【夏の日の想い出・ラブコール】(1)

前頁次頁時間索引目次

1  2  3  4  5  6  7 
 
2021年6月16日(水)の午後一番、桜野レイア(羽藤玲香 1996生)が私のマンションを訪問してきた。(政子は彼氏とデートに行っている)
 
「珍しいね。入って入って」
と言って、中に入れる。
 
「実はコスモス社長に言おうと思ったんですけど、捕まらないんですよ」
「コスモスちゃん、忙しいもんね!」
「それで水森ビーナこと柴田数紀の仕事量について申し入れしたいと思って」
「うん」
「これマネージャーの青野にコピーさせてもらった彼女のスケジュールなんですけど」
 
“彼女”と呼ばれていることは取り敢えず気にしない!
 
「どう思います?」
とレイアは言う。
 
「無茶苦茶忙しいね!」
「これ、実際問題として、アクア、常滑舞音、ラピスラズリに次ぐ忙しさですよ」
 
「こんなに忙しくなっているとは」
「本人可愛いし、かなり引き合いが来つつあるみたいなんですよ。それでいて、彼女はお姉さんの松梨詩恩のスタンドインをかなり務めてるでしょ?詩恩ちゃんがアクアの仕事をかなり代わっていて無茶苦茶忙しくなっているからビーナも忙しくなっているんですよ」
 
「根本はアクアの忙しさか!」
 

「ビーナちゃん、まだB契約なんですけど、これだけ仕事してるのにB契約はないと思いませんか?」
 
桜野レイアは§§ミュージックの契約アーティスト代表を務めている。労働法規の適用外であるため、労働環境が悪化しやすいアーティストの労務問題について目を光らせる立場にある。
 
「分かった。これはコスモスと話し合ってA契約に切り替える方向で」
「切り換えのタイミングは?」
「当初からA契約だったことにして報酬を再計算させよう。それ、経理の方に指示しておくよ」
 
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「うん。ありがとね。私も気付かなかったよ」
 

「ところでこれは特に意見とかではないんですが」
「うん?」
「今舞音ちゃんが無茶苦茶忙しいでしょう?」
「うん」
「マネージャーの悠木恵美も村上麗子もフル稼働状態で」
 
「今、マネージャーの人手が絶対的に足りないんだよ。でも舞音ちゃんについてはもう1人くらい必要だよね。バイトさんでもいいから入れるようにしよう」
 
「でしたらぜひお願いします。これは本当は玉雪さんあたりから言うぺきことなんでしょうけど」
「あの人は、古い時代のマネージャーだからね。マネージャーなんて1日40時間くらい働くべきものと思ってるし」
 
「みたいな感じですね。ただそれでですね」
「うん」
「村上麗子が本来担当していた、大崎志乃舞とリセエンヌドオが完全に放置されてるんですけど」
 
「ああ」
と私は嘆くなような声を出してから言った。
 
「あの子たちについてはちょっと保留で。とても余裕がない」
 
「まあそうだとは思いますけどね」
と桜野レイアも苦笑していた。
 

水森ビーナ(柴田数紀)の報酬に関しては、経理の方でただちに再計算し、6月18日に銀行振込依頼を掛ける時点で再計算した報酬額との差額をまとめて振り込むようにした。本人とも話し合いを持ちたかったのだが、本当に本人が忙しいので、結局振込当日の21日にコスモスが数紀を事務所に呼び、A契約に切り替えることについて事後承諾をもらった。契約書に関しては数紀のお父さんと電話で話して、郵便で契約書を交換することにした。
 

その日の深夜、天月聖子(今井葉月)は橘ハイツ(5階以下の大半が男子寮)の地下、ピアノ練習室で千里と密談をした。
 
「醍醐先生、ボクの性別問題について本当は3月1日までに決断しなければいけなかったのをずっと保留してもらっていたんですけど」
 
「うん。どちらの性別にするか決めた?」
と千里は訊く。
 
「はい。やっと決心が付きました」
 
「どうするの?やはり女の子として生きていく?」
「それなんですけど、男の子で確定させてもらえませんか」
「へー!」
 
「随分迷ったんですけど、よくよく考えてみたら、ボクそもそも女の子になりたい気持ちとか無かったよなと思って。戸籍は女の子になっちゃったけど、ボク自身は男でいいんじゃないかと思って。別に戸籍の性別にこだわる必要は無いし」
 
「うん。そんな気はしてた。君はマジでふらふらしてるアクアとは違うよ。男の身体になればたぶんすぐ声変わりも来て、2〜3年以内には男らしい身体になると思うよ」
 
「いえ、その声変わりはしたくないし、睾丸は特に要らないから取って欲しいんです」
「睾丸無いとちんちん立たないよ。ワルツちゃんと結婚生活するのに困るでしょ?」
 
「和紗はボクのちんちんは別に立たなくてもいいと言ってくれてます。それよりボク、あまり男っぽい身体になりたくないんです」
 
「ふーん。女の子らしい身体になりたい?」
「別にそういう訳ではないんですけど、結局ボクはおじいちゃんみたいな路線かなと思って」
 
「蛍蝶さんって、あれ去勢してるよね?」
「分かりません。でもあの年齢であの雰囲気は何らかの操作はしてますよね」
「あの人、男役もするけど、今でも女物の服を着せればおばちゃんに見えるもん。男性ホルモンがほとんど効いてない感じだよね」
 
「それにボク父からも20歳までには去勢しろって言われてたし」
「それはさすがにジョークだと思うけど(と信じたい)」
 
「だから睾丸の無い男というのが自分的にはいちばんしっくり来る気がして」
「いいよ。じゃそれで確定させよう」
 

それで千里は聖子、いや西湖と呼ぶべきだろう。彼に**の法を掛けて、いったん完全な女性に変えた後、完全な男性に再度性転換した。そして性別にロックを掛けた。これを掛けると術者本人あるいはそれ以上に力のある人にしかこのロックは外せない。千里のロックを破れるのは、丸山アイ以外には居ない。(2度性転換させたのは千里1である。ロックを掛けたのは千里3である)
 
「これで完全な男になったけど、去勢する前に、男になった記念でオナニーとかする?それとも和紗ちゃんとセックスしてくる?」
 
「オナニーは別にしたくないんですけど、和紗とのセックスはしてもいいかなあ。あの子をずっとバージンのままにしてるし」
 
「じゃ今夜抱いてあげなよ。明日の朝去勢してあげるから」
「朝まで待ったら声変わりが恐いから、セックス終わったら即去勢してもらえません?実は過去に2度声変わりしてしまったのをアイ先生にキャンセルしてもらってるから、結構臨界に近いと思うんです」
 
「いいよ。じゃ用事が済んだらこれ使って」
と言って千里は小さな機械を渡した。
 
「これは?」
「自動去勢機」
「あのぉ、これちんちんまでは切れませんよね?」
「大丈夫だよ。ここにタマタマの袋を入れてしっかり閉めてこのボタンを推したら一瞬で男性を廃業できる。ちんちんを入れなければ、入れないものまでは切断されない」
 
「あのぉ、こちらの穴は?」
「ちんちんまで切りたい人のためのものだけど、入れなければ問題無い」
「入れません!」
「ちんちんまで切りたいなら、いっそ女の子にしてあげるよ」
 
「ちんちんはまだあってもいいと思うので」
 
“まだ”あってもいい、ね〜。
 
「痛いですか?」
「痛くないと思うけど」
 
「以前、アイ先生が作った無痛去勢機を使ったら、痛さで気絶したから」
「あの子は悪趣味だからわざと痛いように作ったりするからね。これは本当に無痛だよ。でも本当に男を辞めていいと決断できなかったら使ってはダメ」
 
「絶対に声変わり起こしたくないから、男性ホルモンを発生させる器官は用が済んだら即除去します」
 
「うん。それは君に任せる」
 

「ところでサービスでおっぱい大きくしてあげようか」
「なんかボクの胸、結構膨らんでるんですけどー」
 
性転換させた千里1の“趣味”でわざとバストを元の大きさまで膨らませたのである。
 
「もっと大きく、どーんとGカップくらいにしてあげようか」
「Gって!?」
「Gravityを感じる大きさだよ」
「すみません。今のサイズでいいです」
「了解〜」
 

その日の夜、西湖は和紗と“初めてのセックス”をした。和紗が泣いて感動していたが、西湖自身は疲れただけであまり気持ちよくなかった。射精の瞬間は頭痛がしたし。脳の血管が切れるかと思うくらいの痛みだった。
 
(アクアMは射精(睾丸が無いので精子を含まない精液が出る)でちゃんと気持ち良くなれているが、数紀や西湖は射精自体がダメなようである。たぶんどちらも“男”として未発達なせい。アクアは女として成熟してきたので恐らく男の快感も感じられる)
 
セックスを終えた後、西湖はひとりでトイレに入り、ためらいながらも自分で睾丸を自動去勢機に押し込む。ペニスは一瞬迷ったが入れなかった。正確には一度入れてみたがやはり恐いので取り出した。それで睾丸だけが中に入っている状態で思い切ってボタンを押し、自己去勢した。でもやはり気絶した!痛みは無かったのだが、痛いかもという自己暗示で気絶したのである。千里は彼の手から自動去勢機を回収し《きーちゃん》に西湖の睾丸の保存を命じた。
 
それで西湖が将来やはり男になりたいと思った時はこの睾丸を戻してあげることもできる(昨年こうちゃんが回収した睾丸は、こうちゃん自身も気付いていないが、実は龍虎のものである:だから龍虎の睾丸が消失した。アイの巧妙な罠に掛かったのである−アイが言う通りMに睾丸が無いとMとFは決して統合されない。いったん統合されても数時間でまた分離してしまう)。
 
なお、西湖は一応中学1年の時にも精液の保存はしている。
 

ところで§§ミュージックの女子寮が来年の夏には満杯になってしまうのが確実である問題、また寮母の天羽亜矢子(高崎ひろかの母)から言われていた調理スタッフの増員と厨房スペースの拡大問題について、私とコスモスは次のような対策を進めた。
 
・調理スタッフは取り敢えず2名増員して5人にする(6月中旬から入ってもらった。8月に更に1人増やした)
 
・取り敢えず臨時厨房を作る(仕様を花ちゃんと播磨工務店で詰めてもらう)
 
・各部屋への配送を今、海浜ひまわりと秋本亜蘭(*1)の2人だけでやっているのが大変なので、各フロアまで自動で配送されるシステムを導入する。ひまわり・亜蘭は各フロアのステーションから各部屋へ持っていく。
 
配送システムは即発注して6月末までには導入され、ひまわりからも助かると言われた。
 
(*1) ひまわりの従妹(母の妹の娘)。歌手志望らしいが、ひまわりからまで「あんたにゃ無理」と言われていた。かなり音痴である!私は取り敢えず毎日発声練習することと楽譜が読めるようになりなさいと言っておいた。
 

女子寮自体の増設問題については、現在の女子寮の近くで土地を探していたのだが、すぐ裏手に建っているマンションに建て替え計画があることを知り、所有している不動産業者と交渉した所、土地ごと売ってもらえることになった。
 
昭和20年代!に建てたもので、あまりにも老朽化していて危険性を区役所から指摘されていたらしい。あまり酷いので住民もほとんど逃げ出して!いて3戸だけ残っていたが、比較的近くの他のマンションに移ってもらうことになった。
 
それで7月には買取交渉がまとまり、ムーラン建設に新女子寮の建設を発注したのである。
 
土地の買い取り価格は3億円、ムーラン建設に払った建築費は12億円である。新しい寮の間取りは1DKではあるが現在の女子寮より少しだけ広くなる予定である。新しい寮に最初に入るのはたぶん、↓のメンツになる。
 
・品川ありさ
・ラピスラズリ
・常滑真音
・白鳥リズム
・姫路スピカ
 
高崎ひろかは、新女子寮完成後、本棟を建て替えるので、その時点で本棟に移動して、母・妹と一緒に暮らす意向である(現在の本棟2階の寮母室は狭くて3人で住むのは困難である)
 
「ビーナちゃんも一緒に住む?」
「高校の通学の都合があるから」
「あ、そうか」
「まあこちらの近くのC学園とかに転校させる手もありますけどね」
「女子校に入れるの?」
「あの子を見たら入れてくれると思うけとなあ」
「そうかもね」
「何なら眠り薬飲ませて、病院に連れ込んで手術しちゃう手もありますし」
「ああ」
 
数紀は男の子のまま成人式を迎えることは無いなと私は思った。
 

今から12年前、2009年8月、ローズ+リリーは“なんちゃって休業”中であった。私は和泉たちと一緒に伊豆で行われるフェスティバルに(KARIONとして)出演しに行っていて、恋人岬の近くで、偶然マリと遭遇した。それで急遽一緒にフェスティバルで歌うことになった。
 
この時期、まだマリは“リハビリ”中て、“ローズ+リリーとして歌う自信が無い”と言うので、名前は名乗らないことにした。紅川さんの好意で、§§プロのステージの秋風コスモスと川崎ゆりこの間に、5分間時間をもらい、何も名乗らずに出て行って1曲だけ歌ったのである
 
しかしマリはこの体験でずいぶん自信を回復させたようだった。
 

「でもここ、どうして恋人岬と言うの?」
とマリは訊いた。
 
「昔、この付近に住んでいた漁師の男と村娘が、鐘を鳴らして合図していたらしいよ。船の上から鐘を3つ鳴らすと、娘も浜で鐘を3つ鳴らしていたんだって」
と私はさっき人から聞いた話をそのまま語った。
 
「向こうが2つ鳴らしたら、こちらも2つ?」
 
「結構お互いに何個鳴らしたらどういう意味とか決めてたかもね」
「きっとそのバリエーションが100個くらいあったんだよ」
「100個まではなくても10個くらいはあったかもね」
 
その話にマリは感動したようで、愛用のボールペン“赤い旋風”を使って『鐘の恋文』という詩を書いた。私はこの詩にすぐ曲を付けたのだが、あの後ずっとこの曲は使わないままになっていた。
 

2021年6月17日(木).
 
この日は政子の誕生日だった。
 
私は午前中はマンションに居て、土曜日(6/19)におこなうビデオガールコンテスト二次審査を前にしてコスモス・ゆりこ・花ちゃんとメッセージ交換しながら、その準備を進めていたのだが、お昼近くになって誕生日のことを思い出した。
 
しまったぁ!誕生日のプレゼント用意してないと思い、マンションに詰めてくれている近藤妃美貴に頼んで、取り敢えずケンタッキー8本とホウルケーキ1個買ってきてもらった。
 
ちょうど妃美貴が戻ってきた直後に政子は起きてきた(政子はだいたいお昼すぎに起きてきて、夜?4時頃に寝る生活をしている)。
 
「マーサ、誕生日おめでとう」
と私が言うと、政子は
「誕生日じゃないよ」
と言う。
 
「え?そうだっけ?」
と思って、私は慌ててスマホを見るが、確かに6月17日と表示されている。
 
「今年は6月17日は無いんだよ」
と言って、政子は壁のカレンダーを指さした。
 
17日の所が切り取られている!
 

「だから今年はお誕生日も来ないし、私も年を取らない」
 
そういうことか!
 
「でもね。マーサ、年齢って誕生日に1つ増えるんじゃないんだよ」
「え?そうなの?」
 
「年齢の数え方については、民法(*1)に規定があって、前日が終了する時に1歳年を取ることになってる。だから、例えば6月20日に選挙の投票がある場合、投票日翌日の6月21日が18歳の誕生日という人まで投票権があるんだよ。20日のラストで18歳になるから」
 
「へー!!」
 
「だから6月17日が来なくても、6月16日が終了するのと同時にマーサは30歳になったんだよ」
 
「その30という数字を私の前で言うな」
 
「あはは。だから、17日をカレンダーから切り取っても無駄だったね。16日はもう終わっちゃったから」
 
「くっそー!16日も一緒に切り取るべきだったか」
 
(*1)まず“年齢計算ニ関スル法律”第2項で「民法第百四十三条ノ規定ハ年齢ノ計算ニ之ヲ準用ス」とあり、その民法143条にはこのように書かれている。
「週、月又は年の初めから期間を起算しないときは、その期間は、最後の週、月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了する。ただし、月又は年によって期間を定めた場合において、最後の月に応当する日がないときは、その月の末日に満了する」
 

「誕生日じゃないんだったら、チキンもケーキも要らない?」
「それは当然もらう」
 
と言って、政子はチキン6本(私と妃美貴が1本ずつ)、ケーキを6分割したうちの4/6(私と妃美貴が1/6ずつ)を食べてご機嫌であった。
 
(シャンパンも1本開けて、これは妃美貴は勤務中だからと言って遠慮したので、私がグラス1杯だけ飲み、あとは政子が飲んだ)
 

この日の翌日6/18には「アクアの華麗なる淫乱生活」なる週刊誌報道があり仰天した。
 
しかし深夜にTKR松前社長と★★レコード町添社長が緊急に連絡を取り合い、全国の★★レコードの社員を動員してコンビニ・書店でこの雑誌を買い占め、この雑誌がほとんど一般の人の手には渡らないようにした。この買い占め作業には、千里の指令で全国の播磨工務店・フェニックスグループの社員、若葉の指令で全国のムーラングループの社員も動員された。
 
そして朝一番にアクアが記者会見を開いて、報道を一笑し、へたすればアクアのタレント生命に関わる事件を騒動になる前に潰してしまった。
 
このあたりのコスモスの決断と行動の速さに私は驚嘆した。それに合わせてすぐ動いてくれた町添社長・千里・若葉にも感謝である。千里も若葉も協力してくれた社員さんたちからこの雑誌を1冊千円で買い取ったらしいが、最終的には私がその代金を彼女たちに個人的に払った。会社の会計には乗せにくい費用である。雑誌自体は若葉と千里が各々の責任で全廃棄した(千里所有の工場でトイレットペーパーに生まれ変わったようである)。
 

第2回ビデオガールコンテスト2次審査は6月19日(土)に行われた。
 
これは一次審査を通過し(親権者の芸能活動承諾書を提出し)た118名を一次審査の得点順に8個のブロックに振り分けている。この振り分け方は次のようにしている。
 
A 1 16 17 ...
B 2 15 18 ...
C 3 14 19 ...
D 4 13 20 ...
E 5 12 21 ...
F 6 11 22 ...
G 7 10 23 ...
H 8 9 24 ...
 
二次審査の参加者には事前に同一スペックのカメラ付きパソコンを送付しており、各々Wi-fi環境のある場所(自宅またはホテルなど)から、接続して審査員が見ている前でパフォーマンスしてもらう。
 
審査員は4グループに別れており、午前中にABCDを審査し、午後からEFGHを審査した。
 
各ブロックの審査委員長・副委員長は下記が務めた。
 
AE コスモス社長・桜野レイア
BF ゆりこ副社長・花咲ロンド
CG ケイ会長・品川ありさ
DH ルンバ部長・高崎ひろか
 
山下ルンバ(花ちゃん)は5月付けで“§§ミュージック音楽部長”の肩書きを付与されている(でも無給!)。実を言うと、ゆりこが近い内に結婚したいと言っているので(実際7/24に結婚した)、むろん結婚しても仕事はそのまま続けるのだが、妊娠して数ヶ月休職したような場合に備える意味もあった。実際花ちゃんは2〜3年前から事実上会社のNo.3 (1=コスモス、2=ゆりこ) として扱われていた。
 
醍醐春海(千里)はこの日からNTCでオリンピックに向けてバスケット女子代表の合宿に入ったので今回はここに入っていない(別の千里なら出て来られると思うが)。
 
昨年は桜木ワルツもメンバーにラインナップされていたが引退したので花咲ロンドが副委員長に指名された。「私売れてないのに」と言ったら山下ルンバが「私よりは売れてる」と言っていた。
 
品川ありさ・高崎ひろかは、過去に何度も審査委員は務めているが、副委員長は初めてで「私がそんな重要な役をしていいんですか?」と焦っていたが、「君たちは充分大物」と言っておいた。
 

なお、審査結果は微妙な人を全員で検討したりもしたので、1週間後の6月25日(金)に参加者各自に論評付きでメールした。論評は副委員長が書いているが、結構言葉を選ぶし、特に落とした人には“次”につながるよう助言や励ましも書いたので、その論評を書くのにも1週間掛かったようである(お疲れ様である)。
 

その日は、アクアの制作中のアルバム(仮題『Aqua Wind』最終的に『ダブルボイス』として発売)の制作に、雨宮先生が顔を出していて、唐突に昔話になった。
 
「じゃ、最初から居たのは上島先生だったんですか」
とコスモスが言った。
 
「そそ。5ピースバンドでさ。ギター・ベース・ドラムス・キーボード・ユーフォニウム」
 
「ユーフォが入るって珍しい」
「ファンレンの崎守英二だよ」
「あの人、ユーフォ吹いてたんですか?」
「崎守はギターも得意だけど、リーダーの小橋って奴が超絶ギターうまかったから、中学時代にブラスバンドで吹いてたユーフォに回った」
 
「なるほどー」
「その小橋がギター兼メインボーカルで」
「へー」
「(上島)雷ちゃんはキーボード」
「ああ」
「それがノーバンというバンドだったのよ」
 

「その名前は初めて聞いた気がします」
とアクアが言う。
 
「そうだっけ?」
「何か言われがあるんですか?」
 
「最初の頃はみんな下手だっからさ」
「最初はそんなものでしょうね」
 
「お前ら、全然ノリが悪い。音が弾んでない。もっと弾めとか言われてさ。それで、弾まない→ノーバウンド→ノーバン、だよ」
 
「レッドツェッペリン(*2)と似てますね」
「ああ、似たような発想だよな」
 
(*2) ドラムスのキース・ムーンが「鉛の風船みたいに落ちてしまう (go down like a lead balloon) 」と言ったことばが元になっている。Lead balloon の balloonを飛行船 Zeppelin に置換してバンド名とした。最終的に lead (鉛)を Led に変えてLed Zeppelin としたが、これはlead(レッド)を「導く」という意味のlead(リード)と誤読されないようにするため。
 

「でもノーパンじゃなかったんですね」
などとアクアが言うので、私も千里も思わず頭を抱えるが、雨宮先生から
 
「あんた、本当は女だってのバラしちゃうから」
などと言われている。
 
「それ今更な気がします」
とコスモスに言われて、話は先に進む。
 
「私は公園でサックス練習してたら雷ちゃんにナンパされてさ」
 
「その演奏に注目したんですか?」
とアクアは訊いたが、雨宮先生は言う。
 
「雷ちゃんって手が早いから、私気がついたら一緒にホテルに来てて」
 
「そっちのナンパですか!」
 
「やっちゃったんですか?」
とコスモスが尋ねる。
 
「私を裸にしてから男と知って驚いていた」
「うーん・・・」
「でも、男の子を誘ってしまったのは不覚だけど、ホテルに連れてきた以上最後までやるのが僕のポリシーだと言って、やられちゃった」
 
「偉いのか何なのか」
「穴があったら入れたい、というのが男という生物だけど、雷ちゃんの場合は穴がなくても入れてくる」
「雨宮先生も大差無いと思うなあ」
と千里が言うので、私も
「同感」
と言った。コスモスは呆れている感じだ。
 
「じゃ恋人になっゃったんですか?」
とアクアが尋ねる。
 
「私と雷ちゃんが“した”のはその1度だけだよ。私はバイだけど、雷ちゃんは基本的にはストレートだから」
「ああ」
 
「でもバンドには誘われて、私が入ってサックスが入った6ピースになった」
「ユーフォがあるなら、サックスとかホルンとかもあった方がまとまる気がする」
「うん。その後、わりと観客集めるようになったんだよ」
「なるほどー」
 
「それで注目されはじめた矢先に小橋が大学を退学になって郷里に帰っちゃってさあ」
「何したんですか?」
「授業料の滞納」
「あらら」
 
「充分な仕送りもらってたのに、全部バンドに注ぎ込んでたのよ。それで親からもう帰ってこいと言われて郷里に戻って親の経営する運送屋さんで働くようになった。その後、父親が病気で倒れて、もう10年くらい前に社長になったよ」
 
「へー」
 

「小橋が辞めた後、一時的に崎守がギターを弾いたけど、ボーカルがいない。それで私たちは取り敢えずボーカルを探した。それで引き込んだのが高岡だったんだよ」
 
「へー」
 
「高岡はとにかく歌がうまかったから、それで何とかバンドは成立した。この時、メインボーカルが変わったから名前も変えようということになって、ノーバン:ノーバウンドから、ワンバウンドに進化してワンバンにした」
 
「ゼロから1への進化ですか」
 
「当時高岡はギターが弾けなかったけど、たくさん練習してうまくなったから、高岡にギターを弾かせて、崎守はユーフォに復帰した」
 
「ああ」
 
「大学卒業するにあたって、私と上島と高岡の3人がプロに転向することにした。崎守も誘ったんだけど、彼は一般企業への就職の道を選んだ」
 
「一流大学を出てミュージシャンやるとか勇気いりますよ」
「親からもひどく反対されたみたいだよ」
「それはそうだと思います」
 
「ベースとドラムスの奴も就職した。それで別のバンドに居た、ベースの水上とドラムスの三宅を誘った。更にこれからのバンドではコンピュータ技術者が必須だと上島が言うから、ひとりでDTMやってた下川を誘った」
 
「それでワンティスの基本陣容ができた訳ですね」
とコスモス。
 
「あと、セカンドギターの海原と、トランペットの山根、コーラスの長野姉妹は最初はサポートメンバーだったけど、後に正式メンバーにして10ピースバンドになった」
 
「なるほど」
 
「もっともデビュー時点で、龍虎は夕香のお腹の中にいたんだから、龍虎もワンティスの11人目のメンバーかも知れないぞ」
 
「わあ」
 
「マイナス1歳でバンドやってたとしたら、アクアは本当に音楽の申し子だ」
などと千里は言っていた。
 

「そうそう。それで高岡と夕香がさ」
と雨宮先生が言うと、アクアは何だろう?という感じで雨宮先生を見ている。
 
「初期の頃はまだ同棲してなかったけど、やはりかなり頻繁にデートしてた」
「ああ」
 
アクアは興味深そうに聴いている。
 
「その時期、夕香のイヤリングに意味があることに、イク(三宅行来)の奴が気付いたんだよ」
 
「イヤリングですか?」
「イクの分析では夕香が金のイヤリングしてる時はデートOKの日だったらしい」
「へー!」
 
「そんなOKの日とNGの日ってあるもんなんですか?」
とアクアが訊くので
 
「まあ女には色々都合というものがあるからね」
とコスモスが言うが、アクアは首をひねっていた(この日出てたのはたぶんMの方だと思う)。
 

「でもその金のイヤリングはどうなったんでしょうね」
とコスモスが訊く。
 
「すごくお気に入りだったみたいで、龍虎産んだあと復帰して以降はいつも着けてたみたいだったから、たぶん事故の時に燃えちゃったんじゃないかなあ」
と雨宮先生が言うと
 
「そうですか・・・」
とアクアは残念そうな顔をしていた。
 

数日後、龍虎が私に言った。
 
「こないだ雨宮先生から聞いたイヤリングの件なんですけど」
「うん」
 
「ちょっと詩を書いてみたんですよ」
「へー」
「ちょっとケイ先生、見てもらえません?」
「私より和泉とかに見せればいいのに」
「和泉先生恐いです」
「あはは」
 
もうひとりマリに見せる手もありが、マリは“別の意味で”危ない。
 
それで見てみたのだが、ちょっと可愛いものの、まともな詩だと思った。
 
「少し添削していい?」
「はい、お願いします」
 
私は日本語の間違い!、表現上の問題や、韻が崩れている所、文字数が合わない所などに修正のヒントを赤いボールペンで書き込んだ。龍虎は「そっかー!」などと感心していた。
 
「このあたりを修正すれば充分使えると思うよ」
「分かりました。修正してみます」
「龍ちゃんの次のアルバムとかにでも入れる?」
 
アクアのシングル曲はタイアップやドラマなどの主題歌で埋まってしまうので、この手の自作曲を入れるとしたらアルバムしか無い。
 
「それなんですけど、自分で歌うのはちょっと気恥ずかしくて」
「じゃ、舞音ちゃんか、ラピスあたりにでも歌ってもらう?」
「後輩に渡すのは何か偉そうで悪くて」
「アクアは充分偉い人だと思うけど。それにこないだ舞音ちゃんのビーナスの歌の歌詞を書いたじゃん」
「いや、あれはせっかく松芝電機さんが私にってオファーして下さったのに悪かったから」
とアクアは言った。
 
「ビーナスの格好したら、アクアが女の子だってバレちゃうしね」
 
(とっくにバレてる気もするけど)
 
「私の性別問題は置いといて、この歌、ケイ先生に歌って頂くとかはできませんよね?」
 
「いいよ!」
「だったら頑張って歌詞の修正します」
「OKOK」
 

それで、アクアからもらってしまったのが『イヤリングのラブレター』という歌だったのである。舞音のビーナスの曲で使った“東風”(トンプー)の名義を使うとアクアだとバレてしまうので、あまり知られていないもうひとつのペンネーム“水野歌絵”を使うことにした。彼の歌詞のテイストを最大限生かすために、敢えて松本花子の“岡原世奈”(私のコピー!)に曲を付けさせた。
 
そして私は、お礼にアクアには『白い恋の物語』という曲を書いて、これは彼のアルバム『ダブルボイス』に収録された。
 

2921年6月25日(金).
 
★★レコードの株主総会が“ハイブリッド出席型”で実施された。
 
基本的に株主総会には“集中日”というものがあり、それは6月の最後の平日の前の平日(その日が月曜ならその前の金曜日)である。それは2021年の場合は最後の平日が6月30日(水)なので、その前日の6月29日(火)だが、最近全ての大企業が同じ日に総会をすることへの批判が多いため分散傾向にあり、★★レコードもその前の6月25日(金)に前倒しした。
 
(総会は月曜日には実施できない。なぜなら郵便で送られてきた議決権行使書が日曜日は配達されないため月曜日に土日分までまとめて届くので、月曜日では開催時刻までに集計するのが困難だからである)
 
今年の★★レコードの株主総会はバーチャル・ハイブリッド出席型で行われた。
 
コロナの折、株主総会をネット開催しようという動きは強いのだが、それを完全ネット型で実施するための「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律案」の国会での審議が遅れ、5月20日に参議院で議決されて6月16日に公布、同日施行された。
 
つまり大企業の総会開催の通知に間に合わなかった!
 
そこで多くの企業が、やむを得ず“ハイブリッド開催”、つまり一応物理的な場所を確保して開催するものの、ネットでも参加できるようにしたのである。
 
ハイブリッド方式には、ネットからは株主総会の様子を“見るだけ”という“参加型”と、ネットからも意見を述べたり投票できる“出席型”があるが、★★レコードでは、★★チャンネルのネット環境を使用して、“出席型”で実施した。
 

冒頭、町添社長は、2年前(2019.6.27)の株主総会で新社長になった時に「3年間で売上を倍増させる」と言ったのが、業績が伸び悩んでいることを陳謝した。しかしコロナの折、業績が悪化している企業が多い中、★★レコードは充分健闘しているし2年前と比べて業績自体は伸びていることから、これを問題とする意見は無かった。
 
特に★★レコードの場合は関連会社の業績が好調なのに支えられている。
 
アクア・ラピスラズリそれにステラジオが好調なTKRは2020年度の決算が2018年度から30%も利益を伸ばしている。UFOを抱えているライミューズ、スパイスミッションを抱えているパール&ゴールドが各々50%以上利益を伸ばしていて、★★レコード本体は2年前とほとんど変っていないものの連結決算では20%ほどの利益増になっている。
 
これは充分健闘している状態だと多くの人が判断した。
 
なお議決事項として役員の交代が提案され承認された。
 
交替したのは、2013年以来、8年間人事部長を務めた須賀義晴取締役が勇退し、総務部長付きであった、鶴山嘉子を新たな取締役・人事部長に当てる案を賛成多数で可決した(議決権行使書で80% その場の投票で90%の賛成)。
 
これで新たな★★レコードの取締役は下記9名となる。
 
町添幸太郎(社長)、朝田寛美(専務:TKR副社長兼務)、佐蔵越子(常務:トリブルスター出身)、似鳥俊夫(営業部長)、紙矢直人(法務部長)、加藤銀河(制作部長)、鶴山嘉子(人事部長)、堂崎隼人(社外取締役)、中林麗子(社外取締役)、
 
女性取締役が3名となる。
 
「本当は半分女にすべきだと思うんだけどねえ」
などと後で懇親会で佐蔵常務などは言っていた。
 
「ところで新取締役の鶴山さんって、アルトボイスなんですね」
という声があったのに対して本人は
 
「ああ、私、元男だから」
などとあっさり本人がいうので
 
「え〜〜!?」
と驚きの声があがっていた。
 
「それ結構知られていると思ったのに」
などと加藤制作部長が言っている。
 
「彼女は若い頃に性別変更して、入社以来女性社員として勤務していたんですよ。2014年に性別移行制度ができる以前から性別の変更を認めていた数少ない事例の1人だね。ただし2004年に法的な性別を変更できる特例法が施行されたら即法的な性別を変更したから、もう17年間法的にも女性ですよ」
と似鳥営業部長。
 
「雑誌で紹介されたこともあるよ。当時は法務部長補佐だったね」
と加藤さん。
 
「そうそう。僕の下に付いてた」
と紙矢法務部長。
 
実は彼女は弁護士の資格も持っているのである。それで若い頃は法務部で大活躍していた。実は2014年に社内性別移行制度が作られた時も、その制度創設の中心となったひとりであった。
 
私は彼女の性別を知っていて承認投票した人と知らなかった人は半々くらいかなと思った。
 
ただ彼女は見た目は完璧に女性なので、多くの人が「ま、いっか」と思ったようである。17歳で去勢しているだけあって彼女の外見は完璧に女性である。ただ声変わりはした後だったので、未だに声が低い(女声は練習してみたもののなかなか習得できないらしい:忙しすぎて思うようにレッスンに通えないのもあると思う−喉仏は若い内に切削している)。
 
しかし結果的にMTFの取締役が2名になったことになる。ただしもう1人の方の性別は非公開なのでMTFであることを知らない人が多い。
 

鶴山嘉子は1971年生で今年50歳になる。★★レコードに入社したのは2000年のことで当時28歳であった。彼女は高校時代に去勢し、名前自体も20歳になってすぐに出生名の男名前から「嘉子」という女名前に変更して、それで司法修習も受けている。但し司法修習生時代は「法的に男であるなら男の格好しろ」と言われ、女にしか見えないのに、背広にズボンで修習していた。しかし弁護士になった後“磯弁”時代には
 
「女なんだから、ズボンじゃなくてスカート穿いた方がいいよ」
などとクライアントさんからまで言われるので、ボス弁護士の承認のもと、女装で“ほぼ”女性弁護士として勤務していた。
 
1997年(26歳)にタイで性転換手術を受けた後、“軒弁”として、それまでと同じ弁護士事務所に勤めていたが、2000年にそろそろ独立して自分の弁護士事務所を持とうかどうしようかと悩んでいた頃、★★レコードの当時の法務部長から「手が足りないから手伝って欲しい」と言われて、そちらに移った。この法務部長は彼女が務めていた弁護士事務所のボスの弟さんで、彼女の有能さを知っていたのである。
 
2004年には(男性と)社内結婚している(普通に結婚式・披露宴をしたが、婚姻届けは法的な性別を変更した2014年に提出)し、夫の連れ子2人の母親を立派に務めている(現在、高校生と大学生)。彼女の夫は実はライミューズの副社長をしている。それで今回の人事には著しい営業成績をあげているライミューズの意向を本社に反映させる含みもあったのである。
 
性別変更で仕事を失ってしまう人が多い中、彼女はかなり恵まれていた部類だと思うが、法的に男という状態だった頃はかなり苦労していたようだ。
 

「しかし★★レコードは随分分社化していて、それで各々の分社が独自の考えで運営されているおかげで、柔軟な運営がされて全体的な営業成績もいいみたいだけど、§§ミュージックはかなり規模が拡大してるけど分社化は考えないの?たとえば高崎ひろか・品川ありさとかを子会社に分離するとか」
 
と私は、ζζプロの観世社長から尋ねられた。
 
「それ検討したことはあるんですけどね。玉雪さんが必要無いと言うんですよ」
「ほぉ!」
 
「うちは各々のマネージャーの権限が物凄く強いんです。アクアの担当マネージャーの山村とか億単位の決裁を独自にする権限を持っています」
 
「そんなに許してるんだ!」
 
「一応1000万円以上は社長決裁が必要ですけど、よほどのことがない限り、全て承認します」
 
「ああ」
 
「白鳥リズムのマネージャー本田覚とか、高崎ひろか・水森ビーナの主任マネージャーの月原美架とか、常滑真音の主任マネージャーの村上麗子とかも数千万単位の決裁権限や独自のバイト採用権があります」
 
「凄いな。僕はとてもマネージャーにそんな巨額の決裁権や人事権まで付与しきれない」
 
「各々のアーティストの売り出し方にしても、ほぼマネージャーだけで決めることができるんです。だから、うちは各々のマネージャーがそれぞれ1つの会社みたいなものなんですよ」
 
「なるほどー」
 
「だから既に分社化されているようなものなので、今更分社化する必要はないというのが玉雪さんの意見で」
 
「よくそういう体制になったね」
 
「まあ忙しすぎて、細かいことにいちいち社長が関与してられないというのでそういう体制になってしまったというのが実態ですけどね」
 
「マジで忙しいみたいだね」
 

あけぼのテレビは7月から海外のいくつかのネットテレビ局と番組制作で相互協力をすることになった。
 
コロナにより国境を越えての移動がひじょうに困難であり、また不要不急の移動は社会的に批判される状況にあることから、どこの国の放送局も海外での取材がしにくい状況にある。そこでお互いに協力して、他国の放送局のための番組を制作しようということにしたのである。
 
今回、あけぼのテレビが提携を結んだのは、下記の2局である。
 
ドイツのシュトゥットガルト(Stuttgart)を本拠地とするシュテフレスネッシャーTV(Staeffelesrutscher TV)
スペインのグラナダ(Granada)を本拠地とするラランブラTV(la Alhambra TV)
 
シュテフレスネッシャーTVとの交渉は、若葉の彼氏(夫)でシュトゥットガルト在住の紺野吉博(クレールの和実の元片想いの相手でもある)がまとめてくれた。
 
またラランブラTVとの交渉はグラナダに住んでいる千里の友人?(千里本人ではないのか??)がまとめてくれた。
 
いづれの場合も、こちらは日本在住のドイツ人・スペイン人のレポーターを使い、あけぼのテレビの撮影スタッフが、日本国内の風光明媚な場所を紹介したり、お花などが咲きほこる様子などをレポートする。
 
ドイツ・スペインのテレビ局でも、ヨーロッパ在住の日本人を起用して、向こうの風物をレポートする。
 

どちらの場合も、できるだけ不要な移動は避け、他地域のレポートは各々その近くに住んでいる人に取材を依頼する方式とする。結果的にスマホで撮影したような映像になる場合もあるが、それは仕方ないと割り切る。
 
ここを割り切れるのがやはりネットテレビですよね、と双方の幹部さんとの直接電話会談でも話した。
 
ちなみに、こちらはアルト社長はあまり外国語は得意ではないが、コスモス(副社長)と坂口専務が英語・ドイツ語・フランス語を話せるし、松浦常務がスペイン語を話せるので、それで直接向こうと話している。
 
(千里や丸山アイ・若葉はドイツ語・スペイン語・フランス語などOK。この3人はかなり多くの言語を話せる)
 
取り敢えず“ドイツレポート”・“スペインレポート”の名前で土日の夕方の時間帯に放送を始めたら、結構好評であった。
 

私は6月いっぱいはアクアのアルバムの制作、ビデオガールコンテストの準備、アクアの写真集、常滑真音の写真集、などに関する作業を進めていたのであまり時間が無かった。
 
マリはその間、彼氏(百道大輔)と会ったり、松浦紗雪さんたち“アクアFC幹部会議”(Zoomによるリモート会議)に参加したり、ファンの方から頂いた日本各地のグルメなどを食べたりして過ごしていたようであった。
 
月末の水曜日、暇そうにしてるので
「彼氏とデートしてきてもいいよ」
と言ったら
「大輔コロナに罹った」
と言う。
 
「嘘!?」
「先週の金曜日にライブハウスで演奏したらしいんだけど、そこがクラスターになっちゃったらしくて、大輔自身PCR検査で陽性。バックバンドの人たちからも2人陽性が出たらしい」
 
「あらぁ」
と言ってから、私はマリに尋ねた。
 
「マーサ、彼と最後に会ったのは?」
「水曜日なんだよ。日曜日も会う約束してたけど、常滑舞音ちゃんのドラマの再放送見てて、会いに行くの忘れてて」
 
「うーん・・・」
 
「念のためと言われてPCR検査されたけど、陰性だったよ」
「それすぐ私に言ってよ」
 
「ごめーん。念のため一週間くらい出歩かないでと言われたからずっとうちに居た」
 

先週の水曜日に会って、その後会ってないのなら、万一その日に感染していたとしても、これだけ経っていれば、たぶん大丈夫だろう。私はワクチン接種済みだが、政子にも打っておいた方がいいかな?と私は考えた。
 
「でもおかげで2年くらい大輔とは会えない」
「2年ということはない。治れば会えるよ。彼の様子はどうなの?」
「なんか入院してるらしいよ。お母さんも会えないらしい」
「それやばいんじゃないの?」
「やはり男だし、煙草も吸ってるし、血糖値も高いと言ってたから、重症化したのかも。たばこやめて、男もやめとけば良かったのに」
などと政子は言っている。
 
「しばらくは電話のやりとりだけで我慢するしかないね。彼自身も不安だろうし、電話で励ましてあげなよ」
「それが電話にも出られないらしくて」
「それマジやばいじゃん!」
「でも軽症と言ってたよ」
 
「お医者さんの言う軽症・重症と私たちの感覚の軽症・重症はまるで違うからね」
 

マリの話ではさっぱり状況が掴めないので、私は大輔のお母さんに直接電話して状況を尋ねてみた。その結果、基本的には“軽症”だが酸素吸入が必要な状況であること。しかし若いのでたぶん命には別状はないだろうというお医者さんの話らしい。ただ感染力が強いので面会などはできない状況であること。電話で話すのもかなり体力を消費するので、できるだけ控えているということを確認できた。
 
私は、マリの気分転換をさせるためにも、ローズ+リリーのアルバム『ラブコール』の本格的な制作に入ることにしたのである。
 

伴奏と歌は別録りにしてくれとレコード会社からも言われている。更に最近イギリスで猛威をふるっているインド発祥の“デルタ株”が日本にも既に上陸している可能性を考え、今回は基本的に次のような制作体制で臨むことにした。とにかく“人を集めない”というのを徹底する。
 
これは§§ミュージックのアーティストの制作についても6月から適用している方法と同等である。
 
(1)楽曲が完成した時点で、私がエレクトーンの弾き語りで歌う。
 
(私のマンションの防音ユニット“音楽室”を使用する)
 
(2)この歌を聴きながら、スターキッズで伴奏を制作する。この時点で七星さんにお願いして充分練ってもらう。
 
(参加者:Gt.近藤 B.鷹野 Dr.酒向 Sax.七星 Vib.月丘 KB.詩津紅)
 
この作業は近藤さんの自宅の離れに作られている練習室(元々防音)でおこなう。ここに本格的な録音機器を持ち込んだ。録音は有咲の部下で23歳の桃子さんが行う。若い耳でしっかり録ってもらう、
 
(3)この歌に私とマリの歌を載せる。これは私の責任で十分に練り上げる。どうしても直して欲しいところがあったら(2)に差し戻し。これはマンションの防音室を使用する。ここにもプロ仕様の録音機器を持ち込んだ。この録音は有咲自身が担当する。
 
(4)木管の追加。(Fl.古城風花 Cla.上野美津穂)女子寮使用
(5)金管の追加。(Tb.宮本 Tp.香月)香月さんの御自宅使用
(6)弦楽器の追加。(Vn.鈴木真知子・伊藤ソナタ)真知子の自宅使用
(7)コーラスの追加。(鈴鹿あまめ・長浜夢夜)女子寮使用
 
録音作業は女子寮はサンシャイン映像制作のスタッフに依頼。香月さんの自宅は香月さんの奥さん(ヴァイオリニスト)に依頼。真知子の自宅は真知子の妹さん(女子大生でやはりヴァイオリニスト)に依頼した。2人ともわりと機械に強い。それにヴァイオリニストは一般に耳がいいのである。
 
↑で(5),(6)は曲によっては入らないものもある。
 
(入らない場合もギャラは支払う。というより今回は取り敢えず7〜9月はこのメンツに“直接”サマーガールズ出版から月89万967円(源泉徴収後ジャスト80万円 890967x0.1021= 90967)のギャラを払う固定制としている(事務所を通さないのでコーラスの2人は満額受け取れる)。時間を気にせず納得いく所まで練ってもらうためである。仕上がり具合は基本的に七星さんか風花がリモートでチェックする)。
 
制作期間中、風花は(赤ちゃん付きで)女子寮の本棟2階に泊まり込む。夫は放置である!
「性転換して女の子になったら、こちらに同居してもいいよ」
などと風花は言っていたが、彼氏は性転換まではしたくないようである!
 
(女装はだいぶさせられていたが:たぶん女装にハマったと思う。取り敢えず女装外出は平気になったようだし「スカート同士のセックスは楽しい」とか「お化粧って楽しいね」とか言ってたし、足の毛は剃る習慣になったらしいし)
 
風花は花ちゃんの部屋に泊まり込み、花ちゃんは女子寮の空き部屋に移動している。
 
風花が女子寮に泊まり込んでいるので、恵比寿の私のマンションには妃美貴(1995生:詩津紅の妹)が毎日詰めてくれて秘書代わりをしてくれる。妃美貴が忙しい時には、ハルちゃんかアキちゃん(私にはこの2人が区別つかない)が代わりに入ってくれる場合もある。この2人は現在大学3年生である。2人はファミレスか何かのバイトでもしているのか夜間は忙しいらしいが、昼間はだいたい入れるらしい(学校はどうしてるんだ?)。彼女たちはどうも松本葉子の一部でもあるようである。
 
長浜夢夜は作業がある日は男子寮からシャトルバスで移動してくる。
 
「女子寮にお部屋を用意ししようか?何ならそのままこちらに住んでもいいよ」
と言ったのだが、
「女の子になったら考えます」
と言っていた。
 
既に女の子になっているのでは?という疑惑があるのだが!
 

基本的に各場所に録音できる環境を作って、できるだけ移動せずに制作ができるようにする。実は香月さんの御自宅(一戸建て:正確には奥さんの実家)に私が個人的に費用を出して防音環境を作ってもらった。宮本さんは2人の子供とマンション暮らしなので部屋数に余裕が無かった。
 
(スターキッズは鷹野さんと詩津紅以外は全員既婚である)
 
鈴木真知子の自宅は元々地下にヴァイオリン練習室がある(蘭若アスカの自宅と同じ仕様)。そこにやはり録音機器を持ち込み、伊藤ソナタさんにそこに来てもらうことにした。ソナタさんは「ここすごーい。いい環境ですね」と感心していた。
 
ちなみにマリは長浜夢夜ちゃんの性別には気付いていないようで、普通の女の子だと思っている。彼女が実は男の娘であることをマリに知られると、あれこれ詮索されそうなので、本人にも性別については触れずに女の子のふりをしておくよう言ってある。
 

ところでどう考えても本来取れる有休日数を遙かに超えて、休みを取り、ローズ+リリーの音源制作やライブに参加していた近藤詩津紅であるが、とうとうめでたく(?)首になった!
 
実際問題として、コロナの影響で詩津紅が勤めていた会社も営業成績が落ちており、コストカットに努めていたものの、今年はリストラに追い込まれてしまったというのが実情である。希望退職者を募集したようだが、詩津紅は上司に呼ばれ、結局この希望退職に“自主的に”応じて辞表を提出。割増しの退職金と夏のボーナスまでもらって退職した。
 
それで彼女はスターキッズの正式メンバーに加えることにした!近藤さんや月丘さんたちも
「君は数年前からうちのメンバーだと思ってた」
と言って歓迎してくれた。
 
それで詩津紅は「バイトでピアノを弾いているOL」から「女性プロピアニスト」になったのであった。
 

もっとも詩津紅をスターキッズの正式メンバーにするには“時間”が必要だったというのもあった。初期のスターキッズでは月丘さんがピアノを弾いていたが耳のうるさい人からしばしば私は指摘された。
 
「このピアノ弾いてる人、専門のピアニストじゃないでしょ?もっと上手い人紹介しようか?」
 
実際月丘さんは、当時のスターキッズの中で最もキーボードがうまかったから弾いてもらっていただけで、彼は本来はヴィヴラフォンやマリンバが専門の打楽器奏者である。しかし私は彼を解雇するにはしのびなかった。それで「この曲にはヴィヴラフォンの音が欲しい」と言って、彼にヴィヴラフォンを弾いてもらい、するとピアニストが居なくなるので「今回は代わりに友人の詩津紅にピアノを弾いてもらいます」と言って、詩津紅に弾かせたのである。
 
だから当初、月丘さんは明らかに詩津紅がピアノを弾くことに不満を持っていた。結構近藤さんには文句を言っていたようだ。それを時間を掛けて「ピアノは詩津紅または美野里」という既成事実化を図った。
 
そのために時間が必要だったのである。
 
特に美野里のビアノ演奏には月丘さんも「参った」という顔をしていた。詩津紅は美野里ほどではないが、充分ピアノの専門家並みに弾く。
 
 
前頁次頁時間索引目次

1  2  3  4  5  6  7 
【夏の日の想い出・ラブコール】(1)