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■女の子たちの女性時代(2)

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「福居さんがさ」
と父は話を切り出した。
 
「6月に中風で倒れて、今リヒバリやってるんだけど、なかなか前のようには身体が動かないみたいなんだよ」
 
リヒバリって、ひょっとしてリハビリのことかな?
 
「それでこないだから何度かホタテの養殖の船を出すの、福居さんの孫とふたりでやってたんだけど、この後ずっと手伝ってくれないかと頼まれてさ」
 
「いいんじゃないの? お父さんとしては沿岸での作業でも船に乗れること自体は、やりがいを感じるのでは? スケトウダラの群れを求めて沖合に出るほどは興奮しないかも知れないけど」
 
「俺が漁で興奮してたとでも思ってるのか?」
「興奮しなかった?」
「そうだなあ。若い頃は興奮したかも知れん」
「今は?」
「むしろ敬虔な気持ちというかなあ」
「ああ、何となく分かる」
 
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「お前、漁師になるつもりはないか?」
「ごめん。ボクはそのつもりない」
「そうか・・・」
 
「そもそもボクには無理だよ。お父さんみたいに体格良くないもん」
「そうだよなあ。お前、細いし」
 
と言って、父は千里の腕を触る。
 
「まるで女みたいな腕だ」
「ボクは小さい頃からそう言われてたよ」
 
今の千里の肉体は女子選手になった後で鍛え上げた身体ではないので、まだ腕がかなり細いのである。
 

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「母さんにも苦労掛けてるなあと思うからさ。俺も頑張らなきゃと思って」
「ボクが小さい頃とか、かなり景気良かったよね」
 
「うん。そういう時代もあった」
「お母ちゃん、以前お父さんに買ってもらった着物とか時々見せてくれてたよ」
「最近、あいつに何も買ってやれん」
 
「お仕事ってそういうものだと思うよ。ずっと儲かる仕事なんて存在しないから」
「だよなあ」
 
「その内また良くなる時もあるよ」
「うん。そのためにもやはり自分はちゃんと勉強もしないといけないと思ってる」
「今はそれでいいと思うよ。10代の頃にやってなかった事を今やるというのもひとつの人生。人生の順序って、多少は入れ替えてもいいんだよ」
「そういう気はしてる」
 
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「最近は子供できてから結婚する人も多いし」
「そういう入れ替えは良くないけどなあ」
 
私の順序って滅茶苦茶入れ替わってるみたいだけどね〜。性転換前に女の身体を体験しているし、実際にまだ生まれてないのに子供(京平)ができちゃったし、などと思って伏見で会った京平のことを思い出したら目の端で何かチョロチョロしたものがあった気がした。
 

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内風呂にしばらくつかった後、露天風呂の方に移動する。
 
「しっかし、お前胴回りも細いなあ」
「あはは。女みたいに細いと言われるよ」
「ほんとほんと」
 
どうか父が私に胸があることに気付きませんように。
 
「お前、チンコまだ皮がかぶってるんだな」
と言って父は千里の《おちんちん》に触る。ひぇー。これに触られるなんて。
 
「でも大きくなれば剥けるから問題無いよ」
「まあ、それはそうだ。オナニーしてるか?」
「たまにしてるよ」
「たまにじゃいかん。毎日した方がいい」
 
やだー。こんな会話。なんで男の人ってすぐオナニーとか言う訳?
 

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それで千里たちが露天風呂に浸かってしばらく雑談していたら、そこに55-56歳くらいの男性が入ってくる。そして千里の顔を見て言う。
 
「あれ? ここ混浴なんだっけ?」
「え? そうなんですか?」
 
「いや、ここのお風呂の見取り図見たら、浴室の中央に露天風呂の絵が書いてあったから、これって男女各々の風呂からそこに行けるようになっているのか、それとも男女の露天風呂は仕切られてるのかどっちなんだろうと思ってたけど、やはり男女共通だったんだ?」
 
「ああ、そうなってるんですか?」
 
千里は状況が良く分からないまま会話をしている。
 
「でも混浴でも、女の人はちゃんとタオルとか湯浴み着とかで身体を隠していたら問題ないよな」
「そ、そうですね」
 
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と答えながら、ああこの人は自分を女と思っているのかということにやっと気がついた。まあ、私は女にしか見えないだろうね! 言葉の感じからするとどうも関東方面からの旅行者のようである。
 
「こないだ出張で岐阜の方に行って、下呂温泉に行ったけど、あそこは露天風呂がたくさん街中にあるんだけどね、女性は水着をつけて入ってましたよ」
 
「まあ、それが無難かも知れないですね」
「でも日本の風呂は元々混浴が本来なんじゃなかろうか」
「そのあたりは良く分かりませんけど」
 
「昔は道内の温泉も混浴の所多かったね」
と父も言う。
 
「じいさんが言ってたのでは昔は女の人も堂々と温泉では裸を曝していたらしい」
「まあ、今では色々風紀がどうの言いますからね」
 
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「でも最近は男の子でも水着をつけて温泉に入る子がよくあるみたいですね。おちんちん他人に見られるの恥ずかしいとかで」
と千里。
 
「それはいかんな」
「女はおっぱい見られるのを恥ずかしがってもいいけど、男は堂々とチンコを曝さなきゃ」
「同感、同感」
 
と父とその男性は意見が一致している。ああ、確かに見せたがる男の子は多いかも知れないなと千里は思う。貴司も痴漢にならないなら堂々と人前でチンコ見せたいなんて言ってたし。
 

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父と男の人は15分くらい仕事の話とかをしていた。その人は埼玉に住んでいて、食品メーカーの仕事をしているらしかった。今日は出張で旭川に来ていたようである。漁業関係者との接触も多いということで、そちら方面でも会話が盛り上がっていた。
 
「さて、私はそろそろ上がります。でもお嬢さん、こんなに美人だと将来が楽しみですね。それでは失礼します」
と言って、男性は浴槽を出て行った。
 
「お嬢さんって誰だろ?」
と父は、いぶかっている。
 
「さあ、玲羅のことでは?」
と千里。
 
「俺、玲羅の話したっけ?」
「どうだっけ」
 

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それで千里たちもあがろうということになる。それで露天風呂を出て、内風呂を通り抜け、脱衣場に戻る。千里がその脱衣場に行こうと引き戸を開けた時。
 
今浴室に入ってこようとしている若い男性と目が合った。
 
するとその男性は驚いたような顔をし
「ごめーん。間違った!」
と言って慌てて飛んで行って服を適当に着て、脱衣場の外へ走り出す。
 
そして間もなく女湯の方で
「きゃー!!!」
という声があがるのを聴いた。
 
あーん。ごめんなさーい。あの人が痴漢として突き出されたりしませんように、と千里は 祈った。が、千里の服の番をしてくれていた《りくちゃん》が呆れている風であった。
 

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お風呂から出た後、父は一休みして行こうと言ってSPA内の食堂に入り、ビールとカツ丼を注文する。千里もコカコーラゼロと親子丼を頼んだ。ビールとコーラで乾杯してから、また色々会話したが、父とこんなに会話したのって久しぶりだなあと思っていた。千里はそもそも子供の頃から、あまり父と話した記憶が無い。蓮菜は千里が「女の子」として育ってしまったひとつの要因は男性不在の家庭で育ったからかもなどと言っていたが、それは少しあるかも知れないと千里自身も思う。
 
「お父ちゃん、今日はどうやって帰るの?」
「もう帰りの汽車は無いから、ここゴロ寝して泊まってもいいみたいだし、明日の朝帰るよ」
「じゃ、ボクは適当な時間で引き上げるね」
「うんうん」
 
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食事の後、それもチケットもらっているからマッサージに行こうと言われる。それで父に付いて行ってみると、英国式ボディケアとか書いてある。父が持っているチケットを見ると、全身ケアコースだ。
 
全身ケアってことは・・・胸も触られちゃうよね?
 
やっばー。
 
待ち時間があるようなので、取り敢えずトイレに行く。もちろん女子トイレに入る。個室に入って、タックしようと思ったのだが、確認すると接着剤が固まってしまっていて使えない。うむむむ。
 
それで千里は《いんちゃん》に話しかける。
『ねぇねぇ、短時間でもいいんだけど女の子の身体に変更できない?』
『うーん。。。御主人に訊いてみて』
 
それで千里は《その方角》を正確に向いて、美鳳さんに話しかける。美鳳さんは何だか銀行員みたいなOL風の制服を着ていた。
 
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『美鳳さん、何とか短時間でもいいから、女の身体に変更できませんか?』
『ああ、いいよ。実はさあ。4日の日に切り替えをミスってたんだよ』
『へっ?』
『千里の身体の時刻の張り合わせって原則として日本時刻の午前4時にやることになっているんだけど、あの日私忙しかったもんだから佳穂に頼んでいたら、佳穂がそれ知らなくて0時に切り替えちゃったんだよね』
『大変なんですね』
『こういう人生そのものの操作は眷属にはさせられないから、私たち八乙女の誰かがやらなくちゃいけないからね。あれ半分冗談で提案したんだけど、マジでやることになっちゃったから」
 
やはり冗談なのか!?
 
「それで実は8月3日の女の時間が4時間残っていたから、どこかで辻褄を合わせなきゃと思っていたのよ』
『じゃお願いします』
『OK、OK。じゃあと少しで20時だからそれから24時まで4時間は女の子』
『助かります』
『その時刻に女湯に入ってたら騒ぎになるよ』
『シンデレラですね』
『そうそう』
『あの話、不思議に思ってたんですが、どうして12時の鐘が鳴った瞬間に魔法が解けなかったんでしょうかね? だって鐘の鳴り始めがその時刻ジャストですよね?』
『きっとお城の時計が進んでいたんだよ』
『なるほどー』
『じゃ8時の時報と一緒に・・・切り替えon』
 
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千里の身体の感触が変わった!
 
ついでに髪の長さも変わった!!
 
取り敢えず下着を女物に戻す。シャツとトランクスを脱いでバッグに入れ、練習後に着替えるつもりで持っていた洗濯済みのブラとショーツを着ける。それから髪はヘアゴムでまとめた。短時間なら父の目も誤魔化せるだろう。
 
でもやはり女物の下着は落ち着く。男物の下着ってなんか変な感じ。るみちゃんは最近ほとんど男物ばかりみたいだけどね。あの子は男物の方が楽だよと言うけど、私はあの感触好きじゃないなあ。
 

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