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■女の子たちの初体験(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2014-07-19
 
千里が意識を回復した時、そばに蓮菜だけでなく、雨宮先生も居る。
 
「あ、目が覚めた? お医者さんを呼ぶね」
と蓮菜が言い、ナースコールのボタンを押した。
 
「雨宮先生まで済みません」
「いや、どうもよく分からない状況みたいだから」
「へ?」
 
と千里は言ってから
 
「手術・・・・終わったんだよね?」
と蓮菜に尋ねる。
 
「手術はキャンセル」
「えーー!?」
 
やがて医師がやってくる。何だか難しい顔をしている。
 
「君は去勢手術する必要が無いようなので、身体にメスは入れなかった」
と医師は言った。
「え? どういうことでしょうか?」
 
「手術しようと思って、君の下着を下げて患部を露出したのだけど・・・どう見ても、女性の外陰部で、睾丸どころか、陰茎も陰嚢も無かったので」
「へ?」
 
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「患者の取り違えをしてないか? と騒ぎになって、付き添いのお姉さんにも手術室の中に入ってもらって確認して、君本人というのは確認が取れたのだけど」
 
「千里、私も千里のお股を見たけど、普通に女の子のお股だと思った。先生が割れ目ちゃんを開いて中を確認したけど、クリちゃんもヴァギナもあった」
と蓮菜。
 
「そんな馬鹿な」
と千里。
 
「だって、先生、手術前の診察で私の男性器を見られましたよね?」
「うん、だから分からない」
と医師。
 
「看護婦さん、看護婦さん、私の剃毛してくださったから、触ってますよね」
「ええ。私もどうなっているのかさっぱり」
と看護婦さん。
 
「君、双子で、ひとりが男でひとりが女ってことはないよね?」
と医師。
 
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「私に双子のきょうだいがいるなんて話は聞いたことないです」
と千里。
「私もこの子に双子の兄とかは居ないかって訊かれたけど、いませんって答えたよ」
と蓮菜。
 
「とにかく、君は睾丸摘出の手術などしようがないから」
と医師は言い、
「もう病院代はいいから帰って」
ということになってしまった。
 
「あのぉ、診察代・検査代に麻酔代とかは?」
「それ処理しようとすると書類がややこしくなるから」
 
ということで、結局お金も払わないまま、病院を出ることになる。
 

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「結局どういうことなんだっけ?」
と蓮菜がホントに訳分からないという顔をする。
 
「蓮菜は席を外してくれたけど、看護婦さんが私の剃毛しにきたの自体は見ているよね」
「うん」
「私のおまたが既に女の子の形をしていたら、その時看護婦さんが何か言ってるよね?」
「だと思う」
 
「で、結局、あんた今付いてるの?」
と車を運転している雨宮先生から訊かれる。
 
それで千里は自分でも自信が無かったので、服の中に手を入れて確認する。
 
「付いてます」
「触らせて」
と蓮菜が言うので服の上から触らせようとしたのだが、蓮菜は服の中に手を入れて直接触ってしまった。小学生の頃に留実子には触られたことがあるが蓮菜に触られるのは初めてだ。
 
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「付いてるね。棒も玉もある。すっごくちっちゃいけど」
「私も訳分からない!」
と千里は言ったが、蓮菜は
「これ作り物じゃないよね」
と言って、強く引っ張る。
 
「痛たたたた!」
「本物っぽい」
 
「なんか11月に女の子の身体だという診断書が出たという理由が分かったような気がするよ」
と雨宮先生は言った。
 
「あんた、自分では付いているような気がしているけど、実はもう付いてないんだよ」
「えーーー!?」
 
「考えてみると、秋に確かに私もあんたのお股に触ってるいるけど、あの時は付いてると思った。でもきっと医師がきちんと診察すると付いてないように見えるんだよ」
「そんな馬鹿な」
 
「だってそれしか考えられない」
「どういう状態なんですかね?」
 
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「普通の人なら有り得ないけど、フルートや龍笛が吹けるのにリコーダーが吹けない千里ならあり得る気がする」
と雨宮先生。
「ああ、確かに。激しい練習毎日しているのに凄い少食な千里ならあり得る気がする」
と蓮菜まで言う。
 
「だから、あんたは医師が診たら女の身体にしか見えないんだから、第三者的には既に睾丸も無ければ、お股はちゃんと女の形をしている、ということなんだよ。男の器官が付いてるような気がするのは、ただの気のせい。だから堂々と女子選手としてインターハイに出ればいいよ」
と雨宮先生は言った。
 
「なんか、もう気にするだけムダな気がしてきました」
「うんうん。そんなの気に病むだけムダ。純粋に練習のこと考えればいい」
 
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「そうしましょうかね」
と言って千里は疲れたように大きく息を付いた。
 

雨宮先生が空港までふたりを送ってくれたので、千里は
 
「余計なお手数お掛けして申し訳ありませんでした」
と謝り、蓮菜と一緒に新千歳行き最終便に乗り込んだ。
 
「先生にご迷惑掛けたし、頑張って楽曲を仕上げよう」
と言って千里は機内でもパソコンを広げて、譜面の入力を進めた。
 
「頑張るね。千里って、いつ休んでいるんだろ?って時々思うよ」
と蓮菜。
「蓮菜にも手数掛けさせちゃってごめんね」
「ううん。去勢手術のやり方とか聞いただけでも勉強になった」
 
「確かに普通聞く話じゃないかもね。何だかもう訳が分からないけど、自分の性器のことはもう考えないことにするよ」
「それがいいよ。実際問題として、お股の形がどうなっていようと、千里が女の子であることは、私も、みんなも良く知ってるよ」
 
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「そうだなあ」
「明日からは女子制服で出て来なよ」
「うーん。どうしよう?」
 
「インターハイに女子代表として出るのに、自分の身体が後ろめたいと考える前に、男子制服で学校に出ていることのほうがもっと問題という気がするぞ」
「うっ」
 
「だいたい2年生になってからの出席日数22日間の内、千里18日は女子制服で出て来ている」
「よく数えてたね!」
「まあ適当に言っただけだけど」
「びっくりした」
「でもそのくらい出て来ていると思うよ」
 
「そうなんだよねー。なんか自分でも随分女子制服着ている気がする。最近さあ、練習が結構きついじゃん。それで朝まだ疲れが残っているんだよね。それでよく、私が朝御飯作っている間に、おばちゃんが『ここに制服出しておくよ』などと言って準備してくれているんだけど、まず女子制服が出ている気がするんだよね」
 
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「するとそれをそのまま着て来てるんだ?」
「うん。朝ぼーっとしてるもんだから」
「千里のおばちゃんって良き理解者だなあ」
と言って蓮菜は笑い
「もう男子制服は廃棄しちゃったら」
と言った。
「えー?もったいないよぉ」
 
千里は蓮菜とおしゃべりしながら機内でまず今日書いた『See Again』という曲をCubaseに入力し、時々蓮菜に確認しながら調整を掛けていった。昨日書いた『黄昏の海』の方は帰宅してからだ。
 

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千里は新千歳から旭川までのバスの中では寝ていたものの、帰宅してから夜2時までCubaseへの入力作業を続けた。明日再度中身を吟味してから送信するつもりである。
 
翌朝、千里がさすがの強行軍の疲れで半ばボーっとしたまま朝御飯とお弁当を作っていると、美輪子が
 
「千里〜、新しいブラウスと制服ここに出しておくよ」
と言った。
 
「ありがとう」
と答えた千里は朝御飯を食べると、叔母が出してくれたブラウスを身につけ、そのままブレザーとスカートを身につけて、通学鞄にスポーツバッグに自転車の鍵を持ち
 
「行ってきまーす」
と言って玄関を出て行った。美輪子はおかしくてたまらないという表情をしていた。
 

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その日、千里がさすがに疲れていたので練習を18時で切り上げさせてもらい、女子制服に着替えて帰宅していたら、校庭のそばを通りかかった時に目の前に野球のボールが転がってきた。
 
「すみませーん。取ってもらえますか?」
と声を掛けたのは、先日廊下でぶつかった子だ。向こうも千里の顔を見て「あっ」という感じの顔をしている。千里はボールを拾うと「行くよ」と言って、彼のグラブめがけてボールを投げた。
 
ボールは彼のグラブの位置にストライクで納まる。バシッという鋭い音がした。彼が驚くような表情をしている。
 
「頑張ってね!」
「はい、ありがとうございます」
と彼は笑顔で言った。
 
野球部のレギュラー組・控え組は、校舎から3kmほど離れた所にある野球場で練習しているはずだ。学校の校庭で練習しているのは、控え組からも漏れているいわば三軍以下の子たちだろう。千里はホントに君たち頑張れよ、という気持ちで彼らを眺めながら、自転車置き場の方に歩いて行った。
 
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その日(月曜日)は結局帰宅してから0時頃まで仮眠をし、その後楽譜の整理作業に取りかかった。ヘッドホンを付けてMIDIを鳴らしてみて、小さな声で自分でも歌いながら、違和感のあった所などを微調整していく。この作業は3時頃まで掛かりそれでデータを雨宮先生に送信して、その日は寝た。
 
火曜日はやはりまだ少し寝不足で頭がボーっとしている。それで美輪子が「ここに制服置いとくね」という声に「ありがとう」と答えると、出された制服をそのまま着て、千里はあくびをしながら学校に出かけて行った。
 
その日の昼休み、千里がピアノの練習をするのに音楽練習室に行こうと1階の廊下を歩いていたら、ちょうど向こうから、例の野球部の子がこちらに来る所だった。一瞬目が合ったので会釈すると、向こうも何だか恥ずかしそうに会釈した。
 
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その時、ちょうど職員室から出て来た暢子が
「あ、千里、ちょうど良かった。バスケ部の女子、全員今から南体育館に集合だって」
と言う。
 
「服装は?」
「制服のまま」
「OK」
 
それで千里は暢子と一緒に今来た方角と逆向きに歩き出す。何だか背中に熱い視線を感じた気がした。
 

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その日の放課後、千里がいつものように南体育館(朱雀)でバスケットの練習をしていたら、何だか視線を感じる。見ると2階で野球部のユニフォームを着た男の子がこちらを見ていた。
 
「おーい、練習サボってないか? 頑張れよー」
と声を掛けると、彼は何だか照れたようにお辞儀をし、それから体育館を出て行った。
 

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