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■十二夜(3)

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そこはどこかの劇場のようであった。舞台に白いチュチュを着た女性が7人いて何かの踊りを踊っている。何か聴いたことのあるような音楽だ。これって『白鳥の湖』かな?
 
バレエ。。。。それも小さい頃の憧れだった。バレエを習いたかったが、男の子の身ではチュチュを着ることができないのが悔しかった。でもバレエを題材にした漫画はたくさん読んだ。大きな都会ではないから実物のバレエ公演を見る機会は無かったけど。
 
やがて7人の踊り手が舞台から降りてきて、私の手を取り、舞台の上に連れて行った。こちらは裸なのに恥ずかしいと思うが、彼女たちは私を舞台の奥の方に置かれていたベッドに寝せた。
 
踊り手たちが退場し、やがて青い手術着を着た50代くらいのお医者さんのような人と数人の看護婦さんが近づいてきた。
 
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いきなり麻酔を打たれた。そして脈拍や血圧を測る機械を取り付けられる。え?え?また手術されちゃうの?今度は何の手術??
 
お医者さんは無言で作業を進めていく。私はまるでyoutubeの動画でも見るかのようにそれを見ていた。もしかしてこれって・・・・
 
お医者さんは私のおちんちんにメスを入れて、あっという間にそれを「解体」
してしまった。先の部分と皮と尿道だけ残して、本体はチョキンと切り落とされてしまった。ゴミ箱に捨てられる。あはは。何かあっけない。あんなに自分を苦しめてきたものなのに。私はその瞬間勝利をしたような気分になった。
 
お医者さんは手際よく、そのあたりの形を変えていく。まるで工作でもしてるような感じだ。たぶん時間的にはけっこうな時間が経っていたのであろうが、私が見ている前で、私の股間は完全に女性の形に作り替えられてしまった。
 
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新しく設置された穴におちんちんの皮を反転して埋め込まれる。更に詰め物をされた。お股に割れ目があるのは、何だかまぶしく感じる。尿道にカテーテルを入れられ、その付近全体に包帯を巻かれた。
 
お医者さんたちは去って行った。まだ白鳥の湖の音楽が流れていた。私はまた眠ってしまった。
 

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またかなり寝ていたような気がする。
 
そっとあの付近に手を伸ばしてみると、もう包帯が取られていた。カテーテルも付いていない。そして私は確かにその付近が女の子の形になっているのを確認した。もうおちんちんは無い。そっと触っていくと、クリトリスっぽいところがある。そして確かにヴァギナがある。少し指を入れてみるとそのまま入って行く。湿った感触だ。私は起き上がれる気がしたので起き上がって見た。
 
そばの壁に大きな鏡がある。映してみると、そこには女性の身体として思えない肉体が映っていた。
 
バストの膨らみは小さいが一応あることはある。そしてお股にはぶらぶらするものは何もなく、割れ目が縦に走っているのが見える。手術のために毛は全部剃られてしまっているので、今の所陰毛がなく、いわゆるパイパンの状態だ。しかし手術の傷口はもう治ってしまっているようで、縫合跡はあるものの触っても痛くない。これはもしかして手術から2ヶ月くらいたっていたりして・・・
 
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自分が交通事故にあってこういう夢を見ているのだとしたら、半年くらい昏睡状態でいるのかも知れない。
 
ドアがあったのでそこを通って次の部屋に進んだ。
 

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まぶしい!
 
太陽の光がいっぱいに注いでくる感じだ。私は身体の芯からリフレッシュしていくような気分になった。
 
「お帰りなさいませ、奥様」
という声がいきなりかかる。みるとメイドのコスチュームを着た20歳くらいの女性が立っていた。よく見ると、喫茶店か何かのようである。メイド喫茶??
 
「どうぞ、こちらのお席へ」と言われてそちらに進んでいく。
 
途中に大きな乳牛が居て、メイドさんがみんなで乳搾りをしていた。
「当店では新鮮な牛乳を使用しております」とメイドさんは言った。乳牛のまわりにいるメイドさんが7人いて、総勢8人のメイドさんがいるようである。
 
案内された席に1枚のショーツが置かれていた。
「それはサービスでございますので、良かったらご利用下さい」と言われる。裸なので、とりあえずパンティだけでも恵んでもらえたのだろうか??
 
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私はそのパンティを穿いた。かなりのハイレグだ。レースたっぷりでキュート。お股の部分の保持力がほとんど無いくらいに弱い。これは、おちんちんが付いていたら、こぼれてしまうので穿けないタイプのショーツである。おちんちんが無くなると、こういうのが穿けるんだな、と嬉しくなってしまう。
 
「お召し上がりは何になさいますか?」
というので、その新鮮なミルクと、オムレツを注文した。
 
しばらく待っていると、メイドさんは湯気の立っている暖かい牛乳と、きれいな形のオムレツを持ってきた。ケチャップを出して、オムレツに文字を書く。何だろう?・・・・『Buon anno』と読めた。
 
フランス語の『Bonne annee』と似ている。お正月の挨拶かな?
 
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私は指を折って数えてみた。この部屋はここに来てから8つ目の部屋だ。もし、最初の部屋に入ったのが25日のクリスマスで、1日で1つの部屋を通過してきていたとしてら、今日はちょうど1月1日のはずである。
 
私はこの夢?をもう数ヶ月見ていると思っていたが、意外に実はまだ1週間くらいなのかも知れないという気もした。
 
新鮮な牛乳は美味しかった。身体が活性化されていくような感じだ。オムレツも半熟で、舌触りがとても良かった。
 
私は立ち上がって入口の方へ行ったが、乳牛もメイドさんも見あたらなかった。しかし歩いていて、ショーツ1枚でも着ていると、裸とは違う。これだけの布で随分落ち着くなと思った。
 
ドアがひとつあった。こういうシチュエーションには慣れてしまった。私はそのドアを開けて、次の部屋に進んだ。
 
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そこはダンスホールのようであった。ウィンナ・ワルツが流れている。この曲はたしか『春の声』だ。ホールの中で着飾った女性たちが踊っている。みんな裾が広がるスカートを穿いている。女性たちはひとりで踊ったりペアになって踊ったりしていたが、人数を数えてみると9人いた。
 
奇数なのでふたりずつペアになるとひとり余る。その余ったひとりがこちらに近づいてくると
「これをどうぞ」と言って何か渡してくれた。
 
見るとブラジャーである。私が胸をあらわにしているので、取り敢えずこれで隠しなさいということなのだろうか。サイズを見るとB75だ。ちょうど私のサイズである。私は肩紐を通し、後ろのホックを留めた。さきほどのメイド喫茶でパンティーをもらい、ここでブラジャーをもらったので、けっこうこれで落ち着く感じがする。
 
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私は近くのテーブルの所の椅子に座ると、彼女たちの踊りを眺めていた。
 
踊り・・・といえば小学校から高校までの間に踊ったフォークダンスを思い出す。私がいたほとんどの学級で、男子の方が少し人数が多かったので、あふれた数人が女子の役を踊っていた。私は名簿順で並んでも背の順番で並んでも、どちらの端にもならなかったため、一度も女子の方で踊っていない。でもいつも、ああ、あちらで踊りたいと思っていた。ひそかにひとりで女子のパートを踊る練習をしていたが、結局一度もそちらで踊ることはできなかった。ほんとに女の子になることができたら、社交ダンスとか習いに行ってみようかな・・・なんて思った。もちろんドレス着て、女性として踊る。ただパートナーになってくれる男性がいるかな、というのは少し不安になった。
 
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私は一度だけ男性とのお付き合いの経験がある。会社務めをして1年目のころ、仕事で知り合った取引先の男性が、私の性別を見透かして「ちょっとデートしてみない?」と誘ってくれた。女の子の服を着て出て行って、一緒にお茶やお食事をして、ドライブに行ったり、パーティーに同伴してもらったり、クリスマスのディナーショーにも連れて行ってもらった。
 
あくまで「デートのまねごと」というだけで、お互い恋愛感情はなかったつもりだ。でも彼が転勤で遠くへ行ってしまい交際が終了したあと、けっこう心に空洞が空いてしまって寂しかった。
 
私はあの当時のことなども思い出しながら、貴婦人たちの踊りを見ていた。
 
やがて、貴婦人たちがどこかに行ってしまった。ホールはがらんとしてしまう。向こうにドアがひとつあった。私は立ち上がると、そこ所まで行き、ドアを開けて次の部屋に進んだ。
 
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そこは会議室か何かのようであった。
 
私が部屋の中に入るとすぐに若い男性が近づいてきて「これを」と言って何か渡してくれた。みるとチュニックである。私は微笑んでそれを着た。
 
部屋の中にテーブルがあり、背広を着た男性たちが何か話している。しばしば意見を述べるのにいちばん前にある壇に登って発表するのだが、その壇に上がるのに、みんな飛び跳ねてそこに登っていた。どういう意味があるのだろう?
 
私にチュニックを渡してくれた男性も何度もその壇に登っては何か言っている。私はまるで傍観者のようにその様子を見ていた。
 
しかし彼らの声は全く聞こえない。私は自分が彼らに疎外されているというのを感じたが、やがてその原因に察しが付いた。それは私が女になってしまったからだろう。だから男社会からはドロップアウトしたんだ。
 
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私はその時、もし自分が性転換したら、素直に今の仕事は辞めたほうがいいかもという気がした。男として5年間仕事をしてきたけど、女になったら、またゼロからやり直そう。最初から女として雇ってくれるところを探して少しずつまた社会人としてのキャリアを積み上げていこう。何か資格を取ったほうがいいかも知れないなとも思う。性転換手術を受けたらしばらく身体も休めないといけないかも知れないし、その間にいろいろ資格を取るのもいいかもなと思う。専門学校なんかに通うのもいいかも知れない。
 
しかしさすがに何も聞こえない中にいるのは詰まらない。
 
ふと横の方を見るとドアがあったので、そちらに行く。ドアを開けて次の部屋に進んだ。
 
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その部屋には多数の女性がいて、みんな笛を吹いていた。
 
笛の種類はフルート系統のもののようだが、様々な種類のものが混じっていた。人数を数えてみると11人いる。
 
その中のピッコロのようなものを吹いていた人が近づいてきて
「これを穿いて」
と言って、チェックのスカートを渡してくれた。私は「ありがとう」と言って受け取ると、そのスカートを穿いた。2番目の部屋にあったスカートと似ているが、色合いが違う。あれはグリーン系だったが、これはブルー系である。ああ、この配色もいいなと思う。
 
しかし11本のフルート属の合奏は圧巻である。美しいし音色が豊かだ。この曲は・・・バッハのメヌエットかな。
 
その後「アルルの女の第2メヌエット」「ボッケリーニのメヌエット」と、メヌエットが続いていく。私は聴き惚れていた。
 
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続いて「ユモレスク」「女学生」「金婚式」「トロイメライ」などといった小学生の頃、音楽の時間に聴いたような曲が続いていく。
 
小学生の頃の思い出が蘇ってくる。自分は小学4年生の頃までは合唱では高音部の方に入れられていて、女の子たちと一緒に歌っていたが、やがて悪夢の変声期が来てしまう。中学以降はずっとテノールで歌っていたが、内心ソプラノでもアルトでもいいから、女の子たちと一緒に歌いたかった。
 
家で「鵞鳥を絞めるような声やめろ」と親から言われながらも、高い声を出す練習をして、高校生の頃にはアルト声域まで何とか歌えるようになっていた。ミックスボイスを覚えたのはそれからずっと後、ほんの3〜4年前である。東京や名古屋などで「女声で歌う」集まりがあり、そこに何度も出席して、他の人たちからもテクニックを盗んでいった。
 
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でももし小学4-5年生くらいで去勢することができていたら、そんな苦労もしなてく済んだろうし、今よりもっときれいな声で歌えたんだろうな、などといったことも思ったりした。
 
やがて「タイスの瞑想曲」が演奏される。ヴァイオリンでならよく聴くけど、フルートでは珍しいなと思った。そして「G線上のアリア」「アヴェマリア」と続いて「歌の翼に」で終了となった。私は大きな拍手を送った。演奏者たちは微笑んでどこかに行ってしまった。
 
向こうの方にドアがあった。私はそろそろこの旅が終わりに近づいているのを何となく感じた。
 

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次の部屋には、様々な種類の打楽器が置かれていた。そこにやがてブレザーと赤いチェックのスカートを穿いた女子高生たちがぞろぞろと入ってきた。人数を数えてみると12人。この世界では、部屋がひとつ進む度に出てくる人数が1人ずつ増えて行くのだ!だからここは12番目の部屋である。そしてたぶん、私はあの雪の夜から12日夢を見続けているんだ。
 
打楽器の各々のそばに付いた女子高生たちはその打楽器を演奏しはじめた。
 
メロディを取る楽器が無く、打楽器だけなのに、その演奏はとてもワクワクした。全然飽きないし、とても楽しい。彼女たちは色々な曲を演奏しているようである。打楽器でこれだけ表現力が出るというのは凄い。それはまるで水墨画で多彩な絵が描かれていくような感覚にも思えた。
 
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演奏はかなり長時間続いた。そして私は満足して彼女たちの演奏を聴き終えた。
 
女子高生たちが退場していく。ひとりの女子高生が近づいてきて
「これにサインして」と言う。
この夢の請求書だろうか?とも思ったが、とにかくもサインして渡した。彼女は「どうぞ」といって、真新しいパンプスを渡してくれた。私は微笑んでその靴を履いた。
 
向こうのほうにドアが見える。私はそこまで歩いて行き、ドアを開けた。
 

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