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■夏の日の想い出・花の咲く時(2)

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「その方針転換はいつ行われたのでしょうか?」
 
「ケイちゃん自身から、ローズ+リリーのアルバムの途中まで仮ミクシングしたものを5月下旬に聴かせてもらいました。それを聴いて、こちらのアルバムの作り直しを決断しました。曲の見直し、そして再度編曲のやり直しをここ1ヶ月間ちょっと歌月,TAKAOさんの3人で何度かの徹夜もして、ずっとやっていました。そして数日前から録音作業を開始しています。こかぜ・みそらにあまり負担が掛からないように歌の収録はできるだけまとめてやる予定ですが、私と歌月はかなりスタジオに入り浸りになっています。トラベリングベルズやサポート・ミュージシャンさんたちにもちょっと無理言って付き合ってもらっています」
 
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「いづみさんは卒論は大丈夫ですか? 歌月さんも多分卒論の時期ですよね?」
「私も歌月も9月になってから頑張ります」
 

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アルバム制作延期の件でけっこう質疑があって時間を取ったので、本題の本日発売の『キャンドル・ライン』が紹介されたのは発表会が始まってから20分後であった。
 
「今回は3曲とも4ボーカルですね」
「はい。ちなみに11月発売のシングルは3曲とも5ボーカルなのでご期待下さい」
 
「でも面白いですね。KARIONは3人なのに4声あるいは5声で楽曲を制作するというのは」
 
「それは初期の頃からのひとつの方針なのですが、曲の性格から何声で行くかというのを決めています。3声で間に合えば、私とこかぜ・みそらの3人で歌いますが、足りなければ応援を頼んでいます」
 
「応援してくださる歌い手さんは毎回同じなんですか?」
「それは色々事情があるのでノーコメントにさせて頂きますが、コーラス隊は最近何組かに固定されてきていますね」
 
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「水沢歌月さんがボーカルに参加したことはないんですか?」
「水沢歌月は一般人なので、基本的に彼女に関する質問にはお答えできません」
 
このやりとりで、記者たちの間にはどうも水沢歌月はかなりボーカルに参加したことがあるのではという認識ができた雰囲気もあった。
 
「水沢歌月さんは大学生で来春卒業予定では、というくらいの話は訊いてもいいですか?」
「はい。それは認めてもいいです。就活が大変みたいです」
「就職なさるんですか?」
 
「今20連敗らしいです。更に8月までKARIONで拘束するから9月になるまで就活できないし。でも卒論も書かなきゃいけないし。更にその卒論も実際8月までは書く時間がないので9月から頑張らなきゃいけないし。ということで就職先が見つからなかったら、KARIONの作曲のバイトしない?時給2000円でどう?などと誘っています」
と和泉がいうと、記者たちは爆笑した。
 
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7月13日。「しろうと歌合戦」の2回目の放送が行われた。冒頭のヨナリンさんのトーク。
 
「あれ、今日はローズクォーツに女性の演奏者がいますね。ケイさんかなと思ったら、ギターを持っておられる」
 
「こんにちは〜。美少女ギタリストのタカです」
とタカは開き直って笑顔でマイクに向かって言う。
 
「おお!タカさんが女性になってる。可愛い服着てますね〜。髪も金髪ロングヘアーだし。超美人だ。性転換しました?」
「それは秘密です」
 
「ところでタカさん、おいくつ?」
「32歳です」
「32歳で美少女を主張するのは凄いね」
「ヨナリンさんが命名したんじゃないですか〜?」
 
トーク自体はサトの方がセンスがあるのだが、ヨナリンさんはタカの「いじりやすさ」を見抜いて、タカとのコミカルなトークをこの番組の柱にしたい感じであった。
 
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「じゃ、美少女というのなら、次回はぜひ女子高生の制服を着て来てもらいましょう」
「えーーー!?」
 
この番組ではそうやってタカのトークがどうしても多くなり、また番組の最後に「ローズクォーツ賞」を発表して記念品を渡すのもタカがやっていたので、視聴者の中には、タカがローズクォーツのリーダーと思い込んでいる人も多かったようである。
 

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7月10日頃から、テレビスポットでローズクォーツの『魔法の靴』『空中都市』
のスポットが流れるようになった。それとテレビ番組でローズクォーツの知名度が上がったことから、それまでいったん8万枚ちょっとで停まっていた『魔法の靴/空中都市』の売り上げが伸び始めた。
 
またそれに引きずられるように『Rose Quarts Plays Girls Sound』およびこのシリーズの最新盤『Rose Quarts Plays Easy Listening』も売れ行きが伸び始めた。特に「しろうと歌合戦」を見ている30〜40代がこの付近のジャンルに元々反応しやすい層であったことも幸いしたようであった。
 

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この件で、ちょうど別件で★★レコードに行った時、加藤課長から尋ねられた。
 
「なんかローズクォーツの曲が売れてるね」
「ありがたいことです」
 
「でも売れてるのがさ、『魔法の靴』『Girls Sound』『Easy Listening』の3つに限られているんだよね。スポットだけじゃなくてテレビ番組の影響とかもありそうだから、それなら前のシングル『Night Attack』も少しくらい反応していいと思うのだけど、それは全然反応しないんだよ。なぜだと思う?」
 
「ちょっとその件は立ち話ではなくどこかお部屋で」
と私が言ったので応接室に通された。コーヒーとケーキを若い社員・石坂さんが持って来てくれる。
 
「わ!なんだか待遇がいい」
「いや、ケイちゃんは超VIPだから」
「あはは」
「それで、何か心当たりがある?」
 
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「制作過程+外装だと思います」
「へ?」
 
「『魔法の靴』は私とタカの強い要請により、第一級のスタジオで専門の音響技術者の手で録音・ミックスされ、ジャケ写も専門の写真家が撮影し、外装も含めて専門のデザイナーの手で調整され、更に音楽評論家の立石登卓さんに解説文を書いて頂き、メンバーの写真入りのしっかりしたブックレットを付けています」
 
「うんうん。シングルというよりミニアルバムの作りだよね」
「元々ローズクォーツのシングルって最初から事実上のミニアルバムだったんです。ローズ+リリーもですけど」
「ああ、確かに」
 
「『Girls Sound』は雨宮先生の管理下で制作されましたから、これも一流のスタッフで制作されています。ライナーノートは雨宮先生御自身が書いてくださいました。『Easy Listening』は私が指揮して制作したので、これも私が信頼している音響技術陣の手によるものですし、ジャケ写、ブックレット、外装なども私が直接指示してプロの人が手掛けています。ライナーノートはポール・モーリアの日本公演に毎年行っていたというモーリア狂の作家・岩橋美沙さんにお願いして書いて頂きました。渡部さんのツテがあったので」
 
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「ああ・・・見えてきたよ」
 
「ところが『Night Attack』は、UTPが普段から借りっぱなしにしているスタジオで、須藤が自分で録音して、スタジオの技術者がミックスしてるけど、どうもその技術者の水準に問題がある。写真も須藤が自分のコンデジで撮影して、Photoshop Elementで編集し、ライナーノートはマキが書いていて恥ずかしいことに文法がひどい。更にブックレットにも歌詞カード形式にもなってなくて、紙製CDケースの内側に印刷されています。これが見るからに安っぽいんですよ。しかもCDの背の部分には曲名がどーんと大きく出てますが、ローズクォーツというアーティスト名が小さくてよくよく見ないと分からない。どちらも英文字だから読みにくい」
 
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「そもそもローズクォーツのCDと認識してもらえないのか!」
「Bose Quartz と間違えられたりして」
 
加藤さんは首を振って言う。
「あのバンドの事務所には内容証明送ったよ。Amazonは出品削除してくれた。HNSとTABIYAは店頭から撤去してくれた」
 
「アルバムタイトルを同じにするって酷いですよね。聴いて失望したなんて手紙がこちらの事務所に来てましたからね。曲名見たらあちらの曲で。でもこちらも、向こうのこと言えた義理じゃない。録音品質の問題も深刻で。『Night Attack』
も『ウォータードラゴン』も格好いい曲なのに、ダイナミックレンジが振り切れてしまってるんですよ、あの録音。それでこの2曲、FM放送や有線などで聴くと、わりと格好良く聞こえるんですが、CDで聴くと録音のアラや、ダイナミックレンジの振切れ問題で凄くがっかりしてしまうんですね。つまりネガティブな口コミを発生させてしまいます」
 
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「それは大問題なのでは?」
 
「ええ。どうしましょうね? ローズクォーツのシングルも『一歩一歩』までは私が制作に深く関わっていたので、もう少しマシな作りだったのですが、私が外れた『起承転決』以降、急に安っぽくなってしまって。こちらがローズクォーツに口を出さない代わりに、須藤はローズ+リリーに不干渉というバーターをしたので、私も何も言わないようにしていたのですが、回を重ねる度に安っぽさが増していって。特にどうにも救いがたかったのが『艶やかに光って』と『あなたとお散歩』でしたね」
 
「うーん。。。」
と言ったまま加藤さんは腕を組んで悩んでしまった。
 

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7月14日。○○プロの臨時株主総会が行われ、役員人事が行われた。これまで取締役管理部長を務めていた丸花社長の妹さんが年齢(65歳)と健康上の理由で退任。これに代って前田課長を取締役制作部長に、中沢課長を取締役営業部長に就けた。そして浦中制作部長は代表権のある副社長に昇格した。
 
1998年に津田アキさん(私が通った民謡教室の先生)が○○プロの専務を退任して以来、15年間にわたって、浦中部長は代表権も無い平の取締役の肩書きのまま、実質○○プロを経営してきたのだが、丸花社長の妹さんの退任に伴い、とうとう代表権を持つことになった。
 
浦中さんがそれまで代表権のある地位に就くのを固辞していたのは、自分とあまり相性のよくないベテランのタレントさんたちの心情に配慮したものであったが、社内では丸花派と目されている中沢課長を同時に取締役に就任させることでバランスを取ることにしたのである。一方の前田課長の方は浦中さんの腹心であり、社内のパワーバランスを取った形になった。
 
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若手・中堅のタレントさんにはむしろ浦中派や津田派が多いので、経営陣としてもなかなか頭を悩ませる所なのである。前田課長の後任にはその津田派の中家係長が昇格、中沢さんの後任にはメインバンク出身の柳沢さんという人が就任した。
 
なお、これらの他に、かねてから「○○プロの御意見番」を自称していた歌手の保坂早穂さんが役職無しの取締役として名を連ねた。○○プロが大きく成長できたのは、なんといっても保坂さんの成功によるものなので、これも自然な待遇として受け入れられた。
 

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「いや、私にも○○プロの課長にならないか? なんて声が掛かったのよ」
と津田アキさんの娘さん、麗花さん(私が小学生の時に通った習字教室の先生)は言った。
 
「私にそんな大きな会社の役職なんて務まる訳ないのに」
「まあ、麗花はOLとかの経験も無いからな。性格的にも会社勤めはあまり合わない気がするよ」
とアキさんの方も言う。
 
麗花さんは学校を出た後、放送局の契約アナウンサーをする傍ら習字の先生をしていて、結婚後はお父さんのアキさんの民謡教室を時々手伝っている状態で、普通の会社に勤めた経験が無い。
 
「アキ先生にはお声は掛からなかったんですか?」
と私は訊いた。
「掛かった、掛かった。取締役副会長にならんかと」
 
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「副会長って、会長がいないのでは?」
「そそ。まだ丸花さんは会長に退く訳にはいかないから」
「でも丸花社長、お若いです」
「うんうん。実質経営から離れていて責任がないから年を取らないんだよ、なんて言ってた。むしろ前管理部長は『社長のお姉様ですか』なんて訊かれて憤慨してたね。ウラちゃんも苦労してるから、私よりかなり年上に見えるし」
 
「お父ちゃん、女の人になったので寿命も延びたのかも」
 
「ああ。ホルモンの作用ってあるかも知れないね。でもそれ以上に会社務めのストレスもあると思う。女性の平均寿命が長いのは男性ほど会社務めのストレスにさらされてないからというのもあるんじゃないかなあ。私は配当だけ毎年たくさんもらってて、生活のこと考えなくて済むしね。うちの民謡教室はお気楽経営。月謝方式じゃなくてチケット式が選択できるから気が向いた時に2000円でワンレッスン受けていく生徒さんたちが多いせいか、生徒数はあまり減ってないけど、まあ売上はアレだね」
 
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「生徒さんたちも半分はお友だち同士おしゃべりが目的って感じだけどね」
「お茶とお菓子は自由にどうぞってしてるから、半分カフェに来る感覚かも」
「全然練習せずにおしゃべりだけして帰っちゃう生徒さんもいる」
「いるいる。でもまあ、そういう場ということでいいんじゃないかな」
 
「民謡教室は今の時期、苦しい所多いみたいですね」
「民謡だけじゃなくてピアノ教室とかも生徒が減ってるよね。冬ちゃんの伯母さんたちの教室は大丈夫?」
 
「やはり減る傾向ではあるんですけどね。逆に閉鎖された教室の生徒さんを引き受けたりして、結果的に生徒数自体はそう変わってないみたいです」
 
「ああ。。。それは大先生たちならではだな。冬ちゃんは民謡教室開いたりしない?」
 
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