【女子中学生たちの出席番号】(2)

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千里たちが勉強会に使う部屋は、巫女控室の隣の部屋である。元々は資料室で、神道大系・全120巻などが置いてあったりするが、この後、ここには中学の参考書・問題集なども多数置かれるようになる(専用の本棚を宮司がポケットマネーで買ってくれた)。
 
そして勉強会参加組の、千里・美那・恵香・穂花の成績はあがっていくし、特にこれまで最下位争いをしていた千里と恵香の勉強の進展はめざましかった。それに刺激を受けて勉強会リーダー格の蓮菜と玖美子もレベルをあげていった。
 
勉強会のメンツ:−
常連→蓮菜・千里・恵香・美那・(小春)
準常連→玖美子・穂花・沙苗
時々→田代・留実子
 
このメンツは高校進学では、玖美子と田代が札幌の高校、他は旭川の高校に進学することになった。3年下の仁美たちも翌年からここで勉強するようになり、千里たちが旭川に移動した後は、彼女たちが中心になる。
 
この勉強会は基本的に女子だけなのだが、田代君はわりとよく顔を出し、その時は彼は蓮菜に言われてスカートを穿いていた。でも「巫女さんしてくれない?」というのは「さすがに無理〜!」と言って断っていた(ウィッグ付けたら女の子に見えないこともないと思うけど)。
 
神社側としても、女子中学生たちが神社に常駐していてくれると、手が足りない時に巫女役を頼めるので、大助かりだった。境内で遊んでいる子供たちの見守りとか、境内の掃除とかを頼まれることもあった(雪掻きはおとなの男性の氏子さんが来てやってくれる)。
 
千里がこの神社で常用することになった白竹籐巻の龍笛は、小春由来のものだが、小春も亡き先輩(1978?-1990)の遺品を使っていたもので、製造されてからどのくらい経っているかは小春も分からないと言う。翻田宮司の見立てでは昭和初期のものではないかということだった。年数が経っているので、やや音程がずれているが、気にしない!この龍笛は、いかにも安物に見えるが“千里が”吹くと、何とも素敵な音がする(小春も驚いていた)。
 
※一般的な龍笛のランク
天然煤竹>>>手造り燻竹>燻製機製燻竹>白竹>花梨>合竹>プラスチック
樺巻>籐巻>>紐巻>巻き無し
 

千里YがP神社で使用するこの龍笛は、基本的には神事のみに使用する。この少し後で、千里BがQ神社で保志絵から(事実上)もらった、天然煤竹・樺巻の龍笛も基本的には、千里がお務めした、留萌Q神社・旭川Q神社・千葉L神社・花丘玉依姫神社・越谷F神社の神事にのみ使用する。
 
千里が後にDRKの演奏やその後の音楽活動で使うようになった龍笛は、保志絵から頂いた龍笛(多分数百万)に“よく似た”燻竹・樺巻の龍笛で、東京の雅楽器店で高2の時に50万円で購入したものである。千里は基本的に神事用と音楽用は区別している(これを買う前は花梨製の5万円の龍笛で演奏していた)。
 

ちなみに中学時代、P大神は千里が勉強会もあって、放課後ほぼP神社に常駐してくれているので、大いに助かった。一方、この時期、Q大神は、千里が貴司と交際していることもあり、放課後はよくQ神社に来てくれるようになってくれて、とても喜んでいた。
 
P大神は千里がQ神社に頻繁に行っているとは思いも寄らない。
Q大神は千里がP神社にほぼ常駐しているとは思いも寄らない。
 
そしてP大神もQ大神も千里が熱心に剣道部の練習に出ていることは全く知らない!
 
P神社の千里、Q神社の千里、剣道をしている千里を全て見ていたのはA大神と調整役の小春・ミミ子だけである。但しA大神は後に北海道外での工作のためH大神(美鳳の上司)も巻き込む。
 
蓮菜は千里をあちこちで見る気はするものの、千里の“神出鬼没”は昔からだったので、あまり気にしないようにしていた。2人の千里を同時に“見る”こともないし!
 
(“見る”のでなければ、千里が傍にいるのに、千里から電話が掛かってくる程度は小学生の頃から時々あったので全く気にしてない!)
 
ただ、中学に入学した当初はこの“神出鬼没性”が酷かった。半月程度すると、落ち着いていくようになる。
 

S中標準時間割
SHR 08:15-08:25
1H_ 08:30-09:20
2H_ 09:30-10:20
3H_ 10:30-11:20
4H_ 11:30-12:20
給食昼休 12:20-13:20
5H_ 13:20-14:10
6H_ 14:20-15:10
SHR 15:15-15:25
掃除 15:25-15:40
部活 15:40-18:00(11-1月は17:00まで)
 
留萌の標準的な日出・日入(日暮)
春 5:30-17:40 (18:20)
夏 3:50-19:20 (20:00)
秋 5:20-17:30 (18:10)
冬 7:00-16:00 (16:40)
 

A大神が千里をduplicateした時、巻き添えで、その時着ていたセーラー服、履いていたミズノのウォーキングシューズ、手に持っていた青いミズノのスポーツバッグもduplicateされた。このスポーツバッグの中には上履き・体操服・体育館シューズも入っていたので、これらも一緒にduplicateされた。
 
しかしA大神は“2個では足りない気がする”というミミ子からの意見を入れて取り敢えずセーラー服はもう2度duplicateして4着にし、またミミ子に命じて体操服・上履き・体育館シューズ・ウォーキングシューズはもう2セット同じものを購入させておいた。つまりこれらは4セットあるので、各々の千里が自由に使える。腕時計については後に述べる。
 
学生服は元々2セットあった。母が通販で買ったもの(コスプレ用)と、留実子からもらったものである。母が通販で買ったものはレディスサイズなので女性型の千里でも着られるが、生地が薄すぎて着てたら多分数時間で破れる。それでこれは小春が回収。留実子からもらったものだけが残った。しかし実胸の無い敏美が着ていたものなので女性型千里(RBY)には入らない。これを着られるのは男性型千里(W)のみである。着られるのが1人だけだから1着のままでよいことにした。
 
神崎さんからもらったセーラー服は小春が使用している。静子からもらったセーラー服は沙苗に渡した(N高校の制服は自分で持っている)。
 
A大神は土曜日の段階で「千里は複数活動している」という確信が得られたので、4/13夜、千里に“内在”している小春と取引して、彼女にエイリアスを使う能力を与えた。それで小春は千里の体内から、エイリアスを出して、自分用に確保していたセーラー服を着て“千里たち”のサポートをしている。
 
(4/7-9日の千里の夢の中で小春は「私には肉体は無い。この身体はエイリアス」と言っているが、それは4/12以降のことであり、千里と合体するまでは小春は肉体を持っていた。でないと千里の卵巣・子宮を育てられなかった)
 
4/14に小春が最初にやったのが、全員に“目印”を付けることだった。
 
C2(千里2:女の子)と思われる個体に赤い玉の髪ゴム、
C1(千里3:男の娘)と思われる個体に青い玉の髪ゴム、
Cd(千里0:男の子)と思われる個体に白い玉の髪ゴムを渡し、
C1p+K(千里1:一応自分が入っているから分かる)には黄色い玉の髪ゴムを渡した。
 
8:15 写真撮影に行くCd(on C2)に白い玉(W)
8:28 教室に戻るC1p+Kに黄色い玉(Y)
11:22 英語の時間に、C1に青い玉(B)
14:40 部活に行くC2に赤い玉(R)
 
これ以降、しばらくの間、千里たちはこの髪ゴムの玉の色で区別できた。これを小春は千里R(Red), 千里B(Blue), 千里Y(Yellow), 千里W(White)と呼ぶことにした。唯一の男の子であるW(White)の裸は絶対に誰の目にも触れさせてはいけない。千里にちんちんがあってはならないのである!
 
なお、Wは魂が無いので、実は他の3人の誰かが中に入って動かしている。それでWとしては行動につながりが無い。要するに、千里Wには
 
千里W/千里R (White on Red = Pink)
千里W/千里B (White on Blue = Aqua)
千里W/千里Y (White on Yellow = Lemon)
 
の3種類がある。(略してW/R, W/B, W/Y と呼ぶ)
 

朝早く起きて、体操服を着、母と一緒に学校に行ったのはC1p+K(千里Y)だが、1時間目以降の授業を体操服で受けたのはC1(千里B)である。Bは1日ずっと体操服で授業を受けたが、体育の時間の後、うまく乗せられてセーラー服を着た。
 
遅く起きてセーラー服を着、Yが忘れていった定期券を使ってバスで遅刻ギリギリに登校したのがCd(千里W)だが、意識はC2(千里R)だった。つまり千里W/R (Pink)である。この子は千里R (Red)と記憶が連続する。この子がセーラー服で生徒手帳の写真を撮影された。
 
小春は教科書の受け渡しで混乱が生じないように、千里W/Rが受け取った教科書を朝の会に出た千里Yにリレーした。ところが教室に戻る途中Yは消えてしまい、仕方なく小春が教科書を持って教室に戻ると別の千里(千里B)がいた。それで1時間目以降はBが授業を受けている。
 
Bはお股が女性型だし、性腺は無いもののバストはあるので、女子の前で裸になっても全く問題はない。
 
3人の千里の中でY(C1p+K)だけが胸が無い(シリコンパッドを入れている)ので、この子は上半身裸にならないよう気をつける。ただこの子は中学3年間で結構胸が発達した。
 

夕方、印刷屋さんに学生服で行って写真を撮影されたのはCd(千里W)なのだが(学生服を着られるのはWのみ)、中身は千里Yで、つまり千里W/Y (Lemon) である。朝のホームルームで千里Yが言われた記憶が引き継がれている。つまりセーラー服写真(W/R)も学生服写真(W/Y)もどちらも“外身”は千里Wであった!
 
その後、千里Y(千里1)は、女の身体に戻って(Lemon->Yellow) P神社に行き、龍笛を吹いた。
 
蓮菜と一緒に沙苗の見舞いに行ったのは、1時間目の後、蓮菜と見舞いに行く約束した千里B(C1)(千里3)である。
 
剣道の練習に出たのはC2(千里R:千里2)で、沙苗を女子として受入れる方向という話を教頭から聞き、玖美子と明日沙苗の見舞いに行く約束をした。朝教頭と話したのは千里W/Rなので、記憶が継続していた。Rは自分が受取った教科書一式を結局自分で持ち帰ることになった。
 

通学用リュックはYが持って出たが、帰りに使用したのは教科書を持ち帰ったRである。デイパックはRが持って出て、帰りはBが持ち帰った。このあたりの荷物の誘導は小春がしている。
 
小春のリクエストに応じて、A大神はミミ子に命じて同じタイプの通学用リュックを2個買い足して3個にし、火曜以降は3人が各々使用できるようにした。教科書とノートは Alias を2セット作った。つまり、教科書・ノートも3人が各々使用できるが、書き込みなどが連動する。定期券は1人の人物が複数の定期券を買うのは不審がられるので、学期ごとに作業が必要になり面倒だがこれもAliasを2つ作った。
 
A大神は
「千里は三つ子ということにしてしまった方が楽だった」
などと、ぶつぶつ言っていた。
「名前は千里・万里・億里とかでどうかね?」
「ちさと・まりはいいですが、億里はちょっと・・・」
 
スポーツバッグは最初千里をduplicateした巻き添えでミズノの青いスポーツバッグが2個できていた。これを仮に青1・青2とする。
 
最初に起きた千里Yが青1を持って出掛けた。Yは朝の会が終わった後消えてしまって、青1は教室に残された。遅く起きた千里R(W/R)は学生服を青2に入れて出掛けた。青1にも青2にも上履きと体育館シューズが入っていた。W/Rも写真撮影の後消えてしまったので小春はこの青2を回収し、学生服は取りだして代わりにセーラー服を詰め、これを体育の後の着替えの時に千里Bに渡した。千里Bはこれを持って蓮菜と一緒に下校し沙苗のお見舞いに行った。
 
教室に残っていた青1は小春が回収し、以前から使っていた赤いスポーツバッグに詰め替え、道着と袴・手ぬぐいも入れて部活に行く千里Rに渡した。
 
小春はミミ子に頼んでスポーツバッグをもう1個(黄色のアディダス)買ってもらい、翌日以降は、できるだけRに赤(ノーブランド)、Bに青(ミズノ)、Yに黄色(アディダス)を使わせるように誘導することにした。
 
千里Yは(小春に頼まれた)小町から月曜の夕方「スポーツバッグもらっちゃったから、千里、使って」と言って黄色いアディダスのスポーツバッグを渡されたので、何の疑問も持たずにそれを使用した。
 
村山家では洗濯は主として千里がするが千里はこの後
「なんで私の下着やブラウス、こんなに多いの?」
と思うことになる(でもすぐ気にしなくなった)。
 
ちなみにブラウスはミミ子に7枚買ってきてもらい、下着やソックスもかなり買い足してもらった。
 

このようにして何人もの千里が出没したし、道具なども買い足したりしていたので、小春は目が回る思いだった。各々の千里は唐突にどこかに出現し、どこかで唐突に消える。千里の出現位置については、ミミ子さんが脳間通信で小春に教えてくれている。
 

 
※ミミ子さんが推測した千里の出現規則
 
(仮説1) 同時に現れるのは最大3体(魂は3個だから)
(仮説2) 男の子は最大1ヶ所(男の子の身体が1つしか無いから)
(仮説3) 3体の千里はお互いに恐らく30m程度以内には近づけない
 
(仮説4) RとW/R, BとW/B, YとW/Y は各々同時には現れない(中身が同じだから)。記憶も各々で連続している。
 
(検証中) 持ち物は3人の中身に連動するが、衣服や髪飾りは4つの身体に連動する。
 
自転車に乗って印刷屋さんを出たのは学生服を着たW/Yだったのに、自転車で神社に到着したのはセーラー服を着たYだった。運転中に男の子から女の子に性転換した?(仮面ライダー1号か?)
 
(不確か) Wも含めて4人は体液を共有している。その結果恐らくこの後Wは女性化していく。Rの女性ホルモンが強いので、今は胸が無いYも恐らく急速に胸が発達する。
 
(不確か) 3人は神経系統・大脳的記憶は各々独立しているが、休眠中の個体は、稼働中の個体の言動や体験を夢でも見ているかのように、うっすらと記憶している。
 
(不確か) 運動能力・演奏能力などの小脳的記憶は、共通とはいかないがかなり影響し合う。どれか1つが練習することで他の子もその能力があがる。
 
基本的にP神社に行くのは黄色(C1p+K:千里1)でこの子だけが携帯電話(小春が使っていたもの:番号を知っているのは蓮菜・小町・翻田宮司だけ)を持っている。貴司と恋人になりバスケ部に入って5月以降Q神社に頻繁に行くのは青(C1), 剣道部に入ったのは赤(C2)である。
 

千里の慌ただしい登校1日目が終わり(慌ただしかったのは小春!そしてそれをサポートしたミミ子!)、4月15日(火)となる。この日は千里は最初からセーラー服を着て、家を出た。母が
 
「あんた、その服で通学するの?」
と言ったが、千里は
 
「だって女の子だもん」(小鳩くるみ風に)
と言って、堂々と出掛けるので、母も「まいっか」と思った。母も神崎さんからセーラー服を頂き、千里が「これで通う」と主張していたことを思い出していた。
 

火曜日・6時間目の授業は学活に振り替えられ、身体測定・内科検診等が行われた。
 
先に女子が行われるということで男子はその間自習である。
 
女子がみんな席を立ち、ぞろぞろ出て行く。千里が「どうしよう?」みたいな顔をしていたら、田代君が気付いて
「村山さん、女子は身体測定に行って」
と言う。
 
蓮菜も気付いて戻って来る。
「こら、まだおかしいみたいだな。来なさい」
と言って、千里を強制的に女子の身体測定に連行した。
 

「私、女子と一緒でいいのかなあ」
と千里は保健室に向かいながら、まだ言っているが
 
「少なくとも男子と一緒にはできん」
と恵香に言われる。
「千里ちゃん、小学校の時も女子と一緒に身体測定してたじゃん」
と優美絵にまで言われる。
 
「そういえばそんな気がして来た」
 
保健室に入り、セーラー服、ブラウスを脱ぐ。下着はそのままでいいと言われた。千里は少しドキドキしながら、服を脱いだのだが、千里は蓮菜に後から首に抱きつかれ
 
「この下着姿を見れば、千里が女子と一緒でいいことは明白」
と言う。
 
「千里、また少し胸が大きくなっている」
と美那からも言われた。
 
N小の2組だった尚子も
「千里ちゃん、凄く女らしい体型になっている」
と感心したように言った。
 
なお、この日の千里は赤い玉のついた髪ゴムをしていた。
 

さて、小学生時代は、千里は“女子の先頭”で測定されていたのだが、中学では特別扱いとかはされていないので、普通に出席番号の順で測定された。千里は出席番号31で、クラス委員の(広多)侑果(No.30)の次である。
 
身長・体重を保健室の清原先生が計って読み上げ、それを保健委員の玖美子が記録する。
 
その測定の後は、そのままパーティション・カーテンの向こうに行き、女性のお医者さんの診察を受ける。先生は下着の上から聴診器を当てて診察してから
「生理は順調に来てますか」
と千里に訊く。
「えっと・・・」
と千里が言いよどむと、玖美子がカーテンの向こうから声を掛けた。
 
「千里、手帳を確認しなよ」
「手帳?」
「千里、手帳に生理が来た日にマーク付けてたじゃん」
「そうだったっけ?」
 
それで千里は昨日もらったばかりの生徒手帳ではなく、今年のダイアリーを取り出すと、開いてみた。3月24日の所に赤いマークが付いていた。
 
「ちょっと見せてもらっていい?」
と医師が言う。
「どうぞ」
 
医師が見ると、3/24の前は、2/24 1/27 12/29 に赤いマークがついている。医師はそれを見て
 
「けっこうきれいに来ているね。だったら来週くらいに次の生理かな」
と言う。
 
「あ、そうなるのかな」
とは言ったものの、千里は、私、生理とかあるんだっけ?と疑問を感じた。
 

でもそれで千里は解放されて、屋外に駐められているレントゲン車に入った。
 
中井亜美(29)と広多侑果(30)が順番待ちをしている。待っている内に千里(31)の次の横田尚子(32)が来る。撮影室から戸口萌花(28)が出て来て、代わって亜美が中に入る。萌花(N小2組出身)は服を着るが、服を着ながら千里の下着姿をじっと見ていた。千里は何だろう?と思った。
 
その内、玖美子もこちらに来る。玖美子は保健委員だったので結果的に最後になった。やがて千里の順番になって、中に入る。
「妊娠しているか、あるいはその可能性がありますか?」
と技師さんから訊かれる。
 
「大丈夫です」
「じゃ撮影していいですか?」
「はい。お願いします」
 
それで撮影されて撮影室から出る。代わって尚子(彼女もN小2組出身)が中に入る。残っている玖美子は言った。
 
「千里、たぶん高熱が続いた後遺症だと思うけど、なんか色々なこと忘れている」
「自分でもそんな気がして来ている」
「これあげるから、後でよくよく見なよ」
と言って、玖美子は写真アルバム?を千里に渡した。
 
「嘘!?私が女の子の服を着てたくさん映ってる。でもページ数あるね。プリントしたの?」
「USBメモリで渡したほうが楽だけど、千里の静電気で壊れるから」
「私、だいぶ家電品とか壊してる」
「それは覚えてるみたいだね」
 

6時間目の後半は女子が教室で自習(おしゃべり!)で男子が測定・健診に行った。
 
男子が全員戻って来た所で、(男子の保健委員の連絡で)担任の菅田先生も来て、早めの帰りの会があり、その後、教室の掃除をした。
 
「千里、練習に行くよ」
と玖美子が声を掛ける。
 
「うん」
と赤い髪ゴムの千里は答えた。
 
更衣室に向かいながら話す。
 
「だけど、沙苗が女子の方に参加してくれると、こちらとしては凄く嬉しい」
と玖美子は言う。
「女子としては、いい練習になるよね」
「本人はもっと強い子とやりたいかも知れないけど」
「まあ男子“とも”練習するのは自由」
「確かに」
 
「鐘江さんは残念がってたけどね。今年の新一年生の男子で1級持ってるのは、沙苗だけだったからさ」
「沙苗は男子としては腕力無いから、それを技術で補ってた。だから型とかもきれいで1級取れたんだよ」
 
「なるほどー」
 

S中の部活の時間は18時まで(11-1月は日が短いので17時まで)だが、剣道部はあまり遅くまでしないので17時すぎには切り上げる。2人はその後、一緒に買物をしてから、&&病院に行った。ところが、沙苗はさっき退院したということであった。
 
「ありゃ」
 
玖美子が自分の携帯で沙苗の自宅に掛けるが出ない。どうも移動中のようである。それで玖美子は
「あまり携帯にまでは掛けたくないんだけど」
と言いながら、沙苗のお母さんの携帯に掛けた。
「ああ。自宅に戻る所なんですね。じゃ私たちもそちらにお伺いします」
 
ということで、千里と玖美子はバスでC町まで行き、沙苗の自宅を訪れた。
 

「元気そう」
と玖美子は言う。
 
4/6以降で彼女の姿を見るのは玖美子は初めてである。なお、昨日蓮菜と一緒にお見舞いに来たのは、千里Bなので、今日玖美子と一緒に来た千里Rも実は4/6以降初めて沙苗を見ている。
 
沙苗はまだ万全ではないのかマスクをしていたものの、目から分かる表情は活き活きとしていて、結構元気そうだ。
 
「私はわりと元気だったんだけど、念のためと言われて今日の退院になった」
と本人は言っている。
 

「これ私たちからのプレゼント」
と言って、玖美子は沙苗に白い道着と袴のセットを渡した。
 
「わぁ」
 
剣道では、特に規定がある訳ではないが、男子は紺色、女子は白の道着を使用する人が多い。N小剣道部でも、(沙苗を含めて)男子は紺、(千里を含めて)女子は白を使用していた。
 
「すみません。結構お値段するのに」
とお母さんが言うが
 
「ジャージ製の安物ですから」
と玖美子は答えた。
 
実際にはセットで4800円だったので、千里と玖美子が2400円ずつ出している。お小遣いがわりと豊かな2人だから出せた。
 
「小学校の時も白を着ても誰も何も言わなかったのに」
「なんか切り替えるのが恥ずかしくて」
 
「洗い替えは自分で買って」
「うん。ありがとう」
 
ジャージ製の道着・テトロン製の袴は乾きも早いので、帰宅してからすぐ洗濯して、暖房の入っている室内に干しておけば朝までには乾いてくれることが多い。それで千里も4年生の頃は1セットだけでやってた(5年生になってから新しいのを買い、昨年使っていたのを予備に回した)。
 

沙苗・千里・玖美子は、沙苗の部屋に行って色々話した。
 
この部屋は“女の子の部屋”だなあと千里たちは思った。カーテンとかも可愛い柄のだし、勉強机はピンク基調の女の子仕様で、棚にシルバニアン・ファミリーが飾られている。ベッドにはパンダのぬいぐるみが転がっている。ドレッサーもあり、ドライヤーとかも置かれているが、それらが新品ではなく、結構使い倒されている感じなので以前から使っていたものであることが分かる。本棚には少女漫画が多い。
 
玖美子は剣道部の内部で話していたことを沙苗に伝えた。
 
「だいたいの件は、お父さんと教頭先生の話で聞いてるだろうけど」
と前置きをした上で玖美子は、藤田部長や岩永先生から伝えてくれるよう頼まれた細かい問題をメモを見ながら話した。
 
「女子と一緒に着替えてというのは、昨日も千里とは話したけど、嬉しい半面不安もある」
と沙苗は正直な気持ちを打ち明ける。
 
(昨日話したと言われて千里はキョトンとしている)
 
「神社で巫女さんする時は、女子と一緒に着替えてるじゃん」
「そうだよね!同じだよね」
「下着交換する時はトイレで交換すればいい」
「さすがにそれはやばいよね、私、胸無いし」
 
下はいいのか??
 
大会では男子のほうに出てというのも納得していた。
 
「そうだよね。性転換手術とかでもしないと、女子としては出られないだろうね」
 

「そういうのって、性転換手術を受けたら女子の部に出られるようになるんだっけ?」
と玖美子が訊く。
 
「その点は新しい基準ができるのではという噂がある」
と千里は言った。
 
「元々スポーツ界で性別検査とかするようになったのは、第二次世界大戦後の冷戦時代に、共産国で、性別の曖昧な選手を女子として出場させて、いい成績をあげようとしていたからなんだよ」
と千里(?)は説明する。
 
「へー」
 
「それに対して西側諸国は、女子選手に染色体検査を要求して、確かに女子なのかというのを確認しようとした」
 
(セックスチェックは1968年から行われ、当初、女子選手に裸で行進するよう求めたが(歩けばペニスを隠してても飛びでてくるだろうという発想)、女性側からの強い抗議により、すぐに染色体検査に切り替えられ、同年のメキシコ五輪から実施された。1968年以前にも怪しい選手には医学的な精密検査が行われ、女子選手としての資格が剥奪されたケースが数例ある。彼らは残っている写真で見る限りは男にしか見えない)
 
「でも冷戦が終結して、染色体検査は1996年アトランタ・オリンピックを最後に廃止された」
と千里(ほんとに千里なの?)は言う。
 
「廃止されたんだ!」
 

「それに代わる新しい性別確認の方法を、2000年シドニー・オリンピックを前に提示するのではという話もあったんだけど、シドニーでは見送られた。でも来年のロンドンオリンピックまでには新基準が出るのではないかという話。IOCが新しい基準を提示すれば、各競技団体、更にはIOCに入っていない競技でもそれに準じた基準を出すんじゃないかと思う。だから、沙苗ちゃんはいづれ性転換手術を受けてから、女性剣士として大会に出られるようになる可能性もあると思う」
 
と千里は言った。玖美子はこの手の話は知らなかったようで、感心していた。でも何か普段の千里と口調が違う気もした。
 
(実際はミミ子が千里に憑依して話している!千里は巫女体質なので簡単に憑依できる)
 
「千里の場合は、半陰陽ということにして、性別を訂正したからね。その場合は最初から女子だったということになるから、何の問題もなく女子の部に出られるんだけどね」
と玖美子は言っている。
 
なんか私の性別のことは、みんな適当に噂してるなあと千里はこの時、思った。
 
実際には玖美子はN小剣道部顧問の角田先生から、千里の性別が法的に女に訂正されたことを聞いていた。N小の同級生で、千里の性別訂正を知っていたのは、実は玖美子と、クラス委員をしていた蓮菜の2人だけである。そしてこの2人には4/10の“記憶操作”が利かなかった。千里が「女の子に戻る」ための手がかりになるよう、小春がこの2人をガードしたのである。
 

沙苗は、今日、顔のむだ毛の脱毛をしてもらったことを2人に話した。
 
「顔の脱毛したんだ!」
と千里も玖美子も驚いた。
 
「うん。実は私。入院している間、顔の無駄毛が伸び放題になっててさ」
「ああ」
「10日(木)に意識取り戻したから、自分で剃ろうと思ったんだけど、お母さんが、剃るのちょっと待ってと言って」
「うん」
 
「伸びているのちょうどいいから、これ脱毛してもらおうよと言って。それで主治医の先生に相談したら、体力回復しているみたいだし、その方が精神的に安定するだろうからというので、病院内の美容外科でレーザー脱毛してもらった。実はマスクはその跡を隠すためなんだよ」
 
「そうだったのか!」
 
彼女は
「あまり人に見せられるものではないけど」
と言って、マスクを取って、レーザー脱毛の跡を見せてくれた。
 
「なるほどー。これはこれが治るまでは学校に出て来られない」
「その間、自宅療養ということで」
 

その日帰宅してから、千里(千里Red)は玖美子にもらった“写真集”を見ていた。
 
合唱サークルの制服を着た自分がいる。白雪姫の衣裳を着けた自分、運動会でチアの衣裳を着けた自分、鼓笛隊でスカートを穿きファイフを吹いている自分、振袖を着ている自分、その他多数の女の子の格好をした自分がそこには居た。
 
「私、こんなに堂々と女の子してたんだっけ?」
 
千里はひとつひとつの写真を見ている内に、色々な思い出が蘇ってきた。
 
「やはり私、3日間高熱が続いたので、記憶障害が出たのかも。私ここまで小学生の時に女の子してたのなら、中学ではもっと堂々と女の子していいのかなあ」
 
と千里(千里R)は考えた。
 

火曜日(登校2日目)の夕方、“学生服を来た”千里(当然Wだが、中身はB)が帰ろうとしていたら、学校の若い事務員さんから呼び止められた。
 
(この日、玖美子と沙苗に会いに行ったのは千里R)
 
「村山千里さんですよね?」
「はいそうです」
「あなたの生徒手帳が出来上がって、今届いたのでお渡ししますね」
「わあ、ありがとうございます」
と言って、千里は受け取る。
 
歩きながら手帳の中身を確認した。学生服を着た自分の写真がプリントされている。性別も男と印刷されている。それを見て千里は溜息をついた。
 
「まあ法的に男なのは仕方ないけど、自分の気持ちの上で女だったらいいのよ」
と千里はひとりごとを言い、バス停に向かった。
 
「でも私、いつこんな写真撮ったんだっけ?」
と考えてみたが、自分の行動に記憶がないのはいつものことなので、気にしないことにした。
 
(学生服を着て印刷屋さんに写真を撮りに行ったのはW/Y なのでBはそれを知らない)
 

バス停で留実子と遭遇する。
 
「あれ?千里、学生服を着てるんだっけ?」
と留実子が言うので
「るみちゃんは、セーラー服着てるんだ?」
と言う。
 
「これ着るのは不愉快なんだけどねー」
「私もこれ着るのは不愉快」
 
「まあお互いに6年間は我慢するしかないね」
「お互いにね」
 
と言って、千里と留実子は慰めあった。
 
ということで、留実子は学生服を着た千里を目撃した第2号になったのである。
 

「そういえば、るみちゃんはサッカー部に入ったんだっけ?」
と千里が訊くと、留実子は
「それがさぁ」
と言って、先週あったことを話してくれた。
 
最初男子サッカー部に入れてもらおうとしたものの
「女子は女子サッカー部に入って」
 
と言われた。しかし女子のサッカー部があまりにも弱かったことから1日で退部した。S中の女子サッカー部がそこそこ強かったら、留実子はサッカー選手になっていたかも知れないし、ひょっとしたらサッカーの女子日本代表になっていたかも知れない。
 
しかしこれで結局留実子はサッカーの道を断念することになった。
 
そして応援団に行ったら、最初は
「女子はチア部に入ってよ」
 
と言われたものの、留実子がウィッグを外して五分刈りの頭を見せ、その場で!セーラー服を脱いで(下には男物の下着を着けている)学生服を着て
 
「フーレーー!フーレーー!、S・中!」
と大きな声で応援の仕草をすると
 
「お前、なかなかやるじゃん」
と先輩たちに気に入られた。
 

N小出身の子たちが
「花和はいつも応援の大太鼓叩いてましたよ」
と言うので、叩かせてみると、実にしっかり叩く。
 
「花和は実はチンコあるという噂もあります」
などと言う元同級生もある。
 
それで留実子は“名誉男子”と言われて、応援団への入団を認めてもらったのである。
 
「でも次からは、セーラー服から学生服に着替える時は、ズボン穿いてからスカート脱いでくれない?」
と先輩は“順序”について言った。
 
「はい、そうします!」
 
「でも花和はN小男子サッカー部でも普通に他の男子と一緒に着替えてましたよ」
と同級生だった飛内君が言う。
 
「へー。凄いね」
 

「でも花和にHなことしようとした男とかいないの?」
と先輩が訊くと
「そいつは男をやめましたよ」
と飛内君。
 
「あはは」
 
「僕はスティール缶握り潰せるから、男の睾丸でも握り潰せるかも」
と本人も言っている。
 
「それ実績があるのね?」
「なんかスカート穿いて転校してった男はいたけど」
「あはははは」
 
この後“金玉潰しの花和”という凄い異名が付くことになる!
 
そういう訳で、留実子は中学3年間は基本的に応援団に籍を置き、千里から頼まれて大会の時だけ(女子)バスケットの助っ人をするようになるのである。
 

留実子とはバスをC町で降りた後も、しばらくその話をしていた。
 
「じゃ応援団で頑張ってね」
「うん、ありがとう」
 
と言って、別れる。しかし留実子と別れてすぐ、この千里(千里W/R)は消滅した。そしてその瞬間、神社近くにセーラー服姿の千里Yが現れ、神社でお勉強会(この日の出席者は恵香と美那と千里の3人:成績の良い美那が先生役になる)に参加しつつ、何度か巫女さんの仕事もした。この日は恵香が居たので、恵香に笛を吹いてもらい、千里は太鼓を打った。
 
小春は勉強会に少し顔を出すと、千里(千里Y)に
「千里、生徒手帳の出来上がってたのを預かってた」
と言って手帳を渡した。
 
「ありがとう」
と言って受け取る。(昨日千里Rが受け取ったものの"Alias":つまりこの手帳に記入した内容はRの手元にあるものとYの手元にあるものが連動する)
 
「見せて見せて」
と恵香と美那が言うので見せたが、
「おお、ちゃんとセーラー服で写っている」
と言って、恵香と美那が喜んでいる。
 
「ちゃんと性別も女と記載されているね」
「ほんとだ」
と千里は不思議がっている。
 
「写真撮影は学生服を着てしたのに、どうしてセーラー服姿なんだろう」
などと千里が言うと
 
「千里の身体に合う学生服が存在する訳が無いから、それは何かの夢か幻覚だな」
と恵香に言われた。
 

4月17日(木).
 
1年1組では4時間目・道徳の時間が自習に切り替えられ、数人の生徒が職員室に呼ばれたが、実際に職員室に行くと、隣の会議室に入れられた。集められたのは下記である。
 
クラス委員の侑果と田代君、生活委員の蓮菜、保健委員の玖美子と瀬戸君、体育委員の優美絵、美化委員の美那、図書委員の亜美、放送委員(になってた!)の千里。つまり何かの委員になっている女子7人および男子のクラス委員・保険委員である。
 
担任の菅田先生(男性)、学年主任の福井先生(男性)、保健室の清原先生(女性)、体育の広沢先生(女性)、そして教頭の山口先生(女性)という5人の先生が並ぶ。
 
「実は入学式の日以来休んでいる原田さんのことなんですが」
と教頭先生が言う。
 
「入学式前夜に倒れて病院に運び込まれ入院していたのが一昨日やっと退院できたんですよ」
 
「良かった」
という声が多数あがる。千里・蓮菜・玖美子は知っていたものの、他の子と同様に喜びの声をあげた。
 

「それで小学校の頃から、原田さんを知っていた人は、あるいは知っていたかもしれないけど、原田さんは戸籍上は男性だけど、精神的には女性なんですよ」
 
「それ、いわゆるオカマってやつですか?」
と瀬戸君が尋ねるが
「オカマというのは差別語だから使わないようにしよう」
と清原先生が言う。
 
「そうだっけ?割とテレビでオカマタレントが自分で『私オカマよ』とか言ってない?」
 
玖美子が解説した。
「背の低い子がさ、自分で『私チビだから』と言うのは問題ないけど、他人が背の低い子に『おい、チビ』とか言ったら、侮辱してるでしょ?」
 
「なるほどー!」
と瀬戸君も納得していた。
 

「それで彼女が体調を崩したのには、中学になると、男子は髪も短くして男子制服を着なければならないというのがあって、それが物凄い精神的なストレスになって体まで変調が来たのもあったようなんですよ」
と教頭先生は説明する。
 
千里も蓮菜も玖美子も、さすがに家出したことまでは話さないんだなと思った。しかしそれよりも瀬戸君は
「“彼女”と呼ぶんですね」
などと言っている。
 
「法的な性より、心の性別が大事だからね」
と教頭が言う。
 
「へー、そちらが優先なんだ?」
 
「サッカーで言うと、レンタル移籍みたいなもんだよ」
と玖美子が言う。
 
「例えばジュビロからコンサドーレにレンタル移籍されてる選手は法的にはジュビロの選手かも知れないけど、実際のゲームとかではコンサドーレの選手として扱われる。こういう子の場合は、男から女にレンタル移籍しているようなものだから、彼女と呼ぶ方が適切」
 
と玖美子は説明した。スポーツウーマンの玖美子らしい説明の仕方だ。
 
「ああ」
「そして、レンタル移籍だったのが、その内完全移籍してしまうことも多い。つまり法的にも女になってしまう場合もある」
 
「確かに、外国では性転換して法的にも女になれる国もあるらしいね」
「日本でもそうなりそうだよ」
「そうなんだ!」
と瀬戸君。
 

瀬戸君の存在はここでは多くの男子の感覚を代表してるなと玖美子は思った。もうひとりこの場に出て来ている男子・田代君の場合は、ずっと千里と関わっていたのもあるだろうけど、こういう問題に理解がありすぎる。
 
教頭先生は言った。
 
「それで学校側では御両親との話し合いの結果、原田さんは女子生徒として学校に受け入れることにしたので、ぜひみんなには協力してほしいのです」
 
反応を観察すると、どうもクラス委員の2人は先に話を聞いていた風だ。
 
「名前も正式に改名して法的に“さなえ”という女性名になったんですよ」
「名前も変えたんですか!」
と多くの子が驚いていた。
 
でも優美絵などは
「もっとも小学生時代から、みんな“さなえちゃん”と呼んでたね」
と言っている。
 
「へー」
 
「女の制服着るんですか?」
と瀬戸君が質問する。
 
「うん。S中指定のセーラー服型の女子制服で通学する。オーダーすると時間がかかるんだけど、卒業生の女子で譲ってくれる人があったので、それを着用することになった」
と教頭先生。
 
「あの子、よく女の子の服を着てきてたけど、普通に女の子に見えてたよ。巫女さんの衣裳を着て巫女舞してるのとか、振袖着てるのも見たことあるけど、何も違和感無かったし」
と蓮菜が言う。
 
「振袖を着れるって凄いね」
と亜美が言っている。
 

「卒業式もスカート穿いてたし」
 
「あれ?沙苗はセーラー服着てなかった?」
「私服のスカートだったと思うけど」
「え?学生服じゃなかったんだっけ?」
「あの子が学生服を着ることはありえない」
「あれ〜?」
 
「ほら、この写真」
と言って、蓮菜が卒業式の写真を取りだして、みんなに見せて、
「この子が沙苗」
と言って、指さした。
 
「へー。黒いスカート穿いてる」
「女の子にしか見えない!」
「でしょ?」
「セーラー服着るかどうかで少し揉めてて、卒業式には間に合わなかったんだよ」
「なるほどー」
 
などと言っていたら、千里が
「あれ〜?私がセーラー服を着てる」
などと言うので
 
「君はウェディングドレスではなかったようだね」
などと蓮菜が言った。
 
ここに居る千里は千里Yなので、玖美子が作ったくれた“写真集”を見てない(写真集を見たのはR)
 

「トイレも女子トイレですか?」
「それで問題無いよね?」
と教頭先生がむしろ、蓮菜の顔を見て言った。
 
「あの子、結構女子トイレに連れ込んでたけど、女子トイレの列に並んでいても全然違和感無いですよ」
と蓮菜が言うと
 
「列って?」
と瀬戸君が尋ねる。
 
「女子トイレは混むから、必ず待ち行列ができるんだよ」
と田代君!が解説してる。
 
「へー!そうなんだ」
と瀬戸君は驚いている。
 
普通の男子は女子トイレの列なんか見たことないから、知らない子もあるんだろうなと千里は思った。田代君は蓮菜からさんざん教育されているので、こういう“女子文化”に明るい。
 

「彼女は小学校の時は男子トイレ使ってたけど、個室しか使ってなかった。少なくとも小学1年生の時以降、原田さんが小便器を使っている所を1度でも見たことのある奴が存在しない」
と田代君は言う。
 
「幼稚園の時は?」
「あの子、幼稚園は行かなかったんだよ。たぶん男の制服を着て、男子トイレ使えと言われるのが、嫌だったんだと思う」
と千里は言った。
 
「小学校に入学してからも、だいぶ職員室そばの男女別が無い多目的トイレを使ってたけど、どうも叱られたみたいで、男子トイレに来て個室を使うようになった。でも最初の頃、男子トイレに入るのが恥ずかしそうにしてた」
 
「心が女の子なんだから、男子トイレには入りたくないよ」
「なるほどー」
 

「更衣室はどうするんですか?」
と瀬戸君が尋ねる。
 
「私は個人的には女子更衣室で問題無いと思う」
と蓮菜が言う。
 
「小学校の時はどうしてたの?」
と亜美が尋ねる。
 
「一応男子更衣室を使ってたけど、黒板の陰(かげ)で、他の男子からは見えないようにして着替えていたよ」
と田代君が言う。
 
「女子更衣室に行ったら?と言ってたんだけど、本人、そんなことしたら叱られないかと怖がってたみたい」
と田代君は追加する。
 
「剣道の大会とかではトイレで着替えてたみたい」
と玖美子。
 
「でも巫女舞とかする時は、普通に他の女子と一緒に着替えていたよ」
と千里が言う。
 
「他の女子と一緒に着替えられるんだ!」
 
「私は実は原田さんの下着姿を見せてもらったんですが」
と教頭先生(女性)は言う。
 
「他の女子と一緒でも問題無いと思いました。それで更衣室は女子更衣室の使用を許可することにしました」
 

「でも女と一緒に着替えてて、チンコ大きくなったりしたら、問題無い?」
と瀬戸君が質問する。彼の存在は本当に便利だ。多くの男子が危惧する問題をきちんと指摘してくれる。
 
「この件は、とても微妙な個人情報なので、言いふらしたりはしないで欲しいのですが、彼女のペニスは元々勃起能力が無かったそうです。小さい頃から、一度も大きくなったことは無いそうです」
と清原先生。
 
「へー」
 

「巫女舞の着替えの時に見た感じではあの子の下着姿は、バスト未発達の女子という感じだよね。ウェストの細い女性体型だしね」
と優美絵も言う。
 
「パンツが少し膨らんでるけど、それが大きくならない感じ?」
「いや、そもそもパンティーは膨らんでない。まるで何も付いてないように見える」
と蓮菜。
「それもしかしてちんこ取っちゃったとか?」
 
「どうだろう?誰もあの子のちんちんは見てないみたいだし」
と美那。
 
「私は、あの子、こっそり、ちんちんも切っちゃったんだと思ってたなあ」
などと優美絵は言っている。
 
「ちんこ無いのなら、完全に女子扱いでいいかなあ」
と瀬戸君。
 
「本人はペニスの有無は聞かないでと言っているけどね」
と清原先生。
 
「それって本当にチンコ無いのでは?」
「どうなんだろね。あの子の裸を見たことのある男子も女子も存在しないから」
「修学旅行でお風呂とかは?」
 
「あいつ、夜中にひとりで入りに行ってた。男風呂に入ったか女風呂に入ったかは誰も知らない」
と田代君。
 
「それきっと女湯に入ったんじゃない?」
と瀬戸君。
 

そういうわけで、先生たちの話は、沙苗は明日から登校する予定だが、基本的に女子生徒として扱うので、みんなにぜひ彼女を女子として受け入れて欲しいということ、また彼女が女子として学校生活を送れるように、できたらサポートして欲しいということだったのである。
 
「写真で見る限りは女にしか見えないけど、取り敢えず本人見てみたいな」
と瀬戸君は言っている。
 
「まあ本人見たら、この子は女でいいだろうと思うと思うよ」
と蓮菜は言っていた。
 
沙苗は男装していると一応男に見えるが、女装の時は女にしか見えないからなあと千里も思った。
 

木曜日の帰りの会で、クラス委員の田代君と侑果から
「席替えをします」
という発表があり、黒板に新しい座席表が張り出される。実は4時間目に話合いの後で、そこに集まっていたメンツで協力して模造紙に書き上げたものである。
 

 
「なんで原田君の席を女子の並びに移動するの?」
という質問があるので、クラス委員の侑果が
 
「原田さんは女の子になったそうです」
と言う。すると
 
「うっそー!?」
という声があがる一方で、沙苗を知っていた子たちからは
 
「ああ、とうとう性転換したか」
「本当に髪切る代わりにチンコ切ったのか」
「でも女子中学生になれたのなら良かったじゃん」
「性転換手術を受けるのに休んでたのかな?」
 
などと理解(?)する声があがっていた。ついでに
 
「セナちゃんはまだ性転換しないの?」
などという声まであがって、本人は恥ずかしがるような顔をしていた。
 
千里はなぜ自分の性別のことは話題にされないのだろうと思っていた。
 
一方これまで人数の関係で男子なのに女子の並びに机が置かれていた祐川君は
 
「やっとセーラー服着ないの?とか言われなくなる」
と言って喜んでいた。
 
(「セーラー服着ないの?」と言われて喜んでた気もするけど!?)
 

それで4月18日(金)、沙苗は入学式から11日遅れで中学校に初登校したのである。
 
「原田沙苗(はらだ・さなえ)です。長い期間休んでしまいましたが、今日から登校しますので、みなさんよろしくお願いします」
と言って、セーラー服姿の沙苗は教室の前でお辞儀をした。
 
教室内にざわめきがあるが、概ねは受容的である。
「沙苗(さなえ)ちゃん、セーラー服似合ってるよ」
という声も掛かり、沙苗は嬉しそうである。
 
「髪型が可愛い」
「えへへ。昨日、美容院に行って可愛くしてもらった」
 
彼女はトイレにも蓮菜に連れられて女子トイレに入ったし、3時間目の体育の時も優美絵に連れられて女子更衣室で着替えた。ブラジャーの下に微かに膨らんだバストが見えたので「かなり長い間女性ホルモン飲んでたのかな?」と思った子もあったようである。後から聞いたら、実はブレストフォームだという話だった。火曜日に退院し、金曜日から登校することにしたので、水曜日に札幌まで行って、アンダーショーツ、ブレストフォーム、その他の“女体偽装”?用品を買ったらしい。
 
彼女の場合、ペニスが(本当に存在するなら)小さい上に勃起もしないので、ガードルは不要である。それにガードルを着けているのは、更衣室でよけいな疑惑を招く。普通のショーツ(但しサポート力の強いビキニ型ショーツ)だけで、変な形が出ていないのを他の女子に見せたほうがいい・・・というのを千里(千里R)が沙苗に提案していた。沙苗もお母さんも「確かにそうだ」といい、それで、ガードルは使わないことにして、念のためアンダーショーツを買ったのである。
 

彼女は“声”に関しては何もしていない。彼女は声変わりはしているものの、少し高い所のトーンを使うと、女子の声としてそんなに違和感はない。何よりも彼女は(女装時には)“話し方”が女子の話し方なので、聞いている側は女子が話しているようにしか聞こえないのである。実際家に掛かってきた電話に出て、「お嬢ちゃん」と言われることも多かったらしい。また彼女は喉仏も目立たない。
 
沙苗は音楽の時間はアルトに入った。彼女はアルト音域(G3-E5)がほぼ出る。現時点での彼女の声域は A2-C5である。ここまで出ると中学高校程度のアルトパートはほとんど無理なく歌うことができる。ソプラノもほとんどの音が出るが、曲によっては出ない音もある(実はテノールも歌える)。それで取り敢えずはアルトに入ることにした。
 
彼女は生徒手帳も性別:女で発行してもらえることになった。名前は正式に“さなえ”になっているから、そのふりがなが記載される。手帳用の写真は初登校した18日(金)に撮影したが、連休前には何とか出来るだろうということであった。
 

身体測定については、4月については、沙苗は1人だけ保健室で体重と身長を測定された。内科検診とレントゲンについては、病院に行って取って来てと言われたので、金曜日の午後、早引きして病院に行き、受診してきた。
 
でも女子としての初登校を取り敢えず午前中だけで早退させてもらったのは、本人としても、気分が楽だったようである。沙苗はこれまで「女子としての学校生活経験」が無いので、いきなり6時間フル活動には不安があった。
 
しかし取り敢えず金曜日の午前中だけでも「女子中学生」として無難に過ごすことができたので、本人も安心したようである。
 

沙苗の性別問題について、18日の初登校時点では3種類の認識があった。
 
(1)沙苗は女子である。
(2)沙苗は小学校の時は男子だったが、性転換して女子になった。
(3)沙苗は医学的には男子であるが、以降女子として社会生活を送る。
 
(3)の認識をしているのは、千里・蓮菜・恵香・玖美子など“P神社グループ”の女子のほかは田代君・鞠古君くらいである。剣道部の男子部員たちも多くは、
 
「沙苗は性転換手術を受けて女になったけど、今の日本の法律では性別を変更できないので、戸籍上は男だし、大会も男子の部に出る。でも身体は女子だからセーラー服を着ているし、トイレも更衣室も女子用を使用する」
 
と認識していた。小学校の時から一緒だった竹田君でさえ、そういう認識をしていた。
 
(1)の認識をしていたのは、他のクラスの子で、主としてP小出身の子(一部N小の6年2組だった子)ではあったが、他の子の噂話を聞いていて、多くが(2)の認識に移動した!
 
元1組の子の多くが(2)の認識だった。
 
性転換の“時期”については、入学式の10日後まで沙苗が休んでいたことから、
 
「沙苗は小学校の卒業式の後、3月24日に札幌の大学病院で手術を受けて女の子に生まれ変わり、4月15日に退院したので、18日から登校した」
 
という噂がいつの間にか流れていた。4月15日は留萌市内の&&病院を実際に退院した日だが、3月24日という日付が、一体どこから出て来たのか全く不明である。噂を耳にした本人まで首を傾げていた。また沙苗の卒業式の時の服装にしても、中学からは女の子になる予定だったので、セーラー服を着ていた!という噂まで流れていて、本人も驚いていた。
 
「写真見れば学生服着てたの分かるのに〜」
と本人は言っていたが、恵香たちは
 
「あれ?学生服だったっけ?」
と疑問を感じた。(千里に関する記憶操作の巻き添え)
 
※現時点での卒業式の服装の記憶
(学:学生服、S:セーラー服、*:私服)
 
−−千里/沙苗/留実子
千里B:学学S
〃R,Y:S*学
沙苗:S学学
蓮菜:S*学(★真実)
恵香:**学(千里以外正解)
留実:S学S
6年1組:*SS
6年2組:SS学
 
玖美子は蓮菜と同じ、美那と穂花は恵香と同じである。
 
千里は3人とも自分が沙苗に女用の私服を貸したのを忘れていたので、てっきり沙苗は学生服を着ていたと思い込んでいたが、千里Rは玖美子の“写真集”を見て、千里Yも卒業式の集合写真を見て認識を修正した。Bも認識修正するのは時間の問題。
 
つまり沙苗が学生服で出たと思っていたのは、この時点では本人と留実子の2人だけだった。私服で出たと正しく認識していたのは、最初は蓮菜・玖美子・恵香・美那・穂花の5人で、他は全員セーラー服を着ていたと思っていたが、卒業式の写真を見た子は記憶を修正することになる。
 
でも留実子の服装については、卒業式の写真が閲覧されたにもかかわらず、学生服派とセーラー服派が、ずいぶん後まで別れていた!(本人もずっと卒業式では不本意ながらセーラー服を着たと思い込んでいた:とても暗示にかかりやすい性質である)
 
 
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【女子中学生たちの出席番号】(2)