【アレナクサン物語】(1)

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『アレナクサン−女になる息子』based on『アレグナサン−男になった娘』
 
昔、アール(Agri *)山の山麓に、アルマンという領主が住んでいました。奥さんは早くに亡くなってしまったのですが、3人の息子を遺してくれていました。
 
名前は長男がサルマナス、次男がカムソン、三男はアレグといいました。長男は武術に優れ、次男は学問にすぐれ、領主は将来を楽しみにしていました。三男のアレグは、少しひ弱で武術も学問もそれほどではないので少し心配していましたが、上の2人がしっかりしていれば大丈夫だろうと思っていました。アレグは優しい性格で、いつもお花畑を散歩したり、森で小鳥たちの声を聴いたり、またウード(琵琶に似た楽器 *)やネイ(笛の一種 *)を吹いて、侍女たちと遊んだりしていました。音楽が好きなようなので、父は都から教師を呼び、彼にハープシコード(*)も習わせていました。
 
またアレグは、侍女たちに教えられて(「女みたいなことするな」と叱られそうなので父には内緒ですが)実は料理や裁縫なども覚えていました。
 
(*)トルコ東端、現在はアルメニアとの国境付近にある山。標高5137m. アールはトルコ語で、クルド語ではアララト。ノアの方舟はこの山に流れ着いたという伝説がある(Google Mapには「ノアの方舟」という表示がある!)。
 
(*)ウード(Ud/oud)はヨーロッパのリュート(ギターの源流)や東洋の琵琶の原型になった楽器で中東地域で広く使用されていた。プレクトラム(ギターのピックに似た道具)で演奏する。6コース11本の弦を張る。
 
(*)ネイ(ney)は主として葦などを利用して作られた縦笛(現代ではブラスチック製のものも多数作られているしプロ用の金属製ネイもある)で、表に5個、裏に1個の指穴がある。5000年ほど前から演奏されていたといわれ、世界最古の現役楽器ではという説もある。なお名前が似ているがルーマニアのナイ(nai)は、いわゆるパンフルート。
 
(**)ウード、ネイにもうひとつカーヌーンという楽器が伝統的中東音楽の基本楽器とされる。
 
(*)ハープシコードはピアノの源流となる鍵盤楽器だが、14世紀末にHermann Pollという人物(詳細不明)により発明された。ちなみに鍵盤楽器としてはオルガンの方がもっと古い。打弦楽器としては中世に“弦タンバリン”(ttun ttun)という楽器があった。笛と弦を張ったタンバリンがセットになった楽器で、ひとりで同時に両方を演奏する。↓に演奏例の動画がある。
https://youtu.be/WmTcE0G1JT8
 
この楽器の手で弦を打っている所をオルガンと同様の鍵盤式に改造したのがハープシコードの原型ではという説もあるらしい。
 

アレグに笛を教えてくれたのは、カリナという侍女で、実はアレグの乳姉です。アレグは小さい頃からよく彼女と遊んでいました、彼女はアレグにとって、ほとんど実の姉に近い感覚で、カリナもまるで自分の実の弟であるかのようにアレグを可愛がってくれました。
 
アレグがもうひとりよく遊んでいたのはザベルという侍女で、彼女からは料理や裁縫を教えてもらいました。カリナはこのザベルとも仲がよく、しばしば3人でお散歩などもしていました。
 
カリナにはミナスという兄がいて、車大工(*)をしていたのですが、手先が器用で、笛作りも得意でした。お祭りで使う笛などもたくさん作っており、実はアレグが小さい頃から笛を吹いていたのも、このミナスから笛(ネイ)をもらい、(カリナに)吹き方を習っていたからでした。
 
(*)荷車などの車輪を作る職人を車大工(wheelwright)という。荷車自体を作る職人は荷車大工 cartwrightである。wrightというのは製造者を意味し、船大工はshipwrightである。作曲家ハイドンの父はwheelwrightで、竪琴奏者だった。仕事の合間に吟遊詩人(現代なら流しの歌手!)的なことをしていたらしい。
 

「ちょっと新しい笛を作ったんだけど試してみない?」
とある日、ミナスは言いました。
 
「あれ?これどこから息を吹き込むの?」
 
昔は笛といえぱ縦笛なので、通常管の端に唄口があるのですが、この笛は端が閉じています。
 
「この笛はここで鳴らすんだよ」
と言って、ミナスは管体の横についている、やや大きな穴を指さしました。
 
「ちょっとやってみるよ」
と言ってミナスはもう1本同形の笛を取ると、そこに唇を当てて音を出してみせました。
 
「笛を横に持つんだ!」
「アルムスタレドといってバグダッドの方では流行っているらしいんだけど、まあ翻訳すれば、ライナキ(横笛*)って感じかな」
 
「へー、ライナキ・・・」
と言って、アレグも吹こうとしてみるのですが、音が出ません。スースーと息の通る音がするだけです。
 
「唇の当て方が難しいんだよね」
と言って、ミナスはアレグが持っている笛に触りながら教えてくれました。それでアレグも10分くらいで音が出るようになりますが、ミナスほどきれいには音が出ません。音より息の方が大きい感じです。
 
「まあ後は練習次第だな」
 
それで以降、アレグはこの“ライナキ”をたくさん練習して、まともな音が出るようになりました。そして、縦笛(ネイ)と並ぶ、アレグのお気に入りになったのです。
 
(*)横笛(transverse flute)は11世紀頃に東ローマ帝国から西ヨーロッパにも伝わったとされる。つまりその頃までには東ローマ帝国の地域(この物語の舞台!)では作られていたことになる。ただし普及した形跡は無い。ヨーロッパでは、最初ドイツでやや広まったのでドイツ式フルートとも呼ばれた。しかし17世紀頃にイタリアでフラウト・トラベルソ(現代のフルートの原型となる楽器)が生まれるまで、横笛は極めてレアな存在だった。中世は縦笛の時代であり、フルートといえば通常は縦笛(リコーダー系)を意味していた。
 

ある時、コンスタンティノープル(*)の皇帝から、帝国全土の領主に御触れがあります。皇子ファルマーが成人なさるので、年頃の娘がいる場合は、ぜひ侍女として仕えさせるようにというのです。
 
(*)物凄く大雑把なことをいえば現在のイスタンブール(平安京と現在の京都市程度の差)。
 
ファルマー皇子はまだ独身です。侍女として仕えていれば、目に留められて妃(きさき)にと所望される可能性もあるでしょう。そこで多くの領主が年頃の自分の娘・孫娘を都に送り込んだのです。中には親戚の娘をいったん自分の養女にしてから送り込んだ領主もいました。
 
アルマン侯は悩みました。
「私に年頃の娘がいたら、別に妃にまでならなくても、ぜひ皇子様にさしあげたい所だが、うちは男ばかりだからなあ。まさか女の格好をさせて送り込むわけにもいかないし」
 
娘を仕えさせろというのは、人質が欲しいという意味もあるのでしょう。ですから、年頃の娘がいないからといって誰も差し出さないと、帝国に反抗する気があるのではと勘ぐられる危険があります。ですから多少年齢が高いか幼すぎても娘がいたら出した方がいいのですが、子供が全員男子ではどうにもなりません。生憎、妹のところも息子ばかりです。
 

するとそれを聞いた15歳の長男サルマナスが言いました。
 
「親父の悩みは俺の悩みでもある。俺が女の格好をして皇子様にお仕えしよう」
「お前、本当にできるのか?」
と父は息子の言葉に耳を疑います。
 
しかしサルマナスは自分の乳母に領主の娘にふさわしいような女の服を用意させてそれを着ました。立派な髭も剃り落として、お化粧までして、かなり乗り気です。その格好で父の前に出ると
 
「おお、一応女に見えるではないか」
と驚かれました。
 
「では行って来ます」
 
と言って、サルマナスは女名前・サルマナサンを名乗り、部下2人にも女装させて!、護衛の騎士も連れ4人で馬(4頭)に乗り、意気揚々と領主屋敷を出ました。
 

サルマナサンも部下2人も立派なドレスを着て馬に乗っています。それで途中で強盗団に襲われましたが、騎士とサルマナスや部下も剣を持って戦い、盗賊たちを撃退しました。
 
「騎士殿がいて良かった」
「いやいや、サルマナス様がいちばん凄かった」
 
ところが少し行った所に関所が出来ています。
 
「今、怪しい盗賊団が出没しているので、男は通せないことになってる。女だけなら通れるぞ」
と関所の役人が言いました。
 
「これは困りましたな」
と護衛の騎士が言いますが、女装している部下の2人が
 
「何かあった時は私たちが命に代えても若様、じゃなかった姫様をお守りします」
というので、女装のサルマナスと部下2人だけ通過することにしました。
 
それで3人が関所を通るのですが
「待て」
と言われます。
 
そして役人は
「お前たち本当に女か?」
と訊かれます。。
 
「我らが女に見えぬか?}
「取り敢えず女だけど」
「俺も間違い無く女だぞ」
 
役人は
「ふざけるな。お前たち、身体付きもいかめしいし、声も男だし、言葉遣いも男ではないか。服だけ女の服を着てもバレバレじゃい。女を主張したいなら、クランプであそこを潰してから出直してこい」
 
部下の2人は立派な成人男性ですし、サルマナスも15歳なので、声変わりが来ており、男の声でした。それで3人は、追い返されてしまいました。
 

様子を伺っていた騎士も一緒に屋敷に帰ることにしました。
 
「確かにサルマナス様はもう男の声になっていますからね。いくら姿形が女であっても、声は誤魔化しようがありませんな」
と騎士も言った。
 
「我らも声はごまかせん」
と部下も言います。
「そもそも身体付きが立派な男だし」
と騎士は指摘します。
 
「でも役人が言ってた『クランプで潰してから出直せ』ってどういう意味だろう?」
とサルマナスは疑問を口に出します。
 
「それはやはり・・・」
「あれを潰せということでは?」
と部下たち。
 
「あれって?」
とまだ分かっていないサルマナスが訊くと、騎士が
「キンタマですな」
と言いました。
 
「え〜〜?なんでそんなの潰すの?」
「男の身体を作るのは、キンタマが分泌している“男の精”ですから。それを取るか潰すかすると、随分女らしくなるようですよ」
 
「そういうもんなの?」
「むかしバグダッドで玉を取った男を見たことがありますが、本当に女のような雰囲気でした」
「へー!取る人もいるんだ!?」
「まあちょっと需要がありましてな」
と騎士は言ったが、詳しい話まではしない。
 
「牛なども気性の荒い牛は、玉を切り落とします。するとおとなしくなりますし、お肉にした時も、メス牛のお肉のように柔らかくおいしいお肉になるのですよ」
 
「牛ってメスの方が美味しいんだっけ?」
「オス牛のお肉は硬くてまずいですね」
「あ、硬そうというのは分かる」
 
「人間も玉を取ったり潰すと、女のように柔らかい身体になりますよ。サルマナス様、キンタマ取っちゃいます?」
 
彼は少し考えたものの
「いいや。やはり俺には女に化けるのは無理だったかも」
と言いました。
 

サルマナスが屋敷に帰り、関所があり、女しか通れないということだったが、自分たちは男だということが、声でパレてしまったと報告しますと
 
「確かに声で男女は分かってしまうだろうな。ご苦労であった。侍女を出す件は諦めることにするよ」
と父も言いました。
 
ところがそれを聞いていた13歳の次男カムソンが言いました。
 
「兄上ができなかったら、代わりを務めるのが次男たる僕の役目です。僕が女の格好をして、皇子様にお仕えしましょう」
「お前、本当にできるのか?」
と父は息子の言葉に疑問を持ちます。
 
「僕は声変わりがまだただから、声で男とバレたりはしませんよ。付き添いも本物の女を連れて行きますよ」
「ああ、それがいいだろうな。本物の女がいれば何かと助かるだろう」
 
それでカムソンは自分の乳母に領主の娘にふさわしいような女の服を用意させてそれを着ました。生えかけの髭も剃り落として、お化粧までして、かなり乗り気です。その格好で父の前に出ると
 
「おお、ちゃんと女に見えるではないか」
と驚かれました。
 
「では行って来ます」
 
と言って、カムソンは女名前・カマサンを名乗り、お付きの侍女2人と(男の騎士では関所を通れないので)護衛に、武術のできる女戦士を連れて4人で馬2頭に乗り、意気揚々と領主屋敷を出ました。
 
(カマサンと侍女、女戦士と侍女が相乗りする。侍女2人は自分では馬に乗れない)
 

カマサンも侍女2人も立派なドレスを着ています。それで途中で強盗団に襲われましたが、女戦士が物凄く強かったので、盗賊たちは
 
「女と思って油断した。こいつは女に化けた男だ」
と言って逃げて行きました。
 
「女に化けた男って、カマサン様のこと?」
「いや、ぼくのことだろ」
と女戦士が言うと、他の3人は納得しました。カマサンも剣を出したものの、ほとんど戦闘には役に立っていません。
 
「でもあなたがいて良かった」
「ぼくに勝てる男はそうそういないよ」
「女には負けることもあるの?」
「女湯に入ろうとして、痴漢と間違われて張り倒されたことある」
「ああ。大変ネ」
 

少し行った所にサルマナスから聞いた関所があります。
 
「今、怪しい盗賊団が出没しているので、男は通せないことになってる。女だけなら通れるぞ」
と関所の役人が言いました。
 
「私たちみんな女だから通りまーす」
と言って一行は関所の中に入ります。
 
「お前たち本当に女か?」
「女でーす」
 
侍女たち2人は良かったのですが、女戦士は筋骨隆々なので、あまり女に見えません。
「お前、男だよな?」
「女ですよ。おっぱい触っていいですよ」
というので役人が胸を触ると、確かに女のようなおっぱいがあります。
「確かに女のようだ。お前も怪しい。胸を触らせろ」
と言って、役人がカマサンの胸を触ると何にもありません。男のように平らな胸です。
 
「胸が無いではないか。さてはお前は男だな?」
と言われましたが、女戦士が
「この子はまだ初潮前だから胸が無いんですよ」
と言うと、納得してくれました。
 

「各々自分の名前を名乗るように」
 
それで侍女たちも自分の名前を名乗りますし、女戦士も名乗りました。最後にカムソンではなくカマサンが名乗りますが、声変わり前なので、ちゃんと女の声に聞こえます。
 
しかし関所の役人は言いました。
 
「声だけでは本当に女なのかは分からん。昨日も女に化けた男が30人もここを通ろうとした」
 
ああ、兄貴もその1人だなとカマサンは思います。
 
「女ならば料理くらいできるだろう。お前たち、何でもいいから自分の得意な料理を作ってみよ。材料は何でも揃っているぞ」
 
それで侍女の1人はビョレクをつくりました。1人はケシケキを作ります。しかし女戦士は、生まれてこの方、運動して身体を鍛えることばかりしていて、料理や裁縫という女のたしなみがありません。ダメ元でスープ作りに挑戦しますが、およそ人間の食べ物とは思えないものになり
 
「お前はやはり男だな?だいたいこんな逞しい女がいる訳無い。帰れ」
と言って、追い出されてしまいました。
 
そしてカマサンなのですが、侍女のひとりがこっそり教えてあげて、ケバブを作ります。ところが自分で作ったことがないので、最後に塩と砂糖を入れ間違ってしまい、
「なんじゃ、こりゃあ」
と係官が叫ぶようなケバブになってしまいました。
 
「さてはお前も男だな。帰れ。だいたいお前、胸が無さ過ぎる。女を主張するなら酵母でも入れてから出直してこい」
と言って、カマサンは追い返されてしまいました。
 
カマサンが追い返されてしまったので、侍女ふたりもそれに付き従います。
 

それで一行は屋敷に戻ることにします。
 
「確かにカムソン様はお料理とかしたことないですもんね」
と侍女が同情するように言います。
 
「ぼくも料理したことない!」
と女戦士がいうと
 
「あなたお嫁に行きたいなら、料理くらい覚えた方がいいよ」
と侍女。
 
「それ無理だから、ぼくがお嫁さん欲しい」
「ああ、あなたはそれがいいかもね」
「あなたほどの人なら、お嫁さんにしてと言う女の子もいるかも」
 
「でも『酵母でも入れてから出直してこい』ってどういう意味だろう?」
とカムソンは意味の分からなかった言葉を口にします。
 
「おっぱいを膨らまして来いということでは?」
「酵母というのは、パン作りの時に生地を膨らませるのに使うんですよ」
「へー。そんなの使うんだ?」
 
「カムソン様、酵母ではないですが、インド伝来の、おっぱいを大きくする秘薬、手に入れられますが、ご入り用ですか?」
と女戦士が訊く。
 
「あなたもそれでおっぱい大きくしたの?」
「いや。このおっぱいは自前。この薬ちょっと高いんだよ。貧乏なぼくにはとても買えない」
 
「おっぱいかぁ・・・」
とカムソンは考えたものの
 
「それ邪魔になりそうだからいいや」
と答えました。
 
「うん。確かに弓を引く時におっぱいは邪魔なのだよ」
と女戦士。
 
「まあ男の人におっぱいがあっても仕方ないですね」
と侍女も言います。
 
「やはり僕には女の振りするなんて無理だったなあ」
とカムソンは言いました。
 

カムソンが屋敷に帰り、関所で声では女でないとバレなかったものの、胸が無いので怪しまれ、女だという証拠に料理を作ってみろと言われ、それに失敗して追い返された報告しますと
 
「確かに男は女と違って、料理人にでもならない限り、料理など勉強してないからなあ。胸も無いし。ご苦労であった。侍女を出す件はやはり諦めることにするよ」
と父も言いました。
 
ところがそれを聞いていた11歳の三男アレグが言いました。
 
「お兄さんたちは、そもそもこの家を継いで、もり立てていかなければならない人たちです。代わりにボクが女の格好をして皇子様に仕えますよ」
 
「兄たちにもできなかったんだぞ。お前にできる訳がない」
と父はこの少しできの悪い息子に言いました。
 
「ボクは声変わりがまだだから、声で男とバレたりはしないし、実は少し料理も作れるんだよ」
「へー。そういえば時々侍女たちと厨房にいるな」
「侍女たちを叱らないでね。ボクが教えてと言って習ってたんだから」
 
それでアレグは自分の乳母(カリナの母)に領主の娘にふさわしいような女の服を用意してもらい、それを着ました。この時、カムソンが胸を触られたと聞いたので胸の所に女がするよう乳当てを付け、その中に柔らかい毛糸の玉を入れました。これで結構本物の胸に触ったのに近い感触になります。
 
彼はまだ髭は生えてないので、髭を剃る必要はありませんでした。彼はお化粧もしなくていいと言いました。旅をする時にきれいに装う必要はないと考えたのです。それで彼は女の服を着ただけで父の前に出ました。
 
「お前、本当にアレグだっけ?」
「そうですけど」
「女にしか見えん。お前ならいけるかもな」
と父は言いました。
 
それに父は、いつも控えめで目立たないアレグが自分で行くと言い出したことで、この子にやらせてみようと思ったのでした。
 
「では行って来ます」
 
と言って、アレグは女名前・アレナクサンを名乗り、仲の良いカリナとザベル(2人とも自分から付いていくと名乗り出た)だけを連れて、静かに徒歩で領主屋敷を出ました。3人とも宮廷で着るための立派な服は鞄に入れて、カリナが調達してきたツギハギだらけの服を着ての旅です。立派な身なりをしてたら、強盗に襲ってくれというようなものと彼は言いました。また護衛も要らないとアレナクサンは言いました。男の騎士は関所を通れないし、武術にすぐれた女兵士で、女の教養もちゃんとある人が見当たらなかったのです。
 
「強盗とかに襲われたら逃げればいいよ」
とアレナクサンは言いました。
 

アレナクサンが言った通り、3人は庶民に身をやつしていたおかげで、強盗などにも襲われずにすみました。いかにも金が無さそうな歩き旅の貧乏人女を襲ってもしかたないと盗賊たちも思ったようでした。
 
少し行った所にサルマナスやカムソンから聞いた関所があります。
 
「今、怪しい盗賊団が出没しているので、男は通せないことになってる。女だけなら通れるぞ」
と関所の役人が言いました。
 
「私たちみんな女ですが」
と言って一行は関所の中に入ります。
 
関所の役人は3人を見て
「ああ、確かにお前たちは女だな」
 
と言います。結局胸も触られませんでした。実際、服の上から胸かあるようなシルエットになっているので、それで3人ともバストがあると思われたのです。
 
更に全員名前を名乗らされましたが、侍女2人はもちろん女の声ですし、アレナクサンも声変わり前で女のような声なので怪しまれませんでした。
 
「声だけでは本当に女なのかは分からん。昨日も女に化けた男が50人もここを通ろうとした」
 
ああ、兄さんたちだなとアレナクサンは思いました。
 
「女ならば料理くらいできるだろう。お前たち、何でもいいから自分の得意な料理を作ってみよ。材料は何でも揃っているぞ」
 
それで料理の得意なザベルはパエリアを作りました。必ずしも料理はうまくないカリナもケバブを作りました。そしてアレナクサンはラガナス(現代のバクラヴァの源流となるパン)を焼きました。
 
「美味しい美味しい。お前たちは確かに女のようだ。通ってよいぞ」
 
それで3人は関所を通過して旅を続けました。
 

3人は2ヶ月ほど旅を続けて(*)アナトリアを横断し、コンスタンティノープル(*)の都に辿り着きました。
 
(*)アール山の山麓からコンスタンティノープルまでは約1500kmある。青森から下関くらいの距離であるが、昔の人は江戸から京までの500kmを半月くらいで歩いている。1日35kmくらいである。現代人からするとかなりの健脚である。女の足でも1500kmは2ヶ月あれぱ到達できたものと思われる。またこの地域はローマ帝国時代から、主要街道はきちんと舗装もして、通りやすくなっていたし、治安も比較的よかったと言われる。なお当時も馬車はあったが、料金も高いし、タイヤもサスペンションも無い時代なので、振動がダイレクトに伝わり、かなり過酷な乗り物だったようである。
 
(*)コンスタンティノープルの略史
330年5月11日 ローマ帝国のコンスタンティヌス1世がコンスタンティノポリスを建設。
395年、ローマ帝国が分裂し、コンスタンティノープルは東ローマ帝国(ビザンチン帝国)の首都となる。
1000年頃 この頃が繁栄の頂点。世界の中心都市であった。
1204年 十字軍により占領される(1261年奪回)。
1453年 オスマントルコがコンスタンティノープルを陥落させ、自身の首都とする。
1925年 オスマントルコの皇帝が追放され、トルコ共和国が設立される。これ以降、この都市はイスタンブールと呼ばれることになる。トルコ共和国の首都はアンカラ(**)だがイスタンブールはトルコ最大の都市である。
 
なお、イスタンブールという名前自体は、コンスタンティノープルの別名として10世紀頃から使われていたらしい。アジアとヨーロッパの境界線となっているボスボラス海峡西岸の都市で、東岸(アジア地区)はハイデラパシャなのだが、現在のイスタンブールの市街地はハイデラパシャを飲み込んで一体化している。近年、両岸を結ぶ橋やトンネルがいくつも建設され、鉄道が直通している。(鉄道は、日本企業との入札競争に勝った韓国資本が建設した)昔は船で海峡を越えていたが、交通事情は大きく様変わりしている。
 
この物語が元々いつ頃の時代を想定して語られていたのかは分からないが、「世の中に不思議なことがまだ起きていた頃」などとも書かれていたので、ビザンチン帝国の後期かオスマントルコの初期、11-15世紀くらいを想定して書いてみた。
 
アレグたちの出身地がアール山の西麓(トルコ領内)なのか、東麓(アルメニア)なのかは、よく分からないが、もしアルメニアだとしたら、ひょっとすると、西アルメニアがトルコに併合されていた1636年以降なのかも知れない。だとするとかなり新しい時代ということになり、全然「不思議なことが起きていた時代」ではなくなる。
 
それで今回のリライトでは、もっと古い時代に設定している。するとアレグたちはアール山の西麓に住んでいたことになる。
 
なお、アルメニア王国は、1636年にオスマントルコとペルシャに分割統治され、1828年にはペルシャ領の地域はロシアが支配権を獲得した。1920年にロシア支配地から独立したアルメニア共和国が、オスマントルコから旧アルメニア地域の統治権を譲られて300年ぶりの祖国統一を実現した。しかしまだ国の体制が整わない内にソ連赤軍の侵攻を許し、建国わずか2年でアルメニア・ソビエト社会主義共和国として改組されてしまった。ソ連崩壊後の1991年に独立を回復してアルメニア共和国が再建された。
 
(**)名前が似ているのでよく混同されるアンマンはヨルダンの首都。
 

アレナクサンたち3人はお城に入る直前にドレスに着替え、手形の換金などもしてから入城します。そして父アルマン侯から預かった手紙を皇帝に提出します。
 
「おぉ、アルマン侯にこんな可愛いご令嬢がいたとは知らなかった。遠いところ、よく来たね」
と皇帝はわざわざ御簾(みす)を上げて、歓迎してくれました。
 
3人は皇子様にもご挨拶をしましたが、何だか侍女がたくさん居すぎて!皇子様も御簾(みす)越しでしたし、お顔もよくは分かりませんでした。3人は宮殿内に部屋をひとつ与えられ、そこで過ごすことになりました。
 

「しかし凄い人数の侍女がいたね!」
とアレナクサンは部屋でくつろいで言います。
 
「やはりお妃にしてもらおうというので、みんな頑張っているんですよ」
「まあ私は妃にされることだけはないから安心だね。単純にご奉公すればいいし」
「分かりませんよ。見初められて、ぜひと言われたりして」
「私、女じゃないから無理だよ!」
 
「コンスタンティノープルには、手術して男を女に変えることのできる医者もいるそうですよ」
とザベルが言います。
 
「マジ?」
「そういうお医者さんにかかって女になられます?」
 
アレナクサンは少し考えたものの
「手術とか痛そうだからいいや」
と答えました。
 

アレナクサンたちの皇宮での生活は、やや退屈なものでした。
 
皇子の侍女といっても、身の回りの世話などは小さい頃から付き添っている侍女や侍従たちがしているので、アレナクサンを始め、各地の領主が送り込んで来た娘たちは、雑用などはせず、もっぱら挨拶回り!をしたり、お互いにお茶(*)などに招待しあって雑談などしていました。
 
アレナクサンはお茶を通して、黒海沿岸トラブゾンから来たアイセ姫、エーゲ海沿岸の大都市スミュルナ(現イズミル:トルコ第3の大都市)から来たネシア姫などと仲良くなりました。ふたりとも
 
「アレナクサン姫はすごく可愛いから、皇子様の目に留まるかもよ」
 
などと言って応援してくれましたが、アレナクサンは
 
「きっと大臣とか将軍とかの姫様が選ばれると思うよ」
 
などと返事していました。
 
また姫たちは、毎日、適当な紙(*)に詩を綴っては皇子様に届けていました。(絵の得意な娘は絵を描いたりもしていた)
 
アレナクサンの詩を届けるのは行儀作法の躾けがしっかりしているザベルの役目でしたが、皇子の側近の侍女か侍従に渡すだけで、直接皇子にお目通りすることはありませんでした。
 
(*)中世の中東地域では、シャーバット(Sharbat, シャーベットsherbetとも)などのソフトドリンクが結構飲まれていたようである。これは果実や花びらなどで、香りや色を付け、ハチミツなどで甘味を付けた飲み物で、皇宮などの財力のある所では、しばしば凍らせて、まさにシャーベット状にして食べたりもしていた。インドのティーも15-16世紀頃には入ってきていたはずであるが、アレナクサンの時代にあったかどうかは不明。
 
(*)“皇子様に贈るのに適当な”という意味。中国で蔡倫が紙を発明したのはAD105年のことで、中東地域では12-13世紀頃にはかなり一般化していたものと思われる。17世紀頃にはフランスなどで工業的に紙が生産されるようになり安価な紙も入手できるようになるが、この時代はまだ高価なもので、庶民には自由にならないものであった。更に皇子様に贈呈するような“素敵な紙”は結構なお値段がしたものと思われる。
 
ちなみにここでの“侍女”たちの生活費は当然、各々の父持ちである!皇帝は各々の姫たちに部屋を無料で使わせる便宜をはかっているだけである。アルマン候を含む各領主は手形を書いて送り、それをカリナたちが町で換金して生活費を受け取っていたものと思われる。
 

お城での生活があまりにも退屈!なので、アレナクサンは時々宮殿を抜け出すと城の裏手にある林の中や皇宮内に引き込まれている小川のほとりなどで、横笛を吹いたり、時にはカリナも連れてきて一緒にネイやウードの合奏をしたりして息抜きをしていました。カリナもあまり礼儀作法がきちんとしている方ではないので、皇宮での生活は肩が凝るものだったようです。
 
ある日、アレナクサンがひとりで小川の傍で横笛を吹いていたら
 
「変わった笛だね」
という男性の声があります。誰もそばに居ないと思っていたのでアレナクサンはビックリしてむせてしまいました。
 
「大丈夫?」
と言って、男性はアレナクサンの背中をさすってくれました。
 
「すみません。うるさかったでしょうか?」
 
アレナクサンはお城の侍従か何かかと思い尋ねました。
 
「とんでもない。素敵な音楽は騒音とは違うのだよ。この笛の音(ね)を聞いて、うるさいと思う人などいないよ」
と彼は言いました。
 

アレナクサンはホッとしたものの、なんかこいつ軽薄そうだぞと警戒します。うまいこと言いくるめられて、手籠めにされたら・・・
 
女でないことがバレて困っちゃう!
 
と思います。
 
「でも横に構えて吹く笛は初めて見た」
と男性は言っています。
 
「横笛はバグダッドで流行っていると聞きました。でもありがとうございます。それでは失礼します」
と言って部屋に帰ろうとしましたが
 
「あ、待って。合奏しようよ」
と彼は言います。
 
彼は近くにいた部下?を呼び寄せると、ウードを取って来させました。それで彼は
「『小人たちの夏祭り』って知ってる?」
と訊きますので
「分かります」
とアレナクサンは答えました。
 
「そうそう。僕はアリム」
「アレナクサン・アルマンです」
 
それでアリムのウードとアレナクサンの横笛で即興の合奏が始まりました。
 
笛を吹いていて、アレナクサンはアリムがかなりのウードの弾き手であることを認識します。これは音楽の先生になれるレベルです。彼が上手いのでこちらも凡ミスはしてはいけないと思い、頑張って笛を吹きました。
 

そして2人が合奏をしていると、周囲に人が集まってきます。そして熱心にふたりの合奏を聴いていました。うそー。恥ずかしーとアレナクサンは思いましたが、むろん逃げ出すわけにもいきません。ミスしないように神経を使って頑張って吹き続けました。
 
そして演奏が終わると周囲から凄い歓声があがります。みんな布を振って称えてくれます。アレナクサンは急に恥ずかしくなって、
「失礼します」
と言って、逃げるように部屋に帰りました。
 

しかしアレナクサンはその後も何度も彼と小川のほとりや林の中の泉の近くで遭遇し、そのたびにアレナクサンの笛とアリムのウードで様々な曲を合奏しました。時にはアリムのウードに合わせてアレナクサンが歌ったり、時にはアレナクサンが有無・・・ではなくアリムのウードを借りて演奏して、それに合わせてアリムが歌うこともありました。
 
それでアレナクサンも次第に彼に気を許すようになっていきました。
 
「ねえ、君可愛いから、一度僕の部屋に来ない?」
 
などと彼はある時言いました。
 
部屋に来ないか?というのは当然セックスしたい!という意味でしょうけど、生憎アレナクサンには男性とセックスする機能が備わっていません。それでアレナクサンはアリムのことが嫌いではなかったものの
 
「すみません。まだねんねなので、男の方のことはよく分からないので」
などと言って逃げておきました。
 
彼とはその後も何度も会い、度々彼に部屋にこないかと誘われたのですが、そのたびに適当な言い訳をして逃げておきました。彼も強引なことはしないようでした。
 

ところで、皇帝の奥様(ファルマー皇子の母:つまり皇后)はずっと病気で寝ていたのですが、いつも大臣ゲンコ・アカイの奥方グルセが看病をしていました。グルセは実は皇后の妹でもあったのです。そして、グルセは自分(と大臣)の娘・フルバをぜひ皇子の妃にしたいと思っていました(結婚すれば従兄妹同士の結婚になる)。
 
「私も自分がいつまでもつ分からない。私が生きている内にファルマーの結婚式を見たいものだけど」
 
「良かったら、うちの娘をもらってくれない?一度皇子の部屋に行かせようか?」
 
実は行かせようかと言いながら、既に数回、夜這いを掛けさせているのですが、皇子は逃げ出してしまい、一度も“成って”いないのです。皇后はその話を息子から聞いていたので、きっと息子はフルバ姫が好きではないのだろうと考えていました。それで妹の言葉は黙殺して、こんなことを言いました。
 
「皇子の嫁選びも兼ねて、皇帝が呼びかけて国中からたくさん美しい姫君たちが集まってきていると聞きます。しかしひとりひとりの姫は、あまり皇子と話す機会も無いでしょう。一度、パーティーのようなものでも開いて、皇子にたくさんの娘たちと会話をさせましょう」
 
「そんなことしなくても、めぼしい娘何人かとお見合いでもさせれば」
と言いつつ、グルセとしては、ライバルの将軍の娘・ラーレには取られたくないななどと考えています。
 
「もちろんパーティーには、フルバちゃんも参加するよね?」
「もちろん!」
とグルセは答えました。
 
それで皇后の提案で、夏至の夜(mid summer night)、パーティーが開かれることになったのです。
 

皇子の嫁選びだけでなく、有力貴族の子弟たちも参加して、各々の嫁選びをさせようということになります。国中から集まってきている領主の娘たちも、皇子様は高嶺の花(誤用)だとしても、誰か有力貴族の息子などに見初められたらと張り切りました。
 
「何を着て出ようか」
とアレナクサンは悩みましたが、
 
「ちょうど、シベル叔母様(アルマン候の妹)から、素敵なドレスが送られてきています。それを着ましょう」
と言って、ザベルは昨日届いたばかりの箱を開けました。
 
「きれーい!」
とアレナクサンは声を挙げました。それはアレナクサンも初めて見る、美しいブルーのドレスでした。
 
「ガンダーラ(アフガニスタンの地方名)で採れた染料(ウルトラマリン *)で染めたもので、金貨30枚(きっと500万円くらい)もしたらしいですよ」
 
「きゃー!」
とアレナクサンは声を挙げました。
 
「シベル様、そんなにお金あるんだっけ?」
「可愛い“姪”のために、奮発したと言っておられたそうで。皇子様の赤ちゃん産んでねと言っておられたそうです」
 
「産めないよぉ」
 
と言いながらも、アレナクサンはドレスを見につけてみました。凄く華やかな気分になりました。
 
(*)ウルトラマリンは比較的古くからある顔料でラピスラズリを細かく砕いて作る。むろん物凄く高価なものである。現代で一般的な青の顔料・コバルトブルーはその代替品として19世紀に発明されたものである。
 

それでアレナクサンはカリナとザベルを連れて夏至の夜のパーティーに出ました。
 
アレナクサンの豪華なドレスは注目を集めます。仲の良いアイセ姫、ネシア姫も「なんか凄いドレス着てきたね」と言ってくれました。アイセ姫は白いドレス、ネシア姫は赤いドレスで、ふたりのドレスも充分美しいものでした。
 
会場には多数の男性も来ているので、アレナクサンはパーティーが始まってからたくさんの男性にダンスを申し込まれ、一緒に踊っては色々お話をしました。
 
何とか公の何とかとか、何とか伯の何とかとか色々言われましたが、とても覚えていられません。でもちゃんとザベルが書き留めてくれていたようです。
 
途中、アイセ姫やネシア姫とも何度も遭遇します。
 
「たくさん踊って目が回りそう」
「私も!」
 
アイセ姫は23歳、ネシア姫も21歳と年齢が高いので、21歳になったばかりの皇子様のお嫁さんというのは最初から望んでもいないのですが、もっと年齢の高い貴族たちも多いですし、ふたりとも結構可愛いので、このパーティーで結婚相手が決まる可能性もありそうです。
 

パーティーも始まってから3時間近く経ち、そろそろお開きかなという感じになってきた時、アレナクサンに声を掛ける男性がいました。
 
「アレナクサン、僕と踊ってよ」
 
アリムでした。何だか豪華な服を着ています。
 
「はいはい。あなたもこのパーティーに出ていたのね?」
「浮世の義理でね」
「宮仕えも大変ネ」
 
そういえば、王宮内でよく遭遇するし、お城の事務方か何かの仕事をしているのでしょうか。筋肉とかはそんなに付いていないし、武官とは思えません。
 
それでアレナクサンはアリムと踊り始めました。ふたりが踊っていると、みんなが場所を空けてくれて、何だか悪い気がしました。
 
彼と踊るのは初めてでしたが、彼は踊りもうまく、アレナクサンを上手にリードしててくれるので、とても踊りやすい感じでした。
 
「合奏もしようよ」
「ええ。でも楽器が」
とアレナクサンは言ったのですが、カリナが寄ってきて
 
「ネイ、ライナキ、ウード、持って来ております。ハープシコードは持ってきておりませんが」
と言います。
 
「ハープシコード抱えてこられたら凄いね!」
 

皇子がウード同士で合奏しようよというので、アリムのウードとアレナクサンのウードで合奏しましたが、その美しいハーモニーを聞いて周囲に人だかりができます。でも、いつも皇宮内の小川や泉のそぱで演奏している時もたくさん人に見られているので平気です。
 
1曲演奏した後で、
「今度はライナキを吹いてよ」
とアリムが言うので、ライナキを持ち、アリムのウードとアレナクサンの横笛で合奏しました。しかしそもそも横笛の音を聴くのが初めての人も多かったようで
「美しい音がする笛だ」
と言っている人も多くありました。
 
演奏が終わるとたくさんの人が称賛の声をあげ、布を振る人も多数いますし、アレナクサンに小袖を渡す女性もいます(服を渡すのは最大限の称賛の意味。日本でも鎌倉時代初期までこういう風習があった。とりかへばや物語の“若君”はたくさん自分の服を配っていて足りなくなり自室に取りに来て、妻の浮気現場を見てしまう。源頼朝は静御前に自分の服を渡している)。
 

そしてアリムのウードの伴奏でアレナクサンが歌を歌うと、その美しい歌声に更に称賛の声が集まるのでした。
 
アイセ姫が寄ってきて
「アレナクサン、ほんとに歌が上手いね」
と言いました。
 
ネシア姫は
「その横にして吹く笛、私も欲しいー」
と言います。
 
「職人さんに作らせて1本贈るよ」
とアレナクサンはカリナを見ながら言いました。カリナも頷いています。
 

皇帝陛下がおいでになりますので、アレナクサンは会釈して、下がろうとしました。ところがアリムがアレナクサンの手を握って離しません!え?なんで?と思いますが、アリムが手を離さないのでその場に留まります。
 
「アリム、よい姫が見つかったか?」
と皇帝は言いました。
 
「はい、私はこの娘アレナクサン・アルマンと結婚したいのです」
とアリムは言いました。
 
アレナクサンはアリムから「結婚したい」と言われたことより、なぜアリムがそんなことを皇帝陛下に言うのか理解できませんでした。
 
「そうか。それでは後日、正式発表を。アルマン候の姫君であったな。よろしくな」
と言って、皇帝陛下は向こうに行かれました。
 
「じゃ後でお使いをやるから」
とアリムもアレナクサンに言い残して皇帝の後に続いて向こうに行ってしまいました。
 

アイセ姫とネシア姫が寄ってきて
 
「アレナクサン、おめでとう!凄いことになったね。皇子様に見初(みそ)められるなんて」
 
と言います。
 
アレナクサンは全く事情が分かっていません。
 
「アリムって、まさか皇帝陛下の親戚か何か?」
と尋ねました。
 
「何を言ってるの?ファルマー・アリム・カエサル、皇太子様じゃない」
とネシア姫が言います。
 
「え〜〜〜〜〜〜!?」
とアレナクサンは超絶驚きました。
 
「皇子様、アレナクサンと凄く親しそうだった。もう何度か抱いてもらったんでしょう?聞いてなかったの?」
とアイセ姫。
 
抱いてももらってないけど・・・まさかアリムが皇子様だなんて、思いもしなかったよぉ、とアレナクサンは思いました。
 

アレナクサンは想像(妄想?)しました。
 
アリムと盛大な結婚式をあげる。そして夜になってアリムの部屋に召される。
 
「君が欲しかったよ」
と言われて、ベッドの上に押し倒され、裸に剥かれる。
 
「君可愛いね」
などと言われてキスされる。
 
ところがアリムがアレナクサンの胸を触ると
「君、おっぱい小さいね」
などと言う。
 
「まだ12歳になったばかりなので」
「そうか。その内大きくなるかな」
などとアリムは納得するが、その小さなおっぱいを舐められる。
 
「してもいいよね?」
などと言って、アリムの手がアレナクサンのお股に伸びる。
 
「僕が入れる場所はどこかな?」
などと言って、手でまさぐられる。
 
「あれ?穴が見つからない」
 
あはは・・・
 
「あれ?なんか変なものがある。これ何?」
「えっと・・・それはすりこぎです」
 
「どうして君、こんな所にすりこぎ入れてるの。あれ?ここにも変なものがある」
「えっと・・・それはお手玉です!」
「君、どうしてこんな所にお手玉なんか入れてるの?これどけてよ」
とアリムが言いますが、アレナクサンは、どうしたら、アレナクせるのだろう?と悩みました。
 
そこまで空想(妄想)した所で、アレナクサンは声に出して言いました。
 
「まずいよぉ」
 
アレナクサンが悩んでいるようなので、ネシア姫が心配して言いました。
 
「どうしたの?もしかして月の者が来てる最中?」
 
「そういう時は殿方を酔い潰して、2〜3日は結合する余力がないようにしておくといいよ」
などとアイセ姫は言いました。
 
 
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【アレナクサン物語】(1)