広告:ここはグリーン・ウッド (第4巻) (白泉社文庫)
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■夏の日の想い出・高2の初夏(2)

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ボクたちはファミレスで少し会話に夢中になりすぎて、結局2時間ほどいて、23時すぎに政子の家に移動した。
 
「遅くなってごめんね」
「ううん。タクシーで帰るから大丈夫だよ」
「いっそ泊まっていく?」
「えー?」
「冬はお母さんには男の子の友だちと一緒に映画に行くことにしてきたの?」
「いや、そんなこと言っても信じてもらえないから女の子の友だちと行くと言ってある。ボク、男の子の友だちなんて出来たことないもん」
 
「そっか。。。でも泊まって行ってよ。タクシー代もったいないしさ。私たち友だちだから一緒に夜を過ごしても何も起きないよね」
「そうだね」
ボクは政子の家の電話を借りると、自宅に電話を入れて、映画を見たあと誕生祝いをしていたら遅くなってしまったので、今晩はこちらに泊めてもらうと母に言った。
 
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「今お友達の自宅なの?」
「うん」
「女の子の友だちだよね」
「うん。でも何もしないよ。ほんとに友だちだから」
「そう?まあ、自宅なら大丈夫かな」
 
電話を切ると政子が
「お母さん、まさか、私たち2人だけとは思ってないよね」
と言う。
「だろうね。こちらの親御さんがいると思ってるよ」
「ふふふ」
 
紅茶を入れてから、ボクが買ってきていたケーキを一緒に食べる。
改めて「ハッピーバースデイ」と言って、紅茶のカップを乾杯するようにカチンと合わせた。
 
「ありがとう」と政子が微笑んで言う。
「えへへ。友だちに誕生日祝ってもらったのって、私初めて」
「毎年、お祝いしてあげるよ」
「ありがとう。冬の誕生日っていつだったっけ?」
「10月8日」
「よし。携帯に登録しておこう」
 
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あらためて映画の話などもしていた時、ボクの心の中に衝動が沸き上がってきた。
「五線紙ある?」
「うん。こないだ使い切ったから、また買っておいた」
といって、政子は居間の本棚の中から五線紙を取りだし、ボクに渡してくれた。いつものボールペンもバッグから取り出して渡してくれる。
 
ボクが五線紙に音符を書いて行っていたら、政子はボクのそばに寄ってきて横から首に抱きついてきた。ボクは微笑んでそのまま書き続ける。
 
「私、おたまじゃくし読めないけど、なんか音符の並びから、凄く暖かい波動を感じちゃう」
「うん、今すごく優しい気分になってる」
とボクは言いながら譜面を書いて行っていた。
 
「あれ?今日はこないだみたいなピアノ・アプリ使わないの?」
「うん。音を探したい時もあるけど。今日はフィーリングで書いてるから。こういう時は無理に音を探さなくても、自然な音の流れで書いていく」
「へー。楽器とか無しでも書けるもんなんだ」
 
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「フィーリングで書いてるから、音を勘違いしている可能性もある。後でそれは調整するよ」
「ああ、音が分かってるわけじゃないんだ?」
「だいたい分かってるつもりではあるけど、ボクは絶対音感無いからね」
「ふーん」
 
「よし。書き上げた」
「どんな歌?歌える?」
「うん。少し音間違ってたらごめんね」
と言ってボクはその歌を歌い始めた。
 
政子の目から涙が一筋流れた。歌い終わってからボクは政子の額にキスした。
 

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交替でお風呂に入ったあと、寝ることにした。
「寝間着、私の貸してあげるね」
と言って政子は可愛いネグリジェを出してくる。ちなみに政子はふつうのパジャマを着ている。
 
「ま、いっか。じゃ借りるね」と言って着たら
「わー。やっぱり冬ってこんな少女っぽいのが似合う」などと喜んでいる。
 
「じゃ毛布か何か恵んでくれない?ボクここのソファで寝るから」
「私のベッドで一緒に寝ようよ」
「いや、妊娠させちゃまずいし」
「一緒に寝ただけじゃ妊娠しないよ。4月にも一緒に寝たじゃん」
「いや、今日は遠慮しとく」
「ふふふ。優しいのね。じゃ毛布とお布団持ってくるね」
と言って、政子は奥のほうの部屋から持って来てくれた。
 
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「じゃ、おやすみ」
「うん、おやすみ」
 
政子はボクの頬に軽くキスをすると手を振って寝室へ行った。ボクは居間の電気を落とすと、目を瞑って睡眠の世界に落ちていった。
 
翌朝目をさますと5時半だった。7時までにはいったん自宅に戻りたい。ボクはキッチンの状況を確認した。御飯はジャーの中にある。新しい御飯を炊いておくべきだったなと思ったが、冷蔵庫を開けてありあわせの材料でケチャップライスを作り、お弁当箱2つに詰めて、プチトマトとウィンナー、玉子焼きを作って添えた。先週政子の家に寄った時にボクが作っておいた、冷凍のブロッコリーのストックがまだ残っていたので、それを添えた。お昼までに解凍されてちょうどよくなるはずである。
 
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それからケチャップライスの残りを使ってオムライス風にし、玉子の上にハートのマークを描いたところで政子が起きてきた。
 
「おはよう。あんまり時間がないから、勝手に政子の分とボクの分とお弁当作っちゃったよ。このお弁当箱、借りてくね」
「おはよう。わあ、ありがとう。お弁当箱は勝手に持ってって」
「おなじ中身だけど、クラスが違うからバレないよね」
「ふふ」
 
「オムライスもきれいにできてるなあ。こないだ教えてもらったからやってみたけど、やっぱり冬みたいにきれいにできないよ」
「オムライスは難しいからね。たくさん練習しないと、なかなかうまくできないよ」
 
「あ。でも冬って、お弁当もいつも自分で作ってるのね」
「うん。だいたいそうだよ。お母ちゃんやお姉ちゃんが朝御飯の当番の時は、お弁当まで作ってくれないから、結局毎日自分で作る」
「偉いなあ。。。私ひとり暮らしじゃなくて、冬の家に下宿すれば良かった」
「ははは」
 
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「お弁当も冷凍食品をチンしたのばかりになりがちで。冬が時々来た時に作ってくれるストック、凄く助かってる」
「良かった、良かった」
「やっぱり冬がいなかったら、私餓死するか、ホカ弁のオンパレードになってお母ちゃんからタイに召喚されるハメになってたよ」
「でも食事もだけど、勉強の方も頑張らなきゃ」
「そうなんだよね。夏の模試では、偏差値50は越えないとやばい」
 
「放課後に少し一緒に勉強しようよ。図書館とかで。部室でもいいけど」
「うん。そうだね。やはり一人ではなかなかエンジンが掛からなくて」
 

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ボクは昨日着てきた服に着替えるとお弁当を持って自宅に戻り、あらためて学生服に着換えてから学校へ行く準備をした。
 
「あら。お弁当は向こうで作ってきたんだ?」と母。
「うん。お弁当箱も材料も借りた。実は彼女と同じ内容のお弁当なんだけどね」
「お友達が作ってくれたの?」
「ううん。ボクが2人分作った」
「冬彦らしいわ」と母が笑って言った。
 
「ところで昨夜は何もしてないよね?」と母は小さい声で聞いた。
「してないよ。ボクは居間で寝たから」
「ね、何もするつもりなくてもさ、相手が女の子ならハプニング的にしちゃう場合もあり得るでしょ」
「うーん。それはあるかも知れないね」
「念のため、ちゃんと避妊具を持っておきなさいよ。あんた女の子の友だち多いから、そのうちきっと事故も起きるよ」
「そうだね。買って1枚いつも持ち歩いてるバッグに入れておこうかな」
「うん。それがいいよ。自分で買える?」
「うん。買えると思う」
 
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「そういえば昨日は何の映画見たの?」
「JUNO」
「わあ・・・高校生の女の子が妊娠して子供産んじゃう話か」
「そう。なんか他人事じゃないみたいで、たくさん泣いちゃった」
 
「あんたもそういうのの加害者にならないようにしなくちゃね」
「・・・・ね、お母ちゃん」
「なあに?」
「ボクね。。。。子供できないかも知れない」
「・・・・何となくそんな気はしてた」
「そうなったら、御免ね」
「いいよ。萌依にその分、頑張ってもらうから」
「うん」
 

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政子と映画を見に行った翌日、絵里花から連絡があって、昨年のクリスマスにボクが代役で歌うことになった歌手の晃子さんがスポンサー付きのライブをするのだけど、良かったら一緒に歌わないかと言われた。ボクは快諾して取り敢えず打ち合わせのため、その週の土曜日、「女子高生風の服」を着て出かけていった。その日は晃子さんだけで、晃子さんのお母さんは来ていなかった。
 
ライブのコンセプトはブルーグラス&フォークソングということで、アメリカ民謡の名曲を歌うというものだった。アメリカの食品会社のキャンペーン会場での公演ということだった。まず曲目を確認する。演奏候補として挙げられている曲はみんな有名な曲ばかりで「これなら大丈夫ですね」とボクは言った。歌はボクと晃子さんのユニゾンで歌うことにした。
 
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スポンサーの人(外人さんと日本人が1人ずつ。たぶん本社の偉い人と日本法人の担当者さん)が、ボクの歌を聴いたことがないということで、全曲目を歌ってみることにした。練習用のマイナスワン音源を鳴らしながら1コーラスずつ歌って合わせてみた。「素晴らしいですね」と日本人の人が手を叩いて褒めてくれたが、外人さんの方が何か早口の英語で言い、日本人の方がえ?という感じで驚き、ふたりで何か早口で会話している。晃子さんはキョトンとして聞いている。会話の中身が分からないようである。ボクは全部会話が聞き取れてしまったが「この若い子のほうがうまいから、この子だけでいいよ」と言って、日本人の人がそれは勘弁してくれということで反論して、最終的には1人でも2人でもギャラは同じなのでということで、何とかふたりで歌うことで納得してくれたようであった。ボクは心の中で冷や汗を掻いていた。
 
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その日はスポンサーの人たちと別れた後、ボクと晃子さんのふたりでカラオケ屋さんに行き、再度全曲を合わせてみた。
「ほんとに冬子ちゃん、歌がうまいなあ。私もたくさん練習しなきゃ」
などと言っている。
「そうそう。歌はやはり練習あるのみですよ。自分が歌う歌をICレコーダに録音して聞いてチェックしたりするといいんですよ」
などとボクは言った。
「ああ、それはいいね。やってみようかな」
 

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翌週の日曜日が本番だった(ボクはその1週間、毎日放課後、コーラス部の友人に頼んで音楽練習室の個室を借り、そこで裏声で演奏予定曲目を歌いまくった)。
 
ボクはまた「女子高生風の服」で都内のイベントスペースに行き、楽屋で晃子さんが用意してくれていたステージ衣装に着替える。晃子さんが青いドレス、ボクが黄色いドレスであった。
「Akiko and Keiko!」
と名前を呼ばれて2人でステージ中央に出て行く。今日はピアノは無しで、伴奏音源を鳴らしながらの歌唱である。
 
最初にブルーグラスの名曲「マーサ・ホワイトのテーマ」(元々製粉会社のCMソングだが今回のスポンサーがここの製品を使っているのでオープニングに指定された)を歌った後、この曲をヒットさせたフラット&スクラッグス(後のフォギーマウンテンボーイズ)の曲を3曲歌う。
 
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それから「カントリーロード」、「クレメンタイン」、「赤い川の谷間」などと歌い、更にフォークソングを数曲歌ってから最後は「テキサスの黄色いバラ(The yellow rose of Texas)」を歌って締めた。
 
来場者は日本人が多いのであまりなじみの無いブルーグラス系の曲は反応が鈍かったが、フォークソング系の歌はみんな知っているようで、かなり手拍子などももらった。最後は割れるような拍手が来て気持ち良かった。
 
歌い終えてからステージの袖に下がったら、スポンサーの外人さんの偉い人が寄ってきてボクに声を掛け、握手を求められた。
 
「You are precisely the yellow rose of Japan, wearing yellow dress!」
(あなたはまさに日本の黄色いバラだ。黄色いドレスも着ているし)
「Thank you, sir」
とボクは笑顔で応えた。
 
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晃子さんはこの日の出演料を私と山分けにしてくれた。ボクは思いがけない臨時収入を得て、これ何に使おうと思っていた時、あることを思いついた。
 
その翌週の水曜日。暦は7月に入っていたが、ボクは政子を誘って午前中学校をサボり、一緒に都内の貸しスタジオを訪れた。
 
昨年の夏以来、ボクと政子はけっこうな数の曲を書いていた。それをふたりで歌って録音しようと持ちかけたのである。
 
昨年夏のキャンプで書いた『あの夏の日の想い出』という曲をはじめ、これまで1年間に書きためた曲は全部で30曲近くあったが、そのうち自分たちでも比較的良い出来だと思う曲12曲を吹き込むことにした。伴奏は事前に打ち込みで作っておき、それを聞きながら歌を収録しようという魂胆である。(12曲分の打ち込みデータを作るのに一週間以上掛かってしまった)スタジオは3時間パックを借りることにしたのだが、スタジオの借り賃は平日が安いし空いている。そこで学校を午前中サボることにしたのである。
 
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朝9時から作業を始めて、各々の曲で、ボクが単独で歌ったもの、政子が単独で歌ったもの、2人で一緒に歌ったもの、の3パターンを最低1回ずつ収録したが、曲によっては2〜3回録音した。ミクシングなどは自宅ででもできるので、後日やる予定であった。(実際にはこの後突然忙しくなったので、ミクシングを完成させたのは高3の時)
 
「これCDにして売りたいね」と政子。
「売れるかなあ」
「ミリオンセラーになったら、左団扇で暮らせるよ」
「そう簡単にミリオンにはならないよ」とボク。
 
そんな会話をしたが、ボクもこの時は、まさかそのわずか半年後に本当に自分たちがミリオンヒットを出すことになるとは夢にも思わなかった。
 

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夏の日の想い出・高2の初夏(2)

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