面倒だから、さっさと性転換してよ」
と店長。
 
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この「さっさと性転換して」というのは、店長の口癖のようになっていた。いつもは和実は「そのうち」などと答えていたのだが、今日は
「そうですね・・・・今年の夏くらいにやっちゃおうかなあ」
と答える。
 
「わあ、いよいよですか?」とマユミが喜んで?いる。
若葉がニヤニヤと笑っていた。店長は
「ほお、とうとうやるか。手術の前後休む場合、30日間までは有休扱いにしてあげるよ」
と言った。
 

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その日、和実は本店チーフなので午前中本店に詰めていたが、午後1時から3時までは支店チーフの悠子と入れ替わる形で支店の方にも顔を出してきた。この日はお正月ということで、オムレツを2段重ねして、その上に橙代わりのサクランボを載せた「鏡オムレツ」なるものもやった。店長から言われた時は、そんなの売れるか?と思ったものの、実際にはけっこうオーダーがあってびっくりした。
 
「ひな祭りには、三段積み重ねて、菱オムレツとかしようかな」
などと店長は気をよくして言っている。
「赤・白・緑、とかに色付けるんですか?」と麻衣。
 
「赤はケチャップで、白は生クリーム、緑は抹茶かな?」と店長。
「それは味が無茶苦茶です」と若葉。
「ケーキ用のチョコペンシルで何とかならないかな」と瑞恵が言うと、みんな、それが良いと言った。
 
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今日は18時までなので、閉店後、各自振袖を脱ぐ。たたみ方が分からない子も多かったので、分かる子が教えてあげていた。19時頃、支店の子たちの分の振袖をまとめて、悠子が車で運んできた。本店は店長の他は、和実・麻衣・若葉だけが残っていた。
 
「和実、お正月には盛岡に戻らなかったのね」
「うん。ボランティアで年越しそばとかお餅とか被災地に届けてたし。向こうには震災直後に帰っただけで、その後行ってなかったのよね。その時にお父ちゃんに女の子の姿を見せて自分は女として生きて行くつもりだと言ったら勘当だとか言われたんだけど」
「はは」
「高校時代も女装してる所は何度か見せてはいたんだけどね。女子制服を着て朝学校に出て行ったことだってあるし。でも冗談だと思ってたみたいだった」
「和実って、本気と冗談の区別がよく分からないんだよね。私も悩むことあるよ」
「そう?」
 
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「それ、私もよく指摘する」と麻衣。
「同感。更に和実って、平気な顔で嘘つくんだよね」と若葉。
「ははは」
「取り敢えず、メイド喫茶の仕事を始める以前は女装したことなかったなんて話は嘘ってのは、梓から聞いたけどね」と若葉。
「あまり、それバラさないで〜」
「まあ、そうだろうね。でなきゃ、いきなり女装して、あんなに可愛くなるわけが無いよな、とは思ってたけど」と悠子。
 
「でも、その梓も美事に騙されてて、本当は和実はリアル女の子って説も、私は捨ててないんだけど」と若葉は続ける。
「私もね、それ昔から時々思ってた!」と悠子。
 

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成人式の帰省は6日の朝からすることにした。梓も誘って、淳のプリウスに、和実・胡桃・梓と4人で乗り込んで東京を出発した。東北道をまっすぐ北上する。運転免許は4人とも持っているので、交替で運転した。梓をプリウスに乗せるのは初めてだったが「わあ!この車乗り心地いい!欲しい!」などと叫んでいた。
 
最初上河内SAで休憩し、ラーメンやギョウザを食べる。
 
「でも何か全体的に『ふつー』になってきちゃったよね。地震は続いてるけど」と梓。「悪い意味で慣れちゃった感じだよね」と胡桃。
「でも深夜の高速走ってるとさ、標識とかのライトがけっこう落とされてるんだよね。間引きされてるから、しっかり見てないと見落としそうで怖いよ」と和実。
「電力はホント何とかしないとやばいよね」
 
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「いっそ地震のエネルギー自体を電力に転換できないものなのかしら」と胡桃。
「地震力発電か・・・・うーん。。。」
「だって日本列島、ふだんからいっぱい揺れてるもん」
「特に今東日本は余震で揺れ続けてるしね」
「大規模な施設を作っていたら、その間に余震も収まっちゃうだろうけどさ、なんかもっと小規模で小さな電力を起こすようなものだったら、すぐに作れそうなもんじゃん。日本の技術力があれば」
「そういう議論って、あまりまともに取り上げてもらえないよね」
 
「このプリウスには自作のソーラーパネルを屋根の上とかに乗っけてますけど、ソーラーって大した電力出せるわけじゃないのよね。でもその僅かな電力も、みんながやってれば、合わせるとけっこうな量になると思うのよね」
と淳も言った。
 
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「だけど、私ここ数年、和実の振袖姿見てるけど、毎年違うの着てるよね」と梓。
 
「確かに毎年違うの着てるよね。高2の時は姉ちゃんの着付け練習用の振袖を着て、高3の時は自分でヤフオクで落とした小振袖着て、去年は和裁習ってたから自分で縫い上げた振袖着て」
「頑張るなあ。でも今年はまともに買ったのを着るのね」
「うん。盛岡の方はね」
「え?東京の方ではまた別の着るの?」
「実はね・・・・」
 
和実は年末にボランティアに行った先で、震災で亡くなったMTFの娘さんの振袖を託されたことを説明した。
 
「わあ。せっかく頑張って貯金して振袖買ったのに、成人式にも卒業式にも着れなかったって、可哀想すぎる」
「うん。だから代わりに着てあげる」
「頑張ってね」
 
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「ところで着付けを希望する子は結局、何人になったんだっけ?」
「私と照葉と美春はお願い。弥生と麗華が頼むかも知れないと言ってたから、あとで再確認するよ」
「こちらは私と姉ちゃんの2人で着付けできるから、私と梓も入れて合計8人くらいまでは行けるよ。1人30分でできるからね」
 

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上河内SAを出た後は、安達太良SA、菅生PAで短い休憩と運転交替をしたあと、長者原SAでおやつにして長めの休憩を取った。菅生PAからここまでは梓が運転したのだが
 
「この車、乗り心地だけじゃなくて運転も楽だね。マジで欲しいなあ。もう少し安ければ買うのに」
などと言っている。
 
「今度、プリウスの少し小さいのが出るよ。アクアって名前で」と和実。「いくらくらい?」と梓。
「たぶん170万くらい」
「うーん。それでもお金が無い。宝くじ当たらないかなあ」
「梓、宝くじ買うの?」
「買ったことない」
「じゃ、当たらないよ」
「確かに」
 
「だけどホントに車って高すぎるよね。そもそも保険が高いと思わない?」
「そうそう。それで私二の足踏んでるんだよね。東京は駐車場代も高いし。免許取って以来レンタカーとか友だちや親の車運転してるけど、軽でもいいからあったらなあと思うのよね」
「取り敢えず軽でもあれば便利だよね」
 
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「でもプリウスの燃費凄いね。残油計が全然減らないから壊れてるのかと思ったよ」
などと梓は言う。
「あ、私も最初それ思った」と和実。
 
「高速では凄く快適だったけど、山道とかはどうなんだろう?」
「去年の夏に北陸に行った時、国道148号の洞門が連続する区間を走ったけど、楽チンだったよ。上り下りのある道もパワーモードだとかなり走れる。CVTとは思えない器用な動きするんだよね、この子。下りが連続する場所ではさすがにBポジション(ふつうの車のL)にしないとだめだけど。あと、ハイブリッドは長時間走行に弱いなんて意見をよく聞くけど、プリウスは長時間走行でエンジン使ってもそんなに燃費落ちないよ」
 

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