【夏の日の想い出・虹の願い】(1)

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2021年11月27日(土)友引・“さだん”。
 
私の長年の友人で、スターキッズの正ピアニストでもある近藤詩津紅(しづく)が★★レコードの八雲真友子課長の弟・氷川来瞳(らいどう)と結婚式をあげた。詩津紅は妹の妃美貴(ひびき)とともに、長年私のアシスタントも務めてくれている、
 
2人は天然女子(詩津紅)と天然男子(来瞳)の結婚である!
 

2人は2019年3月の震災復興支援イベントで知り合い、2019年秋頃から恋人として交際を続けてきた。コロナ下での交際は大変だったようだが、この夏に結婚することを決め、来瞳が詩津紅にダイヤの指輪を贈った。
 
2020年1月頃、来瞳が小平市の詩津紅の実家を訪れた時。
 
スーツで決めた来瞳が詩津紅の両親に名刺を出すと、
 
「ひかわ・くるみさん?」
と“氷川来瞳”の名刺を見たお母さんから言われる。
 
「いえ“らいどう”と読むんです」
「びっくりしたー。詩津紅が女の子と結婚するのかと思った」
「わりとそう読まれちゃうんですよ」
「らーちゃん、スカートも似合うけどね」
「ちょっと。ちょっと誤解を招くようなこと言わないでよ」
「FTMさん?」
「いえ、天然男子です」
「取り敢えず男性能力はあるみたいね」
「ちょっとぉ」
 
などというやりとりはあったものの、どうも普通の男子と普通の女子の交際ということは理解してもらえたようであった。
 

詩津紅が氷川家を訪れた時が、もっと大変だった。
 
詩津紅がレディススーツ(スカートタイプ)を着て、来瞳と一緒に東村山市の氷川家を訪れ、名刺(サマーガールズ出版の名刺ではなく、当時勤めていた?会社のほうの名刺)を出すと
 
「こんどう・しづおさん?」
などと言われる。
 
なぜ、そう読む〜〜〜〜!?
 
「いえ、“しづく”です」
「ああ。じゃ女性的な名前に改名したんですね?」
「いえ、生まれた時から、しづくです」
「もしかしてFTMさん?」
「いえ。普通の女のつもりですが」
 
「え〜〜!?スカート穿いてるからてっきり男の娘さんかと」
 
この家ではスカート穿いてたら男なのか〜?
 
そういえば真友子さんのスカート姿なんて見たこと無い。
(★★レコードの制作部には圧倒的にパンツ女子が多い)
 

「お母ちゃん、詩津紅は天然女子だよ」
「だって、あんたが女の人と付き合うなんて」
「僕の基本的な恋愛対象は女の子だよぉ」
「だって去勢してたよね?」
「そんなの、してない」
 
「わかったレスビアンなのね?」
「ヘテロだよぉ」
 
ということで、普通(?)の男子と普通の女子の交際であることを理解してもらうのに、かなり苦労した!
 
「じゃ偽装結婚とかじゃなくて、本当に付き合ってるのね」
「僕は詩津紅を愛してるから」
 
「だったら赤ちゃんができる可能性もあるの?」
「本当にできるかどうかは分からないけど、できる可能性はある」
「だったら、あんた去勢する時は、その前に精子の冷凍を造って」
「去勢とかしないって」
 
「ごめんなさいねー。うちの子供たちって、みんな複雑な結婚してるから」
 
うーん。確かに真友子さんは性転換して女になった人とレスビアン婚したけど、他にも色々あるのか??
 
「私は様々なセクマイには理解があるつもりですが」
と詩津紅が言うと
 
「ああ。だから、あんたみたいな子と結婚してくれるのね」
とお母さんは何か納得していた!
 
でも、来瞳は結局母に
 
「せっかく生殖能力のある女性と結婚するならまだ精子がある内に」
 
と言われて冷凍精液を3本作った!
 
(禁欲が凄く辛かったようである。たくさん妨害してあげたらしい:楽しそうだが)
 

そういう訳で、2人は2年半にわたって愛を育んでいき、2021年12月27日(土)の結婚式に至ったのである。
 
ふたりは都内のホテルの神式結婚式場で、朝9時から結婚式をあげ、10時からネット形式で祝賀会をおこなった。
 
結婚式に出席したのはこういうメンツであった。
 
氷川家(8人)
来瞳の両親、華桜(はなみ)姉とその夫、来布(らいぶ)兄とその夫、真友子姉と妻
 
近藤家(8人)
詩津紅の両親、妹の妃美貴、伯母夫婦、叔父夫婦、従弟の康宏
 
双方最大8人ということでこういうラインナップになった。
 
氷川家の2人の男の子(華桜かおう・来瞳らいどう)の名前は、胎蔵界5仏の開敷華王如来・天鼓雷音如来から来ている。各夫婦の性別と結婚形態はこのようになっている。来布(らいぶ)は来布子(きぬこ)から改名した。華桜(かおう)は高校卒業後すぐに市役所に届けることで読み方を「はなみ」に変更したが、後に裁判所の審判を経て性別も変更した。
 
華桜 MTF(女男婚)夫 FTM
来布 FTM(男男婚)夫 天然男子
真友子 天然女子(女女婚)妻 MTF
来瞳 天然男子(男女婚)妻 天然女子
 
来布は法的な性別を変更しないまま夫と結婚した。真友子と妻(礼江)の結婚も礼江が法的な性別を変更しないまま真友子と結婚した。そのため、こんなに変則的なのに全員、法的に婚姻しているのである。
 
華桜と夫の結婚は、双方法的な性別を変更した上で結婚した。双方性転換前に生殖細胞を保存していて結婚後、代理母さんに子供を産んでもらい育てている。法的には特別養子だが、本当はふたりの遺伝子的な実子である。(子供を作ってから性転換手術を受けると法的な性別が変更できなくなるのでこういう変則的なことをしている)
 
4きょうだいの中で、スカートを穿くのは、MTFの華桜と、来瞳のみ(*1)で、まさに“この家でスカートを穿くのは男の娘”だけだった。真友子も中学高校の制服以外ではスカートなど穿いたことがない。
 
詩津紅の叔父などは相手の親族関係がたぶん分からなかった。礼江などは真友子たちの妹と思っていたようだ。
 

(*1) 本人に女性指向は無い(本人談)が、姉たちに穿かされていたので自分のスカートを10枚くらい持っていた。そのため来瞳はスカートを穿くことにほとんど抵抗がなかったという。
 
詩津紅と交際し始めたのでスカートは全部処分しようとしたものの、詩津紅から
「スカート穿いていいんだよ」
と言われたので、結構詩津紅の前では穿くようになった。それで同棲開始以降スカートの枚数が増えている。
 
下着も女物を着けるようにさんざん唆しているようだ。取り敢えず後ろ手でブラを留められるようになったし、ショーツは50枚くらいタンスに入っているとか(男物のパンツは既に無いのでは?)。最近は小便器を使わなく(使えなく?)なったらしい。
 
「スカート穿いて会社行く?」
「それは叱られる〜」
「らーちゃんの会社なら理解してもらえると思うけどなぁ」
「その方面に理解されたくない」
 

足のむだ毛と顔のむだ毛は、詩津紅に唆されてレーザー脱毛してしまった(ヒゲ剃りしなくてよくなって楽だと喜んでいる)。
 
お化粧も指導してあげたらだいぶうまくなったとか。先日はエスティローダーのセットを一緒に買ってシェアしたらしい(仲良きことは美しき哉)。
 
入れられた経験は(本人の弁では)無かったらしいが、入れてあげるとかなり気持ち良さそうにしているらしく、最近は「入れて入れて」とねだることもあるとか。でも入れられた後はやはり痛いらしく、ナプキンを着けている。
 
でも数年後には、2人は実質的なビアン婚になってしまうかも知れない!?
 
母に言われて交際開始間もなく精液を冷凍したのは正解かも。
 
「じゃ私の妊娠中は、女装で私の代理務めてね」
 
彼は音大のピアノ科出身で、詩津紅よりピアノが上手い。
 
「ぼくは会社があるよ〜」
「妊娠・出産に伴う休職ということで」
「さすがに認めてもらえない」
 
「私の代わりにらーちゃんが妊娠出産してもいいけど」
と詩津紅が言うと、悩んでいた!?
 

祝賀会で、私は詩津紅の求めに応じて『君に届け』 をキーボードの弾き語りで歌ったが、詩津紅が「冬と一緒に街頭ライブとかもしてたね」と懐かしそうに言った。
 
ここで詩津紅と私は“女友だち同士”と思っている人が大半なので。大きな問題は無かった!
 
(なんか人間を性別で分類するのは意味が無いのではという気がしてきた)
 

2007年6月9日(土).
 
14年前。私が“フェイクボーイ”をしていた高校1年の頃、私は毎日放課後体育館の用具室に置かれたピアノを弾きながら、詩津紅と2人で歌を歌っていた。最初の頃は私は男子制服を着ていたのだが、6月1日から衣替えになると、私は女子制服を着て放課後体育館に行き
 
「おお、可愛い!それで授業に出てるの?」
などと言われる。
 
「出ないよ〜。放課後だから着てみた」
「それで授業に出ても誰も何も言わないと思うけどなあ」
 
それで9日は
「せっかく女子制服着てるなら、それで街頭ライブに行こうよ」
と言われて、私たちはこの土曜日の午後、三鷹駅前に出たのである。
 
詩津紅は
「新宿行こう」
と言ったものの、
 
「いきなり新宿って無茶〜。国分寺あたりで」
と私が言ったので、妥協点として三鷹になった(*2)
 
(*2) 中央線の主な駅
 
高尾−八王子−日野−立川−国立−西国分寺−国分寺−武蔵小金井−武蔵境−三鷹−吉祥寺−荻窪−中野−新宿
 

詩津紅が、カシオトーンSA-75(mini37鍵1.5kg)をネックストラップで吊って伴奏し、2人で、流行りの歌などを歌った。
 
女子高生2人が制服で歌っていると、わりと目立つので、足を停めて聴いてくれる人もあった。
 
「君たちの名前は?」
と訊かれたら、詩津紅が
 
「“綿帽子”です」
と答えたので、私たちのユニット名は“綿帽子”になった。
 
「君たちCDとか無いの?」
と言われると、詩津紅は
 
「今作ってる所なんです。来週にはできてるかな」
などと言う。
 

そして詩津紅は翌日の6月10日(日)、(女子制服姿の)私を連れてカラオケ屋さんに行った。
 
「ここのカラオケ屋さんは録音したものをCDにしてくれるサービスやってるんだよ」
「へー」
 
そのカラオケ屋さんに入ろうとしていた時、空に大きな虹が架かった。
 
「きれーい」
「大きな虹だね」
「副虹も出てるよ」
 
その虹を見ていて、私は突然インスピレーションが浮かんだ。
 
「詩津紅、何か紙無い?」
「これで良ければ」
と言って、詩津紅が五線紙をくれたので、私はインスピレーションが浮かぶままに五線紙に音符を書き綴っていった。
 
「可愛い曲だね」
「うん。これ・・・・で完成かな」
「それに歌詞を付けていい?」
「うん。任せた」
 
それて詩津紅は、その曲に合わせて歌詞を書いてくれた。虹を見詰める女の子が恋の思いを語る可愛い詩である。
 
「おお、可愛い!」
「これ今日吹き込もうよ」
「いいかもね」
 

それでその日は、この『虹の願い』という曲、それから昨年中学の修学旅行の時に書いた『ダイアモンド・ウェイブ』(『金剛波羅蜜多菩薩』を改題!)、そして昨日の路上ライブで好評だった、レミオロメンの『粉雪』、平井堅の『瞳を閉じて』を吹き込んだ(著作権使用料とか何も考えてない)。
 
それでCDをお店から受け取ったが
「これコピーしてくるよ。メディア代、半分こしない?」
「OKOK」
 
それで私たちはこのCDをコピーして100枚も作ったのである。レーベルには私が虹と女の子の絵を描いて、それをプリントした。
 
それで6月16日(土)にこれを持って街頭ライブに行くと、60枚も売れたので、びっくりした。このCDは7月までに全部で300枚くらい売れたと思うが、さすがにこのCDを今持っている人は居ないだろう。
 

と思っていたら、持っている人がいたのである!
 
「ああ、綿帽子の『虹の願い』持ってるよ」
と千里は言った。
 
「なんでそんなの持ってるの〜?私でさえ、どこかに行ってしまって持ってないのに」
と私は言った。
 
「いや、当時私、インターハイに出る直前でさ、私が本当に女かという検査を受けさせられたんだよ。その時、偶然女子高生2人組の街頭ライブを見かけてさ。あ、うまいじゃんと思ったからCD買った」
と言って、翌日にはそのCDを持って来てくれた。
 
(よく見つけ出せるものである。私なら14年前に買ったCDを見つけ出すなんて絶対無理)
 
「何ならあげようか?」
「いや、コピーさせてもらうだけでいい」
と言って、私は千里が持っていたCDをコピーさせてもらった。
 
それで音源どころか譜面も行方不明になっていた、『虹の願い』『ダイヤモンド・ウェイブ』が蘇ることになったのである。
 
「ちなみに性別検査の結果は?」
「私の骨格が女子の骨格だから、思春期前に女性化を始めたのが確実ということで、女子として出場していいことになったよ」
「なるほどねー」
 
今更千里の性転換時期を問題にしても無意味な気がする。
 
「卵巣と子宮が一瞬見えた気がしたのは、その後、画像に写らなかったから、きっと見間違いということで」
「ふむふむ」
 

『虹の願い』を聴いた八雲(真友子)課長はすぐに
 
「ローズ+リリーのシングルを作ろう」
と言った。
 
「この曲は売れるよ」
と八雲さんは嬉しそうに言う。
 
それで、結婚を目の前に控えているところを申し訳無かったが、詩津紅(作詞者!)にピアノで入ってもらい、12月上旬に、この曲を吹き込んだのである。
 
(なお歌詞は作詞者本人の手で、やや未熟な部分を修正した)
 
編曲は「冬の編曲はまだ良くない」と政子に言われて、結局、和泉がやってくれた。それで高校1-2年の時に、私が組んでいた3つのユニット、綿帽子・折紙・チューカラ、の揃い踏みの曲となったのである。
 
綿帽子:私と詩津紅のユニット
折紙:私と和泉のユニット
チューカラ:私と政子のユニット
 
綿帽子の詩津紅が詩を書き、折紙の和泉が編曲してくれた曲をチューカラが発展したローズ+リリーが歌ってリリースされる。
 
若葉は「冬の愛人揃い踏みだ」と言っていたが、私は少なくとも、詩津紅や和泉とは性的な関係を持ったことはない。
 

これ以外に先日書いた『恋するかれー』を入れて4曲構成にすることにした。
 
『虹の願い』
『恋するかれー』
『いつも太陽があるように』
『Dona nobis pacem』
 
『虹の願い/恋するかれー』の両A面である。
 
『いつも太陽があるように』はロシア語の歌詞からマリが日本語訳詞を書き、そのロシア語訳を添えて、著作権者に照会して既に使用の許諾を得ている。ロシア語で歌ったバージョンも収録した。『虹の願い』『恋するかれー』のカラオケ版も入れて7曲入りマキシシングルである。
 
『Dona nobis pacem』は次のような歌詞にした。
 
Dona nobis pacem pacem,
Dona nobis pacem.
Dona nobis pacem, Dona nobis pacem.
Dona nobis pacem,
Dona nobis pacem.
 
Agnus Dei, qui tollis peccata mundi, miserere nobis.
Agnus Dei, qui tollis peccata mundi, miserere nobis.
Agnus Dei, qui tollis peccata mundi, dona nobis pacem.
 
Dona nobis pacem pacem,
Dona nobis pacem.
Dona nobis pacem, Dona nobis pacem.
Dona nobis pacem,
Dona nobis pacem.
 
『Dona Nobis pacem (平和を我らに与えたまえ)』の通常の歌詞の後に、この歌の元になった賛美歌『神の子羊』を歌った上で、再度『Dona Nobis pacem』を繰り返している。この歌は全編ラテン語である!
 

11月28日(日).
 
『少年探偵団V』の撮影が始まった。第1シリーズが始まった時に16歳だったアクアも今年は20歳である。少年探偵団のメンツも毎年少しずつ入れ替わってきているが、元原マミ(23.花崎マユミ)、鈴本信彦(21.井上一郎)、松田理史(23.溝口洋平)、内野涼美(18.河野令子)、今井葉月(19.山口あゆか)の5人は第1シリーズからずっと出ている。
 
「でもとうとうアクアちゃんも20歳になっちゃったね」
と5年間の付き合いになった内野涼美が言う。
「内野ちゃん、もう体調は大丈夫?」
「うん。平気平気。あまり大した症状は出てなかったけど、陰性になるまでは出歩けなかったから。アクアちゃん、鬼六はありがとね」
 
「でも少年探偵団って何歳くらいまでやっていいんですかね〜」
「大和田獏さんが小林少年を演じた時は27歳だったよ」
などと小池プロデューサーは言っている。
 
「27!」
 

「アクアが27歳の時は僕はもう30歳か!」
と松田理史が言っているが
 
「すみません。さすがに27歳になる前にもっと若い人にお譲りします」
とアクア本人は言う。
 
「そうだね。27歳にもなれば、かなり女っぽくなるから、少年役は厳しいかもね」
などと元原マミが言うので、アクアは少し悩んだ。
 
「そうだ。その時は、アクアちゃんに、文代役をしてもらおう」
などと現在文代役をしている山村星歌が言っている。
 
「え〜!?明智先生の奥さん役ですか」
 
「なるほど。少年から夫人に昇格するんだな」
 
「小林少年というのは、そもそも明智探偵の愛人なのではという説はある」
「新しい奥さんになるのかな」
「そんな筋立てはさすがに乱歩大先生に叱られますよ」
 
「でも江戸川乱歩とか横溝正史とか、同性愛ネタ・女装ネタが多いよね」
「読者を幻惑するから使われるんだと思うよ。松本清張だって『時間の習俗』で使っている」
「辻真先の『迷犬ルパンの犬疑』は凄かった。美事に欺された」
 
今回はこの他に10人ほどが参加している。男女比は・・・よく分からない!なお、葉月は例によって、アクアのボディダブル兼任である。
 

初回の撮影では、黄金仏を巡る二十面相と少年探偵たちの知恵比べが描かれる。
 
村正貴金属工業の創業300周年の式典に北里ナナが招かれた。創立記念日は2月6日らしいが、お正月に合わせて式典を行うことにしたらしい。
 
会場は、横浜市内に1万坪の敷地を持つ同社社長・村正岩次郎氏の私邸で、3000坪の広大な庭に2000人の招待客が招かれてパーティーが開かれた。
 
この庭は女性がハイヒールでも歩きやすいように、煉瓦風のタイルを敷き詰めている。また今回のようなイベントをした時に迷子になりにくいように、中央が金と銀、周囲が赤・ピンク・オレンジ・黄色・ライムグリーン、水色、すみれ色、黒、グレイ、白と10色に色分けされている。
 
なお、ヒールが引っかからないようにタイルの間の溝のように見えるのは、ただ黒く着色されているだけで凸凹は無い。なのに、姫路スピカが“ヒールが引っかかった気がして”転んだので、その映像と言い訳する所が番組にも残された!!
 
撮影場所は白河市郊外にある、松河記念公園(旧松河宮御用邸)である。タイルも実際に敷かれているものである。ここに管理者の許可を取り、ハリボテの邸宅を建てて撮影した。
 
パーティーには、人気絶頂のバンド、ハイライト・セブンスターズ(H7S.本人達が出演!)、人気三つ子ユニットのドリーム・トライン(Δ△.演:姫路スピカ・南田容子・竹中花絵)、そして北里ナナ、のショーが行われた。演奏順はΔ△→ナナ→H7S.
 
なお、このシーンの撮影は密回避のため、実際に出演しているのは白河市内に住んでいるか通勤していることを条件に集めたエキストラ100人程度で、あとは合成によって、多人数いるように見せている(途中で服を変えてもらってから再度撮影している)。
 
エキストラには4日前から白河市内のホテルに入ってもらい、毎日検温して、最終日に全員陰性検査をしてから参加してもらっている(途中で2人感染が判明して降板した)。ハイライト・セブンスターズや北里ナナは新幹線は使わずに、放送局が用意したバスで現地入りしている。
 
邸宅内部の撮影は、テレビ局が東京北区の分室内に作ったセットだが、制作費が2000万円掛かっており、けっこうリアルっぽく見えるように仕上がっていた。
 
 

村正社長(演:風上信助)はご機嫌で、招待したアーティスト、ハイライト・セブンスターズ、ドリーム・トライン、北里ナナの3組に
 
「我が社の社宝をお見せしましょう」
と言い、私邸の奥へ招待する。
 
「なんか長い廊下ですね」
「邸内の廊下を一周すると120mありますから、トレーニングにいいですよ」
「うちのアパートなんて玄関から布団まで5mも無いのに!」
とハイライト・セブンスターズのテル。
 
「プロ球団がキャンプに来たりして」
 

 
最初に入った部屋は図書室のようで、天井まである本棚(積層書架)に大量の本が並んでいる。
 
「高祖父の代から集められたもので、書庫に入っているものまで入れると蔵書は20万冊です」
 
「どうかした図書館より多い」
「金属に関する世界中のありとあらゆる本が集まっています。金属について調べたいことがあったら、ここに来ていいですよ」
 
「あ、『鋼の錬金術師』がある」
「金属がらみですね。『武装錬金』もありますよ。江戸川乱歩の『青銅の魔人』や『大金塊』『怪奇四十面相』もありますし、ベビーメタルとか金属女給のCDも揃ってますね」
 
「メタルの範囲が広い!」
 

図書室からセキュリティゲート(社長の持つIDカードで開く)を通って入ったところは美術室のようであった。
 
「ここは様々な貴金属製品が展示されています」
と言って社長自ら案内してくれる。
 
「この付近は古今東西の様々な貨幣を展示しています」
 
「そこにあるのはリュディア金貨、別名エレクトロン金貨です。リュディアというのは、ミダス王が支配していた国です。ミダス王は“王様の耳はロバの耳”のエピソードでも有名ですが、ある時、自分の触れるものが何でも金(きん)になるようにという願いを叶えてもらった。ところが、人に触れるとその人が純金の彫像になっちゃうし、食べ物も金になっちゃって困った」
 
「物凄く迷惑」
「触られた人可哀想」
 
「食べ物が金になるので何も食べられず餓死しそうになって、神様にお詫びしたところ、パクトーロス川で身を清めなさいと言われた。それで金を生む力が川に移って、王は何かに触っても金にはならなくなったが、パクトーロス川では砂金が取れるようになった。その砂金でこの貨幣を造ったのが世界最古の貨幣とされるんですよ。BC7世紀頃ですね」
 
「へー!!」
 

社長は様々な金貨・銀貨にまつわるエピソードを語りながら、ナナたちを案内してくれた(*4).
 
慶長大判などもあり
 
「実物は初めて見た」
とヒロシが感激していた。(金メッキのレプリカで撮影!)
 
「これ今のお金にするといくらくらいなんですか?」
とスピカが訊く。
 
「慶長大判の重さは164.9gで初期に作られたものは金の品位が97%なので、金の重さは160gになって、金(きん)だけの価値でいえば136万円ですね。でも美術的価値・歴史的価値を合わせて、金の品位と保存状態がよければ2000万円くらいになります」
 
「思ったより安い気がする」
「価格より、神君・家康公から拝領した、とかいう名誉の問題じゃない?」
「だよねー。今ならオリンピックの金メダル並みの名誉だよね」
 
「そうそう。名誉という意味が大きいと思う」
と村正社長も言っていた。
 
(*4) 美術室に並んでいる古貨のように見えるものは、複数の美術大学に依頼して生徒たちに制作してもらったもの。
 

純金でできた鉄琴もあり、
「弾いていいですよ」
と言われるので、姫路スピカが演奏する。
 
「これが純金の音かぁ!」
とみんな感動していた。
 
(雨宮先生が所有する18金鉄琴を使用している。C6-C8の25鍵で、金の重さは5200g, 金の価格だけで4500万円。実際の購入費は1億円だったらしい。純金で鉄琴を作ると柔らかすぎて演奏不能だと思う。雨宮先生の自宅からの移動往復は警備会社にお願いしたし、高額の保険も掛けている)
 
美術室を一周した後、村正社長は
 
「皆さんにとっておきのものをお見せしますよ」
と言った。
 
↓村正邸略図

 
美術室の端にセキュリティゲートがあり、社長の持っているidカードで開ける。細い通路があり、その先のゲートを社長は自分の掌を当てて開けた。北里ナナと勘のいいヒロシを除いては、みんなタッチ式自動ドアと思った。
 
入った所は小さな仏殿であった。広さは6m四方くらい(十二畳程度)だろうか。その小さな部屋の周囲の壁には4つの仏絵が描かれている。
 
「南に釈迦如来、西に阿弥陀如来、北に弥勒菩薩、東に薬師如来が描かれています」
 
「この絵は新しいものですね」
「はい。昭和40年代にこの仏殿を作った時に日本画の谷川光源先生に描いて頂きました」
「わぁ」
 
「但し劣化しないように、原画は別に保存してあって、これはその拡大模写ですが」
「ああ」
「原画はこの絵の半分くらい、約100号の作品です。現在の絵は1990年代に当時1000万円ほどしたプリンタで精密に原画を再現印刷した2代目なんですよ」
「へー」
 
「でも仏像がなんか凄い」
 

この小さな部屋の中央に1m四方ほどの台があり、その中央に高さ30cmほどの金ぴかの仏像が立っており、その周囲を取り囲むように、高さ10cmほどの同じく金ぴかの仏像が12個並んでいる。
 
「薬師如来と十二神将ですか?」
とヒロシが尋ねた。
 
「そうです。よくお分かりですね」
「いや、眷属が12体だから当てずっぽです。僕は仏像の種類を見分けきれません」
 
「専門家でも意見が分かれるものはあるみたいですよ」
と社長は言っている。
 
「でも二十八部衆なら千手観音で、八童子なら不動明王で、十二神将なら薬師如来かなと」
 
「お若いのに、よくご存じですね!」
と社長は感心しているが、きっとゲームとかで覚えた知識だろうなとナナは思った。
 

「でもみんな金ぴかできれーい」
と姫路スピカが言ったのだが、北里ナナはハッとしたように
 
「もしかして、これ純金ですか?」
と言った。
 
「そうなんだよ。この薬師如来、十二神将、全部ほぼ純金でできている」
 
「ひぇー!?」
という声があがる。
 
「ほぼ、というと?」
「23金、約95%の金だそうです。本当の純金だと柔らかすぎて細かい細工ができないんですよ」
「そうでしょうね!」
 

「専門家に鑑定してもらった所、薬師如来は室町時代の仏師・円剛の作ではないかということ。十二神将は恐らくその弟子の作品だろうと言われました」
 
「これとんでもなく高価なものという気がする」
 
「重さは、中央の薬師如来が約110kg, 周囲の十二神将は各8-12kg、全部合わせて240kgくらいで、その内の金(きん)の重さは約230kg。金(きん)の価値だけでも、20億円くらい。美術品としての価値を考えると100億円くらいというのが鑑定士さんの意見でした」
と社長は笑顔で解説する。
 
「うちの会社は明治時代に大きく発展したんだけど、その時、銀行からお金を借りるのに担保を求められてこれを見せたら、いくらでも貸してくれたらしいよ」
「へー!」
「もうお金は返して担保権も消滅してるけどね」
 
「なんか凄い目の保養だ」
とスピカが言っている。
 

「あのぉ、写真とか撮ったりしてはいけませんよね?」
「いいよいいよ。但し10cm程度以内まで近づくと警報が鳴るから気をつけてね」
 
というので、みんな写真を撮っていた。ハイライト・セブンスターズが仏像の前に並んだ所をスピカが写真を撮ってあげて、ドリーム・トラインが並んだ所をナナが撮ってあげて、ナナが仏像の前に立った所をヒロシが写真に撮ってあげた。
 
「いや、すごい体験をした」
と言って、全員引き上げる。
 
そして、美術室を通り、図書室を通って、玄関まで出た所で、何か揉めてる!?
 
「どうした?」
と社長が声を掛けた。
 
「はい、それが」
と執事っぽい人(演:秋川是則)が答えて、説明した。
 
「さきほど、社長宛に速達が届きまして“至急開封のこと”と書かれているので何事かと思いまして私(わたくし)が開封しました。そしたら、これなのです」
 
と言って見せるので、結果的にナナたちにも見えた。そこには大きな文字で、このような文章がプリントされていた。
 
《村正岩次郎氏所蔵の薬師如来像を偶然にも拝見した。大変素晴らしいものだと思うので、我がコレクションに加えることにした。ついては御社創立記念日の2月6日に頂きに参る。なお十二神将もお頭(かしら)が居ないと寂しいだろうから一緒に連れて行くことにする/怪人二十面相》
 

村正社長は、千代田区采女町の明智探偵事務所を訪れた。
 
「お電話でも申したように、明智は今政府からの依頼でポーランドに出張しているんですよ」
 
と応対に出た文代夫人(演:山村星歌)と小林少年(演:アクア)は申し訳無さそうに言った。
 
「ええ。でも助手の小林さんも大変な名探偵であると聞いております。最初、警察に行ったのですが、警察では犯罪を未然に防ぐための警備とかまではできないと言われまして。警備会社に相談してくれと言われたので、警備会社にも一応依頼して、現在ガードマンさんに24時間交替で警戒してもらっています。でも警備会社さんも相手が二十面相では、自分たちの手に余ると言われまして、それでやはり二十面相に対抗できるのは、明智探偵だけだと聞きまして」
 
「取り敢えずお話だけでも聞きましょうか」
 
それで村正氏は、黄金の薬師如来・十二神将像の概要と、聞いている範囲のいわれ、また鑑定家に見てもらって、金の含有率が約95%で純金に近い素材でできていること、金の価値だけで20億円、美術品の価値は100億円と言われたことも語る。
 
まずは実物も見てもらいたいということになり、花崎まゆみ(元原マミ)に留守番を頼んで、文代と小林は村正邸に出掛ける。
 
「広い敷地ですね」
「明治時代だから確保できたのだと思います。今、横浜市内に1万坪の敷地は買おうと思っても買えませんよ」
「そうでしょうね!」
 
敷地内にはきれいに整形されたフランス式の庭園があり、大きな池なども作られている。1000坪ほどありそうな邸宅(実際には700坪:図面参照)の前面に3000坪ほどの煉瓦風のタイルを敷き詰めた庭があり、ここで先日は創業300周年のパーティーをしたということであった。
 

玄関の所に座っている2人の女性警備員さんに会釈して中に入る。
 
警備員さんは動きやすいジャージ生地の膝下スカートで、黒のタイツを穿いている。靴は黒のスニーカーである。パンプスやローファーは見た目はいいがいざという時に充分な運動能力を発揮できない。スニーカーは賢明だと思った。しかしこの家は来客が多いだろうから、威圧感を与えないために女性の警備員なのかな??
 
村正氏が邸の中を案内していく。自動ドアを通って図書室に入り、idカードでセキュリティゲートを開いて美術室に入る。
 
その端に女性警備員が座っている。社長は警備員さんに会釈してから、そこのゲートをまたカードで開いて狭い通路に入る。3mほどの通路の先のゲートは村正氏が掌を置いたらゲートが開いた。
 
「掌紋認証ですか」
と文代が訊く。
 
「いえ。掌形認証です」
「ああ、そちらですか」
「最初掌紋認証を考えたんですが、あれは本人でも通らないことがあって」
 
「ああ、あります、あります」
「手が荒れてたりすると通りませんね。指紋認証もですが」
「掌形認証なら体調とかに左右されないんですよ」
「なるほどですね」
 
「登録しているのは、うちの家族、10年来雇っている執事、副社長と専務、20年前から雇っている掃除婦だけでしたが、警備員さんに入ってもらうことにしたので、その警備員さんたちの分も登録しました。後で、良かったら奧さんと小林さんの掌も登録させて下さい」
 
「お願いします」
 
「このゲートの素材はステンレスですか?」
「そうです。美術室との間の通路もです。最も壊しにくい金属ですよ。厚さ10cmありますから、ダイナマイト程度では破壊できないです」
と社長は言っている。
 
それで仏殿に入る。
 

ここにも女性警備員が座っている。社長はこの警備員にも会釈した。警備員さんが会釈を返す。この社長さん、腰が低いなと小林は思った。やはり基本的に商売人なのだろう。
 
壁に四方仏が描かれている。
 
「すみません。その釈迦如来の絵の所だけ他と違う気がするんですが」
と小林が言う。
 
「さすがですね。ここは納戸なんですよ」
 
と言って、社長はそこの壁のような見える部分を開いてみせた。壁が蛇腹状に開いた。奥行き1mほどの棚のようなものが作られているが物は置かれていない。全面棚なので、少なくとも大人(おとな)が隠れるのは困難っぽい。
 
「まあここに隠れられるのは小学生くらいかな」
と社長は言っている。
 

棚の扉を閉める。
 
部屋の中央の四角い台座・中央に薬師如来像、周囲に十二神将像が円形に並んでいる。
 
「これが23金ですか。凄いですね」
と文代が言う(*6).
 
「10cm程度以内に近づくと警報が鳴りますから気をつけてくださいね」
「赤外線センサーですか?」
「そうです。台座の周囲に赤外線センサーが設置してありますから、体温のある者が近づけば猫でも反応します。万一二十面相が冷血人間で体温が10度くらいだったら反応しないかも知れませんが」
と言って村正氏は笑っている。
 
それって、何か抜け穴にならないか?と小林は考えた。
 
「この仏殿の造りは、コンクリートですか?」
 
「そうです。壁は厚さ1mのコンクリートです。いちばん内側はドアと同じ10cmのステンレスです。その内側に合板を貼り付け、そこに四方仏の絵を固定しています」
 
「なるほどー」
 
「万一コンクリートを破壊してもステンレスはまず破壊できません。屋根も厚さ30cmのコンクリートの上にステンレスで八角形の屋根が作られています。いづれも破ろうとすれば警報がなりますけどね」
 
「まあ、二十面相のこれまでの手口からすると、TNT火薬で爆破して盗み出すみたいな荒っぽいことはしないでしょうけどね」
 
「警備会社の方もそう言っておられました。だから入退室に注意を払った方がいいと言われたんですよ」
 
それで、玄関に2人、仏殿通路の入口に1人、仏殿内部に1人、座ってもらっている訳だ。立たせるのではなく座らせるのも、この社長の優しさを感じた。また仏殿内と通路入口の所にカメラが設置してあり、玄関の所の警備員が見られるようにしている。万一、内部の警備員が襲われたりしても、外の警備員が気付いて駆け付けることができる。それに100kgの仏像はひょいと抱えて逃げられるようなものではないので、運び出すには結構な手間と時間が掛かるはずだ。
 
警備員は4人居るので、トイレに行くような場合も監視が途切れることはない。入口や内部の警備員がトイレに行きたい時は、玄関の所の警備員が1人交替に行くようにしている。警備員は6時間交替である。4人1組で8組のチームがこの警備に参加しているということであった(つまり2日に1度6時間監視する)。32名である。村正氏は32人分の料金を警備会社に支払って専任になってもらっている。また、警備中に眠くなったりしないよう、玄関→通路入口→玄関→仏殿内と90分ごとに場所をローテーションするようにしている。
 

「今日は女性警備員さんばかりですね」
「全員女性の警備員さんでお願いしています」
「へー」
「実は過去の二十面相の手口を私なりに研究してみると、使用人とか警備員・警官とかに変装して浸入する手口がひじょうに多いんですよ」
 
「確かに多いです」
と文代も言う。
 
「それで身長168cm未満の女性の警備員さんでお願いすることにしたんですよ。身長が条件に合っていれば、男の娘さんでもいいことにしました。実際2名の男の娘さんが参加しているらしいですが、私には見分けが付きません」
 
「最近は男の娘のレベルが上がっているから」
 
「二十面相は女にも化けるらしいですが、身長は高く装うことはできても低く装うことはできないはずです。だから二十面相が女に化けて警備員の振りをしても身長でバレますよ。二十面相の身長は警察に捕まった時の身体検査で173cm(*5) と判明しているらしいので」
 
「うまいですね」
 
「女性警備員のユニフォームはスカートタイプとズボンタイプがあるそうですが、全員スカートタイプでお願いしています。男が女に化ける場合、スカートの方が難易度が高いですから」
 
「なるほどー」
 
「まあ女の手下もいるかも知れませんが、手下は頭(かしら)ほどはデキないでしょうし、女の腕力では100kgを動かせませんから」
 
「よく考えられてますねー」
と文代は感心した。
 
「警備員や使用人のふりをして賊が侵入したりしないよう、警備会社さんが開発した認証アプリを全員スマホに入れてもらっていますから、部外者は識別できますし」
 
「凄い」
 
小林は腕を組んで考えていた。この警備の中、自分が二十面相なら、どうやって、仏像を盗み出すだろうと。二十面相は何か勝算があったはずだ。
 
(*5) 怪人二十面相の身長は江戸川乱歩の原作では明示されていない。しかし何度も警察に捕まっているので身長は計測されたはずである。173cmというのはこのドラマの中の設定。実は怪人二十面相を演じている大林亮平の身長である!
 

小林はふと気付いて質問した。
 
「社長、この台座は高さ50cmくらいありますよね。中は空洞ですか?」
 
「さすが小林さんは注意力が鋭い。お見せしましょう」
と言って、村正社長は、電子鍵で壁の所にあるふたを開けると、中のボタンを操作した。
 
「あっ、下がって行く」
 
「実はこの仏像はまるごと台座内に収納できるんですよ」
 
みるみる内に仏像が載っている板が沈んで行き、全て台座内に入ってしまう。そして脇から新たな板が出て来て、仏像の上を覆ってしまった。何も無い台座だけが見える状態になる。
 
「コンバーチブル車のハードトップみたいなものですね」
「そうです。そうです。あれと同じ仕組みです」
 

「元々普段は台座内に収納していて、お客様があった時だけ上にあげていたのですが、二十面相の予告状が来てから、警備員さんを入れた後は、ずっと上にあげています。台座内に収納していた方が盗まれにくいかも知れませんけど、人間の目でそこにあることを見ていたほうがより安全ですからね」
 
「なるほどー」
と文代は感心していた。
 

警備会社の人事担当は、応募してきた21歳の女性と面談していた。
 
「ああ、これまで食品会社に勤めておられたんですか」
「はい。そこが不況で人員整理があって、退職したんです」
「なるほどですね」
 
都内の高校を出た後、1年間ビジネス専門学校に通い、その後、その会社に1年半ほど勤めていたということである。
 
「警備会社を志望なさった動機は?」
「中学・高校時代に柔道をやっていたので、もしかしたら採ってもらえないかなと思って。警備の仕事で女性しか使えない場所ってあるから、わりと貴重なのではと思って」
 
それであらためて履歴書を見ると「柔道四段」と書かれている。
 
「柔道四段って凄いね!」
と人事担当者は言った。女性の腕を見ると結構太い。腕を見ただけで信頼感を感じる。担当者が腕を見ているようなので彼女は言った。
 
「100kgのバーベル上げれますよ」
「凄い!」
 
「柔道の段は、インターハイでBEST8まで行ったことがあるので、それを評価してもらったみたいです」
「インターハイに出たって凄いじゃん」
と言ってから、人事担当者はあることを思いついた。
 
「君、身長は何cm?」
「159cmなんです。背の低いのだけが悩みで。男と間違われることがないのはいいんですけど」
 
「君採用!」
と人事担当者は言った。
 

1月26日(水).
 
この日、政府の依頼によるポーランドでの仕事を終えた明智小五郎がやっと帰国した。空港での検査で陰性が確認されたが、10日間の自宅待機となる。
 
この日数の数え方は、18時までに帰国して誓約書を提出、アプリで登録した場合、翌日(27日)を1日目と数えて、10日目(27 28 29 30 31/ 1 2 3 4 5)の2月5日23:59まで自宅を離れられない。万一自宅から遠く離れたりすると、最悪氏名公表(接触した人に注意を促すため)などの処分が課される。
 
自宅では、個室で家族とも接触しない状態で過ごし、食事も紙の使い捨て食器に盛り、文代さんが部屋のドア前に置き配する。トイレに行く時はメッセで報せて家族と接触しないようにし、トイレ使用後は消毒する。手拭きなどを共用しない(小五郎は自分のハンカチで手を拭く)。風呂は必ず最後に入る。着替えも洗濯機には入れず、とりあえず部屋に置いた洗濯籠の中に置いておく(出張中の服と隔離5日目に洗濯したが、文代はマスクをして使い捨て手袋をして洗濯物に触った)。
 
一人暮らしの人の場合、自治体の食事配送サービスが利用できたのだが、今回のオミクロン最流行時には待機者が多すぎて自治体も手が回らず、このサービスが利用できなかったりして、かなりの苦情が出た。
 

要するに帰国はしたものの、直接小林が会うこともできず、文代ともできるだけ接触しないようにしなければならないので、外国に居るのと大差無い!
 
一応、スマホを通してのチャットで、文代と小林は明智に今回の事件に関する中間報告をした。
 
「うん。その方法で問題無い。相手はこちらの心理の隙を突いてくるから、常に様々な可能性を考えて」
 
と明智は指示した。また村正社長に電話をして、帰国の報告をした。帰国はしたものの、自宅待機になっているので、10日後の2月5日23:59までは外出できないこと、しかし必要な処置は文代や小林を通じてさせるから安心してほしいということを伝えた。
 
しかし明智の声を聞き、とにかく国内に居ると聞いただけで、村正氏はかなり安心したようだった。
 

1月27日(木).
 
村正社長が朝、個人秘書の運転するレクサスLS500h に乗り、自宅を出て会社に向かおうとしていた。秘書がリモコンで門を開けようとしたら、門に何か紙のようなものが貼り付いていることに気付いた。
 
「何でしょう?ポスターでも飛んできて貼り付いたのかなあ」
と秘書は車を降りて紙を剥がした。
 
首をひねっている。
 
「どうした?」
と言って、村正社長が降りて見に行く。
 
「何でしょうね?これ」
と言って秘書が見せるのは、A4のPPC用紙に大きな文字で“10”と印刷されたものである。
 
「二十面相の予告だ。あと10日という意味なんだ」
と紙を握りしめながら村正社長は呟いた。
 
村正社長から電話で報告を受けた明智は言った。
 
「二十面相のいつもの手口ですよ。予告で相手を不安にさせるんです。惑わされないようにしてください。警備は現状でも充分なはずです」
 

1月28日(金).
 
“9”とだけ書かれた葉書が配達された。警察にも届けたが、大阪の郵便局で受け付けられたものということが分かっただけで、それ以上のことは不明だった。指紋などについても、多数の郵便局員の指紋が付いているだろうし、犯人は指紋を付けないように気をつけているだろうから何も分からないだろうという話であった。
 
1月29日(土).
 
朝7時、村正邸に電話が掛かってきた。ここの電話番号は電話帳にも載っていないし、会社でも、ごく少数の人間しか知らない。それで概して安心して取ることができる。
 
「はい、村正でございます」
と村正社長の奥さんが受話器を取って答えたら
 
「あと8日だぞ」
という男の声がして電話は切れた。
 
奧さんの様子が変なので、社長が訊く。
 
「どうした?」
「何かしら?男の声で“あと8日だぞ”って」
 
村正社長にはすぐ分かった。
 
「それは二十面相から、あと8日で仏像を盗みに来るという予告だ」
 
「え!?」
と驚いた妻は続けて
「きゃー!」
という声を挙げた。
 

1月30日(日).
 
村正邸の庭の芝生が7の文字に刈られていた。
 
「これ元に戻るまで数ヶ月かかる」
と庭師さんが憤慨していた!
 
1月31日(月).
 
玄関のドアの外側に6月のカレンダーが貼られていた。
 
玄関の所に詰めている警備員は怪しい人影は見なかったと言う。
 
「門、庭、玄関、とだんだん近づいて来ている気がするんですが」
と村正氏は心細くなって明智に電話した。
 
「これが二十面相のいつもの手なんですよ。相手の心を不安にさせて穴を作ることが目的ですから、気をしっかり持って下さい」
 
「はい」
 

2月1日(火).
 
図書室で、本を探していた、村正氏の孫娘・紗耶香(演:水谷雪花)が何かの気配を感じて横を見ると特撮ドラマの戦闘員のように顔まで全身くろずくめの男が居て、その胴体部分に大きく“5”という文字が白いペンキで書かれていた。
 
「キャー!!!!!」
と悲鳴をあげる。
 
美術室で入口の番をしていた女性警備員が駆け付けてくる。
「どうしました?」
「あそこに」
と言って指さす。
 
「おい、待て」
と言って、警備員が男の方へ駆け寄るが、男はひょいと図書室を出ると外からカンヌキを掛けてしまったようである。
 
警備員がドアを揺するが開かない。
 
警備員はスマホで玄関の所にいる同僚に連絡した。
 

ところが黒ずくめの男は玄関には向かわなかった。邸の奥に向い、勝手口から出ようとしたのである。
 
ギクッとする。
 
そこに家事手伝いの女だろうか、可愛いメイド風のユニフォームを着た20歳くらいの女性(演:太田芳絵)が立っている。
 
「どけ」
と男は言った。普通の女なら、こんな格好の男を見たら怖がって逃げるだろうと男は思った。
 
ところが女は平然としている。それどころか、こちらを睨み付けているのである。
 
「二十面相君?それとも手下さんかな?」
「きさま、まさか小林か!?」
 

「ああ、本人みたいだね。こういうのに手下を使うような君じゃないよね。楽しいから。君って楽しいから泥棒してるんだもんね」
 
「そんなことは無い!」
と二十面相は怒ったように言う。
 
「そこに居て。今警備員を呼ぶから」
 
と言ってメイドに化けた小林はスマホを出すと、警備員の業務用スマホに電話して、こちらに賊が来ていることを伝えた。
 
(このシーンは演技しているのは太田芳絵だが、声をアクアが後でアフレコした。元々三田雪代が出る予定が、他の番組の撮影日程がずれたため、たまたま空いていた太田に出てもらった。彼女は3月で退団予定だが、これが最後の地上波出演かなあ、最後がアクアの代役って最高!と思って出た。彼女は元々演技はうまい)。
 

黒ずくめの衣裳の二十面相は焦った。まだ品物を盗ってもいないのに、捕まってたまるか!
 
後ろを向いて逃げようとしたが、小林は二十面相の下半身に飛び付きタックルするようにした。二十面相は動けない。
 
「離せ」
「僕は腕力では君にかなわないけど、数分間君を動けないようにするくらいはできるよ」
 
そんなことをしている内に警備員が駆け付けてくれた。手錠を掛ける。
 
「くそう!!」
 
「ありがとうございます。すぐ警察を呼びます」
「よろしく」
 

そういう訳で今回、二十面相は犯行前に捕まってしまったのである。二十面相にしては珍しい失態であった。
 
メイドに化けた小林は二十面相を警備員たちに任せると、立ち上がって明智に報告するため、タックルした時に落とした自分のスマホを拾い上げた。
 
この時、さすがの小林も一瞬油断してしまった。
 
勝手口のドアが開いたのである。小林と同じユニフォームを着た本物の家事手伝いの女性(演:斎藤恵梨香)がエコバッグを両手に持って入ってきた。
 
「あっ」
と小林は声を挙げた。
 
二十面相は物凄い勢いで警備員たちを撥ねのけると、勝手口に突進する。そして本物の家事手伝いの女性と身体を入れ替えるようにして横を抜け、外に走り出してしまった。
 
「待て」
と言って、女性警備員たちが追っていく。
 
小林はふっと息をつくと、二十面相に倒された女性の手を取って起こしてあげる。
「君、大丈夫?」
「はい。大丈夫です」
と言って女性は立ち上がった。
 
「あれ?あなた新人?」
「ごめんね。ボクは明智探偵事務所の助手で小林というんだ。村正社長にお願いしてユニフォーム1個分けてもらって、警備会社のアプリもインストールさせてもらって、目立たないように警戒してたんだよ」
 
「嘘!?小林さんって男の人よね?」
「そうだけど」
「女の子に見える!」
「女装はだいぶ練習してるから」
「可愛い!このままメイドさんにならない?」
「勘弁して。女の子の格好してるのは恥ずかしい」
 
(放送時「嘘つけ!」という声多数)
 
「でも私、もしかしてまずい時に入ってきた?」
「不可抗力だよ。気にすることないよ」
「ごめん!」
 
この場面は実はアクア不在の時間帯に太田芳絵と斎藤恵梨香のみで撮影している。しかし2人とも堂々とした演技で、監督が喜んでいた。
 

結局、警備員たちは二十面相を見失ってしまったようである。
 
「すみません。せっかく捕まえていただいたのに」
と小林に謝る。
 
「いや、間の悪い時はあるものだよ。お疲れ様」
と小林は彼女たちをねぎらった。
 
「でも手錠掛けたのに」
「あいつは手錠抜けの名人だからねぇ」
 

村正氏は警備会社に頼んで、警備員の数を増やしてもらうことにした。今回賊が勝手口から出たということから、勝手口・非常口、図書室の入口と、念のため家族玄関の所にも居てもらうことにしたのである。
 
ただ、女性の警備員がそんなに居ないと言われ、男性の警備員にも入ってもらうことにした。それでこのような配置にする。
 
男性警備員:表玄関→図書室入口(廊下)→非常口→通路入口(美術室内)
女性警備員:表玄関→家族玄関→仏殿内→勝手口
 
(再掲)

 
表玄関の所は男女の警備員が揃うが、玄関の所には受付も居るので、むろん変なことはできない。受付はふだんは朝から夕方までしか人が居ないのだが、信頼できる社員数名にお願いして交代制にし、24時間誰か居るようにしている。警備会社に任せっきりにしないのは、“身内”でないと異状に気付かないケースがあることを想定したものである。
 
(仏殿に入るには、↑図上側の廊下から、図書室を通り美術室から細い通路を通る以外は道が無い)
 
しかし浸入した賊を小林がいったん確保したことから、村正氏は明智探偵事務所への信頼を高めたのである。
 
なお、図書室入口には本来カンヌキなど無かったのに、どうも賊が万一の場合のために勝手に取り付けていたようである。村正氏はここに(カンヌキは取外して)セキュリティゲートを作って、電子キーを持っている人しか通れないようにしてもらった。
 
 
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【夏の日の想い出・虹の願い】(1)