広告:放浪息子(1)-BEAM-COMIX-志村貴子
[携帯Top] [文字サイズ]

■夏の日の想い出・食事の順序(7)

[*前p 0目次 8時間索引 #次p]
1  2  3  4  5  6  7  8 
前頁 次頁 時間索引目次

↓ ↑ Bottom Top

この年は引越ラッシュだった。4月3日に和泉がそれまで住んでいた神田の賃貸マンションから、すぐ近くの分譲マンションに引っ越した。美空は5月1日にそれまで実家住まいだったのが、中央線沿線の交通の便の良い所にワンルームマンションを借りて引っ越した。
 
その直後にXANFUSの音羽が分譲マンションを買って引っ越した。音羽と光帆は事実上音羽の賃貸マンションで同棲状態にあったのだが、やはり元々独り暮らし用のマンションだったのでふたりで暮らすには手狭ということでふたりで半分ずつお金を出し合ってマンションを買ったようである。表向きは音羽だけの引越だが、光帆の賃貸マンションは実質もぬけの殻であって、ふたりの新居ということのようであった。私と政子、和泉・美空・小風の5人で「引越祝い」に行ったが
 
↓ ↑ Bottom Top

「えっと、引越祝いで良いんだっけ? 結婚祝いと書くべきだった?」
などと政子が言うと、ふたりは照れていた。
 
「でも未来(光帆)のマンションって使ってないんでしょ?解約しないの?」
「それをやるとホントに同棲していることになっちゃうから勘弁してくれと、事務所から言われているんだよね。だから実は私のマンションの家賃は1年前から事務所が払っている」
「なるほどねー」
「そして今回の引越を機に住民票もここに2人とも移した」
「ほほぉ」
「冬たちと一緒だよ」
 
実は私の住民票は、大学1年の時に車を買った時の車庫証明の都合で政子の実家の住所に置いている。大学近くのマンションを契約した時に移すつもりだったのだが、あの時期ひじょうに多忙だったので、住民票の移転は放置していた。それで結果的にそのままになっているので、私と政子は住民票の上では大学1年の時から同棲状態にある。
 
↓ ↑ Bottom Top

「冬は今のマンションに移る前に一時期杉並区内のアパートに住んでたよね?」
と小風が言う。
「あそこに来たのは小風だけだね。でもよく杉並区内って覚えてたね」
「それ何のために借りたの?」
「実家暮らしだと制約が多いから、フルタイム女の子として暮らそうと思って」
「よく分からんな」
「冬って中学生頃から既にフルタイム女の子として暮らしていたはず」
 

↓ ↑ Bottom Top

そして7月14日に私と政子も引っ越したが、これも音羽たちと同様、表向きは私だけの引越であって、政子は表向きは実家に住んでいることになってはいるが、実際問題として、私と政子はいつも、マンションあるいは政子の実家のどちらかで一緒に寝ている。
 
結局、08年組でこの年引越しなかったのは、小風だけである(小風は実家に住んでいる)。
 
「小風は実家暮らしで不便は無い? 家族とすれ違い生活になってるでしょ?」
 
「うん。でもお母ちゃんがいつも私の夜食を用意していてくれるし、家の構造の関係で、うちのトイレ、夜中に流しても寝室まではその音が聞こえないんだよ。だから、確かにすれ違いではあっても、お互いにあまり気にすることなく生活してる感じ。私は少々まわりがうるさくても寝ていられるから、昼間仮眠しておくのも全然問題無いし」
 
↓ ↑ Bottom Top

「しかし夜食を用意してくれてるお母さん、偉い」
「晩御飯を私の分だけ分けておくだけ、とは言ってくれてるけどね」
 

↓ ↑ Bottom Top

引越の少し前から貴重品や楽器などを自分で運んだのだが、この作業に《クロスロード》のメンツである、和実・桃香・千里の3人がかなり協力してくれた。淳さんやあきらさんも時々顔を出してくれたし、和実の古くからの親友で梓という子も手伝ってくれた。この子は私の成人式の時に、浮いてしまった振袖をもらってくれた子である(形式的には期限無しの無償レンタル)。振袖の御礼に力仕事くらい頑張りますと言って自分の車を持って来ていろいろ運んでくれた。
 
また、千里の高校時代からの友人で溝口麻依子さんという人も手伝ってくれた。この人はバスケをするということで腕力があり、大いに戦力になった。重いのであまり気は進まないけど運送屋さんに頼もうかとも思っていた電子キーボードや音響機器にパソコンの類いを運んでくれて助かった。
 
↓ ↑ Bottom Top

「でも事務所の人は使わないの?」
と千里から訊かれたものの、
 
「UTPのスタッフって少ないからさ」
と私は答える。
 
この時期のUTPの社員は、須藤社長・大宮副社長・松島制作部長・諸伏育成部長のほか、平社員が桜川悠子・甲斐窓香の2人、それに常勤に近いバイトの汐田早波さんという7人である。正直力仕事ができそうなメンツは大宮さんだけだが大宮さんは無茶苦茶忙しく飛び回っている。
 
「言えば協力関係にある△△社や○○プロからも人を出してくれるだろうけど、実はあまり事務所の関係者には見られたくない性質のものもあるんだよ」
 
「ああ。でも政子さんに見られたくないものもあるんじゃない?」
「それは言いっこ無しで」
 
↓ ↑ Bottom Top

「まあ私たちはただで御飯が食べられていいけどね」
と千里は笑って言っていた。
 

引越の当日は運送屋さんの最初荷造り部隊がやってきて、食器や寝具、書籍やCDなどをどんどん梱包していく。その作業がだいたい5時間ほど掛かり、その後運送部隊がやってきて、梱包された荷物をどんどんトラックに積み込む。エレクトーンはスペシャルチームの担当である。
 
新宿区内から渋谷区内へ、引越の移動距離としては8kmほどなのでトラックはすぐ新居に到着する。するとその荷物を新居に運び込み、家具などを所定の場所に設置して、運送屋さんの作業は完了である。
 
「この荷物の梱包を解くのに時間がかかるかもね」
と顔を出してくれた和泉・美空・小風の3人が言う。
 
↓ ↑ Bottom Top

「大学1年の時の引越では荷物を完全に解くのに1年くらい掛かったね」
と政子が言う。
 
「私なんか大学1年の時に引っ越したまま開けてない段ボールを今回の引越でそのまま移動させたのがある」
と和泉。
 
「それは不要品では?」
「4年間使わなかったってことでしょ?」
「いや捨てる訳にはいかない」
 
その日は、私と政子、和泉・美空・小風に、少し遅れてやってきた音羽・光帆まで入れて7人でしゃぶしゃぶをして食べて、引越祝いとした(政子は焼肉を主張したがさすがに初日から焼肉というのは私が抵抗した)。音羽たちは引越祝いと称してレミー・マルタンを持って来てくれて、しかも全員に強制的に飲ませたので(気付いた時には部屋にあったファンからの贈り物のお酒も何本も開いていて)、最後は全員酔ってダウンしてしまった。
 
↓ ↑ Bottom Top


翌日7月15日、私はまだ酔いつぶれている人たちを放置して、青山の★★スタジオに出て行く。
 
ゴールデンシックスの花野子・梨乃に、氷川さんと鷲尾さん、∞∞プロの谷津さんと菱沼さんが来ている。
 
「わあ、来てくださったんですか!ありがとうございます」
と花野子が私を見て言う。
 
やがてゴールデンシックスの元メンバーたちがぱらぱらとやってくる。彼女たちは、普段の活動には参加しないものの、音源製作の時はいつも来てくれているのである。そして、そこに千里もやってきた。
 
「あれ?千里も来てくれたんだ?」
と花野子が驚いたように言う。
 
「うん。予定になかったけど、ケイさんがちょっと来いというからね」
「おぉ」
 
↓ ↑ Bottom Top

千里を知っているのが谷津さんだけのようだったので、氷川さんたちや菱沼さんに紹介する。
 
「ゴールデンシックスの曲の大半を書いている作曲者の醍醐春海さんです。ゴールデンシックスの前身バンドDRKの元メンバーなんです」
と谷津さん。
 
「うん、とりあえずそういうことでいいかな」
と千里。
 
「私の親友です」
と私が言う。
 
「そしてリーフのお姉さんなんですよ」
と私が氷川さんの方を向いて説明すると、氷川さんは驚いていた。
 
「醍醐さん、KARIONを初めとして、鈴木聖子とか槇原貞子とかにも書いてますよね?」
と氷川さんが言う。
「ええ、あまり売れてないですけど」
 
「そしてここだけの話ですけど、彼女は大西典香や津島瑤子の作曲者・鴨乃清見でもあるんだよね」
 
↓ ↑ Bottom Top

「えーーー!?」
と氷川さんが再度驚く。その話は全然知らなかったようであるが、谷津さんまで
 
「あれ?そうだったんですか?」
などと言っている。
 
花野子たちも知らなかったようで驚いたような顔をしている。
 
「だからポスト大西典香としてゴールデンシックスをデビューさせるという話を聞いた時は、私、ほんとにびっくりしたんですよ」
と千里。
 
「事務所もソングライトスタッフもそのままで、歌手だけとっかえるようなものだもんね」
と私。
 
「いや、そういうお話なら、むしろ生徒が辞めちゃったので代わりに先生が出てくるって感じですね」
と氷川さんは言う。
 
「もしかして醍醐さんって★★レコードの屋台骨を支えている作曲家のひとりでは?」
と鷲尾さんが言うが
 
↓ ↑ Bottom Top

「それはケイさんですよ。私は作曲数としても年間30-40曲にすぎないし、大西典香、鈴木聖子、KARION、津島瑤子、みな埋め曲専門ですから」
 
などと言って千里は笑っている。
 

↓ ↑ Bottom Top

その日、千里の相棒の葵照子(琴尾蓮菜)は来ていなかったが、楽曲の演奏は次のようなメンバーで行われた。
 
Ld.Gtリノン(矢嶋梨乃) Rh.Gtアンナ(前田鮎奈) B.タイモ(村山千里) Dr.キョウ(橋口京子) Pf.カノン(南国花野子) Vn.マドンナ(水野麻里愛)
 
これに花野子の大正琴、千里のフルート/篠笛/龍笛、麻里愛のグロッケンシュピール、京子と鮎奈のツイントランペットを重ねる。千里が来ていなければベースは花野子、ピアノを麻里愛が弾いて、ヴァイオリンも後から重ねる予定だったらしい。蓮菜も来ていれば蓮菜がグロッケン担当らしい。
 
「元々のDRKは進学校で補習とかの隙間を使って練習していたから来れるメンバーが少なかったんですよね。だから、楽器のやりくりが多くて、みんな複数の楽器を覚えたんですよ」
と花野子が説明する。
 
↓ ↑ Bottom Top

「あ、そうそう。こちらのリズムギター担当アンナは、KARIONの美空の従姉ですから」
と千里が紹介すると、それも氷川さんたちは驚いていた。
 
「ちなみに従姉さんは今お勤めですか?」
と氷川さんが訊くが
「医学部6年生でーす」
と鮎奈は答えた。
 
「花野子と梨乃以外の4人は全員学生だもんね」
「医学部の6年生か修士課程の2年生だよね」
「今日来てない蓮菜こと葵照子も医学部6年生だし」
 
「まあ学生だから平日にも出て来られるというのはある」
「来年以降の音源製作は土日中心にならざるを得ないだろうね」
 

↓ ↑ Bottom Top

「でも醍醐さんが持っておられるその笛、なんか凄いですね」
と氷川さんが言った。
 
「このフルートは白銅製の安物ですよ」
「いや、その日本式の横笛2本がどちらも何だか凄い」
 
「こちらの龍笛は煤竹というもので作られています。古い民家で何十年も囲炉裏の煤を浴びた竹を素材にしてるんです」
「なんか凄い」
「貴重なものですね」
「ええ、貴重ですけど、そんなに珍しいものではないですよ」
「へー」
 
「こちらの篠笛は鑑定してもらったら鎌倉時代頃の作品らしいです」
「えーーー!?」
「そんなの、どこで入手したんですか?」
「幽霊からもらったんですよね」
「へ!?」
 

↓ ↑ Bottom Top

ひととおりの演奏が終わったところで少しおしゃべりしていたら、技術者さんが難しい顔をしてくる。
 
「さきほどの演奏で、途中で落雷があった所なんですが、確認したら、落雷の音が音源に入ってしまっているんです。この付近だけでもいいので再度録り直したいのですが」
 
ところがそれに対して花野子が言う。
「千里が龍笛を吹くと、必ず落雷があるので、その音は演奏の一部ということにしてください」
 
「えーーーー!?」
 

↓ ↑ Bottom Top

7月23日、KARIONの23枚目のシングル『コーヒーブレイク』が発売された。その発売記者会見には、KARIONの4人、事務所社長の畠山さん、レコード会社担当の滝口さんに加藤課長が出席した。KARIONの新曲発表記者会見に私が出席するのは実に、デビューCD『幸せな鐘の調べ』以来、6年半ぶりである。もっともデビューCDの記者会見に私が出席したことは多分誰も覚えていない。
 
この記者会見の冒頭、和泉は発言する。
 
「KARIONの9月発売予定でしたアルバムですが、これをミニアルバムに変更させて頂いた上で、来年2月にフルアルバムを発売することにします」
 
「それはもしかして、ローズ+リリーのアルバム発売延期に対応した動きでしょうか?」
と記者から質問が出る。
 
↓ ↑ Bottom Top

「その通りです。ずるいと思いません? 人には今年は短期間でアルバム制作するからと言っておいて、唐突にやはり去年同様時間を掛けて作りますと言い出すなんて」
と和泉が本当に怒ったように言うと失笑が漏れる。そこで私が
 
「全くですね。ケイちゃん、マリちゃん、抜け駆けは良くないですよ」
などというと、失笑は爆笑に変わった。
 
「でもケイちゃん、ずるーいと言ったら、ごめーんと言って、1曲マリ&ケイの作品を提供してくれることになりました」
と和泉。
 
これにはざわめきが起きる。
 
「そういう訳で、9月発売のミニアルバム、6曲構成は、和泉+歌月、マリ&ケイ、広田&花畑、葵&醍醐、櫛&黒木、福留&相沢、という6組のソングライトペアから1曲ずつ提供していただいたものになります」
 
↓ ↑ Bottom Top

↓ ↑ Bottom Top

前頁 次頁 時間索引目次

[*前p 0目次 8時間索引 #次p]
1  2  3  4  5  6  7  8 
夏の日の想い出・食事の順序(7)

広告:マリーエウィッグ-真っすぐストレートフルウィッグ(ネット付き)-フルウィッグ-)