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■夏の日の想い出・花の繋がり(2)

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私のピアノの音色に、政子もグロッケンを打ってハイトーンを加える。
 
和泉たちが歌い始める。グロッケンの音色に和泉の透明感のある声が似合う。その和泉の声に、小風と美空の声が美しい和音を添える。
 
だいたいコンサートは夜なので、その夜のしじまに似合う曲なのだが、こういうまだ日が高く昇っていない午前中にも結構合う曲だ。本当に美しい。こんな曲が書けるって凄い作曲家だな、と一瞬思ってから、それ自分じゃん!と気がついた。
 
思えばこの曲を書いた2008年から5年間、自分の作曲は確かに進化してきたのだろうけど、今の自分にこの曲が書けるだろうかと再度考えてみた。自分は何かをどこかに忘れてきたかも知れないという気がした。
 
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美しい声のハーモニーの背景にピアノが奏でる弦の柔らかい音とグロッケンが奏でる金属のクリアな音が響く。そしてソラシ・ドレミソ・ドーーーというきれいな終止でピアノは音を弾き終える。政子のグロッケンがトレモロを弾く。その間、3人の声は長い音符を伸ばしている。
 
そして、全ての音が消えて、歓声に変わる。拍手が来る。和泉が私たちに前に出てくるよう促す。そして5人で一緒にお辞儀する。私たちは歓声の中、一緒にステージを駆け下りた。
 
加藤さんが興奮して言う。
「凄いね! フェスならではの共演だね!」
 
「そうですね」
と言って私たちは微笑んだ。そして私たち5人はお互いにハグし合った。
 

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ローズ+リリー、KARIONで一緒に会場を後にした。スタッフさんのワゴン車から降りて、横須賀駅近くのホテルに入る。案内されて会議室に入る。先に待っていたXANFUSのふたりとAYAが手を振る。
 
「ネット中継で見てたよ。楽しいことやってくれるじゃん」と音羽。
「まあ、フェスならではだね」と私は言うが、
 
AYAは
「冬って、しばしばフェスで他のユニットと絡んでるよね」
などと言う。
 
「そうだね。スカイヤーズとも共演したし、スイート・ヴァニラズとも」
と言うと、みんなの顔が引き締まる。
 
「料理注文していいんだっけ?」と政子。
「あ、待ってたんだよ。持って来てもらおう」
と光帆が言い、呼び鈴を鳴らした。
 

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「まあ、でも一晩でこれだけの計画を作っちゃう私たちも凄いと思わない?」
と音羽。
「昨日話を聞いた時はびっくりしたよ」
とAYA。
 
私たちは昨夜、私と和泉・音羽の3人でメールのやりとりをしながら練り上げた計画表を見ながら、細かい点を討議して行った。
 

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食事しながら議論を煮詰め、だいたいまとまった所で、KARIONとローズ+リリーは各々パソコンを広げて卒論を書き始める。このホテルは無線LANが入っているので資料など調べるのにも便利である。
 
XANFUSの2人は用意してもらっていたベッドに横たわって、タブレットでゲームを始めた。ベッドは4つ用意してもらっていたのだが、音羽と光帆は人目の無いのをいいことに、わざわざ同じベッドに並んで寝ている。毛布の下が微妙に怪しい。
 
AYAは外で控えていたマネージャーの高崎さんを呼び、計画表を示して説明していた。高崎さんは頷いて「うんOK」と言ってまた出て行った。この4ユニットの中でAYA以外は自分たちでかなりの決定権を持っている。その後AYAもベッドに寝転がって携帯を見ている。
 
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「あんたたち大変ね」と光帆が、卒論を書いている私たちに言う。
 
「特に、和泉と冬が大変そうね。冬は元々忙しいし、和泉もアルバム作り直しでここ2ヶ月くらい全然卒論の方は進んでないのでは?」
「うん。だから必死」
 
「万一、卒論書けなくて卒業できなかった時はどうなるの?」
 
「私は卒業するまで活動休止と事務所から言われてる」と和泉。
「ローズクォーツから脱退しろとレコード会社から言われてる」と私。
 
「ああ、脱退しても誰も何も言わないと思うな」とAYA。
 
「というか、マリがローズクォーツから離れた時点で、ケイもローズクォーツから離れるのは既定路線とファンも思ってるよ。だってマリが多忙だというのが離れた理由だけど、どう考えてもケイの方がもっと多忙」
と音羽。
 
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「沖縄のライブで紹介した2人組が春までローズクォーツのボーカルするんでしょ? そのまま2人に押しつけて辞めたら?」
 
「あの子たちは春から、別の予定が入っているんだよ」
と私。
 
「それに私、ローズクォーツを20年は続けると言ってるし」
「3年も付き合えば充分だと思うな」と光帆。
 
和泉までもこんなことを言う。
「まあ、音源制作だけ付き合って普段の活動からは離れるというのも手かもね。作曲はマキさんに全部やらせて、冬も上島先生も外れた方が、かえってあのバンドの路線は明確になるかもよ。普段のライブはあの2人が春以降使えないなら、他にまたボーカル探せばいい。やりたがる人は沢山いると思う。今この業界実力があるのに仕事の無いスタジオミュージシャンが大量にいるし」
 
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「そうだなぁ・・・」
 

コース料理が終わった後も、政子はどんどん追加オーダーを入れるし、美空もデザートの類をわざわざ全員分(寝ている子の分まで)オーダーするので、あまり食の太くないAYAなどは「ダメ。もう入らない」と言っていた。
 
音羽と光帆は結局抱き合ったまま幸せそうな顔をして眠っていた。
 
15時過ぎになって、ふたりを起こして一緒にホテルを出る。
 
会場に戻る。Bステージの方に行くとRainbow Flute Bands が演奏をしている所であった。七色にペイントしたフルートを持つ歌唱ユニットで、前奏や間奏で彼らが吹くフルートの音色が、シンボルになっている。衣装も虹の七色に色分けされている。年齢は14歳から17歳。性別は男性3人(青・緑・藍)、女性3人(赤・橙・黄)、性別不詳1人(菫)という触れ込みである。
 
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「ね、ね、フェイちゃんって本当は男の子なの?女の子なの?」
と美空が訊く。
「え?女の子にも見える男の子だと思ってたけど」と音羽。
「あれ?そうなの?一度握手した時の感触は女の子だったから、男の子にも見える女の子かと思ってた」と政子。
「うーん・・・」
と全員悩む。フェイは声自体も中性的で、ピンナップ写真なども女の子の服を着ている写真、男の子の服を着ている写真の両方が存在する。どちらの服を着ても全く違和感が無い。
 
小風が近くにいた加藤課長に訊いてみた。
「加藤さん、フェイの性別ご存じですか?」
 
「あ、それは知ってるけど、言っちゃいけないことになってるから。ちなみにフェイはキャンペーンやツアーで宿泊する時は必ずバス付き個室だよ」
「うむむむむ」
 
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加藤さんの口ぶりからするとMTXかFTXなのだろうが、どちらなのかは私にも判断付きかねる感じだ。
 
彼らが終わるとAYAである。ポーラスターのメンバーと一緒にステージに上がり熱唱する。私たちはVIP席のアーティスト用のスペースで手拍子を打ちながら聴いていた。
 
きっちりアンコールまでやってAYAのステージが終わると、Bステ最後はXANFUSである。パープルキャッツのメンバーと一緒にステージに上がり、激しくダンスしながら歌い始めた。私たちは歌い終わったAYAやポーラスターのメンバーと握手する。AYAは着替え用のロッカーで汗を掻いた服を交換してきた。
 
やがてXANFUSがセカンドアンコールまでしてステージを終える。セカンドまでできるのはトリを歌うユニットの特権だ。彼女たちを拍手で迎えて、私たちは主催者が用意したカートに乗り一緒にAステージに急行した。
 
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Aステでは平均年齢65歳のスウィンギング・ナイツが演奏していた。私たちは出番を待っているスイート・ヴァニラズのメンバー、そして町添さんと握手した。
 
「ごめんねー。急にお願いして」とElise。
「お互い様ですよ〜。私の時はよろしくです」と私が言うと
「うーん。ケイの時ね・・・」とEliseは悩むような顔をした。
 
ステージでは心地良いジャズナンバーが流れている。夕暮れも近い。こういうサウンドが似合う時刻だ。観客もこんな曲を聴いているとビールでも飲みたくなるだろう(場内は混乱防止のためアルコールは禁止で、販売もされていない)。
 
やがて演奏が終わる。
 
スイート・ヴァニラズがステージに上がるが、私たち、ローズ+リリー、AYA、KARION、XANFUSも一緒に上がるので観客がざわめく。町添さんも一緒に上がる。
 
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町添さんがメインマイクの前に立つ。
 
「皆様こんにちは。★★レコード取締役制作部長の町添でございます。突然なのですが、お知らせがあります。実はスイート・ヴァニラズのEliseが昨日体調を崩して病院に行き、それで妊娠していることが分かりました」
 
観客から「えー!?」という声が上がるが、やがて「おめでとう!」という声が上がり、その声が支配的になる。町添さんはゆっくりと観客が落ち着くのを待った。
 
「現在2ヶ月でひじょうに不安定な時期なので、お医者様からステージで演奏するのは安定期に入るまで禁止と言われたのですが、たくさんの人たちがフェスで自分の演奏を楽しみにしていると主張して、1曲だけならいいという御許可を頂きました。一応お医者様には念のためこのステージのそばで待機して頂いております」
 
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「それで大変申し訳ないのですが、スイート・ヴァニラズの演奏は1曲のみにさせて頂き、代わりに、この急な事態に、いづれ自分たちも母となる時が来るからということで、スイート・ヴァニラズと交流の深い女性ユニット4つが友情出演してくれることになりました。ローズ+リリー, AYA, XANFUS, KARIONのみなさんです」
 
「わぁ」とか「おぉ」とかいう感じの歓声が上がる。
 

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Eliseも自分のマイクで挨拶する。
 
「こんにちは、その騒動の張本人のEliseです。そういう訳で、ドクターストップが掛かってしまったので、私たちの演奏を楽しみにしてくださっていた方には大変申し訳ないのですが、今日は1曲しか演奏できません。ほんとにごめんなさい。その代わりこの若い女の子たちに私たちの代理で演奏をしてもらいます。私が彼女たちに勝手にスイート・ヴァニラズ・ジュニアと名前を付けました」
 
と言うと笑い声が起きる。
 
「そういう訳で今日は、スイート・ヴァニラズ・ジュニアで8曲演奏した後、本家スイート・ヴァニラズが登場して1曲演奏させて頂きます。なお、そういう訳でアンコールにもお応えできません。私が演奏できる状態になったら、必ずまたステージに戻ってきますので、それまではごめんなさいです」
 
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町添さんが補足する。
「なお、スイート・ヴァニラズは明日、いわき市で開かれる震災復興応援、★★レコード七大ユニット競演ライブにも、通常の形式では出場できません。今日と同じ方式、スイート・ヴァニラズ・ジュニアで1時間半演奏して、最後に1曲だけ本家スイート・ヴァニラズで演奏する方式にさせて頂きます。なおこの変更に伴い、チケットの払い戻しをご希望なさる方には、8月いっぱい対応させて頂きます。逆にスイート・ヴァニラズ・ジュニアの演奏を見たいという方のために、追加チケットを3000枚発売します。本日の夜22時発売開始にしておりますので、もし興味のある方は、今日このフェスが終わって帰宅してから、お申し込みください」
 
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「それでは私たちのお弟子さん、スイート・ヴァニラズ・ジュニア、よろしく!」
とEliseが言い、私たちはスタンバイする。
 
町添さんとスイート・ヴァニラズのメンバーがいったんステージを降りる。
 
最初に和泉がマイクに向かって言う。
 
「私たちは先日Eliseさんにまとめ役になってもらい、08年組コラボのCDを制作しジョイントライブもしました。今回はその御恩返しのつもりです。それぞれの楽器のプロであるスイート・ヴァニラズの演奏を楽しみにしてくださっていたみなさんには、私たちの演奏では満足できないことは重々承知ですが、頑張って演奏しますので、よかったら聴いて下さい」
 

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私のドラムスワークに続き、全員の演奏が始まる。
 
リードギター音羽、リズムギター小風、ベース美空、キーボード和泉、それにマリはヴァイオリン、光帆はフルートを持ち、AYAはオタマトーンを持っている。歌は弾き語りが困難なマリ・光帆・AYA以外の5人で歌うが、今回リードボーカルは和泉が取ることで事前に打ち合わせていた。
 
最初は今年の春のシングルから『情熱』。正直、観客がどのくらい反応してくれるか不安だったのだが、結構ノッてくれる。手拍子も来るし演奏している各メンバーの名前コールも飛んでくる。
 
正直こういう楽器を持っての演奏は『ELEVEN』の音源制作ではやったのだが、収録は個人別にバラバラに録っているので、本当に全員で合わせたのは6月のジョイントライブの本番のみ。そして今回はそれ以来の演奏である。スイート・ヴァニラズの曲は全員聴いていて知っているものの、実際問題としてぶっつけ本番だ。しかしそれぞれが割と得意な楽器を持って演奏しているので、あまり間違わずに演奏できている。そして間違っても平気な顔をして演奏を続けられる度胸を持ち、他の子が間違えば上手にフォローできるセンスを持つ子ばかりである。
 
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