広告:トロピカル性転換ツアー-文春文庫-能町-みね子
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■七点鐘(8)

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9月上旬、私は病院で健康診断を受けてくるように言われた。そういえば去年もこの頃、健康診断やったかなと思い出す。
 
それで私は仕事のキリのいい日を見つけて、指定された病院に行って診断を受けた。
 
受付で紙コップをもらい、トイレに行っておしっこを出す。そのままトイレの端の壁の所にある棚に置いてと言われたよなと思い、そこに置く。ここは向こう側の壁が開いて、検査室から棚の紙コップを取れるようになっている。
 
そのあと採血をするので内科の処置室に行く。それでレントゲンの方に行こうとしていた時、看護婦さんから呼び止められた。
 
「あなたおしっこは取りました?」
「取りましたけど」
「棚に置きました?」
「ええ」
「あら?あなたのが無かったので」
 
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「え?ちゃんと置きましたよ」
「どこに?」
と言うので、私は彼女と一緒にトイレに行く。
 
「え?あなた男子トイレを使ったんですか?」
「え?いけませんでしたか?」
「ちゃんと女子トイレを使ってくださいね。苦情が出ることもありますから」
「あ、はい」
 
それで看護婦さんは男子トイレの棚から紙コップを回収して検査室に持って行ったが、私は怪訝な顔をした。
 
なんで女子トイレを使えと言われるの〜〜!?
 

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その後、レントゲンに行くのだが、名前を呼ばれて私が1号室に入っていくと、中にいた男性技士さんが、驚いたような声をあげる。
 
「あなた、なぜこの部屋に来るんです?」
「え?名前を呼ばれたので」
 
「すみません。どこかで性別を間違ったようです。申し訳ありません。いったん廊下に出てもらえますか?」
「あ、はい」
 
それでしばらく待つと再度名前を呼ばれる。今度は2号室に入ってくれと言われたので入った。中には女性の技士さんがいた。
 
「では上半身の服を脱いで下さい。ブラジャーにワイヤーは入ってますか?」
「え?ブラジャーはしてませんが」
「ああ。ノーブラですか。このシャツはそのままでもいいな。でしたら、このシャツは脱がずにそのままその台の上に立って下さい」
 
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「分かりました」
 
女性技士は私の立つ位置、機械への接し方を私の身体に触りながら指示して、操作室に消える。
 
「息を吸って・・・停めて」
「はい、終わりました」
「ありがとうございました」
 
「では服を着てから心電図に行って下さいね」
 

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心電図の所では今度こそ上半身裸になり、女性の技士さんが私の胸付近に多数の電極を付けた。
 
「えっと胸にはシリコンは入れていますか?」
などと訊かれる。
 
シリコン?何それ?
 
「いえ。入れてませんけど」
「ああ、じゃホルモンだけか。だったら普通にこの場所でいいな」
 
ホルモン??何それ??と思ったものの私は質問しなかった。実は何を質問すればいいのかも分からなかった。
 
しかし電極を付けられていると何だかくすぐったい感じである。それを我慢してじっとしている内に心電図は終わった。
 

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その後、バリウムを飲まされて胃の透過写真を撮ったり、内科医の診察を受けたりする。胃の透過写真も女性の技士さん、内科医も女性医師で、私はこの病院って女性のスタッフが多いのかな、などと考えた。
 
内科医のあと、何かよく分からない検査室に行き、上半身裸になって胸を強く揉まれた。異常ありませんねと言われたが、いったい何の検査なんだろうと私は首をひねった。その後、眼科・耳鼻科にも行ったが、そのあと23番診察室に行ってくださいと言われるので、番号を探しながら行く。すると23番というのは婦人科である。
 
私はいくらなんでも婦人科というのは何かの間違いではと思ったものの、そのことを訊こうとしていた時に名前を呼ばれるので、私は取り敢えず中に入った。
 
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「貧血などになることはありませんか?」
「いいえ」
「今妊娠していませんよね?」
「してません!」
「生理の乱れはありませんか?」
「生理の乱れ?いえ特には」
 
私は生理の乱れも何も、そもそも生理がないけどと言おうとしたのだが、その前に医師は
 
「では内診をしますので、そちらに腰掛けて下さい」
と言われる。
 
私はナイシンって何だろうと思った。
 

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ところが疑問に思っている内に椅子が傾き、私は仰向けの姿勢になる。
 
何これ?
 
「あ、まだズボン脱いでなかった?ああ、いいですよ。脱がせますね」
と言って、女性医師は私のズボンを脱がせてしまう。
 
更にパンツまで下げられてしまう。
 
うっそー!?
 
と思っている内に、椅子のガードのようなものが開いて、私は大きく股を広げる形になった。
 
ちょっとぉ!これ何、あそこを女の医者に見られるって、無茶苦茶恥ずかしいんだけど!?と思う。
 
もっとも男の医者に見られるのも結構恥ずかしい気はする。
 
しかし医師はどうも大きく開いた私のお股をチェックしているようである。何だかたくさん触られているし。
 
一体これ何の検査なのさと思う。
 
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さらには何か冷たいガラス製のものが身体の中に入ってくる感覚があった。待ってぇ!どこに入れているのよ!?
 
この何かをどこかに入れる診察は5分ほどで終わった。
 
「はい。OKです。異常はありませんよ。これで診断項目は全部終わりましたから、ロビーで待っていてください。診察結果をお渡しします」
 
「分かりました。ありがとうございました」
 
私は御礼を言って、初体験となった婦人科での診察を終え、この健康診断の全ての診察を終えた。
 

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ロビーで10分ほど待っている内に名前を呼ばれて、診察結果の入った封筒をもらう。これを受け取って私は会社に戻り、事務の子に渡そうとしたのだが居ない。
 
「どうしたの?アキちゃん」
と藤田さんが訊く。
 
「健康診断の結果をもらってきたんだけど、小砂さん居ないみたいで」
「ああ。私が渡しておくよ」
「ほんと?じゃ、よろしく」
と言って私は封筒を彼女に渡した。
 
「でも健康診断って憂鬱だよね。私便秘症だからさ、バリウム飲むと出てくるまでに1週間くらい掛かるんだよ」
 
「それは難儀だね」
「その間ずっとお腹が痛くて辛い」
「本当に辛そう」
 
「辛いよ。あと婦人科の内診も憂鬱でさ」
「ないしん?」
「アキちゃんは婦人科は受けたんだっけ?」
「あ、それが何だか診察コースに入っていた」
「へー!内診は?」
「なんかよく分からないけど、変な椅子に座らされて大きく股を開けられて」
「おお、あれ恥ずかしいでしょ?」
「無茶苦茶恥ずかしい。去年まではあんな検査無かったのに」
 
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「ああ。去年まではまだ男として受診したんだ?」
「へ?」
「今年はちゃんと女の子として受診したのね。先生何か言ってた?」
「異常はありませんって」
「うん。アキちゃんは女の子として何も異常は無いってことだよね」
 
え?え?え?
 

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私が今回の健康診断って何かおかしいぞと悩んでいたら、数日後、私は社長と唯一の女性取締役である広報部長に呼ばれた。
 
個室で話をすることになる。
 
「君の健康診断結果なんだけどね」
「あ、はい」
「これ、そもそも性別が女と印刷されているんだけど」
「え!?」
 
それで私が健康診断報告書を見ると、私の名前が印刷されている横に25歳女と印刷されている。
 
「なんで女になっているんですかね?」
「それで血液検査の所を見ると、全ての数値が女性の正常値なんだよ」
と社長。
「え?」
 
「あなたこれ見ると、男性ホルモン値は普通の男性より遙かに低くて女性の正常値、逆に女性ホルモンは普通の男性より遙かに多くて女性の正常値なのよ」
と広報部長。
 
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「え!?」
 
「それから診断項目にマンモグラフィーと婦人科検診が入っているし」
「マンモ・・・?」
「乳癌の検診なんだけどね」
「そんなの私、受けたんですか?」
「おっぱいをもまれたりしなかった?」
「されました!痛かったです」
 
「婦人科検診で内診の結果も異常なしと書かれているのよね。あなた内診受けたの?」
「なんか変な椅子に座らされて仰向けより深い角度にされて、お股を広げられて観察されました」
 
「それで異常なしということは、あなた女性なのよね?」
「待ってください。私は男ですけど」
 
「だって男のお股を内診台で見たら、先生は『ふざけないで。すぐ帰って』と言うよ」
「はぁ・・・」
 
「ねえ君、もしかして密かに性転換手術を受けたの?もしそうだったら、遠慮せずに女子社員として勤務していいよ。うちの会社は男女同一賃金で、昇給昇進も男女の差はもうけてないつもりだから」
 
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「え〜〜〜!?」
 
「これまで男として勤務していて、突然女として勤務し始めるのは気恥ずかしいかも知れないけど、私からもみんなに説明してあげるから。実は何人かの女子社員に聞いてみたら、みんなあなたは女の子だけど、どうも男性の振りして勤務しているみたいと言っていたのよね」
と広報部長。
 
「実際問題として女性記者で長続きする人が少ないから、うちは慢性的に女性記者不足なんだよ。だから、君が女性として勤務することになった場合、多分仕事は増えると思う」
と社長は言う。
 
私は何かがおかしいと感じた。
 
「すみません。2日間休暇を頂けますか?少し考えたいので」
「うん。いいよ。でも退職するなんて言わないでよね。君は凄く重要な戦力なんだから」
 
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私はその日会社を早退すると、会社の駐車場に駐めていたミラココアに乗り、県道777号線方面に向かった。
 
花序を過ぎて、山道に入る。峠まで到達する。私はそのあと速度を落としてどこかに脇道が無いか、じっと見ていた。
 
道はあった。
 
カーナビには表示されないから、林道か何か。あるいはひょっとしたら私道なのかもというのも私は考えた。
 
その道を進んでいく。
 
果たして、見覚えのある洋館が建っていた。
 
私はその洋館の前に車を停め、玄関の呼び鈴を鳴らした。少ししてドアが開く。そこには月目スネさんが居た。
 
「明宏ちゃん、いらっしゃい。まあ入って」
「うん」
 

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私は中に入った。
 
「今日はご主人や娘さんは?」
「主人は単身赴任中、娘は下宿先」
「そのご主人とか娘さんって実在するの?」
 
「明宏ちゃん、私自身が実在するかどうか疑っているでしょ?」
「うん、実はそうなんだ」
 
「1年近く前、明宏ちゃん、女の子になる水を飲んだよね?」
「え?まさかそれで私、女の子になっちゃったの?」
 
「ああ、自分が女の子になっていることには気づいた?」
「それが困っているんだ。なんか私って見た目が女の子らしくて、体臭も女らしくて、それでこないだ健康診断受けたら、女性患者と誤解された上で異常無しと出た。女性ホルモン、男性ホルモン、他にも鉄分とかの数値が男性としては異常だけど、女性としては正常な数値なんだって」
 
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「それは明宏ちゃんが女だからよ」
「私、女なの?」
 
「本当はね、明宏ちゃん、1年前にこの屋敷に来た時、もう女の子になっちゃっていたのよ。実は女の子になる泉の水は関係無い。ただ、自分が女の子になってしまったことに、まだ気づいてないんだな」
 
「そんなことってあるの?」
「明宏ちゃんはもう女の子なのに。まだ男の子だった頃の夢を見ているんだな。その夢から覚めたら、ちゃんと自分でも女の子であることを認識できると思うよ」
 
「どうやったら目が覚める?」
「私と一晩寝たら目が覚めるよ」
「私、結婚している女性とセックスはできない」
「でも私の夫の存在を疑っているよね?」
「うん」
 
「だから私に夫や娘がいるかどうかは曖昧。明宏ちゃんが男なのか女なのかも曖昧。曖昧と曖昧をぶつけて相殺するんだよ」
 
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「それでどうなるの?」
「やってみれば分かるよ。私とセックスするの嫌?」
 
私は考えた。
 
「じゃ、スネちゃん、セックスさせて」
「いいよ。お風呂に入ってきて」
「うん」
 

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私はシャワーを浴びた。シャワーを浴びながら自分のお股を、そして胸を触る。胸は平たい気がする。お股にはちゃんとおちんちんと玉袋がある気がする。
 
身体を拭いて外に出て行く。脱衣所に脱いだ私の男性用ビジネススーツやワイシャツに男物の下着は無くなっている。スネが持って行ったのだろう。私が導かれるようにして、奥の部屋に行く。スネはベッドの中で目を瞑っていた。
 
「ようこそ、わがキツネのお宿へ」
と彼女は言った。
 
私は黙ってベッドに入り、彼女を抱きしめた。
 

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何時間経ったのだろう。
 
鳥の声で目が覚めた。
 
隣にもうスネは居なかった。
 
私は彼女の名前『つきめ・すね』というのが『めす・きつね』のアナグラムであることに気づいた。
 
私は起き上がって自分の身体を確認した。胸はこれはEカップくらいあるのではと思う。そしてお股には25年間なじんでいた棒も玉も無く、その代わりに密林の中に縦のスリットがあり、スリットの中に指を入れると、上の方にはコリコリとした場所、そして奥の方には湿った穴があり、そこに中指を入れると指は全部入ってしまった。
 
私は微笑んで、起き上がり、サイドテーブルに置かれた着替えを取った。そこには女性用のパンティとブラジャー、ブラウス、女性用ビジネススカートスーツが置かれていた。
 
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パンティを穿いて、ブラジャーをつける。つけるのは初めてなので結構苦労した。そしてブラウスのボタンを留めるのに悪戦苦闘する。全く女物の服って機能的じゃないなと思う。そしてスカートを穿き、ブレザーを着てリボンを結ぶ。リボンの結び方は実はよく分からなかったので適当になった。あとで萌花にでも教えてもらおうと思う。
 
そして洋館を出て前に泊めているミラココアに乗る。乗ってからあらためて洋館の方を見ると、そこには何もなく森だけが広がっていた。私は
 
「スネちゃん、また会おうね」
と言って、ミラココアを発進させた。
 
多分・・・・スネが言っていた娘って、私の子供だ。
 
私はそんな気がした。
 
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■七点鐘(8)

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