【神様のお陰・愛育て】(4)

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4日後、7月22日。日曜なので理彩に会えるかな?と連絡を取ったら、
「命(めい)の所に行く〜、おやつ用意してて」
などというので、命(めい)は晩御飯用に理彩の好きなトンカツの材料、おやつにティラミスを用意して待っていたら、夕方4時頃、理彩は無地のTシャツにジーンズのサブリナパンツという、あまり色気の無い格好でやってきた。そして
 
「命(めい)に可愛いの持ってきてあげた」などという。
「なあに?」
「これ」
 
と言って取り出したのは、レース使いたっぷりの純白のシルクのエプロンである。
 
「わあ、ちょっとフェミニンな感じだね」
「私にって先輩からもらったんだけどさ、私が付けるより命(めい)が付けるほうがいい気がして」
「なんでー?」
「だって、私たちが結婚したら間違いなく、お料理作るの命(めい)だと思うし」
「ふーん。。。僕と結婚する気はあるのね」
「もちろんさ、マイベイビー」
「まあ、いいや。折角だしこれ付けて晩御飯作ろう」
「あ、待った」
「何?」
「洋服脱いで、下着姿の上にこのエプロン付けてみよう」
「何のために〜?」
 
とは言ったものの、命(めい)は素直にブラとショーツだけになり、エプロンを着て、トンカツを揚げた。キャベツを千切りにしている所やカツを揚げているところをカシャカシャ写真に撮られる。なんか僕の写真ってこんなのばかり、残っていく!と命(めい)は思う。
 
その夜は、するのが1ヶ月ぶりだったし、命(めい)としては手術して切ってしまったのだろうかと思っていたおちんちんが戻って来てそれを使いたかったので、たくさん愛し合いたいと思っていたのだが、正常位で1回やっただけで2度目はどうしても立たなかった。仕方ないので指で理彩のを刺激したら気持ち良さそうに逝ったので、その後更にインサートできないまま背面座位のように抱えて後ろからまたクリちゃんとGスポットを刺激してあげたら、叫び声をあげながら逝った。
 

この時期、命(めい)はずっと体調が悪く、午後仮眠を取ってからシャワーを浴びて夕方から家庭教師先を訪問していた。もう開き直って普通にブラウスとスカート、パンプスという格好で出かけていた。
 
8月2日にも理彩と会ったが、今度はこちらから理彩のアパートに行った。家庭教師先に行ったあと、そのまま理彩のところに行ったので「上品な女子大生」風のファッションである。
 
「お、そのまま女子大生として就活できそうだね」などと理彩に指摘されたものの疲れている風なので、「何だか顔色悪いね」と言われる。
 
「なんか最近胃腸の調子が悪くてね。こないだから何度か吐いたりしたんだよね」
「バイトで無理してない?」
「それは大丈夫。夕方2時間だから。その前に午後仮眠して体調を整えてる」
「夏バテかなあ。ほんと無理しないでね。あまり調子悪かったら、病院で診てもらった方がいいよ」
「うん。そこまでは無いと思うんだけどね」
 
などという会話を交わして、その夜は理彩が命(めい)の体調に配慮してくれて、2時間ほどで「愛の確認儀式」を終えた。その日も命(めい)は1度しかインサートすることができなかった。
 

翌3日の朝、命(めい)が帰って行った後、理彩は今日はバイトも休みだし、命(めい)は疲れてるみたいだし、誰か女の子の友だち誘って映画でも見に行こうかと思っていたら、突然ドアにノックがある。てっきり命(めい)が忘れ物か何か取りに来たと思ったので
 
「マイハニー、忘れ物〜?」
などと言ってドアを開けたら○○であった。
 
「あ、おはよう。どうしたの?」
「どうしたもこうしたも、近くを通りかかったから寄ってみただけなんだけど」
「あ、そう? まあ、入って入って」
「誰か来てたのか?」
「えっと、友だちよ」
「友だちにマイハニーなんて言うのか?」
「女の子同士ではよく言うよ」
「そうか?」
 
ああ、疑われてる〜、と思う。理彩は浮気はよくする癖に隠し方はうまくない。
 
「まあ、いいや」と言って入ってくるので、お茶を入れて、ストックしているおやつのクッキーを出す。
「車で来たんだっけ?」
「いや。電車」
「じゃ、クリアアサヒ飲む」
「ああ、飲む飲む。なんかおつまみとかある?」
「スルメでよければ」
「あぶってくれる?」
「おっけー」
 
などとやりとりをして、クリアアサヒを飲み出すと彼は少し上機嫌になり、けっこう色々おしゃべりをする。○○は4月に付き合った▽▽に比べてセックス自体は弱い感じだが、前戯はよくやってくれて割と気持ちいいし、こうやってセックスせずにおしゃべりしていても割と楽しいので、気に入っていた。
 
性格もかなり優しくて紳士的だ。猥談などあまりしない。ひょっとして、命(めい)に近いタイプ?などという気もしてくる。やっぱり私って男の子の基準が命(めい)なのかなあ。。。などとも考えてしまったりしていた。
 
おしゃべりに夢中になっている内に、クッキーを食べ終わって、彼が空き袋を近くのゴミ箱に放り込む。が外れてしまった。「あ、ミスった」と言って改めてゴミ箱に入れようとしてゴミ箱の縁を掴んで。。。今度はうっかりひっくり返してしまう。
 
「ごめん、ごめん」と言って、こぼれたゴミを片付けようとしていて・・・・彼はそれに気付いてしまった。
 
「ね・・・この黒い袋何?」
「あ・・・っと・・・・」
 
○○は、セックスしたあと、理彩が使用済みの避妊具を黒い袋に入れてから捨てるのを何度も見ている。
 
彼はその黒い袋の口を開けて中をのぞいた。
 
「これ・・・・まだ使ってから半日もたってない感じ」
「うん・・・」
 
「理彩、やっぱり俺以外にも男いるの?」
「・・・・ごめん」
「もしかして、俺が来る直前までそいつと一緒だった?」
「・・・うん」
 
「俺、悪いけど、二股する女とは付き合えない」
「・・・分かった」
 
この言葉を言われたのはもう3度目である。実は○○、命(めい)以外に更に1人ボーイフレンドを作ろうとして○○にバレて、そちらとは別れて、許してもらったこともあった。命(めい)が来た時に忘れていった男物のハンカチが見つかった時は、こういうの自分の趣味でなどといって誤魔化した。しかしもう今回はさすがに許してくれそうにもない。セックスしたのが明らかだし。ダメか。。。と理彩は諦めた。
 
「俺帰るわ」
と言って、○○は無表情で荷物をまとめる。
 
「ごめんね」
と理彩は玄関口で言う。
「まあ。そのもうひとりか、もうふたりか知らないけど、そっちの彼氏とうまくやれよ」
「お願い。最後にキスして」
「その彼氏に悪いからしない」
と言って○○は理彩と握手をしてから、笑顔で手を振って帰って行った。
 
理彩はどっと疲れて座り込んだ。
 
理彩は○○の去り方に命(めい)の影を見た。命(めい)がもし自分に愛想を尽かして別れると言い出したら、こんな感じの淡泊な別れ方をする気がする。でも命(めい)・・・・私を捨てたりしないよね? 理彩はちょっとだけ不安になり、浮気はもうやめようかな、という気分になった。
 

翌日。理彩がボーっとしていたら、お昼前に命(めい)から電話が入った。
 
「相談があるんだけど、会ってくれない?」
「いいよ。今日はちょっと都合が付かないけど、明日の午前中なら」
「じゃ、いつものあそこで」
「うん。じゃ10時に」
 
今日会っても良かったのだが、命(めい)に落ち込んでいる自分を見せたくない気分だった。命(めい)がメソメソしていても「しっかりしろよ」って命(めい)を元気づけてきたのが自分だ。あれ? なんか私と命(めい)の関係ってやはり私が男役? まあ、それもいいよね。命(めい)ってとっても可愛いし。
 
などと思うと少し元気が出てきた。
 
でも、気のせいかなあ。私、命(めい)が女の子の身体になっているのを何度も見たことがあるような気がする。。。。うーん、夢にでも見たのかな。やはり命(めい)を性転換させたい願望があるのだろうか?私って変態?
 
理彩は妄想が暴走しつつあった。嫌がる命(めい)に無理矢理麻酔を打って手術台に乗せて、強制的に性転換手術しちゃうのもいいなあ、私が自分で命(めい)のおちんちん切り取ったら、命(めい)のおちんちんは永遠に私のものだし。そして手術が終わって「おちんちん無くなっちゃった」なんていって命(めい)が泣いていたら、よしよしと慰めてあげて・・・などと想像すると興奮して濡れてくるのを感じたが、自分が医師免許取るまで、命(めい)が男の子でいてくれるとは、到底思えんというのにも思い当たる。うむむ。。。
 
そんなことを考えているうちにお腹が空いてきた。
 
理彩は失恋の痛手から自分を回復させようと、その日のお昼は洋食屋さんでステーキランチを食べ、そのあとエステで全身マッサージをしてもらった。そのあとカラオケに行ってひとりで4時間歌いまくった。そして夕方から医学部の女子の友人を誘って居酒屋で飲んで食べまくった。わあ、今日1日で体重が2kgは増えた気がする、などとも思う。
 
そして翌日、命(めい)に会いに行った。そして命(めい)から
「僕、妊娠しちゃった」
という信じがたい言葉を聞くことになる。
 

最初は命(めい)はとうとう頭がおかしくなったかと思ったものの、陽性を示す妊娠検査薬を見ると、命(めい)なら本当に妊娠することもあるかも知れないという気がして、恥ずかしがるのを強引に産婦人科に連れて行く。そして、本当に妊娠していることを確認された。
 
男性の妊娠は維持できるわけがないし、非常に危険だから中絶した方がいいと言う産科医に対して、行けるところまで行かせて欲しいと主張する命(めい)に理彩は感動してしまい、この子が生まれるまで、自分は命(めい)をサポートしてあげようと思う。
 
医師は妊娠が進むと、命(めい)の乳房は膨らみ、また女性ホルモンが大量に分泌されて、男性としては不能になるだろうし、男性機能は妊娠が終了しても回復しないだろうと言った。しかし命(めい)はそれでもいいから、お腹の中にいる子を優先したいと言う。理彩は命(めい)に「母の強さ」を感じた。
 
「男性として不能になっちゃったら、もうセックスもしてあげられないね」
「今、すごーく理彩とセックスしたい」
「ふふふ。してあげようか?」
 
理彩は命(めい)をホテルに誘った。そして命(めい)のお腹に負担を掛けないように、側位と松葉で結合した。そして理彩は自分が○○と別れたことを言い、当面命(めい)をしっかりサポートしていくと言明した。
 
ふたりは一度実家に戻り、命(めい)が妊娠したことを双方の両親の前で話す。
 
両親たちは最初、理彩が妊娠したのだと思い「あんたたち、ちゃんと避妊してなかったの?」と言われたが、いや妊娠したのは理彩ではなく命(めい)だと言って妊娠診断書を見せる。両親たちは信じられないという顔をしたが、村には昔から神婚伝説があること、そして過去に男の子が神様の子供を産んだことがあるという話を聞いていることを語り、ふたりの気持ちを尊重し支援してくれることになった。
 
命(めい)は8月いっぱいは文乃の家庭教師だけをして、9月は日々の買い物に行ったり図書館に行ったりする以外はあまり不要な外出も避けるようにした。また階段の使用禁止を理彩から言い渡されたし、ヒールのある靴やサンダルは理彩が回収した。後期は休学届けを出したのだが、届けは、お腹がもう目立つようになっていた命(めい)に代わり、理彩が提出してあげた。理彩はたぶん拒否されるだろうと思いつつ休学の理由に「妊娠のため」と書いたが、通ってしまった!
 
命(めい)は健康診断も女子として受けたらしいが、もしかしてその時、学籍簿上の性別も女に書き換えられたのではなかろうか?などと理彩は疑った。
 
そして9月からふたりは双方の両親の勧めもあり、理彩のアパートで一緒に暮らすようになった。命(めい)のアパートの方は解約した。
 
「理彩ちゃん、お医者さんの卵だから、いざという時は頼りになるし」
などと命(めい)の両親は言っていたし
「このまま結婚させちゃってもいいですよね」
などと理彩の両親は言っていた。
 
しかし妊娠が進んで男性能力が消失してしまった命(めい)は、やはり自分はもう理彩とは結婚できないだろう。せめてよい友だちであり続けようなどと考えていた。一方の理彩は、命(めい)との関係を今後どうしていくべきか悩みながら、またまたボーイフレンドを作り、1度はセックスもしてみた。
 
セックスはしてみたものの、どうしても命(めい)とする時ほど気持ち良くなることができなかった。理彩は命(めい)のペニスが立たなくなってしまっても、夜の生活は続けていた。インサートできなくても命(めい)のペニスをいじってあげると命(めい)は気持ち良さそうにしているし、また命(めい)のフィンガーテクニックは絶妙で、理彩は何度も逝ったし、潮吹きまでした。他の男の子とセックスしたって全然逝けないのに!
 
そして理彩はクリスマスイブの夜、命(めい)に言った。
「私と結婚して」
と。
 
命(めい)は最初自分はもう男ではなくなってしまったので理彩と結婚する資格が無いなどと言っていたが、理彩がお互いを思う気持ちがあれば充分。男性能力なんて無くても関係無いとハッキリ言うと、感動したようで喜んで婚姻届に署名してくれた。(理彩は先に署名済み)
 
その夜、理彩は命(めい)に添い寝しながら、命(めい)に指であそこをいじってもらって頭がおかしくなりそうなくらいの快感に到達。更にはまた潮吹きまでしてしまう。それから命(めい)が妊娠が進み男性機能を喪失する前に「型採り」
をして作っておいたシリコンゴム製のペニスを理彩のヴァギナにインサートして命(めい)が手首のバネを使ってそれを出し入れすると理彩はまた逝ってしまう。
 
(こういうことをすると、実は、まどかの仕掛けた「罠」により、ディルドーは実際には命(めい)の裏ヴァギナに挿入され、まどかが管理している命(めい)の本物のペニスが理彩に挿入される。従って実は理彩は作り物ではなく命(めい)の本物を入れられているのだが、ふたりともそのことは知らない)
 
「なんでー!? 命(めい)とセックスすると、作り物のおちんちんでも私逝っちゃう。他の男の子と本物おちんちんでHしても逝ったこと1度も無いのに」
「だから浮気はやめなよ」
 
そんなことをして、ふたりの「結婚初夜」は過ぎていった。理彩もこの日ばかりは「ほんとにもう浮気はやめよう」と思っていた。
 
理彩は翌25日、婚姻届を村に持ち帰り、双方の両親に署名と婚姻の承認をしてもらい(未成年なので親の同意が必要)、役場に提出した。
 
そしてその次の日26日、朝から大阪に戻ってくると命(めい)を連れて貸衣装屋さんに行き、命(めい)に合うピンクのマタニティ・ウェディングドレス、そして自分に合う白いウェディングドレスを借り写真館で記念写真を撮った。写真館の人の好意で理彩のデジカメでもたくさん写真を撮ってもらった。それからふたりは宝飾店に行き、ふたりの指に合う18金のマリッジリングを作った。理彩は即左手薬指にはめたが、命(めい)は出産後にはめることにした。
 

年明けて、1月16日。命(めい)は帝王切開で赤ちゃんを出産した。産まれたのは男の子で、ふたりは「星」と命名した。
 
その子の「魂が宿る時期」といわれる妊娠6週目(受精の4週間後)に、明るく輝く星が身体の中に飛び込んでくる夢を見て、命(めい)は妊娠に気付いたこと。それから中学時代に理彩と命(めい)が双方の家族とともに四国に旅行した時、夜空に輝く星がきれいで、将来男の子が産まれたら「星とか空とか海とか付けたい」などと話したことがあったのもあった。
 
出産の一週間後の23日、春代と香川君が噂を聞いて病院にお見舞いに来た。
 
「俺達にも黙ってるなんて水くさい」
「ごめん、ごめん」
「でも赤ちゃん作るの、大学卒業してからにすれば良かったのに」
「いや、そのあたりは色々な事情があって」
「あれ、でも何で命(めい)がベッドに寝てるの?」
「産んだのは僕だから」
「は?」
 
ふたりはてっきり理彩が出産したのだと思い込んでいたので、ベッドに寝ていて、授乳しているのが命(めい)の方なので仰天する。
 
「いくら男女平等社会といっても、まさか男の子が妊娠出産するなんて」
「いや、俺は前から斎藤って、実は本物の女なのでは?って思ってた」
 
「もう結婚したの?」
「うん。去年のクリスマスに入籍したよ。記念写真撮っただけだけどね」
「そんなのも私たち呼んでよ〜」
「式とか披露宴とかもしてないんだよ。赤ちゃんが退院してから来てくれそうなお友だち集めて食事会してもいいかなぁとかは思ってた」
「よし、その企画は私がやっちゃる」と春代が張り切っている。
 
「だけど、妊娠中、斎藤はどんな服着てたの?やっぱり普通の妊婦服?」
 
「ふつうに女物の妊婦服を着てたよ。妊婦服を着ることになる以前から、少し女物に慣れておこう、なんて理彩から言われて、8月頃からずっと女物の服着て出歩いてたけど」
 
「待て待て。斎藤は前から女物の服着てたよな」と香川君。
「えー!? 僕高3の秋以降は女装したことなかったし、大学に入ってからはずっと男の子の格好で通学してたんだけどね」と命(めい)。
「ダウト!」と3人声をそろえて言う。
 
「高3の秋頃って、命(めい)の女らしさが増大してた気がする」
「高校卒業して以降、俺斎藤が男の服着てるところ見たことない」と香川君。
「私も卒業式以降、命(めい)と会った時はいつも命(めい)って女の子の服着てたよ。男の子の格好なんてしていた時期無いと思う」と春代。
「確かに大学に入ってから、私とデートする時もたいてい女の子の服着てたね」
と理彩まで言い出す。
 
「そもそも、命(めい)って月経があるという疑惑が昔からあった」と春代。「まあ、元々女の子の機能があったからこそ妊娠できたんだろうね」と理彩。
「へー」
 
「結局、ふつうに女性が妊娠して出産したのと同じなんだね」と春代。
 

1月末には命(めい)が退院し、2月末には保育器に入っていた星も退院した。星が退院した晩はアパートで3人で至福の時を過ごした。
 
理彩は星が可愛すぎて、自分も赤ちゃん産みたくなった。もう妊娠するの卒業まで待てないと言いだし、来年休学して妊娠出産すると言い出す。
 
「その子が生まれた時に、命(めい)まだお乳出てたら、その子にもお乳あげていいからね」
「2年後なら逆に星もまだおっぱい飲んでると思うから、理彩も星におっぱいあげられるよ」
 

翌日3人は一緒に村に戻る。そして3月2日の土曜日に、神社で辛島宮司により神式の結婚式を挙げた。宮司の娘の梅花さんと理彩の従妹の来海が巫女役を務めた。
 
理彩の両親、祖父母たち、太造夫婦、命(めい)の両親、祖父母たち、伯母の律子夫婦、が参列する。
 
まずは宮司さんがお祓いをし、結婚式の祝詞を読み上げるが、「親子共々に健やかに」などと、お宮参りの祝詞もミックスした祝詞になっていた。
 
この日は理彩も命(めい)も白無垢の婚礼衣装を着たのだが、祝詞の中では
「斎藤友和の長男・命(めい)と奥田雅博の長女・理彩の婚礼(とつぎのいやわざ)」
としっかり男女の結婚であることを述べつつ、「E村の真名子(まなご)・斎藤星、父の名は斎藤理彩、母の名は斎藤命(めい)」と正しい組合せの父母の名前を読み込んで、宮司さんは祝詞をあげてくれた。それをしっかり聞いていたのは命(めい)と太造くらいで、理彩も含めて、ほとんどの参列者は祝詞なんて頭の上を通り過ぎていくだけで、ほとんど中身を聞いてない風であったので、星を産んだのが命(めい)であることを知らない祖父母たちも奇異には思わなかったようであった。
 
梅花さんが杯にお酒を注いで三三九度をする。命(めい)が授乳していることもあり、県内の酒造メーカーが造っているノンアルコールの日本酒を使用した。それでも命(めい)は一口ずつしか飲まないようにし、大半を理彩が飲んだ。
 
梅花が理彩の親族に、来海が命(めい)の親族に同じお酒を注いでまわる。それをみんなで飲んで親族固めを行う。命(めい)と理彩が玉串を奉納する。それから宮司さんの太鼓、梅花さんの横笛で、来海が祝いの舞を奉納する。
 
最後に宮司さんがお祝いの言葉を述べて、婚礼の儀は終了した。
 

「命(めい)ちゃんも白無垢姿での結婚式なんてしてもいいのか、と一応神様にお伺いを立てたんですけどね。結果が大吉だったので、挙行させてもらいました。赤ちゃん付きの結婚式は年に数回してますしね」
と宮司さんは言っていた。
 
披露宴は一応「内輪で」しようということにし、理彩の家に双方の親戚20人くらいずつ(理彩の叔父・叔母・従弟妹だけで16人いる)を呼んで、色打掛姿で並ぶふたりに結構な騒ぎの中でもひたすら寝ている星を前に、みんなお祝いをしてくれた。友人ではぜひ出席させてと言った春代と香川君だけ呼んだ。
 
「命(めい)ちゃんが紋付き袴を着る姿が想像できない気がしてたんだけど、結婚式では白無垢、披露宴では打掛けで安心した」
などと命(めい)の伯母の律子などは言っていた。
 

披露宴が終わった後、命(めい)の家に両家の7人、春代と香川君、太造さん夫婦の11人が集まって二次会をした。理彩の家でも命(めい)の家でも、部屋と部屋の間の襖を外して広く使った。理彩の家では客間・居間・座敷の3部屋ぶち抜き、命(めい)の家でも客間・居間のぶち抜きである。
 
受験時の忙しい中、高校の時の担任、H先生がちょっとだけ顔を出してくれた。
 
「お前たち、高校時代からいつもイチャイチャしてたからなあ」
などとH先生は言う。
「何でも早く仕上げるのはいいことだが、学生結婚で子供産んじゃうのは少し早すぎるぞ。でも、可愛い子供だ。この子、物凄く頭が良くなりそうな顔してるぞ」
などとも言っていた。
 
「先生、命(めい)がウェディングドレスを着てる件についてひとこと」と春代。「まあ、斎藤は高校出たら、すぐこうなることは予測してたけどな」とH先生。
「あ、もしかして斎藤が性転換するつもりで、生殖能力のある内に子作りしたとか?」
「いえ、そういう訳では無いですけど、念のため精子は冷凍保存してますが」
「ああ、それがいいだろうね」
 
「親戚の反応は心配だったけど、田舎って物事にこだわらないのがいいよね」
と理彩は言った。
「都会は何も言わないけど冷たい。田舎は噂こそ立てるけど許容的」
と春代も言う。
「まあ、何言われてもいいや。僕は理彩と結婚できただけで幸せだから」
と命(めい)が言うと
「ごちそうさま」とみんなから言われた。
 

H先生が帰った後は、何となく、理彩と命(めい)の父、太造、香川君という男組と、理彩と命(めい)およびその母、太造の妻、春代、という女組に別れて話が進んでいく。男組はお酒が進んで段々混沌の世界に突き進みながら仕事の話などをしていたが、女組は紅茶にクッキーなど食べながら色々な人の噂話などが進む。
 
結局0時の時報を聞いたところでお開きとなる。最初香川君は春代と一緒に理彩の家に泊まる予定だったのだが、酔いつぶれて寝てしまっていたので、放置して春代だけ理彩の母・太造の妻と一緒に移動した。理彩の父と太造もそのまま放置である。
 
結局、酔いつぶれた男組を客間に集めた上で、居間と客間の間の襖を戻して居間は使えるようにし、命(めい)の母は厨子(つし)2階、命(めい)と理彩と星は奥の部屋に引っ込む。母はもうそのまま寝ると言っていたが、命(めい)と理彩は交替でシャワーを浴びてきた。
 
なお、この家は、奥の部屋、座敷、居間、客間、台所が横に並ぶ構造である。斜面の段々になった土地に建てるため細長い構造になっている。
間取り図
 
各部屋には廊下から独立してアクセスできるが、各々の間の襖を外すと連結して細長い大部屋としても使える。厨子2階は居間の上にあり、座敷には誰もいない(客を泊める時に使う建前ではあるが実際は物置と化している)ので、奥の部屋で小さな物音を立てても母の所には伝わらない。普段、命(めい)の両親は居間で寝ている。厨子2階は母のプライベートスペースである。
 
理彩の家も命(めい)の家とほぼ同じ構造だが、離れがあり、また座敷は理彩の父の書斎として使われている。
 
「さあ、今夜は結婚式初夜だよ」
と理彩が何かを期待するような目で言う。
 
「元気だね。僕少し眠い」
という命(めい)は今になって起きた星におっぱいをあげている。
 
「最低1回はしないと許さない」
「僕たち既に初夜を5回くらいしてるような気もするんだけど」
「そのくらいやったかな・・・・まあ、いいじゃん」
 
「じゃ、星が寝てからね〜」
「星は良い子だね。披露宴の最中ずっと寝てた」
「さすがにウェディングドレスでは授乳できないからね」
「命(めい)が授乳してたら、さすがに、みんな仰天してたよ」
 
披露宴に出席していた親戚の中で、星を産んだのが理彩ではなく命(めい)だと知っていたのは、太造や春代たちくらいである。他の出席者は常識的に理彩が産んだものと思っていたようである。
 
星がなかなか寝ないので、理彩が「おっぱいあげながらでもいいからしてよ」
などと言い出す。命(めい)は「もう、しょうがないなぁ、まいだーりん」
などと言って、理彩を寝せて下着を下げ、星に授乳しながら理彩のクリちゃんを揉んであげる。すると理彩は気持ち良さそうにして少し声を出していたが、やがて逝ったようで、そのまま眠ってしまった。命(めい)は微笑んで理彩の隣に寝て、横になったまま、星に授乳を続けた。
 

命(めい)もうとうととして、やがて眠ってしまったら、夢の中にまどかが出現した。
 
「昨日はお世話になりました」と命(めい)は最初に言った。
「神職さんがわざわざお伺い立てるから大吉って出したからね」
 
「僕今寝てると思うんだけど」
「うん。寝てるよ。これは夢の中」
「どこにでも出てこれるのね。以前目を瞑っていたのに出てきたことあったし」
 
命(めい)は女体に変えられていた時と同様の記憶が戻っていた。夢の中のせいか?
 
「まあ、星や理(ことわり)に見つかりにくいような出現の仕方でもある」
 
「理さんというのが、僕と神婚した神様?」
「そう。先月の祈年祭から、私が正殿に入って、理は西脇殿に移った」
「東脇殿は星用?」
「そう。星が神様として働き始めたら、そこに入る」
「それっていつ?」
「まあその内だね」
 
「また理さんにも会える?」
「近い内に会えると思うよ。もうセックスは出来ないけど」
「あの神婚の時だけできるんだ?」
 
「そう。それ以外では男性機能は発動しない。だからオナニーもできない」
「へー。神様も大変だね」
「だから私は女の姿なのさ。女性機能はあるからね。もう男とやり放題。実はこの村の男も、何人か食ってる」
「・・・・まどかさんって、理彩と性格が似てる気がする」
「うっ・・・」
 
「でも祈年祭10分で止めちゃうのはひどくない?」
「あはは。理からも言われた。でも私あまり長時間踊るの好きじゃないんだよ」
「せめて1時間は踊らない?」
「やだ。疲れる」
「じゃ30分」
「そうだなあ。来年からは考えてやっか。ね、考えてやってもいいから命(めい)、私の神殿を命(めい)の家に作ってよ。で、御飯とかおやつとか奉納して。主神をやってると今まで程は出歩けなくてさ」
 
「うーん。神殿の作り方分からないけど、神職さんに聞けばいいかな」
「ってか、和雄君に作らせたほうがいいね」
「今の理彩のアパートは狭すぎるから、少し広い所に引っ越そうって言ってるから、そこに設置しようかな」
「うん。それでいい」
 
「あ、奉納といえば、明日にも奉納しようかとも思ってたイチゴが台所の冷蔵庫に入ってるんだけど」
「あ、じゃ取って来てよ。命(めい)の身体、寝たまま動かすから」
 
命(めい)は夢の中で部屋を出て台所に行き、冷蔵庫からイチゴの箱を取り出し、部屋に戻ってから、まどかに渡した。
 
「おお、あすかルビーではないか。これ適度に酸味があって好き。もらっていくね」
「うん」
 
「ね、ね」とまどかが顔を近づけて訊く。
「おっぱいのある身体をずっと使っている感想は?」
 
命(めい)は恥ずかしいことでもあるかのように少し視線をそらして答える。
「最高」
「ふふふ」
「おちんちんも外してあげようか?」
「それは理彩が遊んでるから、当面このままでいい。立たないけど立たないことをネタにして僕を責めるのが楽しいみたいだし」
「まあいいや、仲良くやりなよ」
「うん。ありがとう」
 
「あとさ、男の快感と女の快感とどちらが気持ちいい?」
「女の快感」
「即答したね!」
と言うまどかは楽しそうだった。
 

理彩たち3人は3月中はだいたい実家で過ごしていたのだが、3月中旬、4月から住む場所を探しに一度大阪に出た。
 
4月から理彩の母と命(めい)の母が1週間交替で大阪に出てきて、星の世話をしてくれることになっていた。そうなると、今までふたりが住んでいた1DKのアパートではとても無理なので、理彩と命(めい)が子育てしながら勉強もしなければならないことを考えると、理彩と命(めい)の部屋、星の部屋、母の部屋と3つは部屋が必要である。また、命(めい)は星の部屋に村の神社の分霊を祭り毎朝晩に祝詞をあげる計画を理彩に打ち明けていた。
 
「今年の祈年祭で踊りが10分しか続かなかったのは聞いてるよね」
「あ、うん。このままだと今年はとんでもない不作になるよ」
「宮司さんは滝行をして祈願してみると言っていたけど、僕たちも何かできないかと思ってさ」
「ちょっと待て。『僕たち』って、私もやるの?」
「そうそう。僕も祝詞覚えるから、理彩も覚えてよ。基本的には僕がするつもりだけど、どうしても朝夕に間に合わない場合もあるでしょ? そんな時に理彩にやって欲しいの」
 
「私は神様のことなんか分からないよ」
「ううん。僕と理彩だからできるんだよ、これは」
「なんで?」
「だって、僕たちが祝詞をあげる神様って」
とまで言って、命(めい)は理彩の耳に『まどかさんだからさ』と囁き声で言った。
「えーーーーー!?」
と理彩が声をあげるので
「しー!」
と命(めい)は唇に指を立てて言う。
 
「まどかさんって神様なの?」と理彩は小さな声で言った。
「気付いてなかった?」
「私、幽霊か何かの類いかとばかり」
「そんなこと言ってたら、枕が飛んでくるよ」
と命(めい)が言うと、枕が飛んできて理彩の頭を直撃する。
 
「痛! 分かりました! でも命(めい)、どうせ言うなら、もっと小さなものにしてよ」
「小さなものというと?」
「たとえばマニュキアの瓶とか」
と言うと、本当にマニキュアの瓶が飛んできて理彩の頭に当たる。
「痛たたたたた。こちらの方が枕より痛かった」
「クッションの効いたものでないとね」
「もう。了解。それなら私も頑張るよ」
 
そういう訳で、命(めい)と理彩は星を連れて不動産屋さんに行き、理彩の通学に無理の無いエリアで3DKのマンションを探したのだが、不動産屋さんが「一戸建てではダメですか?」と言い、見に行ってみると雰囲気が良かったし、星が「ここにして」と言ったので、そこを借りることにした。家賃は破格の5万円であった。家主さんが「もう取り壊そうか」などと言っていた古い物件だったので安く借りることができたのであった。但し数年以内に区画整理に引っかかる可能性があるとのことで、その時は速やかに退去する旨の誓約書も書いた。(区画整理の可能性があるので、家主も建て替えを躊躇していた)
 
雨の日は雨漏りしたが、これを直すのに屋根に登って瓦を調整したりして苦労した。階段の板がぐらぐらしていたのはさすがに危険なので大家さんに見てもらい、補強材を付けてもらった上で、板は釘で打って固定した。水道から出てくる水は赤錆びていたので浄水器を取り付けた。その他いろいろ工夫をして、何とか安全に暮らしていけるようにした。
 
そういう作業の一方で、理彩のアパートから荷物を移動し、そちらのアパートは解約する。そこまでの作業を終えてから、いったん実家に戻った。
 

3月27日。星の本来の出産予定日。理彩たちは実家で「もうひとつの誕生日だね」
などと言って、お祝いをした。そしてその晩、理が8ヶ月半ぶりに命(めい)の許を訪れて星の顔を見ていった。
 
理は古(いにしえ)からのルールで、あまり細かい説明ができないまま命(めい)とセックスしたことを詫びた上で、星をちゃんと産んでくれたこと、そして育ててくれていることに感謝した。
 
「この村の守り神は60年ごとに交替することになってて、その最後の年に祈年祭で踊った人間の女性と神婚して、次の世代の神様を作ることになっているんだ。僕は主神の座を去年で降りた。今年の祈年祭では新しい神様が踊ったよ。ただ、今度の神様は60年前に生まれた神様で、この村の人にかなり酷い目に遭わされてるんで厳しいぞ」
 
「10分で終わったっていって神職さんが嘆いていた」
「10分はうまく行った方だと思う。まあ、彼が暴走しないように僕も、そしてこの子も制御していくと思うけどね」
 
「神様は3人なんですね」
「そう。正殿に今の神様、西脇殿に先代神様つまり僕、東脇殿に次の神様つまり星が入る」
 
「60年前は何があったんですか?」
 
「あの時代はみんなの心がすさんでいたんだろうね。それに科学万能主義の時代で神様の子供なんて話を誰も信じてくれなかった。それで、ふしだらな女だとか言われて石を投げられるようにして母と共に村を追われてね。特に母親と交際していた男達がみんな冷たく追い出しに掛かった。それで生まれた神様も、ここには戻りたくないと言って那智に籠もってたんだよ。村に戻ったのは10年前のことで」
 
「でも昔酷い目に遭ったのなら、今歓迎してしっかり崇敬するといいですよね」
「うん。そうかも知れないね」
「10分で踊りが終わっちゃったという話を聞いた時から、思ってたのだけど、神社の分霊を大阪の新しい家に祭って、毎日朝晩祝詞をあげようかと思ってるんです。もちろん、お供え物もちゃんとして」
 
「それはいいかも知れないね。命(めい)は霊媒体質っぽいから祈りが円(えん)にも通じるかも知れないなあ。ただやり始めたら、絶対中断できないよ。君が死ぬまではずっと続けなければいけない」
 
「はい、それは覚悟してやります。今の神様は円(えん)さんなんですか?」
「うん。あ、僕は理(ことわり)。理科の理の字。円のお父さんは珠(たま)。数珠の珠って字ね」
「じゃ、珠さん・理さん・円さんの3人から、理さん・円さん・星さんの3柱体制に移行したんですね」
 
「命(めい)偉いね。自分の息子にも『さん』を付けるんだ?」
「神様としてなら敬称付けます。人間としてなら呼び捨てです」
「そのあたりが分かってるのならいい。しかし、珠さんは円のことで心労が激しくて。消耗しすぎて18年前に消滅してしまったんだよ」
「え?じゃ10年前に円さんが村に戻るまでは、理さんが一人で村を守っていたんですか?」
「正直しんどかった。どうにも大変な時は円も来てくれていたけど、年に数回かな。円が村に戻ってきてくれてからは凄く楽になったよ」
 
「でも、よほどのことがあったんでしょうね」
「円はね。。。。元々は母親に怨という名前を付けられたのだよ。怨(うらみ)という字を書いて『えん』と読む。」
「それはひどい」
 
「出生届も出さず、育児放棄されて人間としての肉体は1歳になる前に死んでしまった」
「わあ」
「母親がその子を産んだことで、ひどく周囲から責められて、村から逃げ出したんだけど、名古屋でホステスとして働いている時、子供に全然ミルクも何もあげてなくて」
「餓死ですか」
 
「それに近かったみたい。それどころか、自分のストレスをかなり子供にぶつけてて暴力もふるっていたみたい」
「ほとんど殺人ですね」
「だから、あの子は母親に凄い怨みを持っていたよ。最近はおとなになったのかなあ。あまり酷く言わなくなったけど。そういう訳で、怨みって字はあんまりだから、本人が同じ『えん』と読む字で丸の方の円に変えた。彼と言っちゃったけど、男性体の時は円(えん)と自称してるけど、女性体の時は同じ字を訓読みして円(まどか)と自称してる。命(めい)とあるいは通じやすいかも知れないなあ。あいつ女性体でいる時の方が多いから」
 
「へー」
「命(めい)って女装好きだよね。僕もしょっちゅう見てた訳じゃないけど、たまに見るといつも女の子の服を着てた」
 
「あ〜ん、神様にまで言われちゃった。友だちみんなからそう言われるんですよね〜。僕、夏頃まではほとんど男の子の服着てたんだけどなあ」
「恥ずかしがることないよ。自分の性別だもん。自分で決めればいいんじゃない? 好きな方で生きればいいんだよ」
「そうなのかもなぁ・・・・」
「もし命(めい)がずっと女の子の身体でいたければ変えてあげるけど」
「いや、いいです、いいです」
 

命(めい)たちは4月1日に大阪に戻った。宮司さんが奥さん・梅花さんと一緒に同行してくれて、3人で命(めい)たちの家の1階和室に神殿を作り、そこに村の神社から持って来た分霊を納めた。
 
「この場所の上は屋根なんですね」
「そうなんですよ。昔の家だから、今流行の総二階じゃなくて一部二階なんですよね。二階になっているのは南側だけだから、北側の端に南向けて神様を祭ると、神殿の上は屋根だけという絶好の状況になるんです。最近の家ならそもそも1階は全部LDKにして2階に居室を並べる家が多いですね。それだと神様を祭る場所がなくなってしまう」
間取り図
 
「いい家ですね。なかなか探してもこういう家は見つかりませんよ」
「それも神様のお陰です」
 
「うんうん。それで祝詞ですが、毎日朝は日出の時刻、夕方は日入の時刻にあげてください。水と米は毎日交換してください。その他のお供えはいつしても大丈夫ですが、何日もお供えが無いという状況は避けてください。これを始める以上、きちんと祭れなければ逆効果になりますからね」
 
「はい。命(めい)をぶん殴っても祝詞は唱えさせますから」と理彩。
「私も命(めい)君だけなら不安な気がしたのですが、理彩さんが付いていれば大丈夫だろうということで、このお話に乗りました」と宮司さん。
 
「なんか信用度が違うなあ」と命(めい)は苦笑した。
 
神殿の設置と分霊の納めが終わってから、命(めい)は神殿の前に三宝を並べ、中央に置いた一際背の高い三宝に塩・水・米を供えた。また神殿の脇に梅鷹の純米酒を置いた。
 
「梅鷹は命(めい)君の好み?」などと宮司さんが訊くので命(めい)は
「今の神様の好みです」と笑顔で答えた。
「へー、お告げとかあったの?」
「あ、結構いろいろと聞いてます。先代神様は白玄の大吟醸が好きみたいです」
「へー!」
 
命(めい)はその他に、出回り始めたばかりのビワ、村の和菓子屋さんで作っている鹿の子と栗羊羹、東京の友人から送ってもらった、うさぎやのどら焼き、更に普通に売っているガーナチョコ、エンゼルパイ、プッチンプリン、そして命(めい)の親戚の家で作っているお茶、なども三宝に乗せて並べた。
 
「甘いものを随分並べたね」
「今の神様、女の人だから、甘い物が好きなんですよ」
「!!やはり? いや、僕も何となくそんな気がしたんだ! そうだったのか。祝詞をあげている時の感触がなんかね・・・・。祈年祭の後で神様が代替わりしたのは感じてたんだけど、あの感触の違いはやはり女の神様だからか!命(めい)君って巫女(みこ)なんだね!」
 
「梅花さんもわりと巫女体質でしょ?神様たちのお気に入りみたい」
「ああ・・・神事してて入られてるって思う時ありますよ」と梅花さん。
「うちの3人の娘の中で、梅花がいちばんその素質あったからね。この子が小学校に入った頃から、いろいろ神事の手伝いしてもらっていたんだよね」
 
やがて日入の時刻になったので、命(めい)が夕方の祝詞を奏上する。みんなで拝礼してから、宮司さんたちは帰った。
 
「ねぇねぇ、おさがりもらっていい?」と理彩。
「そうだね。プッチンプリンあたりから」
といって命(めい)は拝礼してから、プリンを降ろす。
 
「これ三連だよ。私と命(めい)がひとつずつ食べて、あと1個は?」
 
命(めい)は答えずにプリンを1つ右手に持ち左上の方角を向いて微笑む。するとそのプリンがスッと消えた。
 
理彩が目をこすっている。
 
「今、消えたような気がしたんだけど」と理彩。
「あまり細かいこと気にしない方がいいよ」と命(めい)は言った。
 

その週の土曜日。神戸の春代と香川君、和歌山の正美、京都組4人、それに奈良組の玖美・博江・浩香・綾・河合君・竹田君・高宮君・佐山君の8人が出てきてくれて、命(めい)たちの家に集まり、星まで入れて総勢18人で「結婚と誕生のお祝い」をした。
 
最初に春代が持参した巫女の衣装を着て、みんなの前で三三九度をした。杯は先月実際の結婚式に使用した素焼きの土器(かわらけ)の杯である。
 
LDKに折りたたみ式のテーブルを3つ並べた。料理は主として春代と京都組が手分けして作って持ち寄ってくれた。
 
「しかし超難関の阪大に入って、いきなり赤ちゃん作っちゃうなんて無茶苦茶」
「どうやって育ててんの?」
「ああ。僕が休学してるから」と命(めい)。
「なぜ命(めい)のほうが休学?」
「そりゃ、妊娠させた責任じゃないの?」
 
「もうひとり産む予定だから、来年は私が休学する」と理彩。
「えー!?」
「無茶苦茶な奴らだな」
 
「だけど命(めい)はすっかり女の子になったね」
「そうだねー。もう完璧に開き直った。この胸も本物だしね」と命(めい)。「いや、その胸、高校時代から本物だったでしょ?」と愛花。
 
「もう男性機能も高校時代に捨ててたのかと思ったのに」と小枝。
「ああ、命(めい)はもう男性機能無いよ。でも精子を冷凍してるから」と理彩。
「そういうことだったのか!」
「じゃ、人工授精?」と高宮君。
 
「ちょっとまた誤解を招く話を。確かに僕もう男性機能無いけど、去年の夏まではまだあったし、この子は人工授精じゃないよ」と命(めい)。
「去年でも一昨年でも大差無いね」と春代。
「男性機能無い代わりに女性機能あったのでは?」と杏夏。
 
「命(めい)は女性機能あるよ。実はこの赤ちゃんは、私が父親で命(めい)が母親なのよ」と理彩。
「えー!?」
「なんか、お前たちだとあり得る気がしてきた」と河合君。
 
「河合君は女装して来なかったのね。正美は完全に女の子になってるけど」
「俺は女装趣味ねーよ」
「ほんとかなあ? 彼女としての見解は?浩香」
「ああ、たまにスカート穿いて鏡を見つめてるけど、まあそのくらいはいいわ」
「やはり」
「ちょっとー!みんなが誤解するじゃん。あのスカート、俺が寝てる間に勝手に穿かせてたくせに」
「でも嬉しそうだったよ」
「河合君の精子も冷凍しておいたほうがいいかもよ。去勢しちゃう前に」
「去勢なんてしねー」
 
「正美は去勢した〜?」
「してない、してない。ヒゲは脱毛したけど。今の所それ以上やるつもりは無い」
「あ、でも女の子の声の出し方うまくなったね」
「うん。これはかなり練習したよ」
「じゃ、次はおっぱい大きくしなきゃ」
「いや、それやると男に戻れなくなるし」
「既に男には戻れなくなっている気が」
 
河合君と高宮君、それに百合が日本酒やウイスキー、ワインなどを持ち込んでいたので、何人かが飲み始める。正美などは飲んではいないものの、まるで酔っているかのようにハイテンションだ。
 
「眠くなった人は勝手に寝てね〜。女子は二階の奥の部屋、男子は二階上がってすぐの部屋。一応『男子』『女子』と紙を貼っておいた。女子は二階の奥の部屋が満杯になったら、隣の座敷で寝てもいいから」
と命(めい)が言う。
「各自の性別は自己申告でいいからね」と理彩。
「戸籍上の性別は不問だね」と玖美。
 
「正美と命(めい)は女の子の分類だよね」
「河合はどっち?」
「俺は男だよ〜」
「じゃ男子は5人かな」と香川君。
 
「俺、近眼で表示見えないから、寝る時は誰か連れてって」と竹田君。「大丈夫。男子が女部屋に寝てたら、おちんちん切るから」と理彩。
「怖ぇ〜」
「逆に女子が男部屋に寝てたら、おちんちんくっつけちゃおう」
「どっからそのおちんちん持ってくるのよ?」
「おちんちん切って欲しそうな顔してる男の子から取る」
「じゃ最初は正美ね。命(めい)はもう付いてないみたいだから」
「僕、明日まで男の子でいられるんだろうか・・・」と正美。
「いや、正美は既に女の子でしょ?」と春代。
 

宴会が進むにつれ、何人かが二階に行って休む。男子たちは数人眠り掛けていたところを揺り起こされて、5人で一升瓶1本とコップを持って上に行った。酔いつぶれるのと寝るのとどちらが先かという態勢。
 
そのうち理彩まで酔い潰れて春代に連れられて二階に行く。命(めい)は星がおっぱいを欲しがったので、隣の部屋に連れて行って授乳する。やがて眠ったのでベビーベッドに寝かせて、リビングに戻ったら、いつのまにか宴席にまどかが紛れ込んでいるので、命(めい)は苦笑いした。
 
「お姉さん、飲みっぷり豪快ですね。私と気が合いそう」
などとまどかの隣で飲んでいる百合が言っている。
「あれ、お酒無くなっちゃった」
「命(めい)、隣の部屋から梅鷹持って来てよ」とまどか。
「まあ、まどかさんが言うのなら」
 
命(めい)は座敷に戻り、神殿の前で二拝二拍一拝してから、右側の御神酒を下げ、リビングに持って行く。
 
「おー、サンキュー。まだもう1本あるし、それも切れたら命(めい)に買いに行かせるから、どんどん飲もう」
などとまどかは言っている。
 
「お姉さん、命(めい)のおばさんなんですか?」
「うん。まあ、命(めい)は私の息子みたいなもんだよ」と、まどか。
「そうだね。小さい頃からほんとによくしてもらったね」と命(めい)。
「僕が小さい頃身体が弱くて死にかけた時に何度もまどかさんに助けてもらったんだよ」
「へー。まどかさん、お医者さん?」
「そうだねー。似たようなものかな」
 
「ねえねえ、まどかさん? 命(めい)って本当の所、男の子なんですか?女の子なんですか?」と小枝。
「うーん。私は実質女の子だと思ってるけどね−。もうおちんちん無いし、おっぱい大きいし」
とまどかが言った途端、命(めい)のお股は女性型に変えられてしまう。
 
「やはり、そうなんだ!」
「小さい頃は男の子だったけど、もうほとんど女の子になっちゃってるよね」
「ああ、そうなんでしょうね〜」
 

結局、小枝・百合、浩香・綾、まどか・命(めい)の6人で朝6時まで完徹した。朝ご飯に命(めい)がカレーを作り、それを食べた所で小枝たちは隣の座敷に入って寝る。それと入れ替わりに二階で寝ていた理彩が起きてきた。
 
「あれ〜、まどかさんがいる」
「一緒に僕たちのお祝いをしてくれたんだよ」
「わあ、ありがとうございます」
と言ってカレーを自分で盛って食べ始める。
 
「ねえ、たこ焼き食べたいから今日作ってよ」
「了解です!」と理彩。
「材料とたこ焼き器買ってきて、命(めい)に作らせますから」
「僕が作るのか!」
「ふふふ。あんたたち、やっぱり面白い」
 
「御神酒も2本とも開けちゃったからなあ。買って来なきゃ。大阪のお酒で好きなのあります?」
「そうだねー。秋鹿の純米酒。あまり高いのでなくてもいいからねー」
「探してみます」
「無かったら、月桂冠でもいいよー。あそこもわりと好き」
「へー」
 
「ああ。そうそう。あんたたちの結婚祝いにこれあげる」
と言って、まどかはシャネルの口紅を2本取り出し、1本ずつ命(めい)と理彩に渡した。ROUGE COCO SHINE #53PREMICE と書かれている。
 
「まどかさんからの贈り物なら水晶とか真珠とか出てくるかと思った」
「ああ。そんなのは自分で買いなさい。ふたりともこの色が合うと思ったのよね」
「塗ってみよう」
 
と言って、理彩はさっそく塗ってみる。ピンクの可愛い色だ。
「あ、可愛いね」と言いながら命(めい)も塗ってみる。
「うん、命(めい)も可愛いよ」
 
「ふたりとも肌の色の系統が似てるから同じ色で行ける気がしたんだよね」
「お揃いの化粧品を使えるってのも、いいかもね」
「うん。男女の夫婦ではできないワザだね」
 
「でもまどかさん、色々私たちに物をくれたりするけど、どうやって調達してるんですか?」と理彩が訊く。
「ああ、それは誰かの身体に入って買いに行くんだよ」と命(めい)。
「僕も昔からよくそういう『お使い』してたもん」
「へー」
「渡す係の方もしたことある。病気の人の所に薬を届けに行ったり、成人式に着る服が無い娘さんに振袖を持って行ったりしたよ」
「わあ」
 
「私を入れてくれる人が命(めい)以外にも何人かいるのさ。お金は私が自由に使える口座が実は何個か存在している。そこに定期的にお金を入れてくれる人も何人かいるんだよ」とまどかは説明した。
「僕も少額だけど毎年お年玉の2割をそこに入れてたよ。中学生になってから」
「そうだったんだ!?」
 
「メインに使ってる口座は、先代宮司さんがうちの母ちゃんの生活の足しにって毎月少し送金してくれていた口座。でも母ちゃんは何かの時のために使うって言って、ほとんど手を付けてなかった。先代宮司の利雄さんが亡くなった後も、遺言で和雄さんがずっと送金してくれている」
 
「お賽銭がちゃんと環流されてるんですね!」
「そうだね」
「貨幣経済の社会に干渉するにはお金も無いといけないんだろうね」
 
「だけど、これでふたりもようやく正式に夫婦になれたね」
「僕がこんなんになっちゃったから、結婚自体諦めてたから、結婚できて凄く嬉しい」
「『こんなんに』って女の格好してること?」
「違うよ。男性機能が無くなったことだよ」
「女性機能があるんだから構わないじゃん」
 
「私は最初から女の子の命(めい)が好きだったから、これでいいんだけどね」
「ほんとに命(めい)はお嫁さんになっちゃったね」
「しかもママだしね。私自身きっとレズなんだろうなあ」と理彩。
「もういっそ、命(めい)のおちんちん取っちゃおうか?」
「ああ、いいですね」
「それは勘弁して〜」
「またまた。本当は取って欲しい癖に」
 
ってか、今取られてるんだけどね、と命(めい)は思った。
 
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【神様のお陰・愛育て】(4)