【シンデレラは男の娘】(2)

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その日の夕方。今日もクロレンダとティカベはお城のパーティーに行くので、シンデレラがふたりの髪をセットし、お化粧もして、トルカンナも入れた3人を送り出します。
 
ところが出かけにクロレンダが豆を入れたバケツに躓いてしまいました。本人は何とかバランスを保って転ばずに済んだのですが、バラバラっと豆が散らかります。
 
「ごめん!」
とクロレンダ。
 
「大丈夫。片付けておくから、行ってきて」
とシンデレラ。
 
「ごめんねー。じゃ行ってくるね」
 
それで3人は出かけて行きました。
 

しかしシンデレラは途方に暮れました。
 
この豆を片付けるのにはかなり時間が掛かります。自分もパーティーに行きたいのに。あまり遅くなると、エステルを待たせてしまいます。
 
「でも片付けるしかないよな」
と言って、シンデレラはそれを片付け始めました。
 
その時
 
「ロゼ様。それは私がやっておきますから、パーティーに行ってらっしゃい」
という声がしました。
 
「誰?」
と声を出して振り返ると、そこには懐かしい顔がありました。
 
「クレアさん?」
 
それは4歳の時まで乳母としてお世話をしてくれたクレアでした。
 
「お久しぶりです、ロゼお嬢様」
 
「その名前はやめてよ」
と言って、シンデレラは顔がほころぶのを停めきれないまま言いました。
 
「どうしてここに?」
とシンデレラは訊きましたが、クレアはそれには答えず、
 
「ロゼが嫌でしたら、ロジェがいいですか?それともシンデレラ?」
 
「本当は13歳になるまでシンデレラという名前で過ごすことにしていたんだよ。だからシンデレラの名前は昨日までだったはずなんだ。でもお母ちゃんもお姉ちゃんたちも忘れているみたいな気がするから、僕はまだしばらくはシンデレラのままでいいと思っている。もっとしっかり仕事をしてこの家の生活を支えることができるようになるまでは」
 
「ロジェ様、あなた随分お姉さんたちやトルカンナさんからいじめられてない?」
「厳しい生活だもん。ストレスのはけ口が欲しいだけだと思う」
 

「ロゼ様、お母様のお墓にお父様がペルシャから持ち帰った箱を埋めたのをこちらに持って来ましたよね」
「うん」
「あの箱を取り出してみてください」
「あれを?」
 
それでシンデレラは家の裏に行き、ヘーゼルの根元を少し掘ってみます。埋まっていた箱を取り出しました。土を埋め戻した後で、家の中に持って来てから開けようとしますが、箱はしっかり密閉される構造になっていましたので開けるのに少し苦労しました。
 
「ガラスの靴(*8)だ・・・」
「あなた様の足にピッタリだと思いますよ」
「ほんとに?」
 
それで、そっと足を入れてみると、その靴はピタリとシンデレラの足にはまりました。
 

(*8)ペロー版の物語のタイトル自体が"Cendrillon ou la Petite Pantoufle de verre" 「サンドリヨンあるいは小さなガラスの靴」である。
 
フランス語のPantoufle(パントゥフル)というのは、ヒールが無く、芯も無い、柔らかい室内履きのことで、英語版のシンデレラでは slippers of glass と翻訳されている。英語のslipperは日本語のスリッパに相当するものから、日本語のミュールに近いものまでが含まれる。
 
シンデレラの靴が実はスリッパだというのは、多くの日本人のイメージを壊すかも知れない。
 
靴に合う姫を探す話は英語では「Slipper-test」と呼ばれる。
 
ところでverre(ヴェール)というのはガラスなのだが、vair(ヴェール)と同じ[vε:r]という発音であることから、vairの誤りではないかという説が昔からくすぶっている。vairはリスの皮のことである。元々pantoufleというのが足に自然にフィットする柔らかい履き物なので、リス皮製なら分かるが、ガラス製というのは、どうにも不自然である。
 
ただ逆に考えると、リス皮製のパントゥフルなら、結構ありふれたものという気もするし、元々が柔らかい素材なので、少々サイズが違っていても、足にきれいにフィットしてしまいそうである。しかしガラス製であれば、レアな存在でもあるし、なかなかフィットしないので、個人識別性が高まることになる。
 

「でもなぜ僕の足にピッタリなの?これ、お父さんがお母さんのために買ってきたものじゃないの?」
とシンデレラは訊きました。
 
「元々はそうでしたけど、あなたがずっとお墓に埋めたヘーゼルに水をあげていたからあなたのものに変化したんですよ」
とクレアは答えます。
 
「そんなこともあるんだ・・・」
 
「ロゼ様、今日はどんなドレスを着ていらっしゃいます?」
「それどうしようかと思っていたんだよねぇ」
 
「その薄茶色のドレスとか着てみられません?」
とクレアは言いました。
 
「これ?」
 
と驚いてシンデレラは言います。それはこの家に引っ越して来て、洋裁の仕事をするようになった頃、最初に練習で縫ったドレスです。生地も粗末なリンネル(*9)です。でもクレアに言われたので着てみました。
 
「それをこうするとですね」
と言ってクレアは手に持っていた木の杖を振りました。
 
するとどうしたことでしょう!
 
シンデレラの着ていた薄茶色のドレスはたちまち豪華な真っ白いシルクのドレスに変わったのです。
 
「何これ?魔法みたい」
 
「そしてこれを」
と言ってクレアはシンデレラのドレスの胸にハートの形をした、透明なブローチをつけてくれました。
 
「これもガラスのブローチ?」
「いいえ。ダイヤモンドですよ」
「え〜!?それ高いのでは?」
 
「私が乳母を辞めて家庭教師のトルカンナさんに引き継いだ時、アンジェリーナ様から私に、記念に頂いたブローチです。今夜はロジェ様がつけてください」
 
「うん。ありがとう。借りるね」
 
「これで今夜もパーティーに行けますね」
 
「お化粧しなくっちゃ!」
 

それでシンデレラは鏡台の前で、きれいにお化粧をしました。
 
「でもこのガラスの靴って、何か歩いていて割れるんじゃないかって不安になる。お城まで辿り着くまでに割れちゃったらどうしよう?」
 
「それなら大丈夫ですよ。馬車を用意します」
「馬車!?」
 
クレアは台所の隅に転がっていたカボチャを手に持つと家の外に出ました。そして杖を一振りすると、なんとそのカボチャが馬車に変わりました。
 
「うっそー!?」
 
「馬と御者が必要ですね」
 
と言ってクレアはハツカネズミ(*10)の罠に掛かっていた6匹のハツカネズミを連れてきて、杖を振ります。するとハツカネズミはみんな馬になってしまいました。更にドブネズミ(*10)の罠に掛かっていた大きなドブネズミを連れてきて杖を振ります。するとドブネズミは御者に変わりました。更にクレアは道具小屋の中に居たトカゲを6匹捕まえてきて杖を振り、上等な制服を着た召使いに変身させます。
 
「なんかすごーい!もしかして魔法なの?」
 
「魔法ですよ。さあこれで行っておいでなさいませ。でも気をつけて下さいね。この魔法は12時で切れますから。お城の時計の、時を告げる鐘の音が12個鳴り終えるまでに帰らないと、ドレスは元の薄茶色の粗末なドレスに、馬はハツカネズミに、御者はドブネズミに、召使いはトカゲに、そして馬車もカボチャに戻ってしまいますから」
 
「それは大丈夫です。毎日11時45分までには退出していますから」
「はい。では気をつけて行ってらっしゃいませ」
 

それでシンデレラはカボチャの馬車に乗り、ハツカネズミの馬とドブネズミの御者、そしてトカゲの召使いたちに守られてお城へと出かけました。馬車はやがてお城の門にたどりつきますが、衛兵は馬車をそのまま中に入れてくれました。それでシンデレラは馬車に乗ったまま、宮殿の玄関まで辿り着きました。
 
シンデレラが馬車を降りようとしたら、今日はなんと階段の所に居たエステルが降りてきて、シンデレラの手を取り、降りるのを助けてくれました。
 
「そろそろ来るのではないかと思って待っていた。今日は素敵な馬車に乗ってきたね」
「いえ、粗末なものですけど」
とシンデレラは答えました。
 
「今日の君にはこれをあげる」
と言ってエステルは赤い薔薇を3本シンデレラにくれました。シンデレラは笑顔でその花を受け取ります。
 
そしてふたりで一緒に階段を登り、廊下を通って広間に行きました。
 
馬車が目立ちますし、シンデレラの衣装も今日はかなり豪華なもので、エステルも上等の服を着ていますので、ふたりはとても目立ちました。そのせいか周囲にたくさん人がいてシンデレラは物凄い視線を感じました。
 

そしてこの日もシンデレラは最初から最後までずっとエステルとふたりで踊っていました。昨日は途中で何度か立派そうな服を着た女の子がエステルに踊ってくれませんかと言ってきて、それをエステルが断っていたのですが、今日は誰も踊ってくれとは言いに来ませんでした。
 
ふたりがとても素敵な雰囲気になっているので、とても近寄れなかったのです。
 
「あの子、今日は凄い衣装つけてきている」
「ドレスが豪華だし、ダイヤモンドのハート型ブローチつけてるし」
「そしてあの靴。ガラスの靴なんて初めて見た」
「あの靴、あの子にピタリと合わせて作られているみたい」
「いやガラスで靴を作るならピタリのサイズに作らないと靴擦れを起こすと思う」
「凄く贅沢な靴よね」
 
「でもどこのお嬢さんかしら」
「もしかしたら外国のお姫様かも」
「そうかも知れないよ。何か凄い豪華な6頭立ての馬車で今日は乗り付けていたよ」
 
ふたりは踊りながらたくさんお話をしましたが、その話もとても楽しく、シンデレラは、もうパーティーは今日までだからこんなことも今日で終わりだけど、こういう体験は一生の思い出になりそう、などと思っていました。
 

あっという間に時間が過ぎて、11:30になり、11:45になりました。
 
「エステル様。今日も昨日も一昨日も、とても楽しい時間でした。ありがとうございます。私には一生の思い出になります。そろそろ帰らなければならないのでこれで失礼します」
 
とシンデレラは言いました。しかしエステルは言いました。
 
「帰さないよ」
「え!?」
 
それでエステルはシンデレラの手を離してくれず、休憩タイムになっているのにふたりは踊り続けます。
 
ちょっと待って〜!!と思ったのですが、ふたりが踊り続けていると、楽団がすぐに曲を再開してしまいました。
 
その音楽に合わせてあちこちで踊り始めるペアがあります。そしてあっという間に広間は踊る人たちで一杯になりました。
 
それから更に2曲が演奏され、時計は11:55になります。
 
「ごめんなさい。私、本当に帰らなきゃ」
とシンデレラは言うのですが、
「だから帰さないと言っているのに。ロゼ、このまま私と結婚して欲しい」
 
「え〜〜〜!?」
 
だって僕男の子なのにと思っています。
 
「ごめんなさい。私は結婚できないのです」
「どうして?」
「だって・・・」
 
えっと、何と言い訳しよう?
 
「お母様に許してもらえないから」
「僕が君の家に行って、結婚を申し込むよ。そして僕のプリンセスになって欲しい」
 
「プリンセスって、大げさな。まるで王子様と結婚するみたい」
とシンデレラは思わず吹き出して言いました。
 
しかしエステルは大まじめです。
 
「王子の妻は“プリンセス”と呼ばれるのです(Ils appellent la femme du prince "princesse".)」
 
シンデレラはきょとんとしました。そして訊きました。
 
「ごめんなさい。あなたは誰ですか?」
「私はこの国の王アンリの息子のエステルです」
 
「え〜〜〜〜〜!?」
とシンデレラは超絶驚いて声を挙げました。
 
「君、知らなかったの?」
「全然知らなかった」
などとシンデレラが言うので、周囲に居る人たちがざわついています。
 
「ねぇ、あの子、まさかエステル様を王子様とは知らずに踊っていたの?」
「そんな馬鹿な。あり得ない」
「どうなるの?これ」
「いやこれは既にカップル成立してるでしょ」
「然るべき日取りを取って、婚約の義となるんじゃないの?」
 
まずい、まずい、まずい、まずい。
 
そんな。エステルが王子様だったなんて。でも僕、男の子だから王子様と結婚して王子妃になるなんて無理だよぉ。
 

「取り敢えず僕の愛の証をここに」
と言ってエステル王子はシンデレラに何か小さなものを握らせました。何だろうと思い、掌の中の物を見ようとした時
 
カーン!
 
という音がします。
 
ふと時計を見ると12時です。
 
やばい!魔法が解ける!!!
 
「ごめんなさい」
と言うとシンデレラは無理に王子の手を振りほどき、広間の出口に向かい駆け出しました。
 
「あ、待って」
と言って王子が追ってくるようです。でも捕まったら大変です。魔法が解けたら、このドレスは元の安物の試作品のドレスになってしまいます。ここに来る時に使った馬車はカボチャに、馬はハツカネズミに、御者はドブネズミに、召使いはトカゲに戻ってしまいます。
 
そんなの見られたら、僕、魔女だとか言われて死刑になるかも!?
 
時計の音が鳴り響きます。シンデレラは全力疾走しました。そして宮殿の玄関に辿り付き急いで階段を駆け下りますが、その時、あんまり急いでいたもので、躓きそうになり、何とかもちこたえたものの、ガラスの靴の片方が脱げてしまいました。
 
拾おうとしたのですが
「ロゼ待って!」
というエステル王子の声が響きます。時計の音はもう既に8つ鳴っています。時間がありません。お父様の大切な記念の品ですが、靴を放置してシンデレラは階段を下まで降りました。
 
「御者、馬車を出して!」
と声を掛けると、馬車に飛び乗ります。御者が馬をあやつり、馬車はお城の庭を走ります。そしてお城の門を出てすぐ、お城の時計は12個の鐘を鳴らし終わりました。
 

魔法が解けます。
 
シンデレラは突然空中に放り出されました。
 
カボチャが転がっていきます。ハツカネズミが6匹とドブネズミが1匹、そしてトカゲが6匹逃げて行きました。シンデレラの服も粗末なリンネルのドレスになっています。残っているのはガラスの靴片方と、胸につけているダイヤのブローチだけです。
 
「このまま走って逃げよう」
とシンデレラは自分に言うと、ガラスの靴を脱ぎ、手に持って全速力で家まで走って帰りました。
 
はあはあと息をついていた時、シンデレラはふと自分が何か握っているのに気付きます。何だっけ?と思いますが、別れ際に王子が自分に何か握らせたことを思い出しました。
 
それでよくよく見ると、大粒で美しい水色のアクアマリンの石を乗せた金の指輪でした。
 
きゃー。こんなの持ってたら泥棒か何かと間違えられたりして。
 
シンデレラの頭の中に、色々な展開が浮かびます。
 
豪華な宝石を持っていたので泥棒として捕まり死刑。
 
男なのに女と偽って王子様を騙したとして死刑。
 
魔法を使ってカボチャを馬車に変え王宮に来たので魔女として死刑。
 
何かどうやっても僕って死刑になりそう!と思うと絶望感で頭の中が一杯になりました。
 

取り敢えず片方だけになったガラスの靴は丁寧に拭き、クレアから借りたダイヤのブローチ、王子様から渡されたアクアマリンの指輪と一緒に靴の箱に入れ、自分のワードローブの奥に隠しました。
 
そして急いでお化粧を落とすと、普段着に着替えベッドの中に入りました。
 
そして寝たふりをしようとした所で家のドアが開きます。結構ギクッとしたのですが、入って来たのはトルカンナとクロレンダとティカベでした。
 
「ただいまあ」
「お帰り〜。ごめん。寝てた」
 
「豆はきれいに片付けてくれたのね。ありがとう」
「あ、うん」
 
クレアさんありがとう!と心の中で言います。
 
「これお土産の料理」
とティカベは今日も革包みに料理を入れて持って来てくれました。
 
「ありがとう!」
 
それでティカベが持ち帰ってくれた料理を食べます。結局シンデレラは今日は最初からずっとエステルと踊っていたので何も飲み食いしていません。疲れたしお腹空いたなあ、などと思いながら骨付きの鶏肉にかじりついていました。
 
「だけどとうとう、今日王子様のお相手が決まったのよ」
とクロレンダが言います。
 
「え?ほんと?」
などといいながら、シンデレラは冷や汗を掻いています。
 
「昨日も最初から最後まで王子様と踊っていたけど、今日もずっとふたりだけで踊っていたのよね。今日はその女の子も凄い豪華なドレス着ていて、とてもお似合いだった」
 
「へー」
 
「もうこのまま婚約発表するんじゃないかと期待して見てたんだけどね。なぜか女の子が走って逃げてった」
「あらら」
「恥ずかしかったのかもね。でもあらためて婚約が発表されると思うよ」
「だといいね」
 
と言いながら、やばいよーとシンデレラは思っていました。
 

翌日王宮から発表されたメッセージに国中で戸惑いの声があがりました。
 
「王子の妃選びのパーティーで2日目・3日目にずっと王子と踊っていた女性を王子は探している。できたら名乗り出て欲しい。またその女性を知っている人が居たら教えて欲しい」
 
要するに、王子様の意中の女性の身元がよく分からないということのようです。
 
「かなり豪華な服を着ていたから絶対どこか良い所のお嬢様だと思うのに」
「物凄い豪華な6頭立ての馬車で来ていた。でも王子様が馬車の後を追ったけど、忽然と消えてしまったらしい」
「どこか他の国のお姫様じゃないの?」
 
などとパーティーに出席した女性たちは噂をしていました。
 
しかしそれでも誰も名乗り出る者は無く(若干居たものの、別人として却下)、またそのお嬢さんを知る人も出てきませんでした。
 
とうとう王宮ではこんなメッセージが出ました。
 
「姫の履いていたガラスの靴が片方残っていたので、それと全く同じサイズのレプリカを5個作った。これを持って調査団が国中を回るので、8歳から30歳までの未婚の女性は全員この靴に足を入れてみること」
 
どうも噂を聞くと残された靴に粘土を詰めて型を取り、その型に合わせてガラスと熱膨張率の近い陶器で靴を作ったらしいのです。ですからこの陶器の靴にだいたい合う人はガラスの靴に足が合う可能性があるということででした。
 
それでみんなその陶器の靴に足を合わせようとするのですが、そもそもこの靴がかなり小さいのです。それで実際にはほとんどの女性が靴に足を入れる前に「あんたには無理」と調査団の人に言われていました。
 
「たぶんこの靴に合う人って、まだ11-12歳なのでは?」
という噂が立ちました。
 

「私たちも足を合わせに行ってこよう」
などと言ってクロレンダとティカベも、町の広場に行き、テスト用の陶製の靴を履こうとしたものの、ふたりとも実際に履く前に
「あんたには無理」
と言われてしまいました。
 
実際に履いてみているのは、やはり10-12歳くらいのまだ小さな女の子が大半です。この日はこの広場で靴のテストに合格した女の子が5人出ましたが、いづれも、王子のダンスのお相手を務めた女性を実際に見ている王子の侍従が「君は違う」と言い、別人であることが判明しました。
 
国のあちこちで一週間ほどにわたって行われた靴のテストでは結局誰も該当者が出ませんでした。
 
すると王宮ではとうとうこんなメッセージを発表しました。
 
「王子自身がテスト用の陶製の靴と本物のガラスの靴を持って国中の家々を回るので、女性は全員その靴を履いてみるように」
 
前回は8歳から30歳までということにしていたのですが、それで見つからないので年齢関係無く、女性であれば全員試してみようということになったようです。
 

実際には、王子はガラスの靴を持って各町の町長さんの家などに待機していて、調査団の人が陶製の靴を持って全ての家を回ることになったようです。
 
やがてシンデレラの町にも王子と調査団がやってきました。ガバン公のお屋敷では、女の子になりたてのフェリシア(元フェリックス)まで陶製の靴を履いてみるように言われていましたが、靴は合いませんでした。実際フェリシアは1日目のパーティーには行ったものの、パーティーの2日目が行われた日に女の子になる手術を受けて、2日目・3日目は行っていないので、該当するはずがないのです。
 
そして調査団はシンデレラの家にまでやってきましたが、トルカンナもクロレンダも、実際に足を入れる前に「君は無理」と言われていました。調査団と一緒に来ている王子の侍従は、ティカベを見て
 
「あなたは王子のお相手に似ている」
と言いました。
 
「おお、凄い。ティカベ、入れてみて」
とトルカンナは嬉しそうに言ったものの、やはりティカベの足はその陶製の靴には全然入りませんでした。
 
「うーん。残念、人違いであったか」
と侍従は残念そうに言います。
 
「この家にいる女性はあなたたち3人だけですか?」
「はい、そうです」
 
それで調査団は帰ろうとしたのですが、ひとりが居室のドアの陰から様子を見ていたシンデレラに気付きます。
 
「そこに居る子は?」
と訊かれます。
 
しまったぁ!とシンデレラは思いました。ずっと隠れているつもりだったのにどんな様子だろうと思い、覗き見したばかりに見つかってしまいました。
 
「この子は男の子ですよ」
とトルカンナが言いました。しかし侍従が言いました。
 
「いや、君も王子と踊っていた女性に似ている」
 
そう言われて、シンデレラはギクッとします。
 
「でも男の子ですし、パーティーには行ってませんよ」
とトルカンナ。
 
「男の子でも構わないから、君、この靴を履いてみて」
と侍従は言いました。
 

シンデレラは参った!と思いました。しかし逃げ出したら捕まって・・・とその後のことを考えると、もうどうにでもなれ!と開き直りの気持ちができました。
 
それでシンデレラは陶製の靴に足を入れました。
 
足はピタリとその靴に合います。
 
「おお、やはりそうだ!あなたが王子と踊った方でしょ?」
と侍従は言いました。
 
「うっそー!?」
とトルカンナたち3人が驚いて言います。
 
「あなたの名前を教えてください」
と侍従は言いました。
 
「ロゼです」
とシンデレラは名乗りました。
 
「おお!まさにその通り。王子と踊った女性はロゼと名乗られたのです」
 

その時トルカンナがハッとしたようにして言いました。
 
「そうだった。私もすっかり忘れていた。13歳の誕生日が来たから、シンデレラという名前はやめて、本名のロゼに戻すことにしていたんだった」
 
この時トルカンナはわざと「ロジェ」ではなく「ロゼ」と言いました。
 
シンデレラも、もうこうなったら運を天に任せるしかないと思いました。
 
「1日目に着た衣装はこれです」
と言って、寝室に行き、トルカンナのベッドの上にある箱を取り出しました。そこには、母の形見の少し古風なドレスと銀色の靴、花の形の銀色のブローチが入っていました。
 
「そうです、そうです。初日はそういう服を着ておられた」
と侍従。
 
「あ、その服に似てると思っていた」
とトルカンナ。
 

「2日目に着た衣装はこれです」
 
と言ってロゼはワードローブの中からパッチワークのドレスを取り出します。そして暖炉の上に掛かっている時計を降ろすと、裏のふたを開けて箱を取り出しました。そこには金色の靴と、鳥の形をした金色のブローチがありました。
 
「そこにそんな物が入っていたなんて!」
とトルカンナは本当に驚いています。どうもこれはトルカンナも知らなかったようです。
 
「3日目に着た衣装はこれです」
 
と言って、ロゼはワードローブの中からリンネルのドレスを取り出そうとしましたが、その瞬間、魔法に掛かったように、そのドレスは上等なシルクのドレスに変化しました。
 
「そんな服があったんだ!」
とトルカンナは驚いています。
 
ロゼは「ちょっと失礼」と言って、居室の方に行き、そのドレスに着換えてきました。その上で、ロゼは更に自分のワードローブの奥に隠していた箱を取り出しました。そこにはダイヤのブローチ、ガラスの靴の片割れ、そして王子からもらったアクアマリンの指輪がありました。
 
トルカンナたちが息を呑んでいます。
 
「まさしく、あなた様が王子様のお相手です。殿下を呼んできますのでここでしばらくお待ち下さい」
と侍従は言い、調査団の人たちを残したまま、ひとり馬に乗って急いで王子を呼びに行きました。
 
ロゼは逃げ出したい気分だったのですが、調査団の人たちが残ってるので、逃げようがありません。
 

「ごめんね〜、お母さん、お姉さん。私、みんなが出かけた後、パーティーってどんな感じなんだろうと見たくなって、ひとりで出かけていたんだよ」
 
とロゼはトルカンナたちに言いました。
 
「それはいいけど、これはこの後、どうしたらいいんだろう?」
とトルカンナはかなり悩んでいるようです。
 
やがて王子がやってきました。
 
「探したぞ、ロゼ」
と王子は言いました。
 
王子が持って来た片方のガラスの靴もピタリとロゼの足にはまりました。ロゼがもとより持っていた靴と合わせて履きますと、お化粧をしていないことを除くと、パーティーの3日目の時の状態に戻ります。
 
ロゼは王子に言いました。
 
「ごめんなさい、王子様。私は本当は貧乏なんです。お金持ちの娘のような真似をしてしまって。お城のパーティーに誰でも行けるなんて、まず無いことだから一生の思い出にしたかったんです。どうか身分違いの私のことは忘れて、どこかの良い家のお姫様と結婚してください。この指輪もお返しします」
 
と言って、ロゼはアクアマリンの指輪を王子に差し出しました。
 
ロゼも我ながらうまい断りの理由を思いついたと思っています。
 
王子はその指輪をいったん受け取りました。しかしそのままロゼの左手を取ると、その薬指に指輪を填めてしまいました。
 
「僕の妻は君しかいないと思っている」
 
うっそー!?
 
「貧乏だとかいうのは関係無い。僕は君と2日間踊りながら話していて、何て素敵な人だろうと思った。だから僕と結婚して欲しい」
 
ロゼはあらためて絶望感で一杯になりました。
 
僕、やはり男なのに女の子を装って王子様を騙した罪で死刑になる〜〜!
 

ロゼはもうこうなったら死刑になるまで少しでも「王子様の妃」みたいな気分を味わうのもいいかと思ってしまいました。
 
「殿下。殿下から頂いた薔薇はこちらに」
と言って、一同を裏の畑に案内しました。
 
「もしかしたら根付くかもと思って、畑の端に挿しておいたのです」
とロゼは言いました。
 
「ピンクの薔薇が1本、白い薔薇が2本、赤い薔薇が3本」
とクロレンダが呟くように言います。
 
「ロゼ、あなた薔薇の花言葉知ってる?」
とティカベが言いました。
 
「花言葉?」
 
「ピンクの薔薇は『可愛い人』。薔薇1本は『一目惚れ』」
「うっ・・・」
「白い薔薇は『私はあなたにふさわしい』。薔薇2本は『この世界に2人だけ』」
「え〜〜?」
「赤い薔薇は『あなたを愛しています』。薔薇3本も『愛しています』」
とティカベは解説しました。
 
「知らなかった!」
とロゼは言っています。
 
「僕はそういうつもりでこの薔薇を君に贈ったんだよ、ロゼ」
と王子は言っています。
 
「婚約成立ですね」
と侍従が言いましたが、トルカンナが言いました。
 
「王子様。たいへん申し訳ないのですが、うちはとても貧乏なので、ロゼを王子様に嫁がせるため、数日お支度が必要です。少し待っていて頂けませんでしょうか?」
 
「よい。では一週間待つとしよう。私は町長の所にいる。そうだ、不自由な暮らしをしているのであれば、支度をするのにもやりくりが大変であろう。支度金の一部として金貨を授ける」
 
「ありがとうございます。助かります!」
 
それで王子はトルカンナに金貨を20枚もくれました。そして王子や調査団の人たちは帰って行きました。
 

「ごめんなさい。僕が変なことしてしまったばかりに」
とロゼはトルカンナたちに謝りました。
 
トルカンナは無言でしばらく考えていましたが、やがて言いました。
 
「もうこうなった以上、ロゼはこのまま王子様に嫁がせるしかない」
 
「僕、お嫁さんになるの〜?」
とロゼは情けない声で言います。
 
「作戦を考えた。ティカベ」
「はい」
「あんた、ロゼに似ているからさ、あんたがロゼの身代わりになろう」
「いいけど、バレると思う」
とティカベは言います。
 
「それは時間稼ぎだよ」
と言ってから
「ロゼ」
と呼びます。いまやもうロジェはロゼになるしかないのです。
 
「はい」
と返事をします。
 
「あんた、女の子になる手術を受けなさい」
「やはり〜?」
 
「それとも死刑になる方がいい?まあ死刑になる時は私も一蓮托生だけどね」
「死刑になるよりは、女の子になる方がいい」
 
「クロレンダ」
「はい」
「あんた、ガバン公に頼んでさ、ペルシャの医者にこの子を女の子にする手術を受けさせてもらえるように言ってくれない?手術代は今王子様からもらった金貨を使う」
 
「すぐ頼んでみる」
 
それでクロレンダは金貨を持ち、ガバン公のお屋敷に走って行きました。
 

ガバン公は滞在中のペルシャのお医者さんと交渉してくれました。その結果、ロゼは金貨15枚で女の子になる手術を受けさせてもらえることになりました。
 
一週間後、ティカベはロゼが持っていたドレスを着て、ハート型のダイヤのブローチを着け、アクアマリンの指輪も左手薬指に付けた上で、できるだけロゼに似るような感じでお化粧をし、トルカンナに連れられて王子の滞在している町長の屋敷に行きました。ガラスの靴は履けないので、トルカンナが持っていたいちばん上等の靴を履きました。
 
一方、ロゼ本人はクロレンダに連れられてガバン公のお屋敷に行きました。
 

「僕、今日手術を受けるの?」
と不安そうにロゼは言います。
 
「手術は2回に分けておこなうけど、1回目は明日受けてもらうから」
「今日は?」
 
「フェリシアの2回目の手術があるんだよ。あんたも1ヶ月後に受けることになるから見てなさい」
 
「あれ?フェリシアちゃん、1回目の手術からもう2ヶ月くらい経ってない?」
「1回目の手術の傷が治るのに時間が掛かったから、2回目の手術は延期していたんだよ。それで今日やっと2回目、最終的な手術をすることになった」
 
「やはり傷が治るのにそんなに掛かったんだ?」
 
あの時は乳首の下をかなり大きく切り開いていました。痛そうと思って見ていたのですが、自分もああいう手術を受けなければならないことを思うと気が滅入ります。しかし男の身体のままで王子様に「お嫁入り」したら、すぐ男であることがバレて、死刑になるでしょう。
 

ロゼはもう男の子の格好をすることはできないので、この日は普通の女の子の服を着ていました。ガバン公のお屋敷に入り、2階にあがって手術の様子を見ることになります。
 
やがてフェリシアが入って来ました。やや顔色が青いのは、まだ傷の治りが完全ではないのかもしれません。フェリシアは普通の女の子の服を着ていましたが、胸のところが大きく膨らんでいます。前回の手術で、おっぱいを作ってもらったからですが、おっぱいは僕もあってもいいかも、などとロゼは思いました。
 
前回は上半身裸になったのですが、今回は下半身裸にされました。
 
上半身はもう女の子なのですが、下半身には男の子の印が付いたままです。
 
また例によって手足をベッドに縛り付けられました。その縛り方が前回よりきついような気がしました。更に口には布が押し込められます。ロゼは自分がベッドに縛り付けられて、口に布を押し込められたような気がしました。
 

医者が入って来ます。
 
医者がフェリシアに何か訊いています。多分手術してもいいかと再確認しているのでしょう。フェリシアは頷いたようです。それで手術が始まりました。
 
医者は最初に注射をたくさん、お股の付近やおちんちんにまでしています。
 
「何の注射だろう?女の子に変える薬か何か入っているの?」
「あれは聞いていた。最初に水を注射するんだって」
「水?」
「そうすれば切った時、あまり血が出なくて済むからって」
「へー」
 
ここまではロゼもまだ心理的な余裕がありました。
 
やがて、医者はフェリシアの玉袋の所にメスを入れました。
 
「あそこを切るの?」
とロゼが訊きます。
「まあ切るだろうね」
とクロレンダは答えます。
 
そして医者は切った所から、フェリシアの玉を1個取り出すと、ハサミで切ってゴミ箱に捨ててしまいました。
 
「あれを取るの〜?」
「だって女の子にはタマタマなんて付いてないから」
 
そして医者はもうひとつの玉も取り出すとハサミで切って捨ててしまいました。
 

そして続けて医者は、ちんちんの皮を剥いでしまいます。
 
「凄く痛そう」
「まあ痛いだろうね」
 
そしてちんちんの中身をハサミでチョキンと切ってそれもゴミ箱に捨ててしまいました。
 
「ちんちんを切るの〜?」
「だって女の子にはちんちんなんて付いてないもん」
 
うっそー!?僕もタマタマを取られて、ちんちんを切られるの?なんか凄く嫌〜な感じ。
 
ロゼは自分のちんちんが切られるような気分でした。
 
でも1ヶ月後には本当に自分も、ちんちんを切られてしまうのです。
 
嫌だよぉ。女の子になるって、こんなことされるの!?と思うとロゼは顔面が真っ青になっていました。
 
医者はフェリシアのお股の付近に指を突っ込んでいるようです。
 
「何してるんだろう?」
「ヴァジャン(*11)を作っているんだと思うよ」
「ヴァジャン?何それ?」
「赤ちゃんを産む穴だよ」
 

(*11)フランス語のvagin(ヴァジャン)は英語のvagina(ヴァジャイナ)、ラテン語のvagina(ヴァギナ)。ちなみにドイツ語ではVagina(ファギナ)。日本語?の「ヴァギナ」はラテン語由来か??あるいは英語かドイツ語の誤読か???
 

「赤ちゃんを産むの?」
「だって女の子だから。あんた赤ちゃんどこから出てくると思ってたのよ?」
「え〜?考えたことなかった」
 
「あんた、女の子のお股の形分かる?」
「ちんちんとタマタマが無くて、確か割れ目があるんだよね?」
 
小さい頃、お母さんと一緒にお風呂に入って、お母さんのお股を見た時のことをロゼは思い出していました。
 
「そうそう。その割れ目の中には、小さなおちんちんと、おしっこの出てくる所と、赤ちゃんの出てくる所があるんだよ」
 
「赤ちゃんってお股から出てくるの?」
「他にどこから出てくると言うのよ?」
 
そういえばそうですが、ロゼは今までそのあたりのことを考えたこともありませんでした。
 
「でもおちんちんからおしっこが出るんじゃないの?」
「女の子はおちんちんとは別の所からおしっこが出るんだよ」
「それも知らなかった!」
 
「あんた結婚するって意味が分かってないよね?」
とクロレンダは少し呆れたように訊きます。
 
「あまり分かってないかも」
「結婚するというのはね、男の人の奥さんになるというのはね、男の人のおちんちんを、自分のヴァジャンの中に受け入れることなんだよ」
とクロレンダは言いました。
 
「え〜〜?おちんちんをそんな所に入れるの?」
「おちんちんから、赤ちゃんの種が出てくるんだよ。だからヴァジャンでその赤ちゃんの種を受け止めて、それで女の人のお腹の中で赤ちゃんができるの」
 
「おちんちんから出るのはおしっこじゃなくて?」
「あんたさ、おちんちんいじっていて、おしっこじゃない白い液が出ることない?」
 
ロゼは考えました。
 
「1度出たことある。凄く濃いおしっこだなと思った」
 
あの時、ちょっと気持ち良かったよなとロゼは思い出していました。でも、女の子になるのにおちんちん切っちゃったら、あの気持ち良さはもう味わえないんだろうなというのも考えます。
 
「それが赤ちゃんの種だよ」
「そうだったのか」
 
「そして十月十日お腹の中で赤ちゃんを育てて、大きくなった赤ちゃんをまたヴァジャンから産み落とすんだよ」
 
「じゃ種を入れて育てて、入って来た所から出すんだ!?」
「そうそう。赤ちゃんは入って来た所から出てくるんだよ」
 
「全然知らなかった」
「だから来月にはあんたもちゃんとヴァジャン作ってもらうから、それで王子様のおちんちんを受け入れるんだよ。それで赤ちゃんを作るから」
 
「ひいー」
「結婚したらすぐ、おちんちんを入れられると思うよ。しばらくはティカベが身代わりをしてくれるだろうけど、わりとすぐバレるだろうから、その後はあんたが王子様のお相手をしないと」
 
「きゃあ」
と言いながら、ロゼは階下で進むフェリシアの手術を見ていました。
 
医者は細かく切ったり縫ったりしながら、いつの間にかお股がきれいな割れ目ちゃんの形になるようにして行っているようです。その手順がロゼにはそれ自体まるで魔法のように見えました。フェリシアは・・・どうもあまりの痛さに失神してしまっているようですが、失神していれば痛みをあまり感じなくてもいいかもと思いました。
 
自分もたぶん手術中に気を失いそうと思います。
 
この手術はとにかく凄まじく痛そうです。
 

手術は2時間近く掛かりました。しかし手術が終わるとそこにはきれいに女の子の形になったフェリシアのお股がありました。しっかり縫い合わせてあるので、もう血も止まっています。割れ目ちゃんの外側に2筋縫った跡があるのですが、なぜ2筋あるのだろう?とロゼは思いました。切り開いたのは1ヶ所だけなのに。
 
でも、ついさっきまで、おちんちんとタマタマが付いていたのが、それが無くなってしまい、こんな形に変わるなんて、本当に凄いと思いました。
 
最後にお医者さんは気を失っているフェリシアにお酒を吹きかけ耳をつねり、意識を回復させました。
 
しかし意識を取り戻すと同時にフェリシアは物凄く痛がっているようです。激しい苦痛の表情をしています。
 
「あんた顔色悪いけど、大丈夫?」
とクロレンダが言いました。
 
「ちょっと刺激が強かったかも」
とロゼは言いました。
 
「でもあんたもこの手術を受けるんだからね」
「気が重い」
「それとも死刑がいい?」
「死刑になるくらいなら、女の子になる手術を受ける」
「よしよし」
 
クロレンダは下に降りてフェリシアの傍に寄り
 
「完全に女の子になれたね。おめでとう」
 
と言っていました。それを聞いてフェリシアの顔が一瞬笑顔になりました。でもやはりかなり痛そうです。
 
ロゼはそれを見ると、ふらふらと立ち上がり、少し左右にぶつかりながら、何とかお屋敷の外に出ます。
 
そして少しボーっとしたまま歩いていたら、向こうから王子様が歩いてきました。
 

「ロゼ、見つけた」
と王子様が言います。
 
その後ろの方にティカベが居ました。
 
「ごめーん。もうバレちゃった」
とティカベが言っています。
 
「なぜ僕から逃げるの?後のお支度はこちらでするから、今すぐ王宮へ行こう」
 
待って。今はまだ結婚できない。女の子になる手術を受けてからでないと、凄く痛そうで気が重いけど、あの手術を受けないとお嫁さんになれないよぉ、とロゼは思ったものの、今その女の子になる手術を実際に見たばかりでまだ足がふらついていました。
 
「顔色が悪いね。王宮に行ってから休むとよい」
と言いました。
 

王子様の指示で、ここに馬車が呼ばれました。
 
そしてロゼは王子に手を取られて馬車に乗せられてしまいます。
 
「ティカベ殿、トルカンナ殿、そなたたちにも馬車を用意しますから、クロレンダ殿と一緒に追って王宮にいらしてください」
 
と王子は困ったような顔をしているティカベ、腕を組んで考え込んでいるトルカンナに言いました。
 
それでロゼは王宮に連れていかれました。
 

ロゼは超豪華な衣装を着せられ、王子との結婚式に臨みました。指にはもちろんアクアマリンの指輪が輝いています。そしてロゼはクレアから借りたままのダイヤモンドのハート型のブローチと、ガラスの靴を履いてこの式に出ました。
 
永遠の愛を誓う口付けをされて「ひぇーっ」と思います。結婚を祝う宴は、お昼から始めて夜遅くまで10時間ほど続きました。○○公とか、○○伯とかなんか凄そうな名前の人たちが祝辞を述べていました。パーティーの時に最初にロゼと踊ったアラザン少尉も宴には来ていて
 
「僕もあなたを狙っていたのですが、王子に取られたのなら仕方ありません」
などと笑顔で言って、ふたりの結婚を祝福してくれました。
 
トルカンナ・クロレンダ・ティカベも王子が用意してくれた豪華なドレスを着て、挨拶回りをしていました。
 
ロゼの父を知っていた人も結構この宴に来ていました。
 
「マニアンが亡くなってから随分苦労したみたいだね」
などとロゼやトルカンナに言っていました。
 
「でもロゼちゃんが王子様のお妃になるなんて良かったじゃない。苦労した甲斐もあったね」
などと、ねぎらってくれました。
 
ロゼは自分の性別がバレるのではとヒヤヒヤだったのですが、実際にはみんな可愛いドレスを着ていた幼い頃のロゼを覚えているので、そもそも自分を女の子と誤解していた人ばかりのようでした。あれは両親もかなり悪のりして、僕に女の子っぽい服を着せていたからなあ、とロゼは思いました。
 
「可愛いお嬢ちゃんですね」
と言われて
「可愛いでしょ?私たちの自慢の娘です」
なんて答えていたし。
 

やがて宴が終わります。
 
ロゼは覚悟を決めて、王子と一緒に寝室へと行きました。
 
もう死刑へのカウントダウンが始まっているような気がするのですが、今はただ笑顔で王子のことを見つめていました。僕、わりとこの人のことが本当に好きになってしまった気がする。王子様は笑顔だけど、この笑顔があと30分もしたら、怒りの顔に変わるんだろうなと思いました。しかし最後の瞬間まで自分は笑顔で居ようと思いました。
 
「ロゼ。愛しているよ」
と言われてキスをされます。
 
「私も殿下のことが好きです」
とロゼは言いました。
 
「君からその言葉を聞いたのは初めてだ」
と王子は言いました。
 
「そうでしたっけ?」
とロゼはそういえばそうかもと思いながら答えました。
 
「でも『殿下』とか『王子様』なんてのは、人が居る所だけでいいよ。僕たちの2人の間では、ロゼ、エステルと名前で呼び合おうよ」
 
「そうですね。では私の命が尽きるまでよろしくお願いします、エステル」
 
とロゼは言いますが、実際には明日にも処刑されて自分の命は尽きるんだろうなと思っています。
 
「僕も自分の命が尽きるまで君と一緒に居たい、ロゼ」
 
とエステルも言いました。
 
それでふたりは再度キスしました。
 

そしてふたりはそのまま着衣のままベッドに入りました。
 
お部屋までお供している侍女が灯りを消しました。侍女は《結ばれた時刻》を記録しなければならないのだそうです。
 
もう死刑へのカウントダウン10秒前かなあ、などとロゼは思いましたが、それでも最高の笑顔を王子に献げようと思いました。
 
「ロゼ、結婚するってどういうことか知ってる?」
「全然知らなかったんですけど、クロレンダに習いました」
「うぶな感じだなあと思った。でも習ったのなら大丈夫かな」
 
「そうですね」
「僕が脱がせていい?それとも自分で脱ぐ?」
「エステル様にお任せします」
 
「じゃ僕自分が脱いでから君を脱がせるね」
「はい。目を瞑っていてもいいですか?」
「うん。いいよ」
 
それで王子は自分の服を脱いでいるようでした。やがて王子の手がロゼの服に掛かります。あまりドレスを脱がせることに慣れてないんだろうなという感じで、けっこう手間取っています。その手間取る時間だけ自分の寿命は延びているなと思います。
 

王子の手がロゼの胸に触ります。
 
ああ。。。。とうとうバレた。
 
と思ったのですが、王子はそのままロゼの平らな胸の乳首を自分の口に含んで舌で舐めています。
 
ん?
 
なぜバレないんだろう?
 
とロゼは疑問に思いました。それともまだ幼いからおっぱいが小さい女と思われたかな??
 
そしてやがて王子の手がロゼのお股に来ます。そしてあれに触ってしまいました。
 
ここまでか。。。。とロゼは思ったのですが、王子はそれを手で弄んでいる!?
 
「あのぉ・・・」
とロゼはさすがに不思議に思って王子に訊きました。
 
「私、ちょっと、あれなんですけど」
とロゼは言いました。
 
「知ってるよ」
「え?」
「僕は君みたいな子を探していたんだよ」
「どういうことです?」
 
「国中から“娘”を集めたら、絶対その中には可愛い“男の娘”もいるはずって大臣が言うからさあ。最初ガバン公の“娘さん”を見て『おっ』と思ったけど、彼女は最初からお相手が決まっていて、あのパーティーをお披露目の場にしたみたいだし、そもそも翌日にはペルシャの医者の手術を受けて本当の女の子になってしまうということだったし。その後、君を見つけたけど、僕は君を選んで良かったと思っている」
 
と王子は言いました。
 
「あのぉ、もしかして・・・・」
 
ロゼは確か男の人同士で結婚するという趣味の人もいると聞いたことがある気がしました。王子様ってそれなんだろうか?そういうの何とか言ってたけど、何ていう言葉だったっけ?と、ロゼは戸惑いながら王子の言葉を聞いていました。
 
「ねえロゼ、エステルという名前はね、女の子の名前なんだよ(*12)」
「ごめんなさい。意味が分かりません」
 
「大きな声出さないでね。これ僕と君だけの秘密だから。僕のお股に触ってごらんよ」
 
へ?
 
それでロゼは王子のお股に触りました。
 
ロゼは大いに困惑しました。
 
「なぜ無いのでしょうか?」
「君にあるから問題ないでしょ?」
 
「ちょっと待って」
 
「男子でないと王位は継げないんだよね。だから僕はあくまで男、君はあくまで女ということでいいんじゃない?」
 
「赤ちゃん、どうするんです?」
「僕が産む」
「えっと・・・」
 
「それでさ、ロゼはあくまで女ということでないと困るから、あまり男っぽくなって欲しくないんだよね。だから僕が赤ちゃん3人くらい産んだら、ロゼ、悪いけど、睾丸は取ってくれない?」
 
「ちんちんも取るの?」
「ちんちん取っちゃったら、僕とひとつになれないじゃん。だから取るのは睾丸だけ。ロゼまだ13歳だから僕が多分3人目の子供を妊娠するのは君がまだ17歳の頃。そのくらいで睾丸を取ればあまり男っぽい身体にはならないんだよ」
 
タマタマ取るくらいなら・・・別にいいかなとロゼは思いました。フェリシアの手術を見ていた感じでは、タマタマを取るのは、ちんちんを切るのに比べたら、まだ痛みが小さいような気がしました。
 
「それでおっぱいが大きくなる薬もあるから、タマタマを取った後はそれを飲んでくれない?」
 
へー!薬で大きくする方法もあるのか。まあ、おっぱいくらいあってもいいよね。
 
「いいですよ、私の王子様」
「じゃ末永く、仲良くしていこうよ。僕のお姫様」
 
ふたりは再度キスをしました。
 
そして王子の侍女がふたりの「結ばれた時刻」を記録したのはその10分後のことでした。
 

翌朝、もう死刑は免れまいと諦めて王宮内の別室で静かにその時を待っていたトルカンナたち3人は、ノックの音で覚悟を決めてドアを開けました。
 
そこには笑顔の王子とロゼが居ました。
 
「お母様、朝の宴をしますので、いらしてください」
と王子が言いました。
 
「あのぉ・・・昨夜は?」
とトルカンナは戸惑うように訊きます。
 
「私たちはひとつになりましたよ」
とロゼが笑顔で言いました。
 
トルカンナは、クロレンダ・ティカベと思わず顔を見合わせました。
 
「ホントに結ばれたの?」
とティカベが訊きます。
 
「ええ。素敵な殿方でした」
とロゼ。
「素敵な姫君でした」
と王子。
 
それで楽しそうにしている王子とロゼの後を、首を傾げながらトルカンナとクロレンダとティカベは追うように歩き、食堂の方へと進んでいきました。
 

ガバン公の“長女”フェリシアとブロー公の三男ジョルジュの結婚式も半年後に行われ、王子とロゼはその宴に出席して祝福してあげました。
 
そしてロゼ様がお世継ぎの男の子を産まれたと国中に報せがあり国民たちが大いに沸いたのは、王子とロゼの結婚式の1年後でした。
 
もちろん本当に産んだのは19歳になるエステルの方ですが、そのことを知る者は僅かでした。
 
ちなみに生まれたのは本当の男の子でしたが、とっても可愛いので
 
「女の子にしてあげたいくらいだね」
「女の子にする手術受けさせちゃう?」
 
などとベッドに寝ているエステルと、その傍に立って赤ちゃんを抱いているロゼは言い合って、笑いました。
 
 
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【シンデレラは男の娘】(2)