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■夏の日の想い出(2)

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「結局リリーフラワーズのふたりはヨーロッパ方面で無銭旅行をやっているらしいわ」と須藤さんが呆れたように言った。昨日あれからかなり調べたのだろう。「その分の調整をしようとしてたんだけど、このあと月末までに関東近辺で5回と、提携している大阪の事務所の管轄で2回関西近辺でミニコンサート組んでたのよね」「じゃかなりの移動になりますね」ボクはその時点では『イベントの事務所というのも大変だな』といった程度に思いながら言った。
 
「緊急にスケジュールの調整の付きそうな人に昨夜の内に連絡して空いている日をあげてもらったんだけど、さすがに7回分は埋まらない。特に大阪には、リリーフラワーズに匹敵する実力のある人に行ってもらわないといけないのだけど、そういう実力のある人は今からじゃ調整が効かないのよね」
 
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「どうするんですか?」と中田さんが訊く。
「だからさ、ふたりで月末までリリーフラワーズとして活動してもらえない?」
「えぇ!?」
これには中田さんもボクもびっくりした。
「じゃまたボク女の子の格好するんですか?」
「うん。可愛いからいいじゃない」
ボクは目の前がくらくらとしてきた。
「ギャラは幾らですか?」
と中田さんが尋ねた。彼女は乗り気のようだ。
 
「うちは安いよ。だいたい1ステージ500円」
「えー!?」
「宣伝になるからいいだろう、と言って0円の所もあるから、それよりはマシだと思うけどね。ただ今回は事情が事情だからさ、ギャラとしてじゃなくて、スタッフとしての日当に少し色を付けるというのでどう?」
「色ってどのくらいですか?」
「女の子はこういうのシビアだよね。緊急事態だし。最後まできちんとやってくれたら2割増しにしてもいい」
「3割」
「うーん。。。じゃあ、唐本くんが男の子とバレなかったら3割付けてもいい」
「えー?」とボクが言うのと中田さんが「了解!」と言うのが同時だった。
「毎朝あたしの家に来てもらって、女の子に変身させてから連れていきますから」
「うん。じゃそうして」
「唐本くん用の女の子の服、経費で落ちますよね」
「じゃ領収書回して」
「ステージに立つ時だけじゃなくて、設営スタッフで行く時も今後は女の子の格好ですよね」
「もちろんそうでないと困る」
「じゃ今日からは唐本冬子ちゃんということで」
「話はまとまったね。じゃ今日の唐本さんの服」といって須藤さんが紙袋を渡すのを反射的に受け取って、ボクはこの後どうなるんだろう?とめまいがした。
 
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その日から毎日、ボクは日中「女の子」として過ごすことになってしまった。毎日朝中田さんの家に出かけ、そこで女の子に変身してからイベントのある場所まで行く。帰りは中田さんの家に寄って、男の子に戻ってから帰宅する。4日後にはまたステージで歌うことになった。ボクたちのユニット名は「リリーフラワーズ」を使い続けると、ひょっとして本来のリリーフラワーズを知っている人にぶつかっては面倒ということで「ローズ+リリー」に改められた。前回の盛況の余韻があるので2度目のステージは心にも余裕があった。場所も遊園地のオープンスペースだったので、宇都宮のデパートの時の3倍くらいの人が足を止めて聞いてくれていた。自分の歌をたくさんの人が聞いてくれているのは快感だ。ひと夏だけのことだろうし、面白い体験をしているのかも知れない、という気になってきた。女の子の服を着ていること自体には抵抗感がなくなってきた。メイクも最初は全部やってもらわないと出来なかったのが、口紅の塗り方くらいは分かるようになってきた。
 
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「女の子」に変身したボクを見た花見先輩はびっくりしたようだった。しかしそれ以上に先輩が気にしたのがボクが毎日中田さんの家に行っていることだった。嫉妬しているような言い方をしたら中田さんが「だって冬子ちゃんは女の子なんだから私には興味ないよね」と言った。ボクも悪のりして「はい。私は男の人にしか興味ないです」と言ったら、少し安心した風だった。しかしボクの発言は本気にされてしまった気もした。ホントにこういう気があると思われたらどうしよう、とも思ったが、とりあえず気にしないことにした。
 
翌週には1回目の大阪行きがあった。予算がないので新幹線での日帰りである。ボクたちふたりと、事務所の若い女性・甲斐さんの3人で朝早くの新幹線に乗る。
「冬子ちゃんが女の子ではないことは向こうの事務所の人は了解済みです。ただ、ステージでは明らかに男の子と分かるような言動は慎んでくださいということでした。ハプニング的にバレてしまうのは構わないとのことです」と甲斐さんが言ったが中田さんは「大丈夫。バレませんよ。バレなかったら報酬があがる約束なので、意地でもうまくやりますから」と言った。彼女は確かに燃えている。
 
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大阪でのイベントは何組ものユニットが出演するフェスティバルのような形式だった。入場は無料らしかったが、初めてまともなホールでの演奏になったし、楽屋で大勢の女性アーティストの人と一緒だったので(みんな平気で下着姿になってるし)少し緊張した。しかしステージに立って、伴奏の人が最初の音をくれたのを聞いた途端、気持ちが落ち着いてきて、客席を見ながらノリ良く歌うことができた。本来3曲だけの予定だったのだが、アンコールがすごかったため、進行係の人の指示でもう1曲歌うことになった。ステージの袖に戻ったら次に出演するユニットの人が「凄い!うまい!声がいい!」と興奮していて、いきなり口にキスをされた。ボクのファーストキスは幸いにも女性相手ということになった。
 
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大阪でのイベントが終わった所で「CD無いんですか?」と随分聞かれた。リリーフラワーズのCDはあるのだが、さすがにそれを出すわけにはいかない。済みません、まだ無いんですと言ったら不思議な顔をされた。確かに今時CD-RWがあれば誰でも勝手に自分のCDを作れるから、歌手として活動していて、それが無いほうが変だ。
 
その話が大阪の事務所の側からも来たらしい。翌日事務所に行くと「さてふたりのCD」作ろうか、といきなり須藤さんから言われた。
 
その日は本来は大宮でイベントの設営をする予定だったのだが、そちらは別の人達に行ってもらうことになり、ボクたちふたりは都内のスタジオに連れて行かれた。いきなり見たことのない譜面を渡される。「30分で覚えてね。予算が無いから、録音作業を全部で3時間以内に終了しないといけないから」有名な作曲家の名前がクレジットされていた。「こんな先生に書いてもらったんですか?」と中田さんが嬉しそうに言う。「ああ。5年前に別の歌手用に書いたものらしいんだけど、全くヒットしなかったのよね。勝手に使っていいからと言われてたので流用。でも冬子ちゃんの声に合うと思うのよ。それといつもコンサートで歌っている例の歌。あれはリリーフラワーズの後見人みたいな人が書いたものなんだけど、向こうも恐縮していて自由に使っていいと言われている。それとスタンダードナンバーを3曲」
 
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「3時間で5曲とるんですか?」
「ほとんど一発録りのつもりで行かないと無理ですね」
「うん。ただ多重録音で冬子ちゃん自身にもコーラスに加わってもらうから」
「ひぇー」
 
それはあっという間の3時間だった。大阪までの日帰り往復より疲れた。
「これ売れたら印税もらえるんですか?」
としっかり者の中田さんが訊く。
「あ、それは勘弁して。これがもし売れて2枚目のCDも作ることになったら、その時は印税あげるから」
「分かりました」と中田さんは簡単に引っ込んだ。この答えは予想していたようだ。
 
録音が終わったら、お昼を食べる間もなく写真スタジオに連れていかれた。CDジャケット用の写真を撮ったのだが、これも30分で片づけられた。実際に使うのはこの写真に若干?Photoshopで加工したものになるということだった。プロフィールを付けるからといわれて、生年月日と出身地を訊かれた。
 
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その翌日。その日は水戸市でイベントの設営の予定だったのだが、出演者が昨日入院してしまったということで、ボクたちが出ることになり、この日、出来たばかりのCDも1箱持ち込まれて、コンサートの合間に販売することになった。ボクたちもその時に初めて見たので、ジャケットの可愛らしい写真にさすがの中田さんまで赤面した。「また啓ちゃんに嫉妬されちゃう」などと言いながらも楽しそうだ。CDは持ち込んだ1箱が完売した。サインを求められたので、念のためと言われて練習していたサインをふたりで入れて、全員に売った。売り切れた後も欲しいという人があったので、須藤さんが「通販しますから」
といってURLを書いて渡していた。「このURLは明日からオープンですから」と言っている。
 
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「いつの間にそんなホームページ準備したんですか」と驚いて尋ねると「今夜作る」と平気な顔をして言う。このCDのミキシングやジャケットの画像加工なども全部須藤さんがひとりでやっている。忙しいようなのにパワフルな人だ。
 
しかし自分たちのCDが売れたことがその日はボクたちは嬉しくて、ぐっすり眠ることが出来た。
 
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