広告:ここはグリーン・ウッド (第3巻) (白泉社文庫)
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■夏の日の想い出・RPL補間計画(3)

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「でも何歌う?」
「そうだね。取り敢えずウォーミングアップで『Au clair de la Lune(月の光に)』」
「ウィ」
と政子はフランス語で答える。政子は英語・フランス語・ドイツ語・ロシア語・イタリア語(トスカーナ語)・タイ語・中国語(北京語)がぺらぺらである。但し発音は適当である!
 
「最初の音はこれ」と言ってドの音を教えてから一緒にユニゾンで歌い出す。
 
「Au clair de la Lune, Mon ami Pierrot,
Prete-moi ta plume, Pour ecrire un mot.
Ma chandelle est morte, Je n'ai plus de feu;
Ouvre-moi ta porte, Pour l'amour de Dieu」
 
(月の光の下。お友だちのピエロさん、ペンを貸して。手紙を書きたいの。蝋燭が死んでしまったから、火が無いの。扉を開けて。神の愛のために)
 
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勘ぐると結構意味深な歌詞だが、フランスでは誰でも知っている童謡である。
 
ドドドレミレドミレレド、レレレレシシレドシラソ、といったシンプルなメロディーはまるで発声練習だが、私の目的も政子にまず発声練習させることだった。
 
丸花さんがパチパチパチと拍手をして
「Merveilleuses (素晴らしい)」
と褒めてくれる。
 
「でもケイ、私たちの歌も歌いたい」
「そうだね。じゃ『遙かな夢』」
「よっしゃ」
 
最初の音を教えてあげて一緒に歌い出す。
 
私たちは更に『涙の影』『あの街角で』『100時間』『坂道』と歌っていった。私たちが作った歌を全部で10曲くらい歌った。
 
丸花さんはずっと手拍子を打ちながら聴いてくれた。
 
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「なんか結構満足した」
と政子は昂揚した顔で言った。
 
「マリちゃん、あとどのくらいでステージに復帰できそう?」
と丸花さんが訊く。
 
「こないだまでは500年くらい掛かるかなと思ってたけど、250年で行けそうな気がしてきました」
 
「うん。マリちゃんが250年復帰に掛かるんなら、僕も頑張って後250年生きるよ」
「ほんとですか? じゃ、それまで250年間頑張って練習に励まなくちゃ」
「うんうん、頑張って」
 

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「もう遅くなっちゃったね。東京まで今から帰るのも大変だし、どこか泊まっていく?」
と丸花さんは会場を出ながら言う。
 
「あ、それもいいかな」
「じゃ、適当なホテルに付けてあげるよ」
 
そう言うと、丸花さんは私たちを横須賀市内の何だか素敵な外見のホテルに連れて行った。フロントで話をしている。
 
「今夜は君たちが素敵な歌を聴かせてくれたから、ホテル代は料金代わりね」
と言ってキーを渡す。
 
「わあ、ありがとうございます」
と言って政子は鍵を受け取った。
 
私たちはボーイに連れられてエレベータで最上階まで上がった。丸花さんが手を振って、私たちは会釈して、別れて、政子と一緒の部屋に入る。
 
素敵なお部屋だった。
「ここ高そう」と私。
「なんだか広い部屋だね。私が子供8人くらい産んでも一緒に泊まれそうだ」
「マーサ、8人も子供産むの?」
「そのくらい居たら、賑やかでいいじゃん」
「確かに賑やかだろうね」
「私ひとりっ子だからさ。お姉ちゃんとか妹とかいる、賑やかな家庭に憧れてたんだよ、小さい頃」
「ああ」
 
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取り敢えずシャワーを浴びたら、少しだけ気持ちが鎮まった。
 
「少し落ち着いたけど、まだエネルギーが余ってるな」と政子。
「はい、どうぞ」
 
と言って、私はその日仁恵からもらった英語のノートを渡す。最初のページに昼間私がその英習字用に書かれた4本線をむりやり五線紙として使用して書いた曲が書かれている。
 
「よし」
と言って、政子はバッグから愛用のボールペンを取り出すと、ノートを数ページめくった所に詩を書き出した。なんだかフランス語で書かれている!
 
「Ecrive-tu en francais ? (フランス語で書くの?)」と私が訊くと
「Oui, Oui. Mais je la vais tranduire en japonais, demain, Mon amie Pierrot.(うん。うん。でも明日、日本語に訳すよ、女友だちのピエロさん)」
と政子は答える。
 
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それで政子はその夜、フランス語で詩を5篇も書いた。
 
「よし。曲を付けて」
「一晩に5曲は無理だよ〜」
「じゃ、取り敢えず1曲でいい。最初はこれ」
「じゃ曲付けるからそれ日本語に訳してよ」
「明日やる」
「フランス語のまま曲を付けたら音符の数が合わなくなるよ」
「だから私が日本語に訳した状態を想像して曲を付ける」
「分かった、分かった。しょうがないなあ」
 
それで私は政子のフランス語の詩を眺めて、意味は考えずにただその文字の流れに含まれる波動のようなものを感じてそれに沿って曲を付けていった。英語ノートの四線の上に1本線を加えて五線紙として使用する。
 
「お、できたね」
「ちょっと疲れた」
「これで私が明日訳す詩と合う?」
「合うと思うよ」
 
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「よし、それじゃ今夜は寝よう」
「うん。Hするよね?」
「しないよ〜。だってボクのおちんちんが立たないの知ってるでしょ?」
 
「今夜は立つと思うよ。だってあんなに興奮したんだもん」
「そう?」
「やらせて、やらせて」
 
と言うので、私はタックを外した。楽しそうに触っている!
 
そしてそれは5分ほどで立ってしまった。
 
「嘘みたい」
「冬、男の子の機能回復したんだよ」
 
これが立ったのは本当に1年ぶり近かったのでびっくりした。
 
「機能回復なんてしなくていいのに」
「ふふ。このまま私のに入れて」
「あ、それはたぶん無理」
 
と私は言ったが、実際にそれは政子が手を離すとすぐに縮んでしまった。そしてその後はどうやっても立たなかった。
 
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「うーん、まだまだか」
「だってボク女の子だもん」
「冬が女の子なのは知ってるけどさ。しょうがない。またタックして」
「了解」
 
そして私はタックして女の子の股間にし、それからふたりで抱き合ってベッドに入った。
 
私たちの興奮はまだ冷めていなかったので、その晩はとても熱く愛し合った。こんなことをする時に、枕元にコンちゃんを「御守り」として置いておく約束をしていたのに、そのことを忘れてしまうくらい、私たちはその晩、激しくお互いを求め合った。
 

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朝になって目を覚ます。
 
政子はとても満足そうな顔をしていた。
 
「ねぇ、冬」
「なあに?マーサ」
 
「私さあ、昨夜丸花さんにステージ復帰まで250年掛かるって言っちゃったけど」
「うん」
「200年で行ける気がしてきた」
「うん。じゃ200年、練習頑張ろうね。250年掛けて練習するのより少しペース上げなきゃ」
 
「ね、私、スタジオで歌うってのも、またやってみたい。こないだ雨宮先生と録音したのは凄く慌ただしかったからさ、今度は2〜3日掛けてゆっくりと練習してから吹き込むの」
「ああ。いいんじゃない。じゃ、スタジオに行く前にも何日か練習しようよ」
「うん」
 
その日の朝、政子が本当に満足そうな顔をして帰宅したので政子のお母さんは政子に訊いたらしい。
 
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「冬ちゃんとしたの?」
「したことになるのかなあ・・・・でも冬と私の信頼関係はまた深くなったよ」
と政子は言った。
「うん。うん」
 
と政子のお母さんは優しく頷いたという。
 

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そしてその日の午前中、政子は昨夜書いた詩を日本語に訳したが、
 
「すごーい。ぴったり収まったよ」
と言って、私の書いた譜面の下に歌詞を書き入れたものをFAXで送ってきた。フランス語のタイトルは、Clair de la lune, murmures des etoiles
(月の光と星のささやき)だったのだが、日本語のタイトルは『夜宴』になっていた。私は一瞬「なぜだ〜!?」と叫びたくなった。訳詩も超訳だ。
 
「これって冬があの詩を自分で訳しながら音符を入れたの?」
「違うよ。マーサの詩を書いた心を感じながら曲を付けただけだよ」
 
「そっかあ。私たちって、心が響き合ってるもんね」
「そうだよ。だって、ボクたち愛し合ってるもん」
「うん」
と政子は元気に答えた。
 
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ところで私は例の大騒動の後で父と「大学受験が終わるまで歌手活動は自粛する」
ということを約束したのだが、自粛を約束したのは、あくまで「歌手活動」である。それで私は「音楽活動」は結構やっていた。
 
2009年6月に私は△△社の津田社長と∴∴ミュージックの畠山社長の秘密会談を設定し、その会談における密約に従って、マリ&ケイで作った曲の一部を「鈴蘭杏梨・作詞作曲」の名義で△△社の新人女子大生デュオ、kazu-mana に提供し、町添さんは「ケイちゃん・マリちゃんの作る曲を歌うのなら」と言って、彼女たちのCDを★★レコードから発売した。(まるで1年前にローズ+リリーが「上島先生の曲なら」と言われて同社からメジャーデビューした時のようである)
 
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鈴蘭杏梨がマリ&ケイの変名であることは、公表していないし、問い合わせがあっても「申し訳ございませんが、鈴蘭先生のプロフィールは公開しておりませんので」としか回答しないことになっているものの、ローズ+リリーの熱心なファンの間では「間違いなくそうだ」と考えられていて、その層が注目して口コミを広げてくれたこともあったようで、kazu-mana は、△△社のアーティストとしては当時、ピューリーズに次ぐセールスを上げていた。
 
つまり kazu-mana は正式にそう分類されているわけではないが、実は最初の「マリ&ケイ・ファミリー」である。また、kazu-manaの活動自体がずっと休養していたローズ+リリーのファンのテンション維持に大きく貢献してくれたと思う。
 
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一方で私は水沢歌月として、和泉(森之和泉)とペアでKARIONの楽曲作成も続け、更に「蘭子」として、KARIONの音源制作にも参加していた。
 
2009年の前半では、2月にアルバム『みんなの歌』、3月にシングル『恋愛貴族』、そして6月に『愛の悪魔』の音源制作を行い、これに私はメインのボーカルには参加していないものの、作曲者、キーボード奏者/ヴァイオリン奏者、およびコーラス隊として参加。また和泉と共同で、これらの作品をプロデュースしている。
 
昨年2008年の前半は、プロ歌手になってしまった和泉と、まだデビュー前であった私との間に、お互い意識しないようにはしていたものの、微妙な心理的な壁があったのだが、私がローズ+リリーとしてメジャーデビューした後は、同じ立場になったという認識から、ふたりの間の壁は完全に消えてしまい、私と和泉は本当に何でも遠慮無く言い合い、作品を洗練させて行った。
 
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森之和泉+水沢歌月(ファンの間では「泉月」と略称される)ベースの最初のCD『秋風のサイクリング/水色のラブレター』が5.6万枚しか売れなかったのに次のCD『優視線/広すぎる教室』が30万枚も売れたのはTVCMの効果もあるにはあったが、やはり作品制作過程における私と和泉の間の心理的な意思疎通の問題も大きかったと思っている。その後のKARIONの作品は全て20万枚程度以上売れている。(『恋愛貴族』24万枚、『愛の悪魔』28万枚)
 
なお、『みんなの歌』は、KARIONが初期の路線から方向転換をする時に募集した「KARIONに歌わせたい歌詞コンテスト」の優秀作品を収録した特殊なアルバムで、作曲は私と相沢さん(作曲クレジットTAKAO)が半分ずつ担当している。私は1月に学校に行けず引き籠もりしていた時期にこの『みんなの歌』の作曲作業を盛んにやっていたのである。
 
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なお、KARIONも2009年の後半は、メンバーの大学受験のための休養期間に入った。ただし9月に私たちは8番目のシングル『愛の夢想』と9番目のシングル『愛の経験』の音源制作をまとめて行い、『愛の夢想』は11月に、『愛の経験』は2月に発売するということをしたので、休養中もKARION
の作品は途切れず発表されていった。
 
2008年組ではAYAのゆみと、XANFUSの光帆・音羽は大学には進学せず高校卒業後は歌手に専念することにしたので、彼女たちの作品も2009年後半に継続して出ている。
 
一方でローズ+リリーの作品はこの時期は完全に途切れていた。
 

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ローズ+リリーは、2009年1月の『甘い蜜』から2011年7月の『夏の日の想い出』
まで2年半もの断絶期間があるのであるが、私と町添さんの共同作戦による「補間作業」で、いくつか間を埋める作品が世に出ている。
 
この間に公式に発売された作品は2009年6月に出た『ローズ+リリーの長い道』
のみであるが、実は他に、2010年9月の通称「アルゼンチンアルバム(恋座流星群相当)」、2011年1月の「広東バージョン(Spell on You相当)」などというものも存在する。このふたつはあくまで「海賊版」であるが、実際問題として『長い道』から『アルゼンチン』までが1年3ヶ月、『アルゼンチン』から『広東』
までが4ヶ月、『広東』から『夏の日の想い出』までが6ヶ月ということで、結構間が補間されている。
 
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ただその中でも『長い道』と『恋座流星群』の間は1年以上空いているのだが、実はその間を埋める作品も存在する。
 
それが5月15日の町添さんと私たちとふたりの母との会談で「無料配布」が決定した『雪の恋人たち/坂道』であった。
 
この曲は元々、私が2008年の春に、レコード会社への売り込みを意図して作ったデモ音源のひとつであるが、私とマリの声はそのままにして、町添さんにミュージシャンを手配してもらい、楽器演奏部分のみ生演奏に差し替えて、新しい音源を制作した。(ということにしてある)
 
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夏の日の想い出・RPL補間計画(3)

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