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■男の子の義務(3)

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最初トイレの男女表示のところで、うっかり男子の方に行きかけて、違った、違った。私、女の子になったんだったと思い出し、おそるおそる女子トイレに入る。話には聞いていたが、小便器が無くて、個室のドアだけが並んでいる。なんか不思議〜。
 
私はその個室のひとつに入り、取り敢えず便座に腰掛けてみた。女の子は座っておしっこするんだよと言ってたなと思う。でも・・・・おしっこ、どうやれば出るのかな?
 
結構悩んだのだが、5分くらい奮闘した末にちゃんと出た。結果的には男の子だった時と大差無い感覚だよなと思う。しかしおしっこした後が大変である。おしっこがあちこちに付着しているので、それをトイレットペーパーで拭く。この作業がなかなか大変だった。男の子なら、おちんちんを振れば済むし、そもそもこんなに、おしっこ付かないもんね。
 
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お風呂にも入っていいですよと言われたので入浴時間に行ってみる。これも最初男湯の方に入りかけて、違った違ったと思い女湯の方に入る。中に入ったら、算数の先生が入浴していた。
 
「あら、理史(さとし)君、女の子になったの?」
「はい。おかげさまで。女の子としての初入浴です」
「おめでとう。名前何になったんだっけ?」
「理の字はそのままで花の字を付けて理花(りか)です」
「おお、可愛い、可愛い」
 
浴槽に入る前にあの付近を洗うが、おちんちんやタマ袋を洗うのより楽だなと思った。ところが先生から注意される。
 
「割れ目ちゃんの中も洗った?」
「洗いました。膣の中まで洗わないといけませんか?」
「そこは大事な場所だから安易に指とか入れちゃだめよ」
「あ、はい」
 
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「でも大陰唇と小陰唇の間、ひだの中をきれいに洗ってね。そこ汚れがたまりやすいから」
「わあ、そうなんですか。よく洗います」
「女の子のことで分からないことあったら、どの先生でもいいし遠慮無く聞いてね」
「はい。たくさん聞くかも」
 
先生は私のお股を見て
 
「きれいに女の子になったね。良かったね」
と言ってくれた。私は嬉しかった。
 

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2週間後に退院した。お母さんが洋服屋さんに連れて行ってくれて、私の新しい下着や女物の服をたくさん買ってくれた。靴も女の子らしい、可愛いのを買ってくれる。そういう服や靴を身につけると、あらためて自分は女の子になったんだ!というのを強く認識した。
 
すぐに2学期が始まる。私は真新しい女の子向けのキャラ物のセーターに女の子仕様のコートを着て学校に出て行った。
 
「理花ちゃん、すっかり可愛い女の子になってる」
と女子のクラスメイトたちから言われる。
 
「えへへ」
 
女の子になったのでおしゃべりも女の子たちとするのだが、みんな優しいし話題は楽しいし、やはり女の子になって良かったなと私は思った。
 
休み時間にはみんなに誘われて一緒にトイレに行く。冬休み中に女子トイレに入ること自体には充分慣れておいたものの、こんなに大量にみんなで行くのは初体験である。
 
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「男の子だった頃から思ってたけど、なんで女の子ってみんなで一緒にトイレに行くの?」
「だってひとりで行くの恥ずかしいじゃん」
「そうだっけ?」
 
私はこういう女の子の感覚みたいなものを覚えていかないといけないなと思った。
 
しかしトイレの列に並んでいると、みんな噂話である。先生の噂話や、男の子の噂話はまだいいか゜、今ここに居ない女の子の噂話まで出てくる。きゃーっ。女の子が優しいなんて幻想だったかもと私は改めて思った。
 
要するに女の子って表面を取り繕うのが上手いんだ!
 

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「泰絵ちゃん、しくしく泣いてたね」
「あとでみんなで慰めておげようよ」
 
泰絵(やすえ)というのは、1学期までは泰河(たいが)君と言ってたのだが、1学期の成績がビリだったので、男性資格を剥奪され、男性器も撤去されてしまったのである。今日は一応スカートを穿いて出てきているが、おちんちんを失ったのが悲しくて、まだ泣いているようだ。
 
「おちんちんなんて無くなっても慣れたら平気だし、女の子と似たようなものと思えばいいのにね」
などと昨年2学期にビリになったため、男性器を撤去されたロミちゃんが言う。彼女はすっかり女の子みたいな顔をして暮らしているので、他の女子たちも、女の子に準じて扱ってくれている。
 
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「でも、そう割り切れる子って少ないみたいだよ」
「ヒロちゃんもまだよく泣いてるね」
「おちんちんって、そんなに大事なものなのかしら?」
「私は付いてたことないから分からないなあ」
「理花はどう思う?」
「うーん。私は女の子になれたことが嬉しかったから、おちんちんなんて別に気にしなかったけどな。そういえば無くなっちゃったかなという感じ。だって女の子にはおちんちん無いし」
 
「だよねー。たぶんおちんちんなんて、そんな大したもんじゃないよね」
と元々からの女子は言うが
 
「でも、私もおちんちん無くなったお股最初見た時はショックだった。もう慣れたけどね」
とロミちゃんは言う。
 

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体育の時間には他の女子と一緒に女子更衣室に行く。
 
「わあ、みんなおっぱい膨らんでるね」
と私が言うと
 
「個人差があるよ。加奈子みたいにまだ全く無い子もいる」
などと言われる。
 
「なぜ私を引き合いに出す?」
と当の加奈子。
 
「理花もすぐにおっぱい膨らんでくるよ」
「そうかな。期待しておこう」
 
男子たちは野球をしていたが、この日女子はダンスをした。今まで遠くから眺めているだけだったので、あれ楽しいのかな?と思っていたのだが、やってみると結構楽しくて、女子の体育って結構好きになった。
 

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女の子になったので、保健の時間はサイセイ室で看護婦さんにおちんちんをいじられる授業ではなくなる。あれもちょっと気持ち良かったけどな、と思いつつ、他の女の子と一緒に視聴覚室に行った。
 
「この授業初めて受ける人?」
と先生から訊かれるので手をあげる。
 
この授業は4クラス合同なので、私を含めて8人の子が手を挙げた。今学期から女の子になった子と、男の子ではなくなった子である。
 
「じゃ、その子たちはよく見えるように前に出てきなさい」
と言われたので、最前列の席に移動した。
 
最初に先生は女の子の身体の仕組みを図を表示して説明してくれる。それで女の子の「性器」には「内性器」と「外性器」があることが分かる。
 
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「外性器には、女の子のお股を見たらすぐ見える大陰唇、その内側にある小陰唇、割れ目ちゃんの中にある陰核、別名クリトリス、があります。内性器は割れ目ちゃんの内側のいちばん奥にある膣、別名ヴァギナにはじまって、その奥にある子宮、その奥にある卵管、その奥にある卵巣があります」
 
女の子の性器って、何だかRPGのダンジョンみたいと私は思った。
 
「だいたい11-12歳頃になると女の子の卵巣が活動を始め、1ヶ月に1個のペースで卵子が成熟して、外に出てきます。これに男の子が出した精子という《赤ちゃんの元》が結合すると、赤ちゃんができて、子宮で38週間育ってから外に出てきます。これが出産です」
 
と先生は説明する。
 
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「しかし精子とくっつかなかった卵子は約2週間後にそのまま排出されます。これが生理、別名月経で、女の子はこれを11歳頃から50歳頃まで毎月体験することになります。大変ですけど、女であることの証しでもありますから、頑張りましょう」
 
そのあたりの話は女子たちのおしゃべりを聞いていて何となく知っていたのだが、きちんと教えられると、そうだったのか!と納得する。ちょっとこれは大変そうだなという気はした。
 

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授業では前半に、そういう身体の仕組みや月経の話をして、後半は恋愛や結婚のことを話した。これはけっこう興味ある問題だったので熱心に聞く。
 
「基本的には結婚したカップルだけがセックスをすることが許されるのですが、実際には恋愛をしているカップルはお互いの合意のもとにセックスをすることが多いです。またセックスでお互い気持ちよくなれることが、恋愛の維持につながりますし、お互い結婚しようという気持ちが育って行きます」
 
と先生は説明する。
 
「実際のセックスは、お互いの性器の形により、いくつかの方法があります。男性と女性のセックス、男性と男性のセックスはまたやり方があるのですが、最も基本となる女性と女性のセックスの仕方を今日は説明します」
 
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と言って先生は実際に2人の女性がセックスしているビデオを上映する。何だか視聴覚教室の中の空気が変わる感じだ。みんな息を呑んで見ている。
 
「このように、お互いの気持ちいい場所を重ね合い、相互に刺激しあうことで高い満足感が得られます。最も感じやすい場所は、陰核、つまりクリトリスともうひとつは膣、ヴァギナの入口付近にあるGスポットと呼ばれる場所です。これをお互いに刺激しやすい身体の使い方ができたら、とても気持ち良くなることができます」
 
と先生は説明するが、Gスポットって、そんな気持ちよくなれる場所があるのかと私は少し驚いた。
 

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質問が出る。
 
「女の人同士は分かるんですが、男の人と女の人でセックスする場合、おちんちんやタマタマが邪魔になりますよね?」
 
「はい。それで男の人でも、邪魔なおちんちんやタマタマを体内に押し込んで固定して、女の子みたいなお股にする道具が売っていますので、そういうのを使ったりもしているようですよ」
 
「それ、手術じゃないんですか?」
「切っちゃうわけではなく、単に体内に押し込んでしまうだけですね」
 
みんな「へー」という顔をしている。
 
「ただ、男の人と女の人でのセックスでは、そのおちんちんを積極的に活用するセックスの仕方もあるのですが、これは6年生で勉強します」
 
と先生が言うと
 
「私知ってる」
と亜架音が少しニヤニヤした顔で言う。
 
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「えー? どうやるの?」
「ちょっとここでは言えないよぉ」
「じゃ後で教えて」
 
「学校で言ってたら叱られそうだから、あとでおうちに来てくれた子にだけ教えるよ」
 
わあ、私も行って教えてもらいたいと思ったが、私は恥ずかしくて言い出せなかった。
 

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2学期の終わり。
 
昨年の1学期に男子で1番になって最初に女の子になった晃子が今度は女子で1番の成績を取り、お嫁さん資格を獲得した。
 
「やったね」
「晃子ちゃん、可愛いし、頭いいし、絶対いけると思ってたよ」
とみんなから祝福されていた。
 
「お嫁さんになる時はウェディングドレスにしようかなぁ、それとも高島田にしようかなぁ」
などと本人は衣装に悩んでいた。
 
男子の1番は康文君だった。女性資格獲得手術を受けて女の子になるので、新しい名前は康代になるということだった。みんなに祝福されて手術室に運ばれていった。
 
一方のビリは敏男君だった。男性資格廃止手術を受けることになるが、泣いていたのをお母さんに慰められたということで、手術室に運ばれていく時は涙をこらえていた。男じゃなくなるからというので「敏男」から「敏」になるらしい。
 
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この頃になって僕はやっと乳首が少し立つようになってきた。おっぱいの膨らみはじめだよ、と体育の着替えの時間に他の女子から言われ、ちょっと嬉しい気分だった。
 

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2学期は1月から4月までだが、4月29日から5月12日までの2週間は学校も会社も一斉に休みになり、黄金週間と呼ばれている。どこの家でも動物園や遊園地などに行ったり、旅行に行ったりするのんびりした2週間である。この黄金週間の初日は昭和の日といって、ずっと昔に居た偉大な天皇の名前を冠している。この黄金週間もその天皇の時代に始まったものらしい。
 
「あのあたりの古代史はよく分からないなあ」
「その頃、太陽電池や自動計算機も発明されたし、性別を変更する手術も開発されたらしいよ」
「それ以前って性別変更できなかったの?」
「そうそう。だから男の子が女の子になりたいと思っても男の身体のまま一生をすごすしか無かったんだよ」
「可哀想!」
 
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「色々革新的な時代だったみたいだよね」
「太陽電池が出来る200年くらい前に蒸気機関が発明されているけど、当時は石炭とか石油とかを燃やしていたらしいね」
「そんな限られている資源を燃やしたら、その内無くなった時にどうにもならないじゃん」
「なーんにも考えてなかったんじゃない?」
 

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今年の黄金週間、私たちの家族は温泉に行くことにした。お父さんとお母さんが交代で車を運転して、300kmほど離れた所にある温泉に出かけた。
 
前回までは温泉に入るというと、私だけ男湯で、他のみんなは女湯だったのだが、今年からは全員女湯に入ることができる。旅館に着いて荷物を置いたあと、全員でお風呂に行く。男と染められた青い暖簾(のれん)・女と染められた赤い暖簾が並んでいる。ちょっと気恥ずかしい気がしたが、姉に手を握ってもらって一緒に赤い暖簾をくぐった。
 
「小さい頃は、理花も女湯に入っていたんだけどね」
「まあ4歳以下は混浴してもいいことになっているから」
「全然覚えてないよ、それ」
 
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