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■夏の日の想い出・デイジーチェーン(3)

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翌日2月1日。朝10時から女子の準決勝2試合が隣のコートで同時に行われる。Bコートが東京40minutes対千葉ローキューツ、Cコートは東京江戸娘対茨城サンロード・スタンダーズという組合せだった。
 
40minutes対ローキューツの試合はローキューツのOGが何人も40minutesに在籍していて、試合前お互いに手を振り合ったりする和気藹々ムードで始まるが、試合開始のジャンプボールの後はお互い激しい闘志を燃やした試合となる。
 
ローキューツ側がキャプテンの薫や水嶋ソフィア・風谷翠花などを中心に激しく攻め立てる一方、40minutesはポイントガードの森田からフォワードの竹宮・溝口を使い分ける攻撃が相手を翻弄し、少しでも油断すると千里のスリーが来るのでこちらは防御がしづらい感じである。
 
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試合は前半はシーソーゲームで推移したものの、後半40minutesが中嶋・橋田を投入したあたりで差が付き始める。40minutesは年齢層が高く体力では劣るものの選手層が厚く、若くて体力があるものの10人で戦っているローキューツは後の方になるとさすがに運動量が落ちてくる(この大会は選手が16人までエントリーできて、40minutesは16人入れている)。
 
結局92対82で40minutesが勝利。千里たちが選抜大会の切符を獲得した。
 
試合後、お互い笑顔でハグしあっている様子が見ていて気持ち良かった。
 

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男子の試合をはさんで、3位決定戦と決勝戦が同時進行で行われ、3位決定戦では私のローキューツがサンロード・スタンダーズを倒した。
 
一方の決勝戦は江戸娘対40minutesという、東京都予選の再現となる。東京都予選の時は40minutesは実は9人しか来ていなかったのが今回は16人来ていて戦力が整っていたことから、体力に余力がある40minutesが準決勝の疲れが残る江戸娘を圧倒して勝利。優勝した。表彰式では1位40minutesの左右に江戸娘とローキューツが並ぶ形になった。
 

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祝賀会を「お互い知り合いばかりだし」ということで、40minutes,ローキューツ、江戸娘の3チーム合同でやることになった。
 
「へー、ローキューツのオーナーが交代したのか」
と江戸娘の人たちから声が出る。
 
「皆さんよろしくお願いします。オーナーと言っても大会の参加費や遠征費を出すだけで何もしませんけどね」
と私。
 
「いや、それだけでもありがたい」
「今回の大会もうちは車の乗り合いで来ているし」
 
「だったら取り敢えずこの打ち上げの会計は全部ケイが出しますよ」
と打ち上げだけ出席している雨宮先生が言う。
 
へ?
 
「お、凄い!」
「ごちになります!」
「たくさん食べていいですか?」
と江戸娘の人たち。
 
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「どうぞどうぞ」
と雨宮先生が言っている。
 
「雨宮先生、ここは自分のおごりだとおっしゃるかと思いました」
と千里が笑いながら言っている。
 
「そりゃ、こういうのはお金持ちに出させなきゃ」
と雨宮先生。
 
まいっか。
 
「でも江戸娘さんほどの強いチームなら、どこかスポンサーが付きませんかね」
「企業から声を掛けられたことはあるんですけどね」
「自主クラブチームならではの自由さをむさぼっているからなあ」
「まあスポンサーが付くと、それなりの義務も出てくるでしょうね」
「そうなんですよ」
 
「ただ、どうしても現状みたいに全部個人負担だと、経済的に続けられずに辞めていく子もけっこういるんだよね」
「そうそう。それでどうしても戦力が伸びないんだ」
などという声もあがっている。
 
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「その年間の経費ってどのくらい掛かるの?」
と雨宮さんが千里に訊いている。
 
「昨年のローキューツは色々大会に出たので200万、40minutesはまだ結成1年目で遠征が少なかったから50万円くらいでしたよ」
と千里。
 
「じゃ大いに活躍しても500万は超えないよね?」
「そこまで行くともうプロチームレベルだと思います」
と千里。
 
「だと思います。そんなに頻繁に大会に出ていたら、さすがに会社クビになっちゃいますよ」
と江戸娘OG(江戸娘の創設者らしい)で現在は40minutesのキャプテンを務める秋葉さんが言う。
 
「よし。だったらそれ上島雷太に出させよう」
「おぉ!」
 
「企業とかなら縛りが出そうだけど、作曲家なら構わないでしょ?」
と雨宮先生が訊くと
 
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「上島雷太先生が出資してくださるのでしたら大歓迎です」
と江戸娘のキャプテンの青山さんが隣に座っている監督さんを見ながら言う。
 
「じゃ今度引き合わせるよ」
「よろしくお願いします」
それで雨宮先生は江戸娘のキャプテン・監督とアドレスの交換をしていた。
 
「だけど雨宮先生、ご自分で出すんじゃなくて、上島先生に頼むんですね?」
と私は訊く。
 
「そりゃ、こういうのはお金持ちに出させなきゃ」
と雨宮先生は言った。
 

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小田原からの帰りの運転は、千里が試合で疲れているので矢鳴さんにお願いした。ということでエルグランドの初遠出は往復とも私は運転しなかったのだが、千里にしても矢鳴さんにしても、ほんとに運転がうまく乗り心地がいいので、私は行きも帰りも結構助手席で眠っていた。
 
東京に着くとまず雨宮先生を御自宅で降ろし、それから恵比寿の私のマンションに戻る。ここから★★レコードまでは歩いて行ける距離である。一応矢鳴さんはそちらに寄ってから自宅に戻るということであった。千里は千葉まで戻るのもしんどいし泊めてというので泊めることにする。
 
「桃香がまた彼女連れ込んでいるみたいでさ」
と千里は言う。
 
「千里と桃香の関係ってどうなっている訳?」
と私は尋ねる。
 
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「土日は桃香は誰か他の子とデートしているものと私は割り切っている」
「桃香のこと好きじゃないの?」
「正直、私は女の子には興味ないから」
「むむむ」
「実際問題として、半ば家族のような感覚。友だち以上恋人未満ってところかなあ。まあ桃香とは日常的にセックスはしてるけどね。たぶん冬と木原さんの50倍はセックスしてるよ」
 
「うっ」
 
話が突然こちらに飛んできたので私は焦る。
 
「冬も本当は男の子には興味無いんじゃないの?実は政子ひとすじでしょ?」
「えー!? そんなことないけどなあ」
「冬の前だから言うけどさ。私は今でも貴司のことが好きなんだよ」
と千里は言った。
 
「他の女性と結婚しちゃっても好きなんだ?」
「うん」
と頷く千里を私は凄く可愛いと思った。
 
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「千里、実は細川さんとセックスもしてるでしょ?」
 
その問いかけに対して千里は照れるような笑いを見せた。そして言った。
 
「好きな人がふたり居る状態ってさ、実は二等辺三角形じゃないよね。どうしても不等辺三角形になると思う」
 
千里がそんなことを言った時、私の脳裏に唐突にインスピレーションが湧いた。そして次の瞬間、千里はバッグの中からさっと五線紙と万年筆を出して私に渡した。
 
「あ、ありがとう」
「いい曲書いてね」
「うん」
 

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千里と一緒にエレベータを出て部屋に戻ると、政子が裸で居間の床に寝転がり
「冬〜。お腹空いた」
などと言う。
 
私が千里を連れていたのでビクっとしたようだが、千里ならいいかという感じで結局、服を着に行く気配は無い。
 
「じゃ、私が何か作るよ。冬はその曲をまとめているといいよ」
と千里が言うので、お願いすることにした。
 
千里は冷凍室の中身をチェックして、豚肉を解凍しはじめる。一方でキャベツとピーマンを切る。30分くらいで巨大中華鍋にたっぷりの回鍋肉(ホイコーロー)ができあがった。
 
政子は結局裸のままテーブルに座り
「美味しい美味しい」
と言って食べている。
 
私はその様子を微笑んで見ながら曲を仕上げていった。おおかた書き上げてからタイトルの所に『scalene triangle』と書いた。するとひとりで中華鍋の中身の9割ほどを食べた政子が、少しお腹が満ち足りたようで、譜面を覗く。
 
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「これ恋歌だね」
「うん。歌詞付けられる?」
「任せなさい」
と言って政子は私が持っていた万年筆を受け取ると、スイスイと歌詞を譜面に書き込んでいく。
 
私はいつものことなので頷きながら見ていたが、千里は
「すごいね。ちゃんと冬が思いついたであろうイメージと同じ内容の歌詞になっている」
と感心したように言った。
 
「私と冬は以心伝心だから」
と政子。
「結婚して・・・3年くらい?」
と千里が尋ねる。
 
「結婚式を挙げたのは2012年3月11日」
と私が答えると
「よく覚えてるね!」
と政子は言う。
 
「でも政子、その日の曜日と六曜は分かるよね?」
と千里が訊くと、政子は歌詞を書きながら
 
「2012年3月11日なら、日曜日で友引」
と即答する。
 
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「さすがさすが」
 
「この手の計算能力って一生維持できるものだと思う?」
と私は千里に訊く。
 
「昔の大数学者とかには、そういう能力を一生持ち続けた人が多い。記録を見てみると、気の遠くなるような桁数の連分数の計算とかをほとんど暗算でやっていたりするっぽいんだよね。そういう人たちが天体の軌道計算とかをしていたんだよ」
 
と千里が答える。
 
その時、私は新たに曲の発想が得られた。
 
「五線紙どうぞ」
と千里が差し出す。
 
「ありがとう」
と言い、私は机から《金の情熱》を取り出すと、五線紙にメロディーを書き込んで行った。
 
タイトルの所には『Daisy Chain』と書いた。
 
連分数→数珠つなぎ→デイジーチェーンという連想であった。
 
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作詞中の政子、作曲中の私を見て微笑みながら千里がコーヒーを入れてくれてファンから頂いたお菓子の箱をひとつ持って来て開けてくれた。
 
「さんきゅ、さんきゅ」
と良いながら政子はチョコレート菓子をつまみながらペンを走らせていた。
 
「でもこの万年筆すごく書きやすい。誰の?」
と政子が訊く。
 
「私のだよ」
と千里。
 
「もらえないよね?」
と政子。
「ダメ」
と千里。
「ケチ」
「それ大事な万年筆だもん」
 
「それ今気付いたけど、何か文字が書かれている」
と私。
 
「ん・・ 3P Champion 2011 FIBA world... エフ・アイ・ビー・エーってどういう意味だっけ?」
 
と政子は文字を途中まで読んでから千里に訊いた。
 
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「フェデラッション・アンテルナショナル・ドゥ・バスケットボル(Federation Internationale de BAsket-ball)」
と千里は美しいフランス語で発音した。
 
「あ、バスケットボールの国際協会か。なんかの大会でもらったの?」
政子は音で聞いただけで分かったようである
 
「まあね。でも、そんなの過去の栄光だよ。過去の栄光にしがみついていたら、自分も過去の人になってしまう。だから私はこういう記念品はどんどん普段使いにする。さすがに人にはあげないけど。でもまあ、運が良ければ将来新たな栄光を得られるかも知れないけどね」
 
と千里は言う。
 
私はそれってローズ+リリーについても言えるぞと思った。ローズ+リリーはここ2年くらい、ある意味最高の時間を過ごした。正直、将来これ以上評価をされることはないと思う。現在続いている連続ミリオン記録もたぶん今年中には途切れてしまうだろう。しかしその「栄光」にだけひたっていたら、自分達はすぐに人々から忘れ去られるだろう。
 
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そんなことを考えていたら政子が質問する。
 
「この3Pって、3人でセックスすること?」
 
私も千里もつい吹き出してしまった。
 
そしてこの日政子はずっと裸のままであった。
 

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