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■夏の日の想い出・新入生の春(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2011-11-18/改訂 2012-11-11
 
高校2年生の8月から12月まで私と政子は「ローズ+リリー」という女子高生歌手デュオとして活動していたが、その活動は私が実は男であったという写真週刊誌の報道で停止することになってしまい、その後、私たちはふつうの高校生生活、そして受験生生活を送った。そして私たちは一緒に△△△大学の文学部を受けることにした。
 
私と政子が志望校にしている△△△大学の願書受付は1月5日からなのだが、私は提出する願書上の記載事項について少し悩んだので12月の中旬、電話で問い合わせてみた。
 
「名前は通称とかではダメなのでしょうか?」
「はい。戸籍に記載されている名前でお願いします」
「性別も戸籍通りですか?」
「性別・・・ですか?戸籍通りで問題があるのでしょうか?」
「私、性同一性障害なのですが」
「少々お待ち下さい」
 
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そのまま5分ほど待ったが
「済みません。確認してご連絡します」
と言われ、結局3日後に連絡があり、
「電話では誤解があってはいけないので、直接お会いして説明したいので、学生部まで来て頂けませんでしょうか?」
 
と言われ、私は出ていくことにした。模試を受けているかと尋ねられ、某社のを受けているというと、成績表を見せてもらえないかと言われたので、それを持って出かけていった。母にお願いしてスカート外出許可を取り、女子高生風のブレザーとチェックのスカート、ローファーという服装である。
 
「すみませんね、わざわざ来て頂いて」
と対応してくれたのは、学生部長さんと、私が志望すると電話で話していた英文科の川原教授(女性)だった。私が高校の学生証や模試の成績表を見せると川原教授は
「えっと、あなたは受験生のお姉さん?」と訊いた。
 
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「いえ、本人ですが」
「あ、失礼しました。それは学校の制服ですか?」
「いえ私服です。学校には学生服で通っています」
 
学校での生活を聞かれ、今しているような長い髪を是認してもらえていること、トイレは女子トイレを使っていること、1学期の体育は女子と一緒に受けたこと、女声合唱のコーラス部に所属してソプラノのパートを歌っていることなどを話すと、川原教授も学生部長さんも頷いている。
 
「でもあなた、声が女の子なのね」
「ええ。男の子の声も出せますけど、日常的にはこちらの声しか使ってません」
「その胸は?」
「バストパッドですが、大学生になったら豊胸手術を受けようと思っています」
「下の方は手術してるの?」
「まだです。でもたぶん大学4年間の在学中に性転換手術を受けると思います」
 
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「この模試の成績だけど、こんなこと言っては何だけど、この成績なら、東京外大あたりを狙うとか、あるいはうちの大学なら法学部とか狙っても入りそうな気がするけど、うちの英文科を受けようというのは、何か思い入れとかがあるの?」
 
「えっと、第一にはイギリス文学に興味があって、特にイギリスの詩人に好きな人が数人いることですが、ひとつは無二の親友がここの英文科を志望しているので一緒に通いたいと思っていることと、もうひとつは今受験のため休業中ではあるのですが、私、歌手をしているので仕事をしながらでも、きちんと大学の勉強をしていけるような自由な気風の学校で学びたいというのがあります」
「あら、歌手なんだ!私でも知ってる名前かしら?」
 
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「うーん。どうでしょうか。4ヶ月活動しただけで休養期間に突入してしまったので。ローズ+リリーというデュオなのですが。一緒に通いたいと思っている無二の親友というのも、そのパートナーなんです」
「ああ!」と川原教授。
「あなた、ローズ+リリーのケイちゃんね」
「はい」
「歌ってる声を聞いても女の子の声にしか聞こえないと思ってたけど、こうして話していてもこの声だもんね。あ、じゃ、マリちゃんの方も英文科志望なんだ!]
「はい」
 
このあたりから、会話は半ば雑談モードに突入してしまった。歌手活動をしていた時のことなども色々聞かれる。好きな作家を聞かれてシェイクスピアとウィリアム・ブレイク、T・S・エリオットなどの名前を挙げると、
「あら、シェイクスピアは私の専門じゃん」
と言われ、ぜひうちの研究室に来てよなどと言われた。
「ブレイクの作品で好きな詩は?」
「My Pretty Rose Tree」
「Oh! cute piece. You also have thorns?」
「Yes, probably. Besides, I am the Rose of 《Rose plus Lily》.」
「Oh yeah!」
教授との会話はしばしば日本語と英語が入り交じったものになった。
 
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1時間くらい話をした上で
「4月からの出席を楽しみにしてますよ」
などと言われた。直接会って説明したいなんて、実質的な面接ではないかと思っていたのだが、どうやら本当に面接だったようだ!たぶん私のパス度を確認したかったのだろうと思った。やはりこの服装で来てよかった。
 
私もうっかりそのまま帰ろうとしたのだが、本来の用件を思い出し、「あの、すみません。願書での性別はどうしましょうか?」と尋ねる。「あ、そうだった」と部長さんも忘れていた感じである。
「あなたが自分の性別はこちらだと思っている方にマークしてください。私達はその通り、学籍簿に記載します」
などと言われた。
 
また氏名についても、入学願書本体は通称で提出してもらい、それにその通称の人と、高校から発行されるはずの内申書上の氏名の人が、同一人物であることが何らかの形で証明できる書類を添付してもらえばよいと言われた。私は性別だけは「女」で通したいと思っていたものの名前の方は諦めていたが、名前も女性名でいけると聞いて、嬉しくなった。当然入学後の学生証なども女性名で記載されることになる。
 
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「あなたの場合、男性名で受験票や学生証を作っちゃうと、その方がトラブルの元になりそうだしね」
と学生部長さんが笑って言っていた。色々な理由で通称を使用している人はいるので、その方式に準じて処理しますと言われ、証明する書類の書式サンプルをもらった。
 

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私と政子は1月の願書受付開始とともに入学願書を提出した。私達はセンター試験は受けないので2月の本試験だけ受け、2月26日の合格発表を迎えた。私も政子も合格していたが、一緒に受けた礼美は残念ながら落ちていた。礼美は併願していたM大学に行くと言っていた。
 
合格通知を受けてから、私が最初に取りかかったのは独立のためのアパートを探すことだった。大学から近くで、あまり高くないところと思って探していたのだが、都区内はやはり高い。またそこで創作活動などすることも考えると、あまりうるさすぎる環境は問題がある。
 
という訳で私は早々に大学の近くという条件を諦めた。多少の不便を我慢してもまずは静かに創作活動ができそうな場所を探した。結局杉並区内に2DKのアパートを確保した。ひとりで暮らす分には1Kとかでもよいのだが、友人を泊める場合が絶対あるので、そうなると2DKは最低欲しかったのであった。またこの場所は、近隣の駅(までは10分歩く必要がある)から地下鉄で大学の最寄り駅に直接入ることができて、通学にも便利であった。
 
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3月4日の高校の卒業式が済んでから数日後にアパートの契約ができたので、寝具や衣類などの荷物を宅急便で送る。エレクトーンは専門の業者に頼むことにしたが、この時期は混んでいるので、結局4月下旬に運ぶことにした。しかしこの春休みはしばらく練習不足になっていた分も補っておきたかったので、私は独立したとはいってもゴールデンウィーク前まで毎日のように実家に行っては、どうかすると1日中エレクトーンを弾いていた。「あんた、独立するとか言ってなかったっけ?」と姉から皮肉られた。
 
私は3月上旬に美容外科で、ヒゲと足の毛の脱毛をした。私は高2の2学期以降はヒゲは毛抜きで抜き、足は最初は剃っていたものの、ソイエをするようになっていたのだが、ヒゲを毎朝抜くのに30分掛かって、この時間がもったいないと日々思っていたことと、ソイエは慣れてもとっても痛いので、この処理から解放されたいという気持ちがあった。
 
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ヒゲの脱毛の後数日間はとても他人には見せられない顔になるので、その間私は大きなマスクをしていた。ちょうど花粉症の季節なので、目立たずには済んだがそれでも姉からは「怪しい人みたい」などとからかわれた。
 
3月の前半は引越やら、脱毛やらもあったので友人たちと会うこともできず、結局下旬の連休明けにやっと、政子とだけ会うことができた。
 
「こんな冬、久しぶりに見たな」と政子は会うなり言った。
その日、私はフェミニンなチュニックにプリーツスカートを穿いていた。髪も前日美容室に行ってセットしてもらっていた。柄ストッキングを穿き、靴もヒールのある靴を履いている。
 
「ローズ+リリーしてた頃は時々こんな雰囲気の服装もしてたよね。でも辞めてからは、私スカートは履いていても、あまり女を強調するような服は着てなかった」
「でもこういう服を自分で着てみようという気になってきたんだ」
「うん。自分の心の中で少しずつ育てていた女の子の心をそろそろ試運転してもいい時期かなという気がした」
 
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「せっかくそういう服を着るならお化粧もすればいいのに」
「実はよく分からないのよ。口紅だけしてきたけど」
「私もそんなに上手い訳じゃないけど、今度うちに来た時にでも教えてあげるよ」
「うん、ありがと。教えて」
 
「脱毛した感じはどう?」
「すごくいいよぉ。今まではさ、毎朝ヒゲの処理をする度に自分が男の身体であることを思い知らされていたけど、それをしなくていいから、ずっと女の子の気分でいられるんだもん。時間も掛かってたしね」
「毎朝30分くらい掛けてたよね」
「そうそう。その時間ももったいなかった。日によっては伸びない日もあるんだけどね。足の方はソイエしてたから、凄く痛かったし」
「あれは痛いよね。私も脱毛しちゃおうかなぁ」
「うん、しちゃいなよ」
 
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「ところでみんなの入試の首尾はどうだったんだろう?琴絵と仁恵のは本人からの連絡で分かったけど、他の子たちの状況、全然分からなくて」と政子。
 
「理桜も圭子も、第一志望の前期試験に通ってた。奈緒は第一志望は落ちて、後期試験は合格水準が高くなるから絶対無理ってんで、N大学に行くって。紀美香は第一希望落ちちゃったけど、他の所に行く気しないから浪人したいと本人は言っているんだけど、お母さんが滑り止めで受けてたS大学に行けって言ってるらしくて現在協議中。男の子たちでは、佐野君は国立も通ったけど、結局K大学に行くらしい。木原君は前期の東大落として、後期の一橋通ったって今日佐野君経由で聞いた。松山君は阪大前期合格」
 
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「そうか。後期の合格発表が今日だったんだ」
「そうそう」
「私達はこの1ヶ月勉強と無縁の生活してたけど、この1ヶ月もずっと闘ってた子たちがいるのね」
「うん。もう予備校の来年に向けての講義は始まってる」
「きゃー」
 
「でも、佐野君とは冬、連絡を取り合ってるんだね」
「というか、よく向こうから電話してきて、20分くらい話していたりするよ。去年の3月頃に携帯の番号を交換したんだよね。彼とは。あ、そうか。男の子の友だちで携帯番号入ってるの、彼だけだ」
「へー」
 
「何か、佐野君はある意味相性がいいんだよねー。けっこう彼って言葉はきついんだけど、悪気が無いから、私笑っちゃう。彼とは私が男の子だった頃もよく話してたけど、女の子になってからも全然変わらない感じで話ができてる。私も一時期彼と話をする時の自分の立ち位置に悩んだんだけど、彼は私の性別は関係無いって言うのよね。強いて言えば『性別・唐本』だ、と。最初から私のことを女の子と思い込んでいたという木原君とか、私の性別を知った上でいつもレディみたいに扱ってくれる松山君とかとは、付き合い方が違うのよね」
「それはなかなか面白い」
 
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「彼とは男声で話すの?」
「高2の11月頃以降は女声で話してる」
「ふーん。。。佐野君、冬に気があったりして」
「まさか」
「一度デートに誘ってみたら?春休みは開放的になってるし」
「デートか・・・・むしろ、マーサをデートに誘いたいな」
と私は真剣なまなざしで政子を見つめた。
 
政子がドキッとした表情を一瞬した。そしてすぐに普段の表情に戻り
「いいよ」
と言った。そしてこう付け加えた。
「でも条件がある。タックを外して」
「分かった」
「いつデートする?」
「マーサが良ければ今から」
「うん。しよっか」
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