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■春洪(4)

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6月25日(土).
 
朝9:01すら女子400m個人メドレーの予選が行われた。青葉も金堂も決勝に進出した。
 
19:04から決勝が行われた。青葉はこのレースでは青葉と金堂の激しいデッドヒートが起きた。そして青葉が 4:30.72 の日本新記録で優勝した。金堂は0.01秒差の4:30.71 だった。金堂も東京五輪で出した自己の持つ日本記録を上回っているが、青葉がそれを0.01秒上回った。
 
例によって2人のタイム差が0.01というのはおかしい。0.1秒近くあったように見えたという意見があり、ビデオを確認して、以下同文。
 
金堂多江は186cm で青葉は161cmで2人の身長差は25cmもあるので腕の長さは10cmくらい違い、10cmをタイムに直すと0.06秒になる。だから青葉が金堂に勝つには、0.06秒相当先を行かなければならないのである。手の先のタッチで青葉が0.01秒上回ったということは身体の位置では0.07秒ほど先行していたことになる。
 
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400m個人メドレーの記録は2020年までは金堂が持っていたが、2021年4月の日本選手権で、青葉がその記録を破った。しかし東京五輪で金堂が取り返した。それをまた青葉が破ったことになる。“個人メドレー女王”の金堂多江としては絶対来年の日本選手権で取り返してやると、必死になるだろう。
 

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このレースの直後に行われた男子1500m決勝では筒石が金メダルを獲得した。
 
これで今回の津幡組の成績はこのようになった。
 
川上 400iM★G 800★G 1500○B
金堂 200iM★G 400iM☆S 400○B 800(4)
竹下 200iM○B 400☆S 1500★G
筒石 400☆S 1500★G
 
金堂も竹下も金銀銅のコンプリートである!
 
日本記録はこのようになった。
 
400m 竹下リル 4:00.18 :2021東京五輪
800m 川上青葉 8:07.88 ;2022世界水泳
1500m 川上青葉 15:37.20 :2021東京五輪
400iM 川上青葉 4:30.72 :2022世界水泳
200iM 金堂多江 2:08.50 :2022世界水泳
 
青葉の800mの記録は“泳ぎすぎ”で出した記録である。まともにタッチしてたら多分1秒近く速かったと言われた。
 
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また金堂多江と竹下リルが揉めていた。
 
「青葉さん、今回はどちらが勝ったと思います?」
と訊かれる。
 
「うーん・・・引き分けかなあ」
と青葉か言っていたら、バタフライ代表の町田さんが言った。
 
「今回は多江ちゃんとリルちゃんは各々金銀銅取って引き分けだから、ここは青葉ちゃんが2人にステーキをおごるということでOKね」
 
「やった!」
「え〜〜〜!?なぜ私が?」
 
ということで、青葉は金堂多江と竹下リルにステーキをおごってあげたのであった。
 

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世界水泳の競泳日程は6月25日で終了し、一行はSTスイミングクラブが用意したチャーター便で翌日帰国した。
 
BUD 6/26 12:00 - 6/27 7:30 HND (飛行時間12:30)
 
27日は疲れている身体で、水連に報告に行き、記者会見をして、更にJOCとか文部科学省とかにも報告・挨拶に行った。1日振り回されて、その日は都内赤羽のビジネスホテルに泊まった。チェックインしたのが17時頃である。
 
浦和の“自宅”にも帰れるが、帰ると千里姉か冬子さんに捕まりそうである。それで彪志に会いたいのはやまやまだったが、誰にも連絡を取らずに都内のホテルに泊まったのである。
 
青葉はムーランエアーに電話した。
「明日もし空いていたら“ムーランエアーさんが所有する飛行機”で熊谷から能登空港に移動したいのですが」
「はい。ムーラン所有のCRJ200が1機空いていますからそれをご予約しましょうか」
「それでお願いします」
「お時間は?」
「お昼頃で」
「分かりました。それでご予約致します」
 
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「料金は?」
「片道ですか?」
「はい。それで」
「では帰りの回送料金まで入れて12万円+消費税になりますが」
「はいそれでいいです」
「ではご予約承りました」
 
「あとお願いなんでが」
「はい」
「このことは村山千里、唐本冬子、伊藤宏美には内緒で」
「当社はお客様の秘密は一切口外しませんので」
「ですよね。よろしくおねがいしす」
 

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これで安心だ。
 
やっと私おうちに帰れる。彪志とも会いたいけど、それより先に家で少し休みたい。私もう8ヶ月もおうちに帰ってないんだもん。
 
それで青葉はレンタカー会社のサイトにアクセスして、明日赤羽から熊谷まで乗り捨てでヴィッツクラス(実際の車は何になるか分からない)、また能登空港から高岡までやはり乗り捨てで同様にヴィッツクラスを予約した。
 
彪志から時間が取れたらメールか電話欲しいというメールが入っている。それで青葉は彪志に電話を掛けて、すぐには会いに行けないけど、今夜はリモートセックスしよう、と言って彪志を言葉責めで逝かせた。青葉も結構気持ち良くなることができた。
 

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浦和の家では、21時頃、彪志が出掛けようとしていたので
「青葉帰国したんでしょ?今からデート?」
と妊娠中の千里(2A)が声を掛けた。
 
千里は現在7ヶ月でお腹はかなり大きくなっている。
 
「デートしたい所なんですけど、今から仕事なんですよ。病院からの緊急呼び出しで」
「こんな時間から大変ね!」
と言って、千里は彪志におにぎりを作ってくれて水筒も渡した。
 
「ありがとうございます。行ってきます」
と言って彪志は出掛けた。
 
彪志の仕事は23時頃に終わった。
 
彪志は考えた。青葉は
「会いたいのはやまやまだけど、私いったんおうちに帰りたい」
と言っていた。だったら、明日熊谷から能登に飛ぶつもりなのではないかと。だったらそのお見送りくらいしても怒らないんじゃないかと。
 
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それで彪志は浦和の家には帰らずに自分のフリードスパイクで熊谷まで走り、郷愁飛行場の駐車場(無料)に駐めて仮眠したのである。なおこの駐車場にはトイレもあり24時間使えるので、トイレはそこを使わせてもらった。
 
また彪志は課長にメールして明日6/28に有休をもらえないかと打診した。また彪志は浦和の家の千里にもメールして6/28夕方くらいに戻るつもりだと連絡しておいた。
 

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翌朝、彪志は郷愁村のコンビニで朝御飯を買ってきてフリードスパイクの車内で食べた。8時半頃、上司の課長から電話がある。忙しい時に休暇とか駄目とか言われるかと思ったが、課長の言葉は意外なものだった。
 
「君だいぶ有休取ってないよね」
「そ、そうですね」
「フィアンセさん、世界水泳でメダル取って帰国したんでしょ?今週いっぱい休暇あげるから、彼女をいたわって少しゆっくり過ごせばいいよ」
「いいんですか?」
「君に倒れられたら困るから、適宜休んでもらわないとね」
 
あはは・・・青葉と過ごしたら全く休めない気もするけど。でもそもそも自分は青葉の予定を聞いてないぞと思った。
 
しかしそういう訳で彪志は思いがけず休暇をもらったのである。
 
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彪志がスマホで最近のCOVID-19の世界的情報を見たり、また薬学・医学関係のニュースなどを見ていたら、11時頃、空港の駐車場に白いシエンタが入ってきた。ナンバープレートが“わ”である。
 
もしかして・・・と思っていたら、青葉が降りてきた。
 
彪志は車を降りて手を振る。青葉が驚いたような顔をしている。
 
「ごめんね。押しかけてきて。直接“おめでとう”と“お疲れ様”を言いたくて」
と彪志が言うと、青葉の顔がほころぶ。
 
「お昼買ったかなあ。一応コンビニでお弁当買ったんだけど」
「まだだった。ありがとう。機内で食べてくよ。でもなんで私がこの時間にここに来ること分かったの?」
「いや昨夜から待ってた」
「まさか半日待ってたの!?」
「ここに来たのは夜中の1時頃かな」
「10時間も待ってたんだ!」
「キスだけさせて」
「うん」
 
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それでふたりは深くキスをした。
 
「じゃゆっくり休んでね。またメール頂戴」
「うん。またね」
 
と言って結局彪志は空港の搭乗口まで送っていき、そこで握手をしてから別れた、
 

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青葉は昂揚した気分で金属探知ゲートを通り、パイロットさんの案内でエプロンに行く。そして50人乗りのCRJ200の操縦席に近い席に座り、バッグからお弁当を“2個”取り出して、能登空港までの1時間ほどの旅の間に両方ともペロリと食べちゃった。
 
(むろん自分が用意していたものと彪志がくれたもので2個である)
 
そして能登空港に降りて、予約していたレンタカーを借りようとレンタカー受付の所まで行こうとしたら・・・・
 
こちらに向かって笑顔で手を振っている一向が居る。
 
神谷内さん、幸花・明恵・真珠、そして千里の5人であった。
 
青葉は思わず荷物を落とした。
 
「メダルおめでとう。そしてお疲れさん」
と千里は言った。
 
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青葉は泣き出した!
 
「私おうちに帰りたいよぉ」
 
千里は青葉をハグすると「よしよし」という感じで背中を撫でて慰めた。
 
「何で私がこの時間に来ること分かったの?」
 
「勘」
「ちー姉勘が鋭すぎるよ」
 
彪志君でさえ青葉をキャッチできたのだから千里にバレないと思うほうがおかしい。
 
「ちー姉、私に見張りを付けたりはしてないよね?」
「まさか。そんなことしたら、雪娘ちゃんにすぐバレる」
と言って千里が青葉の眷属・雪娘を見たので、雪娘がキョッとしていた。
 

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実際に千里が青葉がこの時間に到着することを知った手順は以下の通りである。
 
(1) 彪志君が郷愁飛行場に来たのを公爵邸移築のための基礎工事をしていた清川が見て千里(千里4)に報告した。
 
(2) 彪志が浦和の千里(千里2A)に明日の夕方帰ると連絡したことで、そのメールを傍受した、司令室の千里5は、彪志君は青葉とデートするのだろうと推察した。
 
司令室には千里全員のスマホのクローンがあり、“間違った千里”に来たメールを“正しい千里”に送り直したりする作業もしている。
 
(3) 千里4と千里5の情報交換で、青葉が28日に熊谷から能登に飛ぶことが推察された。ムーランエアーのフライト予定を見ると12時にCRJ200が能登空港に飛ぶことになっているのを知る。それで青葉がこの便を使うことが推察された。
 
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ただ千里たちは“彪志君も一緒に”能登空港に飛ぶのだろうと思っていたので、彪志君が残ったという報告を清川から受けた千里4は意外に思ったのである。それで“次の作戦”が起動されることになる。
 
要するに青葉は27日夜に彪志と会い、以後一緒に行動していればまた別の道があったのに、会わなかったためにバレてしまった。
 
でもこの考証過程をバラすと彪志君のせいになってしまうし、千里の情報網を一部ばらすことにもなるので「勘」で押し切ったのである。千里の“勘”なら信じてもらえる。
 
 
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