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■トワイライト・魂を継ぐもの(5)

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(c)Eriko Kawaguchi 2012-02-08
 
2学期の間も和実たちのボランティア活動は続いていった。しかし、その活動も被災地で避難所が次々と閉鎖され、各々の地域に根ざした自助活動なども盛んになってきたことから、2011年いっぱいで終了することとなった。
 
活動の中心となってきたエヴォンに置かれた募金箱と、募金用の口座だけは一応継続することとし、集まったお金は、この10ヶ月間の活動を通して関わってきたいくつかの現地のボランティア団体に配分していくことにし、その方針をホームページ上で告知した。2012年以降はその募金関係の事務的な作業だけを継続していくことになる。
 
ボランティア組織の最後の救援物資トラックは12月31日の昼に東京を出発することになっていたが、それに先立ち30日に参加者の中で集まれる人だけ集まって打ち上げをした。打ち上げは、できるだけ費用を掛けないで、お金があるならその分支援に回そうという趣旨で、30日の夕方19時から20時までエヴォンを(無償で)貸切にして、コーヒーとケーキのセットを特別に500円(ほぼ原価)で出して行なった。和実と淳がみんなに感謝の言葉を述べた。
 
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最後のドライバーもぜひやらせてと言って、和実と淳の2人が担当した。今日は普段と逆に、行きは主に和実が運転し、帰りは主に淳が運転することにしていた。淳が青森から石巻にリンゴを運んだのがボランティア活動の始まりだったので、最初に運転した淳が最後に運転しようと、ふたりで決めたのであった。
 
この活動も初期の頃は避難所巡りをして即食べられるものとか下着とか衛生用品などを配布していたのだが、夏頃からは仮設住宅が主な救援対象となり、内容もお米とか野菜・肉などの食材、夏には扇風機、秋になると毛布・こたつ・などと実用的なものが多くなってきたいたが、最後の配送で届けるのは、年越しそばとお餅、ミカン、イチゴ、などといったものであった。
 
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宮城県内の幾つかの仮設住宅群を巡り、最後の仮設住宅で荷物をおろしてから、これが最後の配送というのを知って来てくれた、石巻の市職員の人と握手をした。この職員さんがいた避難所に、和実も当初お世話になっていたのである。
 
「でもほんと、やっと復興の最初の1歩を踏み出したという感じですね」
「ええ。しなければならないことは山ほどあります。でもみんな士気は高いです」
「たいへんですけど、頑張って下さい。私たちにお手伝いできることがあったら連絡してくださいね。やれる範囲のことはしていきますから」
「ほんとにお世話になりました」
 
そんな会話を交わしながら、和実たちは仮設住宅の前を歩いていた。1軒の家に50歳くらいの感じの女性が出て、何かを膝に抱えてしゃがみ考え事をしているようだ。
「どうしましたか?佐藤さん」
と職員さんが呼びかける。
 
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佐藤さんと呼びかけられた女性はこちらを見ると、泣き出した。和実と淳は顔を見合わせた。
「良かったから、少しお話を聞きましょうか?」
と和実は声を掛けた。
 
市職員さんは他の仮設住宅にも回らなければならないようだったので、和実と淳が仮設住宅の中に入って、佐藤さんから話を聞くことにした。
 
「この服・・・うちの子の遺品なんです」と佐藤さんは言った。
「お子さんが亡くなられたんですね」
「はい。津波でやられてしまいました。住んでいたアパートも跡形もなくなっていたのですが、この着物は実家にあったので助かったんです。実家も地震で完全に崩壊したのですが、津波は来なかったので」
 
「それは大事な遺品になりましたね」
「ただね・・・・他人様に見せられないので、もう焼いてしまおうかと思って」
「どうしてです?すごくきれいな着物っぽい。ちょっと見せてもらっていいですか?」
「ええ」
 
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和実はその着物を借りると広げてみた。
「これは・・・・」と淳が絶句する。
「すごくきれいな振袖ですね。手染めじゃないですか!70-80万はしますよ」
「ボーナスを注ぎ込んで買ったようです」
「もしかして成人式用ですか?」
 
「成人式に着て、それから短大に行っていたので、その卒業式でも着る予定だったのですが、実は成人式の日は風邪を引いて寝込んでしまって行けなかったんですよ。凄く残念がってました。それで卒業式で絶対着るぞと言っていたのですが、その卒業式の直前に震災で逝ってしまったのです」
「わあ・・・」
「卒業式はいつの予定だったんですか?」
「3月18日の予定でした」
「あと一週間だったのか・・・・」
 
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「震災が落ち着いてから学校から卒業証書は頂いたのですが、成人式に出られなかった分のリベンジだって言って、振袖で卒業式に出るのをすごく楽しみしてたので、無念だったろうなと思うと」
 
「そうでしたか。。。。お嬢さん、ほんとに残念でしたね」
「いやそれが・・・・」
「はい?」
 
「娘ならいいのですが。。。。実は息子なんです。お恥ずかしいことに」
「え?」
 
「子供の頃から女の子の服を着たがっていて。。。中学や高校の頃もスカート穿いて友だちとかと遊んでいました。高校までは一応学生服を着て通っていたのですが・・・・」
「わあ・・・・」
「高校出てから幼稚園の先生になりたいと言って仙台の短大に入ったのですが短大では完全に女の子の格好をして通学していたようです。通学のかたわら仙台市内の洋服屋さんでバイトをしていたのですが、そこでも女として雇ってもらったということで。振袖もそこのバイト代を少しずつ貯金して貯めたお金で買ったようで」
 
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「頑張りますね」と和実。
「就職先の幼稚園も決まって。女の先生として受け入れてもらえることになったなんて嬉しそうに話してて、それから性転換手術っていうんですか?それも今年の夏に受けることにした、なんて言っていた矢先に、逝ってしまいました」
「ほんとにこれからって時に・・・・」と淳。
 
和実は年が近いこともあり、他人事とは思えなかった。
 
「息子の唯一の遺品だし、取って起きたい気もするのですが、親戚とかに見せられないし、これを見ているだけで私も辛い気持ちになるから、処分してしまおうかって思って。さっきも火を付けちゃおうかって庭に出たものの、なかなか踏ん切りが付かなくて・・・・」
 
「あの・・・・」と和実は言った。
「私も実は本当は男の子なんですよ」
「え?」
と佐藤さんはきょとんとした顔で声を出した。
「そんな、御冗談を」
「いえ、ほんとです。困ったな、私、自分が男と証明するようなもの持ってないや」
「和実の学生証も女になってるもんな」と淳。
「うん。運転免許には性別記載されてないしね。声も、私、これが地声だし」
 
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「いえ。。。。なんか信じられる気分です」
と佐藤さん。
 
「うちの息子も、ちょっと見た目には女の子にしか見えなかったし。何かそんな身なりしてても親孝行な子で。。。。」
「いいお子さんだったんですね。振袖、押し入れの奥とかに取っておいてあげましょうよ。親戚とかには見せずに、毎年命日とかだけに出してきて眺めてあげたらいいじゃないですか」と淳。
「そうですね・・・・・・」
と佐藤さんは言っていたが、突然こんなことを言い出した。
 
「あの・・・もし良かったら、この振袖をもらってくれません?」
「え?」
「だって大事な遺品なのに!」
 
「いえ。お二方にはこれまで支援活動でお世話になってますし、それにここで息子と同類の方に遭遇したということ自体が物凄い縁のような気がするんです。押し入れに入れておくのって、振袖には可哀想。服って、着てあげてこそですもの。この振袖、結局1度もあの子自身は袖を通すことのないままになってしまったし。死んだ子の服では、気が進まないかもしれませんが・・・」
「あ、私、そういうの全然平気です」
 
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「和実、振袖自分で着れるよね。ちょっとここで着てみたら?」と淳。
「そうだね。奥さん、着てみていいですか?」
「はい」
「和装用の下着持って来てないから、洋装下着の上になりますけど」
と和実は笑顔で言う。
 
その場で上着とズボンを脱ぎ、下着姿になり、その振袖を身体に掛ける。着付け用の紐があるということだったのでそれを2本借りて、20分ほど掛けてきれいに着て、帯も自分で結んだ。
 
「きれいだ・・・」と淳。
「ああ、この振袖をこういう形で見られるなんて・・・」と佐藤さん。
 
「お仏壇、お借りしていいですか?」と和実。
「はい」
 
和実は仏壇の前に座ると合掌した。淳は和実が『対話』してるな、というのを感じた。
 
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「お子さん・・・ユキさんっていうのかな?」と和実。
「あ、はい。その名前を名乗ってました。本名は鷹行(たかゆき)なんですが。どうして、それを?」
 
「ユキさんからメッセージもらいました」と和実は言った。
「この振袖、良かったら私にもらってくれないかって。もし可能なら今年の3月18日には記念写真撮ってほしいって。それからその日はお母さんの誕生日でもあるから、お花を贈ってあげてって」
「!」
佐藤さんは驚いた顔をした。
「私の誕生日なんて言ってないのに。。。。本当に息子からのメッセージなんですね!」
 
「この振袖をお預かりします。ユキさんが成人式にも出られなかったというのなら、私、ちょうど今年成人式だから、これで成人式に出ちゃいますよ。その記念写真撮って送りますし、それから卒業式の予定だった3月18日には再度こちらにお邪魔して、振袖姿をお母さんにお見せして、一緒に記念写真撮りませんか?」
「はい」
 
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「和実、ほんとに成人式でその振袖着るの?」
淳は帰りのトラックの中で訊いた。
 
「なんかさ」
「うん」
「ユキさんね。成人式にも卒業式にも着れなかったことが物凄く心残りだったみたいで」
「だろうね」
「じゃ、私が代わりに成人式と卒業式の日に着てあげるって言ったら、嬉しそうにして。そのまま上に上がっていったよ。成仏できたみたい」
「和実まるで霊能者みたいだ」
 
「私、普段はこんなに霊感働かないんだけど、今日のは凄くよく彼女のメッセージが伝わってきた。よほど思いが強かったんだね」
「そうか。ふつうの女の子にとっても振袖って夢だもんね。私たちみたいな子にとっては、なおさらだよ。私も成人式で振袖着たかったな、って今でも思う」
「着れば良かったのに」と和実。
 
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「その勇気が無かったのよ。当時は。和実もユキさんも偉いと思う。ユキさんも、たぶん1年くらい掛けてバイト代から少しずつ貯金して買ったんだし、本当に思い入れが強かったろうね」と淳。
 
「うん。たぶん。でもこんなことするのは青葉の担当なんだけどなあ」
と和実は苦笑する。
「青葉ちゃんに会った後、和実の霊感強くなってるよ」
「うん。刺激を受けてるからだろうね」
 
「でも自分で買った振袖の方は?」
「うん。だから、盛岡の成人式は、お母ちゃんと一緒に選んで買った自分の振袖を着て、翌日の東京の成人式で、この預かった振袖を着る」
 
「ああ、なるほど。そうそうお父さんの方とはその後、どう?」
「こないだ実家の家電に掛けた時、ちょうどお父ちゃんが出たんだけど、ガチャンって切られた」
「大変そうだね」と淳。
 
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「意地張ってるだけだよ、なんてお母ちゃんは言ってたけどね。でも会えば、また違うだろうしね」
「うまく和解できるといいね」と淳も運転しながら笑顔で言った。
 
「この振袖は3月18日に返そうかと思うんだけどね。でも、私たち被災者の人たちからかなり遺品の類をもらっちゃったね」
「うん。なんかひとつひとつの品物にいろんな思いが入ってるみたいで」
「その人たちの思いを少しずつでも継いでいくのも生き残った私たちの務めかなって、思うんだよね」
 
淳も頷いていた。
 

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