【夏の日の想い出・ボクたち女の子】(2)

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アクア・葉月、七浜宇菜や坂出モナ、中村昭恵や斎藤恵梨香などが熊谷で『白雪物語』の音声収録をしていた時期、すぐ近くでは、常滑真音、水森ビーナ、山本コリン、水谷姉妹が、舞音のアルバム制作をしていた。しかし彼女たちは“桜”に泊まっていて、桜はひとつひとつのコテージのプライバシー独立性が高いので、お互いに他の客と接触することは希である。実際アクアたちと舞音たちは遭遇していない。(映画組は7710-7715, 舞音たちは7721)
 
それでお互い近くで制作をしていることには気付かないまま、作業を進めていた。舞音の制作に関わっている伴奏者たちはホテル昭和本館および富士に泊まっている(オーケストラのメンバーは富士 *1)。映画関係者は新館・赤城なので、これもまた接触しにくい。本館や富士に泊まっている人たちは「何か新しい棟ができてる」と思って眺めていただけである。
 
(*1)本来昭和本館は各部屋にデリバリー、富士は食堂に食べに行く方式だったが、コロナ以降、富士も各部屋にデリバリーしている。自動配送装置を導入したので、人手はかからない。
 
それで現時点では、両者は部屋の広さと内装の違いだけである。昭和本館の部屋には、昭和時代に使われていたような家具調テレビ、トランジスタラジオ、パンが飛び出すトースター、有線リモコンの扇風機、ブラウン管モニターのPC(中身は最新型)、初代のファミコン!などが並んでいて、年齢の高い人はレトロ気分に、若い人はタイムスリップ気分を味わえる。若葉はまだこれらの製造設備の残っていた工場を買い取り生産させている。一部は古い製品を知っている高齢の技術者さんに助言してもらい、再構築したものもある。
 
一方、富士は普通のビジネスホテルの内装である。ただ各部屋にキッチンや水引などもあり、冷蔵庫も大きいので長期滞在しやすい。一部の長期滞在専用エリアの部屋には洗濯乾燥機も備え付けている(客が出る度に清掃消毒する)。
 
オーケストラ代表?の桜木レイアは過去に何度も昭和本館に泊まっているので「長期滞在するとあそこは落ち着かない」と言って、20-30代が多いオーケストラ・メンバーは富士に泊めることにした。それで両者を分離したいということから、バンドメンバーは本館になった。バンドメンバーは若い人が多いので本館の内装を面白がっていた。ルーシーなどファミコンにハマっていた。
 

そういう訳で、招き猫バンドの4人はホテル昭和本館に泊まっている。4人の内、木下君と篠原君は寮暮らしなので、郵便物などがあれば、ユキさんかツキさんが連絡してくれる。谷口君と留美はアパート暮らしなので、§§ミュージックのスタッフが郵便物チェックに行ってくれる。
 
谷口君は携帯代の督促状が来ていたが、会社で払っておき、次の給料から天引きにすることにした。
 
「携帯代くらい自動引き落としにしときなよ」
「すみません。残高不足で」
「足りなくなるって、何か借金でもしてるの?」
「ボク、クレカとかも持ってないですよー」
 
どうも彼はお金の管理が適当っぽい。
 

「今スタッフ寮を作ろうかという計画もあるみたいだけどね」
「へー」
「携帯代の督促状に気付かずに止められて、マネージャーと連絡がつかなくなるという事故とかも結構起きてるからさ」
「マネージャーさんたち忙しいもん!」
「だから寮に入っていれば、管理人さんが督促状には気付くからね」
「それいいかも」
「ただタレントさんたちみたいに無料という訳にはいかないだろうけど」
「それでもきっと普通のマンションよりは安いだろうし、独身のマネージャーさんは助かると思いますよ」
「うん。だから独身のマネージャー・伴奏者を収容しようかという計画みたい」
「そういうのできたら入りたいなあ」
 

その日は、“都合により”普段ギターを弾いてる木下君がドラムスを打ち、普段ドラムスの篠原君がギターを弾いていた。ところがこの日の木下君はワンピースを着ていたので、何度か足が服にひっかかって、タムを打ちそこなった。
 
「ヒロちゃん、もう少し演奏しやすい服に着替えてきなよ」
とルーシーが言う。
 
「すみませーん。そうします」
 
それで演奏は一休みになり、木下君は着替えに行く。ギターなら別にワンピースでも良かったのだが。
 
「だいたいワンピースってオナニーしにくいでしょ?」
とルーシー。
 
「ボク、オナニーとかしないから知りません」
と木下君。
 
「クラちゃんは、ワンピースではオナニーしにくいと思わない?」
とルーシー。
 
「僕、ワンピースとか着ないから分かりません」」
 
「翼ちゃんは?」
「僕ワンピースとか持ってないし、オナニーもしないから分かりません」
 
「みんな性欲無いの〜?」
とルーシーが嘆いて?いた!?(篠原君は別にオナニーしないとは言ってない)
 

それで木下君は着替えに出ていった。
 
「でもどうしてオナニーしにくいんですか?」
と篠原君が訊く。
 
「だって手が入れられないじゃん」
「スカートでは入れられるんですか?」
「ウェストのホックを外したりファスナーを下げれば入れられる」
「へー」
「ワンピース1枚あげるから試してみない?」
「僕女装しないし」
 
「ルーシーさんって、見た目は一番女っぽいのに、中身は一番男性的なのかも」
と翼が言う。
 
「ボクは普通の男だよ」
「絶対普通ではないと思う」
と篠原君が言った。
 
「でも睾丸は取ってるんですよね?」
「睾丸なんて20歳になるまでには取るもんだよ。あんなのいつまでも付けてちゃいけない」
とルーシーが言うので
 
「僕は取りたくないです」
と篠原君も翼も言った。
 

一方、女子たちが泊まっているコテージ。
 
女の子ばかりの気安さで水谷妹とかコリンが下着姿、どうかするとお風呂からあがった後、パンティだけでソファに座ってスマホを見てたりするので、ビーナがたまりかねて
「ふーちゃん、せめてTシャツでも着なよ」
と言う。
 
(水谷雪花の本名は溝口双乃)
 
「だって暑いじゃん」
と雪花。
 
「なんか今年は猛暑だよね」
と言っているコリンもブラとパンティだけである。
 
「エアコンの温度少し下げない?」
と短いワンピースを着た舞音が言っている。コリンがエアコンのリモコンを触るが
「これ以上、設定温度下がらないみたい」
と言う。
「今何度?」
「21度」
「21度設定でこんなに暑いの?」
 
スマホを見ていた舞音が
「現在のこの部屋の室温は28度」
という。
 

「暑い訳だ」
 
「やはり昼間は寝てて、夜中に仕事したほうがいい気がする」
「でも暑くて眠れないよ」
「コロナが無ければ南半球で作業したいくらいだ」
 
舞音たちがマネージャーの悠木恵美に
「昼間は寝てて夜間に作業したい」
と言うと、
 
「君たちは18歳未満だから、夜間に労働させることは禁止されている」
と彼女は言う。
 
「言わなきゃバレません」
「こんなに暑いとまともに制作できませんよ」
と舞音や水谷姉妹が言うので、恵美は村上麗子に相談する。
 
「じゃ言わなきゃバレないという線で」
と村上も言って、以降(山本コリンと水谷姉妹)は夕食を取ったらすぐ仮眠して、12時頃に起きだし、“夜食を食べてから”スタジオに入って朝8時くらいまで作業し、朝御飯を食べて休憩することにした。午後も寝ている。ホテル昭和の支配人さんに頼んで、夜12時くらいに夜食を持って来てもらうことにした。(1日4食になっている気がする)
 
オーケストラは普通に日中に作業する。どっちみち伴奏とボーカルは別録りである。
 
そういう訳でここでの制作はこのようなタイムサイクルで動いたのである。
 
●こどもの歌(監修:清水春浩)
 
3-8h コリン・水谷姉妹がスタジオで悠木恵美のピアノ伴奏で歌い仮音源制作
13-16h 仮音源を参考にオーケストラが演奏(練習)
18-20h オーケストラ演奏確定
翌日1-3h 舞音・水谷姉妹(+コリン)が伴奏音源を聴きながら歌う(本歌)
 
オーケストラは契約により稼働時間が13-16h,17-21hと定められているので、その時間内で作業をお願いしている。ともかくも24時間サイクルでだいたい1サイクルに3曲くらいずつ進めていく。コリンは一部の本音源にも参加する。監修の清水さんは、オーケストラに付いているので、最終的な歌については、悠木恵美が事実上の監修役となる。
 
なお規定時間内に終わらなかった場合は、時間を延長したりはせず翌日に回すことにしている。でないと主として舞音の体力がもたない!結果的に伴奏と歌の収録スケジュールはずれていく。
 
●招き猫2(監修:名寄多恵)
1-3h 譜面に基づきビーナが演奏練習
3-8h ビーナと舞音がコテージ内で仮音源制作
8-12h,18-20h 仮音源を参考に招き猫バンドが演奏(伴奏確定)
16-19h 未確定の伴奏を聴きながら舞音が練習
21-24h 舞音が確定した伴奏音源を聴きながら本歌を入れる。
 
名寄さんは16-24hの稼働である。16-19hの時間帯は、舞音の歌を見てあげつつ、伴奏で直して欲しいところがあったら、同時進行で作業している招き猫バンドの木下君に電話して修正してもらう。
 
そういう訳で、コリンと水谷姉妹・ビーナは毎日1-8hの稼働になるが、舞音は
 
3-8h ビーナと招き猫の仮音源
16-19h 招き猫の歌練習
21-24h 招き猫の本歌
1-3h こどもの歌・本歌
 
となっていて1日に14時間稼働である。しかも日中東京までヘリコプターで往復してテレビ局などの仕事をしてくることもあり、移動中に束の間の睡眠を取るだけなどという日もあった。(招き猫の本歌入れが翌日午前中に振り替えられる場合もある:その場合下手すると20時間くらい仕事をしている)
 
「私身体が2つか3つ欲しい!」
などと言っていた!
 
実際、舞音はアクアに次ぐ忙しさになっている。
 

「でもふーちゃんも、せめてブラ付けるかキャミでも着たほうがいいと思う」
とビッグTャツを着ている水谷姉が言っている。
 
ビーナはさっきから彼女が、ひょっとしてパンティ穿いてないのでは?と気になっている。
 
「女ばかりだから、人の目は気にする必要ないけどさ」
とコリン。
 
「ボクは?」
とビーナは遠慮気味に言う。
 
「数ちゃんが女の子であることは確認済み」
とみんなに言われた。
 
また冷房温度については、電気技術者さんに見てもらい、エアコンの室外機に濡れタオルを掛けたらもう少し温度が下がることが判明し即実行した。またサーキュレーターを置いてもらったらかなり変わった。これは他のコテージも同様の対策を取った(アクアたちも恩恵を受けた)。
 
若葉は翌年夏までに、川の流れを引きこんで、コテージの屋根を冷やすシステムの導入を決め、涼しくなってから作業してもらうことにした。(実際には秋に完成し、冬はそれで温まることも判明した)
 
(ホテルに泊まる人は日中は不在なことが多いこともあり、これまでこの手の苦情は若葉も把握していなかったのである)
 

舞音たちの音源制作は7月中にオーケストラさんたちの作業が完了して、オーケストラのメンバーは東京にもどる。それでオーケストラさんたちが伴奏していた童謡アルバムの作業を先に進めて、8/3にはそちらが完成。水谷姉妹と山本コリンが退去した。水谷姉妹は仙台に移動して、自分たちのデビュー・シングルの制作をした。
 
舞音はその後、自分のアルバム(仮題)『招き猫2』(最終的に『くろ招き猫』のタイトルで発売)の作業にに専念した。
 
コテージが舞音とビーナだけになるのを、ビーナが気にするので、本館に泊まっていた悠木恵美にこちらにきてもらった。
 
8/7には、九州まで弓曳き童子を見に行ったが、アルバム完成前の息抜きになった。それを経て、8/10にはアルバム『くろ招き猫』は完成した。
 
ビーナは東京に戻り、自分のデビューシングルの制作をした。
 
一方、舞音は招き猫バンドとともに、そのまま郷愁村に留まり、8/22のネットライブに向けての練習をする。ここでステージでお手伝いをしてもらう、長浜夢夜・山鹿クロム・三陸セレンの3人に東京からこちらへ来てもらった。但し夢夜は9日まで仙台で水谷姉妹の音源制作に参加していたので仙台から熊谷に戻ってきて、そのまま郷愁村に入った。彼ら(彼女ら?)3人は本館に泊めるつもりだった。むろん1人1部屋である。
 
つまり、コテージは舞音と悠木恵美の2人だけになるが、2人だけだと寂しい気がしたので、結局、長浜夢夜をこちらに一緒に泊めることにした。
 
「女の子たちと同じコテージってまずいですよー」
とさすがに夢夜が言ったものの、
 
「ノリちゃんは既に女の子の身体になっているという確かな筋からの情報がある」
などと舞音は言っていた(情報源は姫路スピカ!)。
 
(長浜夢夜の本名は松元徳世)
 
「ボク、まだちんちん付いてますけど」
「いや、きっと既に無い」
 
当然、この夜、夢夜はお風呂を覗かれて!確かに女の子であることを確認されていた。(セクハラは続く:ほぼ痴漢だと思うが、お風呂に入って鍵を掛けないのも悪い。ビーナもそうだが)
 
なお、セレンとクロムが来ているので、舞音が東京の仕事で不在になる時間を使って、彼らに『くろ招き猫』の歌にコーラスを入れてもらった。
 
彼らは声は女の子なので、女性がコーラスを入れているように聞こえる。制作を監修している名寄多恵は、この子たち既に睾丸は取っているんだろうなと思った。
 

『白雪姫』の録音・撮影が全て完了した8月27日、アクアFと松田理史は山村に送ってもらって(AquaのAQUA #11使用)八王子のアクアの家に帰宅。アクアMと葉月は和城理紗に送ってもらって(AquaのAQUA #3使用)、代々木と用賀の自宅に帰宅した。
 
そしてここで葉月は和紗から
「私、できちゃったみたいなの」
と言われて、仰天することになる!(結婚したんだから子供ができても不思議ではない)
 
代々木に帰ったアクアMは8/20以来なので、彩佳から「不在にしていた1週間分」愛されることになる!(翌日は昼まで起ききれなかった)
 

八王子に一緒に帰ったアクアFと理史であるが・・・
 
その帰る途中の車の中、居るのが山村だけなので、理史も構わないだろうと思い“その件”を話した。
 
「あ、そうそう。僕、龍が主演する『ピーターパン』にも出ることになったから」
「そうなんだ?」
 
「今回の『白雪姫』の演技で、美高さんから合格をもらったから、じゃもひとつ出てよと言われて」
「『いちご日記』の撮影に出るんじゃなかったの?」
「あれは更に延期された」
「嘘!?」
「やはり1ヶ月延期されたら、予定されてた人がみんな都合つかなくてさ」
「だよねー」
「だいたい、主演の木田いなほちゃんからして調整付かなかった。相手役の広河敏也君も調整つかなかった」
「広河君忙しいもん!さとしもだけどさ」
 
「それでまだ調整中だけど、ひょっとしたら、撮影は春休みまで延期されるかも」
「それだけ延期されると、もうキャストが相当変わる気がする」
「気がする」
 
「まあそれで僕は9月中旬がわりと空いたから、美高さんから『ピーターパン』に出てと言われた。制作期間中ずっと空いてる訳じゃ無いけど、僕の出番はあまり多くないから、都合が付くんだよ」
 
「ふーん。何の役するの?」
「ジョージ・ダーリン」
 
アクアFが咳き込んだ。
 

「どうしたの?」
と理史が訊く。
「ボク、その奥さんのメアリー・ダーリンを演じるんだけど」
とアクア。
 
「嘘!?龍はウェンディじゃなかったの!?」
 
「ウェンディ兼フック船長」
「それにメアリー・ダーリンまでやるの?」
 
「最近のピーターパンのお芝居では、だいたいジョージ・ダーリンとフック船長を同じ役者さんが演じるでしょ?」
 
「うん。でも今回はフックを龍が演じるから、ウェンディのパパは別の人が演じることになったんだろうと思ってた」
 
「同じ人が演じるというのは、心理学的には実は同じ人物ということだよね」
「うん」
「息子が父を倒すというのは、金枝篇でも言われているように、男の子の成長物語なんだよ」
「だいたいそういうシンボリズムだよね」
「だから、ピーターが父を倒したら、ピーターは大人にならなきゃいけない」
「それは変かも」
 
「ところがピーターパンのお芝居で、初期の頃はフック船長はウェンディのママの女優さんが演じていた」
「え〜?そうなの?」
 
「それならウェンディはネバーランドに留まるのではなく現実社会に戻る決心をした。だから母を倒して、おとなにならなきゃいけなかった」
「その方がスッキリする」
 

「元々のフックって、あまり凶暴ではなくて、子供たちがおうちに帰ろうと決めた時、それを邪魔する役でしかなかった」
「へー」
 
「だからフックはお母さん役の人が兼任したんだと思うよ。お母さんは子供はいつまでも子供だと思ってるの」
「そういうお母さん、結構多いよね」
と言いつつ、龍虎はその母の愛を知らないんだよなと理史は思う。生まれて2ヶ月で里子に出され、実母は2歳の時に亡くなった。
 
「今回はそのオリジナルの路線に戻ろうよという話でさ。だからボクがフックとメアリーの両方を演じる。だいたい母娘を同じ人が演じるのもよくあること」
「白雪姫でもやったね!」
「でしょ?」
 
「ということは・・・」
「ボクたち夫婦を演じることになるね」
 
理史は急に不安になった。
「僕、ちゃんとできるかな?」
 
「何なら去勢する?」
「やだ」
 
ふたりの会話を聞いて、運転している山村がちょっとバツの悪そうな顔をしたことに、アクアも理史も気付かなかった。それバレたら、龍虎からおしおきくらうぞ・・・と山村は思った。
 

美高鏡子さんは、8月いっぱい『白雪姫』の助監督(兼第1撮影者)をしていたのだが、撮影が8/27で終わったので、その後、後片付けもそこそこに、編集作業は監督と第2撮影者の矢本さんに任せ、ΛΛテレビの昔話シリーズに復帰した。
 
9/3-11に、恋珠ルビー・水森ビーナの事実上のW主演で『青い鳥』を撮影。この時、美高は撮影を進めていて、首をひねった。それで本人を監督室に呼んで訊いてみた。
 
「ね。変なこと訊くけど、ビーナちゃんってひょっとして男の子ということはないよね?」
「ボク、男の子なんですけど、みんな女の子だと思い込んじゃうみたいなんです」
 
「やはり男の子だったんだ!」
 
つまりこのドラマでは、男の子のチルチルを女子の石川ポルカが演じ、女の子のミチルを男子の水森ビーナが演じていることになる!
 
「でも放送局に入る時、女子制服着てなかった?」
「それ学校でも誤解につぐ誤解で、ボクは男子制服で通いたかったのに、女子制服で通いたいんでしょ?女子制服で通っていいからね、とか言われて、結局女子制服で通学せざるをえないことになっちゃって」
 
「それは大変ね。でも君、女の子と一緒に着替えてても何も感じないでしょ?」
「何か感じるものなんですか?」
 
「いや、ごめん。君のことだいたい分かった」
と美高さんは楽しそうだった。
 

アルバム制作・ライブと忙しい日々を送った常滑真音は9月頭に“ガラスの家”のCM撮影をした後、新しい写真集の撮影を始めた。実は“舞音ちゃんタロット”という企画で、舞音をモデルにタロットを作ってしまおうという魂胆なのである。
 
実はこの企画があったので、先日弓曳き童子を見に行った時に大牟田のタロット博物館に寄ったのである。
 
今回の企画の監修は金沢ドイルさんである!!
 
最初は電話連絡でやっていたのだが、やはり微妙な所が伝わらない。それで「私そちらに行きます」と言うことになり、ホンダジェットで迎えに行かせた。それで青葉が直接指導する中で構図や背景が決められて、写真は撮影されていった。青葉は約1ヶ月、浦和に泊まり込み、ほぼ毎日女子寮にやってきて、女子寮内のスタジオで撮影を進めた。
 
結構、小道具・大道具を製作しなければならないので、絵のうまい夕波もえこに手伝ってもらうことにする。青葉の指示でもえこがおおまかなデッサンを描くので、それを参考に制作する道具を計画し、発注する。中には制作に結構な時間と費用の掛かるものもあった。むろん舞音のプロジェクトなので予算はふんだんにある。
 

最初に、青葉・千里・丸山アイ!の三巨頭会談が行われ、いくつかの基本的な方針が決められた。
 
・88枚のフルデッキにする。
 
・女性の手に馴染むサイズのカードとする。
 
・小アルカナは全て絵カードとする。
 
・カード全体を写真にするのではなく、フレームの中に写真は納め、フレームにカード名を入れる。
 
・カード名は日本語ではなく英語とする。
 
・コートカードは、Page,Knight,Queen,Kingではなく Prince,Princess,Queen,Kingの方式とする。
 
・スートの名前は Cup, Sword, Wand, Pentacle.
 
・8正義と11力は入れ替えない。古典的な順序で行く。
 
・愚者は無番号とする。0という数字は入れない。
 
・スートと四元素の対応は、次のようにする。
聖杯:水:青
棒:火:赤
剣:風:緑
金貨:地:黄
 
実はこの対応が実に様々諸説あるのである。解説していたら、それだけで多分20-30ページを要する。丸山アイは若干不満だったようだが(彼は剣が火で棒が風だと思うと言った)、青葉は↑の対応がしっくりくると言うので、青葉の感性で進めることにした。色との対応についても多分5-6種類の説がある。
 
スートの色は基本的にカードの背景色として使用する。実際にはその色のカーテンの前にセットを組んで撮影している。野外で撮影したものは画像加工した。
 

作業はあまり道具立ての必要ないものから始めた。
 
ということで制作は小アルカナ、コートカードから始める。
 
各々のカードはモデルを設定している。
 
聖杯の王女:白鳥の湖のオデット
棒の王女:シンデレラ
剣の王女:白雪姫
金貨の王女:眠り姫
 
聖杯の王子:マーリン
棒の王子:ジークフリート
剣の王子:ヤマトタケル
金貨の王子:ギルガメッシュ
 
聖杯の王:アーサー王
棒の王:ナポレオン
剣の王:アレクサンダー大王
金貨の王:ユリウス・カエサル
 
聖杯の女王:エリザベス1世
棒の女王:卑弥呼
剣の女王:ジャンヌ・ダルク
金貨の女王:クレオパトラ
 
各々のキャラが持つスートシンボルは下記のように制作した。いづれも先に使う物を早めに納入してもらっている。
 
聖杯:トロフィーを制作している会社に依頼して大杯1個と小杯10個を制作してもらった。
 
棒:あけぼのテレビの小道具係さんに頼み、大きな棒10本とリレーのバトンのようなものを10本、更に10cm程度の小さな棒も10本作ってもらった。他に王笏の類いも作ってもらっている。
 
剣:これも小道具係さんに、バスタードみたいなアルミ製の剣を10本、ステンレス製の短剣を5本作ってもらった。また柄(つか)だけのを10個用意してもらった。
 
金貨:道具係さんに頼み、30cmサイズの金貨を10個、60cmサイズの金貨1個(コートカード用)、作ってもらった。中身はアルミで金色のシートを貼り、五芒星を描いている。その他にも少し作ってもらった(後述)。
 

小アルカナのピップカードは、聖杯から始めた。
 
A:水車の前でカップ入りの水を飲む舞音
2:湖の畔でカップを手に語り合うカップル(舞音と夢夜)
3:カップを持ち乾杯する、舞音と水谷姉妹
4:カップを4個立てたそばでダンスをする舞音
5:倒れた5個のカップと落ち込む舞音
6:カップを6個並べ母(演:春風アルト)と語り合う舞音
7:怪しい液体の入ったカップ7個を並べて妄想する舞音
8:倒れた8個のカップの向こうで泣いている真似
9:カップが9個ならぶ所でイチャイチャするカップル(舞音と夢夜)
10:カップが9個並び、1個カップを持つ男性(篠原)を導く舞音
 
7でカップに入っている液体はただの水に食用の着色剤で着色したものである。でも妄想する舞音の表情が危ないと言われ、警察から問い合わせがあった!!
 
男の子役はだいたい夢夜が演じてくれているのだが、発売後
「男の子役はほとんどが女性タレントの男装なんだね」
「あそこ女の子専門のプロダクションだし」
「ちょっとレスビアンっぽいカードだね」
などと言われた!海外でもレスビアン色のあるデッキと紹介されていた!!実際このデッキはAmazonを通して海外でもかなり売れた(でも猫好きさんにも売れた雰囲気)。
 

続いて棒に行く。
 
A:棒を咥えた龍の前に立つ舞音(撮影方法は秘密!)
2:2本の棒を平行に立てて持つ舞音
3:棒を1本ずつ持ち、阿修羅像のように背中合わせに△に立つ舞音と水谷姉妹
4:長い棒を4本立てて、上に布を貼り家のようにしても中でくつろぐ舞音と夢夜
5:各々棒を持ち闘っている、舞音・水谷姉妹・夢夜・もえこ。
6:6本の棒を立てた所を馬(本物)に乗って歩く舞音。
7:7本の小さな棒をお手玉する舞音
8:棒が8本、空中を飛んで行くのを眺める舞音
9:棒を9本立て、九字を切る舞音
10:大きな棒を10本抱えてよろめく舞音
 
Aのカードは龍はCGかと思った人が多かったようである。大アルカナならまだしもピップカードにわざわざ数千万円かかりそうな龍の模型は作らない。舞音本人は
「私美味しくないからね」
などと言いながら撮影されていた!
 
でもこの棒を咥えた龍は「禰豆子ちゃんみたい」というコメントも多数出ていた!
 
馬については1日乗馬クラブに行って訓練を受けてきた。撮影にはごくおとなしい馬を貸してもらった。
 

そして剣に行く
 
A:宇宙服を着てライトセーバーを持つ舞音
2:目隠しをして椅子に座り、2本のバスタードをクロスに持つ舞音
3:柄だけの剣が胸の所に3本刺さって苦しそうにしている舞音
4:剣を3本壁に横に並べ、その下のベッドに寝ている舞音。ベッドの側面にもう1本の剣がある。
5:木の上に縛り付けられている舞音。木には5本の短剣が刺さっている。
6:船に乗ってどこかへこぎ出す舞音。船には水谷姉妹・セレンとクロム・夢夜が乗っている。また船にはバスタードが6本、下向きに刺さっている。
7:バスタードを七芒星の形に並べ、その前に舞音が座っている
8:剣が地面に8本刺さっていて、馬に乗り、うなだれる舞音
9:9人の剣を持った女性に取り囲まれる舞音。9人は水谷姉妹、甲斐姉妹、セレン&クロム、もえこ、夢夜、薬王みなみ。
10:舞音は倒れていて、10本の柄だけの剣が刺さっている
 
Aで使ったライトセーバーは丸山アイの趣味の工作だが、電力の関係で有線である。でも、本当に物が切れるので、舞音が楽しそうに棒や板を切っていた。
 
(ライトセーバーを自作してみました、などというのはよく動画投稿サイトにもあるが、丸山アイの作ったものは、本当に実用化できるのではと思う優秀さだった。原理的に“汚れる”ということがないので、舞音は木や板を切った後で、ようかんを切って、水谷姉妹たちと一緒に食べていた)
 

最後に金貨に行った。
 
A:160cmの金貨を立て、その前で舞音が大の字のポーズを取る。
2:直径20cmくらいで白と黒の円盤(道具係さんの作品)を舞音が両手に持ち、その間に8の字にベルトを掛けた。
3:30cmサイズの金貨を∴の形に並べて高い所に架け、その下で舞音と水谷姉妹がお仕事をしている
4:小さなおうちの四隅に30cmくらいの金貨が掲げられていて、舞音はそのそばに立っている。
5:30cmサイズの金貨が5枚填まった窓の外に、ボロを着て疲れた表情の舞音と水谷姉妹。
6:金貨が6枚並んでいる所で、舞音がゆりこ副社長から施しを受けている
7:金貨が7枚上の方に並んでいる。舞音は倒れている!
8:金貨が8枚上の方にあり、舞音は千里から何か習っている。
9:金貨が9枚、木の実のように生っている。舞音は妊娠していて、白象(大道具さんの力作)に乗っている。
10:金貨が10枚家の壁に填め込まれている。舞音はウェディングドレスを着て、タキシード姿の夢夜と手を組み、その家の中に入っていく。
 
Aの撮影に使用した巨大金貨は道具係さんの力作:円形の枠に金色シートを貼っただけで中身が無い。中身を入れたらこんな巨大なのか万一にも倒れてきたら生命の危険がある。4のおうちは大道具係さんが2時間で作ってくれた。5番の撮影は、今回の撮影の中でいちばん面白がっていた。白象は制作費が100万掛かったが、たぶんまた何かで使うという千里の声で、本当に制作することにした。
 

舞音と一緒に映るのは、水谷姉妹・夢夜が多いのだが、夢夜は元々夏休み中はローズ+リリーの音源制作もやっていたので、女子寮に泊まり込んでいた。そちらの制作も9月いっぱいまでかかったので、結局夢夜は9月いっぱいまで女子寮に住み込み、学校には女子寮から車で送ってもらっていた。
 
なお、ローズ+リリーの音源制作は、10月に入ると夢夜に代わって鈴原さくらが参加したので、彼も夢夜同様女子寮に泊まり込んでいた。
 
長浜夢夜の部屋は女子寮の4階、鈴原さくらの部屋は2階にリザーブされている。
 

小アルカナの撮影が終わったのが9月10日で、その後、大アルカナに入った。それまでに様々な道具は用意してもらった。
 
愚者 The Fool
 
舞音はルネサンス期の男性の服装(ニーソックス+ショートスカート)を着て、長い棒を担ぎ、棒の先にはお弁当?の入った袋が付いている。舞音は歩いて行っているが、その先は崖になっていて、先に地面が無い。その後を小猫!が付いて行っている。
 
「スカートが男性の服なんですか?」
「女性は足首まであるロングスカート。ショートスカートは男性用。女性が足を見せるなんてあり得ないよ」
「あっそうか!」
 
このカードは普通、犬が付いていっているのだが、舞音のたっての希望で黒猫ちゃんになった。
 
舞音は元々猫好きなので、猫ちゃんを飼いたいらしいが、さすがに今の多忙さでは無理である。あっという間に餓死させてしまう。なお女子寮はペット禁止。
 
1.魔術師 The Magician
 
テーブルがあり、舞音はその向こう側に座っていて、片手にバトンを持ち、頭には∞の形(レムニスカート lemniscate)をした帽子をかぶっている。靴は黒いブーツ。テーブルには30cm金貨、聖杯、バスタードが置かれている。
 
「∞の形をレムニスカートというんですか?」
「レムニスケートとも読むね」
「まあ音写の揺れだね。バレーとボレーみたいな」
 
2.女司祭 The High Priestess
 
舞音がシンプルな椅子に法服を着てきちんとした格好で座り、本を開いて見ている。靴は木靴である。後方には2本の柱が立っていて、黒猫と白猫が描かれている!
 
「猫にするの〜?」
「私は猫の回し者です」
 
(バーバラウォーカーはΑアルファとΩオメガ、ライダーウェイトはB (Boaz 闇) とJ (Jachin 光) である)
 

3.女帝 The Empress
 
谷間の草原に、舞音はゆるやかなドレスを着て、ゆったりした椅子にリラックスして座り、バトンと鷲の絵が描かれたペナントを持っている。靴は赤いハイヒールである。周囲にたくさん花が咲いている。
 
4.皇帝 The Emperor
 
城壁の傍で、舞音は短いズボン(Hose)とタイツを穿き、王冠をつけて実用的な椅子に座っている、顔には髭を生やしている。右手には王笏を持ち、左手には宝珠を抱えている。皇帝の靴は青いブーツである。
 
5.法王 The Hierophant
 
台の上に舞音は法服を着て立つ。左手にはパパルクロスの付いた笏を持ち、右手は秘教のサインの形を取っている。舞音の前にはセレンとクロムが左右にいて、法服を着て、舞音の方を向き、跪いている。
 
6.恋人 The Lovers
 
コスモスと木取道雄!がウェディングドレスとタキシードを着て立ち、舞音は貫頭衣のような服を着て、ふたりを結婚させようとしている。上空にはキューピッドが浮遊していて、結婚する2人に愛の矢を射ようとしている。
 
このキューピッドはラジコンである!小道具係さんが作ってくれた。
 
コスモスと道雄は結婚式を挙げていなかったのだが、ここで公開結婚式?をすることになった。
 
このカードには男性が1人と女性が2人描かれていることから、30-40年前に、日本でタロットがまだよく知られていなかった頃は三角関係?などと誤解する人もあったが、実際には女性の1人は結婚式を執り行っている人である。
 

7.戦車 The Chariot
 
舞音は2頭立ての馬車を御している。これは本当に御しているのは舞音の影に隠れている専門職の人である。さすがの舞音も馬車の制御までは無理。
 
8.正義 Justice
 
舞音は白いドレスを着て右手にバスタードを上に向けて持ち、左手には天秤を持っている。基本的にはギリシャの正義の女神アストライアを意識している。
 
9.隠者 The Hermit
 
舞音は修道士のような服を着て、右手にはカンデラ、左手には杖を持つ。そして舞音は左向きに歩いている。
 
心理学的に左は深層、右は現実を表すので、隠者が左を向くのは重要である。
 

10.運命の輪 Wheel of Fortune
 
大きな車輪(大道具さんの力作)があり、その頂点に舞音は腰掛けていて、右手に剣を持っている。車輪の右側には直立のクロム、左側には倒立のセレンが居て、どちらも車輪に捉まっている。
 
この構図は、倒立のセレンが数秒しかもたないので、その数秒を狙って連写でいちばんよい感じの絵を選択している。セレンが倒立役になったのは、バレエもしていて、身体のバランスの取り方がうまいからである。でも「きつかったぁ」と言っていた。
 
11.力 Strength
 
左を向いた巨大な猫(メインクーン)がいて、舞音はその子を撫で撫でしている。舞音は魔術師の時と同じ∞型の帽子をかぶっている。
 
本物のメインクーンを使って撮影している。雨宮先生の人脈でメインクーンを飼っている人にお願いして貸してもらったが、さすが猫好きの舞音はすぐその子と仲よくなって、この撮影をきれいにこなした。
 
12.吊され人 The Hanged Man
 
2本の柱の間に横木が渡してあり、舞音はその横木に逆さまの姿勢で吊されている。
 
舞音はマジでこの逆さ吊りをやってくれた。逆さ吊りになっていたのはほんの数秒だが「こけは辛い」と言って、運命の輪で倒立をしたセレンが「辛いよね」と言っていた。
 
13.死 Death
 
舞音は全身骸骨スーツを着て、大鎌を持っている。
 
舞音の顔が映ってない唯一のカード!でも、この撮影はかなり面白がっていた。
 
14,節制 Temperance
 
水辺のセットで撮影した。舞音は大きな羽根が背中に付いた天使の衣裳を着て、ビニール製のサンダルを履いている(バックストラップ)。片足は水の中に、片足は地面につけている。そして2個の壺を持ち、壺から壺へと水を注いでいる。
 
このあたりの撮影はスイスイ進む。
 
15.悪魔 Devil
 
舞音は台の上に乗り、羊のような角を持ち、こうもりのような羽根を持つ悪魔のコスプレをしている。左手には剣を持つ。左右にセレンとクロムがいて、前を向いている(舞音に背を向けている)。この構図は法王のカードと同じ構図だが、左右の人物が法王とは逆に、こちらは前を向く。
 
16.塔 The Tower
 
塔に落雷があり、塔頂部分が吹き飛ぶ。それを舞音が眺めている。この塔に落雷するシーンは本物!である。雷が多数発生している時に高さ1mの塔を高さ3mの台座に乗せて放置しておいた。わざわざ頭頂部分を金属で作っておいたら、美事にここに落ちてくれた。カメラは避雷針に守られた場所から自動で撮影している。眺めている舞音は合成。
 

17.星 The Star
 
節制の撮影をしたセットを再利用している。そこで舞音は節制の撮影に使用したのと同じ2個の壺を持ち、その中に入っている水を、片方は水に、片方は地面に注いでいる(節制ではエネルギーが壺から壺へ流れていたが、ここでは解放される)。背景に大きな星が見えている。これは本物の星空で、見えているのは金星である。
 
これは何かに使うかも知れないということで、撮影しておいた、昨年8月撮影の明けの明星である。(現在金星は宵の明星になっている)
 
それに舞音を合成している。
 
18.月 The Moon
 
池の向こうに曲がりくねった道が続いていて、左右に塔がある。大きな月が出ている。池のそばに2匹の猫!がいる。舞音は池の中に立っている(つまりザリガニ役)。
 
熊谷に設営した野外セットで撮影したものである。今年7月24日の満月がうまい具合に晴れてくれたので、その日に熊谷でアルバム制作中だった舞音を使って撮影した。
 
19.太陽 The Sun
 
壁の向こうに太陽が見えている。壁のこちらで、舞音と夢夜が一緒に踊っている。
 
太陽は本物ではあるが、壁・舞音の写真とは合成である。太陽に向かっての撮影はやはり厳しすぎる。
 

20.審判 Judgement
 
舞音は大天使ガブリエルのコスプレをしてラッパを吹いている。地面から、多数の人々が起き上がって、審判の到来に歓喜する。ここで地面の中から起き上がる人たちを演じているのは、水谷姉妹、夢夜、もえこ、青葉!
 
21.世界 The World
 
草を編んで作った、長径2m 短径1m ほどの楕円形の輪の中に舞音がいる。舞音は両手にバトンを持ち、踊っている。
 

以上で撮影は終わり、後は千里と雨宮先生が話合いながら編集することになった。青葉は高岡に帰還した。
 
一般的なタロットの絵柄では人物はヌードで乳房や性器も見えていたりするが、高校生の舞音を使って撮影しているので、全て着衣である。
 
「ヌードになったら性別がバレちゃう」
なんて言っていたが、どうバレるのだ!?
 

9月11日に『青い鳥』の撮影が終わると、すぐにアクア主演『ピーターパン』の撮影が始まった。主な配役はこのようになっている。
 
ウェンディ:アクア
フック船長:アクア(二役)
ピーターパン:七浜宇菜
ティンカーベル:坂田由里
ジョン :水森ビーナ
マイケル:羽田小牧
ウェンディの父:松田理史
ウェンディの母:フック船長と同じ配役
タイガーリリー:恋珠ルビー
 
スミー水夫長:岩本卓也
スターキー:大林亮平
その他の海賊:∞∞プロ
 
ロストボーイ:倉岡典彦、南野安弘、白井久我、佐藤敦矢、中原和正・宏正(劇団桃色鉛筆)
 
タイガーリリーの父:鞍持健治(特別出演)
タイガーリリーの母:沢田峰子(特別出演)
リトル・ホーン:槙原歌音
リーン・ウルフ:鈴本信彦
その他のピカニニ族の男女:○○プロ
 
人魚メルリン:花貝パール
その他の人魚たち:信濃町ガールズ東北
 
語り手:元原マミ
 

超多忙な水森ビーナをジョン役で起用した。実は彼は松梨詩恩のドラマでスタンドインを務める予定でスケジュールが入っていたのが、9月上旬の話し合いで、スタンドイン役からは外してもらうことになった。それでこの撮影の時期、ぽっかりとスケジュールが空いてしまったので、このドラマに投入されることになった。初男役である!
 
羽田小牧ちゃんは先日櫛稲田姫の役をして、その“美少女ぶり”が話題になったのだが、本人から「あまり女の子役はしたくないです」という主張があったので、今回は男の子役をアサインした。
 
でもこのドラマが放送された時には「ジョンもマイケルも女の子が演じたんだね」と言われた!
 
小牧ちゃん(中2)は実は当初ジョン役の予定で、マイケルは中学1年生の諸星竜也君が予定されていたが、8月下旬に舞台公演でステージから転落して足首を捻挫。このドラマは結構足を使うので、可能なら降板したいという申し出があった。ちょうどビーナが空いたのを、松梨詩恩が出るドラマの監督・白原俊樹さん(河村監督のお友達)から聞き、ビーナにマイケル役でオファーを出した。ビーナのスケジュールが空いたその晩に河村さんから電話があったので、コスモスが「インサイダーだ!」と言っていた。しかしビーナは小牧より年上なので、ビーナがジョンで小牧がマイケルになった。
 
ロストボーイの役は、劇団桃色鉛筆の小学4〜6年生の子役さんたちが演じる。
 

「なんかこの配役、例の映画とかなりだぶってません?」
と岩本卓也君が言っていたが
 
「映画の撮影が延長された場合に備えて、9月までは予定を空けていた人か多かったみたいだから、結果的に“アクア・グループ”で声を掛けてみたら似た構成になっちゃったのよね」
 
と美高さんは言っていた。
 
確かに岩本卓也・松田理史・元原マミ・大林亮平・沢田峰子・七浜宇菜などはアクアとの共演が多く、“アクアグループ”という感じになってきている。演技力の高い人たちばかりである(ギャラも高い!)。
 

今回、ティンカーベルに『青い鳥』でチレット役を熱演した坂田由里が起用された。実はティンクには大学1年生の名越礼夢ちゃんが予定されていたのだが、コロナに罹ってしまい、急遽代役が必要になった。
 
『青い鳥』の演技で、美高監督が坂田由里をとっても気に入っていたので
 
「日程が空いてたら出てくれない?」
と声を掛けたことから実現した(コスモスと美咲は彼女の予定を大仙イリヤに振り替えた)。ティンクは結構難しい役どころである。ウェンディを殺そうとしたかと思えば助けたり、その揺れ動く女心の表現は、結構な演技力を要求する。できる人の限られる役である。
 
「ティンカーベルはオフショルダーのマイクロスカートですか?」
「君が着たいならそれでもいいけど」
とは言われたものの、やはりゴールデンの時間帯に流されるということで、肩は出すものの、ワンピースの丈が膝丈になった。女子高生の絶対領域は隠されることになる!靴は白いローヒールである(原典では white slipper と書かれる。シンデレラのガラスの靴も slipper)。髪はお団子にするが、これは自毛で作ることができた。
 
多くのティンクはブロンドの髪になっているが、これはアメリカとかで撮影するからブロンドになるだけなので、日本で制作するなら本人の自然な髪(栗色)のままで良いだろうということにした。
 
彼女はコスモスとの話し合いで、この撮影でも『青い鳥』と同様、ギャラの本人取り分をA契約の人と同じ4割にすることになった。
 

そういう訳で『ピーターパン』の撮影は、9/12-25(日〜土)の14日間で行われた。スペシャル版なので、普段のものより、制作時間が倍とってある。
 
地下の家のセットは、ロミオとジュリエットの大広間のセットの“内部”に鉄骨とアクリルガラスで組み上げた(工務店の施工)。建築費が2000万円もかかったが、アクアのドラマなので、スポンサーさんが出してくれた。
 
アクアが主演するとなると、予算が物凄く潤沢になる(でないとそもそもアクアのギャラを払えない!)。今回は高額ギャラの俳優がぞろぞろ使われている。また今回の撮影ではピアノ線で吊っての撮影や落差のある所を滑り降りたり転落!したりという演技があるので出演者は全員保険に入ってもらったが、アクアの保険料は凄まじかった!(制作部長がうめき声をあげて悩んだ)
 
ロンドンのダーリン家は、ハリボテの家、子供部屋のセット、庭と犬小屋のみが作られた。これも大広間の中に建てている。費用は300万円である。地下の家を本式に工務店に依頼したのは、やはり安全性を考えてである。ナナは動物タレントを扱っている事務所から本物のニューファンドランド犬を借りて撮影している。
 
なお、こういうセットを室内に造り込んだのは、やはり雨のシーズンということで天候に左右されずに撮影を進めたいからである。人魚の入江 (The Mermaids' Lagoon) もこの室内に造り込んだ(水道代が恐ろしかった:池の水を引き込もうという意見もあったが、衛生を優先させた。何と言っても高ギャラの人が多い)。
 
船はシンデレラやシンドルバッドでも使用したガレオン船を使う(本当はフックの海賊船はブリッグだが、さすがに新たに作れないのでガレオン船を流用する)が、天候勝負なので雨が降ってない時間を使って、海賊とのバトルシーン、最後の航海シーンを撮ることになっている(実際には9/15-16日の午後に晴れたのでそこで撮影した)。今回は船から転落するシーンが多数発生している。一応周囲に充分なクッションを置いて撮影しているのだが、海賊役の人たちは「結構恐かった」と言っていた(水音は後から効果音で加えている)。
 
むろん怪我人は出なかった。
 
海賊がピーターたちを狙って大砲を撃つシーンは、ドローンによる空撮である。これも上記の日程で撮影している。この船に備えられている大砲は全部ハリボテなのだが、それでも派手な音と火花だけ出る花火に大砲の筒の中で点火して、これを撮影している。大砲自体は先に水で濡らして延焼しないようにしている。
 
ロストボーイたちがティンカーベルに欺されてウェンディを弓矢で射るシーンもこの晴れている時間帯に撮影している。
 

物語のあらすじ。
 
ロンドンのダーリン家には、ジョージ・ダーリン(松田理史)、メアリー・ダーリン(アクア)の夫婦、そして子供のウェンディ(アクア)、ジョン(水森ビーナ)、マイケル(羽田小牧)が住んでいた。
 
(子供を演じてるのが3人とも男の娘??)
 
子供たちは“ネバーランド”について語り合っていた。
 
「入江があってフラミンゴがそこを飛んでるんだよ」
「フラミンゴの上を入江が飛んじゃダメ?」
「それは難しい気がする」
 
「砂浜にボートがひっくり返してあって、僕はそこに住んでるんだ」
「森の中に小さなおうちがあって、私はそこに住んでるの」
「勇敢なインディアンが居て、僕は彼らと一緒にティーピーに住んでるんだ(*2)」
 
「入江があったら、きっと人魚なんかも泳いでるかもね」
「きっとそういう所には海賊とかもいて、財宝を隠してるんだ」
「たくさん動物が居て、私はオオカミをペットにしてるの」
 
(*2)ティーピー(tee-pee)はアメリカ大陸の草原で暮らし移動しながら狩猟を中心として生活していた人たちが使用していた、円錐形で移動可能な夏用住居(冬の間は村で暮らす)。“ティーピー”という単語はスー族の言葉。
 
簡単に折りたためて馬などに載せて移動できる。テントに似ているが、頂上部分に穴があるので、中で煮炊きなどをしやすい(雨が降っている時は穴は塞ぐ)。
 

ネバーランドについて、ウェンディは母とも会話した。
 
「ピーターパンはお母さんも知ってるよね?」
とウェンディが母に訊くと
 
「なんか昔聞いたことがある気はする」
と母も言うが、記憶が不確かなようであった。
 
「そうだ。子供が死ぬ時、寂しくないように付き添ってあげるのがピーターパンという話も聞いたことある」
と母は言う。
 
(この場面は実は2人のアクアが共演しているのだが、母はちゃんと30歳くらいに見えてウェンディは中学生に見えるので凄いと言われた。ここで母を演じているのがFでウェンディはMである。一部の視聴者は母娘か姉妹の俳優さんが演じているのかと思ったらしい)
 

ある日ピーターパン(七浜宇菜)はこの家を訪れていて、お母さんに見つかり、逃げだそうとした時に、子守犬のナナ(ニューファンドランド種)が急いで窓を閉めたため、影がはさまって取り残されてしまった。お母さんは残されたピーターの影をクローゼットに入れておいた。
 
数日後、ダーリン夫妻が近所の家に招かれてパーティーに行った夜、ピーターパンがやってきた。先日落として行った影を取り戻すためである。
 
(アクアと松田理史が腕を組んで歩いて行くが2人は恥ずかしがらずにちゃんと普通に演技したので美高さんが2人を褒めてあげた)
 
影は一緒に来たティンカーベル(坂田由里)が見つけてくれたものの、自分の身体にくっつかない。困っていたら、ウェンディが目を覚まし、影を糸でピーターの足に縫い付けてくれた。
 
この影は、ピーターの扮装をした七浜宇菜を白い布を貼った壁の前に立たせ、影ができている所をマーカーで縁取りし、切り取って黒く染めたものである。この場面で撮影したビデオでは、逆方向からのライトを当てて宇菜の影ができにくいようにした上で、それでも残った影を画像編集で消去している。
 

喜んだピーターはウェンディをネバーランドに招待する。結局2人の弟、ジョンとマイケルも一緒に行くことになる。
 
全員ティンカーベルに妖精の粉を掛けてもらい、空を飛んでネバーランドを目指す。子供たちがちょうど窓から飛び出した時に両親が帰宅。両親は子供たちが空を飛んで行くのを驚いて見ていた。
 
ウェンディたちは、2時間45分で目的地に到着するが、ここで“ネバーランドが現実のものになる”。
 
ジョンはフラミンゴの飛んでいる入江を見る。そこにひっくり返したボートがあるので
「ジョン、あなたのおうちがある」
とウェンディは指摘する。
 
「入江には人魚もいるみたい」
「ティーピーが並んでる。インディアンがいるみたい」
 
ピーターは彼らがネバーランドのことをたくさん知っているようなので驚いていた。
 
(原作では"The island come true"と書き"The Neverland had again woke into life."と書いていて、ネバーランドが子供たちの想像から生まれるものであることを示唆している。ピーターパンはまさにユング心理学者がいう所の“永遠の少年”であり訪問者がある度に、グレートマザーの中から新たに誕生するのである)
 
 

海賊船が大砲を撃ってきたため、ピーターとウェンディたちはバラバラになる。
 
ピーターがウェンディに親切しているのに嫉妬したティンカーベルは島に居る子供(ロストボーイ)たちに、ウェンディのことを「大きな鳥」だと教え、ピーターがあの鳥を撃つように言っていたと嘘を言う。
 
(ここのティンクの表情がほんとに嫉妬にくるった女という感じで坂田由里は名演技だと言われた)
 
それで子供たちが弓矢で射ると矢がウェンディの胸に命中し、ウェンディは墜落する。
 
落ちてきたのを見て人間だったことを知り、慌てる子供たちだが、矢はウェンディが付けていた木の実のペンダントに当たっており、ウェンディは生きていた。しかし墜落のショックでしばらく動けないようなので、子供たちはウェンディの身体の上に、小さなおうちを建ててしまう!
 
(撮影では本当に寝ているウェンディ(アクア)の上にロストボーイたちが材料を運んで来たり、釘を打ったりして家を建ててしまう。実際には大半の作業は大道具係さんたちがしている)
 

やがてピーターパンが戻って来る。ピーターは彼らのことを紹介した。
 
「子守女がおしゃべりに夢中になっている間に、赤ん坊がベビーカーから転がり落ちて、7日間発見されなかったらネバーランドに連れて来られるんだ」
 
(このあたりはウェンディの母が語ったことと重なっており、ネバーランドというのが、この世とあの世の境にあることを示唆している)
 
「でも男の子ばかりなのね」
「女の子は慎重だから、ベビーカーから転げ落ちたりしないんだよ」
「へー!」
 

こどもたちが1人ずつ紹介される。
 
のんびり屋のトートルズ (Tootles):でもリーダー格、気取り屋のニブス (Nibs), 少しおでぶさんのスライトリー (Slightly)、巻き毛が可愛いカーリー (Curly), そして、ふたご (Twins)!!
 
「君たち、名前は無いの?」
とウェンディは実際に双子の2人に尋ねたのだが
 
「ピーターが“ふたご”というのを理解できないから、考えたくないというので名前もらえないの」
などと2人は言っている。
 
「じゃ私が名前を付ける」
とウェンディは言うと
 
「ノーラン(Nolan)とブライアン(Brian)とかどう?」
「いいかも」
と2人は気に入ったようだ。
「どちらがノーラン?」
「それは君たちが決めて」
と言うと、ふたりは話し合っているようであった!
 
それで、ふたごにはやっと名前が付いたものの、ピーターは相変わらず“ふたご”としか呼ばないのであった!
 

みんながネバーランドに到着するなり大砲を撃ってきた海賊についても、ピーターは説明した。
 
「海賊フックと手下たちだよ。手下の中でもスミーという奴とスターキーという奴は気をつける必要がある」
 
「フック?」
「右手の先が鉄のフック(鈎:かぎ)になってるからフックという。彼は噂によると黒ヒゲ(Blackbeard)海賊団の甲板長をしていたこともあり、ジョン・シルバー(*3)が恐れた唯一の男らしい」
 
(*3)ジョン・シルバーは、R.L.スティーブンソンの小説『宝島』に出てくる片足の海賊。別名バーベキュー(Barbecue).
 

「でもどうして右手がフックなの?」
「以前僕が彼と闘った時に、彼の右手の先を切り落とした。それで彼は切り落とされた右手の先に鉄の鈎を付けたんだよ」
 
「へー!」
 
その切り落とされた右手の先を“クロコダイル”が食べちゃって、クロコダイルはフックの味が気に入ったらしく、ずっとフックを付け狙っている、というのまではピーターは説明しなかった。
 
 
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【夏の日の想い出・ボクたち女の子】(2)