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■女の子たちの卒業(14)

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9日(木)の朝、芦耶はしっかり着替えを持ち、念のため避妊具も用意して、浮き浮きした気分で千里中央駅まで出かけて行った。私、ちょっとおしゃれしすぎたかなあ。でもいいよね。私たちの初夜になるんだから。
 
そう思いながら電車を降りて少し歩き、貴司のマンションまで行ってインターホンで来たことを告げると、5分ほどで貴司は下まで降りてきてくれた。一緒に地下の駐車場に行く。アウディA4 Avantが駐まっている。貴司はドアをアンロックし、助手席のドアを開けて「どうぞどうぞ」と言う、芦耶は笑顔で乗り込もうとして、凄まじい匂いに顔をしかめた。
 
「どうしたの?」
「何?この匂い?」
「え? あ、1週間使ってなかったから臭いが籠もったかな。御免、全部ドアを開けよう」
と言って貴司は全てのドアを開けるとともに、エンジンを掛けてエアコンを最強で掛けた。
 
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「どうかな? 少しはよくなったかな」
「うん」
 
それで芦耶は助手席に乗り込んだのだが・・・
 
え?
 
と思う。
 
これ。私より少し背の高い人がここに座っている。
 
座席が自分がいつも座っている位置より少し後ろにずらしてあるのだ。芦耶はこの席についこないだ、27日も乗った。その後で誰かがここに乗ったことになる。それ誰なの?
 
取り敢えず座席を自分の背丈に合わせて再調整する。
 
貴司が助手席のドアを閉めてくれて、向こう側に回り込んで運転席に座ってドアを閉める。
 
「うっ」
芦耶は再度むせ返りそうになった。
 
「何か?」
「降りる!」
と宣言して芦耶は助手席から降りてしまった。貴司も慌てて降りてくる。
 
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「どうしたの?」
「これ絶対、他の女がこの助手席に乗ってる。それも凄い香水のきっつい女」
 
「え?助手席には誰も乗せてないけど」
 
これは貴司が認識している範囲では本当だ。千里はあくまで後部座席に乗っていたのだから。
 
芦耶はじっと助手席を見つめていた。そしてそれを見付ける。シートと背もたれの間にはさまっていた、黒くて長い髪。指で拾い上げる。
 
「これ誰の髪?」
 
芦耶は栗色に髪を染めているし、こんなに長くもない。
 
「えっと・・・・・」
「やっぱり3万円のバレンタインくれた女の子とデートしたんでしょ?彼女をこの助手席に乗せて」
 
「いや、それは決してそんなことはしてない。だいたいあいつは男だし」
「そんな無意味も嘘つく貴司って嫌い」
 
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あ、自分はとうとう貴司のこと、嫌いって言っちゃった、と芦耶は少しだけ後悔した。
 
「嘘ついてないよ」
「じゃ、その男だという千葉の友だちに会わせてよ」
 
「分かった。じゃ目的地変更して千葉まで走ろうか?」
「この匂いのきつい助手席には乗りたくない。新幹線で行こう」
「分かった。行こう」
 
それで貴司は芦耶と一緒に北大阪急行で新大阪駅に移動し、東京行きの新幹線に乗り込んだ。
 

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『おい、どうするんだよ?これ』
『俺と青龍は貴司君に付いていく。玄武は助手席の匂いが抜けるように車の換気を頼む』
《せいちゃん》が車の合鍵を《げんちゃん》に渡す。
 
『おれは掃除係かよ?』
『後でお前もこっちに来てくれ』
『へいへい』
 

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貴司は新幹線の中から何度か千里に電話を入れたのだが、つながらなかった。実はこの日千里は午前中に引越屋さんが来て、荷物の配置などの指示をしたりしていたので、電話の着信に気づかなかったのである。
 
貴司たちの乗る新幹線はやがて東京駅に着く。
 
2時間にわたって貴司とおしゃべりしたことで、芦耶も少しは機嫌が直った。それで東京駅構内のレストランで一緒に食事をする。それから総武線に乗って千葉駅に着いた。
 
さて貴司はもちろん千里の新しいアパートには行ったことがない。都会では住所だけではたどり着けないような場所がしばしばあるので、何とか千里にそのあたりを確認してからでないとタクシーにも乗れない。
 
それで千葉駅の出口で千里に再度電話を入れた所、やっとつながった。
 
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「はい、千里です」
と言って電話に出た声は女声であった。貴司はドキっとする。やはり千里、女の子の声が出るんだよね?
 
しかしそばに芦耶がいるので、うかつなことが言えない。
 
「あ、村山君。千葉まで来てるんだけど、少し時間取れる?」
 
すると千里は明らかに「村山君」という呼び方に怒ったようである。
 
「時間って・・・千葉に居るの?」
と男声で返事がかえってくる。あはは。そうか。もしかして千里って機嫌のいい時は女声で、機嫌の悪い時は男声で話すことにしたんだったりして!?
 
「うん。今駅前。タクシーで村山君の住所言えば辿り着けるかな?」
「大丈夫だと思うけど」
と千里は明らかに怒ったような声で言っていた。
 
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もうこの先は出た所勝負だな、と貴司は覚悟を決めた。
 

芦耶と一緒にタクシーに乗って、千里のアパートに辿り着いた、なんか凄くボロっちいアパートだ。これ、今にも崩れそうなんだけど大丈夫か?と心配したくなる。
 
1階の真ん中の部屋と言っていたなと思い、その部屋の呼び鈴を鳴らす。千里はすぐに出てきた。
「はーい」
と明らかな女声で返事がかえってきてドアが開いた。その女声を聞いた瞬間、芦耶の顔が凄まじく険しくなった。あははは。どっちみち修羅場になりそう。
 
「村山君、こんにちは」
と貴司が言うと、千里は貴司のそばに芦耶が居るのを見て、明らかに怒った顔をした。
「遠い所、大変だったでしょ。あがって」
と千里は男声で言った。きゃー。怒ってるよ。
 
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それで貴司は芦耶と一緒に千里のアパートにあがりこんだ。その芦耶が最初に見とがめたのが、部屋の隅に転がっていたオムツである。貴司もそれを見て驚くとともに戸惑った。先に芦耶が反応する。
 
「赤ちゃんがいるの? まさか貴司との間の赤ちゃん?」
 
そして貴司まで
「村山、いつ赤ちゃん産んだの?予定日は8月4日じゃなかったんだっけ?」
などと言った。
 
千里は内心苦笑しながら
「違いますよぉ!この部屋、雨漏りが酷いんで、その対策用に紙おむつ買ってきたんです。妊娠したことはないですよ」
と男声で芦耶に言う。
 
「ほんとに?」
「だいたいボク、男だし」
「えーーーー!?」
 
そのやりとりを見て貴司は冷や汗をかきながら
「だから言ったろ?」
と芦耶に言ったのだが、千里は更に言う。
 
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「細川さんも焦って変なこと言いますね。男のボクが妊娠する訳ないじゃないですか。それとも8月4日が予定日って、それ他のガールフレンドを妊娠させたのと混同しているのでは?」
 
などと千里が言うと、芦耶はキッと貴司を睨む。
 
「違う。決して誰も妊娠させてない」
と貴司は言った。
 

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この時点で、貴司としては実は「何も考えていない」。先日千里が男装してくるから芦耶を紹介してよ、などと言っていたので、その話に千里が合わせてくれたら、とりあえずこの場を乗り切られるかもと考えているだけである。その結果、今千里が内心激怒しながら、貴司の話に合わせて男の振りをしてあげているということまでは思い至っていない。
 
ただ千里としても、今回の遭遇があまりにも唐突すぎたので、ここで自分は貴司の妻であると名乗ってこの女と喧嘩した場合に、こちらが準備不足で負けてしまうことを恐れて、明確な衝突を避ける思惑も持っていた。
 
千里は基本的には平和主義者だが、戦う以上は勝たなければならない、というのも千里のポリシーだ。
 
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取り敢えず千里がコーヒーを煎れてくれて3人で飲みながらお話するが、芦耶はすぐに千里が付けている香水に気付いた。
 
「あ、あなたの香り!」
「はい?」
「その香り、貴司の車に乗った時に感じた。あなた、貴司の車に乗った?」
「はい。こないだ先輩の車に乗せて頂きましたけど」
 
「これ女用の香水だよね?」
「母が使ってたのの古くなったのをもらってきたんですよ。汗掻いた時とかの臭い消し用です」
と千里は笑顔で言う。
 
「あんた、ほんとに男なんだっけ?」
「この髪にこの声を聞いて、男に見えませんか?」
「確かに男の声みたいに聞こえはするけど、それでもあんた女に見えるんだけど!」
「困ったなあ。ボク女装でもしようかな」
「うん。女装が凄く似合いそう!」
 
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話し合いはその場では決着が付かず、近くの和食の店、更に居酒屋に移動して続く。芦耶の疑問は「千里が女ではないのか?」「そして貴司と浮気したのでは?」という2点に集約される。それを貴司は「千里は男である」「千里とはただの先輩後輩の関係」と主張し、千里は半ば呆れながらも貴司の主張に話を合わせてあげていた。
 
ところで、東京でこういうことが起きている間、車の掃除をしていた《げんちゃん》は最初『この香水の香り、落ちないぞ、千里いくらなんでも掛けすぎ〜』と文句言いながらも車の掃除をしていたが、午前中ずっとやっていても一向に臭いが取れないので、とうとう切れて一度東京に移動して、千里のサブ財布を持っている《きーちゃん》を連れて行き、車の洗浄専門業者にアウディを持ち込んで座席の洗浄を依頼した。業者には香水の瓶を割ってしまったんですよと説明したが、料金は5万円も掛かった!
 
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洗浄は(乾燥が必要なため)3日掛かるので13日(月)のあがりですと言われたので、それまでは貴司に気づかれないよう、適当に誤魔化そうと思ったものの、実際には貴司が大阪に戻って来るのは12日(日)の夜で、その夜はそのまま千里とHなことをする夢を見ながら眠ってしまうし、平日は車を使わないので、結局貴司が車に次触るのは一週間後の18日(土)である。
 
貴司は
「あれ?何か車がきれいになってる気がする」
とは思ったものの、深くは考えずに練習試合のある神戸市まで運転していった。
 

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一方、9日の日、千里と貴司・芦耶は、和食の店・居酒屋でけっこう長時間話し合ったものの、結論は出ない感じであった。居酒屋も閉店時刻になってしまうので店を出ることにする。
 
貴司が結局3人分の支払いをする。千里と芦耶はそれを少し外側で待っていた。会計を済ませた貴司が「あっちょっとトイレ」と言って男子トイレに飛び込む。それを見てつられた芦耶が「あ、私も」と言って女子トイレに飛び込む。それを見て千里も「私も行こうかな」と独り言を言って女子トイレに入る。この時千里はこの数時間、自分が「千里は男」という貴司の主張に話を合わせてあげていたことを瞬間的に忘れてしまっていた。話し合いが長時間に及んで精神的に疲れていたことから一瞬思考が飛んでしまったのである。
 
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女子トイレの中は個室が2つあり、片方に芦耶が入ったようだ。もうひとつの個室が空いているので千里はそこに入った。千里はいつも女子トイレを使っているから、こういう時に自分がここにいることに何の疑問も感じない。
 
先に入った芦耶が先に出る。彼女が手を洗っている内に千里も個室を出た。芦耶がギョッとして千里を見た。
 
「あんた、男じゃなかったんだっけ?」
「へ?」
「あんた男なのに女子トイレに入って来たの? それともあんたやはり女なの?」
 
と芦耶に言われて、千里はやっと自分のミスに気づいた。
 
「ごめーん」
と千里は女声で言った。
 
「やっぱ、あんた女だよね。今、女の声出したね?」
「あははは」
と千里は一瞬どう答えていいか悩んで取り敢えず笑ってみた。
 
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「今の『ごめーん』ってどっちの意味? あなたが男なのに女子トイレを使ってしまって御免という意味なら、私あなたを痴漢として通報する。自分が男だなんて嘘をついてごめーんという意味なら、女同士、ライバル宣言してふたりで貴司を争わない?」
と芦耶は言った。
 
千里はため息をついた。
 
「私、正直なんであいつが私は男なんて嘘つくのが意味が分からないんだけど。私のこと『村山君』なんて苗字呼びするからさ。ちょっと頭来たんで、はい私は男なんでしょうね、と言ってみた」
 
「あいつ普段はあんたのこと下の名前で呼ぶの?」
「苗字で呼ばれたのなんて、初めて会った時くらいだなあ」
「私は苗字でしか呼ばれたことない」
と芦耶は言って、悲しそうな目をした。
 
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「3万円のバレンタインチョコ贈ったよね?」
「うん。5000円くらいのお返しのホワイトデーもらった」
「私は1万5千円くらいのバレンタイン贈ったんだけど、あれ見て負けたぁと思った。私はお返しは3000円くらいのかな」
「それって単純に比率計算だったりして。あいつって割と何も考えてないから」
と千里が言うと芦耶は吹き出した。
 
「あいつって実際なーんにも考えてないと思わない?」
と芦耶。
「言えてる言えてる」
と千里。
 
ふたりの間に一瞬だけ連帯感が芽生え掛かったが、すぐにお互い激しい視線の火花を散らす。
 
「あんた、秋頃貴司のマンションの周囲でよく見た女子高生とは違うよね?」
と芦耶が訊く。
「秋頃? そんな女子高生がいたの?私は貴司とはこないだ1年ぶりに会ったんだよ」
「・・・・したの?」
「さあ、どうかな」
 
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ふたりは視線をぶつけ合う。
 
「妊娠は?」
「その内貴司の子供を産むつもりだよ」
 
激しい視線の火花が飛び散る。
 
ところがそこに従業員さんが入って来て
「済みません。もう閉めますので」
と言うので、ふたりはそのまま黙って女子トイレから出た。
 

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千里と芦耶が一緒に女子トイレから出てきたのを見て、貴司がギクっとした顔をした。
 
千里は外を見て
「雨降ってますね」
と言った。
 
すると貴司は
「タクシーでどこかのホテルに行こう」
と言った。
 

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この時、3人の位置関係は、入口そばに千里が居て、その左やや後方に貴司、そして千里の真後ろくらい、貴司の右やや後方くらいの場所に芦耶である。そして、この貴司の発言の意味を巡って微妙な誤解が生じていたのを、その時、3人とも気づかなかった。
 
貴司は「3人でビジネスホテルか何かに行きシングルを3つ取って休む」という意味で言った。
 
ところが千里と芦耶は各々別の解釈をした。
 
千里は、貴司が芦耶を見ながらそのセリフを言った気がしたので、貴司は芦耶と2人でホテルに行くつもりなのか?と解釈してしまった。それなら自分は、お邪魔な存在??
 
一方の芦耶は貴司が千里を見ながらそのセリフを言った気がしたので、何だと?ここまで引っ張っておいて、結局自分を無視してふたりでホテルに入るつもりか?と思った。
 
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千里と芦耶の間に激しい緊張が走ったことにさすがの貴司も気づいて
「え?どうしたの?」
と訊いた。
 
その時千里は、なぜだかここは引くべき時という気がした。後から考えてもなぜそう思ったのか分からない。
 
「じゃ私はこれで」
と千里は言って立ち去ろうとする。
 
「村山、傘持ってないのでは?」
「あそこに見えるコンビニまで走って行って傘を買いますよ」
「そうか。じゃ、今日はこれで」
 
今日はこれでだと〜? 私を停めるかと思ったのに。やはりそいつとホテルに行くのか? 千里は今度は怒りが込み上げてきた。貴司のおちんちんなんて、もう2度と立たなきゃいいんだ!
 
「では失礼します、《先》《輩》」
と言って、本当に走り去ってしまう。
 
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芦耶は拍子抜けした。一瞬、ここはこの娘と掴み合いの喧嘩になるかも、くらい覚悟したのに、あっけなく向こうが離脱してしまったので、驚きはしたものの、ここは貴司を自分のものにするチャンスと考える。
 
半ば強引に貴司と腕を組むと
 
「じゃ貴司、ホテルに行こうよ」
と笑顔で言った。
 

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女の子たちの卒業(14)

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