広告:ここはグリーン・ウッド (第4巻) (白泉社文庫)
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■春産(15)

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例によって、ひとつ下の階の部屋1934号室を一緒に借りていて床に響かせても気兼ねが無いので、ボールを出して1時間ほど部屋の中で1on1をやった。
 
「ダメだ。千里、物凄く強くなっている。全然勝てない」
「貴司は鍛錬がなってないね」
「千里に男子代表になって欲しいくらいだ」
「それだけは嫌。でも私より佐藤玲央美や花園亜津子の方が強いよ。私は去年のアジア選手権でやっと正式の日本代表になったけど、あっちゃんはもう6年前から日本代表をしている」
 
「確かに久々のフル代表だったね。でもオリンピックは本当に惜しかった」
「まあまた次のワールドカップで頑張るよ」
 
その後2人は交替でシャワーを浴びてから、各々新しい下着を着けてその状態でベッドに入り、並んで寝た。この状態ではお互いの身体にはタッチしない約束である。運動をした後なので、ふたりとも2時間ほど寝た。
 
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17時頃。千里は自分で目を覚ました。貴司の寝顔を見ると幸せな気分になる。
 
「今日は京平にお父ちゃんと仲良くしたよと報告しなきゃなあ」
と独り言を言ってから、そっと貴司の唇にキスし、更にあそこを強く刺激して起こした。
 
「そろそろ行かなきゃ」
「ありがとう。。。。ねぇ」
「何?」
「こちらは最後までしてくれないの?」
「イランから戻って来たら続きをしてあげるから頑張って」
「うん。頑張る」
 
貴司は(自分で無意識に掛けてしまった暗示と、婚約破棄に怒った千里の呪い!とで)ひとりでは射精できないのである。
 
「それともこれ切り取って、貴司が行った後最後まで辿り着かせようか?」
と言って左手の人差指と中指で、それの根本をハサミで切るような動作をする。
 
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「切り取られたら僕が気持ち良くなれないからいい!」
「でもどっちみちひとりでは逝けないんでしょ?」
「付いてないと、おしっこする時困るから」
「ああ、それは不便かもね」
 
「あ、そうだ。お守り代わりに千里のパンティ1枚くれない?」
「私のパンティくらい持っているくせに」
「持ってないよ!そんなの持ってたら阿倍子に見つかる」
「じゃ、これあげるね」
と言ってウィングのパンティを2枚あげた。
 
「それ貴司が穿くの?」
「試合中に自分のパンツの内側に穿く」
「ちんちん無い方が穿きやすいよ」
「いや何とかする」
 

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それで身支度をして千里にキスしてから、貴司は部屋を出て行った。千里は貴司から少し遅れて出ていき、キュービックプラザ10階のもつ鍋屋さんで夕食を取った。お店を出た所で大阪に居る《いんちゃん》から、
 
「阿倍子さん、お買物に出たよ」
という連絡が入ったので、《きーちゃん》に頼んで大阪に移動し、少し京平と遊んだ。
 
玉川《きーちゃん》←→《いんちゃん》大阪
新横浜・千里←→《きーちゃん》大阪
新横浜《きーちゃん》←→《いんちゃん》玉川
 
京平は今日は1度しかパンツ型のおむつを濡らさなかった。ちゃんとトイレに行けたと報告してくれた。ここの所かなりちゃんとトイレができるようになってきている。
 
「おかあちゃん、これパパに」
 
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と言って見せるのは、お絵かき帳に描いた、貴司がシュートを撃つ場面の絵のようである。1歳にしてはなかなかの画力だ。遺伝かなぁ〜。などと思ったりする。千里はかなりの画力を持っていて、中学の頃は籍だけ美術部にも置いていて展覧会に出品していたし、貴司もわりと絵はうまい。
 
京平はどうもこれを描いたものの貴司に渡しそびれたらしい。
 
「じゃパパに渡しておくよ」
「ありがとう」
 

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ところで阿倍子は買物に行った途中で体調が悪くなってしまったようである。《びゃくちゃん》によると、セルシーで介抱されているというので放置する訳にもいかないし、千里が行ってあげることにした。新横浜で待機している《いんちゃん》には合宿所に移動してくれるよう頼む。
 
京平に留守番しておくように言い、出かける。月極駐車場に駐めているアテンザを出すとセルシーの駐車場に入れる。そしてあたかも偶然のような顔をして、阿倍子が休んでいた1階案内所のそばを通りかかる。
 
「あれ?阿倍子さん?」
「千里さん!?」
 
お店の人が「お友達ですか?」と訊くと、阿倍子も千里も「いいえ」と言ったので、お店の人は困惑している。
 
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「夫の不倫相手です」
「不倫はしてないんだけどなあ。私は彼女の夫のただの友人ですよ」
と言いつつもさっきまで密会していたので若干の罪悪感はある。
 
「えーっと・・・」
とお店の人は本当に困っている。
 
「まあでも助け合うくらいはできるよね。どうしたの?」
「買物に出たら、具合が悪くなっちゃって」
「風邪か何か?」
と言って千里は阿倍子の額に手を当てる。
 
「熱は無いね。とりあえずマンションまで送っていくよ。車で来てるから」
「ありがとう」
 
それでお店の人は戸惑いながらも、阿倍子を千里に任せたので千里はお店の車椅子を借りて阿倍子を自分の車の所まで運んだ。阿倍子の買物が入ったショッピングバッグはお店の人が持ってくれた。
 
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「ありがとうございました。ご迷惑お掛けしました」
とお店の人に声を掛けて車を出した。
 

「千里さん、こちらには大会か何か?」
「うん。手続き関係があって、今朝東京を出て大阪に来たんだよ。でもこの後今度は新幹線を乗り継いで秋田に行かなきゃ」
 
「忙しいね!」
 
阿倍子は考えていた。今朝東京を出て大阪に来たのなら、貴司とはすれ違いになったのだろう。そしてこれから秋田に行くというのであれば、やはり合宿所で缶詰になっている貴司とは会う機会は無いだろう。
 
千里は車をマンションの地下駐車場の入口でいったん駐め、阿倍子から鍵を借りて入口を開けた(別に借りなくても鍵は自分で持っているのだが、さすがに阿倍子の前でその鍵を出す訳にはいかない)。そして車を中に入れ、ゲスト枠の所に駐める。
 
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「阿倍子さん立てる?」
 
阿倍子は立って歩こうとしたものの、そのまま座り込んでしまう。
 
「いっそ病院につれていこうか?」
「いや。寝てれば治ると思う」
「じゃ、私が抱っこしていくよ」
「えー!?」
「大丈夫。落としたりはしないから」
 
それで千里は阿倍子を両手で抱え上げると、そのままエレベータに乗り33階にあがる。玄関の前でいったん下ろし、阿倍子の鍵で3331号室の玄関を開ける。
 
「京平ただいま」
「おかえり、ママ、こんにちは、ちさとおばちゃん」
 
「ママが体調悪いのよ。ベッドに案内して」
「うん」
 
それで京平の案内で寝室に阿倍子を連れて行き、ベッドに寝かせる。千里はこのマンションには実は毎日来ているものの、この寝室は阿倍子さんの領域と考えて、ここには入らないようにしている。ここに入ったのは昨年の秋にやはり阿倍子の看病をした時以来だ。
 
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ベッドに枕がひとつしか無いのを見る。やはり最近は貴司と本当に同衾していないようだ。貴司は京平の誕生以降、阿倍子と一緒に寝ていないと言っていた。最近千里が貴司とのセックスに許容的なのもその背景がある。
 
千里は阿倍子を寝せると、また車まで往復して買物袋を持って来た。
 
「何かスープでも作るから、寝てて」
「ごめーん」
 
「ちさとおばちゃん、カレーたべたい」
「分かった。分かった。京平にはカレー作ってあげるよ」
 
《びゃくちゃん》に頼んで“カレーの王子様”を買ってきてもらう。それで阿倍子さんに食べさせる野菜スープと、京平に食べさせるカレーを同時進行で作り始めた。並行してお米も研いで炊飯器のスイッチを入れる。
 
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カレーとスープを作っている2つのルクルーゼ、そして炊飯器も全部自分が買ってここに持ち込んだものだ。ちょっと快感である。
 

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約40分ほどで、カレーとスープができあがり、御飯も炊きあがったので、台所のテーブルで京平にはカレーを食べさせ、寝室で寝ている阿倍子には野菜スープを持っていった。
 
「ごめんねー」
「ううん。私は阿倍子さんとはライバルだけど、ライバルだからこそ頼みやすいこともあるだろうし、必要な時は頼ってね」
 
くっそー。なしくずし的に“ライバル”という立場を主張されているなと阿倍子は思うものの、今日は体調が悪くて対抗する気力もない。取り敢えず今日は彼女に頼るしかない。
 
「うん。ありがとう。私、友だち居ないからこういう時困るのよね」
「とりあえず今夜は寝てるといいよ。私は最終の新幹線で帰るから。秋田には朝1番の新幹線で移動するよ」
 
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それで結局千里は20時半頃まで阿倍子に付き添ってあげた。京平は隣の和室に布団を敷いてあげて(トイレに行かせてから)8時に寝せた。
 
「おかあちゃん、おやすみ」
と小さな声で京平が言うので、
「おやすみ」
と言ってキスしてあげた。
 
部屋を出る時、京平の《守り神》さんに会釈したら、見られているとは思っていなかったふうの向こうがギクッとした顔をしていた。
 

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千里は20時半すぎに貴司のマンションを出ると、アテンザを運転していつもの月極駐車場に移動し、そのあと東京北区の合宿所に転送してもらった。
 
玉川《きーちゃん》←→《いんちゃん》合宿所
大阪・千里←→《きーちゃん》合宿所
大阪《きーちゃん》←→《いんちゃん》玉川
 
《いんちゃん》にはまた京平に付いていてもらい、阿倍子さんにももし何かあったら連絡をくれるよう頼む。
 
合宿所の受付は閉まっていたがトントンとノックすると、顔見知りのスタッフさんが出てきてくれた。残業していたようである。
 
「あら村山さん。女子代表の予定入ってましたっけ?」
と言って慌ててスケジュール表を確認しているようだ。
 
「いえ。ちょっと頼まれもので。これ男子代表の細川さんの息子さんから言付かったんですよ。私が東京に戻ると言ったらパパに届けてなんて言われるもので」
と言って、京平が絵を描いた画用紙を見せる。
 
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「あら、可愛い!分かりました。細川選手に渡しておきますね」
「はい。よろしくお願いします」
 
と言って千里はそのまま合宿所を出ると、《りくちゃん》に頼んで新横浜のホテルまで運んでもらった。そして柔らかいベッドで朝までぐっすりと寝た。今日は何だか2日分くらい動き回った気がした。
 

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9月1-4日に行われるインカレ(日本学生選手権)水泳の会場は江東区の辰巳国際水泳場である。八王子からは中央線特快で四谷まで出た後、地下鉄の南北線/有楽町線で辰巳駅まで行く。
 
9月1日は公式練習日で、メインプールが開放され、各校の選手が多数入って練習をした。青葉たちはたぶん午前中の方が空いているだろうということで公式練習が始まる11時前に着くように出かけた。
 
それでもけっこうな人数が居る。マネージャー役の蒼生恵が全員にADカードを配る。ADカードは本当は最初から全員に渡しておくべきなのだが、過去に紛失!した人があり(むろん出場できないというより会場自体に入れない上に棄権料3000円を払うハメになった)、入場前に配布して、会場を出たら回収して一括管理しておくようにしているのである。
 
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この日の練習では、背泳に出場する諸田さんと寛子、メドレーリレーの第1泳者である圭織、それに「あんた来年使うかも知れないし」と言われて来年のメドレーリレー第1泳者候補の杏梨の4人がサブプールの練習コースに設置されたバックストロークレッジの感覚を確認した。
 
バックストロークレッジ(backstroke ledge)はタッチ板の所に取り付けたスタート補助装置で、2014年のワールドカップで採用された後、様々な大会で使われるようになってきている。これを使うことにより、他の泳法でバネのあるスターティングブロックからの飛び込みで勢いを付けるのと類似の効果を得ることができる。またタッチ板よりも滑りにくいので、スタートする時に足が滑った!という事故が少なくなることが期待される。
 
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スターティング・ブロックが水面に対して10度の角度を持つのと同様、バックストロークレッジも壁面に対して10度の角度を持っている。このレッジは折返しの邪魔にならないよう、選手がスタートした直後に各コースの折返監察員が水中から引き揚げる。
 
しかし、バックストロークレッジはあくまで“補助装置”であるので、足が全部ここに乗っていてはいけない。必ず足の先はバックストロークレッジではなく、タッチ板に接触させておく必要がある。接触していない状態でスタートしたら“距離不足”とみなされる。
 

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公式練習に1時間ほど参加した後は気分転換にと新宿に出て、ピザ食べ放題の店に行ったが、身体を動かした後なので、みんなよく食べていた。
 
食事が終わった後は、八王子に引き返してまた午後から市内のプールで練習をした。夕食は焼肉であった。
 

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9月1日(木)。桃香は会社帰りに予め電話して「それ」があることを確認しておいたドラッグストアに寄り、身分証明書として運転免許証を提示した上で、チェックワン・ファストというアラクス社(ノーシンを作っている会社)製の妊娠検査薬を買って帰った。
 
自宅アパートのトイレでドキドキしながら、おしっこを掛けてみる。
 
トイレの窓の所に水平に起き、しばらく待つ。
 
「やった!」
 
と思わず声を出した。
 
判定窓の所にうっすらとではあるが、陽性をあらわす縦のラインが表示された。
 
桃香が人工授精をしたのは8月17日(水)で、前回の生理が8月4日なので、次の生理予定日は9月1日今日であった。
 
普通の妊娠検査薬はだいたい生理予定日の1週間後からしか判定できないのだが、このチェックワンファストは「早期妊娠検査薬」と言って、生理予定日の前後から判定が可能である。
 
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ただし普通の妊娠検査薬より少し高いし「医薬品」に指定されているため、薬剤師が常駐している店でしか買えない。
 
課長に電話する。
「すみません。帰ってみたら少し熱があるので明日有休を取らせてください」
 
それで明日有休を取って産婦人科に行ってみることにしたのである。
 

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