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■振袖モデルの日々(3)

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撮影用の衣装は言われたとおり、高校の女子制服のような感じの服であった。ただしスカートの丈が異様に短い。鈴佳はもう開き直って他のモデルさんたちと一緒に着替え、女子高生の格好になった。
 
「あんた結構その格好似合ってるね。今度いろいろ女の子の服を着せてあげようか?」
などと姉が小声でささやく。
 
「勘弁して〜」
 
撮影はひとつひとつの戦車に数人で寄っかかったり登ったり、あるいは車内から上半身だけ出したりして、笑顔でポーズを取っている所を撮影するというものである。戦車はハリボテなのだが、枠組みは鉄パイプを組んで作られており、ボディをかたちづくる合板も厚いものが使用されていて、何人かで乗っても割と平気っぽかった。
 
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「一応車体の上は慎重に歩いてね。踏み抜いたりしたら危ないし修理代も大変だから」
とスタッフさんから言われる。
 
「壊した時の修理費は壊した人の個人負担ですか?」
と質問が入る。
 
「特に悪質な場合以外は、ちゃんとプロジェクト側で負担するよ。でも怪我したら大変だし」
 
一応鈴佳たち6人はこの日だけ有効の傷害保険に加入させられた(むろん保険料もプロジェクト側負担)。鈴佳は 大沼鈴佳・2002年7月4日生・性別男と記入したものの、スタッフさんが
 
「君、性別間違って丸付けてる」
と言われて、性別・女に修正されてしまった。
 
これって万一本当に怪我したら虚偽登録とか言われて保険金出ないのでは?と少し心配になった。
 
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「お姉ちゃん、この1万円で何買うの?」
と帰りの電車の中で鈴佳は姉に訊いた。
 
「歌手の西本貴明さんへのクリスマスプレゼント」
「そんなの贈っても受け取ってくれるの?」
「一流のお菓子ショップから直送で送ってもらうんだよ。すると実際の品物は福祉施設とかに贈られる。手作りとか個人で配送した物は全て廃棄」
 
「そりゃ手作りだと何が入っているか分からないから怖すぎるよ」
「そうそう」
「でも実際に本人に渡らないのなら意味無い気がする」
 
「貴明さんが福祉施設を応援する形になるからいいんだよ」
「僕には分からない世界だなあ」
 
「鈴佳は何にするの?」
「貯金と合わせてシャープの電子辞書買う。今クラスで持ってないの僕だけなんだよ。お父ちゃんに言ったけど、辞書なんて紙のものを引くから覚えるんだと言われたし」
 
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「私もそれお父ちゃんの意見に賛成だけどなあ」
「そう? お姉ちゃんのクラスでは電子辞書使ってる人いない?」
「使っている人多い。でも敢えて紙の辞書で頑張っている子も多い」
「へー」
 

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「ところで今日の鈴佳、可愛かったよ」
「僕男ですと言おうと思ったけど、報酬の1万円に目がくらんだ」
「まあ1万円なんて、そう簡単にはもらえないからね」
「恥ずかしかったけど、開き直った」
 
「これを機会に時々女装してみない?」
「やだよぉ」
「今日オーディションの時に穿いてた私のスカートは少し大きいみたいだった」
「うん。ずれ落ちそうなのを時々上に上げてた」
 
「じゃ少し小さくなって私が穿けなくなったスカートあげるよ」
「要らないよぉ」
「だって捨てるよりは鈴佳にあげた方がいいし」
「うーん・・・」
 
「じゃ後でまとめて鈴佳の部屋に持って行くね」
「そうだなあ」
 
その時、鈴佳もちょっと今日の女装にやや味をしめた面もあったので、スカートとかもらえるなら、ちょっと部屋の中で穿いてみるのもいいかなと少し思ったのであった。
 
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しかし数日後、部屋に姉の服が段ボール3箱分も置かれているのを見て鈴佳は「うっそー!?」と声を挙げてしまった。
 

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この「戦車ギャル」のモデルのお仕事は来年の春まで何度か呼び出して撮影に協力してもらうこともありますと言われ、連絡先も届けておいたのだが、実際に10月中旬にも姉ともども呼び出しがあった。
 
すると前日、姉は言った。
 
「ねぇ、こないだあんた男物の下着付けてたじゃん」
「だって僕男だもん」
「このお仕事する時はあんた女の子なんだから、女の子下着をつけなさいよ」
「え〜〜!?」
 
「だってみんな一緒に着替えるのに、あんただけ男下着つけてたら変じゃん。こないだは最初だったし、あんたが私の忘れ物届けに来て突然言われてオーディションに参加したことも他の子に言ってたからさ。防寒用に男物の下着をつけてたかと思ってもらえたかも知れないけど、毎回そんなの着てたら、性別疑惑を持たれるかも知れないじゃん。だから女の子下着をつけていこう」
 
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「うっそー」
「だって男とバレたら、こないだの報酬も返せって言われるかもよ。それどころか他の子との絡みで使った写真も使えなくなったといって何十万円もの損害賠償を求められるかも」
 
「そんなの払いきれないよ!」
「だったら、女の子で通すしかないね」
「えーん」
 

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なんか姉に適当に丸め込まれてしまった感もあったのだが、結局それで鈴佳は姉に連れられてスーパーの女性下着売場に連れて行かれる。
 
ふだん接したことのない女物の下着がずらりと並んでいると、鈴佳は緊張して固まってしまう。
 
「何やってんの。おいで」
と言って引っ張って行かれる。視界に大量のブラジャーやパンティや・・・・名前のよく分からない下着が多数入ってくる。なんか変態にでもなった気分だと鈴佳は思った。
 
「あんたどのくらいのレッグが好き?」
「レッグって?」
「例えばこれがハイレッグ。こちらはノーマルレッグ」
「ハイレッグは前が細いんだ?」
「そうそう。更に細くて3〜4cm程度の帯状になっているのをIフロントと言う」
「それ多分こぼれちゃう」
「あ、そうか。あんた余計な物が付いてるからなあ」
「余計な物って・・・」
「それいっそ取っちゃわない?」
「取る〜〜?」
「病院に行って手術して、お股にぶらぶらしてるもの全部取ってもらえばいいんだよ」
「やだ、そんなの」
 
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「じゃ仕方ないなあ。このハイレッグはどう思う?」
「それでもこぼれそうな気がする」
「あんたのってそんなに大きいんだっけ?」
「大きくなった時にこぼれるよ」
「ああ。あれ小さいままにしておけないの?」
「無理〜」
 
「男の子って面倒ね。じゃノーマルレッグがいいか。丈はビキニでいいんだっけ?」
「えっと・・・」
 
「この腰骨にちょうど引っかかるくらいのがビキニ。もっと短くて腰骨に当たる付近で穿くのがローライズ、これがそうね。そしておへそをちょうど隠すくらいがジャストウェスト、更にもっと丈の高いハイウェストもある。おばちゃま達の御用達」
 
「ジャストウェストがいいかなあ」
「でも最近、ズボンの方が股上の短いもの多いんだよね。ビキニでさえはみ出してしまうものもある。ローライズなら、そういう股上の短いズボンでもはみ出さないよ」
 
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「でもこの丈だとまるで穿いてないみたいな感じになりそう。重さで下がるかも」
 
「ああ、余計な重量がパンツの中にあるからなあ。やはりそれ取っちゃおうよ」
「やめて〜」
「仕方ない。ビキニあたりで妥協するか」
「うん。じゃ、そのくらいで」
 

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それで結局ビキニのノーマルレッグのパンティを取り敢えず5枚買っておくことにする。サイズは姉が目で見て「たぶんSでいいな」と言ってSにした。
 
「あんた多分ガードルがいるよね」
「ガードルって?」
「パンティの上に穿いて、体型を整えたりする下着だけど、あんたたぶん余計なものが外に見えにくいようにするのにガードルで押さえた方がいい。ほらこれがガードル」
と言って姉は鈴佳にガードルを1枚触らせる。
 
「凄いバネがあるみたい」
「それで強制的にお尻のお肉を支えたり、お腹の脂肪が目立たないようにするんだよ。あんたの場合はお股の物体が目立たないようにするのに使える気がする」
 
「じゃ買っておくかなあ」
それで姉はミディアムタイプのショートガードルを2枚籠に入れた。
 
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次にブラジャー売場に行く。
 
「あんた何カップだろ?」
「僕胸全然無いよぉ」
「豊胸手術とかする気は?」
「なんでそんなのしないといけないのさ?」
 
「まあジュニアブラでいい気がするよ。私も中学生の頃はジュニアブラ使ってたし。さすがにブラは自分の使ってたのを人にはあげられないけどね」
「それはさすがに遠慮しとく」
 
それで姉は凄く可愛いデザインのジュニアブラを2枚籠に入れた。鈴佳は、「きゃー。こんな可愛いのを僕がつけるの?」と思って頭がクラクラする気分で、それを見ていた。
 
お会計をすると9795円である! もしかしてこれ今度のモデルの仕事の報酬はまるごと姉に渡さなければならないのでは!?
 

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翌日の撮影の現場には先日参加した6人の内の5人しか来ていなかった。来ていない1人は先日の撮影の時に何度もダメ出しをくらっていたので、外されたのかもと玲花と鈴佳は小声で話していた。
 
この日の撮影は水戸市内で学校の教室のようなセット、および船の甲板のようなセットの上で行われた。衣装は先日と同じ、高校の女子制服っぽい服である。5人一緒に控室で着替えたのだが、着替える時に他の3人のモデルさんの視線がこちらにチラっと来るのに鈴佳は気付いた。
 
やはりこないだ男下着つけてたことから、マジで性別疑惑を持たれていたかなと思った。今回ちゃんと女下着をつけているのを見せたから、これでOKだろうか。
 
なお今回の撮影では戦車が無い代わりに、様々な小道具を持って撮影した。戦車の修理に使うのか工具のようなものを持ったり、教科書やチョークなどを持つかと思えば、古い九九式短小銃のモデルガンを持っている所の撮影などもあった。
 
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また身体を寄せ合うようにするシーンもあったが、この時は鈴佳は端に立って玲花とだけ身体が接触するようにしたので、他の女の子との身体の接触は生じなかった。
 
軽い昼食をはさんで9時頃から14時頃まで行われ、報酬はまた源泉徴収後の金額で1万円もらった。鈴佳は「じゃ建て替えてもらっていた分」と言って、その報酬をまるごと玲花に渡した。
 
「おお、さんきゅさんきゅ」
「でも今回はこないだより疲れた気がするのに、実質無報酬になっちゃった」
「まあおやつくらいおごってあげるよ」
「ほんと。ありがとう。お姉ちゃん」
 

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