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■夏の日の想い出・熱い1日(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2013-10-05
 
母が緊張した顔をしていた。しかし父は
「何だ?何だ? 女装でも始めるのか?」
などと言って笑う。
 
「こういう感じで、女の子の声も出るんだよ」
と私は女声に切り替えて話す。
 
「へー! 凄い。それは宴会芸にできるぞ」
と言って父は笑っている。
 
「ボク、朝はいつも学生服で出かけているけど、学校が終わったら・・・」
と女子制服を着ていることを話そうとした時だった。
 
ピンポーンとドアホンが鳴る。
 
こんな時間に誰かと思ったら父の同僚だった。何でも折り入って相談があるということで、自宅までやってきたのであった。
 
なんか込み入った話のような感じであった。私と母はお酒とおつまみを出してテーブルに置くと、私の部屋に下がった。
 
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「でもどうしたの? 突然性別のこと。もしかして学校に女子制服で通う気になって、お父ちゃんにもちゃんと言わなきゃという気になった?」
 
と母が訊く。
 
それで私は母に、近々デビューする歌唱ユニットに誘われていることを言った。
 
「それって、男の子として?女の子として?」
と母は尋ねる。
 
「女の子として。でも、後で揉めないように最初から自分の性別は公表するつもり」
 
「それでいいの? あんた日本中の人からオカマとか変態とか言われるよ、きっと」
「私はそれでもいい。でもお母ちゃんとお父ちゃんには申し訳無いと思う」
 
「私は構わないけどね。何と言われたって、あんたは私の子供だから」
「・・・ありがとう」
 
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私は涙が出た。
 
「でも、お父ちゃんはあんたがちゃんと自分で説得して」
「うん」
 

その後も私は何とか父に性別問題を話そうとしたのだが、なかなか父と話す時間そのものが取れなかった。それで私は1度手紙を書いてみた。そして父に渡して読んで欲しいと言ったのだが、結局その手紙を父が読んだのは、1年後の例の大騒動の後であった(この件はさすがに父も謝っていた)。
 
「お母ちゃん。お父ちゃんとどうしても話す時間が取れないよぉ」
「なんか最近、特に忙しいみたいだもんね。困ったね」
 
と母も少し困ったような顔をしていた。
 

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私と父との話し合いはできないままであったが、一応私自身がKARION加入の意思表示をしたことで、畠山さんは私を含む4人をイベントに連れて行った。
 
「これはプロモーションも兼ねてはいるけど、君たちに舞台度胸を付けてもらう意味の方が強い。もっとも4人ともバックダンサーやコーラスなどでは何度もステージを経験しているだろうけどね」
と畠山さんは言っていた。
 
「いえ、後ろで歌うのと前で歌うのは、全く違うと思います」
と私は言った。和泉も頷いていた。
 
ちなみにコーラスやダンサーとしてこれまで経験した最大の会場をお互いに言い合うと、小風と私が関東ドーム、美空が横浜エリーナということだった。
 
「うっそー! みんな凄い会場経験してる! 私は中野スターホールまでだよ」
などと和泉が言っていた。
 
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この日KARIONが初めて出演するのは、CDショップのイベントで、事前の告知は「1月デビュー予定の女子高生ユニット《KARION》来訪」という、イラストだけが入ったポスターのみであった。イラストでは、可愛い女の子の絵が4つ並んでいた。
 
「おお、ちゃんと4人ということになっている」
と小風が楽しそうに言う。
 
イベントスペースのそばの小部屋で待機する。
 
「お客さんどのくらい入るかなあ」
などと小風が楽しそうに言っている。
 

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開始予定時刻の10分前。会場に居たのは、大学生っぽい男女カップルが1組だけであった。
 
7分前。23-24歳くらいの会社員の男性が入って来て座った。
 
5分前。高校生くらいの女の子が3人入って来た。
 
3分前。大学生くらいの男の子が1人入って来た。
 
1分前。『幸せな鐘の調べ』のCD音源を流す。すると最初に座っていたカップルが驚いたような顔をして、出て行っちゃった!!
 
「なんで〜!?」
とモニターを見ていた小風が言うが
 
「きっと誰もいないところでデートしてたんだよ」
と和泉が笑いながら言った。
 
時間になる。出て行く。観客は5人! 歌う人数より多い! 素晴らしい!!
 
私たちは声を揃えて
「こんにちは! KARIONです!」
と挨拶し、まずはマイナスワン音源に合わせて『幸せな鐘の調べ』を歌い始めた。
 
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デビューシングルの曲3曲を歌った。手拍子などは無かったものの、曲が終わる度に観客は拍手をしてくれた。
 
そして聴いてくれた5人からサインを求められたので、私たちは4人共同で書くサインを書き、その日の日付2007.11.24を書いて渡し、笑顔で握手をした。
 
そういう訳で、このKARION最初の頃のイベントでは、私は素顔を観客に曝していたのである。
 
翌日25日、私は午前中は音響技術者の試験を受けに行ったが、午後からはまたイベントに出かけた。その日の観客は 6人で、その内の4人にサインを書いた。
 

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KARIONのデビュー曲発売は1月2日の水曜と決まった。12月の中旬くらいから、PVを当時話題になってきつつあった youtube に流し、テレビスポットも打つとともに、メンバーをラジオ番組などに出して名前を売るという方針も決まった。
 
和泉・美空・小風の3人は11月26(月)に、各々の親が同意した芸能活動契約書・専属契約書を∴∴ミュージックおよび★★レコードと交わした。
 
しかし私は父となかなか話せない。
 
それで私は畠山さんに言った。
 
「本当に申し訳ないのですが、どうしても父と話す時間が取れず、契約の話に進めません。このままではご迷惑を掛けます。私自身やりたい気持ちはとても強いのですが、今回のプロジェクトからは辞退させてください」
 
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畠山さんも悩んでいた。
 
確かにもうタイムリミットであった。
 
「分かった。今回は諦めよう。でも来年中には君を追加メンバーとして入れるか、あるいは別途ソロデビューの方向で考えたい」
 
「はい。引き続き何とか父と話せるように頑張ります」
 

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「でもさ、KARIONというのは『4つの鐘』という意味なんだよね、実は」
 
「あ、そうだったんですか!?」
「君を絶対口説き落とせると踏んで、僕はこの名前にしたんだけどなあ」
 
と畠山さんは残念そうに言う。
 
「そしたら、私の代わりに誰かソプラノパートを歌える子を入れるというのはどうでしょうか?」
 
「・・・それでいいの?」
 
「はい」
「でも、そういう子を入れてしまうと、君はもう追加メンバーなどとしてこのユニットに入ることはできなくなってしまう」
 
「私個人のことより、このユニットのことを考えてあげてください。音源製作してライブもしてて思ったのですが、こういうハーモニーの美しいユニットの場合、3声ではどうしてもハーモニーが安定しないんです。ハーモニーはやはり4声で安定すると思うのですよね。だから、私を抜いて3人だけで歌うより、やはりもう1人入れて4人で歌う方が、音楽的に良いものになると思います」
 
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「・・・・いつか和泉ちゃんも言ってたけど、君って、視点がプロデューサー視点なんだよね」
 
「そんな偉そうなものじゃないですけどね。悪く言えば傍観者面です」
 
「あはは。でも音源製作中も、君が言う何気ない言葉に、ゆきみすず先生が『あ、確かにその方がいいな』とか言う場面が何度かあったね」
 
「そうですね。。。音源製作の現場なら、たくさん経験してきているし」
「ああ」
 

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私の代わりに入る子は、∴∴ミュージックに出入りしている女子高校生で、1年後くらいにデビューさせるつもりでレッスンなどを受けさせていたミヅホというハーフの子に決まった、というのを畠山さんがわざわざ連絡してきてくれた。
 
すぐに他の3人のメンバーに引き合わせる。
 
その夜、小風から電話が掛かってきた。
 
「可愛い子だった?」
「むしろ美人だね。私たちと同い年とは思えないくらいしっかりしてたよ」
「へー」
 
「ただ日本語があまり得意じゃなくて、和泉は英語で会話してたけど、私も美空も、さっぱり話の内容がつかめん」
「あはは」
 
「一応日本語の文章は難しい漢字が入ってない限り、ふつうに読めるみたい。でも日本語の会話はうまく聞きとれないみたいで、日本語で会話してると何だかトンチンカンになる」
「まあ、頑張ってコミュニケーション取ろう」
 
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「身長も高いし。175cmくらいかなあ」
「それは凄い。さすがハーフだね」
「ニューハーフの冬より背が高いね」
 
この手のオヤジギャグが出るのは小風の調子の良い時だ。
 
「お父さんはアメリカ人で200cmくらいだって言ってた。お母さんも日本人とフランス人のハーフで180cm近くて、だからむしろ本人は背が低いという認識だったとか」
「へー! あ、じゃハーフというよりクォーターになるのかな? いやスリークォーター??」
 
「うーん。その辺はよく分からないや。そうそう。彼女を私たちはラムコと呼ぶことにした」
 
「へ? ミヅホちゃんじゃないの?」
「フルネームがね、ミヅホ・ラムレイ・コーウェル。だから家族や親しい友人には、むしろラムレイの愛称でラムって呼ばれてるらしいのよね」
「ほうほう」
 
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「それでラムに、苗字の頭のコを付けてラムコ」
「無理がある〜」
「でも、これで尻取り維持だよ」
「おお!」
 
この時は小風は結構楽しそうだった。
 

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ラムコが入ることになったので、急遽音源は私が歌った部分を差し替えることになった。最初はラムコ1人に歌わせて、その部分のみを差し替えることも検討したようだが、KARIONの音源製作では各々のパートが平均律的に正確な音程を取ることよりハーモニーの響きが美しくなることを優先して、むしろお互いの声の高さが、きれいな整数比になるように、つまり純正律的な響きになるように歌わせている。
 
その場合、お互いの音を聴きながら歌わないと、美しく響く音程にならない。
 
そこで4人まとめて録り直すことになった。
 
私が入った音源はミクシングまで終わったところと聞いたが、そこで作業を中断し、伴奏部分はそのままでボーカル部分を再録音して、再ミクシングし、マスタリングするということになる。ただ、時間が迫っているので、かなり急ぎの作業になった。
 
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12月3日の月曜日、ラムを含めた4人がスタジオにやってきた。この時、麻布先生はサウザンズの録音に携わっていて、有咲もそちらの助手に入っていたので、代わりに山鹿さんという技術者さんが録音を担当してくれることになった。
 
私も基本的にはサウザンズの録音に駆り出されていて、楽器のチューニングとか、編曲の手伝いまでしたりしているのだが、KARIONの方も前回の録音に関わっている人に居て欲しいというので、その一週間は私は山鹿さんの方の助手にも入ることにし、サウザンズの録音をやっているスタジオとKARIONの録音をやっているスタジオを、頻繁に行き来することになった。
 

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月曜日の放課後、私がスタジオで待っていると、和泉・美空・小風と一緒に背の高い、外人の女の子がやってくる。髪は黒いが顔立ちは純粋に外人さんっぽい。歩き方や仕草雰囲気なども外人さんの雰囲気だ。
 
「前の人が少し時間オーバーして、今部屋を片付けている最中なので、少しだけお待ち頂けますか?」
と私は言って、4人をロビーに案内し、それから部屋の片付けの手伝いに行った。
 
そして何とかきれいに掃除を終えた所で4人を呼びに行く。その時、4人のそばに、22〜23歳くらいという雰囲気の女性が2人立っていた。その2人の顔には見覚えがあった。スイート・ヴァニラズのリーダーでギターの Elise とキーボードの Londa だ。
 
「おはようございます、Eliseさん、Londaさん」
と私は挨拶する。
 
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「あ、おはよー。君もこの子たちのユニットのメンバー?」
「あ、いえ。私はこのスタジオのスタッフです。****ちゃんの録音の立ち会いですよね。今ご案内しますね」
 
ここは格上のEliseたち優先だ。
 
「KARIONさんは、Cスタジオの準備できましたので、入って頂けますか?」
と和泉に声を掛けた上で、私はEliseとLondaを案内して、Gスタジオまで行った。
 
「君、どこかで見た気がするけどなあ」
とLondaに言われたが
「ああ、私、よくあるタイプの顔みたいです。特徴の無い顔みたいですね。友人から同じ顔の人を10人知ってると言われたこともありますよ」
と言っておく。
 
(実は4年前に松原珠妃の伴奏をしていた時にイベントで遭遇したことがあるのだが、向こうもさすがに覚えてないようである。当時スイート・ヴァニラズもデビューしたてであった)
 
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「でも、君、さっきの子たちと似た空気を持ってたから、てっきり仲間かと思ったよ」
とEliseは言った。
 

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Gスタジオのスタッフさんに引き継いで、こちらはCスタジオに戻る。
 
畠山さんが遅れているということで作業は畠山さんが来てから始めるということであった。
 
「いや、EliseさんとLondaさんに声掛けられてびっくり」
と小風が言う。
「思わずサイン書いておふたりに1枚ずつ進呈したよ」
 
「ああ、サイン作ったんだ。良かったら、私にももらえない?」
「いいよ」
 
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