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■夏の日の想い出・食事の順序(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2014-06-21
 
「こないだ私、浜名麻梨奈さんとバッタリ会ってさ」
と私はその話を始める。
 
「それでまあ軽く一杯と言われて、付き合ったんだけど、私が水沢歌月だったという話から、この世界、けっこう複数の名義を使い分けてるクリエイターも多いよねという話になってね」
「確かに」
 
「それで桜島法子=夏風ロビンなのでは?って話が出てね」
「私も多分そうだと思ってた」
「千里も?」
 
桜島法子は2010年に唐突に出て来た作曲家である。木ノ下大吉先生から楽曲の提供を受けていたアイドル歌手・坂井真紅(さかいまこ)の曲を、木ノ下先生の引退後、ずっと提供しているがそのプロフィールは謎に包まれている。
 
一方の夏風ロビンは春風アルト(後の上島雷太夫人)の後輩のアイドル歌手だったが、2008年に制作方針をめぐって事務所と対立、芸能契約解除を申し入れたものの事務所が拒否すると、横浜エリーナ公演の当日会場に現れないということをやって裁判絡みの大騒動となった。しかし作曲家・東郷誠一さんの仲介で和解に至り、2009年夏にロビン自身が雑誌などに謝罪広告を掲載すると共に他の事務所に移籍することで事務所側と合意した。その後はシンガーソングライターとして活動しているが、あまり売れていない。
 
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「だってロビンちゃん自身が歌っている曲と坂井真紅(さかいしんく)ちゃんの曲の波動は似てるよ。多分、ロビンちゃんの書いた曲を誰かが調整しているんだと思う」
 
「ああ、それはあり得るね。ちなみにあの子《しんく》じゃなくて《まこ》と読むんだけどね」
「え?そうなの? 知らなかった」
「あの子、紅白歌合戦でも司会者から《しんく》と呼ばれちゃった」
「あはは、司会者泣かせだ」
 
「それで浜名さんはその説を伊賀海都さんから聞いたと言うんだよね」
「ほほお」
「ふたりで両者の曲の譜面を見比べてみると、確かに同一人物の作品かもと思うようなフレーズがあったりするらしい」
「なるほど、そういう細かい所までは分からないや」
 
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「で、伊賀さんと、浜名さんが話していて、もう1つ出て来たのが、鴨乃清見=醍醐春海では?という話なんだけど」
と言って、私は千里の反応を見る。
 
「その件は契約上の問題があるからマスコミとかには話さないで欲しいんだけど、実際大西典香や津島瑤子に楽曲を提供している作曲家集団、鴨乃清見というのは、ほぼ私と相棒の葵照子だよ。スポットで参加するクリエイターは、その都度たくさんいるけどね」
と千里は答える。
 
「やはり」
「でも大西典香は実際には上島ファミリーだし、津島瑤子は立川示堂先生に付いてるからね」
「うん。確かに大西典香のタイトル曲は上島先生が書いていた。でもタイトル曲以外の曲はシングルでもアルバムでも鴨乃清見が書いている。津島瑤子はここ数年、立川先生の書く演歌と鴨乃清見のポップスとをカップリングするという独特の制作手法で安定した売上をあげている」
 
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「実際には大西典香のシングルのカップリング曲は毎回私と葵が書いていた。でもアルバムの場合は多数の作家が参加しているよ、毎回」
「なるほどねえ」
「ただしコンペとかはしてない。ある程度信頼のおける人に頼んでいる」
「ああ、コンペとかの作品ではないとは思ってた。曲想が安定してるんだよ。曲を書き慣れた人の作品」
 
千里も頷いている。
 
「私たちはマリ&ケイみたいに毎日1曲みたいな書き方はできないから、自分たちの作品だけでアルバムを埋めることはできない。だいたい1週間に1曲が限度だよ」
「まあ、それが普通だね」
 
「続けて3曲くらいまでは書ける。でもその後は1ヶ月くらい書けない時間ができる。創作の泉の湧出量がマリ&ケイとは比べるべくもないほど小さい」
 
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「いや1週間に1曲書ける作曲家は充分多作な部類。私や上島先生が異常なだけ」
「うん、異常だと思う。だからケイは10人いるなんて話になる」
 
「元々大西典香のデビューCDも全曲鴨乃清見だったね」
「そうそう。あれは実際には私たちを含めて5組のソングライターで書いてるんだけどね。最初大西典香はアルバムだけで売る方針だったんだよね。大人向けの売り方だし、それで作曲クレジットがひとつの名義だから、ファンの中には鴨乃清見は大西典香自身と思い込んでる人も多かったね。実際大西の作品を入れたこともあった」
 
「デビューして1年くらいしてからだよね。上島先生が関わったのは」
「うん。映画のテーマ曲『Rain Drops』を映画の方の営業政策上シングルで出した。それがヒットしてファン層が広がったんだよね。それで以降上島さんの曲と鴨乃の曲をカップリングするスタイルが定着したのよね」
 
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「千里、考えてみると凄く手広くやってるよね。鈴木聖子さんや槇原貞子さんの曲も書いてるし、KARIONもやってるし、Lucky Blossomに大西典香に津島瑤子に」
 
「うん、でも売れてない。KARIONにしても大西典香にしても私が書いてたのは埋め曲だから」
 
「そんなことない。大西典香でいちばん売れた曲は『My Little Fox Boy』、次が『Blue Island』。どちらも鴨乃清見の作品。これ多分どちらも千里の曲だよね?」
「うん。でもシングルには入ってない曲。どちらもダウンロードが凄まじかったんだけどね」
「Lucky Blossomの『六合の飛行』だって『走る鼓動』だって物凄い人気曲」
 
「まあ、おかげで高校大学の学費が出たんだけどね」
「・・・・もしかして千里って高校や大学の学費、全額自分で稼いでた?」
 
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「うん。妹の学費もね」
「偉ーーい!」
「妹は高校も大学も私立だったから大変だったよ。私自身は、高校はバスケで特待生にはしてもらってたんだけど、そのバスケ自体にお金が掛かってたんだよね。うちの学校強かったから、対外試合に遠征費に合宿費に。道大会には毎回出て行くし、他にローカルなリーグ戦もやってたし、インターハイやウィンターカップにも出て行ったし」
 
「『恋のブザービーター』でバスドラ代わりのドリブル音を入れてくれたのって、千里だよね?」
「そうだよ。美空ちゃんから聞かなかった?」
「誰かまでは聞いてない!」
 

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料理も食べ終わり、デザートを頂いて、ほんとに美味しかったねぇ、などと言いながらコーヒーを飲んでいた時、私の携帯が鳴る。見ると政子である。
 
《冬〜、お腹空いた〜。動けな〜い》
と書かれている。
 
「うちのペットちゃんがお腹を空かせているようだ」
「あはは」
「どうしようかな。動けないなんて言ってるから、こちらから大阪まで行くか」
「大阪に行ってるんだ?」
「個人的な用事でね」
 
実際には政子は彼氏の松山貴昭君に会いに行ったのである。
 
「じゃ私も一緒に行っていい?」
「うん。醍醐春海・葵照子に一度会いたいなんて言ってたし」
「葵照子は勉強が無茶苦茶忙しいみたいだから、取り敢えず今日は私だけで」
「うんうん」
 
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それでふたりで帝国ホテルを出て、有楽町駅から山手線で東京駅に移動し、20時の新大阪行き《のぞみ》に乗った。
 
「しかし帰りはどうしようかな」
「明日お仕事入ってるの?」
「そうなんだよ。朝1番の新幹線に乗れば8時半に東京に着くからそれからラジオ局に入るか。ちょっとギリギリっぽいけど」
「ラジオの出演があるの?何時?」
「麹町のスタジオで9時半の放送開始」
「ちょっと危ないね。食事が終わった後、私が車で東京まで送ってあげるよ。その頃はもうアルコールも抜けてるはず」
 
「ああ、お願いしようかな。千里、秋にも青葉たちをゆまと2人で交代で運転して高岡まで送ってあげてたね」
「まあ長距離は良く走っているから。私、実は雨宮先生のドライバーなんだよ」
「えーーー!?」
 
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「雨宮先生の公的・私的な用事で、北海道から沖縄まで随分走り回ってる。年間の走行距離は自分の車だけでも3万kmほどあるよ」
「そうだったのか」
「先生のドライバーは私だけじゃないから、その時空いてる人が対応してるんだけどね。もっとも、TOEIC受ける予定だった日に強引に呼び出されたこともあったけど」
「ああ、あの先生は強引だから」
 
「それに私、大阪に友だちが居て、東京−大阪間は今までに100回以上往復してるんだよ」
「すごーい!」
「この区間なら、眠ってても運転できるよ」
「いや、眠られたら困る」
「まあ眠らないけどね」
 
「じゃ向こうでレンタカー借りるかな」
「私、自分の車をこないだ大阪に置いて来たから、それを使うよ」
「・・・・・」
「どうした?」
「それって偶然?」
「ううん。次に大阪で車を使うことになりそうだと思ったから置いてきた」
「なんで!?」
「私、巫女だから」
と千里は微笑んで言った。
 
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「でも千里の車ってミラだったっけ?」
「ああ、あれは街乗り専用。遠乗りの時はインプを使うんだよ」
「へー!」
「実は大学に入った年に買った。雨宮先生に唆されて」
「あはは」
「それで半分くらいは雨宮先生を乗せてる感じ」
「あの先生らしいや。ドライバーと車を同時調達した訳か。他人のお金で。あ、そうか。インプなんかに乗ってるから、千里、運転がうまいんだ」
 
「まあミラで年間3万km走る気にはなれないね」
「レンタカーで軽を借りることあるけど、やはり高速が辛いよ」
「坂道も辛い」
 

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政子と新大阪駅で落ち合う。
 
「あれ、千里だ」
と政子が意外そうに言うので
 
「こちら作曲家の醍醐春海さん」
と私が紹介すると
「えーーーー!?」
と絶句していた。
 
「おはようございます。お初にお目に掛かります。醍醐春海です」
と言って千里が《作曲家・醍醐春海》の名刺を出すと、「おぉぉぉ!」と嬉そうにしていた。
 
「おはようございます。お初にお目に掛かります。マリです」
と言って政子も《ソングライター・マリ》の名刺を出した。
 
「ローズ+リリーのマリの名刺は人が持っているの見たことあるけど、ソングライター名義のは初めて見た」
「あまり配ってないから。多分作ってから20枚も渡してない」
 
「渡したのって、森之和泉とか神崎美恩とかだよね」
「うん、そのあたり」
 
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「葵照子も来られたら良かったんだけど、彼女医学部の6年生で無茶苦茶忙しいんだよ」
「わあ、大変そう」
「作詞は勉強の合間にやると言ってるけど、ほんとに息抜き兼ねてる感じ」
「普段使ってるのと違う部分の脳みそを使うと疲れが取れるよね」
 

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まだ閉店時間に余裕のある店を検索し、地下鉄で移動して、ロイヤルホストに入った。
 
「私、ロイヤルホスト好き〜」
と政子は言う。
「ファミレスの中では美味しい方だよね」
と千里も言う。
 
超豪華な夕食を食べた後だったので、とても入らないと思ったのだが、政子はリブロースステーキ310gのセット2人前とか注文しているし、千里もステーキ丼なんて注文しているので、私もつられてリブロースステーキ115gを注文する。
 
政子は《醍醐春海》のことを聞きたがったので、千里が説明する。
 
「高校時代にDRKというバンドをしてたんだよ。特進組・進学組の女子生徒10人ちょっとで各々用意できる楽器を持ち寄って」
 
いきなり政子が手を挙げて「質問です」と言う。
 
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「何だね?政子君」
「女子生徒10人ということは、千里も女子生徒だった訳?」
「そうだよ。私は生徒手帳の性別も女だったから」
「おぉぉ!!」
と嬉しそうである。こういう展開は政子の好みだ。
 
「冬子も生徒手帳は女だったんでしょ?」と千里。
「男だよ!」と私。
「いやきっと女だったに違いない」と政子。
 
「まあ、それでDRKをやってた時に偶然∞∞プロの谷津さんと会って、私たちがバンドやってるというと見たいと言うんだよね。それでスタジオに行って演奏したら凄く気に入られて」
 
「そこにLucky Blossomが関わってくるんでしょ?」
「そうそう。正直こちらは勉強が忙しいから、一本釣りも含めてあまり勧誘されたくないと思ったんで、私たちなんかよりずっといいアーティストに巡り会える所を教えてあげますと言って占ったら、私が占った日時と場所でLucky Blossomを見つけたんだよ。それで鮎川さんたちがデビューすることになった」
 
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「おお!」
「それでその関わりで、鮎川さんの先生にあたる雨宮先生と私も知り合って、その雨宮先生の仲介で、私と相棒の葵照子がいろんなアーティストに楽曲を提供することになったんだよね」
「結局雨宮さんなんだ!」
 
「だから《醍醐春海》の仕事は、雨宮先生か、後輩の新島さんあるいは毛利さん経由で受けているんだよ」
「なるほど〜」
「雨宮先生は、まずこちらからは連絡つかないからね」と千里。
「あれは困ったもんだよね」と私。
 

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夏の日の想い出・食事の順序(5)

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