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■夏の日の想い出・受験生の冬(4)

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2月上旬、ボクは△△△大学の入学試験を受けに行った。服装は6月のコーラス部の大会や10月の文化祭の時に使った《女子高生風の服》に、防寒用のコートを着た。このコートはローズ+リリーの活動をしていた時に公演で行った札幌で買ったものでお気に入りのコートで普段は使っていない。これを着るのは1年ぶりであった。無論室内では脱いで、女子高生風の服で試験を受ける。
 
ボクは女の子の格好をしているし、受験票の名前は「唐本冬子」で、写真も、女の子して写っているから、試験官の人が受験票の照合で回ってきた時も何も問題は無かった。試験が始まる前、同じ教室で受けることになった同じ学校の子に受験票を見せたら「おー」という声が上がっていた。なお、政子も礼美も別の階の教室であった。昼休みには落ち合う約束をしている。
 
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1時間目は英語。得意科目ではあるが、文学部を受ける子は英語得意の子が多いので逆に気を抜けない科目でもある。これで失敗するときつい。順に回答していき、ひととおり書き上げてから再度チェックする。1つ勘違いしていた所に気付き修正する。2度全体をチェックしてから、残り10分あったが、答案を伏せて、ボクは目を瞑り、心を静かにして待った。
 
昼休み、ボクたちは予め決めていた集合場所に集まり、一緒にお弁当を食べた。「あれ?政子のお弁当にも冬のお弁当にもトンカツが入ってる」と礼美。
「試験の時のおまじないだよね。勝つようにって」
「えー?知らなかった」と礼美。
「私のはお母ちゃんが作ってくれたけど、冬は自分で作ったんでしょ?」
「うん。朝からカツを揚げてたら、そんなことしてる時間あったら少しでも勉強すればいいのにってお母ちゃん言ったけどね」
 
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「でも代わってはくれないのよね?」
「うちのお母ちゃん、揚げ物苦手だもん。揚げ物はボクが小学生の頃から、ボクの担当だったよ」
「じゃ、冬が4月から独立したら、揚げ物のメニューが無くなるのかな」
「かもね。お姉ちゃんも揚げ物は苦手だというし。苦手とか言ってないで練習しなよ、と言ってしてもらったら、油を怖がって投げ入れるんだよね。そんなことしたら、油が跳ねて危険だってのに」
「あぁ、私もそれで叱られたことある」と礼美。
「冬って、子供の頃から、お料理の手伝いよくしてたのよね」と政子。
 
「うん。お米研いで水加減するのとかもずっとしてたし。ローズ+リリーで忙しかった時期は、お姉ちゃんが代わりにやってくれてたけど、最初のうちはかなり失敗作があった。4ヶ月もやってたら、さすがにうまくなったけど」
「冬の家で一緒に勉強する日、よく冬が作った料理食べるけど、美味しいのよね」
「受験勉強で忙しくても、御飯は作るんだ」
「御飯の支度は、お母ちゃんとお姉ちゃんとボクの輪番制。これボクが小学3年生の時からだよ」
「へー」
「冬って、いいお嫁さんになりそう」と礼美。
「私もよく言ってる」と政子。
 
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2時間目は国語、3時間目は社会(日本史)であった。ボクは英語と国語については満点に近い点数を取った自信があったが、日本史はやや苦戦して分からないところを山勘でマークした。
 
試験が終わってから、政子・礼美と落ち合い、自販機のコーヒーや紅茶を飲みながら、駅でしばし話した。
 
「どうだった?首尾は?」
「ボクは日本史がね・・・・山勘でマークした部分が合ってればいいんだけど」
「私は、けっこういい感じかな」と政子。
「古文が全滅。それと日本史も苦手な奈良時代の問題がさっぱり分からなかった」と礼美。
「まあ、あとは祈るしか無いね」
 
ボクたちは入学式で会おうね、といって別れた。
 

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試験が終わった後、ボクは学校に行っても仕方ないので、数日日中は自宅でぼーっとして過ごしていた。時々、政子や琴絵から電話が掛かってくるので、電話越しにおしゃべりを楽しんでいた。琴絵たちの入試は下旬なので、まだ必死で勉強している最中であったが、電話越しに英単語のチェックとか、歴史の年号チェックとかに付き合ってあげた。
 
試験から5日ほど経った日の午後、さすがにこんなにぼーっとばかりしてはいられないと思って外出用の服に着替えると、ボクは町に出て、商店街などを少しのんびりと巡り、マクドナルドでコーヒーを飲んで、やはりぼーっとしていた!
 
夕方になってしまったので帰ることにする。あぁあ、結局今日も1日ぼーっとしてしまったな、と少し反省して地下鉄の駅まで行った時のこと。小雨が降っていたのでボクは駅の入口まで走って行ったが、勢い余ってひとりの女性と接触してしまった。
 
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「ごめんなさい」
「いえ、大丈夫です。あれ?」
「あっ」
 
それは秋月さんだった。
 
「おはようございます。今お帰りですか?」とボク。
「おはよう。ってこんな挨拶するのも後1ヶ月だなあ」と笑いながら秋月さん。
「出先から今日はもう帰社せずに直帰でいいと言われてたから」
 
「へー。でもこれって歌舞伎の習慣が芸能界にも広まったらしいですね」
「うんうん。面白い習慣だよね。とにかくその日いちばんに会ったら、時刻に関係無く『おはようございます』」
 
秋月さんは一瞬考えるようにしてから、こう言った。
「ね。。。。少し時間取れる?」
「はい」
 
ボクは秋月さんに付き合って、一緒に三鷹まで行って、そのまま秋月さんの自宅にお邪魔することになった。コーヒーを入れてくれる。買い置きのチョコパイを出してきてくれて、一緒に食べながらしばらくは雑談などをしていた。
 
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「冬ちゃん、秘密守れるよね」
「はい」
「命令違反な上に機密漏洩になっちゃうけど、なんか何も言わないまま会社を去るのは、冬ちゃんに対して誠実じゃない気がしてて」
「私たちの勧誘に関する話ですか」
「うん」
「じゃ今日お聞きする話は私の胸の中にだけしまっておきます。政子にも言いません」
「ありがとう」
 
秋月さんはその件を淡々と語り始めた。
 
「あの事件が起きた時、プロダクションの会合で、△△社がローズ+リリーときちんとした契約を結ばないまま活動させていたことが問題にされてね」
「はい」
「結果的にはそのあたりが元でローズ+リリーは活動停止に追い込まれたわけだから、その責任は△△社にあるんじゃないかと」
「でもあれは私の性別問題が第1の原因なのに」
 
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「まあ、色々言う人いるのよ。それにローズ+リリーという有望な素材を内心欲しいと思っている所はたくさんいたから。それで、高額なペナルティを払えとか△△社にはローズ+リリーとの今後の契約を禁止すべきだとか、色々強硬な意見もあったみたいだけど、弁護してくれる所もけっこうあって、最終的にローズ+リリーは△△社と契約していなかったのだから、現在は完全にフリーであると考えてよいのではないか、という話で妥協が成立して」
「なるほど」
 
「だから、どのプロダクションも自由にローズ+リリーに接触して、自分のプロに勧誘していいことにしよう、と」
「で、その勧誘の仕方にペナルティが課されたんですね」
 
「そういうこと。△△社の勧誘窓口が須藤さんなら、絶対冬ちゃんたちは須藤さんの勧誘に乗っちゃうでしょ」
「もちろん」
「だから△△社は窓口を交替させろと要求された」
「それと一定期間、須藤さんに私達との接触を禁じた、と」
 
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「うん、そんな感じ」
と秋月さんは視線を沈めたまま語る。
 
「私さあ、須藤さんが冬ちゃんたちに不義理してるように冬ちゃんたちが思ってないかなと余計な心配しちゃって」
「ありがとうございます。それは大丈夫でした。電話1本も無いまま辞めたと聞かされて、その後須藤さんから何の連絡も無いのが不自然すぎたから、何かの密約があるんだろうなと政子とは話してました」
 
「こないだ、冬ちゃん、5月頃ならどこかとの契約を考えてもいいみたいなこと言ってたけど、何かの情報とかでその期日を言ったの?」
 
「想像です。色々な要素をミックスして考えていたら、そのあたりかな、と。△△社の甲斐さんにしても、甲斐さん以上に熱心で、しかもローズ+リリーの音楽を凄く理解してくれている感じだった##プロにしても、雰囲気的に5月くらいまでに契約してくれないかな、みたいなのを言外に感じてたんですよね」
「ほほお」
「だから、須藤さんは多分6月くらいまで私たちとの接触を禁じられてるんじゃないかと想像しています」
 
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「さすがに私も期日までは言えないけど、どうやら、この夏にはローズ+リリーは復活しそうね」
と笑顔で秋月さんは言う。
 
「でも政子はステージで歌う活動までするのは気が進まないみたい。一時は歌自体をもう歌わないなんて言ってたんですけど、沖縄に行ったのがきっかけになって、私と一緒にアルバム制作するくらいはいいかな、なんて雰囲気になってきています」
 
「それでもいいんじゃない?ライブでのパフォーマンスも大事だけど、音源制作も大事だよ。だってライブに来れるファンは全体の1%程度。CDを買ったりダウンロードしたりはしても色々な事情でライブには行けない人もたくさんいるし、そのまわりに購入行動もしないけど、冬ちゃんたちの歌が好きだって人たちが物凄くたくさんいる。そういう人たちに応えてあげられたらいいと思うのよね」
 
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「ほんと、そうですね」
 
「冬ちゃんたち、『あの街角で』とか『涙の影』を短時間だけどFMで歌って、どちらも動画投稿サイトに無断転載されて、多くのファンがそれを聴くことができたからね。けっこうファンにとっては、ガス抜きになってると思うよ」
ボクは微笑みながら頷いた。
「上島先生の作品を歌っちゃうと問題が多いかなと思って、自分たちの作品を歌わせてもらいました」
「うんうん。その方がやりやすいよね」
 
「でも秋月さんが辞めちゃうと寂しくなるなあ」
「1年半のお付き合いだったもんね」
「ええ。須藤さんとより長く付き合ってきた訳だし」
「ほんと、そうだね!」
 
「それから、これも別の意味で内緒だけど、私ね」
「はい」
「冬ちゃんが男の子だってことには早い時期に気付いてたよ」
「あぁ」
 
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「だからツアーでのホテルの手配してあげてと言われて少し悩んだんだけどさ、冬ちゃんと政子ちゃんって凄く仲良さそうだから、同じ部屋にしてあげてもいいかなと思った。まだ若い10代の子が芸能界での経験も長くないのにハードスケジュールで動かされてるし、心が不安だろうけど、恋人同士なら慰め合えるんじゃないかと思ったからね。それに冬ちゃんの性格なら、たぶんHしちゃう場合は、きちんと避妊するだろうと思ったし」
 
「いつもピッタリくっついて寝てました。お互いそれで凄く気持ちが安定する感じでした。確かに別々の部屋だったら不安が膨らんでいたかも。特に政子ってああ見えて意外にデリケートなんですよね。それから避妊具は須藤さんも渡してくれてたけど、ちゃんと自分でも用意してましたよ」
「うん、さすがさすが」
「でもそれを使うようなことまでは1度もしなかったです」
「へー。今時の高校生にしては珍しいね。みんなすぐやっちゃうのに」
 
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「あはは。かなり濃厚なことはしてましたけど。いわゆるB′(ビーダッシュ)までです、私たちは。今でもそうですけど」
「ふーん。でもCしちゃいなよ。もう高校も卒業するんだし」
「でも・・・・」
「冬ちゃん自身が女の子になりたいのにってこと?」
ボクはこくりと頷く。
 
「それも気にすることないと思うよ。ふたりの正直な愛の形を確かめ合えばいいのよ」
「そうですね・・・考えてみます」
 
その日ボクは秋月さんの個人の携帯番号を教えてもらい、退職後も連絡が取れるようにした。この番号も自分の携帯には登録しない。
 

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