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■赤と青(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2011-12-01

 
15年ほど前に、極めて偶発的な戦闘から始まった、隣国との戦争は次第に泥沼化しつつあった。毎日おびただしい戦死者が報告されていたが、戦死した者の遺族には手厚い年金が支給されるし、英雄として称えられていた。兵士が沢山必要なので、召集令状は毎月大量に発行されていたし、男子は16歳になると全員軍事教練を受け、18歳から22歳までの間兵役に就く義務があった。
 
その4年間の兵役での戦死確率が2割ほどあるため、子供を失いたくない親たちは産み分けで女の子を多く産むようになった。そこで政府は男の子を多く生ませるため、男の子は小中学校、軍事教練を受けながら通う高校、そして兵役が終了してから通う大学の授業料を無料とし、逆に女子の場合はそれまでの倍の金額を徴収するようになった。
 
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ところがこの制度が導入されて以来、実は女の子なのに授業料を無料にするため男の子と偽って就学させる親が続出した。そこでその子が本当に男の子なのかどうかを検査する必要が出て来た。また男子の中で特に優秀と認められた者には奨学金を支給することになり、それにも検査結果が利用されることとなった。
 
この検査は小学1年から中学2年までの男子生徒に義務付けられ、毎年4月と10月の2回行われた。この検査は正式には「性別性力検査」と言ったのだが、俗に「おちんちん検査」と呼ばれていた。
 
ボクが最初に検査を受けたのは小学校に入ってすぐであった。小学1年生での検査は極めて単純である。おちんちんが付いているかどうかだけをチェックする。ただし、実は女の子なのに偽のおちんちんをくっつけてきて誤魔化そうとする者がいるため、そのおちんちんはけっこう厳密にチェックされた。
 
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ボクらは検査室に入ると全員服を脱ぐように言われた。上着もズボンもシャツもブリーフも脱いで、名簿順に並ぶ。自分のおちんちんを自慢げに見せている子もいるが、ボクは恥ずかしくて消え入りそうな顔をしていた。
 
ひとりずつ検査され、やがてボクの番になったが、そんなボクの態度が不審に思われてしまったようで、いきなり「お前、本当に男か?」などと言われた。
 
「はい」と恥ずかしそうに答えるが、その答え方でますます怪しまれる。「お前、本当は女だろう?」などと言われたが「違います。男です」とボクは答えた。
 
しかし怪しまれてしまったので、ボクの検査はかなり厳しいものになってしまった。おちんちんを掴まれ、無理矢理剥かれ、引っ張られたり、ねじられたり、しごかれたりした。ふつうの子ならそんなに刺激されると大きくなるらしいのだが、ボクはとにかく痛いので、大きくなるどころじゃなかった。しかし大きくならないことで、ますます偽物ではと疑われた。玉をぎゅっと握られた時は声も出せないくらい苦しくなってうずくまってしまった。結局ボクは「要精密検査」
などと書類に書かれ、その日は取り敢えず女子クラスに放り込まれてしまった。トイレも女子トイレを使えと言われたが、恥ずかしいので家に帰るまでずっと我慢していた。こういう子があと4人いた。
 
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翌日お母さんに連れられて行った病院では、様々な機器で身体を調べられた。お医者さんからもおちんちんを引っ張ったり揉まれたりした。おちんちんの皮膚を一部切り取られてその組織検査までされた。1日掛かりの検査で、ようやくボクは「男児である確率が高い」などという曖昧さの残る診断書をもらい、とりあえずは男の子として認められた。
 
この年、ボクたちの学年には約80名の男子が入学したが(女子は約40名。この時期は男女の出生比率が7:3くらいだった)、ボクを含めて5人が精密検査にまわされ、その内1人は「間違いなく女子」と言われて、正式に女子クラスに移動された。彼女はローラと言ってずっと後から聞いたのでは「パレちゃった」
と本人も言っていたらしいので、ほんとの女の子だったようだ。
 
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ボクを含めた他の4人は「男児である確率が高い」とか「男児と思われる」とか「どちらかというと男児のようだ」とか「女児ではないようである」などと、みんな曖昧な判定ながらも、一応男子クラスに戻された。ボク以外のそんな3人はユーリ、ポール、キャロルである。彼らとはお互い持っている雰囲気が近かったので、けっこう仲良くなった。
 
10月にもおちんちん検査が再度行われた。4月の検査ではおちんちんが有るか無いかだけの検査だったが、1年生の10月の検査は長さが調べられる。長さが2cm未満であった場合、実はそれはクリトリスで少し大きくなっているだけではないかと疑われ、徹底的な精密検査をされることになる。精密検査は1ヶ月ほどにわたって行われ、その間は、赤クラスという特別クラスに入れられて、普通の男子クラスとは少し違う内容の授業を受ける。
 
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ふつうの男子クラスの子には基本的に優秀な兵隊さんになるための教育が小学1年生から行われるのだが、赤クラスの1年生は実質女子クラスと同等の授業が行われるのである。ボクたちの学年の中で2人(前期もひっかかったキャロルとポール)がこの検査に引っかかり赤クラス行きとなった。しかし2人とも徹底的な精密検査の結果、やはり男の子のようであると判定され1ヶ月で男子クラスに復帰した。
 
ボクは最初測定された時に1.9cmと言われ、赤クラスですねと言われたのだが、うしろにいたサミュエル君が「もう1度計ってあげて」と言ったので、再度計ってもらったら2.0cmとされ、ギリギリで赤クラス行きを免れた。ボクは彼に「ありがとう」と言ったが、内心、赤クラスの授業内容にも少し関心を持った。
 
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2年生と3年生ではおちんちんの通常時のサイズだけではなく、勃起能力も検査される。通常時のサイズが2年生では2.3cm, 3年生では2.5cm未満である場合、また勃起した時のサイズが2年生で6cm, 3年生で7cm 無いと特別学級行きとなる。
 
特別学級は1年生の場合は赤クラスだけだったが、2年生では赤クラス、青クラスの2種類が設置されている。
 
青クラスは男子クラスに早く復帰したい子たちのためのクラスである。おちんちんの短い子にはしばしば肥満の子がいるので、このクラスに入ると、まず体重を落とすため食事制限と毎日の運動が義務づけられる。毎日体育の時間が2時間あって、徹底的に運動させられる。給食の量が他のクラスの半分だし、家で食べる食事もきちんとカロリーレポートをしなければならない。また毎日真空吸引器でおちんちんを引き延ばすことが行われる。学校にいる間はずっと、吸引器を取り付けておかなければならない。また男の子としての心を鍛えるため、ふつうの男子クラスよりかなり厳しい教育が行われる。男子クラスはだいたい日に3回は教師から殴られると言われていたが、青クラスでは10回は殴られるという噂だった。
 
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赤クラスは男の子としての落ちこぼれ組のためのクラスである。男の子として鍛えられるのが嫌だという子はこちらに入れられ、2年生以上の赤クラスの子は女の子の服を着て、女子クラスと同じ授業を受けるし、名前も女の子の名前を付けられ、御丁寧に学生証まで女の子用の赤い学生証が渡される。赤クラスは元々「女の子の服を着せて恥ずかしい目にあわせて(いわゆるペティコート罰のようなもの)男の子に戻りたいという気持ちを起こさせよう」という趣旨だったらしいが、いつしかむしろ女の子になるための教育が行われるようになっていた。
 
青クラスは毎月再度おちんちん検査を受け、合格すると男子クラスに復帰することができる。しかし赤クラスは半年後の検査までそのまま赤クラスに留められることになる。
 
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そしてボクは2年生の4月の検査で落ちてしまった。ボクのおちんちんは2.1cmしかなく、基準に足りなかった。勃起させても4.8cmでこれも全然足りなかった。ボクは先生から赤クラスか青クラスかを選ぶように言われた。親は当然青クラスと思っていたようだったが、ボクは青クラスは嫌だと言った。
 
「じゃ、お前、赤クラスに行って、女の子の格好をするとでもいうのかい?」
「だって青クラス、とてもきつそうなんだもん。ボクとても付いていけない」
 
青クラスに入れられた子で、教師が見てこれは無理だと思った子は途中からでも赤クラスに移動させられてしまう。ボクはどっちみち青クラスに入れられても数日で赤クラス行きになると思うし、どうせなら最初からちゃんと赤クラスを希望して入りたいと言った。お父さんはちょっと不満そうだったけど、お母さんは「たしかにお前、あまり体力とか無いもんね」と理解を示してくれた。
 
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そういう訳で、ボクは本名のフェリックスを少し変形させてフェリシアという名前でしばらく学校に通うことになった。フェリシア名の学生証も渡された。男の子の学生証は裏が黒く鉄製だが、女の子の学生証は裏は赤くプラスチック製である。その赤い学生証を渡された瞬間、自分は去勢されたような気がした。
 
お母さんが女の子の服と下着を買ってきてくれた。
「男の子の服も下着も着たら違反らしいから、しばらく押し入れにしまっておくね」
「うん」
「トイレも女の子トイレを使わないといけないらしいから、女の子の服に着替える前に、最後に立っておしっこしておいで」
「うん。行ってくる」
 
ボクはトイレの小の方のドアを開けると、立ったままおしっこをした。小のトイレを使うのも、立っておしっこするのも、これから半年はお預けだ。
 
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部屋に戻るとお母さんが
「じゃ、フェリシア、お前はこれから女の子だからね」と言った。
「うん」
 
ボクは服を全部脱ぐように言われた。脱いだ服は洗濯カゴに放り込まれた。でもそれを次着ることができるのは早くても半年後だ。
 
真新しい女の子用のショーツを穿く。ショーツはブリーフに比べてピッタリしていて、これはこれで気持ちいい気もする。でもおちんちんがあるので前が盛り上がってしまった。
 
「あ、そうか。おちんちんは下に向けないといけないんだって」
と言ってお母さんが手で押し込んでくれた。するとショーツの盛り上がりがなくなった。ボクはほんとに女の子になってしまった気がした。
 
上にはシャツに似ているけどレースなどが付いている下着を付ける。シュミーズというのだと教えられた。それからスカートを穿く。なんかドキドキする。実はスカートはちょっと穿いてみたい気がしていた。
 
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最初はお母さんが穿かせてくれて、自分でホックを留めファスナーを上げるように言われた。でもなんか物凄く頼りない感じだ。こんなのを女の子はいつも穿いているのか。そして上着を着る。男の子の上着と似てるけど、ボタンの付き方が逆だ。ボクはちょっとボタンを留めるのに苦労した。
「すぐ慣れるよ」
「うん」
 
その日の晩ご飯は、豚肉のフィカレチアという料理だった。これは家に女の子が生まれた時にお祝いに食べる料理なのだが、赤クラスに入ることになった子の家でもこの料理を作るのが習慣になっている。
 
それからその日からボクは家の中のことを色々手伝わされるようになった。まず御飯のあと食器を片付けて洗って片付けてとか、洗濯をしてそれを干してとか、それから裁縫とか繕い物とかも教えられた。赤クラスの子は家の中でも女の子として教育され、躾されることになっている。
 
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翌日、初めて女の子の服を着て登校していくのはちょっとだけ恥ずかしい気分だったけど、恥ずかしがっても仕方ないので、開き直ることにした。幼なじみの女の子のエミリーが声を掛けてきた。
「赤クラスになったの?」
「うん。しばらく女の子見習い。名前はフェリシアになったんだ。いろいろ女の子のこと教えて」
「いいよ」
 
学校の中で、基本的に女の子と男の子は話をしてはいけないことになっているのだが、赤クラスの子は女の子扱いなので、女の子と話をすることができる。(男の子とは話ができない)エミリーと話したのは小学校に入る前が最後だったので1年ぶりの会話だった。小学校に入る前はけっこう仲良かったのに。
 
赤クラスはその年5名だった。1年前期に女の子ではと疑われて1日だけ女子クラスに放り込まれた4人は全員来ていて「あ、あんたもやっぱりこっちに来たのね」
などと言い合った。ボク以外の3人はカロライン(男子名:キャロル)、ポーラ(男子名:ポール)、ウララ(男子名:ユーリ)である。ボクを含めて4人とも女の子の服を何となく着こなしていた。
 
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もう1人の赤クラスの子は、アレクサンドラ(男子名:アレキサンドル)といった。彼女も凄く可愛くて、物凄く女の子の服が似合っていた。でも彼女はこんな格好するの初めてで恥ずかしいと言って、うつむいていた。ボクたちはウララに「可愛いじゃん」「一緒に女の子しようね」などと言って元気づけてあげた。ボクたちはすぐに仲良しになれた。
 
休み時間、ボクはトイレに行きたくなった。ボクはうっかり今までの習慣で男子トイレに入りそうになったが「あんたはこっち」といって、ちょうど近くにいたエミリーに腕をつかまれ、女子トイレに連れ込まれた。
 
「ごめーん。うっかりしてた」
「慣れるまでは戸惑うかも知れないけど、フェリシアは女の子向きだと思うもん。頑張ろうね」
「うん。ありがとう」
 
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女子トイレは男子トイレと違って、順番待ちの列ができている。チャック下げて、おちんちん出して、さっとできる男の子と違って、パンティ下げて、便器に座って出した後をきちんと拭いて、などとやる女の子は時間がかかるし、個室の出入りもあるから、どうしても列ができるんだと教えられた。
 
「昨日は随分女の子として座ってトイレをする練習をさせられた」
「大変だよね。突然女の子になったら。でも慣れたらふつうにできるようになるからね」
「うん。おしっこした後を拭くのとか、そんなことするの知らなかったから変な気分だった」
「うふふ。女の子は清潔にしておかないといけないから」
 
半月後、青クラスから1人の子が強制的に赤クラスに移動されてきた。
「ヘンリー君?赤クラスに来たの?仲良くしようね」
などと言ったが、彼は泣いていた。
「嫌だよお、女の子の格好なんかしたくないのに」
「女の子の格好も可愛くていいと思うよ。名前は何になったの?」
「ヘンリエッタって言われた」
 
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「じゃ、ヘンリエッタちゃん、よろしく」
「ヘンリエッタちゃん、可愛いじゃん。素敵な女の子になれるよ」
 
ヘンリエッタが落ち着いて(諦めて?)女の子として振る舞うようになるまで3〜4日掛かった。
 

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