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■代親の死神(1)

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(C) Eriko Kawaguchi 2022-02-06

 
based on the Grimm's fairy tale KHM44 "Der Gevatter Tod" (*1)
 
ある所に鍛冶屋(Schmied)が居て、3人の息子が居ました。長男レオン(Leon)は大工(Zimmermann)になり、たくさん家を建てました。領主の別荘の工事をした縁で、領主令嬢の侍女だったティアナ(Tiana)という娘と結婚し、4人の子供を作りました。次男ロビンは左官(Verputzer)になり、建物の壁を塗る仕事で頑張りました。農家の壁の補修をした縁で、その農家の娘オリビア(Olivia)と結婚、やはり4人の子供を作りました。そして三男のハンス(Hans)は、父親の仕事であった鍛冶屋(Schmied)を継ぎ、馬具や大工道具・農具などを頑張って作っていました。彼は取引の関係から商人の娘ドリス(Doris)と結婚し、やはり4人の子供を作りました。
 
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ところがある年、流行り病で、多数の人が死にました。ハンスの所は無事でしたが、ハンスたちの両親および兄のレオンとロビンが亡くなってしまいました。2人の兄の奥さんはどちらも無事でしたし、子供たちも無事でしたが、夫を亡くして途方に暮れ、ハンスを頼ってきました。
 
一気に自分の妻子を含めて3人の成人女性と12人の子供(*2)の生活を支えることになったハンスは弱音をあげたくなりましたが、頑張りました。何しろ子供たちはレオンの子供が3,7,9,11歳、ロビンの子供が2,4,5,10歳、ハンスの子供が1,3,7,9歳で、まだ労働力にはなりません。(↓年齢は引取った時点)
 
レオンの子:ユリオン♂(11) カメリエ♀(9) ローザ♀(7) リリエ♀(3)
ロビンの子:ジークフリート♂(10) アレクサンダー♂(5) ルイーザ♀(4) ユリウス♂(2)
ハンスの子:ソフィア♀(9) トーマス♂(7) ノア♂(3) アンナ♀(1)
 
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次男一家はオリビアの実家に同居していて、そちらではオリビアの両親や兄弟も流行り病で亡くなってしまったのですが、そこの家が広いので、16人の一家はその家に引っ越し、長男の家は売却、ハンスの家は鍛冶で作った金物(かなもの)を売る純粋な店舗としました。
 
そしてハンスが鍛冶屋の仕事で頑張る一方、女たちでオリビアの実家の畑を耕しました。畑仕事で腕力の必要な作業はハンスがそれも手伝いました。またレオンのいちばん上の11歳の男の子(ユリオン)と、ロビンのいちばん上の10歳の男の子(ジークフリート)には金物屋の店番もしてもらいました。
 
「しかし男2人というのもなあ」
「ソフィアも店に出す?」
「あの子はねんねだから今年はまだ無理」
「そうだ。フリッディ、お前女の子の格好しろ」
「え〜〜!?」
「看板娘になって客引きだよ」
「うっそー!?」
 
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ということで、みんなにフリッディと呼ばれているジークフリートは女の子の服を着せられ、フリーダと名乗って看板娘になったのでした。でもおかげでよく金物が売れて助かりました!
 

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(*1) この物語"Der Gevatter Tod"(直英訳すると"The Godparent Death")はグリム童話に44番目の物語として収録されている。一般に『死神の名付け親』というタイトルで日本では知られているが、このタイトルには2つの問題がある。
 
1つはGevatterは名付け親ではなく代親であること。この問題は後述する(*3). もうひとつは『死神の名付け親』と言われると、死神に名前を付けた人みたいだが、実際は代親になってあげた死神なので、むしろ『代親の死神』とすべきである。
 
この物語は落語の『死神』(作:初代三遊亭圓朝)の原作である。彼はグリム童話の第2版(*12) をベースにこの演目を制作したとされる。日本ではおそらくグリム童話より、この落語の方が広く知られている。
 
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この物語はグリム童話の1812年の初版と1819年の第2版以降では結末が異なっており、一般には1819年版以降の結末が知られている(グリムの初版は一般に収集した原型に近いが、その後、読者層の要望に応えて加筆修正されている)。
 
この物語は実は南ドイツ・ニュルンベルク(Nürnberg)の劇作家ヤコブ・アイラー(Jakob Ayrer 1543.3-1605.3.26) が書いた106本の戯曲の内の6番目の演劇"Baur mit seim Gevatter Tod"(農夫と代父の死神)がベースになったものと考えられている。書かれたのは恐らく1570-80年頃だろう。これは農民戦争(1524)の後で、南ドイツではルター派のプロテスタントが勢いを持っていた時期であることに注意する必要がある。なお、グリムの原作は標準ドイツ語(≒南部ドイツ語)で書かれているように思われる。
 
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今回の物語は時代設定をアイラーの原作より少し後の1580-1650年頃に設定している。
 

(*2)グリム版では「12人の子供が居て、パンを食べさせるのにも苦労していた」とあるのだが、普通に考えて、夫婦の子供が12人としたら、2年おきに作って、途中で誰も死ななかったとしても(昔はだいたい赤ちゃんの3人に1人が5歳になる前に死亡していた)しても、13番目の子供ができた時には一番上は24歳になっており、男の子なら仕事をしていたろうし、女の子ならお嫁さんに行っていたと思われる。
 
パンを食べさせるのに苦労するということは、子供たちがまだみんな幼いということであり、それを夫婦だけで作るには双子・三つ子を連射しないと無理である。たとえば2歳・4歳・6歳・8歳の三つ子がいたら12人になる。しかし双子や三つ子は更に死亡率が高い。
 
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そういうのはあまりにも非現実的なので、今回の翻案では、兄弟の子供を引き取るというシチュエーションを考えた。またこの父親は何とか子供たちに御飯を食べさせている訳で、かなり優秀な稼ぎ手であり、経済力がある人と考えられる。本当に貧乏で子供が12人いたら多分半分以上が栄養失調で死亡する。神様を拒絶する言動なども、経済力のある中産階級的な発想である。
 

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さてハンスは、そうやって何とか子供たちの食い扶持も稼いでいたのですが、この時実はドリスは妊娠しており、翌年ハンスにとって5番目の子、一家にとって13人目の子が生まれました。ハンスはこの子の代親(*3)について悩みました。
 
実は上の12人の子については親戚や友人などに代親をお願いしていたのですが、これだけ子供の数がいると、もう頼めるような人の心当たりが無かったのです
 
それで誰に頼もうと悩みながら眠ってしまうと夢の中に亡くなった母親が出てきました。母親は言いました。
 
「目が覚めてから表通りを歩いて、最初に出会った人に代親を頼むといいよ(*9)」
 

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ハンスは目が覚めました。まだ夜中でしたが、少し厚着をして通りまで出ます。そして歩いて行くと、やがて古代ギリシャのような一枚布の服(キトン Chiton)を着た老人が向こうからやってくるのに出会います。
 
「すみません」
と男は声を掛けました。
 
「何ですか?」
「唐突に申し訳無いのですが、うちで生まれたばかりの息子の代親になっていただけないでしょうか?」
 
「いいですよ。その子が大きな病にも罹らず、幸せになるようにしてあげましょう」
「すみません。そちら様はどなたでしょうか?」
「私は神様です(*4)」
 
すると男は難しい顔をして言いました。
「申し訳ありませんが、あなたに代親を頼むことはできません。だって、世の中には金持ちもいれば自分みたいな貧乏人もいる。神様ってそういう不公平をそのままにしている。そんな人には頼めません」
 
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それで男は神様を置いて先に進みました。
 

男が道を歩いて行くと、金銀や宝石をちりばめた贅沢な服装をした太った中年男が向こうからやってくるのに出会います。
 
「すみません」
と男は声を掛けました。
 
「何だい?」
「唐突に申し訳無いのですが、うちで生まれたばかりの息子の代親になっていただけないでしょうか?」
 
「よっしゃ、引き受けた。その子がじゃんじゃん金を儲けて女にももてて、好きな物は何でも手に入るようにしてやろうじゃないか」
「すみません。そちら様はどなたでしょうか?」
「俺は悪魔だ (Ich bin der Teufel)」
 
すると男は難しい顔をして言いました。
「申し訳ありませんが、あなたに代親を頼むことはできません。だって、あなたって、人間を欺したり悪いこと唆したりするばかり。そんな人には頼めません」(*5)
 
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それで男は悪魔を置いて先に進みました。
 

男が道を歩いて行くと、黒いローブを着て背が高く痩せた女が向こうからやってくるのに出会います。
 
「すみません」
と男は声を掛けました。
 
「何でしょう?」
「唐突に申し訳無いのですが、うちで生まれたばかりの息子の代親になっていただけないでしょうか?」
 
「いいわよ。その子が有名になって、それなりのお金も得られるようにしてあげましょう」
「すみません。そちら様はどなたでしょうか?」
「私は死神よ (Ich bin die Todin)」(*6)
 
と言って女性がヴェールを取ると、その下には骸骨の顔がありました。
 
すると男は喜んで言いました。
 
「あなたは金持ちも貧乏人も等しく扱う。誰も死を免れることはない。あなたに代親をお願いしたい」
 
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「洗礼式はいつ?」
「日曜日の午後1番の予定です(*7)」
「いいわ。じゃ引き受けるわね。ところでその子の名前はもう決まってるの?」
「はい。グレンツ(Grenz)にしようかと思っています」
「へー。変わった名前ね」
「この子は、1年が終わって新しい年が始まる瞬間に生まれてきたんです。それで境界(Grenze)から男名前にして Grenz にしようと」
 
「ああ。いい名前だと思うよ」
 

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「ところでひとつ相談があるんですが」
「なぁに?」
「今うちには子供が13人もいて。私自身の子供が今度生まれた子を入れて5人で、兄たちの子を引き取ったのが8人なのですが、女房ももう29歳だし、これ以上子供を産むのは辛いと思うんですよ。それでここで子供は打ち止めにしたいのですが、何か方法はありませんかね」
 
「あるよ」
「ほんとですか?」
 
「ひとつの方法は、今すぐあんたを死なせること。死んだらもう子供はできない。本当はまだあんたは死ぬ予定ではないけど、私があんたの生命の火を吹き消せば死なすこともできるけど」
 
「すみません。まだ死にたくないし、子供たちを育てないといけないから、どうかそれ以外の方法で」
 
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「んじゃ、あんたの金玉を取っちゃえば子供はできない」
「金玉を取るんですか〜?」
「金玉の中に子種が入っているからね。あんた鍛冶屋だから、家畜の去勢は、いつもやってるでしょ?(*8)それと同じよ。何なら自分で去勢する?」
 
「私、家畜と同じですか〜?」
「人間だって動物だしね。自分でできないなら私が去勢してあげるわよ」
「頼もうかな・・・」
「魂(たましい)を取るのでもいいけど。金玉も魂も“たま”だし」
「魂は勘弁して下さい。じゃ金玉取るのでお願いします」
 
「金玉のついでに、ちんちんも一緒に取ることもできるけど」
「ちんこまで無くなると、小便に困るから、ちんこは取らないで下さい」
「あら。女の人は、ちんちん無いけど困ってないわよ」
「どうか金玉だけで」
「了解」
と言うと、死神は男のお股に手を伸ばし睾丸をつかみ、箱の中に入れました。
 
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「これであんたにはもう子供はできないから」
「助かります。あとは頑張って働いて今居る子供たちを育てていきます」
「うん。頑張ってね。私も草場の陰から応援してるから」
「ありがとうございます。でも洗礼式はお願いしますね」
「ヤー(Ja)」
 

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代親の死神(1)

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