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■娘たちの面談(6)

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岡山で瀬戸大橋を渡る特急・南風に乗り換えるが、この《南風》という列車は、岡山から宿毛まで行く便と高知止まりの便があり、高知行きの場合、高知−宿毛間が《あしずり》に引き継がれるようになっている。あしずりは南風を補う列車なので、この時期は1日2往復であったが、上下の本数が一致しない時期とか、下りのみで上りのあしずりが存在しなかった時期などもある。
 
中村駅に到着したのが15時半である。あしずりは高知−窪川間はJR四国土讃線だが、その先は土佐くろしお鉄道になる。土佐くろしお鉄道は中村までが中村線、その先は宿毛線になるのだが、実は中村線は窪川→中村、宿毛線は宿毛→中村なので中村駅というのは中間駅なのに、どちらから到着する列車も下りであり、中村駅を発車する列車は全て上りである。宿毛線の終着駅が中村なのは、元々宇和島からここへつなぐ予定だったからである。
 
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この中村駅前からバスに乗り継いで約1時間ほどで土佐清水市に到着する。そこから更にタクシーに乗って、やっと和彦の家に到着するが、10時間半におよぶなかなかの長旅であった。
 

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「これ高知あたりでレンタカー借りて走ってきた方が早かったかな?」
と桃香は言うが
「道が悪いから、あまり大差無い気がする」
と朋子は言っている。
 
「何kmあるんだっけ?」
「確か高知からここまで150km。レンタカー代も高いしね」
「150kmなら2時間で行くな」
と桃香。
「警察に捕まらなければね」
と朋子。
 
2時間で着くのはどう考えてもスピード違反だ(この時期、高知自動車道は中土佐ICまでしか開通しておらず、高知から46kmしかない。つまりその後100kmほど一般道R56/R321を走る必要がある)。
 
「富山空港か小松空港から高知空港に飛ぶ便は無いんだっけ?」
と青葉が訊く。
「伊丹と羽田しか無いのよね〜」
「微妙だなあ」
「飛行機使っても結局9時間掛かる」
「東京から10時間でロサンゼルスに着くのに」
 
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「ごめんください」
と玄関の引き戸を開けて朋子が声を掛ける。
 
「はーい」
と言って出てきたのは40歳くらいの女性である。
 
「あら、佑子さん、お久しぶり」
「朋子おばさん、ご無沙汰です。どうぞ、おあがりください」
「はい、失礼します」
 
それで4人とも靴を脱いで家にあがる。
 
この時、青葉は「あれ?」と思った。
 
青葉がキョロキョロしているので案内してくれている佑子が
「どうかした?」
と訊く。
 
「いえ、この家はお仏檀はどちらの方角だろうと思って」
 
青葉は訪問したら最初にお仏檀にご挨拶しなければと思っていたのに、その仏檀の気配が無いのである。
 
「ああ、うちは和彦じいさんが宗教嫌いだから、この家には仏檀も神棚も無いのよ」
「それで! いえ。仏檀の気配が無いので、神道のお家かなと一瞬思ったのですが、その神棚の気配も無かったので。でもキリスト教のお家でもなさそうだしと思って」
 
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「気配?」
「この子、凄く霊感が強くて、神社とかお寺の位置がわかるらしいです」
と朋子が説明する。
 
「なるほどね〜。だったら落ち着かないでしょ?」
「いえ、無宗教の施設はそれなりに身の置き方はわかるので」
 
と言いつつ青葉は、宗教的な設備が無い割にはここの家は「気の乱れ」が無いなと思った。何かこの家の「気」を統合しているものがあるのだろう。
 

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玄関を入って縁側を少し歩き、この家の中心の部屋かなという感じの広い部屋に至る。
 
ここは「茶の間」と呼ばれていて、この主屋(おもや)の全ての部屋から直接アクセスできる。縁側を通っても全ての部屋に個々にアクセスできるが、全ての部屋の中心にこの「茶の間」がある。プライバシーと利便の双方を活かした面白い作りだと思った。
 
茶の間には案内してくれた珠子さん以外に13人の男女がいた。つまり佑子さんを入れてこの家には14人の人が居た。
 
和彦(1916)・咲子(1924)、山彦(1943)・珠子(1946)
春彦(1968)・佑子(1970)・礼彦(1994)・史彦(1998)
秋子(1973)・武石貞男(1968)・満彦(1993)・安子(1995)
相沢博史(1967:佑子の兄)・江頭幸司(1969:珠子の甥)
 
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春彦と秋子は山彦・珠子の子供である。もうひとり夏彦という子供がいるのだが大阪在住で今日は来ていない。また春彦の子供3人の内、一番上の芳彦も大阪に住んでいる(こちらは大学生)。
 
「ご無沙汰しておりました。なかなかこちらに来なくて申し訳ありません」
と朋子が正座して挨拶する。
 
青葉・桃香・千里も朋子の後ろで正座して頭を下げた。
 
「桃香ちゃん、久しぶりに見た。大きくなったね〜」
と60代くらいの女性が青葉を見て言う。
 
「あ、いえ、私が桃香ですが」
と本当の桃香が発言する。
 
「え!?あんたが桃香ちゃん!?男の子かと思った!」
と言っているのが珠子である。
 
「すみませーん。あまり女らしい服を着るのが好きじゃないもので」
と桃香は言っている。
 
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確かに今日の桃香はロングTシャツに男物のデニムジャケットを羽織っていて、元々髪も短くしているので、充分男に見える。
 
「このセーラー服着ているのが養女にした青葉なんですよ」
と朋子。
 
「初めまして。青葉です。よろしくお願いします」
と青葉が丁寧に手を突いて挨拶する。すると一番奥に座っていた70歳くらいかな?という感じのおばあちゃんが
 
「めんこいな」
と言った。
 
唐突に東北弁が出てくるのでびっくりする。
 

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「あのぉ、東北のご出身ですか?」
と青葉が訊いた。
 
「そうそう。わたしゃ八戸の出身」
「へー」
 
「和彦じいさんは転勤族だから。元々はここ清水の出身なんだけど、東京帝大を出て内務省に入った後、全国を飛び回っている。八戸に居た時に咲子ばあさんと結婚したが、1週間後に宮崎に転勤の辞令が出た」
 
と山彦さんが説明している。
 
「あらあ」
 
「とにかく1年単位で全国転勤して回るから、咲子ばあさんはそれぞれの土地の言葉を覚える暇もなく、結局南部弁で押し通してる」
 
「なるほどぉ」
 
「この人が定年になった後、30年ほど清水に居るから、幡多弁(はたべん:高知県西部方言)も分かることは分かるけど、自分で話すのは南部弁(青森県東部及び岩手県北部・秋田県北東部の方言)」
 
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「ああ。その感覚何となく分かります」
 
「青葉ちゃんが大船渡だというんでちょっど楽しみにしてた」
と咲子さんは言っている。
 
青葉が育った大船渡は気仙語の文化圏で、南部弁とは全く違うのだが、地域的に南部弁を話す人達との交流も多く(彪志がそうである)、青葉は南部弁のイントネーションが心地よく感じられた。
 
「まあ同じ三陸だよね」
と桃香も言っている。
 

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「そちらの女性は?」
と千里のことを訊かれる。
 
「桃香ちゃんの奥さん?」
という声が掛かる。
 
「うん。私はそれでいい」
などと桃香は言っている。
 
「えーっと。青葉を保護した経緯はお聞きになったかもしれませんが、震災で家族を亡くしたこの子を、私と桃香さんとで保護したので、私も桃香さんもこの子の姉代わりということにしています。それで今日は一緒に参りました」
と千里は言ったのだが
 
「千里、この場に及んで恥ずかしがることないから」
などと桃香は言っている!
 
「うん。女同士の結婚は別に恥ずかしくない」
「いや、そもそも桃香ちゃんが男の子なのではないかという気がする」
「だったら、ふつうに男女のカップル」
 
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などと物わかりが良すぎる意見が出て、千里は頭を抱えていた。
 
「桃香ちゃん、ちんちん付けてないの?」
「いやあ、欲しいなとも思うのですが、女を捨てるのも惜しいし」
「女になりたいけど、ちんちん無くしたくないって友だち知ってる」
「そういうの結構デリケートだよね」
「とりあえず、ちんちん付けちゃったら?」
「おっぱいはそのままでもいいし」
「息子ちゃんも娘ちゃんも両方あったら便利だよ」
「それもいいなあ」
 
と言いつつ、桃香は先日見た夢(?)のことを思い起こしていた。あの早紀ちゃんとの逢瀬は現実だったのか夢だったのか判然としない。ふたなりの女子高生とか、やはり妄想かなあとも思う。
 
「あれちんちん付けるのってどうするの?」
「ちんちん要らない男の子のを移植するのでは?」
「ああ、最近ちんちんを取りたがってる男の子多いもんね」
「余ってるちんちん、たくさんありそうだよね」
「献血みたいな感じで、要らない人からどんどん回収して、欲しい人に配ればいいんじゃない?」
「あ、そのアイデア、いいと思う」
 
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そんな会話に青葉は居心地の悪そうな顔をしているが千里はむしろ笑っているので、ちー姉って平常心が凄い!と青葉は思っていた。
 

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到着したのが17時頃なので、もう晩御飯を一緒に食べましょうなどという話になる。ここで千里と青葉がさっと席を立ち、珠子や佑子・安子たちを手伝う。「あら、座っていればいいのに」と言われるが、「いえ遠慮せずにこき使ってください」と言って手伝う。
 
「あ、シマアジをまだ三枚に下ろしてなかった」
と珠子さんが言うと
「私がやりましょうか?」
と千里が言い、あざやかに下ろしてしまう。
「すごーい。お魚屋さんみたい」
「手際がよかった」
「漁師の娘ですから」
「千里ちゃん、どちらの出身?」
「北海道の留萌です。ホッケとかシャケとかも下ろしますよ」
「すごいねー」
 
そのまま大皿に盛りつけるが、他にも柵(さく)の状態のお魚もあるので、それも刺身に切って盛りつけた。他のお料理もみんなで皿に盛りつけていく。青葉は高校1年の安子と、おしゃべりしながら鶏の唐揚げをたくさんあげた。
 
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一方桃香は茶の間に根を生やして
 
「桃香ちゃん、行けるでしょ?」
などと春彦さんたちに言われて
「好きです。頂きます!」
と言ってラガービールを飲んでいる。
 
どうやら、ここでは桃香は“男衆”に分類されている感じもある。
 

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人数が多いだけに、大量のお魚や料理がどんどん消費されていく。お酒もどんどん開けられていく。ラガービールで始まって、日本酒、焼酎とどんどん開けていく。調子に乗って高校生の満彦・礼彦まで飲んでいたのは、各々の母親から叱られる。次第に桃香を含む“男組”と、千里・青葉を含む“女組”は微妙な距離を開けて各々盛り上がった感じであった。
 
夜10時頃、まだまだ飲む態勢の“男組”(春彦・貞男・博史・幸司・桃香)を放置して、“女組”と未成年の子、および禁酒している和彦・山彦は離れに引き上げる。斜面に立つ家なので、主屋の裏側、少し高い場所に主屋よりやや小ぶりの離れが建っており、主屋とは屋根付きの階段で結ばれている。ふだんは和彦・咲子の居場所になっているが、20人程度の収容能力はあり、今日はここで適当に布団を敷いて、寝ることにした。
 
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翌9月18日、離れに寝ていた“女組”が起きて主屋に下りて行くと“男組”が完璧にダウンしている。“女組”で協力して朝御飯を作り、“男組”を含む全員に食べさせるが、桃香は
 
「さすがに飲み過ぎた気がする」
などと言っていた。
 
この日の午前中はお墓参りをした。お昼は昨日の料理の残りに新たにハガツオの竜田揚げと焼きそばまで投入する。昨日お酒メインになってしまった人たちがこれを食べてくれたので、きれいに無くなって、珠子さんが
 
「余らなくて良かった良かった」
と言っていた。
 
午後は朋子が珠子・佑子と一緒に買物に出たのだが、その後で秋子が
 
「そうだ。温泉に行こう」
と言い出す。
 
「誰か運転できる人?」
と秋子が訊くので千里が手をあげる。
 
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「桃香姉も運転免許は持っていますけど、千里姉が運転した方がいいです」
と青葉。
「そもそも桃香はまだアルコールが抜けてないと思う」
と千里。
「青葉も運転はできるけど、まだ免許を持っていない」
と桃香。
 
「それあまり人に言わないでよ〜」
 
「じゃ千里ちゃんにお願いしよう」
 
ということで、秋子の夫・貞男さんのジャスティに乗って、10kmほど離れた所にある日帰り温泉に行くことにした。ちなみに貞男さん本人は昨夜飲み過ぎた所を更に迎え酒している!それで車に乗ったのは、秋子・安子・青葉・桃香・千里の5人である。
 

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けっこうカーブの多い道なのだが、千里は緩急を付けて加速度ができるだけ小さくなるように走って行くので秋子さんが
 
「千里ちゃん、運転うまーい!」
と感心していた。
 
やがて温泉のある旅館に到着する。
 
「あれ?ここ平屋建てですか?」
「この旅館は斜面に建っているのよ。ここが最上階で、お部屋や温泉はここから下に降りていくのよね」
「都会の地下マンションみたいなものか!」
「そうそう」
と秋子が言っている。
 

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娘たちの面談(6)

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