【少女たちのBA】(2)

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「この子、結構汗掻いてるよね」
と詩子が言う。
 
「すみませーん。このスコアが完成したらお風呂入れます」
と照絵。
 
「ああ、いいよいいよ。私が入れてあげるよ」
「じゃお風呂沸かしますね」
 
それで照絵はお風呂に水を溜めた。タイマーが鳴った所で(詩子に言われて)水を止め、風呂釜のスイッチを入れようとしたが、スイッチが入らなかった。ブレーカーも確認するが落ちてはいない。そもそも風呂場の照明はちゃんと点く。
 
「故障かなぁ、困ったな」
 
不動産屋さんに電話すると、1時間ほどでスーツを着た不動産会社のスタッフと作業服を着た技術者さんが来てくれた。
 
「これは釜自体がいかれてますね。かなり古いタイプだし交換した方がいいですよ」
と技術者さん。
 
「じゃ交換しましょう。どのくらい時間かかります?」
と不動産屋さん。
 
「すぐオーダー入れますから、明日にも来ると思います。奥さん、明日はご在宅ですか?」
「はい。午前になります?午後になります?」
「午後の方が安全かな」
「じゃ午後は在宅しておくようにします」
「では明日午後の工事で」
 
それで明日にも風呂釜を交換してもらえることになったが、今日は風呂が使えないことになった。
 

修学旅行の千里たちは、時計台を出てから300mほど歩き、札幌市テレビ塔にやってきた。
 
エントランスで“テレビ父さん”(*2)と“タワッキー”に迎えられる。修学旅行生を迎えるために1階まで降りてきてくれたようである。女子たちがキャッキャッ言ってキャラクター、特に“テレビ父さん”の回りに群がり、たくさんデジカメで記念写真を撮った。(タワッキーは不人気!)
 
(*2) テレビ父さん(テレビ“父さん”)はテレビ塔さん(“テレビ塔”さん)のもじり。リニューアル後の5月に登場した、目新しいキャラである。実はテレビ塔の公式キャラはテレビ父さんの2-3ヶ月前に登場したタワッキーで、テレビ父さんは“非公式キャラ”なのだが、タワッキーより可愛いし、人気も高い。
 

 

エントランスからまずはスカイラウンジにエレベータで上がり、そのまま展望台行きのエレベータで高さ90mの展望台まであがった。塔自体の高さは147mである。
 
※他の塔との比較
 
さっぽろテレビ塔(1957) 147m
名古屋テレビ塔(1954) 180m
大阪・通天閣(1956) 108m
京都タワー(1964) 131m
福岡タワー(1989) 234m
東京タワー(1958) 333m
 

展望台は見晴らしがいいので、多くの子が見とれているが、売店でおやつを買っている子も結構居た。みんなかなりお腹が空いている。
 
ここを20分くらい見てからスカイラウンジまで降りる。ここのレストランでやっと昼食となった。実は先に展望台に行ったのはレストランのピークを外す目的もあった。
 
たっぷり歩いた後だし、朝早くに家を出て、朝食を食べていなかった子もあったので、みんな勢いよく食べていた。予約して用意されていたランチを食べたのだが、それでは足りないと言って、自主的にオーダーして焼きそば、スパゲティ、ハンバーグなどを食べている子もいた。
 
13時半頃テレビ塔を出る。
 
「さあ、大通公園を歩くよ」
と桜井先生が元気に声を掛ける。
 
「結構長くないですか〜?」
「若いもんが文句言わない」
 
結構文句も出ていたが、お昼御飯を食べた後なのでみんな頑張って歩く。
 
大通公園には多数の彫像が並んでいる。
 
希望(飛んで行く感じ)、開拓母の像、愛(美那がシーソーみたいと言った)、石川啄木像(並んで記念写真撮る子が多数)。
 
牧童は、馬と少年の像だが、恵香が「成長したらナポレオンかな?」と言っていた。
 

 
馬と少年のBefore/After??
 
更に、潮風(セクシーという意見多数)、泉の像(同じポーズをしてみる女子多数)、奉仕の道、漁民之像(真似する男子多数)、黒田清隆、ホーレス・ケプロン、若い女の像(記念写真を撮る子が多数)。
 
その他、2ヶ所にある噴水、日時計(むしろ花時計という感じ)、などでも記念写真を撮っている子が多かった。
 
むろん千里は自分では写真を撮らない。それどころか誰も千里にはカメラに触らせない。千里が“電気の固まり”であることは、クラスメイトはみんな知っている(田代君が理科の時間に“測定”して「村山は400Vだ」と言っていた)。
 
小町と小春は積極的にみんなの写真を撮ってまわっており、特に小町は
「今回私は写真係」
などと言っていた(カメラの使い方は一週間前から小春にだいぶ指導されたらしい)。
 

小町たちが写真を撮って回っている時に、蓮菜は千里を端の方に引っ張っていき尋ねた。
 
「今回の旅行で小町ちゃんたちの費用はどうなってるんだっけ」
と小声で訊く。
 
「私がちゃんと払っておいたよ。だから深草小春・幡多小町で旅行会社の名簿にはちゃんと入っているはず」
 
「だったら良かった」
「そうそう。バスの座席取ってくれてありがとう」
「それはちゃんとしたよ」
 
小町と小春は並べて、蓮菜・千里、恵香・美那の席の間に入れている。ふたりが(千里の髪留めに擬態して)不在の時は、蓮菜と千里が荷物を置いている。ただし2人はできるだけ同時には姿を消さないようにしている。
 

千里たちは1.5kmほどの大通公園を40分ほど掛けてゆっくりと歩いたが、千里はほんとに、しっかりした靴を履いてきてよかったと思った。
 
かなり疲れている子もいた。
 
「駕籠(かご)に乗りたい」
などと言っている子もある。
「駕籠(かご)って凄まじくハードな乗り物だったらしいよ。だって男2人で担いで走るんだから、揺れがハンパじゃないよ」
「言われてみたらそうかも」
 
優美絵は少し遅れながらも頑張って歩いていた。それでも
「足は痛くないけど胸が痛い」
などと言って
「やはりブラ着けないとダメだよ」
と、ずっと付いていた佐奈恵が言っていた。
 

14:10に千里たちは大通公園の端で待っていたバスに乗り込んだ。優美絵は14:18頃にバスの所に到着したが、もっと遅い子もいた:焼きとうきび、ジャガバター、イカ焼き、とか売っているのを食べていて遅くなったようだ。ごはん食べたばっかりなのに!
 
遅れていた子を待って、14:23頃にバスは出発した。
 
20分ほど走り、石屋製菓の本社工場に行く。
 
実を言うと、昨年までは雪印の工場見学をしていたのだが、今年1月に傘下の雪印食品(ハム・ソーセージ等の製造会社)で牛肉偽装事件(輸入牛肉を国産と偽り、BSE対策補助金を不正に受給していた)が発覚。雪印食品自体の会社清算に至る大騒動となった。雪印乳業は2年前には大規模な食中毒事件を起こしており、この後、結果的に雪印という企業グループ自体の解体に至ることになる。(アイスクリームはロッテに移管、冷凍食品はマルハ・ニチロに移管、牛乳事業は全酪連と共同でメグミルク設立など)
 
そういう騒動の最中だったので雪印は避けることにし、代わって石屋製菓を見学先として再選定したのである。
 

ここは「白い恋人パーク」と命名されており、小型のテーマパークのようになっている。コンサドーレ札幌のグラウンドも併設されており、誰か選手と遭遇しないかなあ、などと男子たちは言っていたが、残念ながら誰にも会えなかったようである。
 
見学の方は、N小の子たちはお菓子が機械でどんどん製造されている様子をガラス越しに見学した上で試食品のお菓子をもらって歓声をあげた。
 
チョコを手作りするコーナーがあり、女子のほとんどと数人の男子が申し込んでいて、1組と2組で交替で手作りをした。千里は無論参加。留実子はむろん不参加!男子では鞠古君や高山君が参加した。参加しない子は、その間、記念写真コーナーで写真を撮ったり、ラウンジでのんびりとスイーツを食べたりしていた。
 
1組がこれをやっている間、2組はチョコレートの歴史がミニシアターで上映されるのを見ていた。お互い終わってから交替した。
 
ここはとても内容が充実していて、2時間ほどの見学時間があっという間に過ぎた。
 

白い恋人パークを16時半に出て、バスで1時間ほど走り、定山渓(じょうざんけい)温泉に入った。今日はここで宿泊する。
 
かっぱ大王の像の前でバスを降り、各自その前で写真を撮ったりしてから、旅館まで移動した(この日の日没は19:10)。
 
この日7/18の行程
6:30 学校集合
7:00 出発
8:30 茶志内PAで休憩
9:45-11:10 道庁(赤煉瓦)
11:15-12:00 時計台
12:10-13:30 テレビ塔
13:30-14:20 大通公園
14:40-16:30 白い恋人パーク
17:30 定山渓温泉
 
到着すると、まずは各々指定された部屋に入り、荷物を置いた。貴重品は金庫に入れて鍵を掛け、班長が鍵を持つ。
 
部屋は全部で19個取られている。なかよし・すずらんの女子(+元原先生・手島先生)、同男子(+金津先生)は4階。他の児童は男子が5階、女子が6階とフロアが分けられている。
 
むろん6階は男子禁制!である。元々ここはレディスフロアなので、エレベータのそばに仲居さん(深夜は警備員)が“6階フロント”として常駐しており、男が入ってこないように目を光らせている。
 
先生たちは次のような部屋割だった。
 
505:教頭、伊藤、神沢
604:我妻、横田
402:祐川、桜井
 
402は“救急室・相談室”となっており、男子でも女子でも来られるように4階に入れた。
 
5階は501-504が1組、506-509が2組で、先生の部屋が真ん中に入っている。
6階も601-603が1組、605-607が2組で、先生の部屋が真ん中に入っている。
 
1組の女子15人は、このように分けた(先頭は班長)。
 
601 恵香 蓮菜 留実子 千里 小町 602 玖美子 佳美 美那 穂花 小春 603 佐奈恵 優美絵 初枝 杏子 絵梨
 
部屋割を決めたのはクラス委員の蓮菜である。蓮菜は男子クラス委員の中山君と話し合い、千里も留実子も女子部屋に入れることを決めた。
 
601には千里と留実子のことを“よくよく”知っている自分と恵香を入れる。小春は美那や穂花にはおなじみなので、彼女たちの部屋に入れ、新顔の小町は自分たちの部屋に入れている。
 
601の班長は蓮菜がしても良さそうなものだが、クラス委員は“班長から報告を受ける”ので、自分以外にやってもらうことにした。自分以外というとこのメンツでは恵香以外あり得ない。千里と留実子は性別が怪しいし、小町は“人間生活”の経験が浅く色々常識を知らない。
 

千里たちがエレベータで6階まで上がると、6階フロント(おやつなども売っている)の仲居さんが
「すみません、この階は女性専用なので」
と留実子を見て言うので
 
「この子、よく間違えられるけど女の子なんです」
と千里が言ってあげる。
 
「あら、あなた赤いワッペン付けてるね。ごめんねー」
と仲居さんは言っていた。
 

荷物を部屋に置いて、ウェルカムスイーツ(白い恋人だ!)を食べ、お茶を飲んで一息つく。
 
「貴重品持ってる人は金庫に入れて。鍵掛けるから」
と恵香が声を掛けるが、そんな高価なものを持っている子はいない。
「デジカメは?」
「食堂まで持っていって、料理とかみんなの様子とかも写す」
「なるほどー。私もそうしよう」
 
デジカメは恵香・蓮菜・小町が持っていたが、全員食堂に持っていくことにした。それで、結局金庫には何も入れずに、大広間に行き、夕食を取る。
 
ここでは、一応各々の前に銘々膳でおかずが並べられており、みんなが席に付くと、仲居さんたちかご飯とお味噌汁を配ってまわったが、御飯と味噌汁と唐揚げ!は自由にお代わりして下さいねということだった。それでみんな唐揚げをどんどんお代わりしていたし、留実子はごはんを5杯くらいお代わりして食べていた。
 

さて志水家では、お風呂が壊れて修理は明日になるということだった。
 
「でもお風呂今日は入れないとなると、急に汗が気になってくる」
などと詩子が言う。
 
「困りますよねー」
「この辺、銭湯とか無いの?」
「歩いて・・・7-8分の所にありますよ」
「じゃ、私そこに行ってくるわ。私も部屋の片付けで汗掻いたし」
「ごめんなさい!」
「いや、あんたは仕事してて。私がりゅうこちゃんを連れていってくるよ」
「すみませーん」
 
それで照絵は、龍虎お出かけセットを渡し、ミルクも作って(普通に流水を瓶に掛けて急冷する方法で作った。ただし時間経過で冷めることを考え、やや熱めに作っている)、地図をコピーして銭湯の場所にマークを付けて詩子に渡した。念のため照絵がおしめを交換しておく。
 
詩子が龍虎を抱っこひもで抱く。
 
「じゃ行ってくるね」
「すみません。お願いします」
 
それで詩子は龍虎と一緒に銭湯まで出掛けたのである。
 

銭湯もずいぶん少なくなったが、この付近は学生街に近いこともあり、まだ営業している銭湯があった。地図を頼りにそこまで行くと、派手なネオンサインで“湯”と表示されているので、詩子は一瞬「トルコ?」と思った。物凄くおしゃれな外観である。銭湯というと小ぎたないイメージを持っていた詩子は意外に思った(きれいにしてないと学生さんたちが来てくれない)。
 
玄関を入った先に下足置き場があり、その先が男女に分かれている。靴を脱いで下駄箱に入れて下駄箱の札を取る。“女”と書かれている方のドアを入る。番台に80歳くらいのお婆さんがいる。詩子はホッとした。この銭湯の外見に気合負け?していた詩子は、ここに美人のお姉さんでも座っていたら、逃げ帰っていたかも!?
 
(番台に美人のお姉さんが座ってたら男子学生が恥ずかしがるかも)
 
「おとな1人、子供1人」
と言うと
「480円(*3)」
と言われるので、500円玉を出すと、番台の所に多数並んでいる硬貨から20円をこちらに押し出すのでそれを受け取った。このあたりのやり方も昔風で和む。
 
(*3)東京都の公衆浴場の料金は、2000.5.21-2006.5.31では大人400円中人180円、小人80円である。東京都では髪洗い料金は1970年に廃止された。
 

脱衣場に入るが、学生さんとか外人さんが多いなと思った。こちらを見て
 
「可愛い!何ヶ月ですか?」
などと声を掛けてくる学生さんがいるので
「11ヶ月なんですよ」
と答える。
「じゃもうすぐ1歳ですか。でもこの子、ほんとに可愛いですね。その内、美少女アイドル歌手になるかも」
「そ、そうね、アイドルとかなれたらいいね」
などと答えた。
 
脱衣場のロッカーを開け、下足箱の札と、バッグを入れる。バッグには龍虎のおしめの代え、保温用のキルト袋に入れたミルクの瓶などが入っている。自分が服を脱いだ後で、龍虎を脱がせて服をロッカーに入れる。おむつを取ってビニール袋に入れ、バッグの中に入れる。
 
え!?
 
と詩子は龍虎の裸を見て驚いた。
 
話が違うじゃん!
 
と思っていたら、近くに居た30歳くらいの外人さんが声を掛けた。
 
「可愛いお嬢ちゃんですね」
「ありがとうございます」
 
詩子は少し悩んだが、気にしないことにした。きっと仕事が忙しくて記憶が混乱してるのよ。
 
それで龍虎を抱き浴室に移動した。
 
これが龍虎の女湯デビューであった!!
 

千里たちは夕食の後はいったん部屋に戻ったが、すぐ、お風呂に行くことにする。N小の児童は 19:00-20:00 に1組, 20:00-21:00 に2組、と指定されていた。ここの大浴場は男湯も女湯も各々定員が50人くらいである。N小の児童がいきなり20-30人も入ると、定員の半分を占有してしまうので、分散させることになったのである。
 
「みんなお風呂行こう」
と部屋で恵香が言うが、留実子が悩んでいる。
 
「大丈夫だよ。私たちが付いてるから」
と蓮菜が言うと
「じゃ一緒に行こうかな」
と留実子も言い、恵香・蓮菜・小町と一緒に行くことにする。
 
それで部屋を出ようとしたら千里がまだ座っている。
 
「千里行くよ」
と蓮菜が言う。
 
「いやちょっと私は・・・」
と千里は戸惑うように言ったのだが
 
「千里が公衆浴場に入っても問題無いことは既に判明している」
と恵香に言われ、結局千里は恵香と蓮菜に連行されるように大浴場に連れていかれたのであった。
 
「去年の宿泊体験でも女湯に入ったじゃん」
「それはそうだけどね」
 
ということで、千里も留実子も女湯に行ったのである。
 

例によって女湯の入口の所に居る仲居さんから
「男の子は男湯に行って」
と“留実子が”言われるが、
 
「この子、よく間違われるけど女の子なんですー」
と恵香が言うと
 
「ほんとに?ごめんね」
と言われる。それで中に入るが、また脱衣場で仲居さんが飛んできて
 
「男の子は女湯に入っちゃダメ」
と言われて、千里が
「この子、女の子なんです」
と言ってあげる。
 
「ホントに?」
と仲居さんが疑いの目で見ているので、
「ほら胸触ってみてください」
と言って、留実子の胸に触らせる。
 
「あら、本当に女の子なのね。ごめんね」
とは言ったものの、仲居さんは近くに居て、ずっと目の端で留実子を見ていた!
 

脱衣場には多数のクラスメイトがいる。仲居さんは留実子を見ているが、クラスメイトの女子たちはむしろ千里を見ている。
 
しかし千里がさっさと服を脱いで裸になると、みんなホッとしたような雰囲気。少し遅れて留実子が裸になると、仲居さんは首をひねりながらも、向こうに行った。
 
千里と留実子に少し遅れて恵香・蓮菜が裸になる。小町は公衆浴場は初めてだったようで、他の子に合わせて服は脱いだものの、少し恥ずかしそうにしている。
 
「大丈夫、バレないから」
と小町に言って、5人で浴室に移動した。
 

各々身体をきれいに洗う。千里は最初にあそこを洗うが、もうこの“形”になってから、2年以上経つので、男の子だった頃はどうやって洗っていたのか思い出せない気がした。こんな所に何か付いてたら凄く邪魔になりそう。
 
しかしここに出っ張りがある状態から、穴が空いている状態に変わるのは劇的なビフォア・アフターだよなぁとも思う。一応“この状態”は、母の癌治療が終わるまでとは言われているが、男の身体には戻りたくないと千里は思っていた。
 
そもそも今更自分の身体が男に戻ったりしたら、女子のクラスメイトたちから殺されそうな気がするし!剣道大会の団体優勝とかも取り消されて非難轟轟だ。万一そんなことになったら、バレない内に、どこかに密かに逃げ出さないといけないかも!?
 

千里はその後、髪を洗っていて、疲れが洗い流されていく感じがする。やはりお風呂はいいなあと思う。手を洗い、胸を洗い、足を洗う。足の指の間を洗うとこれがまた気持ちいい。
 
全身きれいに洗ってから、浴槽に入る。穂花が寄ってきて
「千里かなり胸が大きくなってきた」
などと言う。
「うん。まだまだ小さいけどね」
と千里。
 
「ねえ。下も触っていい?」
「まあ穂花ならいいよ」
 
それで穂花は下にも触る。
 
「やはり女の子なんだね!」
と穂花が言うと
「何を今更」
と蓮菜は言っている、
 

玖美子まで寄ってきて千里の胸を触る。ついでに玖美子も下まで触って千里の性別を再確認していた。
 
「こないだも私の裸を見たくせに」
「あの時は触ってないもん」
 
「でもこれAカップのブラ着けてもいいと思う」
「Aカップなんて、まだ恐れ多い」
「いや、行けるよね」
と美那が言う。
 
「千里、もうジュニアブラじゃなくてAA55を着けなよ」
「そんな小さなサイズのブラ売ってる?」
と千里はマジで訊いた。
 

「千里はソフト部のピッチャーだから、腕の力を付けるのに腕立て伏せ毎日100回とかやってる。それで胸も発達してるんだよ」
と玖美子が言う。
 
「ああ、やはり腕立て伏せは効くのか」
「でも100回とか凄いね」
 
「去年は10回もできなかった」
「でも千里は努力の人だから」
「さっすがー」
 
千里はここに(2組の)麦美たちが居なくてよかったと思った。女の子の身体ならソフトの公式戦に出てよとか言われたら、また話が面倒になりそうだ。ソフト部員で1組の初枝と杏子も幸いにもまだお風呂に来てないようである。
 

美那が優美絵のバストに気付く。
 
「ゆみちゃん、おっぱい少し大きくなってきてない?」
「最近急成長してる気がする」
 
それで他の子も優美絵の傍に寄る。
 
「これかなり大きい気がする」
「ゆみちゃん、これもうブラジャーが必要だと思うよ」
「そうかなあ」
「それ、昼間も言ってた所」
と佐奈恵が言う。
「でも私身体が小さいから」
 
「お店で訊いてみなよ。お店に置いてないものでも取り寄せてもらえるよ」
「そうそう。こんな大きな胸にブラ無しって、体育の時とかに揺れて痛いよ」
 
とみんな言うので、優美絵も今度お母さんと一緒に旭川のランジェリーショップとかに行ってみようかなあと言っていた。
 

千里、そして優美絵がさんざんみんなに注目されていたおかげで、留実子は目立たずゆっくり入浴できた。時々一般客がギョッとして留実子を見ることはあったが、留実子がわざとバストが半分くらい見えるように入浴しているので女の子なのかと思い、悲鳴をあげたりすることは無かったようである。一応(千里の指示で)そばに小町が付いててあげた。小町自身も初めての人間の!共同浴場で不安だったので、留実子のそばにいることで随分心強かったようである。
 
なお(ソフト部員の)初枝と杏子は今日の行程がハードだったので部屋で眠っていて、お風呂からあがって部屋に戻った佐奈恵と優美絵に起こされた。それで7:45くらいになってから慌ててお風呂に来た。あがったのは8:05くらいで2組と交錯している。それで千里が女湯に入ったのをふたりとも見なかった。
 
千里や留実子たちは7:35くらいには上がって、部屋に戻った。
 

一方、龍虎を抱いて浴室に入った詩子は、自分の身体を手早く洗ってから、赤ちゃん用の石鹸で龍虎の身体をきれいに洗ってあげた。夏はやはりたくさん汗を掻いている。頭を洗い、耳の後ろなどもきれいにしてあげる。首筋を洗い、手を洗い、身体を洗って、お股もちゃんと“開いて”中まで丁寧に洗う。足も洗う。その上で自分の身体に再度シャワーを掛けてから浴槽に浸かった。
 
学生さんが多いので、孫(?)連れは目立つ。数人の女学生が寄ってきて(男子学生がいたら大変だ)、
「可愛いー」
「女の子ですよね?」
などと声を掛ける。
 
「うーん。どっちなんだろう」
などと言いながら、龍虎の身体を持ち上げてみる。
 
「やっぱり女の子だった!」
と学生さんたちの声。
 
龍虎は彼女たちのアイドルと化して、たくさん“愛で”られていた。龍虎もたくさん声を挙げて笑って、女学生たちに愛嬌を振りまいていた。この子は天性のアイドルかも知れないと詩子は思った。
 
女の子であったとしたら!
 

千里たちが部屋に戻ると既に布団が5つ敷いてあった。
 
「誰がどこに寝る?」
「こうしよう」
と言って蓮菜は紙に配置を描いた。
 
蓮菜 留実子
恵香 小町 千里
 
奥側に蓮菜と恵香が寝て、千里が入口そばである。
 
「うん。これは凄く平和な配置という気がする」
と恵香も言ったが、小町が異義を唱える。
 
「自分の主人に守られる形にしたら小春さんから叱られます」
 
それで結局千里と小町は入れ替えることにした。蓮菜がだったら自分と恵香を入れ替えようと言った。
 
恵香 留実子
蓮菜 千里 小町
 
更に蓮菜は千里と留実子に言って↑恵香と留実子の布団の向きを逆にした。それで5人とも部屋の中央向きに枕を置くようにした。
 
「お互いに他の子の足を見ることのない配置」
「それもいいことだ」
「深夜までおしゃべりしていられる配置ですね」
 
それで、この配置で寝ることになった。
 

蓮菜が留実子に言った。
 
「るみちゃん、鞠古君と“した”んだっけ?」
「まだしてない。キスしただけ」
と留実子が答えると
「キスしたんだ!」
と恵香が驚く。
 
「千里は?」
「まだキスもしてないよ、抱き合いはしたけど」
「おぉ!」
 
「蓮菜はどうなのさ?」
と千里が訊くと
「セックスはしたけど、入れさせてない」
と蓮菜の弁。
「意味が分からん!」
とみんな言った。
 
「なんかみんな大人だなあ」
と恵香は言うが
 
「女の子は初潮が来たらもう“女”なんだよ」
と蓮菜は言う。
 
「We are called girls before menophania, and we are called women after menophania」
「before/afterか・・・」
「初潮ってメノフェニアというのね」
「メナーキー(menarche)とも言うよ」
 
このグループは外人の子たちとの付き合いが多いので英語はだいたい分かる。文法はわりと適当だが!
 
「でもwomanって何か凄く深い響き」
「私たちはもうwomanなのさ」
 
「千里はwomanになりたくてたまらない顔してるけど実は既にwomanになっていると思う」
 
千里は蓮菜の言葉を噛みしめる。
 
「るみちゃんはあまりwomanになりたくないみたいだけど、実はwomanという単語の中にはmanという単語が含まれている」
「確かに」
「だから自分の内側に男を持っていればいいのさ」
 
留実子は蓮菜の言葉を考えている。
 

「取り敢えず、るみちゃんも千里もこれ持っておきなよ」
と言って、蓮菜は2人に1個ずつ“それ”を配った。千里は3月にももらったけどとは思ったが、また受け取った。
 
「それ私にもちょうだい」
と恵香が言うので、蓮菜は彼女にも1個あげた。
「生理用品入れに入れておけばいいよ」
「そうしよう」
 
「使い方分かる?」
と蓮菜は訊くが、誰も知らないようである。
 
「じゃ練習してみよう」
と蓮菜は言う。
 
「どうやって?」
「誰かちんちん持ってる人がいたら、実験台にするんだけど」
 
「ぼくにあったらいいんだけど、持ってないし」
と留実子。
「千里に付いてないのはお風呂の中で確認したし」
と恵香。
 
「じゃ代わりにこれを使おう」
と言って蓮菜が取り出したのは、小型のサランラップかクレラップの芯(15cm)のようである。
 
「それわざわざ持って来たの?」
「いや、るみちゃんと千里にはしっかり教えておかないとやばいと思ったからね」
 

「でもそれ大きすぎない?」
と恵香は言ったが
「いや、本物はもっと太いし、長さももう少し長い」
と蓮菜が言うので
「そんなに太いの?」
「それより長いの!?」
と他の4人が驚く。
 
「そんな長いものが“あそこ”に入るわけ?」
「全部入る訳じゃ無いけどね。それでもヴァギナは10cmくらいはあるよ」
「そんなに深いんだ!」
「それに赤ちゃんが通るんだから、ちんちんくらい入るって」
「確かに赤ちゃんの方がちんちんより明らかに太い」
 
「千里は太く長くなっているの見たことない?」
「ううん。彼とはそんな所までしてない」
 
自分には付いてなかったのか〜?と恵香はツッコミたくなったがやめておいた。それに千里のは多分付いてた時代も小さかったかも知れないという気もした。
 
「太さとしては、トイレットペーパーの芯の方がもっと近いんだけどね。あれは長さが短すぎるし、持ってくる間に潰れちゃうから」
「へー」
 
「まず表裏を確認する。これ裏返しでは入らないから」
「ふむふむ」
 
「表裏はだいたい袋の表面に書いてある。表裏とか外内と書かれているものと、これみたいに♂♀のマークになっているものがある。♂が裏側・内側で♀が表・外」
 
「女の子が表なんだ!」
「装着した状態を想像してみれば分かるよ」
と蓮菜は言う。
 
「開封します」
と言って蓮菜は開封し、中身を取り出した。
 
恵香は息するのも忘れて見ている。
 
「たくさんゼリーが付いている。これは女の子に入れる時にスムーズに入るようにするため」
 
「ここでも表裏をよく確認すること。こちらが表でこちらが裏」
と言って、みんなに見せている。
 
「この裏側をちんちんの先に当てる。すると外側にくるくる巻かれた部分があるよね。これを指で押していくと、自然にちんちんをカバーすることができる。恵香、やってみて」
「うん」
と言われて、恵香がやってみると、それはラップの芯を半分くらいまでカバーした。
 
「面白ーい。でも長さ足りない」
「まあそこまでカバーすれば精液は漏れないだろうというレベル。でもスムーズにできたでしょ?」
 
「うん」
 
「表裏を間違うとこれがうまくできないから」
「へー。間違ったら逆にしてやり直せばいいの?」
「それは絶対にやってはダメ。一度ちんちんに接触した部分が外側に来てしまうから、妊娠確率がとても高くなる。精液は射精前でも結構漏れてきてるんだよ
「なるほどー」
「だから表裏を間違った時は、それを捨てて、新しいのでやり直す」
「なんかもったいない」
「もったいながって妊娠しては元も子もない」
「確かにそうだ」
「るみちゃんとか特にもったいながりそうで恐い。必ず捨ててね」
「分かった」
 
避妊具を装着したラップの芯は「私が処分しておきます」と小町が言うので、彼女に任せた。
 

千里たちの部屋は、20時半には消灯したが、さっきの“練習”で興奮して、みんな眠れない。蓮菜が持参の明治ベストスリー(三種のチョコ)の大袋を開け、シェアして食べる。更には千里が白い恋人の箱を1つ開けてそれも分けて食べた。
 
「開けちゃっていいの?」
「この旅館でも売ってるし」
「なるほどー」
 
それで電気は消したままおしゃべりしていた。先生が巡回してきたら、寝てるふりをした(先生の巡回は千里が察知する)。
 

龍虎を入浴させ、お風呂からあがった詩子は、凄く柔らかい素材でできたバスタオル(マイクロファイバーである)で龍虎の身体を拭いてあげて、ついでに自分の身体も拭く。龍虎のお股の割れ目ちゃんの所もきれいに水滴を取る。そして新しいおむつを付け、自分もズロースを穿く。それから龍虎に服を着せてあげて、自分も服を着た。
 
お風呂で体力を消耗しているし、お風呂の熱で水分も蒸発しているだろうからミルクを飲ませる。美味しそうに飲んでいる。詩子も自販機でお茶を買って飲んだ。
 
少し休んでから銭湯を出てアパートに戻った。
 
「ただいまあ」
「お疲れ様でした。ありがとうございました」
 
「照絵さん、間違ってるじゃん」
「すみません。地図が間違ってました?」
「いや、地図はちゃんとなってたよ。それよりこの子、女の子じゃん」
 
「あ、この子、時々私も女の子みたいな気がすることあるんですけど、やはり男の子なんですよ」
 
「でもちんちん付いてなかったわよ」
「私も夜中この子のおむつ替えてたらちんちん付いてない気がすることあるんですけどね。朝起きて見るとやはり付いてるんですよ」
 
と言って照絵は龍虎のおむつを外してみた。
 
「嘘!?」
「付いてますでしょ?」
「え〜〜?何で〜?」
「この子、きっと必殺ちんちん隠しの術を心得てるんですよ」
「うーん・・・」
 

「眠れないよう。誰か何かお話しでもしてよ」
と恵香が言った。
 
「じゃ少し昔話を」
と言って話し始めたのが誰だったか、恵香も蓮菜も覚えていない。
 
「アペフチのカムイ(神)は最も古い神。この世界が生まれる前から居た」
「世界が無いのに神が存在するんだ」
「それだけ超越してるのかも」
「うーん・・・」
 
「アペフチ大神のお供は、左にラルマニ姫、右手にチキサニ姫であった。ラルマニ姫はイチイ(櫟)の精、チキサニ姫はハルニレ(春楡)の精とも言われる。実は昔は火を起こすのに木と木を摺り合わせていた訳だけど、イチイやハルニレは発火しやすかったらしい」
 
「へー!」
 
「それで火の女神のお供ということになったのかもね」
「あ、火の神様って女?」
「そそ。太陽の神ペケレチュプも女」
「へー!」
「ちなみにハルニレ(春楡)は英語でいうとエルム(elm)だよ」
「エルムって春楡かぁ!」
 

「この世界を作った神様はコタンカル・カムイ。この神様は実際には男女一対の神様だったとも言われる」
 
「ほほお」
 
「実際、コタンカルカムイがひとりで世界を創造したとする説、妹とふたりで創造したとする説、モシリ・カラ・カムイという男神と、イカ・カラ・カムイという女神とで作ったという説とかがあるんだよ」
 
「なるほどー」
「ということは、コタンカルカムイというのが、モシリ神とイカ神の総称なのかなあ」
 
「そういう解釈は成り立つと思うよ。モシリはよく出てくる単語だよね。土地という意味。イカは花という意味」
 
「アイヌの神話では大地の神は男か!」
「神様の性別って面白いね」
 
「全てが混沌としていた中で、やがて油のようなものが集まり、それが燃え上がって天となった。残った重たいものが固まって地となった。天の中から1柱の神が現れ、また地の中から1柱の神が現れた」
 
「それが創造2神?」
 
「そういうことになるのかも。2神は青い雲を下に投げて海を作り、黄色い雲も下に投げて土地を作った。赤い雲から金銀などの金属を作り、白い雲から多数の動物・植物を作った」
「ほほお」
 
「そして2柱の神はセックスして多数の神々を産んだ」
「きゃー!」
「また眠れなくなった」
 

「2人の創造神が産んだ多数の神々の中に、カンナカムイという雷の男神、ペケレチュプという太陽の女神、クンネチュプという月の男神、がいた。創造神は太陽の女神・ペケレチュプには昼間を司り、月の男神クンネチュプには夜を司るように命じた。女神・ペケレチュプは雌岳、男神クンネチュプは雄岳から黒い雲に乗って天に昇った」
 
「日本神話と似てる。天照大神(あまてらすおおみかみ)と月読命(つくよみのみこと)みたい。雷神は須佐之男命(すさのおのみこと)だし」
 
「影響を受けてるんだと思うよ。でもカンナカムイ、ペケレチュプ、クンネチュプはコタンカルカムイの弟や妹であるという説もある」
「どこから生まれたの〜?」
 
「さあ。雷神のカンナカムイは、後に火の女神アペフチ・カムイの従者・チキサニ姫と結婚し、2人の間に英雄神・アイヌラックル、別名オキクルミが生まれる。このオキクルミが実は世界創造の仕上げをするんだよ。彼は幾多の試練を経て、白鳥の女神レタッチリと結婚する」
 
「日本神話だと、カンナカムイが須佐之男命(すさのおのこと)、オキクルミは大国主命(おおくにぬしのみこと)か」
 
「うん。きれいに対応していると思う。大国主命も散々試練を受けている。オキクルミの父は太陽神ペケレチュプという説もあるけど、ペケレチュプは女神という説が有力だから女が父になる訳無いから、父親はカンナカムイのほうだと思う」
 
「そうかなあ。神様なら何とかするかもよ」
「うーん。それは何とかするかも知れない気はする」
 
「日本神話の天照大神(あまてらすおおみかみ)だって男神という説はあるし」
「確かに。天照大神には8人の奥さんがいて、それが実は八岐大蛇(やまたのおろち)の正体だったという説もある」
「あれは女の嫉妬?」
「恐い訳だ」
 
アイヌの神話はまだまだ続いたが、その内1人眠り、2人眠り、12時頃までには全員眠ってしまった。
 

修学旅行2日目、7月19日(金).
 
千里たちは朝7時から朝食に行った(日出4:11)。
 
鞠古君がスカートを穿いていた!が
「お前それ気持ち悪いからやめろ」
と田代君に言われ朝食後穿き替えたので、留実子に殴られずに済んだ!
 
「鞠古君、ほんとにスカート持ってたんだ?」
「姉貴がくれた」
「へー!」
 
(鞠古知佐の姉・花江が小さくなったスカートを弟に“お下がり”として渡したものだが、この後、留実子が没収した。鞠古君は実は3年生頃までは学校外では結構スカートを穿いていたが、留実子と付き合い始めた頃から、あまり穿かなくなった)
 

8時にバスに乗り込み出発した。
 
1時間ほど走って、ルスツ・リゾートに来る。今日は1日ここの遊園地で遊ぶことになっている。
 
ゲート前でクラスごとの記念写真を撮ってから、中に入る。
 
「そこに尻別岳(しりべつだけ)が見えるでしょ?」
と小春が言った。
 
「あの山が尻別岳?」
「そそ。あれが月神クンネチュプが登った雄岳・ピンネシリだよ」
「へー!」
「じぉ雌岳は?」
「太陽神ペケレチュプが登った雌岳・マツネシリは羊蹄山(ようていざん)、別名・後方羊蹄山(しりべしやま)(*4)」
 
後方羊蹄山は尻別岳の北西約10kmの所にある。
 
「雌岳の方が高くない?」
「そうそう。雌岳こと後方羊蹄山(しりべしやま)は1898m, 雄岳こと尻別岳(しりべつだけ)は1107m」
 
「女の方がずっと大きい」
 
「だけど筑波山だって、女体山(877m)の方が男体山(871m)より高い」
「おぉ!」
 
「昔は女の方が強かったのかもよ。みんな頑張ろう」
「よし、頑張ろう!」
「男を倒そう!」
と恵香たちは気勢を挙げた。
 
(*4)“後方羊蹄山”と書いて“しりべしやま”と読む。“後方”を“しりべ”と読み“羊蹄”を“し”と読むのである。羊蹄とは“ギシギシ”という植物の漢名でこの植物の和名が“之(し)”であることから来ている。あまりにも難読なので近年は単に“羊蹄山”と書き“ようていざん”と音読みするのが一般化している。尻別岳には前方羊蹄山という別名もあるらしいが読み方は不明。さきべしやま??
 

一応、班単位の行動ということにはなっていたのだが、中に入ると結構バラバラになった。蓮菜と田代君、留実子と鞠古君は各々別行動になったので、班長の恵香は携帯を持っている、蓮菜・鞠古君と電話連絡で1時間ごとに所在を確認していた。
 
千里と恵香は、美那・穂花と4人で歩き回った。穂花も携帯を持っていて、2班の班長・玖美子と連絡を取り合っていた。
 
「あんたたちHなことはするなよ」
「さすがに遊園地の中ではキスくらいしかしないよ」
「キスしたのか!?」
 
千里たちのグループには“絶叫マニア”?が居ないので、おとなしいアトラクション中心で行く。カントリートレインに始まり、サイクルモノレール、ゴーカート、ドラキュラハウス、などあまり“三半規管に来ない”もの中心で行った。回る系統のものとしては2階建てカルーセルくらいである。メリーカップは美那が面白がってハンドルを回すので、降りてからしばらく立てなかった!
 
午前中たっぷり乗り物などに乗り園内でお昼を食べてから、午後はこのグループは乗り物にも乗らず、散策しながらおしゃべりして時間を過ごした。
 

15時にゲートの所に集合する。各自トイレに行って来てから点呼を取り、全員居ることを確認。それからゲートを出て、バスに乗り込んだ。
 
R230で札幌に戻り、市内の大丸デパートでいったん下車する。ここで1時間ほど自由時間となった。
 
多くの子が8階の三省堂書店に行った。食い気が勝っている子は地下の食品売場に行く。千里と蓮菜は留実子を4階に連れて行った。
「何があるの?」
「るみちゃんさ、お風呂の中で見たけど、胸がかなり育っている」
と蓮菜は言った。
 
「それ憂鬱なんだけどね」
と留実子。彼女は自分の性別に違和感を持っているので、身体がどんどん女性化していくことに不快感を持っている。
 
「それだけの胸を普通のブラジャーで支えていたらスポーツする時に充分な動きができないと思う。春の大会で、1点しか取れなかったでしょ?」
と千里。
 
「うん。なんか走り出す時はブレーキが掛かる感じ、停まる時はちゃんと停まらない感じで。この胸を切り落としたいくらいだよ」
 
「だからさ、しっかりしたスポーツブラを着けなよ」
と蓮菜は言った。
「お金は私と蓮菜が出すからさ」
 
留実子の家は貧乏なので、下着にしてもいつもかなり安物を着けている。本格的なスポーツブラは結構なお値段がする。
 
留実子は少し考えてから言った。
「ありがとう」
 

それで3人はワコールのランジェリーショップに行ったのである。蓮菜が店員さんにサッカーをするのに良いしっかりしたスポーツブラが欲しいと言った。店員さんは留実子の胸のサイズを計った上で、カタログ上でいくつかお勧めを提示しててくれた。
 
「CW-Xにしようよ」
と千里が言った。
「でも高いよ」
と留実子。
「お金は私たちが出すから心配しないで」
と蓮菜。
 
それで3人はCW-Xのスペシャルスモールサイズを3枚買ったのである。ただ、店頭に在庫が無いので取り寄せてもらうことにした。直送してもらうことにする。
 
「すぐオーダー入れますから、明後日くらいには到着すると思います」
 
商品は蓮菜の家に送ってもらい、蓮菜が留実子に渡すことにした。
 

千里と蓮菜が1万円札を1枚ずつ出したので、お店を出てから留実子が
「お小遣いの範囲越えてない?」
と言ったが
「先生には内緒ね」
と2人は言った。本来は修学旅行に持って来てよいお小遣いは3000円である。
 
千里は昨日白い恋人を1箱買ったが、昨夜食べちゃった!ので今朝、旅館のショップでまた1箱買っている。それで残り1000円だった。蓮菜は昨日の内に3000円ほぼ使い切っているが、ブラジャー代はふたりともそれと別に内緒で用意していたものである。実はふたりとも2万円ずつ用意していた。
 
ランジェリーショップを出た後は3人は本屋さんに行き、立ち読みをしていた。千里は小町に頼んで食料品売場でチョコを買ってきてもらったので、あとでバスの中でみんなで食べることになる(これで千里のお小遣いは無くなった)。
 

志水家のアバートの、お風呂の工事の人は、午後1時すぎにやってきた。
「水道の栓をいったん閉めますので水が必要でしたらとっておいて下さい」
「ちょっと待って下さい」
 
それで、ミルク用のお湯のポットをいっぱいにし、またヤカンと鍋に水を取った。
 
それで工事が始まったが、ガス釜だけ交換するのかと思ったら、バスタブごと交換だったので、びっくりした。バスタブは今までのの1.5倍くらい広い。更にシャワー付きなので嬉しい!と思った。これまでは髪を洗う時に結構大変だったのである。
 
「これ水を入れて沸かすより、お湯を入れた方がガス代の節約になりますから」
「そうします!」
 
これまでは結構“湧かしすぎ”とかもあって、苦労していた。あれはかなりガスと水を無駄にしていた筈だ。特に譜面とか夢中になって書いていると、うっかり風呂を沸かしているのを忘れがちで、タイマーが鳴ったのにも気付かず、沸騰していたというのも時々あったのである。
 
工事は2時間ほどで終わったので、工事の人たちが帰った後、早速入浴したが、天国だと思った。
 
「劇的ビフォア/アフターだわぁ」
と照絵は呟いた。
 

17:30にN小の児童は大丸の玄関前に集合した。再度バスに乗り込み、点呼を取って出発する。南7条米里通り(札幌市道9901号旭山公園米里線)を進み、札幌ICから道央自動車道に乗る。
 
30分ほどで野幌(のっぽろ)PAに着き、トイレ休憩する。大丸で集合時間ギリギリに駆けつけて来た子も多かったので、多くの子がここでトイレに行った。千里たちも念のため行っておいた。ここは女子トイレの個室が10個もあったので、比較的短時間でトイレは終わった。
 
ルスツから札幌、札幌からここまでは、みんな寝ていたのだが、この先は
「歌って行こうよ」
ということになり、マイクを回して好きなだけ歌っていった。
 
千里は隣に座る蓮菜と一緒に宇多田ヒカルのナンバーを『SAKURAドロップス』、『Automatic』『travelling』『First Love』『Addicted To You』と歌い続け
 
「そろそろマイクを離しなさい」
と言われて玖美子からマイクを取り上げられた。
 
でも再度回ってきた所で今度は、ストロベリー・フラワー『ピグミン愛のうた』、柴矢裕美『おさかな天国』、ミニハムず『ミニハムずの愛の唄』、更に童謡の『銀ちゃんのラブレター』、『かくざとういっこ(角砂糖1個)』と歌い
 
「可愛いけど、そろそろマイク譲りなさい」
とまた玖美子に言われてマイクを取られた。
 
そして最後は留萌市内に入ってから『大きな古時計』を熱唱した所で学校到着。
 
「君たち、レパートリーが広いね」
とガイドさんが感心していた。
 
到着したのは20:20であった。多くの子が迎えに来た保護者の車で帰宅した。
 
7/19の日程
7:00 朝食
8:00 出発
9:00-15:00 ルスツ
16:30-17:30 大丸
18:00-18:20 野幌PA
19:09 日没
20:20 学校着
20:30 解散
 

修学旅行の後は、1日おいて7/21(日)に、またK小とのソフトボールの練習試合があったので、出て来た。千里はこの試合が事実上最後の試合になるので気合が入りまくっていた。丁寧なピッチングで、K小をノーヒットに抑えた。
 
ただしK小はエラーで出たランナーを盗塁とバントで3塁まで進め、犠牲フライで返して1点を取ったので、ノーヒットノーランにはならない。試合は千里とK小のエース・細出さんとの息詰まるような投手戦だったが、5回裏に杏子がフォアボールで出たのを1塁に置き、麦美がホームランを打って逆転サヨナラでN小が勝った。これで練習試合ではK小に2連勝である。
 
「だって千里を最後の試合で勝ち投手にしてあげたかったし」
と麦美は笑顔で言っていた。
 
また麦美の前にフォアボールを選んで貴重なランナーとして出た杏子は
「私のエラーから1点取られたから何としても取り返したかった」
 
と言っていた。彼女は元々あまり慣れてないポジションに入っていたし、エラーと判定されたが、内安打と判定されてもおかしくない微妙なものだった。
 
サヨナラホームランを打たれたK小のエース・細出さんはショックでピッチャーズマウンドにしゃがみ込んでいた。千里は昨年春にエンタイトルド・ツーベースでサヨナラ負けを喫した時の自分を彼女に重ねた。でもきっと彼女は強くなる。そう千里は信じた。
 

週明け、7月22日(月)の学校では、修学旅行の総括をしたが、6年各組では9月の学習発表会でおこなう劇の配役決めをした。
 
1組の演し物は『オズの魔法使い』と決まった。『不思議の国のアリス』も候補に挙がったのだが、アリスの背丈が伸び縮みする所の表現が難しいという問題で候補から外した。2組は『アリババと20人の盗賊』になったらしい。
 
ヒロインのドロシーに関しては男子たちが優美絵を推薦したものの
「私また本番前に倒れたりしたら迷惑掛けるから」
と言って辞退。北の魔女役に回ることになった。そしてドロシーには絵梨が選ばれた。彼女は今年の春転校してきた子で小柄だが、卓球部に入っており、元気一杯の女の子である。体力もあるので直前に倒れたりする心配は無さそうだ。
 
「ああ、可憐(かれん)な少女が良かったのに」
と男子たち。
 
「悪かったね」
と絵梨がいうと
 
「可憐というと私みたいな?」
と170cmの杏子が言うので
「いや、那倉さんで良い」
と男子たちも絵梨で妥協した。
 
「でもドロシーってあまり可憐な少女という感じじゃ無いよ。猛獣のカリダを倒すし、西の魔女・東の魔女を倒すし、むしろ元気な女の子という感じだから、那倉さんが似合ってるよ」
と田代君は言っていた。
 

全配役はこのようになった。
 
ドロシー 絵梨
トト(犬)初枝
エム(伯母)玖美子
ヘンリー(伯父)原田
かかし 田代
木こり 高山
ライオン 佐藤
北の魔女 優美絵
西の魔女 蓮菜
東の魔女 蓮菜(二役)
南の魔女 佐奈恵
カリダ(猛獣)鞠古
オズの魔法使い 中山
オズ(巨大な顔)千里
オズ(可愛い少女)穂花
オズ(野獣)飛内
オズ(火の玉)東野
門番 留実子
羽猿:恵香、上原、工藤、小室
マンチキン:佳美、鈴木、美那、津山
ウィンキー:福川、杏子、和井内
 
東の魔女を蓮菜が二役するのは、この役は足(あし)しか見えない!という役で、誰かを独立して割り当てるのは可哀想だからである。羽猿を女・男・男・男とするのは、ドロシー一行をさらう役なので、一行が女・男・男・男という構成であることに対応している。
 
「うちのクラスって、ひょっとして新田さん以外は、みんな“元気な女の子”かも」
「それ大きい声で言うと女子たちに制裁食らうぞ」
と男子たちはこそこそ言っていたようである。それをそばで聞いていた留実子は苦笑していた。
 

「ゆみちゃん、ブラしたんだね」
と、この日、体育の時間の着替えの時に、優美絵は女子みんなから言われた。
 
「うん。昨日、旭川まで行って、お母さんと一緒に選んだ。でも何か変な感じ」
「すぐ慣れるよ」
 
優美絵が着けているのは3Sである。旭川のランジェリーショップにかろうじて1枚だけ在庫があったので、とりあえずそれを買い、あと3枚頼んでいるらしい。札幌のお店にあったので、そこから送ってもらい、今日にも届くだろうということだった。
 

また札幌で頼んだ留実子のブラは日曜日に蓮菜の家に到着していたので、この日蓮菜が留実子に渡し、更衣室で早速留実子は着けていた。みんな留実子に背中を向けて留実子がバストを露出するのを見ないようにしてあげた。
 
(千里の裸はみんな見るが、留実子の裸はみんな見ない)
 
この日は雨だったので体育館でバスケットをした。男子・女子に分かれ、体育館の半分ずつを使用する。男子は8vs8 女子は6vs6 で行った。千里は女子、留実子は男子に入っている。
 
この日の優美絵はドリブルで走って行き、シュートも決めるなどかなり活躍した。「シュート初めて入った!」と喜んでいたが、この日は結局4回もゴールを決めている(シュートは12回:結構確率がいい!彼女のドリブルやシュートは(暗黙の了解で)誰も邪魔しなかったのもある)。
 
「今日のゆみちゃん、すごい」
「なんか身体が凄く動かしやすい」
「いつもよりかなりスピードがあったよ」
「ブラジャーのおかげかもー」
と彼女は嬉しそうに言っていた。
 

留実子も男子の方で1人で30点も入れる大活躍で
「兼部でミニバスやらない?」
などと田代君から言われたらしい。
「鞠古と入れ替えで」
と田代君。
「俺と入れ替えなの?」
「鞠古は代わりに女子チームにくれてやるから」
 
授業が終わった後、留実子は更衣室で
「凄く動きやすかった。さすが300円のブラとは別物。まるで胸が無くなったみたい。これ凄くいい。劇的ビフォア・アウターだよ」
と言っていた(言葉の間違いは武士の情けで指摘しない)。
 
留実子はこのブラのおかげで、サッカーの夏の地区大会ではハットトリックを連発する大活躍。チームは準優勝することになる。
 
「春とは大違いだ」
「もしかしてとうとう性転換したのか?」
などと言われていた。
 
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【少女たちのBA】(2)