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■夏の日の想い出・デイジーチェーン(4)

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2月4日にKARIONの新しいアルバム『四・十二・二十四』が発売された。私たちは当日★★レコードで発表記者会見に臨んだ。
 
この席では、小風・和泉・蘭子・美空が各々、四・十二・二十・四と書いた服を着てこの順序で横に並ぶ。すると文字が回文になっているのである。
 
この場でTravelling Bellsにも入ってもらい『Around the Wards in 60 minutes』、『黄金の琵琶』、『皿飛ぶ夕暮れ時』の3曲を演奏した。『黄金の琵琶』にフィーチャーされている琵琶は風帆伯母のツテで関東在住の40代女性師範・本田旭昭さんという方に弾いて頂いたが、素晴らしい琵琶の音にKARIONの歌が完璧にかすんでしまったものの物凄く大きな拍手が送られた。
 
そして最後の『皿飛ぶ夕暮れ時』の間奏部分では記者会見場の壁際に密かに立っていた《JAPAN》のユニフォームを着た千里が床に置いていたバッグの中に隠していた焼きそばの皿を投げ、私たちが先ほどまで座っていたテーブル中央に何気なく書いていた×印の場所にピタリと停止させた。
 
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歌の最中であるにも関わらず、会見場内から
 
「え〜〜〜!?」
 
という声が多数あがる。
 
千里は投げ終えるとすぐ、手を振って記者会見室から出たものの、ひとりのカメラマンが追ってきて「済みません。お名前を教えてください。バスケット選手の方ですか?そのユニフォームは日本代表のものですよね?」と訊いたので、千里は
 
「ユニバーシアード日本代表候補のシューティングガード村山です。現在日本バスケットボール協会が進めている大改革に国民のみなさんからも励ましを頂けたら幸いです」
 
と笑顔で答えたのが、その局の番組にだけ流れた(このパフォーマンスはむろんバスケ協会の承認済)。
 
しかしこの報道映像はすぐに動画掲載サイトに(違法に)転載され、後で聞いた話では、その映像を見たバスケットA代表のシューター花園さんがメラメラと闘志を燃え上がらせ、その週末の試合では物凄いスリーポイントの嵐を見せたという。
 
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そういう訳でこの記者会見では、タイトル曲の『Around the Wards in 60 minutes』が、最も印象薄くなってしまったようであった!!
 

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2月5日の夕方、私は思わぬ人物から連絡を受けた。政子がその日は美空・穂花と3人でお寿司の食べ放題に出かけて行っていたので(お出入り禁止にならなければいいが)、政子のリーフを借りて、彼に会いに埼玉県某所に出かけて行った。
 
彼は学生らしいコートを着て待ち合わせ場所に居た。リーフの助手席に乗せて取り敢えず道を走る。
 
「どこかお店とかに入る?」
「いえ。もし良かったらこの車の中で。あまり人に聞かれたくないので」
 
と龍虎(アクア)は言った。
 
「じゃドライブスルーで食糧を調達しよう」
と言って、ちょうど見かけたモスバーガーのドライブスルーで、モスバーガーのサラダ・コーヒーセット、ライスバーガー海鮮かきあげのサラダセット・ウーロン茶をオーダーした。
 
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「おごりね」
「ありがとうございます」
 
「でもノンカロリーのサイドメニューだね」
と私は言う。このくらいの世代の子はポテトなどを食べたがる。
 
「実は少食なんです」
「龍虎君、身長体重は?」
「155cm, 35kgです」
「細い!」
「事務所からはこのままの体重でいいと言われています。むしろこれ以上体重が落ちないようにしろと言われてるんですよ」
 
「あそこの事務所は女の子たちも体重が軽くなりすぎないように言っているみたいね」
 
「桜野みちるさんから、私より軽いじゃんと言われました。でも体質的に痩せにくい人も居て苦労してた子もいたよと田所さんが言っておられました」
 
「うん。そのあたりはどうしても体質の差があるからね」
「僕は少々食べても太らないんですよ。やはり小さい頃大病したせいかなとも思うんですけどね」
 
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「そのあたり、上島先生も心配してたよ」
「上島のおじさんは僕にとって『もうひとりのお父さん』だったんですよ」
「だいぶ遊びに連れて行ってもらったりしたんでしょ?」
「そうなんです。田代のお父さんは学校の先生で、部活の顧問とかもしてたから、土日も忙しくて。遊園地に連れて行ってくれたりしてたのは実は上島のおじさんなんです」
 

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「それで実はちょっとご相談したいことがあって」
「うん。私で相談相手になることなら」
 
「実は自分の声のことで悩んでいるんです」
「ふーん。声変わりが遅れていること?」
「実は声変わりが来て欲しくないなと思ってて」
「なるほどー」
 
「でも僕、女の子になりたいとかじゃないんです」
「うん。君は男として生きたいんでしょ?」
「はい。でも今自分が持っているソプラノボイスは維持できないかなというのもあって」
「なるほどね」
 
「だから睾丸を取っちゃうとかは嫌なんですよ。川南さんからは取っちゃえ取っちゃえとか言われるけど」
 
「まあ睾丸取れば、おちんちんも機能を失うだろうしね」
「やっぱりそうですよね?」
「睾丸を取ったら、ほとんどの人がおちんちんは立たなくなるよ」
「やっぱりそれ嫌だ」
 
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「あと子供も作れなくなるし」
「それですけど、何となくですけど」
「うん」
「僕、子供は作れない気がしてるんです」
「検査とかしてもらった?」
「お医者さんに見せたら、男性ホルモン処方されそうだから」
「ああ、それは最悪だね」
 
「だからこんなの変だって言われそうなんだけど、ソプラノボイスは維持したいけど、睾丸は取られたくないし、子供はどっちみち作れないんじゃないかとは思っているけど、男の機能は維持したいんです」
 
「女の子とセックスできる能力だよね?」
と私が尋ねると、龍虎は恥ずかしがっている。
 
「実は僕、セックスってよく分かってなくて」
「まあそれはその内自然に分かると思うよ」
「はい。ただ、おちんちんが大きくならないといけないんでしょ?」
「そうだよ。君、オナニーはしないと言ってたね」
 
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「え〜?それ誰から聞いたんですか?」
「たぶん川南ちゃん経由、千里経由だな」
「ずっと我慢してます。実はおちんちんいじるのは悪いことのような気がして。やはりちゃんとオナニーしないといけないのでしょうか?」
 
「そんなことないと思うよ。無理してする必要はないよ。夢精はする?」
「します。2〜3ヶ月に1度、出ていることがあるんです。出そうな晩は何となく予感がするんで、ティッシュをパンツにはさんで寝ます。すると朝起きると出てるんです」
 
「まるで女の子の生理みたいだね」
「実は・・・・」
「ん?」
「女の子の生理用ナプキンを当ててみたこともあります」
「どうだった?」
「ナプキンは精液を吸収してくれないんですよ!」
「だよねー。実は私も男の子時代にそれで困った」
 
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「ケイさんって、ほんとに男の子だったんですか?」
「そうだよ」
「千里さんが男の子だっというのも時々嘘なんじゃないかと思ったりするんですけど」
「ああ。それは私と千里はお互いによく言い合っているよ」
 
「ケイさんも夢精してたんですか?」
「私はナプキンの上にティッシュをはさんでいた」
「なるほどー!」
「ティッシュだけだと、全部吸収しきれなくてパンティを汚してしまう。だからナプキンをしておくんだけど、ナプキンだけだと全く吸収してくれない。それでナプキンの内側にティッシュをはさむんだよ。こうするとティッシュが精液を吸収してくれるし、ナプキンがあるからパンティーは汚れないんだ」
 
「やってみます!」
 
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そんなことを嬉しそうに言う龍虎が私にはとても可愛く見えた。
 

私は車を脇に寄せて、アクアの事務所の社長・紅川さんに電話した。
 
「おはようございます。ケイです。ちょっとお願いがあるのですが」
「おはよう。何だろ?」
「今度デビューするアクアちゃんですけど」
「うん」
「急で申し訳ないのですが3月15日にちょっと借りられません?」
「ちょっと待って」
 
紅川さんはスケジュールを確認しているようである。
 
「その日は雑誌の取材が入っていたんだけど、これは動かせる。何に使うの?」
「実はその日のKARIONのライブにゲスト出演してもらえないかと思いまして」
「へー! それは凄くいいタイミングだよ。デビューCDが出たばかりでプロモーションとしてもちょうどいい。テレビドラマを見るような世代ってKARIONのファン層と割と近いしね」
「ですね〜」
 
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私はその後KARIONの事務所の畠山社長、KARIONのレコード会社担当・土居さんにも電話して、3月15日のライブにアクアを出演させる件の承諾を取った。
 
「僕がKARIONライブのゲストで歌うんですか?」
「うん。大勢の観客の前で歌うのは楽しいよ」
「あのぉ、それって女の子の服を着ないといけませんか?」
と龍虎は不安そうに訊く。
 
「私はどちらでもいいよ。田所さんと相談して決めなよ」
「良かった。田所さんなら絶対男の子の服を着ろと言う」
「あははは」
 

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私は再び車を出し、あまり混雑しない裏道をのんびりしたペースで走る。
 
「でも会場はどこですか?」
とアクアが訊く。
「金沢スポーツセンター」
「金沢って横浜ですか?」
「石川県の金沢だよ」
「わあ。遠出ですね」
「3月14日に新幹線が金沢まで開通するから、それにタイミングを合わせるんだよ」
「じゃ新幹線での往復になるのかな?」
「飛行機でもいいよ。それも田所さんと相談して。アゴアシ、交通費食費はこちらで出すから」
 
「分かりました。金沢空港とかありましたっけ?」
 
「金沢には空港は無い。石川県内に小松空港・能登空港とあるから、どちらかを使うことになると思う」
「へー。そうだ大きい会場ですか?」
「5000人。チケットは売り切れている」
 
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「きゃー! 5000人の前で歌うんですか?」
「でもアクア、その前に3月7日には復興支援イベントで数万人の前で歌うことになるよ」
「あれもけっこう不安なんですよー」
「大勢の前で歌った経験は?」
 
「今まで経験しているのは、去年の夏に中学のコーラス部で1000人くらいのホールで歌ったのが最大です」
 
「ああ。コーラス部に入ってるんだ?」
「3月にプロデビューするので2月いっぱいで退部することにしています」
「まあ、そうなるよね。アクアちゃん、声が高いからテノール?」
 
「いや、それが・・・」
「ん?」
 
「ソプラノに入れられて、女子の中でひとりだけ男子制服着て歌ってました」
「なるほどー」
「僕、テノールの音域は出ないんです」
「まあ、ソプラノの子には無理だよね。アルトの子なら何とかなる子もいるけど」
 
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「それやってたら、あんたも女子制服着ない?って随分言われましたけど」
「着ればいいのに。写真見たけど女子制服姿似合ってるじゃん」
 
「えーー!? あの写真見たんですか!?」
 
私はつい笑ってしまった。
 

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「再確認するけど、龍虎って女の子になりたいんじゃないんだよね?」
「それは絶対嫌です」
「了解了解」
 
「でも・・・」
「ん?」
「今月、コーラス部の新人大会があるんですよね」
「うん」
「僕2月いっぱいで退部するから、その大会には出なよと言われているんですけど」
「うん。出ればいい。紅川さんには話した?」
「はい。それは出ていいということで、スケジュール調整して頂きました」
 
「あ、それで女子制服を着て出る?」
 
と私が訊くと、龍虎は
 
「どうしよう?」
と悩むように言った。
 

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「あ、それでね。金沢に誘った理由なんだけど」
と私はいちばん大事な話をする。
 
「あ、はい」
「金沢の近くに高岡というところがあって、そこに私の友人でヒーリングの達人がいるんだよ」
「はい?」
 
「作曲家のすずくりこさんが、全く耳が聞こえなかったのが、彼女のセッションを受けて、今ごく低音だけに限れば2オクターブくらい聞こえるようになったんだよ」
 
「凄い」
 
「私のバストも実は彼女にホルモンの分泌を調整してもらって、ここまで発達したもの」
と言うと
「へー!いいなあ」
などと言っている。ふーん。
 
「龍虎も、おっぱい欲しい?」
「要りません!」
 
私は笑いたくなるのをこらえながら彼に言う。
 
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「それでさ、彼女ならたぶんできる。さっき龍虎が言っていたこと」
「はい?」
 
「男性機能を維持したまま、声変わりだけは来ないようにすること」
 
「ほんとですか?」
 
「多分永久には無理。でもおそらく龍虎が20歳になるくらいまでは、声変わりを停めておくことができると思うよ。男性としての身体はちゃんと発達させながらね」
 
「わぁ・・・」
 
アクアは凄く嬉しそうな表情をしたが、私にはその表情は、少女の表情だと思った。
 
「それとも体つきも女性のような体つきになりたい?」
「えーー!?」
 
その反応を見て、ああやはりこの子、自分が男になりたいのか女になりたいのか、自分自身で迷っているなと思った。
 
「まあ、決断しなければならなくなる時期まで悩むといいよ」
「はい」
 
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「ちなみに、彼女は青葉と言って、千里の妹だよ」
「へー!そんなつながりが?」
 
と龍虎は驚いていたが、人間と人間のつながりもデイジーチェーンだよなと私は思った。
 
 
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夏の日の想い出・デイジーチェーン(4)

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