広告:オトコの娘コミックアンソロジー-~小悪魔編~ (ミリオンコミックス88)
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■トワイライト(1)

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「あれ?お姉さん、男の人?」
まだ少女といってもいいくらいの彼女の声に、淳平はドキっとした。

(c)Eriko Kawaguchi 2011.03.26-04.02
※本作品はフィクションです。中で記述している様々な「わざ」や「テク」は架空のものです。作品内の特定の内容についてあまり本気にしないで下さい。「タック」をなさりたい方は、それが医学的に危険なものであることを認識の上で自己責任で実行してください。また、これはあくまで「お話」ですので、現実の男女別施設の利用については社会的良識を守って利用なさることをお願いします。
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半日前。
淳平は長きにわたる「デスマーチ」気味のプロジェクトを終え、会社から5日間の休みをもらった。土日も入れて9連休である。ふだんはこんなに長い休みをとらせてはもらえないのだが、今回のプロジェクトは本当にきつい仕事だったので、会社もねぎらいの意味をこめて、休みを出してくれた。
 
「で、どこ行くの?」
「青森に親戚がいるので、それを訪ねがてら、東北の観光をしてきます」
「へー」
「車で、常磐道を北上して、水戸の偕楽園とか、仙台の先の金華山とか見て、帰りは東北道を一気に南下して帰ってこようという計画です」
「ああ、車で往復するんだ。プリウスだったよね?」
「ええ。どのくらいの燃費出してくれるか楽しみです」
 
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淳平は昨年の春までは年代物のカローラに乗っていたのだが、ちょうど13年たっていたので、エコカー減税を利用してプリウスに買い換えたのであった。ところが、買い換えた直後から仕事がデスマーチに突入してしまい、折角の新車をなかなか使う機会がなかった。都内に住む兄が「使ってないなら貸してくれ」というので、頻繁に貸していて、自分ではあまり乗っていなかったのであった。だから今回は思う存分最強エコカーの実力を試してみようと思っていた。
 
しかし淳平はこの計画をしょっばなからくじかれることとなった。
「車が・・・・・」
 
自宅に帰り、とりあえず旅行に備えて、買い出しに行ってこようと駐車場まで行くと、自分のプリウスが無くて、代りに兄が仕事で使っている商用バンが駐まっていたのである。淳平は兄に電話を掛けた。
「プリウス持ち出した?」
「ああ、すまんすまん。急に博多まで行く用事ができてな。借りた」
「博多!?僕も今夜から東北に行くつもりだったのに」
「え?そうだったの。すまん。俺のトヨエース使ってくれ」「えー!?」
「荷物はたくさん詰めるぞ。荷室で寝てもいいし。そうだ。東北行くなら、笹かまぼこ、おみやげによろしくな、じゃ」
兄は電話を切ってしまった。
 
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淳平は首を振って気を取り直すと、スペアキーを出してトヨエースのエンジンを始動させ、買い出しに出かけた。自分はとことんプリウスに縁が無いのか?
 
カップ麺、インスタント味噌汁、御飯のパック、紅茶、砂糖、ココア、カロリーメイト、単三乾電池の20本入りを3パック、カセットコンロを6本。ホッカイロ、冬の東北はかなり寒いはずだ。暖かいものが欲しい。どうせ大きな車だからというので米10kgにペットボトルの水も1箱買った。
 
そして、お出かけ用の服。ちょっとドキドキ。
 
レディスのカットソー、セーター、冬なので少し長めのスカート、厚手のタイツ数足、防寒用にショール、シーズン終わり近くなのは承知でピンクのダウンコートも買った。下着もブラとショーツのセットを5セット。化粧品も、ファンデーションとマニキュアが残り少なくなっていたので買い求めた。
 
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淳平は女装趣味を持っていた。そしてこの旅行の間は完全に女装で通そうという魂胆でいた。この買い出しにも性別曖昧な服装で出てきていた。
 
いったん荷物を車に置いてから、マクドナルドに入り、パソコンで無線LAN接続して、Mapfanの地図を眺めながら、計画を再検討する。まずは今夜は常磐道の谷田部東PAで車中泊し、明日の朝水戸に入って偕楽園を見ようというところまで確認した。
 
取りあえずの行程が確定したので、鏡を取り出して自分の顔を確認する。眉は細くしてきた。ヒゲはちゃんと処理した。髪もこの旅行のために、忙しくて切りに行けない振りをして少し伸ばしている。OK。店内の女子トイレに入る。ピンク色の内装に囲まれて用を達していると、ホッとする気分になった。自分が本来の自分に戻れた気分になれる時間だ。ここ半年ほど、この時間を持つことができなかった。「よし。私は女の子」と淳平は笑顔を作り小さな声で自分に言った。いや、今からは「淳平」ではなくて「淳」だ。
 
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自宅に戻り、紙の地図、一週間分くらいの着替え、布団と毛布・枕、そしてパソコンにカセットコンロ、鍋、包丁、まな板などを載せて出発だ。確かにこの車、荷物は積めるな、と淳は思った。荷室にはブルーシートを敷き、その片隅に保温用のアルミシートを敷いた上に布団を敷いておいた。
 
近くのICから外環道に乗り、三郷JCTから常磐道に入る。トヨエースも少しうるさいものの悪い車ではないなと思った。MTなので自由にパワーをコントロールできるのがいい。プリウスはCVTなので、どうしても全て
車まかせになってしまう。疲れがたまっていたのか、あくびが出たので安全策を採り、予定のPAよりひとつ前のSAで駐めて、荷室の布団で寝た。
 
翌朝、明るくなってからヒゲや体毛の処理をして、軽くメイクをする。女の子になっている時間って、このお化粧が楽しい。お化粧をしてなくても「パス」している(女に見られている)のは確認済みなのだが、お化粧をしていると「女の歓び」を感じることができるので淳はお化粧が好きだ。
 
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SAのベーカリーコーナーでパンを買い、休憩所でサービスのお茶を飲みながら食べた。車内で食べてもいいのだが、車外で食べられる時はできるだけ食べるようにしておかないと、体がなまってしまうのである。
 
朝食後少し休憩してから出発。水戸ICで降りて偕楽園に向かった。
ここは今回が3度目になるが、とてもいい場所だ。のんびりと園内を散策する。まだ午前中なので観光客もまばらである。好文亭からの眺めを楽しみ少し休んでから車に戻った。
 
高速を降りてしまったので6号線をしばらく北上することにし、那珂川をわたって、6号線に合流したあと、少し走っていた時、淳は道路脇で
「仙台方面」と書いた段ボールを持って立っている若い女性を見かけた。速度をゆるめ、その子のそばに停めた。17-18歳くらいだろうか
「ヒッチハイクですか?」
「ええ。途中まででもいいので、方向が合ってたら乗せてもらえませんか?」
「いいですよ。私は仙台の先まで行くので、仙台近くの都合のいい所まで乗せてってあげますよ」
「わー、嬉しい。助かります。お邪魔しまーす」
淳がドアを開けると、彼女は嬉しそうに乗り込んできた。リュックひとつの軽装だ。自分は山ほど荷物を持っているのにと思うとちょっと心の中で苦笑した。しかしなぜこの子を乗せてあげる気になったのか、淳は自分でもよく分からなかった。ほんとうは女装がばれないようにするにはエネルギーが必要なので、旅の連れはあまり歓迎しないのであったが。
 
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「何かの配送のお仕事ですか?」
「いや、個人的な旅行なんですよ」「え?」
「プリウスで出るつもりが兄貴に持ってかれちゃって。仕方ないので兄貴の仕事用の車で出てきました」と淳は苦笑しながら答えた。
「へー。あ、私、東京の大学生で、帰省するのにあまりお金がなかったものでヒッチハイクを試みてみたんです。でも、なかなか乗せてくれる人いなくて」
「あはは。みんな面倒な事には関わり合いになりたがらないからね。
でも、女の子のヒッチハイクは実際問題として危険だよ。変な人だと、変なことしようとする奴もいるから」
「ええ、それはちょっと考えたんですが、日本人の優しさに賭けてみようかなと。とりあえず今まで乗せてくれた人はみんないい人でした」
「それは、よかったね」
「あれ?」
 
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「ん?どうしたの?」
「もしかして・・・・お姉さん、男の人?」
淳はドキッとした。うそ。リードされた(女装がばれた)?
声だって、ちゃんと女声で話しているのに。
「あ、やはりそうですよね」
「よく分かったわね」淳は女声のままで苦笑いしながら答えた。
「すごく女っぽいから、ふつうの人は気付かないと思う。喉仏の隠し方も巧いし。でも私も男の子だから。同類には勘が働くんです」と彼女はにこやかに言った。何?男の子?嘘、この子が?
 
「私、女装でメイド喫茶に勤めてるんです。女装子専門の店じゃなくて、ふつうのメイド喫茶で、他のメイドさんはみんな女子ですけど。一応仲間内にはバラしてますけど、お客さんにはまずバレません」
「それだけ可愛かったら男の子と思う人はいないよ。本当に男の子なの?」
「触っていいですよ」といって彼女は淳の左手を取ると自分の股間に当てた。「わ、わかった」といって淳は手を引っ込めた。確かに付いてる。
 
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「私も触っていいですか?」「え?えっと、まあいいけど」
彼女は「触りま〜す」と高いトーンで言うと、淳の股間に触ってきた。
「あ、やはり付いてる。正解〜。でもガードル付けてるんですね」
「いや、スカート穿いてる時に突然たつと困るから」
「私はその手の事故の経験が無いんですよね〜。女の子の服を着ている時はずっと静かにしてくれているから。男性機能がそもそも弱いのかも」
「ホルモン飲んでるの?」
「飲んでません。性転換するつもりは無いので。女装するのは仕事の時と、今日みたいに趣味でこういう格好をする時だけで。あ、この格好で大学に行く時もあるけど」
「あ。そうか。本職は大学生か」
「ええ。メイド喫茶は学費稼ぎのためです。拘束時間の割りに実入りがいいから。理系なんでとても助かってます」
「ふーん。理系女子か。私も趣味の女装。ふだんは背広着て会社に行ってる」
「へー。でも雰囲気は完全に女性ですよね」
「ありがとう。でも君にはかなわないよ」
 
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「そうだ。私は淳。本名は淳平だけどね」
「私、和実です。本名のままで女としても通ります」
「ああ、そういう名前はいいね。私は検問とかで警官に免許証見せたりすると一瞬変な顔されたりするから」
「免許証は性別欄が無いのがいいですよね。私は女装で写ってますよ」と言って、和実はウェストポーチから免許証を取り出した。淳は運転しながらチラっとそちらを見た。可愛い感じで写真も写っている。
「私は女装で免許更新に行く勇気が無いなあ。あ、仙台実家なの?」
「実家は盛岡なんです。でも仙台というかその近くの石巻という所に姉が住んでいて。姉には女装趣味はカムアウトしてるけど親にはカムしてないもので。姉の所で男の子の格好になってから一緒に盛岡に行こうかと思ってます」
「そのあたりも大変だよね。私は親にも友人にもカムアウトしてないよ」
 
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ふたりは「同類」であったことが分かったことで、急速に打ち解け、女装にまつわる苦労話やお化粧やファッションの話、そしてホルモンや性転換関係の情報交換で話が盛り上がった。ふたりとも手術を受けたり、ホルモンを飲んだりする意志は無い、とは言ったものの興味が無いわけではないので、お互いの持っている情報の交換は貴重だった。東京でまた会いたいですねなどという話にもなり、SAで休んでいる間に携帯の番号とメールアドレスを交換した。またふたりともmixiのアカウントを持っていたので、マイミクになっておいた。
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