広告:メイプル戦記 (第2巻) (白泉社文庫)
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■女子大生たちの二兎両得(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2014-07-26
 
「あ、千里、車は?」
「こっち」
と言って、桃香を自分の車の所に連れて行く。
 
「お、インプだ。買ったの?」
「借り物〜。知り合いの人が運転の練習に貸してくれたんだよ」
「ふーん」
「助手席に乗っていいよ」
「彼女に悪くない?」
「彼女なんて居ないよ〜」
「そうか? 朱音がきっと千里には恋人がいる、なんて言ってたから」
 
はははは。まあ恋人に近い人はいるけど、少なくとも「彼女」ではないな。貴司が何かの気の迷いで性転換でもしない限り。
 
でも貴司がもし性転換しちゃったら、可愛い服着せてあげなきゃ、などと妄想が暴走する。ああ、でも私そしたらレスビアンになっちゃう。などと思って、ドキっとする。
 
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私、女の子とセックスしたらレスビアンになっちゃうからなあ。でも元男の子と元男の子のレスビアンってちょっと倒錯的で燃えるかも!?
 

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向こうのランエボはまだ発進しない。こちらの発進を待っているのだろうか。千里は取り敢えずインプ(スバル・インプレッサ)を発進させる。すると、ランエボも発進する。
 
「こちらに付いてくるつもりかな?」
「いや多分高岡に帰ると思う」
と桃香は疲れたような顔で言う。
 
「さっきはキスしちゃってごめん」
「ううん。別に恋人になる可能性のない人とのキスはノーカウント」
「ふむふむ」
「だって桃香は女の子が好きなんでしょ?ボクは恋愛対象外のはず」
「それはそうだが、千里も私は恋愛対象外か?」
「ボク、女の子と親しくなると、友だちにしかならないんだよねー。桃香とも友だちのつもりだよ」
「そういえば、そんなこと言ってたな」
 
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桃香はむしろその会話で少しホッとしたような様子であった。
 
「荷室の段ボールの中に、コーヒーとかカロリーメイトとかあるから、それは適当に食べていいから」
「そうか?じゃもらっちゃおう」
 
と言って、桃香はカロリーメイトを1箱開け、缶コーヒーを飲みながら食べている。
 
「お腹空いてるなら、次のSAに入るけど」
「いや。むしろ寝た方がいい気がするから、悪いけどすぐ寝るから」
「うん、寝てて」
 
彼女のランエボはその後ずっと千里のインプの後を付いてくる。真っ赤なインプと真っ赤なランエボが並んで走っていたら、走り屋さん仲間かなと思われそうだが、千里が100km/hジャストで走っているので向こうも100km/hジャストで追随している。
 
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しかし小牧JCTの所でランエボは中央道方面に分岐した。高岡に帰るというのであれば、そこから東海環状道経由で、東海北陸道の下り線に入るつもりだろう。この付近は高速同士が複雑に結合しているので、ぐるぐると何周も回ったりできる。
 
桃香はそれを見て安心して目を瞑り、睡眠に入ったようであった。
 
『千里、この子にいろいろ憑いてるけど、取り敢えず全部剥がすぞ』
と《とうちゃん》が言った。
『ほんと? よろしく』
 
千里は後部座席の窓を開けた。
 
《とうちゃん》は《げんちゃん》《せいちゃん》らと協力して、桃香に憑いている「変なもの」を剥がしてはどんどん窓の外に放り出していた。車は100km/hで走っている。大半はその衝撃で粉砕されると《とうちゃん》は言った。残ったものも風に吹き飛ばされて霧散するだろう。作業は15分くらい掛かったようであった。
 
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『千里、運転代わるぞ』
と《こうちゃん》が言うので
『うん、お願い』
と言って、《こうちゃん》に身体を預け、千里は精神を眠らせた。
 

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明け方、海老名SAに入る。千里がトイレ(当然女子トイレ)に行ってきてから車に戻ると桃香も目を覚ました所だった。
 
「桃香もトイレ行ってくる?」
「あ、そうしようかな。なんか凄く気持ち良く眠れた。すっきりした気分。ここしばらく疲れていたんだけど、その疲れも取れた感じ」
「良かったね」
 
まあ憑かれていたみたいだけど、憑いてたものは取ったからね〜。
 
「でも・・・」
「ん?」
「今、千里、女子トイレから出て来なかった?」
「まさか。その前を通過しただけだよ」
「あ、そうか」
 
お腹が空いたから朝御飯食べようよということでフードコーナーに一緒に行く。桃香が2人分の朝御飯を買ってくれたので、一緒に食べた。
 
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「夜通し運転して疲れなかった?」
「あ、平気平気。半分眠りながら運転するの得意」
「寝るのか!?」
「冗談、冗談」
「いや、私も運転できたらいいんだけど、免許取ったあと違反を2回立て続けにやってしまったら、母ちゃんに免許証を取り上げられてしまって」
「あはは」
「なんで警官って、あんなえげつない場所にいるのかなあ」
 
「違反が起きがちな場所に居るんだよ。見通しの良い直線とか、一時停止する必要なさそうな気がする交差点とか、急に変わる信号のそばとか」
 
「私の最初の違反も、うっそーと思うほど突然信号が変わって、信号無視を取られたんだよ」
「そういう所って、制限速度で走っていれば、突然変わっても即応して停止できるはずという変わり方なんだよ」
「だって、みんな制限速度+10か+15くらいで走ってたのに」
「だから捕まえやすいんだよ。鴨が多い場所なんだよね」
「くっそー。私は鴨か」
 
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桃香とはその後、バイトの話(電話オペレータになったらしい)や学校での教官のうわさ話などをした。恋愛問題に関しては敢えて触れなかった。
 

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30分くらい休憩してから、車に戻って出発した。
 
「桃香まだ寝てていいよ」
「そうしようかな」
 
と言って、桃香はまた眠ってしまった。それで千里は今度は《きーちゃん》に運転を代わってもらい、千葉まで戻った。
 
「アパートに寄る?」
「いや、そのまま学校に行く」
 
と言うので、学校の中まで進入して理学部の前で桃香を降ろし、千里は車を学校近くの時間貸し駐車場に入れた。
 
でも、私って時間貸しの駐車場の料金、毎月3万くらい使ってないか?と千里は少し悩んだ。携帯駐車場が欲しいよ!
 

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7月下旬の土曜日から、千里は塾の先生のバイトで出て行った。貴司から借りたワイシャツと背広上下を着て、ネクタイをして、男性用の靴を履いて出かける。貴司の靴は28cmなので、足の先に靴下を1枚入れている。でも歩きにくい!
 
自転車で千葉駅まで行き、ここで講師仲間の2人の男性と合流し、車に相乗りして、夏期講座が行われる旧**女子高の校舎まで行く。ここは数年前までは女子高であったものの、交通が不便なのもあり生徒数が少なくなって経営難に陥り廃校になったのである。
 
職員室で時間割を確認する。今回の講座の主任講師の人から説明がある。千里は中学1〜2年クラスの英語、小学5〜6年生クラスの算数を担当することになっていた。
 
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早速授業に出ていく。1時間目は中学生の英語である。予習をしていないが、まあ何とかなるだろうと度胸勝負である。
 

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教室に入って行く。
 
「Hello. My name is Chisato Murayama. I'm teaching you English readings every Saturday, for at time」
と取り敢えずは挨拶である。英語の授業は原則として全て英語で進めてくれという指定であった。
 
すると、ひとりの女生徒が手を挙げて立ち上がる。
「Ms Murayama, I have a question」
「Sure」
 
うむむ。Msと言われたしまったぞ。背広着てるのに。
 
「Why are you wearing Men's suits?」
 
ふむふむ。女性なのに男性用のスーツを着てたら変だよなあ。
 
「Because my father believes that I am a man」
 
と答えたが、何だかざわめいていた。オスカルか竜之介かって感じ?
 

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取り敢えず授業を始める。最初に生徒を指名して文章を読ませる。それから意味の取りにくいところを少し解説していく。
 
「16th line. "She makes him a good wife". This sentence not means "She let him be a good wife." this word "make" means "become". So, the person becomes wife is not he, bus she. In other expression, "She will be a good wife of him」
 
英語の文章を英語で解説しているのだが、生徒の反応を見ていると千里の説明にけっこう頷いている感じだ。それでこのクラスの生徒が結構優秀であることを確信する。
 
「May I have a question?」
「Yes」
 
「In many case, he becomes husband, but today some he becomes wife, doesn't he?」
「Yes yes. Today, various types of love are permitted. Man can be a wife; Woman can be a husband. There are also wife-wife couple, husband-husband couple」
 
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別の女生徒が質問する。
 
「Ms Murayama, Are you going to be a wife, or a husband?」
「Perhaps, I will be a wife」
 
質問した生徒も他の生徒も大きく頷いていた。
 

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授業が終わった後でトイレに行く。WCの表記のある所に入り、個室が並んでいるので、そこに入って用を達して流し、手を洗って外に出る。
 
そこに英語の授業に出ていた女生徒がいる。
 
「ああ、村山先生やはりこちらを使うんですよね?」
「え?何か問題あったっけ?」
「いえ、全然問題無いと思います」
と言って生徒は微笑んだ。
 
職員室に戻って次の授業の準備に取りかかる。空き時間が1時間あるので、算数の授業の予習をする。英語はぶっつけ本番で何とかなっても、算数はちゃんと予習しておかないと、問題を解けなかったらやばい。特に小学生の問題は方程式を使わずに解かなければならないから頭の体操である。
 
それでテキストを見ながら問題を解いていたら、他の先生たちの会話が聞こえる。
 
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「ここ、元々が学校だから、ホテルの部屋とか使ってやるのよりはやりやすいですね」
「そうそう。ホテルの部屋って、いまいち勉強の雰囲気にならないんですよ」
「くつろぐために作られているからか、緊張感が不足するんですよね」
「なんか臨海学校か林間学校かって雰囲気になりがち」
 
「でも唯一の欠点がトイレかな」
「そうそう。元々が女子高だから、男子トイレは職員室のそばに1つあるだけですからね」
「休み時間の度に、列ができてますね」
 
「一応各教室の近くにある女子トイレに関しては、男女共用で使っていいということにしていますが、なかなかそこに入る男子生徒は少ないみたいです」
「女子トイレ使っていいと言われても、なかなか落ち着かないでしょうね」
 
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え〜〜!? あれ女子トイレだったの? そういえば個室だけが並んでたな。男子トイレには確か小便器があったはず。
 
と千里は焦る思いだったが、後ろから《こうちゃん》が
『千里、確信犯じゃなかったのか?』
と言ってきた。
 
しかし教室そばの女子トイレは共用で使っていいということだったので、千里はこの夏期講習の間、そのまま女子トイレの使用を継続した。
 

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この講習会では、お昼はだいたい近所の庶民的な中華飯店に行って食べていた。だいたい650円の天津丼、680円のラーメン、620円の五目炒飯のローテーション。一応千葉市内なのだが、都心からはかなり離れており、近所に食べる所といえば、その中華飯店か、もうひとつ少し高めの洋食屋さんしか無かったのである。
 
3回目に講義に行った時、塾のオーナーが陣中見舞いにやってきた。それでお昼はオーナーのおごりでみんなで食事に行きましょう、ということになり、ぞろぞろと、その洋食屋さんの方に行った。
 
しかし値段が高めといっても、立地が立地なので、いちばん高いメニューがカツカレーの1200円である。オーナーさんは、みんなに3000円くらいのランチをおごるつもりでいた雰囲気だったが、高くてもそれなので、結局全員カツカレーということになる。
 
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色々今回の講習の状況について話している内に、料理が来る。みんなの前にカツカレーの皿とスプーン・フォーク、それに付け合わせのサラダが置かれたが、更に千里の前にだけフルーツヨーグルトが置かれた。
 
「あれ?これ私だけですか?」
「はい、土日は女性のお客様にフルーツヨーグルトをサービスさせて頂いております」
とウェイターは言って下がった。
 
「女性のお客様??」
とオーナーは怪訝な顔であるが、他の同僚の講師たちは
「なるほどー。納得」
などと言っていた。
 

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この夏期講習では、千里が「唯一の女性講師」ということで、女生徒たちから恋の相談を受けたりもした。
 
千里は恋愛で迷走している感じの自分がこんな相談受けていいものかとは思ったものの、ひとりひとりの悩みを聞いてあげて、だいたい「告っちゃえよ」とか「悩んでいる間に電話してみるべし」などと発破を掛けておいた。
 
中には「勇気を出して告白したら彼も好きだって言ってくれました」「取り敢えずお友だちとしてメール交換しようということになりました」などと事後報告してくる子もいた。
 
千里は無筮立卦で、可能性のある子にしかそういうことは言っていないので成功率は高かったようである。見込みのない子には「それはさすがに無理だよ」とか「カラオケで3時間くらい歌うとスッキリするよ」などと言ってあげていた。
 
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