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■夏の日の想い出・花の女王(4)

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拍手が鳴り止まない。その拍手がゆっくりとしたアンコールを求める拍手に変わる。幕が上がる。私たちはいつものように衣装などは変えずにそのままステージに戻る。
 
「アンコールありがとうございます。それでは『私にもいつか』を歌います。この曲は私たちの休業期間中に作った曲ですが、実はマリのステージ復帰を切望する心情を歌った曲です。まだ自分はステージに立ってファンの皆さんの前で歌う勇気が持てないけど、いつの日かきっと舞台に戻って来て、このときめくような時間を持ちたい。マリはそんなことを言いながら、この曲を書きました。そして今マリはステージに戻ってきました」
 
私がそう言うと、客席はざわめいたが、大きな拍手をくれた。スターキッズがアコスティック楽器を持って入ってくる。近藤さんのギター、鷹野さんのヴァイオリン、七星さんのフルート。月丘さんはグランドピアノの前に座り、酒向さんはドラムスの所に座る。
 
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演奏がスタートする。
 
私たちは3年半前のホテルの一室で、ふたりで一晩を過ごした後書いた時のことを思い出しながら、歌を歌った。思ったよりステージ復帰に時間は掛かったけど、マリにとっては必要な時間だったのだろう。そしてマリはその間にとても歌がうまくなった。自信も持てるようになったはずだ。
 
歌が終わるとともに大きな拍手がある。私たちは客席に向かってお辞儀をしてスターキッズと一緒にステージ袖に下がる。
 
拍手はすぐにアンコールの拍手になる。
 
私と政子、それに七星さんの3人で出て行く。客席に向かって一礼してから私がピアノの前に座り、マリは私の左側(ステージ奥側)に立つ。七星さんがピアノの右横面(ステージ前方)に立つ。
 
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『あの夏の日』を演奏する。
 
《ミードドミ、ミードドミ、ファソファミ・レ・ミ》というブラームスのワルツのモチーフに始まり、分散和音を弾いたところで七星さんのフルートが鳴り出す。私と政子がピアノとフルートの音に合わせて歌い始める。
 
6年前の伊豆のキャンプ場に思いは飛んで行く。あそこはローズ+リリーが生まれた場所でもあり、例の大騒動の後で、再生した場所でもある。私たちにとってまさに原点だ。
 
政子も何かを思い出すかのような表情で歌っている。七星さんの黄金のフルートの音色が美しい。ピアノとフルートにしても、ピアノとヴァイオリンにしても、ほんとによく音が溶け合う。いや、溶け合うように各々発展してきたのだろう。そんなことも考えながら私はスタインウェイ D-274 を弾いていた。
 
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やがて終曲。音の余韻が消えるのと同時に拍手が来る。
 
私は立ち上がり、政子と一緒に前に出て、七星さんもそれに並ぶ形で一緒にお辞儀をした。幕が降りて、終了のアナウンスがあった。
 

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公演終了後、私たちは柳川に移動した。
 
私たち2人にスターキッズ7人、詩津紅、松村さん、清水さん、窓香と花枝、氷川さん・加藤課長、音響をしてくれた麻布先生と有咲、バレンシアの8人、民謡の伴奏をした6人、総勢32人。大型バスに乗っての移動である。政子は美耶や明奈・佳楽のそばに寄って色々と私のことを聞き出そうとしていたが、例によって「本人に訊くのがいちばん良い」などと言われていた。
 
柳川の料亭「御花」に入る。柳川藩主・立花家の別邸だった所でとても風情のある建物と庭園である。「御花」の名前は元々この付近が「御花畠」と呼ばれていたことに由来する。それを政子に言うと「わあ。Flower Gardenか」と、嬉しそうに言った。私もそのことに初めて気付いて「今回のツアーにふさわしい場所だね」と答えた。
 
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庭園に面した和室に通される。福岡を出る時にだいたいの到着時刻を連絡していたので、すぐにウナギのセイロ蒸しが出てくる。政子には特に5人分用意している。
 
セイロに御飯を入れウナギを乗せて蒸したもので、北部九州では比較的ポピュラーなメニューだが、それ以外の地域ではあまり見ないので、バレンシアの子たちは「これ初めて食べた」などと言っていた。鰻重よりあっさりした感じになり、食べやすい。名古屋のひつまぶしの食感に近いが御飯と一緒に蒸しているのでより一体感がある。政子も美味しい美味しいと言って、嬉しそうに食べていた。
 
「でも柳川と聞いたから、柳川鍋かと思って、どじょうは苦手かもと思ったらうなぎだったんですね」
などとバレンシアの来夢(らいむ)が言っていたが、
「柳川鍋は、江戸の柳川という料亭が始めたもので、福岡県の柳川とは無関係」
と七星さんが説明する。
「あっ、そうだったんだ!」
「まあ、よくある誤解ではあるよね」
「福岡県のこの柳川とか、近くの大川とかは、うなぎ料理が美味しいので有名なんだよ」
「へー」
「だけど、このお店、高そう」
 
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「バレンシアも自分たちのライブで、このクラスの打ち上げができるように、頑張ろう」
などと花枝が煽ると、ちょうど口に物が入っていたリーダーの美歓(みかん)に代わって、ベースの愛好(あいす)とドラムスの麩鈴(ぷりん)が
「はい、頑張ります!」と答える。
 
「金田中(東京の三大料亭のひとつ)を貸し切りで打ち上げやりたいです」
とトランペットの礼文(れもん)。
 
「おお、大きく出たね、その調子、その調子」
と七星さんも煽っていた。
 

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他の料理も運び込まれてきて、食事も少し進み、和やかな雰囲気になっていた時、近藤さんが「よし、余興やろう」などと言い出す。メモ用紙を取り出し、何やら数字を書いていた。隣に居た酒向さんに「これみんなに配って」と言う。
 
それで配り終わった頃、別途数字を書いた紙をビニール袋に入れたのを見せる。
 
「これから数字を引くから当たった人は何か芸をすること」
 
それで最初に引いた数字は2だった。
 
「2番の人・・・・って俺か!?」
 
なんと自分が最初に引き当ててしまった。それで愛用のアコスティックギターGibson J-185を持って『君待つ朝』をギター独奏で演奏した。美しい! 私自身こんなアレンジも素敵だと思ってしまった。
 
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みんなから大きな拍手がある。バレンシアのギター担当美歓(みかん)が「凄ーい」と感心していた。
 
「次行きます。26番」
「はい」と返事をしたのは明奈だ。明奈は母から三味線を借りて『黒田節』を弾き語りした。
 
「格好いい〜!」という声があがる。明奈は思いっきり低音ボイスで唄ったので、とても重厚感のある唄となった。
 
「次。13番」
「わ、私だ」と声をあげたのはバレンシアのフルーティスト・観来(みるく)だ。
 
彼女は自分のフルートを取り出すとハイドンの『セレナーデ』を演奏する。原曲よりテヌートを多用し、なめらかで女性的な雰囲気の演奏にまとめていた。
 
大きな拍手をもらう。
 
「よし。次。22番」
「わっ」
 
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私が当たった。何しようかなと思ったら
「冬、ヴァイオリン弾きなよ」
と政子が言う。まあ、それもいっか。
 
「鷹野さん、ヴァイオリン貸してください」
「うん。というか、そもそもこれ俺がケイちゃんから借りてるんだけどね」
「まあそうも言えますけど」
 
正確には私の権限でUTPで購入して鷹野さんに貸与している楽器である。私は鷹野さんからヴァイオリンケースを受け取ると楽器と弓を取り出し調弦してから、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲(通称『メンコン』)を弾いた。
 
ミーミミード・ララーミ・ド・シラファラミー
 
というテーマが繰り返し出てくる。ヴァイオリン奏者にとっては「上級者の入門」
みたいな曲で、これが弾けたら一応上級者と認められるという程度に技術が必要な曲だ。スズキ・メソードだと、最上級クラスの卒業課題曲である。
 
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鷹野さんや七星さんが頷きながら聴いている。美耶もそんな感じ。今回胡弓を弾いてくれた美耶はヴァイオリンも結構弾く。私同様、胡弓との相乗効果で覚えていったらしい。
 
バレンシアの面々は「ひゃー」という感じの表情をしていた。
 
上級者の入門クラスの作品だから、簡単に弾けるかというと実は逆に難しい。上級者であれば誰でも弾ける曲だけに、ミスったり解釈の甘い所があると、誰にでも分かる。易しい曲ほど「弾きこなす」のは難しいのである。それは私たちが普段歌っている歌でも同じである。
 
演奏が終わると、物凄い拍手が来て
「凄い・・・美しい」
などと感想をもらう。
 
自分でも少しヴァイオリンを弾くバレンシアのサックス奏者・心亜(ここあ)が
「ケイさん、こんなにヴァイオリン弾けるんですね。凄い!」
などと言っていた。
 
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「心亜(ここあ)ちゃんも、この曲は弾けるでしょ?」
「それが、小学生の時、次はその曲を練習するよ、などと言っていた時に挫折したので、未着手です」
「あらら」
 
「また、練習するといいよ。大人になってから再開したらまた違うよ」
などと政子が言う。
「そうですね〜。また少し練習してみようかなあ」
 
この余興は結局10人まで行ったところでそろそろお開きという時間になった。七星さんもフルートで『神様お願い』を吹いてくれたし、詩津紅はクラリネットでジャズのスタンダードナンバー『Memories of You』を吹いた。政子は結局最後まで当たらなかった。
 
「当たったら『インドの虎狩り』弾こうかと思ったんだけど」
などと言うので、近藤さんが「だったら、そのくらい待つから是非」
と言ったが、政子は「パス」と言って笑っていた。
 
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福岡のライブが終わって帰京した日曜日、ふらりと奈緒が私たちのマンションにやってきた。
 
「ご無沙汰、ご無沙汰」
「これ、おもたせ(誤用)〜」
 
と言ってケーキを出すので、紅茶を入れて、ありがたく一緒に頂く。
 
「いや、これにうちの姉ちゃんがサインもらえないかなと言うもんで」
と言って、新譜の『花の女王』を出す。
 
「おお、お安い御用」
と言って、政子とふたりでサインして渡した。
 
「奈緒にもサインしようか?」
「ごめーん。私、まだ買ってない」
「じゃ、CDごと贈呈するよ」
 
と言って、営業用に手許に置いているCDを一枚取り、それにもサインして渡した。
 
「サンキュー。良い友だちを持った」
「こちらも医療的なことで相談がある時は遠慮無く頼るから」
 
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奈緒は医科大学に通っている。1年浪人したので現在3年生である。
 
「冬は個人的な人脈が良いよね。今音響は有咲が見て、経理は夢乃が見てるんでしょ?」
「そうそう。助かってるよ。琴絵と仁恵が私たちの活動状況をいつもレポートしてくれてるしね」
 
「でも『花の女王』かぁ」
と奈緒がCDのジャケ写を見ながら感慨深そうに言うので
 
「何か?」
と政子が訊いた。私は少し嫌な予感がした。
 
「いや、冬がそういえば昔、花の女王になったなと思ってさ」
「あはは」
「何、何、それ詳しく」
と政子は興味津々の様子。
 
「あれ、中2くらいだったっけ?」
「まあ、そうだね」
 
「友だち何人かで、郊外の遊園地に行ってたらさ、何かイベントやってたんだよ。何だろうって感じで近づいて行ったら『君たちも参加者?』とか言われて番号札もらっちゃって。それで成り行きで参加したのが、《花の女王コンテスト》ってので」
「ほほぉ」
 
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「何だかよく分からないまま、花の冠がたくさん並んでいる所に連れて行かれて自分の好きなのを髪に付けてと言われてさ。私はシロツメクサ、若葉はデイジーだったかな。で、冬は何だかもじもじしてるからさ。私たちで『これにしなさい』
と言ってバラの花冠をかぶせたのね」
 
「ああ、やはり、冬はバラなんだな。でもここにも若葉が関わってるのか」
「あの子は、冬の秘密をいちばん知ってる筈だけど、口が硬いからなあ」
「そうそう。使えない子だよ」
 
「まあ、それでステージに出て行って何か一芸して点数をもらうという、まあ、そんなコンテストだった訳よ」
「奈緒は何したの?」
 
「私は一人コントしたんだけど、全然受けなかった」
「歌でも歌えばいいのに」
「私の音痴は知ってるでしょ〜」
「だっけ?」と政子が訊くので
 
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「琴絵と奈緒と、どちらが凄いかという争いだね」
と私はコメントする。
「そうだったのか」
 
「若葉はちょうどヴァイオリンのお稽古の帰りでヴァイオリン持ってたから、それを披露して高得点もらってたね」
「若葉ってヴァイオリン弾くんだっけ?」
「お嬢様だからね。家族で弦楽四重奏とかしたりしてたみたい。おうちにはベーゼンドルファーのピアノもあるし」
 
「あのピアノ、ベーゼンドルファー?」
「そそ」
 
「で冬は何したの?」
「歌を歌ったよ。曲は何だったっけ?なんかきれいな歌だった」と奈緒。
「アイルランド民謡の『Last Rose of Summer』だよ。せっかくバラの冠を付けてもらったし」と私。
 
日本では『庭の千草』の邦題でも知られる名曲である。
 
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「それで優勝して、賞金もらって、その賞金でみんなでピザ食べに行ったね」と奈緒。
「ほほぉ」
「まあ人数が少なかったからピザ食べる金額あったね」と私。
 
「でもその曲って、ソプラノの曲だよね?」と政子は訊く。
「うん」と奈緒。
「ということは、もしかして冬は女の子の声で歌った?」
「当然」
「で、もしかして冬は女の子の格好をしていた?」
「もちろん。男の子が花の女王に選ばれる訳無い」
 
「ぶふふふふふ。いいこと聞いちゃった」
「もう・・・・」
 
 
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