【神様との生活・星編】(1)

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それは理彩と命(めい)の4人目の子供・海が3歳の頃のことである(2030.夏)。朝から海は悪戯をして、理彩に叱られていた。
 
「そんな悪いことしてたら、おちんちん取っちゃうよ」などと理彩が言う。その時、図書館に出かけようとしていた高校生の星が
「ん?おちんちん取るの? はい」
と言ったら、海のおちんちんが消えて、割れ目ちゃんができていた。
 
「あ、おちんちん無くなった・・・・」と驚いたように海。
 
「ちょっと、星!」
「あ、僕もう出るから」と言って星は出かけてしまう。
 
「えーん、おちんちん無くなっちゃった」と海が泣いている。
「もう。星ったら。。。。。ごめんね。海、星お兄ちゃんが戻ってきたら元に戻してもらうからね」
と理彩が慰めている。もう何を叱っていたか忘れている雰囲気だ。
 
するとそばにいた幼稚園生の光が
「海、別におちんちん無くても大丈夫だよ。私だっておちんちん無いんだから。ほら、私のスカート、穿いてみない? おちんちんあるとスカート穿けないんだよ」
などと言い出す。
 
「スカート?穿いてみようかな」などと海が言い出すので、光は自分のパンティを1枚持ってきて「おちんちんが無い子はこういうパンティ穿くんだよ」などと言って穿かせ、更にスカートも穿かせた。
 
「わあ、海、可愛いよ」と光。
「ほんと? 僕ね、ちょっとだけスカート穿いてみたかった」
「おちんちん無くなったからスカート穿けるね。そうだ。私のシャツも貸してあげるね」
と言って、キティちゃんのTシャツを持ってくる。
 
「あれ、これなんか可愛くて好き」
「スカート穿いてる時は、トイレもちゃんと女の子トイレに入って、座ってトイレするんだよ」
「うん。僕、おしっこしてきてみる」
などと言って、楽しそうにトイレに行く。そしてしばらくして戻ってくると、
 
「どうやっておしっこすればいいのか分からなかったけど、何とかできた」
と言って、嬉しそうである。
「でも、おしっことびちったから、拭くの大変だった」
「そうそう。おちんちん無い子はおしっこした後、ちゃんと拭くんだよ」
「へー」
 
海はこの「おちんちんが無い」状態が割りと気に入ったみたいで、光と一緒に人形遊びなどを始めた。
 
「ね、ね、あのままでいいのかな?」
などと、理彩が机で作付けのシミュレーション計算をしていた命(めい)に訊く。
 
「まあ、本人楽しんでいるみたいだし、どうせ星が戻ってくるまでだから、たまにはいいんじゃない?」
などと命(めい)は笑って言った。
「でも、あれ癖になっちゃったら、どうしよう?」
「ま、その時はその時だよ」
 

この日は、光はお友達と町のプールに行く約束をしていた。10時頃、お友達がお母さんと一緒に迎えに来たのだが、海も付いていきたいと言い出した。さすがに今日はちょっとヤバイかとも思ったのだが、お友達のお母さんが
 
「あら、うちの子も妹連れですし、一緒に面倒見ますよ」などというので、若干の不安を覚えながらも、お願いして送り出した。
 
一行は男女混合で数台のワゴン車に分乗して近くの町のレジャープールまで行った。現地についてから更衣室に入る。お友達のお母さんは着換えている最中にふと、海が光にピタリと付いてきているのに気付いた。
 
「あれ、海ちゃん、こっち入って来ちゃった?」
「いいんじゃないの?子供だし」と別のお母さん。
「そうだね」
「あれ、海ちゃん、女の子水着なんだ」
「うん。光が去年着てたのを貸してあげたんだ」と光。
 
「へー。あれ?おちんちんが付いてないみたいに見える」
「今、海は女の子だよ。おちんちん、今朝悪いことして取られちゃったの」
「あらあら」
 
その日は光の友達の妹と「同い年の女の子同士」で、とても仲良く遊んでいたらしい。このくらいの子供同士には言葉も不要である。ただ見つめ合うだけで気持ちが通じて、仲良く遊ぶことが出来る。一緒に水遊びしたり、ボール遊びしたり、またボートに乗って流れるプールを巡回していたらしい。
 
かなり泳いだ後で、プール付属の温泉に入ろうということになり、みんなでそちらに移動した。お風呂に入るのに、みんな水着を脱いで裸になる。
 
「あら、海ちゃん、ほんとにおちんちんが無い」
と友達のお母さんは、海のお股に割れ目があるので驚いたようであった。
 
「今日は海は私の妹だもん」などと光が言う。
「あの家はいろいろ不思議なことが起きるのよ。気にしない気にしない」
と言ったのは、理彩の従妹に当たる人であった。
 

星が高校生の頃、星は先代神様から言われたからといって、突然本家の蔵を調べ始めた。(2029.夏)
 
「ちょっと村の古い資料が入っているはずだと聞いたもんで」
と星が言うと、本家のおじさんは
「ああ。好きなだけ調べてくれ。俺もここには何が入っているのか分からん。もし値打ち物の壺でも見つかったら教えてくれ」
などと言っていた。
 
星の調査は2週間がかりであったが、目的のものが見つかり、星は満足そうであった。神職さんにも来てもらい、本家の人と命(めい)も一緒に見た。
 
「これはね、先代神様がまだ人間をしていた頃に村のあちこちの家の蔵から発掘して、収集した資料なんですよ。自分ちには蔵とか無かったから、友達だった斎藤さんちで預かってもらったんだって」
「へー」
「歴代の神職さんや庄屋さん・名主さんとかが書いたものだけど、300年前に神の子で神職を務めた人が書いたものが、かなりを占めているという話」
「この『鶴龍』の署名がある文書ですね」
「そうそう。鶴龍さん。鶴は千年・亀は万年で、長生きするようにというので名前を付けられたらしいけど、あの人、異様に元気で、いまだに那智でピンピンしてる」
「まだ生きておられるんですか!」
「那智でも最長老の部類だから、大きな神社の神様でも、あの人には頭があがらないみたい。パワーも凄ぇし。あの人きっと本当に1000年生きるよ」
「へー」
 
「でも先代神様って、生まれて1年で昇天したんじゃなかったの?」
「僕と同じでね、産んだ人や育ててくれてた人が寂しがってたから、神様としての最低限のイニシエーションを終えたところで地上に戻って30年ほど一緒に暮らしたらしいよ。大正天皇が亡くなったすぐ後に産みの親が亡くなったので、その後、自分も天に戻ったと言ってた」
「へー」
 
「今の神様は産みの親から放置されて幼い内に肉体が滅んでしまったんだよね」
「わぁ」
「だから最初は本人、自分の産みの親のことも恨んでいたと言ってた」
「うーん」
「でも、色々辛かったんだろうなと思い直して、サポートするようになったみたい。だから、お母さんの側は幽霊だと思ってたみたいで、水子供養とかされたと言ってた」
 
「お前って、幽霊じゃないよね?」と命(めい)は星に訊いた。
「幽霊に見える?」
「見えない」
 
「しかし、これはすごいですね」と神職さんが大量の資料を見て興奮している。
「この系図で見ると、この村の神職は元々斎藤家だったんですね」
「斎藤って苗字は元々神職の家系ですもんね。斎く藤原。昔の中臣神道に繋がる家系ですよ」
「でも300年前の神様が辛島家から出たので、その後、辛島家から代々神職を出してたんですね」
「辛島という苗字も神職の家系ですよね。宇佐八幡の辛島とか」
「しかし、こんな家訓があったなんて・・・・」
と神職さんが見たのは、その300年前に神の子で禰宜(ねぎ)を務めた鶴龍さんが書いたものであった。
 
・壬辰の年には、斎藤家または辛島家の20歳の女子に火祭の踊りをさせるべし。その結果神の子を産むので、みんなで大切に育てるべし。
 
・壬辰の年に20歳前後の子が踊れるよう、壬申・癸酉・甲戌年頃にどちらかの家系で子供が生まれるように努力する。
 
・壬辰の年は、多少年齢がずれてもよいから、どちらかの家の女子(どうしてもいない場合は男子でもよい)に踊らせるべし。ただし男子に踊らせる場合は、その結果子供を産むことになり、一時的に男の機能は無くなることを本人に納得させるべし。
 
「こういう面倒なことは、神職家系である、このふたつの家で出来るだけ引き受けようということなんでしょうね」
「年明けてすぐの時点で18歳ということは数え年20歳ですもんね。たいてい」
「あ、その数え年20歳を満18歳に改訂したのはうちの親父です」と神職さん。
 
「この家訓がちゃんと伝えられ守られていたら、今の神様が生まれた時のような悲劇は無かったんでしょうね」と命(めい)は言った。
「明治維新の混乱でかなり訳が分からなくなったしね」
「太平洋戦争で更にまた訳が分からなくなってますよ」
 
「ここの神社も一時は中央から派遣されてきた神職がやってましたからね。その人が失踪しちゃった後、うちの曾祖父が申請して神職になることができたんですが。多分そんな時期にこういう資料も忘れられてしまったんでしょうね」
 
「この資料、僕ができるだけパソコンに打ち込んでデジタル化するよ。でも、昔の字が読めないや」
「星君、私が教えますよ」と神職さん。
「お願いします。自分が昇天するまでには全部整理し終えたい」と星。
 
「お前、いつ昇天するの?」と命(めい)は訊いた。
「51歳の誕生日、という約束。まあ、神様の世界に転勤するようなものだから、その時は、みんなで送別会でもしてよ」
「そっか。転勤みたいなものか・・・・」
「この世界での実体は無くなるけど、霊体でならいつでも出て来れるし」
「分かった」
 
「なんか物凄い会話を聞いた気がした」と本家の人。
「星君とはこの手の会話をいつもしてますよ」と神職さんは笑って言った。
 
「あ、そうそう。値打ちものの壺は出てこなかったけど、この茶碗は銘品ですよ」
と星が古ぼけた箱を出してくる。
「ああ、それうちのじいさんが大事にしてた。売ったのかと思ってたけど蔵に入ってたのか。高いものなの?」
「そうですねえ。名のある鑑定士に鑑定させた方がいいけど、1億円はすると思う」
「えー!?」
 

それは命(めい)と理彩が星と一緒に吹田市の家に住み始めた頃のことである(2013.6)。この家はロケーションも素晴らしく、家賃もとっても素晴らしかったが、家が古いのが唯一の問題点であった。中でも、理彩が不満を言っていたのはお風呂である。
 
外釜方式で、家の外に出なければ点火できないし、湯温調整が難しい。誰かが釜係にならないといけないので、ひとりで入浴することができない。
 
「そういえばシャワーも無かったんだよなあ」
「仕方ないよ。この場所・この広さでこの家賃だもん」
「階段、けっこうグラグラしてる板があるよね」
「踏み外さないようにね」
 
育児の手伝いに、週交替で理彩の母と命(めい)の母とが出て来てくれているので、しばしば、そちらに釜の調整をお願いして、命(めい)と理彩のふたりで、あるいは星を入浴させつつ、3人で一緒にお風呂に入っていた。しかし、その日はどちらもいなくて、3人だけであった。
 
「命(めい)、お風呂入ろうよ」
「今日はお母さんいないから、交替で入らなくちゃ」
「面倒だな」と言って、理彩はお湯を見てくる。
 
「ねー、今少し熱めなんだよね。これなら3人で入っている内はまだ湯温維持できると思うなあ」
「そう?じゃ、一緒に入ろうか」
 
命(めい)が星を抱いて3人でお風呂に入った。水平に仰向けでそっとお湯に浮かべると星は気持ち良さそうにしている。ご機嫌だ。
 
「あ、見て見て。星のおちんちんが立ってるよ」
「へー」
「命(めい)のおちんちんも立つといいのにね」
「今は授乳中だから無理しなくていいよ」と命(めい)は笑って言う。神様からは授乳が終わった頃、男性機能は回復すると言われている。
 
交替で星を抱っこして身体と髪を洗う。こういう時のふたりのルールは、命(めい)が星を抱っこしている時に、理彩が命(めい)の身体を洗い、理彩が星を抱っこしている時に、命(めい)が理彩の身体を洗うのである。新婚さんならではの流儀である。命(めい)の髪は理彩が洗ってあげたが、理彩は自分の髪は自分で洗うといった。
 
「洗ってあげるのに」
「ううん。いいよ」
「なんで?」
「微妙な問題」
 
しかし、星をあやしつつ、少々Hなことなどもしながら入っていたら、少しお湯がぬるくなってきた。
「命(めい)〜、お湯がぬるくなってきたよぉ」と理彩。
「やっぱり無理だったか。どちらが火をつけに行く?」と命(めい)。
「ジャンケン」
「よぉし。ジャンケン、ポン。勝った」
命(めい)がグー、理彩がチョキである。
 
「えーん。負けちゃった。でも今夜は雨が凄いんだよお。命(めい)替わってよ」
「今ジャンケンしたのに。それに僕、風邪引いたら、授乳に影響するから」
「私、来週試験だから、今風邪引きたくない」
 
などと押し問答をしていたら、ポッという音がして風呂釜が点火した。
「え?」
「火がついた」
「なんで?」
と言ってからふたりは星を見た。ニコニコ笑っている。
 
「星が火をつけたの?」
「どうもそうみたいね」
「便利な子だ! よしよし、またやってね」
などと理彩が言っているが命(めい)は
「だめだめ。星、こういう時はお母ちゃんたちが困っていても勝手に助けないこと」
と星をたしなめた。
 
「なんで〜?」と理彩は言うが
「神様の力はこういうことで安易に使ってはいけないの。人が自分でできることは、人にやらせなきゃダメ。人知を尽くしてできないことを神様はしてあげるの」
と命(めい)は言った。
 

それから1ヶ月もした頃のことであった。またまた命(めい)たちは3人だけの日に、理彩のアバウトな予想に従って、お風呂に入っていて、またまたお湯が途中でぬるくなってきて、その日はまたまたジャンケンで負けた理彩が、しぶしぶ途中で風呂釜のスイッチを入れてきた。
 
「ああ、寒かった。集中豪雨って感じだったよ」
「お疲れ様。ゆっくりぬくもって」
「うん。少しゆっくり入ってよ」
 
などと理彩は湯船に入っていたが、のんびりしていたら、今度は熱くなりすぎてきた。
「えーん。ちょっと熱いよ。命(めい)、停めてきてよ」
「そうだね。さっきは理彩だったから、行ってくるか」
と言い、命(めい)は星を理彩に預けて外に行こうとしていた。
 
「ああ、でも本当に不便なお風呂だなあ。いっそ壊れたら、新しいのに替えてもらえるだろうに」と理彩が言った。すると、突然ガツン!という凄い音がして、風呂釜の燃焼が停まった。
 
「何?今の?」
「風呂釜が・・・・壊れた気がする」
「もしかして?」
とふたりは星を見る。
 
「星、お母ちゃんたちが、勝手なこと言っている時、それを聞いてはいけません」
と命(めい)が星を叱る。星は当惑した顔をしていた。理彩が言ってた通りのことをしてあげたのに叱られるというのは、どうにも納得がいかないだろう。
 
「だけど、理彩、僕たちもあまりわがままなことを口にしないようにしておかなくちゃね」
「絶対言っちゃいけないのは、誰とか死んじまえ、みたいな発言ね」
「それ、結果が怖すぎる」
「神様を育てるのって、大変なんだね!」
 
風呂釜に関しては大家さんに連絡して見てもらったら完璧に行かれているようだということで、釜を交換させますねということだったが、理彩が「費用こちらで出してもいいから、シャワー付きの内釜の風呂に変更できませんか?」と言う。すると大家さんも「確かに、今時シャワーも無いのは不便ですよね」と言い、費用は大家さん持ちで、シャワー付きのガス風呂(浴槽はホーロー)に交換してくれた。理彩は喜んでいたが、この件で、うっかり星を褒めたりしないように、ふたりは充分気を付けるようにした。
 
ともかくも、そういう訳で本格的な夏を迎える前に、斎藤家の風呂はシャワー付きで、ひとりでも入浴可能なタイプになったのであった。
 

吹田市の家には神社の分霊が祀られていて、命(めい)は朝晩休まず祝詞をあげるようにしていた。基本的に祝詞をあげるのは命(めい)の役目であり、どうしてもできない場合は代わりに理彩があげてくれていた。ふたりで帰省したり旅行に行くような場合は、大阪でできた友人で神社の息子という人がいたので、その人にお願いして、必ず朝晩祝詞をあげてもらうようにしていた。友人は最初理彩たちの家に来た時、本格的なお宮が作られていたので驚いたようであった。
 
さて、命(めい)は大学3年の頃から、頻繁に村に戻って桃を植える土地の買収交渉をしていた。そういう日は朝の祝詞をあげてから車(通学用のVitzでは非力で村まで行く坂道が辛いので別途ホンダのストリームを買った)で村まで行き、あれこれ交渉をして午後2時か3時頃には村を辞して、日没までに自宅に戻り、夕方の祝詞をあげる、といったことをしていた。片道3時間掛かるので、なかなか大変だったが、命(めい)は吹田市に住んでいる間、これを頻繁にやっていたのである(大学を卒業してからはほぼ毎日往復するようになったので、体力の限界を感じてドライバーを雇った)。
 
そんなある日のことであった(2015.夏)。夏で日没は19時すぎなので16時が村を出る限界であったが、途中で疲れて眠くなることもあるので15時には出たいと思っていたのに、その日交渉していた人がハンコを押す直前になって渋りだし、最終的に1割増しの価格で妥結してハンコをもらえたのだが、結局村を出たのが16時すぎになってしまった。
 
この時期、理彩は月の出産の直後で休学中だったので、普段の日はこちらが間に合わなければ理彩に夕方の祝詞を頼むところだったが、その日はたまたま理彩は医学部の友人の所に泊まりに行っていて、命(めい)が星と月を連れて村まで往復していた。実はそもそもその日はまだ売買契約まで行く予定が無かったのが、命(めい)が赤ちゃん2人を連れているのを見て、突然売りますよと言われ、価格交渉に入ったのに、最後になってまた迷うなどという複雑な展開だった。
 
交渉で疲れたこともあり少し寝たい気分だったが、時間が無いので、ガムを噛んだり、コーヒーを飲んだりして運転していたが、瞬眠を起こして、一瞬センターラインを越えてしまった。やばっ!と思った時、ベビーシートから星の声がした。
 
「お母ちゃん、車を脇に停めて」
 
確かにこれは5分でも休んだ方がいいと思い、車を脇に寄せて駐める。
 
「僕が何とかするから少し寝て」
「分かった」
 
自分では5分くらい寝るつもりだったのだが、疲れが溜まっていたようで熟睡してしまった。ハッとして起きたら、もう18時である。ぎゃーっと思う。今から大阪に向かっても到着は20時すぎである。どうしよう?と思ったのだが、星の声がして「大丈夫だから、PAとかにでも移動して」という。
 
そこで少し先の道の駅に駐め、トイレにも行って、星と月のおしめも替える。ゆっくりしててというので、車内で星と月を左右に抱いて、一緒におっぱいをあげながら少し休んでいたら、おっぱいを飲んでいた星が口を乳首から離して「じゃ行くよ」と言ってニコっと笑う。
 
次の瞬間、命(めい)は星と月とともに吹田市の自宅に居た。
 
「へ?」
「祝詞、祝詞」
「OK」
 
ちょうど日没の時刻であったので、命(めい)は夕方の祝詞をあげた。そして終わると
 
「じゃ戻るよ」
と星が言い、また3人は車の中にいた。
 
「今日みたいに仕事の都合で間に合わなくなる時は、僕が何とかするから、無理な運転はしないでね」
と星は言った。
「僕はこの肉体が滅んでも平気だけど、月を死なせるのは可哀想だし、お母ちゃんも死ぬのはまだ悲しいから」
などとも言う。
 
「僕もまだまだお前たちと一緒にいたいから、安全運転するよ」
と命(めい)は誓った。そして
「じゃ、時間の無い時はよろしくね」
と星に笑顔で言った。
 
大阪と村との往復では、しばしばこの星の「転送ワザ」に助けてもらっていた。(その時点で理彩が帰宅している時は、理彩が祝詞をあげてくれるので、そういう日はのんびりと帰宅する。また日によっては朝の祝詞を理彩に頼んで日出前に家を出て村に行くこともあった)
 

月が小学校に入った年の初夏、命(めい)たちがいつも忙しくしているのを見て、朝晩の祝詞はこちらであげてあげるから、家族水入らずで温泉にでも行ってらっしゃいよと、双方のお母さんから言われた。うまい具合に理彩の休みも取れたことから命(めい)たちは5月の下旬、家族4人で関西近郊の温泉まで出かけた(2021.5)。
 
当時命(めい)はもう授乳は終わっていて男性能力も回復していたのだが、バストはCカップを維持していた。しかし下には男性器が付いているので、これでは男湯にも女湯にも入れない。それで温泉には消極的だったのだが、家族風呂もあるよ、などと言われて、じゃそれに入ればいいか、ということで出かけた。
 
出かける時に荷物などの準備をしていたら小3の星がスカートを穿いている。
 
「お前、何やってんの?」と命(めい)は訊いた。
 
「女装ってどんな感じか試してみようと思って」と星。
「まあ、いいけど。そのスカートは月の?」
「貸してと言ったら嫌だと言うから、自分で下着一式から買ってきた」
「まあ、下着は自分専用のがいいだろうね。でもよくひとりで買えたね」
「小学3年生だもん。買い物してても、そんなに変には思われないでしょ」
「そうだね。お前、少し大人びて見えるし。どんな下着付けてんの?」
「女の子用のシャツとショーツだよ」
「へー」
「上下ともマイメロ」
「おお、やるね」
 
ちなみに星は自分でいつでも動かせるお金を数十億持っているが、普段のおこづかいに関しては節度をもって使うように言い渡しており、おこづかい帳を付けるように言ってある。このスカートとかショーツというのも、おこづかい帳にきちんと記載されたことであろう。
 
命(めい)と理彩の2人で交替で運転しながら温泉に向かう。4人で移動するので市内用のコンパクトカーではなく、いつも村との往復に使っているストリームを使う。星はもうジュニアシートも卒業しているが、月はまだ身長が足らず、ブースタータイプのチャイルドシートに座っていた。
 
実は父・母・息子・娘という4人家族のドライブなのだが、見た人は姉妹か何かが各々の娘を連れて女4人でドライブしているように見えるであろう。ちなみに星は命(めい)を「お母ちゃん」・理彩を「お父ちゃん」と呼び、月は命(めい)を「お父ちゃん」・理彩を「お母ちゃん」と呼ぶから、4人の会話を聞いてたら、きっと訳が分からないであろう。
 

途中のPAで休憩していた時のことである。星が今日は女装だからとちゃっかり女子トイレに入り、個室でおしっこを済ませてから手洗い場の方へ歩いていっていたら、ちょうど入口の方から、さっきまで寝ていた月がちょうど目をさましたのか、走り込んできて、星を見ると
 
「あれ?お兄ちゃん、今日は女の子トイレ使ってるの?」などと大きな声で言う。
 
「あのねえ・・・月、僕は今日はお兄ちゃんじゃなくて、お姉ちゃんなの」
と星は少し小さな声で月に言う。
「へー。今日はお兄ちゃんがお姉ちゃんなんだ?」
と、またまた大きな声で言う。
 
それをちょうど近くに居た、掃除のおばちゃんが聞きとがめた。
 
「ちょっと、あんたまさか男の子?」と掃除のおばちゃん。
「うん、今日はお姉ちゃんだっていうお兄ちゃんは、男の子だよ」
と月があどけない口調で答える。
「違います。私、女です」と星が言う。
 
「あんた、ちょっとこちらに来ない?」とおぱちゃん。
 
星はやれやれ、という感じで肩をすくめた。
「私が女だという証拠をお見せしますから、そこの個室にでも入りません?」
「いいよ」
 
ということで星は月を放置して、近くの個室に入り、スカートをめくり、パンティを下げた。そこにはまごうことなき割れ目ちゃんが存在する。
 
「ごめーん。本当に女の子だったね」
「納得頂けましたか?」
「うんうん。ごめんね」
 
といって、服を整えて、個室の外に出る。そこに命(めい)が近づいてきて、「何かあったの?」と訊いた。
 
「あ、お父ちゃん、星お兄ちゃんが、今日はお姉ちゃんだから、女の子トイレ使うんだって」と月。
 
「あのね、月、そういうことを大きな声で言うもんじゃないよ」
「はーい。お父ちゃん」
 
その会話を聞いていた、掃除のおばちゃんが混乱している。
「お父ちゃん・・・・?」
 
「あ、すみません。この子は私のことをお父ちゃん、この子のことはお兄ちゃんと呼ぶんですよ」
「ああ、そういうことでしたか。微笑ましいですね」
と掃除のおばちゃんは笑いながら言った。
 
命(めい)と星は顔を見合わせて、大きく息をついた。月は何か不満そうだった。
 

やがて、目的地に着き、予約していた宿屋にチェックインする。理彩が記帳したが、家族4人のうち、理彩以外の3人は性別がよく分からない名前である。部屋に入り、一息付くと理彩が「よし、月、お風呂行こう」と言って、月を連れて出て行ってしまった。命(めい)と星が残される。
 
「お母ちゃん、お風呂行く?」と星。
「お前こそ行って来たら? でも、その格好してどちらに入るつもり?」
と命(めい)は星に訊く。命(めい)は星が単純に女装しているだけだと思い込んでいる。
 
「そうだなあ。お母ちゃん、一緒に女湯行こうよ」
「お前と話してると、まるで、のぞきの相談だ」
「でも、お母ちゃん、ちょっと透視してみたけど、今女湯に入れる仕様だよね、それ?」
と星は命(めい)の股間を見て言う。
 
「うん。タックというんだよ。一見、付いてないように見えるだろ?」
「全部隠してあるからね。何なら、そんな誤魔化し無しでもちゃんと女湯に入れる形に変えてあげようか?」
「いい。お前にやらせたら、それ絶対に元に戻さないだろ?」
「神様のやることを想像できるなんて、お母ちゃん、勘が良すぎるよ」
「お前こそ、女湯に入れるの?」
「僕は今日は出発した時から女の子になってるよ」
「なるほど」
 
「よし、お風呂行こう」と命(めい)は言った。
「うん」と星も言って、タオルを持って立った。
 
「お母ちゃん、女湯自体は何度も経験あるんでしょ?」
「あるよ。村に行った時、けっこう村の友人の女性と一緒に村の温泉センターにも行ったりしてるし。まあ、みんな僕の性別を承知の上だけどね」
「じゃ、遠慮せずに、お父ちゃんと月が行く時に一緒に行けば良かったじゃん」
「それでも気後れするんだよ」
 
「へー。お母ちゃん、もう女装歴は10年以上だよね」
「いつもこういう格好するようになったのは、お前を妊娠した時からだよ」
「じゃ、僕の年齢と同じか。8年やってても、そういう時に気後れするんだね」
「やはり、女装人生送ってると、自分では一応女のつもりでいても、普通の女性に対してコンプレックスがあるからね」
「さっき僕が一瞬気後れしたのと同じような感じかな」
 
「お前、そのあたりの心理的なものを体験したかったんだろ?」
「うん。女装で暮らしている人って結構多いし、そういう人たちの気持ちもできるだけ理解してあげなくちゃと思って」
「勉強熱心だな」
「そうだね」
 
やがて大浴場に行き、ふたりで女湯の暖簾をくぐる。星が少し戸惑った感じだったのを手を引いて中に入った。スカート穿いた小学3年生はどうせ男湯には入れない。
 

星は命(めい)が脱ぐのを待っているようなので、先に脱ぐ。星を妊娠していた時はEカップまで膨らんでいたおっぱいは今Cカップで維持されている。体内でウェストラインから足の付け根の部分以外のエリアにエストロゲンが大量に分泌されていて、このバストが維持されている。パンティーも脱ぐが、タックで男性器を隠している。ちょっと見た目には女性の股間にしか見えない。
 
ニコリと笑って星は自分も脱いだ。トレーナーとスカートを脱ぐと、マイメロのシャツとショーツが見える。ショーツには変な盛り上がりは無い。シャツを脱ぐと平らな胸だが、小学3年生ではまだ胸は無くて当然である。ショーツを脱ぐと、股間にはきれいな割れ目ちゃんが出来ている。
 
「なるほど。きれいなものだね」
「うん」
「そういうの自由自在なんだね」
「人間の性別を変えるのとはちょっと違うんだよね。僕って、実は元々実体が無いから、見え方を変えるだけでいいんだ」
「お前って実体無いの?」
「お母ちゃんが僕を流産せずに産めたのは実はぼくに実体が無かったからだよ。実はそこに存在していないから、よほど無茶しない限り流れもしない。でも、実体が無いことに気付く人は凄くレアだろうね」
「へー」
 
しかし、命(めい)は自分が星を妊娠することができたことについて、先代神様から別の説明を受けたこともある。先代神様は人間の身体は元々男性体と女性体のダブルでできていて、その人が男だというのは、リバーシの駒のように、たまたま表に出ているほうが男性体であるというだけだと解説した。ただし駒をひっくり返すのは神様クラスにしかできない。眷属クラスには許されていないワザだと言っていた。そして、先代神様がセックスしていたのは、命(めい)の女性体の方で、実は妊娠したのも女性体だったという。女性体がふつうに子宮で妊娠している所を、男性体側から見ると、まるで腹膜妊娠しているように見えたというのである。
 

命(めい)は星と一緒に浴室の中に入り、あの付近とか足とかを洗ってから浴槽に入った。星とふたりで話していたら、月がこちらを見つけて近づいてきた。
 
「あれー、こちらに来たんだ?」と月。
「お母ちゃんと話してみたけど、ふたりともこちらに入れそうな気がしたから入ってきた」と星。
「教育上良くないなあ」などと言いつつ理彩も近づいてきた。
「僕って実はそもそも性別が無いし」などと星。
 
「まあ、4人とも今日は見た目は女だしね」と理彩。
「完全に女にしてやる、と星は言うけど断った」と命(めい)は言う。
「してもらえばいいのに」
「そういう言葉を星の前で言わない」と命(めい)。
「わ・ざ・と、だよ」と理彩。
「もう」
 

星はその後も、特に小学生の間はよく女装をしていた。女装する時は毎回ではないが、けっこうな頻度で肉体の方も女性に変えていたようであった。小学5年生頃以降になると、肉体を女性に変えている間は生理も来るようで、突然来て慌てて、命(めい)に「お母ちゃん、ナプキン持ってない?」などと訊いたりすることもあった。
 
命(めい)はいつもナプキンもパンティライナーも数個ポーチに入れているので渡していたが「お前自分で持っておきなさいよ」などと、言っていた。
 
その様子を見て理彩が「男親と息子との会話とは思えん」などと呆れていた。
 
そういう感じで、星もいつもナプキンを常備するようになったが、その後、よく女の子の友人と貸し借りしたり、また月が星からナプキンを借りたり、などという光景も見られるようになり、理彩は「なんか世の中乱れてる」などと嘆いていた。
 
星はけっこう平気で女装して友人たちと遊んだりしていた。星は男装だと結構な美男子だし、女装でもかなりの美少女になるが、男女どちらの友人も等しく作っている感じだった。ただ、あまり親友的な子は作らない主義のようであったし、女装の時に身体まで女になっていることを知っている子はさすがに少数で、多くの友人には「女装好きの男の子」と思われている感じだったが、お陰で、男子からは同性、女子からも同類とみなされて、恋愛にはフリーでいられた。
 
「あの親にしてこの息子とか言われたよ」と星。
「ああ、言わせておけばいいよ」と命(めい)は笑っていた。
「でも、お前男女どちらとも『同性』感覚で付き合ってない?」
「うん。だから恋愛しなくて済む」
「お前、それが目的ということは?」
 
「だって面倒くさいじゃん」
「いっそ特定の恋人作っちゃったら? そしたら恋愛と無縁でいられる」
「それやると、いづれ昇天する時に辛いから」
「別れの辛さを経験せずに人生を生きることはできないよ」
「そうだよなあ。。。。」
 
そんな話をしたのは星が小学6年生の頃であったろうか。。。。
 

そんな星にも、やがて「自称恋人」ができた。
 
命(めい)たち一家は星の中学進学に合わせて村に戻ったのであるが、彼女は村に来る前から知っていた子で真那(まな)といった。理彩の遠縁にあたる子で、親戚の集まりでは顔を合わせていたものの、真那が足を滑らせて学校の階段を落ちそうになった所を星に助けられてから急に親しくなった。
 
苗字は理彩の旧姓と同じ奥田で、星とは義理の従兄弟の孫同士という関係になるが、理彩と血の繋がりは無いという話だった。彼女は星の正体を知った上で、恋人にはなれないしセックスは禁止されているからできないと言う星の話も承知の上で、自分はそれでも星のことが好きだと言い、星も「じゃ、友達として付き合おう」と言って仲良くしていた。
 
星は彼女のことを「女友達」だと言うが、真那は星のことを「恋人」だと言う。そして星も真那が自分のことを「恋人」とか「彼氏」と言うことを容認していたし、真那が心細そうにしている時はそばに寄ってあげたり、彼女がクラブ活動を終えて、夜道、自宅に帰る時は、いつも(リモートで)ガードしてあげていた。
 
ふたりはふつうにデートもしていたようであるが、ふたりで遊ぶ時、しばしば星は女装して、女の子の友人同士という状態で遊んでいた。真那はそれも結構面白がっていて、女装時の星にと言って可愛い髪留めやイヤリングなどを贈ってくれたりもしていた。
 

星は元々、友人との間に自分で壁を作るタイプで、小学生の頃は同級生たちとも距離感のある付き合い方をしていたが、真那と付き合い始めた頃から、あまり遠慮をしない友人をぼちぼち作るようになった。その中で特に親しくしていたのが、男子では吉野君と桜井君、女子では友芽(ゆめ)と想良(そら)であった。真那も含めてよく6人で遊んでいた。
 
星は村に戻ってからはあまり人前では女装していなかったが、この6人で行動する時は、男装・女装の両方をしていた。ふだんは真那をガードするかのように男装で真那の彼氏のように振る舞っていたが、その時の都合次第で女装していた。
 
中学2年の夏休み、6人に加えて、あと男子のクラスメイト2人、女子のクラスメイト2人の合計10人で大阪まで出て、模試を受けて来た。模試は英数国理社を1日で受検するのだが、朝9時から午後3時半までなので、日帰りはきついということで、前泊することになった。とりまとめをしたのは吉野君のお父さんだったのだが、何を考えていたのか、行ってみるとツインの部屋が5つ取られていた。
 
「えっと、俺達男5人・女5人だよな」と吉野君。
「まさか男女ペアで泊まれとか」
「あ、私と星が同室に泊まるから大丈夫だよ」と真那が言った。
「しかし・・・・」
「それがいちばん問題無さそうね」と友芽も言うので、そういう部屋割りにすることにした。
 
「おふたりはご兄妹ですか?」とフロントの人が気にして訊いたが、星は「あ、私、実は女ですから」と女声で言う。
「え?」
「今日は男装してきたんです」
と更に星がニコッと女の子のような笑顔を作って言うと、フロントの人は少々混乱していたようであるが、それ以上追求しなかった。
 
「斎藤、もしかして今マジで女になってる?」
と、鍵を5つ受け取ってから、吉野君はエレベータの方に行きながら小声で訊いた。
 
「うん。人数がハンパと気付いたから、性別変えた。男4人・女6人ならツイン5部屋問題無しだよね。もっとも私は真那と同室になるなら、性別どっちでもいいんだけど。でも女でこの格好は無いから、部屋に行ったら私服に着替える」
男子5人は全員学生服を着てきていたのである。女子5人は私服で来ていた。
 
「じゃ501,502が男子部屋、504,505が女子部屋、503が斎藤と奥田の部屋。お前たち、野生に戻るなよ」と言って、吉野君は503の鍵を真那に渡した。
「大丈夫だよ。私たちそういう関係じゃないから」と真那は笑いながら鍵を受け取る。
 
部屋で一息付いたところで、みんなで夕食に行こうといってロビーに集まる。星が私服のスカート姿で現れたので、みんなが呆れている。
 
「斎藤、突っ込みたくて仕方ないんだけど、その服はお前の?」と吉野君。「そうだよ。あ、このカチューシャは真那から借りた」と星。
「そういう服を持ってきてたわけね?」と想良。
「女装する気満々だったんだ」と桜井君。
「まあ、そのあたりは企業秘密で」と星。
 
実は今自宅から取ってきたのだが「転送ワザ」は真那以外には秘密である。
 
「しかし、斎藤って女装すると、そんなに可愛くなるのか!」
と星の女装を見慣れていない葛城君が驚くように言う。あまり見とれていたのでガールフレンドの泉美に蹴りを入れられている。
 

みんなで一緒にファミレスに入り、御飯を食べたが、星がハーフセットを取っているので、桜井君が「そんなんで足りるの?」と心配している。
 
「私、こっちの身体になってる時は食欲も女の子なんだよね−」と星が答える。
「へー、そういうもんなんだ」
「エネルギー効率がいいんだよね。女の子の身体って。男の子の身体はスポーツカー、女の子の身体はコンパクトカーって感じ」
「なるほど」
 
「星はハーフセットだけど、私は大盛り食べちゃう」
などと真那は言ってモリモリ食べている。
「試験の前にはしっかり食べる主義なんだ」
「うん。それでいいんじゃない?」と言って星は微笑んでいる。
 
「だけど、お前その格好の時、トイレどっち使うの?」と葛城君。
「私は今女の子だから女子トイレだよ」と星。
「それでいいんだっけ?」
「いいんじゃない」
 
御飯が終わってから、ホテルに戻り、大浴場に行こうということになる。真那は何度か星と一緒にお風呂に入ったことがあったので、余裕でホテルの浴衣を着て、一緒に大浴場に行ったが、途中で合流した他の子たちから訊かれた。
 
「斎藤、真剣に訊きたいんだけど、お前、お風呂どっち入るつもり?」と玉置君。
「私は女の子だから女湯」
「本気か?まだ入口通るまでは考え直せるぞ?」
「星は大丈夫だよ」と真那が笑っている。
 
「じゃねー」と男の子たちに手を振って、星は真那・友芽と一緒に女湯の暖簾をくぐった。友芽と想良は真那と同様、星の女体を見たことがある。
 
星が単に女装しているだけと思い込んでいた泉美は星が女湯に真那たちと一緒に入ってきたのでギョッとした顔をしている。星が手を振ると
 
「こっちに入るの?」と訊く。
「今日はこちらにしか入れないというか」と言って星はさっさと脱ぎ始めた。
 
「へー」
上着を脱ぐとちゃんとバストがあるので感心している。
「おっぱいあるのね。ホルモンでも飲んでるの?」と言って触っている。「違う、違う。星の女体は人工女体じゃなくて天然女体」と真那。
「この子、男性体と女性体のダブル・ボディの持ち主なのよね」と友芽。
 
そんなことを言っている内に、星は全部服を脱いでしまった。
「そのお股も本物?」
「もちろん。タックとかじゃないよ」
「私、親戚だから、星が小学4〜5年生の頃から、この身体見てきてるのよね。4年生の頃はまだお互い胸が無かったけど」
と真那は言う。
「ということは、星はその頃から女湯に入ってたんだ?」
「うん。女の子の時はね」
「女の子の時の星はちゃんと生理もあるんだよ」
「へー」
 
みんなで湯船に入ってから、またおしゃべりをしている。先に入っていた想良と多貴も寄ってきて「女の子」6人で話していると会話が盛り上がった。
 
「でも、星って男の子にも女の子にもなれるって便利ね」
「そうでもない。男性体と女性体のスイッチはいったん変えると半日くらい次は変更できないから」
「じゃ、痴漢さん目的ではできないのね」
「私、そもそも性欲無いしね」と星は笑っている。
 
「女の子の身体になってる時は発想も女の子だって言ってたね。一人称も変わるし」
「ああ、頭の働き方とかも違うんだよねぇ」
「真那は星の男の子の身体も見てるの?」
「見せてもらったよ。触ったよ」
「おお、大胆。あそこにも触った?」
「触った」
「きゃー大胆!」
「でも大きくならない。男の子の機能は封印されてるんだって」
 
「そしたら、もしかして女体の方こそ、本体なんじゃないの?女の子機能はあるんでしょ?」
「それは新しい見解だ」
「確かに、私子供産めそうだなあ。産んでもいいんだろうか・・・・あ。産んでもいいよと言われた。但し生まれるのは普通の子供だって」
「へー」
 
「いっそ、ずっとこちらの身体にして、学校にも女子制服で出て来なよ。女子の制服持ってたよね?」
「うん。持ってるし、時々着てるね」
「あれ着てる時は女体になってる時というわけか」
「この6人の秘密ということで」と星は言うが
「こんなこと言っても誰も信用しないから大丈夫だよ」と友芽は言う。
 
この日は結局6人でそのまま女子部屋のひとつに入り、夜遅くまで一緒に勉強しながら、おしゃべりは続いたのであった。
 

星はクラブ活動などはしていなかったが、真那は小学5年生頃からずっとコーラス部に入っていて、特に中学生になって以降は、時々帰りが遅くなることがあった。しかしひとりで帰る時も、バス停を降りてから自宅まで、ずっと星と「脳内で」会話していることが多かったので、不安を感じたことは無かった。
 
村は星の「お母さん」が事業を興したおかげで、この時期は朝6時から夕方8時までおおむね1時間に1本バスが走る程度には開けていたのだが、それでも普段は変質者も出ないほどの寂しさであった。しかしこの日、真那が歩いていると背後に足音が聞こえてきた。
 
真那はバスを少し降りる前から(自宅にいる)星に呼びかけて、「脳内会話」
をしていたが、この足音を気にして『ね、星、付いてきてるの知り合い?』
などと訊く。
 
『見たことない人。この村の人じゃないよ。夏なのにコート着てて変』
『コートの下は裸だったりして?』
『一応ふつうの服を着てるね』
『・・・星って、服の下を見れるのね?』
『うん』
『私が服を着ててもヌードを見れる?』
『見ようと思えば見れるけど、いちいち見ないよ』
『そっか、いちいち見てたらきりがないよね』
 
などと会話をしていたら、足音が近づいてきた。
『星?』
『足を停めて』『うん』『振り返って』『振り返るの?よし』
と言って振り返ると、付いてきた男は一瞬ギョッとした様子であったが、すぐに思い直したように、真那に近づいてきた。男が真那の至近距離まで来た時、星は真那を自宅前に転送した。
 
へ?という男の顔。そして男は「ぎゃー!」と物凄い叫び声を上げて、県道の方へ走って逃げた。幽霊にでも会ったと思ったのだろう。星は、こいつはもうここには来ないだろうね、と思って微笑んだ。真那の方は自宅前にいたので少し驚いたが、気を取り直して、鍵を開けて中に入り「ただいま」と言った。
 
村はこのようにして神様に守られているのである。
 

ふたりが高校生の頃。それは夏のある日だったが、ふたりは星の自宅で音楽など聴きながらおしゃべりをして楽しんでいた。その日も星は女装だった。真那はわざとべたべた星の身体に触り「星、女の子の時は私よりおっぱい大きいね」
などと言いながらバストタッチしたりしていた。この時期、真那も星もCカップくらいのバストを持っていた。
 
そんな時、星の部屋のパソコンに自動表示にしていたネット放送で南紀勝浦の温泉のCMが流れた。
 
「あ、ここきれいね」と真那が言うと
「ああ、僕も1度行ってみたいって思ってた」と星が言う。
「あ、それなら連れてってよ」
「今から?」
 
「うん。できるでしょ?」
「まあ、できるけど」
「行きたい、行きたい。今、星も女の子だから一緒に入浴できるよね」
「そうだなあ。じゃ行こか?」
「わーい」
 
お風呂の道具を用意して、着替えも用意して(真那の着替えは真那の家にふたりでチョイと行って取ってきた)出かけようかと思ったところで、海が居間で昼寝していたことに気がついた。
 
「置いてく訳にはいかないよね」
「光ちゃんと月ちゃんは?」
「どちらも友達の家に遊びに行ってる」
「じゃ、海ちゃんは連れてく?」
「仕方ないね。おーい、海、ちょっと起きて」
 
眠そうにして海が目を開けた。
 
「海、お姉ちゃんたち、今からちょっと大きなお風呂に行くけど、海もおいで」
「あれ、今日は星お姉ちゃんだ」
「うん。私も真那も今日は女の子だから、お前も今日は女の子になって」
「わーい。女の子になるの?海、割とあれ好き」
 
「じゃ、女の子にするよ。はい」
「あ。おちんちん無くなった! えへへ。女の子になっちゃった。スカート穿いちゃおう」
「パンツも女の子のパンツ穿いて」
「うん」
 
何だか海は嬉しそうに女の子の服を身につけている。しょっちゅう女の子に変えられているので、最近は海専用の女児服や下着も用意してあるのである。真那が少し心配して「あの子をひょっとしてオカマちゃん教育してない?」
などと言ったが、星は「まあ、思春期になったら自分の性別は自分で決めるでしょ」などと言っている。
 
星は命(めい)の所に電話して「真那と一緒に、海も連れて南紀勝浦まで温泉に入りに行ってくる」と言った。
 
「ホテル浦島?」
「そうそう」
「じゃ、こちらから予約してあげるよ」
「お母ちゃん、サンクス」
 
命(めい)は電話をつないだままネットで操作し、ホテル浦島のチケットを確保、即決済した。予約番号を星に伝える。
 
「じゃ、遅くならないようにしなさいね」
「はーい。帰りは真那を家に送り届けてくる。あと、光が僕たちより先に家に戻ったら、お母ちゃんとこに自動転送するね」
「ほい」
 
電話を切ってから、星は真那と海に「じゃ行くよ」と言う。次の瞬間、三人は南紀勝浦のホテル浦島前にいた。予約番号を言ってチェックインし、中に入る。まずは有名な「忘帰洞」に行った。
 
「わあ、ここ凄い」と真那が本当に感動しているようである。星は海の手を引いて入っていたが、「ほんと、きれいだね」と言って、展望も楽しみつつ、楽しそうにしている真那の様子を見ていた。
 
真那はせっかくだから、全温泉制覇するなどと言っていたのだが、実際にはもう忘帰洞だけで、充分満喫・満足した雰囲気であった。ふたりは海を遊ばせつつ、たくさんおしゃべりをした。いつも話していて、話題なんて尽きている気もするのに、ふたりで話していると話題がどんどん生まれてくるのが不思議であった。
 
結局、ここに入っている内にけっこう遅い時間になったので、あがり、そのまま真那を自宅に送り届けて、星は自分の家に戻り、海を男の子に戻した。
「星お姉ちゃん、また今度女の子にしてね」
「うん、そのうちまたね」
 

星たちが帰宅する1時間ほど前、光が友達のお母さんの車で自宅に送り届けられた。灯りがついていないので、「あら?誰もいないのかしら?」などと言いつつ、光を降ろす。光はトットットと走って行き「ただいまあ」と言って玄関を開けた。
 
瞬間、光の姿が消えた。
 
え?と驚いて、お友達のお母さんは玄関の所に駆け寄るが、今いたはずの光の姿はどこにも無い。まさか何か事故でも起きた?と青くなる。
 
が、すぐに携帯が鳴った。見ると、命(めい)の携帯からである。
「あ、どうも。うちの光を送り届けてくださいましてありがとうございました」
「あ。。。えっと、光ちゃんは?」
「はい。ここに居ますよ」
「えっと、今、御自宅ですか?」
「いえ、まだ職場です。ほら、光、ちゃんと御礼言いなさい」
と命(めい)が言うと
「きょうは、あそんでくれて、ありがとうございました」と光の声。
「うん。また遊ぼうね」
と言って、友達のお母さんは電話を切ったが、自分の車に戻りながら
 
「確かにこの家は不思議なことが起きるのね」
とつぶやいた。
 

その翌日の早朝、真那は寝ていたのだが「真那」と自分の名を呼んで肩をゆする者があった。「星?」と言って真那は飛び起きる。
 
「どうしたの?こんな夜中に」
「朝の忘帰洞を見に行こう。あそこ朝5時からやってるんだよ。日出を見よう。僕たちのチケットは1泊だから、今日のお昼までは入れるんだよ」
 
「うん、行く行く」と言って真那はバタバタと準備をして、出かけた。ホテルに移動したのが5時少し前であった。ふたりは手早く浴衣に着替えてお風呂へ行った。開くのと同時に入る。
 
そして温泉に浸かっていると間もなく、熊野灘に太陽が昇ってきた。真那は息を呑んでその美しい日出を見ていた。
 
かなり日が昇ってから、やっと真那は口を開いた。
「きれいだった」
「なんか僕も感動した」
 
真那は微笑んで
「こんなきれいな日出を一緒に見られるって、女の子同士もいいかもね」
などと言った。
「海じゃないけど、女装が癖になったらどうしよう」と星。
「既に癖になってる気がするけど」と真那はまた微笑んで言った。
 

ホテルのお部屋にいったん戻って休んでいたら、真那が思いついたように言った。
 
「ねえ、星、ここ1泊のチケットを取ったんなら、晩御飯も付いてたのかな」
「付いてたよ」
「わあ、惜しかった! ここの御飯って凄く豪華だよね」
「豪華だったよ」
「食べたの?」
「真那の分は取ってあるよ。真那んちの冷蔵庫に・・・今転送した」
「わぁい! 帰ったら食べよう。星って、まるでドラえもんみたい」
「ふふ。僕がこの世にいる間は真那のドラえもんになってあげてもいいよ」
「私の恋人にはなれないの?」
 
「ごめんね。僕は120歳になった時に1度だけ、人間の女の子と妊娠するまでセックスすることしか許されていないから。それ以外ではセックスもオナニーも禁止なんだよ」
「神様も不便ね。まだ100年以上先か・・・・私はもう生きてないから、その女の子にセックスの権利は譲ってあげるわ」
「ひょっとしたら真那の子孫かもね」
 
「ということは私は誰かと結婚しないといけないのかな」
「応援してあげるよ。真那がどんな男の子と結婚しても」
「辛くない?」
「仕方ない。僕、神様だから」
「そうだね」
「でも、真那のこと好きだよ」
 
真那は微笑んでその星の言葉を受け止めた。
 
「ね、玄武洞にも行かない?」
「うん」
 
ふたりはまた一緒に部屋を出て、忘帰洞と並んで有名な天然洞窟温泉の玄武洞に行った。
 
洞窟に白い湯煙が籠もっている。その中でゆったりと入浴する。ふたりはしばし無言で入浴していた。そして真那は口を開いた。
 
「私も星のこと好き」
 
早朝であたりに人影は無い。星は微笑むと、真那のそばに身体を寄せ、すばやく唇にキスをした。
 

「続きはまた今度」と星。
「絶対、続きしてよ」と真那は真剣なまなざしで言った。
 
「うん」
「約束破ったら、星が女湯に入ったって、言いふらしちゃうからね」
「ふふふ、それ今更平気だけど、神様は約束守るよ」
 
「神様とした約束を人間が破ったら、どうなるの?」
「そんな恐ろしいことは考えない方がいいよ。うちのお母ちゃんが先代神様とうまく付き合っていて、真那が僕とうまく付き合えているのは、ふたりとも誠実だし無欲だからだろうね。自分を利する願いは絶対に言わないし」
 
真那は頷いた。
 
「でも、星はお父ちゃんとお母ちゃんというのを逆に呼ぶんだね」
「月と光と海のお父ちゃんから僕は生まれたから。自分を産んだ人はお母ちゃんだもん」
「家の中でややこしくない?」
 
「月とか、小さい頃、頭の中が混乱の極致だったみたい」
「そりゃ、混乱するよ」
「月は小さい頃、女の子は女親から生まれて、男の子は男親から生まれるのかと思ってたって」
「それは、星の家じゃなくても、小さい頃そう思い込んでいる子いるね」
 
「でも、もうお母ちゃんは、完全な女に変えちゃったからね」
「海ちゃんの性別、どうするつもり?」
「本人次第だよ」
「神様でも先のことって分からないの?」
 
「未来はね、来るものじゃなくて、選ぶものなの。たくさんのパラレル・ワールドの中から、人が自分で選択するんだよ。希望を持つ人には幸福な未来が、絶望する人には不幸な未来が訪れる。海が男の子として生きて行く未来もあるし、女の子になっちゃう未来もあるよ」
 
「私が星と結婚する未来もある?」
 
星は一瞬遙か遠くを見るような目をした。そして少し微笑んで目を瞑って言った。
「どうだろうね・・・」
 
真那はそんな星の表情を見て満足した。
 
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【神様との生活・星編】(1)