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■夏の日の想い出・翔ぶ鳥(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2017-03-05
 
深川アリーナの落成式が終わった後、私は千里、上島先生、と一緒に食事をする約束をしていたので、ロビーで待っていたのだが、そこで物凄く強烈なオーラを持つ女性と目が合った。
 
「花園亜津子さん?」
「確かローズ+リリーのケイさん?この体育館のオーナーグループの」
 
私たちは握手して名刺を交換した。
 
「千里を待っているんですか?」
「ええ。ちょっと話しておきたいことがあったもので」
「わざわざ、名古屋・・・でしたっけ?から?」
「その近くの刈谷市って所なんですけどね」
「ああ、刈谷ですか!実は私も江南市出身なんだけど、みんなから名古屋でしたよね?と言われます」
「なるほどー。愛知より名古屋のほうが有名ですからね〜」
「福岡全部博多にされたり、宮城全部仙台にされたりするのと似てますね」
 
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そこに千里がやってきたが
 
「上島さん、都会議員のTさんって人に呼び出されて、何か緊急の要件とかで行っちゃったよ」
などと言う。
 
「T議員か・・・」
 
私は顔を曇らせた。少し悪い噂も耳にする人である。例の築地移転問題でも名前の出てきている人で、そういう人と上島先生がどういう関係があるのだろうと私は少し心配している。先生はどうもここ1年程、そのT議員とかなり会っているようなのである。
 
「あ、だったら、花園さん、もしお時間があったら、代わりに一緒しません?キャンセルするのももったいないし」
と私は笑顔に戻して言った。
 
「どこか行く予定だったんですか?」
「ちょっとこの体育館のオーナー3人で食事しようなんて言ってたんですよ」
「わあ」
「花園さんの分の代金はきっと千里が出すだろうし」
 
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花園さんは吹き出した。
 
「仲がいいみたい」
「千里と花園さんには負けます」
 

そういう訳で結局、ドライバーの佐良さんが運転するエルグランドに、私と千里と花園さんが乗り、体育館から少し離れた都区内の料亭に連れて行ってもらった。
 
「では近くにいますので、お帰りの際は呼び出して下さい」
「ありがとう、またよろしく」
 
と言って降りる。
 
「凄いなあ。運転手付きか」
と花園さんが言っている。
 
「私と冬子の書いている楽曲の比率が★★レコードの売上の中で高い比率を占めているから、レコード会社が心配して、私たちが疲れている時に運転して事故を起こさないようにというので運転手を付けてくれているんだよ」
 
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と千里は説明する。
 
「千里はそこが信じられん。よく作曲とかする時間があるものだ」
「バスケの練習している最中によくフレーズが思いつくんだよね」
「なるほどねー」
 

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ともかくも3人でその料亭に入る。上島先生の名前で予約していたものの、その上島先生が来られなくなって代わりに友人を1人連れてきたと私が説明する。私もこのお店には何度も来ているので、店主さんは笑顔で了解しましたと言い、私たちを奥の座敷に案内してくれた。
 
「しかし高そうな店だ」
「まあ私も接待されてくることが多い」
「こういう所で接待されるのもなかなか恐い」
「まあ悪い相談とかすることもあるからね」
 

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料理はすぐにお茶と前菜が運び込まれてくる。
 
「お酒のほうがよろしいでしょうか?」
と仲居さんに訊かれるが
「いえ。みんなあまり飲みませんから、お茶のほうが嬉しいです」
と私は答える。
 
しかしここはお茶も美味しい。静岡の川根茶だと仲居さんは説明していた。
 
「でも、あっちゃん、今日ははるばる名古屋からお疲れ様」
と千里が言うので、私と花園さんは吹き出した。
 
「どうかした?」
と千里が戸惑うように言う。
 
「いや何でも無い」
と私も花園さんも言った。
 
「まあそれで本題を言っちゃうとさ。私、来期からWNBAに行くから」
と花園さんは言った。
 
千里が厳しい顔になる。そして数秒考えるようにしてから言った。
 
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「あっちゃんは、もっと早くアメリカに挑戦して良かったと思う」
「なかなか踏ん切りが付かなかった部分もあるし、今のチームとの契約の問題とかもあってね」
 
「9年いたのかな」
と千里が訊く。
「うん。いつの間にか9年経ってた」
と花園さん。
 
「年齢的にはけっこうギリギリの挑戦になるかもね」
「千里もおいでよ」
 
「私はまだ1年目だもん。無理だよ。こちらである程度実績残しておかなきゃ向こうでも評価してもらえないだろうしね」
「千里も大学なんか行かずに、高校出たらすぐプロになればよかったのに。さらに大学院まで行って学生を6年もやるし」
「まあ確かに私も大学院の2年は余分だった気はする。その間、あっちゃんはずっとプロだったんだもんね〜。MVPも2回取ったし」
 
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「優勝できたら良かったんだけどね」
と花園さん。
「準優勝が最高だったね」
と千里。
 
後で確認すると花園さんの所属するエレクトロウィッカはWリーグでは2013年に準優勝、オールジャパンで2012,2015,2016年に準優勝している。
 
ちなみに千里がオールジャパンに出たのは2008,2012,2016の3回で、2012年の大会では対戦していないが、2016年(今年のお正月)では準決勝で対戦して僅差で千里のチーム(40 minutes)が負けている。
 

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「おまけに性転換したなんて嘘もつくし」
と言って花園亜津子は千里を見る。
 
「そうだね〜。私、性転換もしたし、子供も1人産んだし」
「それ凄く矛盾してるんだけど」
「ふふふ」
 
そして花園さんは言った。
 
「だからさ。今年は私と千里が同じリーグで戦える最初で最後のシーズンだよ」
 
千里はじっと彼女を見ていた。そして言った。
 
「Wリーグの決勝、オールジャパンの決勝、オールスターで対決しようよ。まあ全部私が勝つけどね」
「もちろん対決して私が勝つよ」
と花園さんも笑顔で言った。
 
そして2人は硬く握手をした。
 
「フェニックス翔び立つって感じかな」
と私は言ったのだが、
 
「あっちゃんはフェニックスよりガルーダのイメージがある」
と千里は言う。
 
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「それ実は、アメリカで入る予定のチームのキャプテンからも言われた。You are Garudaって」
 
「あっちゃんはその周囲の空気を支配してボールを撃つんだよ。大抵の相手は圧倒されて停めきれない。私は相手に気付かれないようにこっそり撃つ」
 
「うん。千里はしっかり見ていないと、すぐ目の前から消えるんだ。どこ行った?と探している内にもう撃たれている。だから千里は素早く動き回るハヤブサ、ファルコンだと思う」
と花園さん。
 
「褒め言葉と受け取っておくね」
と千里は笑顔で答えた。
 

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ところで今年の年末年始のローズ+リリーのツアーの中には12月31日夜から1月1日の0:30(後述の理由により0:20に切り上げ)まで掛けてのカウントダウン・ライブが含まれている。
 
実は今回、このカウントダウン・ライブを行う場所については、随分と迷走することになった。
 
最初は7月頃の時点で、山形県内某市近郊に大型ショッピングセンターの建設計画があり、その敷地を昨年同様に借りる方向で交渉していた。ところがこの建設計画に当地の市議会の野党議員が噛みつき、結果的に計画が遅れることになった。それで現地の樹木伐採などもしばらくできず、こちらのイベントでも使えなくなってしまった。
 
そこで8月になってから慌てて代替地を探し始めたのである。温泉とセットのチケットを販売する関係上、そこの宿泊枠を最低でも8月末までには押さえる必要がある。
 
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条件は
・3万人程度の観客が入れられる所
・住宅地にあまり近くないこと、あるいは音を遮るものがある場所
・近隣の温泉などにアクセスしやすい場所
・昨年が北陸新幹線沿線だったので今回は東北新幹線沿線で
 

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最初「いわて沼宮内(ぬまくない)駅」周辺というのが候補にあがった。
 
昨年が“新幹線の秘境駅”と言われた安中榛名駅の近くだったが、安中榛名駅は1日の平均利用者が267人と“日本第2位”である。そして実は1位がいわて沼宮内駅で、1日の平均利用者は85人である。
 
なぜそんなに利用者が少ないのに駅があるかというと、ここが交通の難所だからである。
 
この駅と、北側の一戸駅の間にある十三本木峠が大きな高低差があり、非電化時代は、補助機関車の連結・解結をここでおこなっていたため、当時は特急の停車駅であった。
 
そしてその頃に、ホームで
 
「弁当〜弁当〜」
という売り子の声に混じって
「ぬまくなーい(うまくなーい)、ぬまくなーい」
という駅名アナウンスが聞こえる、というので落語のネタにされた駅である。(三代目三遊亭圓歌『授業中』)
 
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東北本線が電化された後は、特急も停まらなくなっていたのだが、東北新幹線が作られることになった時はここにやはり新幹線駅が設定された。
 
これは非電化の時代と同様、ここに駅が無いと、山越えの難所で何かあった時に困るからである。
 
つまりこの駅は乗客のためや、政治家の我田引鉄などによる駅ではなく、運行上の安全性のために作られた駅なので、乗降客は無くても構わないのである。
 

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ここを最寄り駅にした場合、会場候補にあがったのが、岩手町の総合運動公園なのだが、念のため★★レコード盛岡支店の人が現地まで行って確認してみたところ、せいぜい1万人くらいしか入らないということが分かった。これでは狭すぎるので、別の場所を模索することになった。
 
次に候補にあがったのが、福島の飯坂温泉である。ここは新幹線福島駅から福島交通飯坂線の電車に乗り20分ちょっとで到達できる場所に温泉がある。なんといっても温泉のそばなので、観客の宿泊場所を確保しやすいというのがあったのだが、ここも適当な会場を見つけることができなかった。
 

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仙台市を本拠地とするプロスポーツチームのホームグラウンド(スタンド席のみで3万人、グラウンドに多分2万人収容可能)も検討されたのだが、非公式に接触してみた所、天然芝の養生問題があるので、グラウンドを使ったイベントは困るということであった。
 
同じ仙台で2015年3月の復興支援イベントを行った、みちのくスタジアムも検討したが、あの時のイベントに関わった人が全員反対した。アクセスが悪すぎる問題と、スタジアムの形自体が局所的に強い風が吹きやすくなっていて、ストーブ焚いたり温熱シート敷いたりしていても、けっこう寒かったというのである。しかも今回は3月よりもっと寒い正月である。
 
北上市の総合運動公園(恐らく3万人収容可能)、山形市総合スポーツセンター(恐らく2万人収容可能)、天童市の山形県総合運動公園(多分4万人収容可能)なども検討されたが、各々微妙であった。山形市の施設は数年前までは5万人収容可能だったのが、広場の南半分を潰して野球場を作ってしまったため収容人数が減っており、2万人のキャパでは厳しいということになった。
 
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万策尽きて、もうこれは東京周辺でやるしかないか?と言っていた時、ちょうど出張で本社に来た★★レコード東北支店の若い係長さんが
 
「M市の水族館跡とか使えませんか?」
と提案した。
 
そこは2015年春まで水族館があったのだが、震災による施設の傷みなどもあり閉鎖され、現在更地になっているのである。水族館自体は別の場所に移転し、跡地には社会教育施設が建設される予定だが、とにかく現在は何も無い。
 
そこで★★レコードの松前会長が直接現地の市長さんと直談判をしたところ、昨年の安中榛名ライブ同様に、防音壁(風よけを兼ねる)を仮設置すること、1月1日0:20(厳守)までに公演を終了することを条件にイベント開催に同意してくれたのである。レンタル料は新しく建設する予定の施設のポスターなどを会場に掲示することを条件に、結構リーズナブルな金額でまとまった。
 
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現地は東側はすぐ海であり、北側は公園、南〜西側は森である。森の向こう側に実は住宅があるのだが、松前会長は現地の町内会と話し合いを持ち、市長と合意した0:20までに公演を終えることと、町内会に夏祭りの「祭礼協力金」を払うこと、車の渋滞が起きないように工夫することを条件に、受け入れてもらえることになった。
 
「ところでカウントダウンして1月1日0時ジャストには何かなさるんですか?」
と町内会長さんは松前会長に尋ねた。
 
「ボーカルのケイちゃん・マリちゃんが5,4,3,2,1,0!とカウントを言って、そのあと何か威勢の良い曲を演奏すると思いますが」
 
「花火打ち上げたりはしない?」
「打ち上げましょうか?」
 
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ということで、向こうから提案されたような形で、0時ジャストに花火の打ち上げをすることになった。
 

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